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それは彼女がヒノモトにいたころの話である。
奥女中として勤めていた、彼女の名は美桜(ミオ)。15になったある日、美桜は名家の侍と婚約した。
侍の名は信也(シンヤ)と言い、二人は出会った日から恋に落ち、共に愛を誓った。
だが二人の幸せは長くは続かなかった。
信也の一族に謀叛の疑いがかけられたのだ。
次々と挙げられる証拠により、疑いは確信に変わった。
そしてヒノモト幕府は“かの一族悉く討つべし”との決断を下した。
討伐の準備は秘密裏に進められ、一族が一同に会する信也と美桜の結婚式の日に行われることとなった。
だが、何も知らない二人はお互いの行く末について語り、幸せになろうと誓い合ったのだった。
そして運命の日。
信也の一族が諸々、結婚式の会場に集まった。
老若男女、幼い子供まで集った会場は信也と美桜の晴れ姿を心待ちにしていた。
そして式が始まったその時だった。
突然、会場が煙幕に包まれた。その直後、忍者たちが出席者に襲いかかり、容赦なく殺害していった。
信也と美桜は逃げた。混乱した会場はまさに地獄の修羅場であり、夥しい死体に床は埋め尽くされた。
屋外に脱出し、二人が振り返ると、結婚式の会場である屋敷は紅蓮の炎に包まれていた。
「なぜだ!!一体何者の仕業だ!!」
怒りと無念に打ちひしがれ、苦悶する信也。
「信也様、早くここを離れましょう、でないと追っ手が……」
「その必要はない」
信也に逃亡を促した美桜に何者かが声をかけた。
気づくと、信也と美桜は黒づくめの忍者たちに囲まれていた。
「これは貴様らの仕業か!!何故だ!?何故我らがこのような仕打ちを受けなければならぬ!?」
「黙れ謀叛を企む痴れ者が。貴様らには当然の裁きを下したまでよ」
「謀叛、だと…?」
忍者たちの頭と思しき忍者が信也を嘲るように答えた。
「何だ…謀叛とは……我ら一族はそんなことを企てた覚えなどない……
何の申し開きも弁解も許さず、お上は我が一族を皆殺しにせよと命じたのか!!」
「我らはただ上意を果たすのみ。残るはオマエだけだ。殺れ、“美桜”」
「なに?───」
頭の言葉に驚愕した信也が美桜を見る。
「ごめんなさい……」
美桜は泣いていた。肩を震わせて、とめどなく涙をこぼしていた。
「ごめんなさい、信也様───」
「そんな、どういうことだ、美桜、」
困惑する信也に、忍者の頭が話しかける。
「美桜は“くのいち”だ。つまりは我らが仲間よ。まあ普通は知らぬまま死んでいくのだがな」
「くのいち、だと……」
「美桜は老中の紹介で貴様の妻にするようにと遣わされた奥女中だったな。
奥女中と言っても、実のところ幕府に忠実なくのいちなのだがな」
「………」
嘲るような頭の物言いに、信也はただただ愕然とするばかりであった。
「戯れ言が過ぎた。さっさと殺れ」
頭に命じられ、ビクッと震える美桜。
「美桜……」
美桜を見る信也。美桜の姿は白の映えた可憐な花嫁装束であった。
その手には一本の短刀が握られていた。それは信也が贈った護り刀であった。
周囲を見回せば、忍者に囲まれ逃げる隙などない。式には不要と刀を置いた侍が忍者にかなうはずもなく。
信也はふぅ、と一息つくと、美桜の前に膝をついた。
「信也様…?」
「もはや我が命運は尽きた。あがいたところで何の意味もない」
そして信也は美桜に顔を上げた。
それは美桜の知る、信也の笑顔だった。作り笑いでも虚勢でもない、優しい笑顔だった。
「美桜、介錯を頼む」
「信也様!?」
驚く美桜に信也は告げる。
「この理不尽に決して納得したわけではない。お前がくのいちだったことに裏切られた思いでもある。だが……」
信也は周りの忍者たちを一瞥した。
「あのような下郎どもに殺められるのは我慢ならん。さりとて自ら腹を斬るのは謀叛を認めるのと同じだ。
だからお前に終わらせてほしいのだ。私の生涯の妻と決めたお前に介錯を頼みたいのだ」
「でも、信也様…!」
「私を殺らねばお前も殺されるのだろう。お前まで惨い目に遭わせたくない」
「何をグズグズしている!殺れ美桜!」
頭が美桜を急かす。忍者たちの殺気がざわざわとざわめきだす。
「………」
美桜は躊躇うように沈黙したのち、護り刀を抜き、構えた。
「それでいい」
信也は落ち着いた表情で跪いたまま背筋を伸ばした。
「信也様…」
美桜の脳裏に信也との思い出がまざまざと甦る。信也は今まで美桜の知っているどの男よりも
優しく、気高く、誠実な男だった。
その裏表のない性格と伴侶となる相手への限りない優しさと思いやりは
偽りで装っていた美桜の心をいつしか本心に変えていった。
この人のためならば、くのいちであることを隠して一生ついていこう、そう思ったのだ。
だがその夢は美桜の知らないところで砕かれた。
結婚式場が襲撃されるまで美桜は信也とその一族が幕府の討伐対象だと知らなかったのだ。
そして非情なる現実は、美桜をくのいちへと引き戻す。
護り刀を構えた美桜に信也が言う。
「躊躇うな。武家の妻女なら覚悟を決めろ」
静かで厳かな声だった。
「信也様ぁあああああ!!!!」
叫びながら刀身を振り上げる美桜。
そしてその刃が信也の首筋に下ろされたその時だった。
「美桜。愛してる───」
美桜は確かにその声を聞いた。
その直後、信也の首は切り離され、吹き上がった血が美桜の花嫁装束を紅く染めていった。
ゴロリと転がる信也の首。それを忍者の頭は拾い上げると、フンと鼻で笑って手下の忍者に放り投げた。
受け取った忍者は信也の首を布で包み、脇に抱えた。謀叛の首謀者を討った証として持ち帰るためである。
頭が撤退の指示を出し、忍者たちはたちまちその場から立ち去ってゆく。
その後に残されたのは、首の無い信也の死骸を抱きしめた血まみれの美桜だけだった。
ポツ……ポツ……
夜空に雲が立ち込め、地面に現れたいくつもの黒い点が徐々に広がり、やがてすべてを濡らしてゆく。
降りしきる雨の中、美桜は信也の死骸を抱きしめたまま佇んでいたが、やがて死骸を抱え上げると
何処へとフラフラと歩いていった。
美桜がたどり着いたのはとある森の中にある開けた場所だった。
いまだ雨が止まぬ中、美桜は信也の死骸を下ろした。
「……」
美桜はしばし仰向けの死骸を見下ろしていたが、おもむろに花嫁装束を脱ぎ始めた。
無垢な純白だった装束は真っ赤に染まり、雨を含んでズシリと地面に落ちてゆく。
彼女はなおも脱ぎ続け、とうとう一糸纏わぬ姿となった。
十代の裸体は瑞々しく若さに溢れ、玉の肌は雨粒を悉く弾いてゆく。
美桜は死骸のそばに寄り添うと、丁寧に着衣を脱がし始めた。
「信也様」
脱がしながら呟く。
「美桜は一族の方々に祝福されて信也様と結ばれる日を心から待ち望んでました」
首のない死骸も丸裸になった。
「ですがこのようなことになってしまって申し訳ありません……ごめんなさい……ゆるしてください……」
死骸にすがりながら美桜は詫びた。
「でも…私はあなたの妻です。あなたの女です。最後に私と初夜の契りを結びましょう……」
そして美桜は死骸に重なると、肢体を絡ませ、激しく身をよじらせた。
「信也様、信也様、信也様、愛してます愛してますあいしてます、」
雨に打たれながら、全裸の美少女が首の無い男の死骸と交わっている。
男の名前を連呼しながら死骸に手を這わせ、勃つことのない性器を秘所にねじ込み、胸板に首元に
舌の愛撫を絡ませる。
それはまさに狂人の痴態であり、愛に狂った女は情念の赴くまま、ひたすら死骸と交わり続けた。
「ああ信也様、信也様、好き、好き、愛してる、愛してます、愛してるからあああああ!!!!」
雨音の中に美桜の叫びが木霊する。
くのいちの花嫁と首の無い新郎の初夜は夜が明けるまで続いた。
東雲の空から陽光が差し込み、雨上がりの森を優しく照らす。
美桜は死骸を埋めると、土饅頭に卒塔婆代わりの木の枝を突き刺した。
「さようなら信也様」
美桜は黒髪をなびかせ、その場を後にした。
血に汚れていない薄衣を裸身に纏いながら、彼女はくのいちの世界に戻っていったのだった───
信也の首は検分ののち、謀叛の首謀者として往来に晒された。
一族の死骸は見せしめとして、埋葬されず黒く焼け落ちた屋敷跡に放置された。
信也を葬ったあの日から、美桜は心も愛も捨てた。
彼女はくのいちとして己の研鑽と任務に没頭し、それらを淡々とこなしていった。
そして年とともにくのいちとしてだけでなく、少女から妖艶な大人の女へと成長していった。
忍者の任務とは表沙汰にできない汚れ仕事が常である。
それは情報収集であったり、誘拐や強奪であったり、暗殺であったり。
それらの任務に美桜の容姿は大いに役に立った。
美貌だけでなく天性のくのいちの才能を備えた美桜はたちまち頭角を現し、その実力は一目置かれるようになっていった。
数年後、美桜は忍者を束ねる頭領から新たな任務を授けられた。
裏切り者、もしくは忍者について知った者の抹殺である。
忍者の組織は厳格なる規律と統制で管理された社会である。
一切の私情を許さず、絶対なる上意下達によって成り立っている。
その活動は人目に触れてはならず、存在を決しては知られてはならない。
美桜に下された任務とは彼女に非情の殺戮者に徹せよとの命令に他ならなかった。
くのいちである美桜はその命令を忠実に実行した。
任務に失敗した者に、任務を放棄、逃亡した者、任務を私欲に利用した者、更には抜け忍と呼ばれる
忍者の世界から逃れようとする者まで美桜は容赦なく抹殺した。
そして殺戮の対象は忍者だけでなく、忍者の存在を知った人々にも及んだ。
身分を問わず、思想や老若男女の区別もなく、忍者の活動に障害となりうる存在は躊躇うことなく殺した。
中には何の理由かもわからず殺められた者もいたが、忍者にとっては任務だけが
すべてであり、障害と見做した者は単なる排除対象でしかないのだ。
そしてその頃から、美桜のある“奇行”が始まった。
それは殺しの時に全裸になるというものだった。
忍者にとって全裸とは身体能力を最大限に発揮できる状態のことでもあるが、全裸で任務に臨む忍者はまずいない。
しかし美桜は必ず全裸になって相手を殺すのだ。
多人数であろうが、少人数や個人であろうが、美桜はその肌や肢体を晒し、見た者は悉く死んだ。
身体能力を全開にしたくのいちはまさに美しき獣であり、その牙に抗える者は誰一人としていなかったのだ。
後輩のくのいちが男と駆け落ちした時、見逃してくれと泣いてすがった後輩の首を
その場で落とし、愕然とする連れの男を胴から真っ二つにした。
修行だ任務だと理由をつけてはくのいち達を慰み者にしていたある忍者は
あの日美桜に信也を殺せと命じた忍者の頭だった。
「あの時は仕方なかったんだ!俺は上意を果たしただけで何も悪くない!
お願いだ!助けてくれ!」
平気で人を殺せと恫喝した男は自分だけは助けてくれと見苦しく命乞いをした。
「そうね…アナタは悪くない。上意に従うのが忍者だもの。アナタを責めるつもりはないわ…」
「そうだよな!だったら見逃してくれよ!!な!?な!?」
「でも任務をやり遂げるのがくのいちだもの。戯れ言が過ぎたわね」
美桜の手刀が横一線に疾った。
目に捉えられない速さで繰り出された手刀は男の気づかぬうちにその首を切断し、男が逃げようと
向きを変えた瞬間、ボトリと地面に落ちた。
切断された首から噴き出す鮮血が、全裸の美桜の肌を紅く染めてゆく。
しかし当の美桜の心には何の感慨も思いもなかった。いつものように虫けらを始末しただけなのだから。
それからも美桜は任務のために人を殺し続けた。
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して。
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して。
死と殺戮はもはや美桜の日常となっていた。
だがそんなある日、ヒノモトを揺るがす大事件が起きた。
幕閣に仕える上忍の一人、斯羽烈道(シバ・レツドウ)が謀叛を起こし、配下の忍者たちを率いて西方へ逃亡したのだ。
しかも事件はそれだけにとどまらなかった。
かつて謀叛の疑いありとして討伐された幾つもの有力大名や旗本たちの件において
烈道は偽りの証拠を捏造し、彼らを謀叛人に仕立て上げていたことが明らかになったのだ。
烈道によって謀叛人の濡れ衣を着せられた中には、かつての美桜の婚約者、信也の名前もあった。
しかし美桜が怒りを覚えることはなかった。
幕閣が間違いを犯していたとしても、くのいちに彼らを非難する権利や資格などない。
たとえあの時、謀叛の疑いが虚偽によるものだと知っていたとしても、くのいちに上意を止める力などないのだ。
どうあがいても何も変えられないのなら、心を殺して従うしかない。それが美桜の出した結論だった。
烈道の逃亡からしばらく経ったある日、美桜は幕閣たちの前に呼ばれた。
「美桜、お前に斯羽烈道一味の討伐を命じる」
そして幕閣たちはこうも付け加えた。
西方に逃亡した烈道の真の目的を探れ、と。
もし任務に成功したなら多大な褒美だけではなく、忍者を束ねる上忍の座を授けるとまで言ってきたのだ。
「その任、謹んでお受けします」
礼装姿の美桜は恭しく頭を下げ、そう言ってその場を立ち去った。
(私もここまでのようね……)
任務の準備を進めながら、美桜は諦念の中にあった。
烈道を討つのはくのいちを極めた美桜にも至難の技だが、たとえ任務を果たしたとしても
幕閣が栄達を与えるつもりなど無いと美桜は見抜いていた。
彼女は心とともに一切の欲を捨てた。それ故に富や出世への執着もなく、だからこそ
欲に惑わされることなく幕閣の思惑が読めたのだ。
任務に失敗しても成功しても、その先にあるのは悲惨な末路でしかない。
だがしかし、くのいちに任務を拒む権利はない。命令を達するために戦うしかないのだ。
西方に旅立つ前日。美桜はあるところに出向いていた。
そこは罪人たちを収容する監獄であり、美桜が向かったのは凶悪な犯罪者ばかりが収容された区域だった。
「皆さん、御機嫌いかがかしら…?」
広めの牢屋に集められた凶相露わな男たちの前で、礼装姿の美桜が恭しく挨拶をする。
「はぁ?何言ってんだ姉ちゃん?」
「こんなとこに押し込められて御機嫌もクソもあるかよバーカ!」
男たちは口々に文句を垂れたが、しかしその目は突然現れた見目麗しい美女を飢えた眼差しで見ていた。
「ええ、知ってるわ。だからアナタたちに愉しんでもらいたいの」
「たのしむ?」「姉ちゃん何か芸でもしてくれんのかよ!」「ていうか脱げよ!ギャハハハ!」
美桜に向かって男たちのヤジが飛ぶ。牢屋は外から閉ざされ数十人の男たちの中に女が一人、一触即発の
空気が満ち満ちたその時である。
はらり……
美桜の足下に礼服が落ちる。
欲情にぎらついた無数の眼差しの中、美桜の着衣が次々と落ちていき、虚を突かれた男たちの目の前で
美桜はその魅惑的な裸身を晒した。
「「「!……」」」
呆然とする男たちに美桜が手招きする。
「いらっしゃい。私と気の済むまで愉しみましょう───」
「おいおい、あの女なに考えてんだ!?ヤツらの前で脱ぎやがったぞ!!」
「あーあ、結構いい女だったのにな、勿体無い」
「このままじゃあの女アイツらに犯り殺されるぞ!!どうすんだよ!?」
「どうしようもないさ、牢の中で何があってもお構いなし、それがあの女をこの牢に送りつけた伊藤様の言いつけだ」
「一体あの女といい伊藤様といいどういうつもりなんだ…」
「さあね、俺らが考えても仕方ないさ」
牢を監視している看守たちは美桜の恥態を見ながらそんなことを言い合っていた。
「………」
「どうしたの?まさか黙って見ているだけかしら…?」
全裸の美桜が目の前の男たちに呼びかける。
彼らは誰もが殺人、強姦、強盗、その他諸々の悪事を犯して投獄された凶悪犯罪者ばかりである。
当然、獄中では女に飢えており、中には男同士で肛姦に及ぶ者たちもいる。
そんな彼らのもとに見目麗しい美女がやってきただけでも信じられないのに、なんとその美女は
衆目の前で着衣を脱ぎ捨て全裸になったのである。
理解し難いあまりにも現実離れした展開に、男たちは女の真意を計りかねていたのだ。
「しょうがないわね…」
下品なヤジすら飛ばさない男たちにしびれを切らしたのか、美桜が動き出す。
「うおっ?!」
「あらあら、なかなかご立派だこと」
前にいた一人の男の下半身から、しなやかな指が逸物を取り出す。
男たちの着衣はいずれも囚人用の着物一枚を羽織り、フンドシという出で立ちだったため
美桜は容易く逸物を取り出せたのだ。
「おっ、ぉおおぉおおっ、ぅおおお、」
巧みな指使いが逸物に甘美な刺激を与え、みるみる天を突かんばかりに逸物を勃ち上がらせる。
しかし逸物への刺激はなおも止まらず、美桜の両手が固く漲った逸物をさらに扱き続けた。
「お、お、おお、来る、来る、来る、」
「イっちゃう?イっちゃうのかしら?」
「おおお、イク、イク、イク、」
逸物を美桜にされるがままの男が呻きながら身体を強ばらせる。
それを回りの男たちは固唾を飲んで見ていた。
「じゃあイきなさい!思いっきりぶっかけて!」
美桜の指使いが激しくなり、快楽の刺激が高まったその瞬間、美桜の手の中で逸物が跳ねた。
びゅるっ!びゅるっ!びゅーっ!!びゅーっ!!
美桜めがけて白い迸りがぶちまけられた。
「ん…! ん…んん……ふぁ…」
男の射精を浴びて、美桜の顔が、胸元が、乳房が白濁に汚される。
ようやく男の射精がおさまると、美桜はかかった精液を指ですくって舐めた。
「じゃあ、今度は誰にしようかしら…?」
欲情に潤んだ眼差しが男たちを舐めるように見回す。
様子を見ていた男たちだったが、これで彼らのタガが一気に外れた。
「オレだよ!オレオレ!」
「俺とヤってくれよ!!」
「いいや、俺からだ!!」
興奮した男たちが美桜に群がってくる。いくつもの荒々しい手が
柔肌を弄り、乳房に伸び、下半身を撫で回す。
美桜はそれらをあしらいながら、逸物を勃たせた男と繋がった。
「おお〜ッ!!」
「ふふふ、私の中はどう?」
「た、たまんねえええええ!!」
向かい合いながら男の逸物を挿れた美桜がグイグイ腰を使う。
膣肉は反り立つ逸物をしゃぶるように締め上げ、形容し難い快感をもたらした。
女と久しぶりにまぐわった逸物は快楽に堪えきれず、美桜の中で盛大に果てた。
「あら、もうイったの。もったいない」
「オラぁ!次はオレだ!」
筋骨隆々の男が美桜を引き離すと、逞しい逸物で真下から美桜を貫いた。
「はぅううぅッッ!!」
「どうだ深いだろう!オラオラァ!!」
筋骨隆々の男は背後から美桜の膣奥をガンガン突きまくった。
男の下半身と美桜の尻肉がぶつかり、パンパンと間抜けな音を立てる。
そして美桜の前からは何人もの男たちが、美桜の口に、手に、逸物を押し付けてきた。
「ああン…もうせっかちね…」
しなやかな指で、紅く濡れた唇で、目の前の逸物たちに美桜が奉仕する。
「おうッ!」
「ふぉッッ!」
「はぅっ!」
逸物に愛撫を受け、一様に反応する男たち。
唇の中でねっとりとした舌遣いに舐られ、しっとりとした手の中で指捌きに扱かれ、強烈な快感に
誰もがたまらず悦びの呻きを洩らす。
「オラ、そろそろイクぞぉおおおお!!」
背後から美桜を責めている男が声を荒げる。
ズブズブと秘所を広げて貫く逸物の動きが激しくなり、愛液の飛沫を散らす。
「うおおおおイクぞイクぞ、ぉおおおおおおおお!!!!」
筋骨隆々の男が雄叫びを上げながら腰を突き上げた瞬間、逸物は力強く脈打ちながら美桜の胎内に精をぶちまけた。
そしてそれと同時に、美桜の口や手で奉仕されていた男たちも絶頂に達した。
「ンンン〜〜ッッ!!」
顔に乳房に大量の精液を浴び、膣奥に精液を注がれ、打ち震える美桜。
男たちが存分に精を放つと、また別の男たちが美桜を犯しにやってくる。
「ああ、おっぱいだおっぱい、本物のおっぱいだ!」
その男は美桜の乳房をつかむと、息を荒げて夢中で乳房を揉みまくった。
「あなた、おっぱいが好きなの?」
「ああ、こんないいおっぱい久しぶりだよ!」
おっぱい男は美桜の乳房にむしゃぶりつき、片方の乳房を揉んでいた。
「へへへ、たまんねえケツしてんな姉ちゃん」
背後からは別の男が美桜の尻を撫で回していた。
「なぁ姉ちゃん、アンタ尻穴もイケる口かい?」
「したいならどうぞ、遠慮なく」
美桜は尻たぶを広げ、肛門を晒した。
「へへへ、女の尻穴は初めてだぜ」
男の逸物の穂先が肛門にあてがわれ、菫色の窄まりを押し広げながらゆっくりと入ってゆく。
ギチギチと肛門が逸物を締め、それが何とも言えない刺激と背徳感をもたらしてくれる。
「く、くぅ、ふっ、ふぅ、」
「ああ〜、いい、いいぜ姉ちゃん、女のケツもいいもんだ」
尻穴男はゆっくり腰を使い、美桜の肛門の締め込みを堪能している。
そしておっぱい男は相変わらず美桜の乳房に息を荒げてむしゃぶりついていた。
「ねぇ、一つ聞いていいかしら?」
「なんだ?」
おっぱい男に美桜が訊ねる。
「あなた、おっぱいでイったことあるかしら?」
「いや、ねぇよそんなこと」
「して、あげましょうか…?」
「………」
目を細めながら淫靡に微笑む美桜に、おっぱい男は無言でうなづいた。
と、その時である。
「どけよ、クソが!」
「ぐわっ!!」
おっぱい男を蹴飛ばして一人の男が割り込んできた。
その男は美桜の頭を掴むと、いきなり逸物を美桜の唇にねじ込み、乱暴に頭を動かした。
「うぐッ!ぶぅっ!おぶッッ!!」
「いつまでもチンタラチンタラしてんじゃねぇよクソアマ!さっさとヤらせろボケ!」
美桜の唇で太い幹が前後し、喉の奥を逸物の先が蹂躙する。
それは自分の欲求を満たすためだけの一方的な口淫であり、男は美桜のことなどお構いなしに、彼女の口を犯した。
「おう、出るぞ!飲めクソアマ!」
達する寸前、男は美桜の口に逸物をすべてねじ込むと、喉奥めがけて精を放った。
「ッッ!! ぐ……ぉご…ご……ぉぐぅ……」
ドクドクと注がれる精液を懸命に飲み下す。
ようやく射精がおさまると、美桜は逸物を吐き出し、ゲホゲホと咳き込んだ。
「勝手に吐き出すなバカ!オラ、ちゃんと勃たせろ!」
男はまた逸物を美桜の口にねじ込むと、乱暴にしごきだす。
やがて逸物がみなぎりだすと、口から引き抜いた。
「おいオマエ、このアマを持ち上げろ!」
「あっはい」
美桜の尻を犯していた男が命じられて、美桜の両脚を抱えて持ち上げる。
脚を開いた状態で丸出しになった美桜の秘所に、男の逸物が突き入れられた。
「はぅゔゔゔぅッッ!!」
「どうだぁ!チンポ二本差しで嬉しいだろぉ!!」
前から、後ろから、逸物が美桜を貫き責め立てる。
男の身体に挟まれた白い肢体が快感にのけぞり、顎を上げて被虐の喘ぎを洩らす。
「ぉうッ!んぉお゙ぉぉ!!あ゙ぉお゙お゙お゙お゙ッッ!!」
「お、おれもうイきそう!」
「だらしねぇな、じゃあ同時にイクぞぉ!!」
膣と尻穴を犯す逸物の動きが早まる。そして二本は深くめり込んだ。
どくっ!!どくっ!!どくっ!!
美桜の胎内に、大腸に大量の精がぶちまけられる。
女の芯を灼く迸りに、法悦の歓喜が美桜の心身を溶かしてゆく。
「ぉ…ぉお……ぁぁ……」
快楽の余韻にうち震える美桜を、欲情に息を荒げる男たちがもてあそぶ。
「まだへばんじゃねーぞ、ヤりたいヤツはまだいるんだからな!」
「おう、みんなでマワせマワせ!!」
「ちゃんとオレたちを楽しませろよ!!」
男たちは美桜を思いのままに嬲り、犯し、次々と交わった。
口で、髪で、手で、脇で、乳房の谷間で、尻肉の谷間で、膣で、肛門で、脚で、好き勝手に精を放ってゆく。
おびただしい精液に塗れ、蹂躙される被虐に酔いしれ、美桜は忘我の快楽に溺れていったのだった。
「あーあ、ひでえなこりゃ」
「こんなになったんじゃ犯る気もしねえな」
床に横たわる美桜を見下ろしながら、男たちがニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる。
男たちの欲情に染められ、美桜の肢体や体内は言うに及ばず、艶やかな黒髪や柔肌もすっかり精液に塗れていた。
白濁まみれの身体が仰向けになり、呼吸にあわせて胸の双丘が揺れ、膣口からとめどなく精液が溢れ出ている。
「せっかくオレたちの相手をしてくれたんだ、最後はみんなでキレイにしてやろうぜ」
「ああ、そうだな」
そして男たちは逸物を取り出すと、美桜の周りを取り囲んだ。
「そうら、清めてやるぞ!肉便所め!」
そう言うと同時に、男たちの逸物から小便が美桜めがけてぶちまけられた。
ジョバジョバと勢いよく線を描いて小便が美桜の全身を流してゆく。
顔に、乳房に、下半身に、男たちの小便がかけられ、湯気を立てながら
小便臭が美桜の身体から漂ってくる。
「あっはっは、肉便所が本当に便所になったぜ!おもしれー!」
「これだけ可愛がってやりゃあ女冥利に尽きるだろうよ」
「これで酒とウマいメシがありゃ最高なんだがな」
「つうかこの女どうすんだよ、コイツ臭くて気持ち悪いんだけど」
「おーい看守ー!このメスブタ片付けろよー!」
男たちの誰かが看守を呼んだ、その時だった。
「……その必要はないわ……」
「「「?!」」」
いつの間にか美桜が立っていたのだ。
全身から精液と小便を滴らせながら。
「なんだまだ立てるのか」
「もうオマエに用なんかねぇよ!とっとと出てけ!」
男たちが口々に美桜を罵る。性欲を発散させた今、ヤりまくって汚れた女など汚物と何ら変わらないのだ。
だが美桜は誰の罵倒にも応えない。そして滑るような足取りである男の前に来た。
「なんでこっちくんだよ!この便……」
「 う る さ い 」
その美桜の声を聞いた者はいなかった。
だが、美桜の手が男の首を薙いだ直後、鮮血を吹き上げながら生首が床に落ちた。
「な…!」
「!!……」
いま一体何が起きたのか、男たちには理解できなかった。
裸の女がある男の前に来た瞬間、いきなり男の首が落ちたのだ。
そして首の無い身体は後ろにどうっ、と倒れた。
「おい、どういうことだよ!?」
「オマエ、いまいったい何を…」
男たちが再び口を開いたその時、美桜の身体が動いた。
片足を軸にし回転することで、もう片足が弧を描いた蹴りを放つ。
白い脚の放った軌跡は何人もの男たちの頭に重なり、彼らの頭部をまとめて刈り取った。
ドシャァァ━━ッ!!
頭を失った何人もの身体が床に倒れ込む。
あまりに一瞬の出来事だったので、男たちは何が起きたのかわからないまま。
そんな彼らに、返り血で赤く染まった美桜が告げる。
「皆殺しにしてあげる。最後まで私と愉しみましょう───」
そして。
「うわあああああああああ!!!!」
誰かの悲鳴とともに阿鼻叫喚の地獄が始まった。
「いやだ!いやだ!死にたくない!!」
「看守ー!!ここから出せー!!」
「チクショウふざけやがってこのアマー!!」
「死ぬのはテメエだキチガイ女め!!」
牢屋の中から男たちの悲鳴や怒号が激しく上がる。
彼らが犯し交わっていた女はとんでもないバケモノだった。
そしてそのバケモノは男たちの命を次々と刈り取っていたのだ。
「ギャー!」「グワー!」
「ギャー!」「グワー!」
「ギャー!」「グワー!」
絶え間なく断末魔が上がり、床に死骸を作ってゆく。
立ち向かう者、逃げる者、命乞いする者、誰も分け隔てなく美桜は殺していった。
首をはね、頭を砕き、首を折り、心臓を貫き、ハラワタをえぐり出し、股間を潰す。
全裸という一見無防備な姿は、くのいちに野獣のごとき驚異的な身体能力をもたらした。
もともと野獣は着衣など纏わない。
くのいちを極めた美桜の身体能力は忍者たちの中でも極めて高い方だが、すべてを脱ぎ捨てることで
野獣と等しくなり、潜在力すら引き出すことで完全なる殺戮者として覚醒するのだ。
男たちと交わることでメスの本能を呼びさまし、更なる獣として己を作り替えてゆく。
それは誰に命じられたわけでなく、任務を果たすために美桜が己に課した修行であった。
もっとも、幕閣の一人で上役である老中、伊藤一明(カズアキラ)に請願してようやくこの修行ができたのだが。
伊藤も最初はこの請願に難色を示したが、烈道を倒すためだと説き伏せられ、監獄の凶悪犯を生け贄にすることで
美桜の願いを聞き届けたのだ。
男たちと交わり犯され、その男たちを自ら皆殺しにする、まさに人外の化生に堕ちねばなし得ない所業であった。
ピチャン……ピチャン……
血の滴る音が牢獄に響く。
男たちの返り血に染まった美桜が周りを見回すと、床一面に無残な死骸が転がっていた。
白濁と小便に汚された裸身はすっかり紅く彩られ、覗く柔肌の白さが際立つ有り様だった。
これで全員だろうか、取りこぼしがないか五感に神経を集中させた美桜の耳が、奇妙な音を捉えた。
“ちゅー、ちゅー、ちゅー”
まるで何かを吸っているかのような音だった。
音の出所に向かうと、そこには異様な様子の一人の男がいた。
男は両膝を抱えて座り、目を見開いたまま親指をひたすらしゃぶっていたのだ。
その顔を見て、美桜は思い出した。
その男は美桜の乳房に執着し、乳房にひたすらむしゃぶりついていた男であった。
最後は胸の谷間に逸物を挟んでしごいてイカせてやったのだ。
奇妙な音は男が親指をしゃぶる音であり、どうやら彼は恐怖と混乱のあまり幼児退行を起こしたらしい。
「可哀想ね。でも諦めてちょうだい」
“ちゅー、ちゅー、ちゅー”
「私はね、赤ん坊や年端もいかない子供も手にかけてきたの」
“ちゅー!ちゅー!ちゅー!”
「だから往生際の悪い男は思いっきり苦しみながら死になさい」
“ちゅー……”
最後の断末魔が牢獄中に響き渡る。それはいままでより長く、おぞましい声だった。
そこで何が行われていたのか、それを確かめようとする者は誰一人としていなかった。
断末魔が止んですぐ、牢屋の扉が内側から蹴り壊された。
中から現れた血まみれの美桜は、怯えおののく看守たちにこう言った。
「今すぐお風呂の支度をしてくれないかしら?このままじゃ伊藤様に顔見せできないから」
看守たちは直ちに風呂の準備をした。
美桜は身体を洗い流すと、湯船の中にその身を浸していったのだった───
*** ***
そして現在。
「ふぅ……」
美桜は浸かっていた湯船からゆっくり頭を出した。
ケインとの情交のあと、彼女は宿からこっそり抜け出し、街にある自分のアジトにて風呂に入っていたのだ。
熟練した忍者なら誰にも気づかれず出入りすることなど容易いことである。
美桜がヒノモトを発った後、侍たちによる烈道討伐隊が編成されたことを仲間のくのいちが知らせてくれた。
こうして美桜は自分の予想が正しかったと確信した。
謀叛人である烈道を討つのは侍でなくてはならず、すべての手柄は侍に与えられなければならない。
それはヒノモトを治めるサムライの論理であり、幕府の威厳と支配を保つための茶番であった。
美桜が烈道を討ったところで、それは侍の手柄として喧伝され、そのために彼女は邪魔でしかないのだ。
さりとて、烈道を討つ任務を放棄する選択はない。そして美桜は考えを変えた。
烈道は侍たちに討たせればいいのだ。くのいちである自分はそのためのお膳立てをすればいいのだと。
そもそも美桜は烈道の真の目的を探るという任務も負っているのである。
何もかも一人でやるより、それが効率的だと判断したのだった。
それから行商人に紛れて西方に向かった美桜は、忍者たちが幾つもの小隊に分かれて
あちこちのダンジョンと呼ばれる迷宮に潜んでいることをつきとめた。
大人数での行動は目立ちやすく動きが鈍くなりがちである、だからこそ分散して
潜伏しているのだと美桜は読んだ。もっとも、烈道のいる本隊の動きは掴めなかったが。
恐らく本隊は他の小隊と互いに密に連絡を取り合い、何か異変があれば
それは本隊に伝わるはず、そう予想した美桜はとあるダンジョンにて忍者の小隊を襲撃した。
折しも、その忍者たちはある冒険者の一団を襲い、その中で唯一生き残った女メイジを皆で陵辱していた。
この好機を逃す手はなく、美桜の襲撃により忍者の小隊は全滅し、目撃者である女メイジは始末した。
が、そこで予想外の事態が起きた。
女メイジを殺した瞬間、死体だと思っていた男が突然魔法の道具を使いダンジョンから脱出したのだ。
すぐに追わなかったのは忍者の痕跡を消し、目撃者の死骸を処分する必要があったからだ。
その後、美桜は冒険者たちが拠点にしている町に向かい、自分が逃した男が
ケインという名の、声を無くした盗賊だと知った。
ケインは恐ろしく逃げ足の早い男で、美桜が探りを入れたころには既に町を出た後だった。
今までダンジョンにて冒険者に姿を見られたことはあったが、すぐに逃げたことで深入りを免れてきた。
しかし、ケインは美桜が何者かその目で見ていたに違いないのである。
美桜が動いていることは決して烈道らに知られてはならない。
こうして美桜は本来の任務に加え、ケインを探すという面倒まで負うことになってしまった。
忍者たちの動向を探りつつ、逃亡したケインを捜すのはさすがに困難を極めた。
しかしケインについて調べるうちに、美桜は次第にケインに興味を抱くようになっていった。
冒険者たちの間では、ダンジョンに死んだ仲間を放置して他人に救出を押し付けたケインへの評判は極めて悪かった。
それにこれは美桜だけが知っていることだが、ケインは仲間の女メイジを見殺しにして自分だけ脱出したのである。
これらを知れば、ケインに対して良い評価や感情を抱くどころか最低最悪のクズ野郎と誰もが思うはずである。
ところが……
(西方にもデキる男はいるみたいね……)
なんと美桜はケインを高く評価していたのだ。
普通の倫理観ならケインのような男は冒険者どころか人間として決して許されない存在である。
だが、美桜から見たケインは実に有能かつ、優れた判断力を備えた一流の盗賊であった。
感情に流されず、合理的かつ最善の判断をし、行動力と生存本能に長けた優秀な冒険者、それが
くのいちの彼女がケインに下した評価だった。
もしヒノモトに生まれていれば、きっと優秀な忍者になれたであろうケインの才能を美桜は惜しんだ。
そして彼女はあることを思いつく。それはケインを烈道討伐に協力させるというものだった。
烈道一味が西方に逃亡して一年以上が過ぎた。
その間、幕府が編成した烈道討伐隊のいくつかは忍者たちと交戦を始めていたが、戦況は決して芳しくなかった。
侍たちはヒノモト中から選抜されただけあって、まともに戦えば忍者たちより強い、そのはずだった。
しかし、ダンジョンにこもった忍者たちは様々な罠を張り巡らし、狡知をもって侍たちを翻弄したのだ。
結果、少なくない数の侍たちが命を落とし、同行していた僧侶や法術士(いわゆるメイジ)も巻き添えとなった。
上忍である烈道ならまだしも、下っ端の中忍や下忍相手にこのザマである。
このままでは討伐どころか、侍たちは返り討ちで全滅させられるかもしれない。
討伐隊に同行しているくのいち達(ただし正体を隠してである)からの報告を受けるうちに、美桜はある問題に気づいた。
討伐隊に欠けているのは盗賊の存在なのだと。優秀な盗賊の助力さえあったなら
犠牲はもっと少なくなっていたはずなのだと。
忍者は、くのいち達は正体を明かすことや大っぴらに活動することを許されていない。
それゆえに同行しているにもかかわらず、忍者としての能力や知識を活用できないという
問題を彼女達は抱えていた。
烈道配下の忍者たちに惨敗を重ねていたのも、ある意味それが原因とも言えた。
しかし、盗賊を雇えばなんとかなるというものでもなかった。
侍たちの多くは盗賊という職業を卑しい生業と蔑んでいたからだ。
戦いには何の役にも立たず、戦いが終わってから敵の死体や宝箱を漁るだけの
卑しく浅ましい下郎というのが、侍たちが盗賊に抱く印象であった。
当然これは無知と偏見が作り上げた差別的な見方なのだが。
侍たちの中にも盗賊という職業に偏見をもたない者もいたが、如何せんそれはあくまでも少数派であり
逆賊烈道を討つ正義の戦いに盗賊の力を借りるなどありえないというのが、大方の侍たちの総意であった。
そういうわけで、ケインを誰に協力させるかは容易に絞られた。
ケインを見つけたこの街で、ケインとダイジロウが酒を酌み交わすほどの間柄だと知ったことで、ケインを
ダイジロウの仲間にすることに決めたのだ。
美桜はダイジロウという男を知っていた。
ダイジロウは侍の中でも心が広く、生まれや立場で人を差別しない情の厚い男であった。
そして剣の腕においてはヒノモトでは一流と認められるほどの実力者であった。
まともに戦えば美桜ですら確実に勝てる見込みはない。
そして何より、忍者に、烈道に深い憎しみと怒りを抱いている。
烈道はダイジロウの妻と娘、そしてかつての“友”を殺めた憎むべき仇だからだ。
もっとも、ダイジロウの友に手を下したのは美桜なのだが……
(まあ大二郎“様”はどうにかできても問題はあの二人よね……)
湯船の中で白い肢体が艶めかしく揺れる。
討伐隊に編成された際、ダイジロウには5人の仲間がいた。
侍二人、僧侶一人、法術士一人、そして彼らの世話をするために遣わされた奥女中が一人。
そのうち法術士は忍者との交戦中に倒され、蘇生に失敗し命を落とした。
美桜が問題だとしたのは侍二人のほうで、彼らは盗賊を蔑み嫌悪する側の侍だった。
ケインがダイジロウに上手く取り入ったとしても、あの二人はケインの参加を絶対に認めないだろう。
おそらくダイジロウの説得ではあの二人を説き伏せるのは無理である。
しかし、美桜に手抜かりはなかった。くのいち仲間である奥女中を通じて僧侶に手助けを要請したのだ。
彼の口車もとい説得なら、頭の悪い馬鹿二人も折れるはずである。
あとはケインが冒険者としての本領を発揮できるかどうかにかかっている。
「あ……」
突然感じた下半身の疼きに身じろぐ美桜。
ケインとの交わりの余韻はいまだに美桜の中でくすぶっていた。
正直言うと、美桜はケインを殺したくて殺したくてたまらなかった。
なにせ忍者でもヒノモトの人間でもない盗賊風情にまんまと欺かれ逃げられたのである。
それはくのいちを極めた美桜にとって屈辱以外の何ものでもなかった。
もし侍たちによる忍者討伐が順調だったなら、ケインは見つけたその日のうちに殺していた。
しかし、のっぴきならぬ事情とケインの才能が彼を生き長らえさせたのだ。
「本当に運のいい男ね……」
美桜はケインをしばらく観察し、使えると判断してダイジロウの仲間になるよう要請するために会いに行った。
やはりケインはあの日のことを引きずっていた。
寝言で女メイジの名前を呼んでいたのも、股間を勃たせていたのも本当である。
ダイジロウの仲間になると確約させるだけだったが、それだけでは色々とおさまらなかった美桜はケインを求めた。
意外ななりゆきに当然ケインは困惑し、彼女を拒絶した。が、彼も男である。
結局、美桜の誘惑に負けて彼女を抱いたのだが、ここでまたしても美桜はケインにしてやられた。
なんとケインには女を抱く才能もあったのだ。そのせいで美桜は何度も果て、とうとうただの雌となって
夜明け近くまでケインと交わり続けたのであった。
(まったく、忌々しい…!)
悔しさを覚えつつも、あの時のことを思い出すと美桜の中のオンナが切なく疼く。
今まで何度も男たちと交わってきたが、こんなことは美桜にとって初めてであった。
殺したい殺したい。ケインを求める欲求は殺意へと繋がっていく。
だが、任務を全うせよという忍者の掟がケインへの殺意を抑えている。
「まあせいぜい頑張って頂戴……烈道までたどり着いたなら貴方はそこで用済みだから……」
美桜は深く一息つくと、両腕を揃えて伸ばした。
水を滴らせながら水面から上がった両手はまるで何かを掲げているかのようだった。
「そうしたらまた貴方を愛してあげる……烈道が討たれたら私と一緒に逝きましょう……」
呟く美桜が両手に想い浮かべるのはケインの首。そしてその先にある自らの末路。
いくら功を成そうと、如何なる命令に従順であろうと、上の都合でくのいちなど簡単に消される。
それでも美桜はくのいちであることを辞めない。
あの日、人間としての美桜は信也とともに死んだのだから。
くのいちとしてしか生きられないのなら、くのいちとしての運命を受け入れるしかない。
そして静かな狂気の笑みを浮かべながら彼女は思う。
最期にこの素肌に纏うのは誰の血であろうか、と───
(第三話、終わり)