***   ***

 ケインが姿を消して半年が経った。

彼が去ってからもダンジョンに出入りする冒険者は絶たず、今日誰かが生き延びれば
誰かがダンジョンの骸と成り果てる、毎日がその繰り返しであった。

ケインの残したメモを手がかりに他のパーティーが彼の元仲間を救出に向かったが、一人を除き
全員がロストしていたという。
蘇生できた、ただ一人の生き残りはダンジョンに潜む謎の集団の脅威を伝えると憎しみを込めて言った。

ケインを絶対許さない。必ず見つけ出してやる、と。
やがて彼もケイン同様に町から姿を消した。


冒険者たちの間でケインを追った元仲間とケインの末路についてしばらく話題になったが、それもいつしか
飽きて誰も口にしなくなった。
善人でないとはいえ、今まで助け合い苦労をともにしてきた仲間たちの骸を放り出して
逃げ出すようなヤツなど殺されて当然だというのが大方の意見であった。
だがしかし。冒険者の世界では弱い者が死んで切り捨てられるのは当たり前のことである。
ケインの見た真実を誰も知らないが、ケインが仲間を見限ったことについては
誰もが内心では理解できることだったのだ。もちろん大っぴらには言えやしないが。

ケインが消えてからしばらくして、ある噂が止んだ。
それはダンジョンをうろつく裸の女の噂だった。
まだ目撃されていたのなら噂は続いていたのかもしれないが、新たな目撃者がいなければ
それは話題にもならなくなり、人々は勝手な想像や憶測で結論づけるだけである。

もっとも、世間が知らないだけで裸の女の真実が無くなったわけでもなく
そしてそれはこれから始まるケインの数奇な運命に関わることであった。


   ***   ***

 その街ははるか東の果てにあった。

人間以外の種族、エルフ、ドワーフ、ノーム、ホビットなどが混在するのは
大きな街では当たり前の光景だが、その街では明らかに異なる文化も混じり合っていた。

遥か東の国、ヒノモトから訪れた人々との交流によって西と東の文化が混ざり合い、それが
異風な雰囲気をこの街にもたらしていたのだ。

そしてこの街の薄暗くいかがわしい空気に満ちたその場所に、その男はいた。

半年前にダンジョンに仲間を捨てて逃げた、あの男である。
 
(チョロいもんだな、あのチョウとかハンとか当てるやつは…)
ケインは賭博場にて賞金を受け取ると、澄ました顔でその場を後にした。

(あークソみてえに晴れてやがる、今夜もまた暑いのかよ…)
青く澄み切った空を仰ぎながら、心の中で愚痴るケイン。
その足が向かうのは、いきつけの酒場であった。


 半年前、ダンジョン近くの町から逃げ出したケインはあちこちをさまよった末にこの街にたどり着いた。
東の果てのこの街に来たのは、見捨てていった仲間たちの知人やら縁のある連中に捕まりたくなかったからだ。
あのままあの町に留まっていても、彼が他のパーティーにスカウトされるはずもなく、
それどころかダンジョンから仲間たちを助けだせと急かされるだけである。
だが、あの裸の女がいるであろうあのダンジョンにまた入るなどとケインにとっては自殺行為でしかない。
もちろんケイン一人で行くわけではないが、ケインは他人まで自分の巻き添えにしたくなかった。
ゆえに、仲間が全滅した場所をメモに残し、他のパーティーに救出を委ねたのであった。

自分が薄情者の人非人呼ばわりされてるであろうことはケインは十分承知していた。
事実、犯されてる仲間を見殺しにして自分だけ逃げ帰るような男なのだから
そう言われても仕方ないとケイン自身は思っている。

だが、汚名を受ける一方でふざけんなと思う気持ちがあるのもまた事実だった。
素直にすべてを話せばよかったのか、無駄に刃向かって仲良く死ねばよかったのか。
そんな馬鹿げた正直さなどケインにしてみれば“クソ食らえ”である。
パーティーを見捨てたことを後悔してはいないが、だからといって
ケインが何の呵責や罪悪感を感じてないわけではないのだ。
しかしケインがそれを語ることはない。

声を出せないからではない。
所詮人間というのはケインも含めて自分の狭い了見でしか物事を量れないチンケでクソッタレな存在なのだ。
初めから他人の辛さや懊悩など理解できないし、しようともしない。だからそれは己の中で抱えるしかないのである。


 酒場の入口にある“ノレン”とかいう垂れた布をくぐったケインの目に、見覚えのある背中が映った。
ケインは足音を殺しながら、その背中が佇むテーブルに向かう。
そして1メートルまで迫ったそのときだった。

「俺に何か用か、ケイン?」
ケインに背中を向けたまま、その声の主は言った。

(チッ、バレてたか)

ケインはため息をつくと背中の主の前に回り、同じテーブルに着いた。
それから幾ばくかの金を包んだ小袋を差し出した。

「ほう、博打は勝ったんだな、そいつはよかった」
背中の主は屈託のない笑顔を浮かべながら小袋を取った。
彼の名はダイジロウといい、ヒノモトから来た冒険者であった。

 ケインがダイジロウと出会ったのはこの街に着く前のことだった。
街の外でモンスターに追われていたケインをダイジロウが助けたのだ。
以来、ケインとダイジロウは顔見知りの仲となった。
ダイジロウは声が出せないケインを蔑むでも哀れむでもなく、普通に扱ってくれた。
要するにダイジロウはコミュニケーションの上手い男だったのだ。
ダイジロウとのやりとりにおいて、ケインがスクロールに文字を記したことは少なく、お互いの表情や仕草で
意志の疎通がとれていた。それはケインにとって初めての経験だった。
そしてダイジロウは人の良い男であった。
冒険者ではなくギャンブルで生計を立てていたケインに、ダイジロウは度々金を貸していた。
いつも勝っているわけではないが、ギャンブルで儲けたときは心ばかりの利息をつけて
ケインはダイジロウに金を返していたのだ。
口の利けない博打打ちと仲良くするなど、とんだ物好きだと陰口を叩くものもいたが、ダイジロウは全く気にもしなかった。
それはダイジロウが損得や利害による関係ではなく、友人としてケインを認めていたからに他ならなかったからだ。


「そうだケイン、せっかくだから今のうちに言っておこう」
ダイジロウがケインに切り出した。

「俺は明日から2、3日ほど街を出る。まあちょっとした野暮用だな」
(あそこのダンジョンに行くのか、だいぶ潜るつもりだな)
「だが久しぶりのダンジョンだ、景気づけに一杯やりたいところだが、付き合ってくれるか?」
(ああ付き合ってやるよ。これが最後にならなきゃいいけどな)
「そうか、付き合ってくれるか、それはありがたいな」
ケインの表情や仕草から了解を得たダイジロウは、さっそくメニュー表をケインの前に差し出した。
しかし、ケインはテーブルの上にある物を見つけてしまった。

それは何者かの姿が描かれた紙だった。
その姿を見た瞬間、ケインの表情が驚愕と恐怖に強張った。
(何だ!?この絵は“奴ら”じゃないか!?)

奇妙な布の服を纏い、奇妙なナイフを逆手に構えたその絵の人物は、かつてケインのいたパーティーを壊滅させた
あの“奴ら”の姿そのものだった。

「ケイン…?」
ケインのただならぬ様子にダイジロウが怪訝な思いで尋ねる。
「お前、これを知っているのか…?」

ケインは頷かなかった。だが、ダイジロウはケインの抱く恐怖を敏感に察した。
「この絵は俺が持ってきたものだ。この絵が何か知りたいか?」
(知っているのか!)
ハッとした顔で自分を向いたケインに、ダイジロウは話し始めた。

「これは“忍者”を描いた絵だ」
(え?“ニンジャ”…?)
「忍者とはヒノモトに古くから存在する集団でな、主に暗殺や隠密工作に携わる連中だ」
(どういうことだ?)
「大ざっぱに言えば表沙汰にできない汚れ仕事を引き受ける連中だな。
彼らは各地の領主に仕え、その命に従ってきた。だが…」
話の途中でダイジロウは沈痛な面もちでため息をついた。

「3年ほど前、とある領主に仕えていた忍者の一群が出奔した。こやつらは領主を殺して西に逃げたんだ」
(おいおい、そんなことがあったのかよ…)
意外な事情にケインが驚く中、ダイジロウはさらに話を進めた。

「普通の忍者は一人一人の強さは大したことはない。だが、こやつらは常に集団で行動し、戦いになれば
その人数で敵を圧倒する。そして相手の急所を狙い、確実に殺しにかかる」
(………)
ダイジロウの話す忍者の戦い方は、かつてケインの目の前で仲間たちを惨殺した手口そのものだった。

「しかし、忍者の中にはずば抜けて強い者もいる。そして忍者を束ねる上忍は
たった一人で何十人もの敵を葬る化け物だそうだ。もっとも上忍については知らないことが多いがな」
(たった一人で何十人も…だと…?)
上忍の説明に、ケインの脳裏であの裸の女の姿が浮かぶ。
あの女は数十人ものニンジャどもを一人で皆殺しにしたのだ。
もしかしたら、あの女もニンジャなのかもしれないとケインは思った。

「俺は訳あって忍者を追ってヒノモトからやってきた。明日出かけるのは仲間たちと合流して
忍者が潜んでいるらしいダンジョンを探るためだ。もし忍者がいたなら…」
ダイジロウは言葉を切り、一息つくと強い口調で告げた。

「ヤツらをすべて殺す。たとえ刺し違えてもな」
(!!……)
そのときケインは見た。殺意と憎悪を剥き出しにしたダイジロウの顔を。
それはケインが初めて見た表情だった。
そしてケインは思った。ダイジロウもまたニンジャに誰かを殺されたのだろうと。

「……まあこれは覚悟であって、別に死にたいわけじゃない。
忍者を始末するのは任務だからで、無事に済ませてとっとと故郷に帰りたいところだ」
ダイジロウは忍者の描かれた紙をしまうと、もとの屈託のない人のよい顔に戻った。

「今日は俺のおごりだ。飲んで景気づけしようじゃないか」
笑顔で酒を勧めるダイジロウであったが、ケインの表情は浮かないままだった。


(くっそ、もうこんな時間かよ…)
ケインが酒場から出ると、外は暗く、漆黒の夜空に星が瞬いていた。

あれからダイジロウと杯を重ねていたが、ダイジロウの仲間と思しき冒険者がやってきて彼を止めたことで
飲み会はお開きとなり、一人で飲むのもつまらないとケインは酒場を出たのだった。

フラフラと足元がおぼつかないが、その一方でケインは覚めた感じで自分を見ていた。
できれば死ぬまで“奴ら”に、いやニンジャに関わりたくなかった。

ニンジャに関わればまたあの裸の女に出くわすのではないか、そんな思いがケインにはあった。
ダイジロウはケインがニンジャに出会ったのだと察していたが、それを追及しようとしなかった。
それはニンジャとの遭遇が血なまぐさい惨劇となることを知っていたからかもしれない。
話せば聞いてくれたのだろうが、ケインにとってそれは極めて厳しい決断を要することだった。
ダイジロウはケインの気持ちを察するのが上手いのだが、それは嘘に対しても敏感ということでもある。
筆談でどう取り繕うとも、ダイジロウならケインが後ろ暗い真実を隠していることに気付くはずである。
果たして、そこまでしてニンジャに出会ったことを話す必要はあるのか、ケインは複雑な思いを抱えたまま
いつも泊まっている宿に着いた。


一人部屋のスイートルームに入るや、ケインはベッドに倒れ込み、そのまま寝入ってしまった。
深酒と、思わぬ形で過去の忌々しい記憶を思い出したせいで、頭を使いすぎたためであった。
ドアの戸締まりもなおざりに、やがて寝息を立てるケイン。

と、その時。
ドアが大きく開き、音もなく閉まった。


「………」
闇の中にたたずむ“それ”はしばしケインを見つめていた。

そして“それ”は音もなく、ゆっくりとケインに近づいていったのだった───






   ***   ***

 ケインは夢を見ていた。

「もうここにはめぼしい物は出ねーな」
「モンスターも全然敵じゃないしな」
「じゃあ、下に降りてみる?」
「それは今度来たときにしよう」
「つまんねーな、今行ってもいいんじゃないか?」
「お前な、ダンジョン舐めてたら早死にするぞ、俺はそんなのゴメンだからな」

それはパーティーの仲間が生きていて、ケインがまだ声を失っていなかったころの夢だった。

前衛は三人の戦士、人間のランディとタッカー、ドワーフのボーゲンが固め、後衛にはエルフのプリースト、ヒューブと
人間のメイジ、カリーナに盗賊のケインがついていた。

当時、冒険者の職業といえば戦士、盗賊、メイジ、プリーストしかなく、ビショップやロードに就けるのは
王族や貴族、騎士や司祭の名門といった上流階級に限られていた。

が、しかし。何事にも例外はあるもので、ある貴族に大金さえ出せばビショップやロードの力を伝授するという
ウワサを知り、ケインのパーティーは金稼ぎに勤しんでいたのだ。

「でもよぉ、ここでチンタラしててもショボい稼ぎのままだぜ?
ま、俺はロードやビショップになりたいわけじゃないから別にいーけどよ」
「………」
より稼ぐために次の階へ行こうとケインは言ったが、パーティーのリーダーである
ランディの判断で今回は見送られた。
そして数日後に一行は新しい階に踏み入れたのだが、そこで不幸が起こった。


「がッッ!?がぁあ゙あ゙あ゙あ゙ッッ!!」
「ケイン!?」
「ヤバい!毒消しはないのか!?」
「ない!呪文も切らしているんだ!」
「今すぐ帰るぞ!しっかりしろケイン!」
吸い込んだ毒ガスに肺や喉を灼かれ、苦しみもがくケインの耳に仲間たちの声が響く。

初めて降りた階はなかなか手ごわかった。
最後の戦闘を終えた時にはプリーストもメイジも呪文の力はほとんど残っていなかった。
しかし戦果は上々で、ケインも珍しく上機嫌だったのだが、それが油断を招いたのかもしれない。
ケインが宝箱を調べると罠が仕掛けられた様子はなかった。
罠はないと判断し宝箱を開けたその瞬間、吹き出した毒々しい色の煙をケインはまともに吸ってしまったのだ。

毒に侵されたケインを担ぎながら仲間たちは地上を目指す。その間、ケインは地獄の苦しみの中、意識を失った。
 
仲間たちの奮闘の甲斐あって、ケインは息絶えることなく地上にて治療を受けて助かった。
しかし、その異変はすぐに現れた。

「………」
「どうしたケイン?大丈夫か?」
「……」
ランディの話し掛けに応じようにも唇だけが動き、肝心の声が出ない。
狼狽えるケインは否応なくその現実を知る。
彼は毒ガスを吸った後遺症で声を失ったのだ。

これがプリーストやメイジだったら冒険者を辞めるところだったが、盗賊の仕事に声はほとんど影響しない。
それに、いくらモンスターを倒そうとも稼ぎを手に入れるには盗賊はどうしても必要なのだ。
ゆえにケインはそのままパーティーに居られることになった。

声を無くしてからも盗賊の腕に変わりはなく、ケインはしっかりと仕事をこなした。
一見ケインとパーティーの関係は以前と変わらないように思えた。が……


ダンジョンから帰ってきたパーティーがテーブルを囲み、酒と食事に舌鼓をうちながら談笑している。
あのときはヤバかったとか、アレはまいったとか、そんな他愛のない話だが、ダンジョンでの出来事を
肴に盛り上がるのは冒険者ならではの楽しみである。
しかし、そんな談笑の輪の外で沈黙していた一人の男がいた。

「………」
男は酒も食事もそこそこにソッと席を立つと、テーブルを後にした。

酒場を出ようとする男の背中から楽しげな会話が聞こえてくるが、彼を呼び止める声はない。
男は立ち止まらずにそのまま酒場の外へ出て行った。

(やってられっかよクソが…!)
ケインは心の中で悪態をつくと、鬱屈した気持ちを抱えたまま別の酒場に向かった。

声を失い会話ができなくなってから、ケインはパーティーの仲間たちと次第に距離を置くようになっていった。
別にパーティーの仲間たちに冷たくされていたわけでなく、最初はそれなりに気を遣われていたのだが、それが
かえってケインには鬱陶しく不愉快だったようで、『俺のことは気にするな。好きに楽しめ』と伝えてからは
ケインはパーティーの会食から抜けるようになり、仲間たちもケイン抜きでの会食を楽しむようになった。

毒ガスで声を失ったのは自分のミスであり、助けてくれた仲間たちには面倒をかけたくないとケインは思っていた。
しかしだからといって、今までのように仲間たちと言葉を交わせない苛立ちを誤魔化しようもなかった。
自責と鬱屈、この2つの感情はケインの心を徐々に歪めていった。

「ねぇ、ケイン」
それはいつの日だったか。ダンジョンに向かう前、女メイジのカリーナが声をかけてきた。

「あなた文字読めたわよね?」
ケインは軽くうなづいた。
するとカリーナは一枚の羊皮紙をテーブルに広げた。
それは呪文の消えた使用後の魔法のスクロールだった。

(こんなんで何する気だ…?)
「ケイン、今から私のすることちゃんと見てちょうだい」
カリーナはケインをしかと見ながらそう言うと、羊皮紙を指でなぞった。
するとなぞったあとから線が浮かび上がり、それは文字となった。

(何だ?)
軽く驚いたケインが見た羊皮紙には【びっくりした?】と言葉が綴られていた。
カリーナが羊皮紙の両端をつまみ、テーブルの上に叩きつけると、羊皮紙から文字が消えた。

「呪文の力を失ったスクロールにも魔力は僅かだけど残っているの。
それを刺激することで文字とか書けるのよ。そして軽く衝撃を与えれば消えてまた書き直せるの。
声が出なくても言葉は必要になると思うから、これをあなたにあげるわ」
カリーナの白くしなやかな手が羊皮紙を差し出す。
ケインはそれを受け取ると、さっそく文字を書き始めた。

「あら…」
書き終わったそれを見て、目を丸くするカリーナ。

【ありがとよ、愛してるぜ】

ケインが最初に書いたのは素晴らしいプレゼントをくれたカリーナへの感謝だった。
「ふふ、どういたしまして」
素直に受け取ってくれたケインに、カリーナは満面の笑顔で応えた。

だがケインは彼女を見捨てた。
  自分が助かるために犯される彼女を囮にし、彼女が殺されたタイミングを見計らって自分だけ逃げたのだ。


『たすけて…』
かすれた女の声がケインを呼ぶ。

『たすけてケイン…私をおいていかないで……』
ダンジョンの暗闇の奥から、カリーナの声が助けを求めていた。

『お願いケイン……ここはもうイヤ……私も連れていって……私も地上に帰りたい……』
ズルズルと何かが這って進む音がする。

『助けてケイン…たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて……』



『ケイィイイイイイ━━━ン!!!!』
(うああああ━━━ッッ!!)

凄まじい形相のカリーナが目前に迫ってきたところで、ケインの夢は終わった───

 
   ***   ***

「ハァッ!ハァッ!ハァッ…!」

荒い息を吐きながら、ケインは夢から覚めたことに安堵する。
かつての仲間の夢なら何度も見ていたが、ここ最近は夢に出ることはなかったのだ。
なのにまた再び見るとは。しかも見殺しにした女メイジの夢である。

(クソッ!クソッ!やはり“奴ら”のことを思い出したせいだ!!何が“ニンジャ”だクソッタレが!!)
おぞましい悪夢への怒りを心の中で叫ぶケイン。

“奴ら”さえいなければ、“ニンジャ”なんかに関わらなければ、あの仲間たちと
今でも冒険をしていたはずなのだ。
あの裸の女からコソコソ逃げ回ることもなかったのだ。
“ニンジャ”とかいうクソどもがすべてをメチャクチャにしたのだ。
あの日、仲間たちを殺したニンジャどもは裸の女に皆殺しにされた。
しかし、ダイジロウの話から察するに、ニンジャどもはまだまだいるらしい。
忌々しいニンジャの影は今なおケインにまとわりつき、彼を苦しめているのだ。


(ふざけんなチクショウ!!)
着衣が寝汗でびっしょり濡れていることに気づき、ケインは身体を起こした。
そして着替えようとした、その時だった───


「いい夢、見られたかしらケイン?」

部屋の中から女の声が話しかける。
その主を見た瞬間、ケインの身体が“マニフォ”を受けたように固まった。


(ぁ…ぁぁ………)

目を見開いたまま動かないケインの前に一人の女が歩み寄ってくる。
それはケインの知っている女だった。

微かに開いた窓から月明かりが射し、サラリとなびく黒髪に艶のある美貌、無駄のない
均整のとれた魅惑的な肢体を照らし出す。
前と違うのは、全裸ではなく薄布を身体に纏っていることと、微かな笑みを浮かべていること。

「まさか忍者でもない男に私が欺かれるなんてね」
囁くような美しい声であったが、そのアクセントはダイジロウの話し方にどことなく似ていた。

「でも」

女がケインの前に膝を下ろす。
強張ったまま動かないケインの目前で、女の伸ばした腕が、指が、ケインの首元に向かっていく。

「やっと、つかまえた──」


感慨深げにつぶやいた女の指先が、ケインの喉に軽く、触れた。
半年前ケインに向けた指先が、ようやく彼に届いた瞬間であった。
 
   ***   ***

 キィ……

 夜風に吹かれて、窓の扉が微かに軋む。
その開かれた窓から見えるのは、ベッドの上の男と女。
月明かりの中、身体を起こした男に薄布を纏った美女が誘うように手を伸ばしている。
それは誰が見ても愛しあうまえの二人だと思うだろう。だが───


男は生きるか死ぬかの瀬戸際にあった。半年前から始まった因縁が、男と女を対峙させたのだった。


   ***   ***

(もう、これまでか……)

ケインは、今まであがいてきたことが全て無駄だったと悟った。
この女はケインに逃げられたあの日から、彼を追い続けていたのだ。
己の秘密を守るため、目撃者は必ず殺す。それがこの女のルールだからだ。

心臓が激しく高鳴り、鼓動が耳に響く。
もはや逃れる手段などない。話なんてできないし、そもそも話し合いに応じる相手とは思えない。

まもなく訪れるのは絶対の死───

そう確信した瞬間、ケインはゴチャゴチャした頭の中がすっきり軽くなるのを感じた。

「まるで覚悟を決めたって顔ね」

女が話しかける。
なんていい女なんだろう。ケインは女を眺めながらそう思う。

顔といい、身体といい、実にそそられる美しい女だ。
そんな女がなんでダンジョンを真っ裸でうろついてニンジャどもを殺しているのか。

(わけわかんねーな)

そう思ったとき、昼間のダイジロウの話を思い出した。
ニンジャの中には何十人もの敵を倒せるほどの強者がいるらしいと。

(もしかしたら……)

もし話せたらすぐに訊ねただろうが、声の出せないケインには話しかけることなどできない。
しかし、唇がかつて言葉を発していた記憶をたどるように動きだす。
そしてケインは声の出ない口で女に言った。

『なぁ、アンタはニンジャなのか?』


「!!」
一瞬、女の顔に動揺が走った。
まるで図星を突かれたような反応だったが、それが何故かはケインにはわからなかった。
でも、どうせ殺されるのだからどうでもいいことである。
ケインは大きく深呼吸をすると、静かにその時を待った。


微かな沈黙。刹那の静寂───


「ええ、察しの通り私は忍者よ」

(え…なに?)
ケインは我が耳を疑った。女がケインの問いに答えたのだ。
唇は動かしたが、声も出てないのに一体どういうことなのか。
動揺するケインに、女は種明かしをした。
「読唇術って知ってる…? 私は唇を見て相手の話すことがわかるのよ」
(なんじゃそりゃあああ!!)

ケインの問いに答えたのも驚きだが、その理由にケインはさらに驚いた。
化け物だとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。
この女は実は人間じゃなくて悪魔かモンスターか何かじゃないのだろうか。
そんな考えをしたところで、ケインはふと気づいた。

(あれ?俺まだ生きてる?)
生きてるうえに傷一つない。ケインはさっきの要領で女に訊ねた。

『おい、アンタ俺を殺すんじゃないのか?』
それを読んで女が返す。

「あなた、死にたいの?」
『死にたくないさ。でもアンタは俺を殺すために来たんじゃないのか?』
「……そうね、見つけるのがもっと早かったら殺してたわね。でも事情が変わったのよ」
『事情だと…?』
一体どんな事情がこの冷酷非情なニンジャ女を心変わりさせたのか。

「ケイン、あなたダイジロウって侍を知ってるわよね?」
『ああ、ダイジロウがどうしたってんだ?』
「単刀直入に言うわ。ケイン、ダイジロウのパーティーに入りなさい」
『なにいいいい?!』
女のとんでもない物言いに、ケインの困惑が止まらない。

「この半年間、色々調べさせてもらったわよ。あなた相当腕のいい盗賊だったそうね」
『ああ、半年前はな。あれから一度もダンジョンには入ってないし、パーティーを組んだこともない』
「ええ、知ってる。でもダイジロウにはあなたの力がきっと必要になるわ」
『なんでそんなことがわかる?』
「ダイジロウの追ってる敵が“忍者”だからよ」
『何だと!?ふざけんな!!俺はもうニンジャには関わりたくない!!アイツらと、オマエのせいで
俺がどんな思いで生きてきたかわかるか!?何もかもニンジャが奪っていったんだ!!
だいたいダイジロウがニンジャと戦うのになんで俺が必要なんだ?そんなの勝手にやらせときゃ…』

「ケイン」

声も無いまま、まくしたてるケインを女の声が制した。

「アナタ自分の立場がわかってないのね。 私はお願いをしてるわけじゃないの」
女がそう言った瞬間、部屋の空気が変わり、息が詰まるようなプレッシャーが
ケインに襲いかかる。

『!!……』
「もう一度言うわ。ダイジロウのパーティーに入って彼らの忍者討伐を手伝いなさい」
表情の無い顔がケインに向かって厳かに、告げた。


『……わかった』

しばしの黙考を挟んで、ケインの唇が答えた。
不本意極まりない決断だったが、拒否すれば今度こそ殺される。
無表情でケインに命令した女の顔は、あの日、女メイジの首をへし折って殺した時の顔であった。
先ほどまで死を受け入れていたつもりが、死の恐怖に怯え女の言いなりになっている自分自身に
ケインは軽蔑と自嘲の思いを抱かずにはいられなかった。

「懸命な判断ね。無駄な意地を張らないのは色々な意味で助かるわ……」
無表情だった女の顔に微かな笑みが浮かぶ。ただし、嘲りの色も混じっていたが。

(ふざけんなよクソが…!)
脅迫まがいで人を従わせておいて知ったふうな口をきく女に、ケインはハラワタが煮えくり返る思いだったが
事実つまらない意地に拘らなかったからこそケインは生き延びてこられたわけで、女の要求を
受け入れた以上、ケインはやるべきことをやるしかないのだ。
とりあえず忌々しい気持ちを押し込めると、ケインは意を決して女に話しかけた。

『アンタに教えてほしいことがある。なぜダイジロウはニンジャを憎んでいる?
あいつとニンジャについてできる限り教えてくれ』
「それは必要なことかしら…?」
『必要だ。このままダイジロウに頼んでもあいつは絶対俺を仲間にはしない。
だがニンジャに関わりがあるなら、あいつも俺を仲間にしようと思うだろう』
話すケインの脳裏に、酒場で見たダイジロウの怒りと殺意に満ちた顔が浮かぶ。
ダイジロウはニンジャに相当な憎しみを抱いている。そして彼は普段は人の良い大らかな男である。
ケインはダイジロウの過去から彼の心につけ込むヒントが欲しかったのだ。

「そうね…」
女はベッドに腰掛け、しばし考えたのち、ケインに語り始めた。

ヒノモトで謀叛を起こした忍者たちはその際、多くの婦女を誘拐していった。
後に彼女たちは凌辱され、殺害された姿で発見された。その中にはダイジロウの妻と娘がいたという。
忍者たちを率いてこの惨劇を起こした張本人の名前は“レツドウ”という上忍であり、侍たちのリーダーである
大将軍は優秀な侍たちを召集し、西へ逃げたとされるレツドウ及び配下の忍者の討伐を命じた。
ダイジロウは自ら討伐隊に志願し、妻子の仇であるレツドウと忍者たちを探しているのだ───


以上が女が語ったダイジロウと忍者との関わりである。


(そうだったのか……)
今の話からダイジロウ攻略のヒントは掴めたも当然であった。
が、ダイジロウの生き様と覚悟はケインを惨めな気持ちにさせた。
片や妻子の仇を討つためにニンジャと戦っているのにくらべ、自分はニンジャに怯え逃げ回ったあげく
仲間を殺したニンジャ女の言いなりになっているのだから。

「あと、最後に言っておくけど、私のことは一切秘密にして。でないとあなたにもダイジロウにも死んでもらうわよ」
『わかってるよ』
どういうわけか、このニンジャ女は自分の存在がバレるのをかなり嫌がっている。
全裸で戦っているなんて知られたくないのだろうが、どうもそれだけじゃない気がする。
だが、その理由を訊ねてもきっと教えないだろうなと、ケインは思った。

『じゃあ明日ダイジロウに頼んで仲間にしてもらうぜ。アンタもご苦労さん』
ケインは一息つき、ベッドに横たわった。
一時は死を覚悟したが、女の心変わりのおかげでケインは今も生きている。
用件が済んだなら女も帰るだろう。そう思い、ケインが再び眠りにつこうとした、その時だった。


しゅるん…!

布が擦れる音がした。

(何だ…?)
一度閉じた目を開いたケインは、信じられないものを見た。

月明かりの中、女の身体を巻きつくように覆っていた薄布がみるみるうちに緩み、ほどけていく。
やがて一枚の長い薄布が床に落ちると、そこに現れたのは一糸纏わぬ裸身を晒した女の姿だった。

『?!一体何のマネだ!?』
女の意外な行動に動揺しつつも、ケインの視線は女の裸身に釘付けになっている。
しなやかで無駄のない、それでいて魅惑的な曲線に象られた肢体がベッドの上にあがり、ケインに迫る。

『待てよ!!ダイジロウの仲間になれって言ったのはウソだったのか!?』
恐怖にかられ声のない叫びをあげるケインの上にいま、裸の女が覆い被さっていた。
このニンジャ女が冷酷非情な殺戮者であると知っているケインにとって、それは絶対絶命の危機であった。

「落ち着きなさい、ケイン…」
囁くような女の声が、ケインの耳に響く。

「仕事の話は終わったわ。これから二人で愉しみましょう…?」
そう言うと妖艶な笑みを浮かべ、女は肢体をケインの身体に絡ませてきた。

『愉しむ!?愉しむだと!?ふざけんな!!』
激昂したケインは乱暴に女を振りほどいた。
 
「……あらあら、あなたこういうの嫌いなのかしら…?」

ケインの抵抗にいったん身を引いた女が、呆れた様子で黒髪を直している。
なお、ケインが抵抗した際に乳房を叩かれたが、特に気にもしてないらしい。

『俺をバカにするのもいいかげんにしろ!!愉しむ!?オマエなんかと!?そんなことできるかよ!!
オマエが何をしたかわかっているのか!?オマエは俺の仲間を殺したんだ!!
助けを求めた仲間を俺の目の前で殺したんだぞ!?』
それは端から見れば必死に口をパクパク動かしてるだけの滑稽な姿であったが、ケインの言っていることは
女にはすべてわかっていた。

『そんなヤツとしっぽり愉しむだと?冗談じゃない、いくら俺がクソッタレでもそんなのはゴメンだ!!』
堰を切ったように、女への怒りをぶちまけるケイン。
女が読唇術を使えるのを知っているからか声がなくとも、唇はベラベラと言葉を紡ぎ出す。
しかし、ケインの暴言に延々と付き合うほどニンジャ女はお人好しではなかった。

「ねえ、ケイン」
ややウンザリした口調で女が切り出す。
「私が殺した仲間って、カリーナって女のことかしら…?」

『なっ…!?』
なぜ女メイジの名前を知っているのか。動揺するケインに、女が追い打ちをかける。

「夢でうなされながらしきりに言ってたわよ。

『カリーナ許してくれ』『すまないカリーナ』『俺だって助けたかったんだわかってくれカリーナ』

カリーナって女の名前よね?そしてあの場で私が殺した女は一人だけ。
あなた、よほどあの女メイジに御執心みたいね」
『違う、俺はそんな…』
「声が出ないから誰も気づかなかっただけよ。あと、面白いこと教えてあげる」
ケインを見る女の目が悪戯っぽく笑う。

「あなたね、カリーナの名前を呼んでる間、ずっと勃っていたのよ“アソコ”が」
『なに……』

女が指でさしていたのはケインの股間だった。

『そんな、バカな、ウソだ、ふざけるな、』
「そう思いたいのは勝手だけど、あなたも見てたんでしょう、カリーナが忍者たちに犯されてる一部始終を。
そして何度も夢に見てたはずよ。そこだけ都合良く見ないなんて普通ありえないでしょう?」

『そんな そんな──』
世界が揺らぐような感覚がケインの意識を揺さぶり、忘れていた夢の記憶を呼び戻す。

 そこにあったのは、女メイジがニンジャたちに犯される光景であった。

欲情にぎらついたニンジャたちが、非力な女メイジをねじ伏せて着衣を引き裂き、力づくで白い両脚を開いてゆく。
悲鳴と哀願を叫ぶ女メイジの秘所にねじ込まれたペニスが、彼女を壊さんばかりに無慈悲に打ち込まれる。
いくつもの手が彼女の肌を這い回り、乳房をもみしだき、全身をくまなく弄くり回している。
そして最初のニンジャが雄叫びを上げて女メイジの中で果てると、次から次とニンジャたちが女メイジを犯していく。

(たまらねえな…)
夢の中でもケインは死んだふりでその様子を眺めていた。
女メイジの膣が、肛門が、口がペニスに犯され、白い肌も白濁で汚される。
と、不意に女メイジとケインの目が合った。

『助けて』
犯されながら女メイジが叫ぶ。

『助けてケイン!お願い助けて!お願いだからああああ!!』
だがケインは応えない。ニンジャどもをやり過ごすためか?違う。
ケインは女メイジが犯される光景を見て興奮していたのだ。彼女が苦悶と恥辱に喘ぎよがる姿を夢中で見ていたのだ。

『ケイィィ━━━ン!!!!』
女メイジがケインの名を叫んだ瞬間、背後から彼女を犯していたニンジャが彼女の首をへし折った。
首を折られ絶命した女メイジの中に、ドクドクとニンジャが精を放つ。
ニンジャは射精を終えると、変わり果てた女メイジの死骸をケインの方に放り投げた。
無造作に地面に叩きつけられた死骸は壊れた人形のように奇妙な角度で折れ曲がり、女メイジの目がケインの目と合う。
もはや何の感情も輝きもない虚ろな目がケインを見ている。

やがてニンジャたちが立ち去っていったのを確認すると、ケインは立ち上がった。

(いい女だったのにひでえ有り様だなぁ)
女メイジの死骸を見下ろしながらそんなことを考えるケイン。
そして彼は死骸の体勢をうつ伏せに直すと、両脚を開かせ、指で秘所をこじ開けた。
痛々しく開いた膣口からドロドロの精液が溢れ、ダンジョンの床にこぼれ落ちる。
ケインはいきり立った自分のペニスを取り出すと、女メイジの死骸を犯し始めた。

(へへへ、前からお前をヤッてみたかったんだカリーナ、男どもの中に女一人のお前をよ、)
心の中に溜めていた鬱屈した欲望が、夢の中で剥き出しになっていく。

ケインの腰が突き上げるたび膣口から精液が吹き出し、死骸がガクガク揺れる。
死骸の胸に回った手が乳房をつかみ、手のひらの中の乳肉を荒々しく揉みまくる。

(たまんねえ、たまんねえよカリーナ、最高だ、)
ニンジャたちの精液に汚れるのも厭わず、ケインは夢中で女メイジの死骸を犯していた。
そして声にならない呻きを上げると、もう命を宿すことのない胎内に精を注ぎ込んだ。

射精を終えてもまだ治まらないケインは死骸を仰向けにすると、今度は正常位で犯し始めた。
腰を使うと、突き上げられた衝撃で乳房が揺れ、首をへし折られた頭が振れた。
ケインはたまらず死骸に抱きつき、激しく膣奥を突いた。

(ぅうう、カリーナ、出すぞ、またぶちまけてやるぞ!!)
感極まったケインは女メイジの死骸を強く抱きしめると、再びその中に精を放った。
(まだだ、まだ足りないぞ、もっと犯してやる、)

他の仲間たちが無残な死骸を晒している中、ケインは女メイジの死骸を犯し続けていた───


『そんな、こんなの夢じゃないか、こんなの俺じゃない』
今まで欠けていた夢の記憶に、狼狽し、おののくケイン。
確かに夢は現実ではない。ケインは女メイジの死骸を犯してなどいない。
しかし、夢の中で現れたのはまぎれもなくケインの欲望や本心そのものである。


「あの時、あなたの仲間を殺してカリーナを犯した忍者たちは私が殺したわ。
そしてカリーナも口封じのために私が殺した。でも…」
『でも、何だ…』
「あなたに私を憎む資格はないわ。あなたは自分が助かりたいために彼女を見捨てたのよ?」
『仕方ないだろうが!!そうしなければ俺も殺されていた!!オマエに殺されていたんだ!!俺は死にたくなかったんだよ!!』
「なのにあの時の夢を見て興奮してるのね。なんてあさましい男なのかしら、まともじゃないわ」
「!!」
裸の女はケインが夢で女メイジを犯していることを知らない。
だが、女の言葉はケインの心の真実を深くえぐった。

「なぜ悪夢を見るのか教えてあげる。
悪夢を見ることで自分にはまだ良心や罪悪感があるまともな人間だと思い込むためよ。
そうでもしないと犯されて殺された仲間の夢なんか何度も見られるわけがないじゃない」
『やめろおおおお!!!!』

もう何も聞きたくない。知りたくない。ケインは耳をふさぎ、目をつむった。
だが、女はなおもケインに囁く。

「認めなさいケイン。あなたは身勝手で仲間のことなんか本当は何とも思っていないエゴの塊。
犯されて殺された女に欲情してるくせに、悪夢を見て自分に言い訳をしている未練がましくて情けない男。
そして何の誇りも信念もなく、命惜しさに仲間の仇の言いなりになる無力で哀れな最低のクズよ」
『やめろ!!やめろ!!もうやめてくれえええええ!!!!』

女の言葉は容赦なくケインの本性を暴き、醜い真実を突きつける。
女の声を遮ることも止める力もないケインはただ煩悶し、あがき、のたうち回るしかなく。
耐え難い現実にケインの精神が限界にきたその時だった。


「───だから私が抱いてあげる」


『───え…?』
女の言葉が、ケインの狂乱を一瞬で鎮めた。

『なんで、だ…』
「言ったでしょう、あなたは本当は仲間のことなんかなんとも思っていない。
それはカリーナを殺した私への憎しみもニセモノということよ。
そして何よりあなた、私をずっと物欲しそうに見てたわよね?」
『うっ…!』
「もうニセモノの憎しみなんて捨てなさい。そして私と愉しみましょう……人でなしのケイン……」

『人でなしって…オマエそんなのとやりたいのかよ…』
「モラルや良心があったら私を抱けるわけがないでしょう?」

妖艶な、女の白くしなやかな肢体がケインにすり寄る。

「もう戻れないのだから。あなたも、私も───」
その言葉を皮きりに、女とケインの唇が重なり、激しく互いを貪り合う。
女の身体を抱き寄せると、ケインの胸に押しつけられた女の乳房がムニュリとひしゃげ、脚と脚が絡み合う。
ケインの唇が女の首筋を、胸元を這い、そして適度なボリュームの綺麗な乳房にむしゃぶりつく。

「ん、うっ…!」
女が軽くのけぞる。手に掴めば心地いい弾力が指を押し返し、舌の上で乳先がコリコリと硬くなっていく。

(いい味だなぁ…)
「んっ、ッッ!!」
乳先を前歯で噛んで味わうと、女の身体がビクンと反応する。
その時、ケインの片手は女の尻を這い撫でまわし、そして女の大事なところにたどり着く。
触れたそこは熱く、すでに潤いを帯びていた。

「待って」
指で責めようとしたケインを女が制した。
「私にもヤらせなさい」
そう言うと、女の手はケインのペニスをそっと取り上げた。
 
『お、ぉぉお……』
女の手の中で、ケインのペニスが更に逞しくみなぎっていく。
しなやかな指から繰り出される手淫の妙技は、ケイン自身の手より遥かに甘美な刺激をもたらした。
しかし、その手は今まで幾多もの命を殺めてきた手である。女がその気になれば
ケインの性器を破壊するくらい容易いのだ。
だが今は、ケインを悦ばせるためだけにその手は動いていた。

(こりゃたまんねえな…)
手淫の快楽に浸りながら、ケインは自分の身体に密着した女の身体に目を這わせる。
最初に目にしたときは信じられない気持ちと得体の知れない恐ろしさしか感じなかったが、こうして落ち着いて見ると
このニンジャ女は実に魅惑的な肉体と美貌を備えていた。
このスラリとした肢体を駆使してニンジャどもを屠り、この柔肌に
ニンジャどもの返り血を浴び、そしていま自分と肌を重ねている。
冷酷非情な殺戮者でカリーナの仇でなければ間違いなく極上のいい女なのだ。

(つうか、こいつなんでニンジャやってんだろう?)
と、そんなことを考えていると、ケインのペニスがビクビク震えだした。

『うわっ!やばっ、出ちまう!』
ケインが焦りだしたその時、女の手がペニスを強く握り締めた。

『ぐぉおおおッッ?!』
「出すのはまだよ。さあ、私のここも気持ちよくしてちょうだい」
女は絶妙の力加減でケインの射精を止めると、体勢を変えた。
仰向けのケインの顔に開かれた女の股と秘所が向けられ、ケインの上でうつ伏せになった女がケインのペニスをあやしている。
ペニスに女の息と舌遣いを感じながら、ケインは女の秘所をまじまじと見た。

合わせ目はピタリと閉じ、股ぐらの柔草は綺麗に切りそろえられていた。
感心しつつ合わせ目を開くと、鮮やかな色の花弁が現れた。ケインから見て花弁の下には肉の目かツンと立っていた。
処女ではないだろうと思っていたが、アソコがここまで綺麗なのはケインの予想外であった。

(だったら味の方も期待していーかな)
ケインの舌が、肉の花びらを舐め上げた。

「ッッ〜!!」
電気に撃たれたように女の身体が一瞬のけ反り、四肢がビリビリ震えた。
ケインはさらに花弁を舐り回し、蜜が湧くであろう花弁の奥への責めを焦らした。
女の方も負けじとばかりにペニスの幹に舌を這わせ、先走りを垂らしたペニスの先を指技で責めたてる。
ピチャピチャと舌を使う音が上がり、ケインと女は互いの性器を舐り、弄り、責め続ける。

裸の女は殺しだけでなく性技にも長けていた。並みの男ならとっくに果てていただろう。
だが、ケインは耐えた。耐えただけでなく、己の舌を、指を、無意識に盗賊としてのカンを働かせ、女の悦びのツボを探った。
性技の達人と元プロの盗賊。淫靡な交わりはいつしか風変わりな対決になり、そして
その勝負は意外とあっさりついた。

「ン゙ン゙ッッ〜〜?!」
女の声が変なのは、ケインのペニスを口にくわえているからだ。
ケインは女の花弁の奥をむしゃぶりながら、敏感な肉の目と、尻肉の間にある慎ましい窄まりを責めたのだ。
ケインの上で白い肢体がうち震え、頭の横のスラリとした両脚が爪先までピンとつんのめった。

「ッッ……ハァ…ハァ…」
絶頂の余韻が覚めないまま、女が息を荒げる。
「……意外と上手いのね……思わず噛み切るところだったわ…」

(おおこわ、そんな死に方ゴメンだぜ)
肩をすくめながら、秘所から滴る女の蜜をペロリと舐めるケイン。
そんな彼のペニスは女の愛撫でビンビンに反り立っていた。

やがて女はゆっくり身を起こすと、再び体勢を変えた。

今度はケインと向かい合って膝立ちをした格好である。
股を開いた女の両膝はケインの腰の両脇に立ち、愛撫で潤った秘所の真下には
天を突かんばかりにケインのペニスが勃っている。

「さぁ……お楽しみはこれからよ……」
ほのかに紅潮した美貌が微笑み、ゆっくりと腰を下ろす。

『ぅ……』
「んん…く、ふぅ……!」
女の指に誘われ、ペニスの穂先が女の秘所に入ってゆく。
先端に当たった感触が徐々にペニスを包み込み、ズブズブと奥まで飲み込んでいった。

ずん!

『ぅおッ!!』
「はぁあ〜〜ッッ!!」
女が腰を落とすと、ペニスに奥を穿たれた肉洞がギュッと締め付けてきた。
甘美なる感触が、熱い締め付けが、ケインの精を求めてペニスに絡みつく。

「ハァ…ハァ……久しぶりのオトコだわ……もっと、もっと私を感じさせて……」
興奮と欲情を露わにし、女の肉体が、ケインの上で身をよじらせた。
極上の媚肉がペニスにむしゃぶりつきながら奥へといざない、長い黒髪を振り乱した白い裸体がケインの上に玉の汗を散らしてゆく。
悦びに蕩けたその顔はまぎれもなく快楽に酔いしれたオンナの顔であり、そこに冷酷なる殺戮者の面影は
全く感じられなかった。

『そんなに悦んでくれるたぁ嬉しいね。男冥利だよ』
ケインの両手が女の腰をつかむ。そして腰を引くと、思いっきり女の奥を突いた。

「ぉふぉおおッッ?!」
のけぞった女が目を白黒させる。
間髪入れず、ケインはうねる膣肉にさらなる突き込みをくらわせた。

「ッッッ〜〜!!」
のけぞったまま女の身体がガクガク震え、胸にそそり立つ二つの丘が、汗を散らせながら弾む。
『おら、ここがイイんだろ?もっと悦べよ!』
ケインは腰を使い、女のウィークポイントをグイグイ責め立てた。
女がケインのペニスに腰を使っていた時、ケインは女がどこで感じているのか当たりをつけ、そこを責めているのだ。

「あッ!あッ!ダメ、ダメ、アッ、ァアアアァア━━━ッッ!!!!」
顎が上がるほど仰け反りながら、女の肢体が強張り、震えた。
ペニスを締め付ける膣肉もビクビクうち震えている。
だが、ケインは射精の誘惑に抗い、その奥に深い一撃を叩き込んだ。

「ッッ━━!!!!」
『ほら落ちろよ、ニンジャ女!』

絶頂に痺れた肉体に打ち込まれた一撃は女の意志を崩し、さらなる突き込みが女を快楽の坩堝に叩き落とした。

悦びに狂い、泣き、喘ぐ、随喜の叫び。それらがケインの部屋中に響き渡る。
どうやら女はヒノモトの言葉で叫んでいるらしいが、ケインにはその意味がわからない。
だが、女がイキまくっていることだけはわかっている。そしてケインもそろそろ我慢の限界だった。

『トドメを刺してやるぜエロニンジャ!』
ケインは身体を起こすと、女の身体を抱きかかえた。そして最後の突きと同時に女の身体を落とした───

「ァアアァアァアア━━━!!!!」
自らの体重の乗ったペニスの突き上げに、女は絶叫しよがり狂うた。
その直後、ケインのペニスは力強く脈打ち、溜め込んだ精を一気にぶちまけた。

ドクッ、ドクッ、と放たれた熱い精が膣奥に注がれ、女の胎内を染めてゆく。
肉洞の締め付けに促され、ケインの精は女の中を、深くたっぷりと満たしていった。
『おお〜〜出る〜出る〜、全部ナカに出してやるからしっかり受けとめろよ〜〜』
ケインは女体を抱きしめながら、射精の快楽を存分に堪能する。
やがて射精がおさまり、一息つくと、ケインはゆっくり女を下ろした。

「ハァ…ハァ…ハァー……」
仰向けで横たわる女の顔はすっかり緩みきっていた。
荒く息をつく女のそばに、ケインも横たわる。そして女に言った。



『なぁ、あんたこれで満足したか?それならそれでいいけどさ…』
ケインの視線が自分の股間に向かった。
『俺はまだまだイケそうなんだ。もう少し付き合えよ?な?』

「ぁあ…」
潤んだ女の目が勃ち上がったケインのペニスに釘付けになる。
と、不意にケインは女の唇を奪った。

「〜〜ッ!!」
もし拒まれたら最悪殺されるかもしれない、そう思ったケインだったが、しばらくしても女はキスを拒まなかった。

『決まりだな』
ケインが唇を放すと、女の唇との間にネットリとした糸が引き、すぐに切れた。

ケインの身体と女の身体が重なり、絡み合い、交わりあう。
獣のように相手を求め、女の肌と温もりをむさぼりながら、ケインは思った。


もう、カリーナの夢は見ないかもしれない。
胸の奥の何かが痛むのを感じながらケインは腕の中の女体を貫いたのだった───



(第二話、終わり)