* * *

December 22 , at 11:07 p.m.

 時に重厚な、そして時に軽快な音楽に合わせて、巨大な人形が街の大通りを練り歩く。
『FCの日』のハイライト。異境で祭られている神々の行進である。神々を模した人形は、時
折、くるくると回転して踊りながら、街の通りを大きな歩幅で闊歩している。
「リーダー、リーダー! あっちから来るあれは、なんの神だ?」
 大通りが交差する十字路に面した宿の二階に陣取り、窓から半ば身を乗り出してそれを
眺める女は、興奮した面持ちで男に問いかけた。
「あれはスエミだな。酒を愛する絵画の神で、魔物達に今の姿を与えた神って言われてる
みたいだ。なんでも、スエミの降臨前と降臨後では、魔物の姿も全く違うものだったとかい
う話だぜ」
 「ほう。では、私が魔物を見ていやらしい妄想が出来るのも、あの神のおかげなのだな!
じゃあ、その後ろに見える楽器を持ったあれは?」
「ああ、あっちは確かハネケンだ。音楽の神だよ。多くの演劇の曲が、実はこの神の手に
よるもんだって噂もあるんだってさ。ほら、蛇の名前をした海賊の話とか、空から落ちてき
た巨人の話とかあっただろ?」
「ああ! あの、いやらしい格好をした女の子が大勢出てくる話と、戦争に行く前に恋人と
サラダの話をしてはいけないという訓話か。よくおぼえているぞ」
 この街で初めての冬を迎える女が祭りを楽しめるように、男はかなり以前から計画を練
っていた。神々のパレードを眺めるに最適なこの部屋も、女には内緒で祭りの半月も前か
ら押さえていたものだ。北と西に窓を持つこの角部屋は、二つの大通りのどちらもが十全
に見渡せる特等席だった。
 今、彼らは西の窓際に移動させたベッドの上から、大通りを見下ろしている。男の腰の上
に座り込んだ女が、街に流れる音楽に合わせて体を弾ませるたびに、窓枠に乗せられた
彼女の胸も大きく揺れる。
 その腰に手を回して、後ろから彼女を抱きかかえる男は、毛布にくるまったまま窓から顔
だけを覗かせている。その毛布の下で、二人の体はしっかりと繋がっていた。彼らは服を
着たまま下半身だけを脱ぎ、挿入した状態でパレードを眺めているのだった。

「お、なんだか妙な格好をしたのが来るねえ。緑の体に腕が九本? なんだい。あの、神
ってより悪魔って言った方がしっくりくる物騒なやつは」
 そんな二人に、北側の窓から祭りを眺めていた女が艶のある声で訊ねかける。その特
徴的な灰緑色をした髪の女は、今朝方に見かけた二人組の片割だ。
 そう。今、この部屋にいるのは行為の最中の二人だけではない。女忍者がその尻を追っ
かけていった二人の冒険者が、彼らと共に部屋で祭りを見物していた。
 噂に聞く迷宮での『FCの日』を経験しようと、今朝早く、この街に来たばかりの二人だった
が、祭りの期間中は訓練所での冒険者登録は休止されていた。泊まる宿を確保するため
だけの冒険者登録を阻止するための措置である。彼女達は祭り後もしばらくはこの街に滞
在して迷宮で一稼ぎする算段をしており、冒険者なら宿の心配もいらないと思っていたの
だが、すっかり当てが外れてしまったのだという。
 一般の宿などはとうに満員で、ならば、せめて今日だけでも祭りを楽しもうと、朝の冒険
者達の道行きに参加したところを、女忍者に声をかけられた。ということらしい。午前中は
四人で祭りを回り、午後に一旦別れた後で、再びこの宿で合流。その後は、女忍者の手
練手管でなし崩しに始まった四人での乱交を経て、今に至る。

「どれ? あ、本当だ。それぞれの腕に武器も持ってるし、迷宮の最深部で出てきそうな感
じよね。ねえ、侍さん。西から来る、化け物みたいな形をした神様はなんなの?」
「…………ふぅ……」
「えっと。……まだ、お取り込み中みたいね」
「おや。なんだい、またイっちまったのかい」
 と、今更ながらに頬を染める女と、余裕たっぷりに微笑む女。
「リーダー。呆けていないで、説明もしっかり頼みたいのだが」
「ん……。え? あ、悪い。って誰のせいだよ! えっと、ああ、あの緑のか。あれは邪神
エンドーだよ」
「邪神って、そんなのまで持ち出してきて大丈夫なの、この祭り?」
「いや、邪神って言っても、まあ愛称みたいなもんらしいぜ。どんな愛称だよって話だけど
な。実際には、結構ざっくばらんな神で、気軽に信者と言葉を交わしたりするって話だな」
「なんだいそりゃ。随分と軽い神もいたもんだね」
「まあでも、力はあるみたいだぜ。なにを持ってしても破壊できない回転する金属の板を宙
に飛ばしたり、天までそびえる六十階建ての塔を立てたりしたとか」
「ますます、よくわからない神様ね。あ、今のが最後尾だったみたいよ。これでパレードも
終わりかぁ」
 神々の行進に追随していた楽隊の一団が窓の下を東に向けて通り過ぎていく。しかし、
彼らが通り過ぎるとすぐに、大通り沿いにテーブルと椅子が並べられ、大きな樽をいくつ
も積んだ台車が引き出される。十字路に繰り出した男女が歌を歌い、踊り子がダンスを始
める。大樽からは葡萄酒が振る舞われ、大通りはたちまち酒と踊りの満ちる大宴会場へと
変貌した。
「あれ……?」
「パレードは終わっても、祭りはまだ終わらないぜ。まだ二日ほどは夜を徹して騒ぎ続ける
んだ。その後すぐに、あの宗教の聖誕祭が控えてるし、年の最後の日から新年にかけて
は新しい年を祝うってんでまたお祭り騒ぎになる」
「なによそれ。この月の三分の一はお祭りみたいなもんじゃない」
 呆れたように言った金髪の女戦士だったが、すぐに楽しそうに笑い出した。
「でも、いいわね。そういうの。うん、いいわ。よし、私達も行くわよ! ほら!!」
 裸のまま毛布を被っていた女は、言うが早いか床に落ちていた衣服を身に着け始める。
「仕方ないねえ。はしゃいじゃって。あんた達はまだそれを続けるのかい?」
「私達は日が変わるまで交尾に専念しよう。そっちには後で合流する」
「まだするのかよ。それに交尾ってな、お前」
「そう。じゃあ、私達は先に行くわね。下で適当に飲んでるから」
「うん。ではまた後でな」
 女達は服を着ると、扉を開けて部屋を出る。扉の閉じ際に覗き見えた部屋の中では、今
度は正面から男に抱きついた女忍者が、もう弾むようにして腰を振っていた。
 
「なあ、忍者ちゃん。折角の祭りなんだし、俺に跨るのはせめて祭りを楽しんだ後でも良か
ったんじゃないか? 祭りは時期が来れば終わっちまうけど、こっちは別に逃げたりしない
からさ」
「これはこれで私も祭りを楽しんでいる最中だぞ。なに、日が変わるまでの辛抱だ。もうし
ばらくの間だけ頑張ってくれないか?」
 上下運動をしながらではさすがに話しづらいのか、女は一旦、腰を打ち付けるのを止め、
密着させた腰をグラインドする動きに移行する。
「いや、辛抱って言うかさ。あらかじめ誤解の無いように言っておくけど、俺もお前とこうし
て抱き合うのは大好きだ。なんだったら一日中でもこうしていたいと思ってる」
「それは嬉しいお言葉だな。こんな私ではあっても、時々は、無理にリーダーを付き合わせ
ているのではないかと心配していたのだ」
 男の耳に唇を寄せ、囁くように話しかけながら、女はくびれた腰をくねらせる。
「ん……。でもな。俺もさすがに三人相手にした後だし、いくら呪文や薬で回復するにして
も、色々と限界があるんだけどさ」
「なに、頑張ると言っても、今夜は私を感じさせる必要は無い。リーダーはただひたすら気
持ちよくなって、出せるところまでの子種を私の中に注ぎ込んでくれ」
「本当にそんなのでいいのかよ」
「うむ。これもちゃんと私なりの考えがあってのことなのだ」
「その考えっての。一応、聞かせてもらっといていいか?」
「うむ。私がリーダーの子を孕むのを切望していることは承知しているな?」 
「ああ。そりゃ何回も聞かされてるから、知らないとは言わないけど。それが、今日に拘る
ことと関係が?」
 男が体に回していた手を解いたので、当意即妙、女は自分の胸を両手で下から持ち上げ
る。その乳房を柔らかく掴んだ男は、勃起した桃色の乳首にむしゃぶりついた。
「んぅっ。……私はこれまで、これほどにリーダーの精を注がれながらもなかなか私が孕め
ないのは、自身の体そのものに欠陥があるのではないかと畏れていた。だが『FCの日』
の呪いのことを聞いた時、あるいは外部に要因があるのではないかと思ったのだ」
 男は女の乳首を吸いながら目で続きを促す。
「私は忍者だ。そして、忍者は装備を脱ぐことで、常人では達し得ない防御力を得ることが
できる。と、いうことはだ。もしかすると、裸になった私の防御力が、リーダーの子種の侵
入をも拒んでしまっているのではないだろうか」
 自分の中で一物がヒクヒクッと動いたのを感じた女は、男の射精が近いのを感じて絞り
上げるように膣壁を収縮する。
「そこで『FCの日』の呪いだ。攻め手の防御力が受け手の防御力に影響を及ぼすこの日な
ら――んっ」
 女の乳房を掴む男の指に力が入る。既に白濁した汁に満ちた女の胎内に新たな子種が
注ぎ込まれ、熱く蠢く肉壁は、次第にその硬さを失っていく肉杭を包み込むように収縮して、
根元から先端へと柔らかく絞りこんでいく。

 男は女の膣の最奥に精を出し切り、一つ大きく息をついた。女は男その指が弛むのを待
った後で、彼の頭を撫でながら話の先を続ける。
「そう、この日なら、裸の私もリーダーと同じ裸のままの防御力になるに違いない。それな
らば、あるいは私も晴れて子を宿すことができるのではないか? まあ、所詮は推測に推
測を重ねただけに過ぎないが、駄目で元々。やってみる価値はあるだろう」
「……ぅ。忍者ちゃん。言っちゃ悪いが、その考えには穴があるぜ」
 射精の余韻から醒めた男は、女の乳首から名残惜しそうに唇を離し、言葉を返す。
「まあ、その忍者だから云々って推論が正しいか正しくないかは置いとくとして。まず、『FC
の日』の呪いって、そもそも迷宮以外でも効力を発揮すんのかってこと。次に、もし街中で
も呪いが有効だったとしてさ、今夜攻めてたのは、明らかにお前の方だろ。てことは、お前
の防御力って……普段と変わらないんじゃないか?」
 言うことだけを言って、男はまた、女の乳房を堪能する至福の時間へと戻っていく。女は
しばらく男のなすがまま乳をしゃぶられつつ、宙に目をやって男の言葉を反芻していた。
「……なにを」
「ん?」
 女は男の頭を両の手の平で挟み込むと、問答無用で自分の乳房から引き離した。
「なにをのんびりと乳など吸っているのだあぁぁぁっ!? さあ! 早く、私を攻めて責めて攻め
抜いて、壊れるぐらいに犯してくれ!! 絞り出せ! 私の体を蹂躙して、もうやめてと泣いて
懇願し、果ては白目を剥いて気を失っても、そんなことはお構いなしに突き続けて最後の一
滴まで注ぎ込め!! ――いや、その前にまずは迷宮に行かなければ。ほら、なにをぐずぐず
しているのだ。もう、もう時間が無いではないかぁっ!!」

  * ガラーン ゴローン *

 豹変した女忍者が叫ぶのと時を同じくして、一日の終わりと始まりを告げるカントの鐘が
厳かに鳴り響いた。その鐘の音と共に『FCの日』本祭の一日は幕を閉じ、呪いはその効力
を失った。

* * *

December 24 , at 07:08 a.m.

「さて、すっかり世話になっちまったねぇ」
「ほんと。宿を譲ってくれてありがと。おかげでお祭りを存分に堪能できたわ。でも、本当に
宿代はこっちで払わなくてもいいの?」
 そう訊ねる金髪の女に、侍は手をひらひらと振りながら答えを返す。
「ああ、気にしないでいいよ。俺達は冒険者の宿に部屋があるし、あの宿も今日までの分
は先払いで払っちまってるしな」
「遠慮は無用だぞ。私も二人の体を堪能させてもらったしな」
「そりゃお互い様だね」
「もう。朝からなんの話よ」

 『FCの日』本祭から二日後の朝。王城前の広場へとつながる通りを四人の冒険者が歩い
て行く。彼らの向かう先は訓練所のある町外れとは反対側。その足は城塞都市の北門へ
と向いていた。
「訓練所の冒険者登録なら明日には再開するみたいだぜ」
「んー。最初はそのつもりだったんだけど」
「どうせなら稼ぐならリルガミンまで行こうって話になってねぇ。そうと決まれば早い方がい
いだろ? もっと寒くなって雪に降られちゃかなわないし――ああ、もうこの辺でいいよ。ど
うも人に見送られるのは苦手なんだ」
 王城前に差し掛かったところで、先頭を歩いていた女が振り返って立ち止まる。
「そっか。ああ、馬車はもう一つ先の広場から出てるはずだから。じゃあ、お互いに生きて
たらリルガミンでな」
「あら。あなた達も向こうに行く予定なの?」
「まだ予定は立ってないんだけど、まあ、いずれ。それじゃあ、道中気をつけて。二人にカ
ルキあらんことを」
「二人はいつまでも私の愛人だぞ。願わくば、次も迷宮の外で会いたいものだな」
「愛人になったおぼえは無いんだけどねぇ。まあいいや。じゃあ二人とも達者でおやりよ」
「じゃあね。二人のお陰で楽しかったわ。ありがと」
 そう言って手を振ると、二人組の女達は広場を北へ向けて歩いていく。残された二人は、
その背をしばらく見送った後、踵を返して来た道を戻り始めた。

「さて、朝飯でも買って宿に戻るか」
「あ。それなら、南西の広場に寄ろう。まだ覗いていない露店があるのだ」
 女忍者は男の手を引いて南西の広場への近道の路地へと足を進める。
「……ところでリーダー。あの二人、旅の荷物をなに一つ持っていないのだが、気付いてい
たか?」
「ああ。引っかかってはいたよ。まぁでも、この時期には色んなとこから色んな連中がこの
街に来るからな。だけど、あの二人が何者だろうと、祭りを楽しみに来たのには違いない
って思ったからさ。お前の方こそ、なにか気付いてたんじゃねえのか?」
「うむ。ちょっと違う匂いがする。とは、最初から思っていた。しかし、せっかくの祭り見物に
水を差すのも、無粋というものだろう。それに、女には秘密の百や二百あって当然だからな」
「多すぎだろ。……で、本音は?」
「いやらしいことさえ出来るなら性別も種族もどうでもいい!!」
「ぶちまけすぎだ!」
「……なあ、リーダー。あの二人とは、またどこかで会えるかな?」
「さてな。ま、お前の言ってた通り、迷宮の中じゃなきゃいいんだけどさ。――あ、そうだ。迷
宮って言えばさ、『FCの日』の呪いのことだけどな」
「ん?」
「お前が装備を身に着けてれば、そもそも忍者の防御力って発揮できないよな。別に迷宮
の呪いとか、関係無い話だったんじゃないか?」
「あ……本当だ」
「まあ、そもそもお前の推測というか妄想に近い話だしな」
「でも、ものは試しだ。宿に戻ったら朝食を食べながら今日の第二回戦だな」
「明日からはまた迷宮に潜るんだしお手柔らかに頼むぜ」
 路地を抜けて広場に通ずる通りに抜けると、街はもう動き出している。腕を組んだ二人の
姿は、人の増え始めた朝の街へと消えていった。



 城塞都市の北門から続く街道。そこからしばらく離れた森の中の空き地に立っているの
は、馬車でリルガミンに向かったはずの二人の女達だった。
「あーっ、楽しかった。来年もまた来たいわね」
「なんだい。そんなにあの人間のデカ魔羅が気に入ったのかい?」
 灰緑色の髪をした女は、いやらしい笑みを含んだ口調で、金髪の女にからかいの言葉を
投げかける。
「もう! 違うわよ。お祭りのことを言ってるの。お、ま、つ、り!」
「そんなことを言ってるわりに、昨晩は随分とお楽しみだったじゃないか」
「それはっ……そうだけど。まあ確かに、人間の姿でするのが、あんなに……その、気持ち
がいいものだと思ってなかったかな」
 顔を真っ赤に染めながらも、この二日間のことを思い出し、まんざらでもない様子の女で
ある。
「おや。百年以上も生きてるわりに、まだまだうぶだねぇ。それに意外と素直じゃないかい。
気位の高いあんたの口からそんな言葉がでるとは驚きだよ」
「なによ。らしくないのはあなたもでしょ。男にしか興味が無いはずの淫魔様が、あの娘と
は仲良くやってたじゃない。大体、あなたが精気を吸わずに彼を離すなんて、今でも信じら
れないわ」
「そりゃ、人間の姿じゃ精気を吸えないからね」
「それほんと? 祭りにかこつけて、人間の精気を吸い放題って言ってたくせに」
「本当さ。でも、確かにらしくなかったかね。ま、細かいことはいいじゃないか。祭りも色事も
存分に楽しめただろ。それで十分だよ」
「そうね。うん、 楽しかった!」
「じゃ、街からも随分離れたし、そろそろいいだろ。あたしらはあたしらの居場所に帰るとし
ようじゃないか」
「ここだと私には少し狭いんだけどなあ」
 言って、女達は来ていた鎧と服を脱ぎ始め、寒空の下、一糸纏わぬ全裸となった。すると、
灰緑色の髪の女の背から蝙蝠に良く似た皮膜の翼が生え始める。
 金髪の女も同様に背中に翼が生え出すが、それと同時に彼女の体はみるみる大きく膨れ
あがる。周囲の木々を数本なぎ倒し現れ出でた巨躯は眩しいまでの金色に輝く鱗に覆われ
ていた。
 姿を取り戻した金竜――ゴールドドラゴン――は窮屈そうに畳んでいた翼を広げ、二度、
三度と緩やかに羽ばたかせる。その背では、人間の姿の時よりも淫靡さをいや増したサッ
キュバスが翼を休めている。

 彼女達は、数十年前にワードナが復活した折にこの城塞都市に召喚されたことがある。
その時に見た人の街の祝祭の光景は、ワードナに伴ってこの街を離れた後も、彼女達の心
にずっと残っていた。
 成長した金竜は自在に動物や人間に姿を変えることができるのだが、年若い彼女には近
年までそれだけの力が備わっていなかった。そして、ようやくその力を操れるようになった
のを機に、種族を越えた友人のサッキュバスと共に念願の祭り見物にこの城塞都市を訪れ
たものである。当然ながら、女忍者達に語った冒険者云々の話は出鱈目に過ぎない。

「それじゃあ行こうかね」
「ちょっと。人の上に乗ってないで、自分で飛びなさいよ」
「まあいいじゃん。さんざ、男に乗られた後じゃないか。ところでさあ……もし、あの男の子で
も出来てたらどうする?」
「ちょ、ちょっとやめてよ」
「でも、人間と竜の間に生まれた子の話ってのも聞いたことはあるけどねぇ」
「それはただのおとぎ話でしょ。それに大丈夫よ。彼がその……達する時には、必ずあの忍
者の娘が手綱を握ってたから」
「おや。そうだったかい。あんたもあんな状態でよくそこまで気が付いたもんだね」
「噛み千切るわよ」
「冗談じゃないかい。ドラゴン様には人間の珍宝じゃ物足りないよねぇ」
「ほら、行くわよ! 落ちたら置いていくからね」
 その雄々しい見た目にそぐわぬ内容の会話を強引に打ち切ると、金竜は翼をはためかせ
て空に舞い上がる。その姿は見る間に上昇し、空高く舞い上がると、北の空へ向けて飛び
去って行った。


 『FCの日』。それは毎年12月22日にこの城塞都市だけで行われる祭りである。数日後に、
とある宗教の聖誕祭を控え、冬の大市とも時期が重なるため、前後七日に渡って行われる
祭りには、都市外部からも多くの見物客が訪れる。
 街は連日、酒と踊りと音楽に満ちあふれ、広場や通りには深夜まで人々が行き来し、異
境の神々を象った人形が音楽と共に賑やかに通り過ぎていく。迷宮では呪いと呼ばれる不
可思議な出来事が起き、そんなものさえも、人々は祭りの一環として楽しんでしまう。
 そんな楽しげな雰囲気に惹かれ、集まってくるものの中には、人成らざるものも混ざってい
るという噂も聞く。だが、そんな些細なことはどうでもいいではないか。
 なぜなら今日は祭りの日。酔いつぶれ、踊り明かす神懸かりの日。そこには夢と希望、喧
噪、悪魔、エロスにパロディ、解放、バグ、仕様など、あらゆるものが混在している。古い新
しいや機種の違いなど忘れて楽しんだものが勝ち。楽しむ心を持った者は皆、この祭りの一
部であり主役なのだから。


〜 了 〜