* 事の発端はディアルの効果を持つ特効薬を拾ったことだったらしい *

「で、どこで使うの?それ」
「んー、どこかで」
「セックスに疲れた殿方に使ってもっと搾り取ってみる?」
「そんなことする余裕あるかしら?一度セックスしちゃったらきっと最後までヤッちゃうと思うわ」
「それもそうねー」

さり気なくとんでもない会話を交わしているのは淡いピンクの乳当てをつけただけの美女二人である。
二人とも長いブラウンの髪で胸元や秘所を器用に隠しているが、その際どさがより魅惑的で淫らに見える不思議。
お気に入りなのかメーカー品なのか、乳当ては二人とも同じ種類のようだ。
肌は透けるように白く、胸から腰、太ももにかけての滑らかなラインは一瞬にして男を虜にするほど綺麗だった。
ただその背には揃って巨大な黒い蝙蝠の翼が広がっていた。
この危険極まりない地下迷宮でここまで誘惑的で無防備な姿をさらけ出せる女性は数えるほどしかいない。
サキュバスである。

つと、手のうちで特効薬を弄んでいたサキュバスAの足がぴたりと止まった。一方を見つめたまま固まっている。
サキュバスBが振り返り声をかけた。

「どうしたの?」
「……」

返事はなかった。
それどころか次第に青ざめていくサキュバスAを見てただならぬ不安を覚えたBは恐る恐る彼女の視線の先を追ってみた。

「グゥゥ…」

視線の先から地響きかと思われるほど低く重苦しい呻き声が聞こえてきた。

「忌々シイ 人間共…」

サキュバスBも凍りついた。本能が「早くこの場を去らなければ!かのお方に気づかれる前に!」と叫んでいる。
だが足がすくんで動けない。サキュバスAも同じようで、金縛りにあったかの如く二人はその場に立ち尽くしてしまった。

呻き声の主は壁に背をもたれさせ座り込んでいるようだった。
遠巻きに見ているため実際の背はわからないが、高さが10m近くはあるこの玄室内の半分近くに頭部が見えることから
立ち上がれば軽く天井につかえてしまうのだろう。
もとより遠巻きからでも存在を確認できるということ事態が、この主がいかに巨体であるかを証明していた。
彼女たちがこの主の正体を瞬時に判断した理由は一つ、その背から伸びている4枚の翼であった。
それは蝙蝠の翼ではなく鳥のような羽毛の翼で、さながらトンボが翅を休めるかの如く4枚とも下向きに垂れ下がっている。
この地下迷宮で見上げるほどの巨体と4枚の翼を持つ存在はただ一人しかいなかった。

「マイル…フィック様…」

サキュバスAが唇を震わせながら主(しゅ)の名を口にした。瞬間二人は迂闊に名を呼んでしまったことを後悔した。
主の鋭い眼光がこちらに向けられたからだ。
明らかに怒りと憎しみが見て取れ(事情はまったくわからないが主は相当ご機嫌が悪いようだ)、
特効薬などというものに気を取られ肉眼で確認するまで危機を感知できなかったことを呪いつつ、二人は死を覚悟した。

マイルフィック。
かつて神々との戦いに敗れ魔界に封じ込められた邪神の一人であり、その力は天候すらも操り都市を一瞬のうちに壊滅させてしまうとか。
神々の施した封印を打ち破り再び人間界を支配すべく、現在もなお数多の配下を使いにやり復活の機会を探らせているという。
この地下迷宮から発せられる呪力、闇の波動が可能にするのか、自らもまた封印のすき間よりここに実体化をはかっていたようだ。
かの大魔術師ワードナに召喚された折、完全なる復活のために魔除けを奪おうとするも成し遂げられなかった過去を持ち、
新たにこの地下迷宮に眠るグニルダの杖の力を何らかのかたちで利用しようと狙っているのかもしれない。
真意は彼と忠実なる配下グレーターデーモンだけが知っている。直属の配下でない彼女たちにはまったくもってあずかり知らぬ世界であった。

「……」
「……」

射抜くような鋭い眼光に彼女たちはなお身を強張らせ、動くことはもちろん目をそらすことすらできなかった。
しばし二人を睨みつけていたマイルフィックだったが、ふと視線を宙に戻した。尖った耳の近くまで裂けた口から短く言を発する。

「目障リダ。立チ去レ」

奇跡が起こった。
途端に呪縛が解けたかの如く二人は身動きがとれるようになった。思わず二人で顔を見合わせる。感謝の気持ちすら込み上げてきた。
せめてご挨拶と一礼をしてから立ち去ろうと再び主に目を向けたサキュバスAはその足元に違和感を覚えた。

お怪我をしていらっしゃる…!?
右足は膝から下が抜き取られたかの如くなくなっており、左足も太ももから黄褐色の液体(血なのだろうか)が止め処なくあふれ出ていた。
止血のつもりか痛みに耐えているのか、左手でそこを強く押さえており、その姿がより痛々しく見えた。

「あ、あの…!」

無意識に出てしまった言葉、再びこちらに向けられる射殺すような視線、何やってんのと言わんばかりに焦る友人B、再び後悔した。

「何ダ…」

いえ、何でもありませんでした、とはもう言えない。サキュバスAは己の迂闊さを再三呪い、Bに小さく別れを告げた。

「あなたはこのまま行って」
「え…」
「今までありがとう。楽しかったわ」
「ちょっと…」
「マイルフィック様!」

凛とした声で主の名を呼び、サキュバスAは前に進み出た。深々と一礼する。

「何ノ 真似ダ」
「傷の、お手当を…。ちょうどここに特効薬がございますから」

顔を上げ、手にしていた特効薬を高く掲げてみせた。

「…ソンナモノ、何ノ 気休メニモ ナラン」
「そ、それでも、ないよりはましかと思われます。どうか…」

マイルフィックは黙ったままサキュバスAを睨みつけた。Aは思わず震え上がる。
だが視線の先がわずかに特効薬にも向けられていることに気づき、サキュバスAは意を決して翼を広げた。

「失礼、いたします…」

極力不快な音を立てないようゆっくり飛び上がり、未だ体液があふれ出ている左足の太ももの上にそっと降り主と向かい合うように膝をつく。
飛んでいる間に叩き落とされる覚悟でいたが、主はただじっと彼女を見下ろしているだけだった。触れた肌は硬い鱗を思わせた。

「……」

無言で特効薬の栓を開け治療の準備に取りかかる。その間ずっと刺すような視線を感じ、手は震える一方だった。
薬を取りこぼさないよう慎重に扱い、恐る恐る主に声をかけた。

「あ、あの…」
「……」
「あの、マイルフィック様、手を……どうかお手を外して下さい」

勇気を振りしぼって声を出すも、手は動かない。ならば手の上から薬を浸そうと膝を立てた矢先、ゆっくり手が外れた。
サキュバスAは一度深呼吸をし、今度こそ患部に薬を浸すべく傷口を見やった。
そこは深く抉れていた。大剣か何かで何度も突き刺しかき回されたのだろうか、止め処なくあふれ出る黄褐色の体液が鼻についた。
生臭い香りからするにやはり血なのだろう。
瞬間嫌な予感がした。
今ここにいるマイルフィックは完全なる実体ではない。神々の施した封印のすき間を縫って飛ばした思念体が具現化した姿、
人間界でいうアンデッドに等しい分身に過ぎない存在であり、そんな不安定な肉体に果たして特効薬は効くのだろうか。

「マイルフィック様、失礼いたします」

ふと背後から翼の羽ばたく音が聞こえたかと思うとすぐ目の前に、主に背を向けサキュバスAと向かい合う体勢でBが舞い降りた。
どこから拾ってきたのか赤い布を手にしており、Aの前に広げながらそっと囁く。

「これに浸したほうが効率的よ」
「あなた…」
「っもう、勝手なことしないで。私たちいつも一緒でしょ」
「……ん」

心強い味方の存在に感謝し(といってもマイルフィックの前では塵が一つ増えただけだが)、サキュバスAは気を取り直した。
仮に特効薬が効かず主のご機嫌を損ねさせたとしても、死ぬときは一緒だという安心感があったのだろう。
さっそく赤い布に薬を浸し、患部を覆うようにして優しく押し当てた。少なからず刺激を与えたようで、主の体がわずかに反応した。
サキュバスAは強く揉まないよう気を遣いつつ両手で傷口を押さえ、Bは余った布で血をきれいに拭き取り時折薬を追加した。

「…アァァァ…」

吐息とも呻き声ともつかない低く重い声が玄室内に響いた。何かをしくじったのだろうか、サキュバスAは恐る恐る顔を上げた。
しかし当のマイルフィックは顔を正面に向け、両の腕は力なく地面に落とし、傍から見ればやけにリラックスしているように見えた。
目を閉じていらっしゃる…!
先ほどまで刺すような視線を向けていた丸い眼球は薄いまぶたに覆われ中央で閉じられていた。その様はさながら鳥のようだった。
まるで私たちがマイルフィック様を感じさせているかのよう…!
サキュバスAは不覚にも興奮を覚えた。度重なる事故の連続ですでに平静を欠いていたのかもしれない。

魔界ではいくつかの勢力が派閥を生み、古の時代よりと言っていいほど永い時をかけて冷戦状態を続けている。
すべての魔族の頂点に君臨し崇拝されているのが邪神マイルフィックというわけではないのだ。
この地下迷宮に姿を現す上級魔族のアークデーモンやライカーガスですらマイルフィックとは思考を異にしており忠誠心はそう高くない。
そんな彼らがいつまでも冷戦状態を続け大規模な戦争を起こさないのは、互いに不利益しか被らないことを知っているためであろう。
そんな中、中級魔族と呼ぶにはいささか能力に欠ける彼女たち夢魔はどこにも属さない(言い換えればどこにでも属すことのできる)
フリーの悪魔であった。
わずかに交流があるとしたら(といっても憎まれ口を叩く程度だが)、アークデーモンの配下にあたるヘルマスターくらいか。
レッサーデーモンやグレーターデーモンなどは彼女たちにとって論外であり(ヤギ面と爬虫類的な意味で)、
彼らを束ねるマイルフィックに至っては同じ迷宮内にいたとしてもまったく関わることのない(はっきり言えば興味もない)存在であった。
それゆえに彼らの気配を察するや器用に接触を避け、今日まで危機に巻き込まれることもなく生き延びてきたのである。

治療を終え布を取り払うとわずかに傷痕が残っているのみで、出血は完全に止まりほとんどの皮膚は再生できたようである。
よかった…!
サキュバスAは緊張がとけたのかへなへなとその場に座り込んでしまった。Bもほっと胸をなで下ろした。
後は右足である。膝から下が見事になく、傷痕もまったく見当たらない。少なくともたった今なくしたわけではなさそうだ。
再び見上げるとマイルフィックはまだ目を閉じたままだった。声をかけるのが躊躇われたが、もうここまで来たら関係ないと思い始めた。

「マイルフィック様、右足は…」

マイルフィックがゆっくり目を開けた。

「まさか、人間に…」

瞬間ぎろりと睨まれサキュバスAは息を呑んだ。思わず視線を下げるもそれも失礼だと気づき、そのままぎゅっと目を閉じた。

「否…」

捕まれて引きちぎられるかと思ったが、予想に反してただ短い言が返ってきただけだった。
その口調は思ったほど地に響くことなく自然に耳に入ってきた。思わず顔を上げると主はまた視線を宙に戻していた。

「忌々シキ 封印ヲ以テ 我ガ肉体ハ 未ダ 囚ワレノ身」
「……」

神々の施した封印は物理的な肉体だけでなく思念体まで強く縛りつけているのか、右足は具現化できず封印に引きずり戻された。
実際には存在しているはずなのに地に足をつくことのできない状態とはいかほどのものなのか、サキュバスAには想像できなかった。

「そう…ですか…」

マイルフィックは再び目を閉じた。その様をサキュバスAはぼんやりと眺めていた。
仮にもう一つ特効薬を拾ってきたところで右足は彼女たちの力では再生不可能である。もうやるだけのことはやったのだ。
問題はこれからどうやって主のご機嫌を損ねないうちに立ち去るかである。
サキュバスBが目で合図を送った。立ち去るなら今しかないと。
だが目を閉じている主の是なのか否なのか何とも読み取れない無表情な顔をサキュバスAはずっと見つめていた。

ふと股下が温かいことに気づいた。
治療に夢中でまったく意識していなかったが、彼女たちは今、主マイルフィックの太ももの上に乗っかっているのである。
先ほどべったりと座り込み敏感な秘所が直接肌に触れたためかもしれない。
硬い鱗だと思っていた肌は意外と弾力があり、深く傷を負ったために熱を帯びているのか、これが平熱なのか、とても温かかった。
サキュバスAは今まで一度も関わったことのなかった主の姿を改めて眺め見た。
硬くて弾力のある鱗のような温かい太もも、幾重にも割れた腹筋、たくましい胸板、がっしりとした肩。
背からは巨大な4枚の翼が広がり、やはりリラックスしているのだろう、先ほどよりなお力なく垂れ下がり地に横たわっている。
視線は再び下腹部に下り、開かれている足の間に向かった。
股には本来あるであろう男性器は見つからなかった。それどころか女性器の如く二股に割れているようにすら見えた。
マイルフィック様は女性でいらっしゃるのか、それとも神たるお方は性別を超越していらっしゃるのか…。
あらぬ想像をしながらサキュバスAは再び視線を上げた。マイルフィックの肉体には本来あるであろう器官がもう二つ欠けていた。
乳首とへそである。
マイルフィック様は卵からお生まれになったのかしら、それとも神たるお方は……。

「はぁ…」

妄想は止まらず、サキュバスAは小さく吐息を漏らした。心なしか体が疼き股が濡れてきたように感じる。
マイルフィック様はどのようなセックスをなさるのだろう。
お互いに見つめ合ったまま前で?それとも獣のように後ろから?ああそれとも、女をまたがらせて下から突き上げて下さるのかしら。
もしや交互に足を絡ませて交わるのがお好き…?
彼女の脳裏には目を閉じ先ほどの吐息のような声を漏らしている主の姿が描かれていた。
やはり先ほど主が漏らしたのは吐息だったのだろう。痛みが癒され肉体が再生されていく感覚に心地よさを覚えたのに違いない。
そう感じたためにより一層彼女の妄想をかき立ててしまったようだ。

「ちょ、ちょっと…」

サキュバスBに声をかけられはっとした。無意識のうちに呼吸を乱しながら主の太ももに股をこすりつけてしまっていたのだ。
恐る恐る顔を上げると不安顔のBはもちろん、マイルフィックもまったく読み取れない無機質な表情でこちらを見下ろしていた。

「あ、あ……申し訳、ありません……っ」

腰の動きを止めようにも太ももが与える温もりと秘所を刺激する鱗のような硬さが彼女を狂わせる。
結局腰を持ち上げることができず、彼女はなおマイルフィックの太ももを愛液で濡らしてしまった。

「生意気ナ 小娘ダ…」

突然マイルフィックは左手でサキュバスAをつかんだ。Aの体がびくっとはねる。Bも突然のできごとに全身が固まってしまった。
ついに捕まった!いや、決して捕まることを待っていたわけではない、彼女たちは今まで運がよすぎたのである。
左手は先ほど傷口を覆っていたためか血で汚れており、彼女の肢体が黄褐色の血でまみれた。
身動きを完全に奪った後、右手の鋭い爪がサキュバスAの胸元に近づく。今度こそ殺される、彼女は死を覚悟しぎゅっと目を閉じた。
だが爪は淡いピンクの乳当てを剥ぎ取り柔らかくて形のよい乳房を露にさせただけだった。震えているのかピンクの突起が揺れている。
サキュバスAは目を開けられなかった。だがずっと閉じているのも怖かった。
恐る恐る目を開けようとした矢先、胸元が生温かい感覚に襲われた。熱い息がかかる。彼女はマイルフィックに舐められたのである。

「あ…っ」

マイルフィックはことさら乳房の突起に触れるように執拗に彼女の胸を舐め続けた。
サキュバスAは突然の淫らな刺激とこのまま喰われるのではないかという恐怖とが入り混じり、声ならぬ声をあげた。

「あぁ…っ」

しばらく彼女の体を味わっていたマイルフィックだったが、再び右手を近づけ彼女の左足をくいっと持ち上げた。

「っ…」

開かれた秘所は先ほどの行為と胸に受けた刺激も手伝ってかぐっしょり濡れており、雄を誘う甘い香りが鼻をくすぐった。

「っ…マイルフィック様…」

ふるふると震えるサキュバスAを尻目にマイルフィックは秘所をじっと見つめている。心なしか口の端が吊り上ったように見えた。
ああ、マイルフィック様にあんなところを見られている…!
サキュバスAは恐怖と羞恥の入り混じった言いようのない感覚に襲われた。雌としての本能か、秘所はさらに潤い疼き出した。

「あぁ…もう…っ」

早く挿れて。早く殺して。早く犯して。早く壊して。早く。早く。早く。早く。マイルフィック様…!!
サキュバスAはすでに狂い始めていた。必死に腕を折り曲げ彼女を捕らえている主の指にしがみつきぎゅっと力をこめる。
その声に応えるかの如くマイルフィックは彼女の秘所に舌を這わせた。生温かい感覚が敏感になっている部分を襲う。

「ああっっ」

彼女はびくっと体を震わせた。舌先が秘所の間を行き来する。あふれ出た愛液がマイルフィックの舌を伝って糸を曳いた。

「あっ…ああっマイルフィック様ぁっ」

びくびくと痙攣する彼女をよそにマイルフィックは止めることなく舌先で彼女の股を舐めしゃぶっている。
じゅぷっじゅるっと淫らな音が玄室内に響いた。
その様をただただ見ることしかできないサキュバスBの心境はいかほどか。やはり彼女も女である。等しく体が疼き出したようだ。

「はぁっ…あぁ…っ…マイルフィック様…」

サキュバスAと同じように彼女もまた主の太ももに股をこすりつけ、自ら乳当てを外しその豊満な胸を揉みしだき始めた。

「はぁ…っ」
「ああっ」

頭上では変わらずサキュバスAの熱く潤った秘所をマイルフィックの巨大な舌が行き来している。
奥に侵入しようと舌先で突き刺したら彼女の体がびくっとはねた。よほど刺激が強かったのか腰を淫らにくねらせ震わせている。
舌を立てて動かす度に艶かしい喘ぎ声が上がり、口はだらしなく開かれた。
その中にマイルフィックが舌を寄せた。するとサキュバスAはしゃぶるようにその舌に吸いつき自らの舌を絡め始めた。
手の中の小さな女性の体を散々舐めしゃぶり舌も存分に絡ませた後、マイルフィックはやっと顔を離した。

「あぁ、マイルフィック様ぁ、もっと…」

サキュバスAは媚びるような瞳で目の前の邪神に懇願した。

「もっと私を犯して下さい…」

マイルフィックは目を細め、再び右手を近づけた。人差し指を伸ばし彼女の秘所にあてがう。
口の端がわずかに吊り上がったように見えた。

「はい、マイルフィックさま、きてくださ…いたぃっ!」

爪の先が秘所に当たったらしく、彼女は痛みを訴えた。瞬間はっと気づく。
このまま指を挿入されるということはすなわちその鋭い爪が胎内深くまで突き刺さるということ。下手をすれば心臓まで……。
彼女は青ざめた。
当のマイルフィックは痛みを訴えられた瞬間いったん指を戻したらしく、しばらく彼女と指を交互に見ていた。
そして何を思ったのか自らの指を口にくわえ込んだ。
力が入っているのか右手が少し震えている。怯えながらも何をしているのか気になってしまいサキュバスAはじっと主を見ていた。
瞬間ベギッと何かが折れるような嫌な音が玄室内に響き、マイルフィックの右手に、顔に、彼女をつかんでいる左手に衝撃が走った。
マイルフィックの口元が黄褐色の血にまみれている。ほどいた右手も血でまみれており、人差し指には爪がなかった。

「マイル、フィック様…?」

マイルフィックは横を向きベッと何かを吐き出した。黄褐色の血とともにゴトッと落ちたのは紛れもない右手の人差し指の爪だった。

「マイルフィック様…」

再び彼女に右手を近づけ血まみれの人差し指を秘所にあてがう。
爪の先だけを折ったわけではなく付け根からすべてをもぎ取ったようで、接着面からは黄褐色の血がどくどくとあふれ出ていた。

「あ、あぁ…マイルフィック様…そんな…っ」


彼女を傷つけないがために自らの爪をもぐという行為に対する感動からか、血まみれの指を挿入される恐怖からか、
サキュバスAは唇を震わせながら主の名を呼んだ。
そんな彼女を見て主は笑った。いや、正確には笑ったのかどうかわからない。ただ彼女には主が優しく微笑んだように見えた。
ずぷっと液体にまみれた音を立て指が彼女の胎内深くに突き刺さった。

「ああぁぁあっ」

マイルフィックの人差し指はさすがの夢魔にも少しきつかったようだ。彼女は悲鳴にも似た声を上げ体を強張らせた。
マイルフィックは構わず指をぐりぐりと動かす。
愛液で潤っていたためか指からあふれ出る血のためか、きつかった胎内は次第にほぐれ動かす度にぐちゅぐちゅと淫らな音を立てた。

「ああっすごいぃっ!奥まで入ってるぅぅっっ」

手の中の小さな女性は際限なく奥深くを突き上げられる快感に何度も腰を浮かせ、つかんでいる主の指にぎゅっとしがみついた。
マイルフィックはさながら小さなおもちゃの人形を弄ぶかの如く指を曲げたり伸ばしたり抜き差しを繰り返したりして彼女を狂わせた。

「あっあっ……あぁっマイルフィックさまぁっそこっそこぉっ」

次第にどこが感じるかを心得てきたのか、マイルフィックは反応のある場所を的確に突いて突いて突き続けた。
サキュバスAは髪を振り乱し、だらしなく口を開け喘ぎ声を上げた。その中に再びマイルフィックが舌を寄せる。

「はっんっ…あぁっだめっそんなに気持ちよくしないでっおかしくなっちゃっ…」

サキュバスAは潤った瞳で主を見つめた。主は再び彼女に笑みを浮かべた。少なくとも彼女にはそう感じ取れた。
まるで「いいぞ」と言われているようで、彼女は体の奥深くから何か熱いものが込み上げてくる感覚に襲われた。

「あっ…んっ…あぅ…っ……ああぁぁあっマイルフィックさまぁああっっ」

懸命に快楽に耐えようにも指はさらに彼女の奥深くを攻め続ける。
爪が抉られた状態での摩擦はマイルフィックにとって確実に痛覚を刺激しているはずだが、そんな素振りは微塵も感じさせなかった。
ただただ彼女だけがその指使いに乱れ狂う。

「あっあっ…だめっイッちゃっ…もう、私…っ……あっああぁぁあああっっ」

絶頂に達すると同時に電撃を受けたような衝撃を受け、サキュバスAはびくびくと体を震わせた。

「あ……っ……」

全身から力が抜け、言葉もままならない。マイルフィックはおもむろに指を引き抜き彼女をつかんでいた手を離した。

「あぁっ」

ドサッと音がして彼女は無造作に倒れ込んだ。起き上がることもできずその場でひくひくと痙攣している。
今までずっとサキュバスAを見ていたマイルフィックだったが、太ももの上でうごめくもう一匹の夢魔に目を向けた。
サキュバスBである。

「あ、あぁ、も、申し訳、ありません…っ」
「……」

頭上で繰り広げられていた淫らな光景に我慢できなかったらしく、自ら乳を揉み太ももに何度も股をこすりつけていたのだ。
さらに自ら指を挿入しかき回していたらしく、秘所も指も胸元も愛液でぐちょぐちょに濡れていた。

「あ、あなた様のおみ足を、わ、私のいやらしい液体で汚してしまい…っ」
「ナラバ 貴様ノ魔力モ 我ニ捧ゲヨ…」

再び左手が伸びサキュバスBを鷲づかみにした。

「ああっマイルフィック様ぁっ」

濡れそぼった秘所に容赦なく指を突っ込み、乱暴にかき回す。
先に自分で挿入していたためか、彼女の胎内はマイルフィックの指を優しく包み込み奥深くへと導いていった。
そして抜き差しを促すかの如く適度に収縮を繰り返す。
これが男根であったなら、これほど男を喜ばせられる女もいないと感じたことだろう。

「あっあっ……あぁっ気持ちいいぃっっ」

長すぎる指は奥深くに到達してもまだ余っており、さらに突き上げるように動かすと彼女は嬌声を上げ体をびくびくと震わせた。
指を腹側に少し曲げるとより感じてしまうようで、そこを執拗に攻めたためにサキュバスAは達してしまったようである。

「あぁっ奥っ奥っ…奥がおかしいぃっっ…ああっ…あっ」
「グゥ…?」

サキュバスBのよがり狂う様を楽しんでいた矢先、ふと自身の股に違和感を覚えマイルフィックは下を見た。

「はぁ…っ…んっ……マイルフィック様……っ」

先ほど手放したサキュバスAがいつの間にか主の股にしゃぶりつき割れ目と思しき部分に指を這わせなで回していたのである。

「生意気ナ 小娘共……グッ」

マイルフィックはサキュバスBから指を引き抜きその手を下に持っていった。

「あぁ、マイルフィック様抜かないでぇ…っ」

サキュバスBが媚びるような声をあげたがどうやらそれどころではなかったらしい。構わず手は下に向かう。
一瞬サキュバスAをつかみにかかるのかと思ったがそうではなかったらしく、むしろAを押しのけ自らの股を強く押さえた。
突然のことに驚きその様を見ていたサキュバスAは、割れ目が大きく開き待ち焦がれていた男性器が現れるのを見た。
今までどこに収納していたのかと突っ込みたいほど巨体に相応のそれ(彼女の背と同じくらい)が姿を現したのである。
少なからずマイルフィックも興奮していたのだろう、それはすでに硬くなっていた。

「あぁ、マイルフィック様ぁ…」

やはり主は男性だった…!
サキュバスAは求めて止まなかったものが得られたことに歓喜の声を上げ、愛しいものをかわいがるが如く抱きしめた。
全身を使って肉棒を愛撫し、頬ずりをし、びちゃびちゃといやらしい音を立ててしゃぶり始めたのである。

「…ッ」

彼にとっては予想外の展開だったのか、マイルフィックは初めて戸惑いの色を見せたが、構わず再びサキュバスBに指を突っ込んだ。

「はぁっあぁぁああっ」
「あぁ…マイルフィック様ぁ…」

片方は快楽に悶える喘ぎ声が、もう片方は歓喜に満ちた嬌声が玄室内に響き渡った。

「あっあぅっ…マイルフィック様っ…そこ…っ…だめっおかしくなっちゃうっっ」

サキュバスBは体をびくびくと震わせ首を横に振る。マイルフィックは構わず彼女の弱点と思しき部分を執拗に攻め続けた。
結合部がぐちゅぐちゅといやらしい音を立てより一層彼らを興奮させる。
ああ、マイルフィック様が私を、こんなに私をお求めになっている…!マイルフィック様の指が、わ、私の中を…!!
Bもまた狂い始めていた。

「だめっだめっわたし…ああっあっあんっ…っ……ああっだめイクっイッちゃうぅっっ」

限界が近い、彼女は中をぎゅっと締めつけた。しかし痛みを伴っているはずの指を引き抜くことなく主は奥を突き上げた。
彼女の体がびくっとはねる。

「ああぁぁああああっっ」
「アァッ」

絶頂に体を震わせるサキュバスBを乱暴に離し、マイルフィックは低く声を上げた。とっさに下を見る。
サキュバスAが彼の肉棒に絡みつき尿道口に指を這わせてはなで回し、サキュバスBの絶頂と同時に中に指を挿入したのである。
サキュバスBはそのまま倒れ込みびくびくと痙攣を繰り返した。目の焦点が合っておらず、言葉もままならない状態だった。
エナジードレイン。
先ほどサキュバスAは絶頂と同時にドレインを受けていたらしく、今またBもその犠牲者となったのだ。
彼の持つドレイン能力は彼女たちとは比較にならないほど強力であり(本体が魔界にあるためドレイン時には空間が魔界と直結し、
魔界からも同時に吸い取られてしまうためと思われる)、何度か食らえばたちまち肉体が耐え切れず消滅してしまうだろう。

「…ッ」

マイルフィックは両手を地につき初めて表情を歪ませていると確実にわかる形相を浮かべ、サキュバスAを睨みつけた。

「マイルフィック様……どうか私もマイルフィック様の中に……」
「キ…サマ…ッ」

抵抗の意思を見せるも行動には移さず、ただただ彼女を睨みつけている。
少ししてサキュバスBが正気に戻ったのか、這いずりながらも近づいてきた。

「マイルフィック様、私も……私にも下さいませ……」
「……ッ」

それこそ予想外の展開だったのだろう。表から先端にかけてはサキュバスAが攻め立て、裏から陰嚢にかけてはBが包み込む。
そのあまりに献身的な姿に彼も次第に興奮してきたのか、わずかに呼気が乱れてきたのが感じ取れた。
肉棒は張り裂けんばかりに硬くなり先端からは透明な液があふれている。にじみ出る先走りを夢魔たちは音を立てて美味しそうにしゃぶった。

「あぁ、マイルフィックさまぁ」

サキュバスAは男根の根元に立ち、そそり立つ肉棒に全身を密着させ愛撫しつつしなやかな指先で先端を攻め続けた。
あふれ出る先走りでたっぷりと指を濡らし、ゆっくりと尿道口に挿入し優しく入れたり出したりなぞったりを繰り返す。

「マイルフィックさま…」

サキュバスBは下に立ち、陰嚢を優しくなで回し肉棒に頬ずりをしつつ根元から裏筋にかけて舌を這わせた。
流れ落ちてくる先走りを音を立ててしゃぶっては喉を潤し、豊満な乳房をこすりつけては肉棒をぎゅっと抱きしめた。

「ッ…グゥアァ」

突然マイルフィックが地響きかと思うほど低く大きな声を上げた。同時に肉棒から大量の白濁液がほとばしった。
彼女たちはさらに肉棒を激しくしごき上げる。その刺激は達している彼に追い討ちをかけたらしく彼はさらに大きな声を上げ腰をくねらせた。
全身に力が入っているのか4枚の翼までバサッと音を立てて大きく広がっていた。

「アアアァッ!…グゥゥッ…オオォォオオオ…!!」

呼気がやけに荒い。相当気持ちよかったようである。精液をすべて出し終えたマイルフィックが大きく息を吐き下を見下ろすと、
彼を絶頂に導いた夢魔たちは一滴残らず舐め取ると言わんばかりにびちゃびちゃと音を立てては肉棒を伝い落ちる精液にしゃぶりつき、
飛び散ったそれも手ですくっては自らの体に塗りたくり秘所の中へと押し込んでいた。ぞっとするほど美しく淫らな光景であった。
しばらくして満足したのか夢魔たちはおとなしくなり、射精後の力なく垂れ下がった肉棒に寄り添って腰を下ろし頬を寄せていた。

「……」
「……」
「……」

突然マイルフィックが彼女たちを鷲づかみにした。
未だ熱を帯びた男根に触れ安堵の表情を浮かべていた二人は突然のできごとに改めて自らの立場を思い知り身を強張らせた。
マイルフィックはつかんだ二人を睨みつけながら低く鋭い声を発した。

「コノ私ノ 魔力ヲ奪ウトハ 見上ゲタ小娘共ダ」

彼女たちもまた、恐れ多くもわずかながらこの邪神の底知れぬエナジーをあふれ出る精液と共に奪い取っていたのである。

「も、申し訳、ありま…っ」
「ま、マイルフィックさま…っ」
「貴様ラノ 魔力ヲ 全テ ヨコセェッ!!」
「ああああぁっ!!」
「あぁぁああっ!!」

夢魔たちは激しく体を痙攣させ絶叫を上げた。
主の手から二人の体を包むように黒い陽炎のようなものがゆらゆらと現れ始めた。その中へ空気が吸い込まれていく。
空間が歪んでいるのである。
陽炎の中心にいる二人はもはや声を発していなかった。生きているのかもわからない。

「……」

しばらく二人を睨んでいたマイルフィックだったが、ふと視線を下に落とした。
左斜め下をじっと見つめている。

「…………」

何を思ったのか彼は二人を離した。夢魔たちは力なく地面に落ちる。
ゆらゆらとうごめいていた陽炎はふっと消え、元の玄室に戻った。

「忌々シイ 人間共…」

顔を前に向け、4枚の翼を大きく広げ、バサッと大きな音を立てて羽ばたいたと同時にマイルフィックは片足で立ち上がった。
時折重心を取るかの如くゆっくり翼を羽ばたかせる。

「我ガ 力ノ前ニ 滅ビヨ…」

マイルフィックは翼を羽ばたかせ宙に舞い、短い言を発しながら闇へと消えていった。
後には力なく横たわる夢魔二人だけが残された。

ふと倒れている夢魔の一人がぴくっと動いた。
サキュバスAである。わずかに目を開け、小さくつぶやいた。

「……私たち、生きてるの……?」
「……そうみたい」

サキュバスBが小さく答えた。
二人は無意識に手を伸ばし、互いにぎゅっと握りしめた。確かにここに存在し生きている。二人は小さく微笑み合った。

「マイルフィック様の、おいしかったわね。とっても濃くって」
「ええ、極上だったわ」
「もしこちらに完全に実体化できていたら、もっと濃くておいしかったのかしら」

先ほどまで死にかけていた者たちとは思えない会話である。
もはやさり気なくとんでもない会話を交わすのは彼女たちの中では至って日常的なことなのかもしれない。

「やっぱりマイルフィック様もセックスするのよ。
だって私の中に入れるときわざわざ爪をもいだのよ。あんなに血を流して、思わず愛を感じちゃったわ。
あれは絶対女性を知っていなければできないことよ」
「そうね。
…ああ、私の中、まだマイルフィック様であふれてる…」

サキュバスBはうっとりとした表情で腹部をなでた。

「でもマイルフィック様のお相手ができる女性なんているのかしら」
「小さくなっていただけばいいんだわ」

サキュバスAは平然と答えた。

「アークデーモン様が人間界に適したお姿をとるように、
マイルフィック様もお体の大きさだけでも標準サイズになって下さればいいのよ」
「誰がお願いするのよそんなこと」
「私」

二人は顔を見合わせふふっと笑った。

「私たちだけじゃない?こんな貴重な体験したの」
「きっと私たちだけよ」

二人は上を向き高さ10m近くはあるだろう先の天井を見つめた。

「役に立ったじゃない」
「ええ」

二人は再び笑みを浮かべた。

「「特効薬」」