半月ほど前からこの地方で続く異常なまでの晴天。焼け付くような日差しに大地は晒され、リルガミンの街は
熱気をはらんだ大気に覆われていた。
この日も、市場の開放を告げる鐘が鳴る頃には、すでに昼間と遜色ない強い日差しが石畳を焼いていた。そし
て、昼前になって突如降り始めた雨に、街の住民が喜びの声を上げたのも束の間。ものの数十分で止んでしま
った雨は、熱気となって舞い上がり、涼を呼ぶどころか、かえって蒸し暑さを増す始末。戸外にいれば、容赦なく
降り注ぐ陽光に身を焦がされる。その日差しを厭うて屋内に逃げ込んでも、そこには蒸し風呂のような茹だった
空気が立ちこめている。
連日の暑さの中、ほとんどの冒険者達は、地上の熱気を避けるように、陽も昇らぬ時間から迷宮へと向かって
いる。居残りの者の大半は、体から失われゆく水分の帳尻を合わせようと、ギルガメッシュの酒場にたむろして
酒を呷り、かえって酒場の気温を上げる役割を担っていた。
そんな茹だるような熱気の昼下がり。この時間の冒険者の宿には普段以上に人気が感じられない。開け放た
れた窓から吹き込む熱風は、いたずらに部屋の空気をかき混ぜるばかりで、ただじっとしていても汗が止め処な
く滴り落ちてくる。だが、他人と近寄るだけで暑苦しく感じる酷暑の最中、宿のとある一室では、物好きにも互い
の肌を密着させて睦み合う一組の男女の姿があった。
ベッドの上に胡座をかいて座る男の腰に、彼の半分の背丈もない娘が後ろ向きに跨って、腰をくねらせている。
幾分、痩せ形ではあるが、その身体的特徴――やや膨らみ加減の下腹と、踝から先、足の甲から裏までを覆う
足毛――は、娘がホビットであることを示していた。その髪はホビットには珍しい金色の長い巻き毛。それが汗と
湿気を吸って、普段の倍ほどにも膨らんでうねっている。
そんな彼女の腰の動きに身を任せているのは、まだ年若い人間の僧侶。ともすれば女性と見間違われかねな
いやさしげな顔には、長めの前髪が汗でべったりと張り付いている。彼は娘を背後から抱きしめ、その金の巻き
毛を手で掻き乱しながら、彼女の膣内で今にも暴発しそうな自分自身を懸命に押さえている。
エコノミールームの簡素なベッドにかけられた生成りのシーツは、すでに汗でぐっしょりと湿り、その上で絡み合
う二人の体は互いの汗にまみれて、娘が腰を振るたびに更なる汗が滴となって辺りに飛び散った。
「んぅぅ! ふぅ、んぅっ、ンゥぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
程なくして、娘が声にならないような高い嬌声を上げた。小さな足の爪先がぴぃんと伸びて、仰け反った頭が男
の胸を圧迫する。二人はそのままベッドに倒れ伏し、濡れたシーツがびちゃりと重たい音を立てた。娘のほとん
ど膨らみの無い胸は激しく上下し、歯の隙間から、ヒューヒューと空気が漏れるような音が聞こえてくる。
「う、ん……ダールイ アリフラー」
まだ余力を残していた男が治癒の呪文を唱えると、柔らかな光がその手を包み、娘の体に染み入るように溶け
込んでいく。と、すぐに彼女の息づかいは静まり、正常な呼吸を取り戻した。
「はぁ……。盗賊、もう落ち着いた?」
「う、ん……。……暑……いね」
「だよねぇ」
「ねー、あーつーいーよー」
「うん」
「本当に……いっぱい汗かいたら涼しくなるのかな」
「んー。さあ?」
「あーつーいー。ぬーるーぬーるすーるー」
「ぬるぬるだなぁ」
男は娘を抱きかかえたまま、ぐったりとした様子で気のない相づちをうち続けている。
「あー、暑い暑い暑い暑い! あーーつーーいーーーーーー!!」
「あーーーーっ! うるっせえんだよ、おい!!」
駄々をこねるように娘が一際大きい声で叫ぶのと、隣のベッドで飛び起きた女が怒声を上げるのは同時だった。
「……あ、戦士が起きた。おはよー」
「おはよー。……じゃねえよ、このちんちくりんが」
女戦士は寝乱れた長い赤毛を鬱陶しそうに掻き上げ、男の上に寝そべったまま暢気な挨拶をする盗賊に、剣
呑な目つきを向けて悪態をつく。本来は野性的な顔立ちが魅力的な、なかなかの美人なのだが、それだけに、
苛立ちを隠さず目を細めて凄まれると、獣じみた迫力がある。
「暑い暑い暑いって、いい加減にしやがれ! 暑いのはテメェらだけじゃねえんだよ!」
「ごめんごめん。でも暑いから仕方ないよね」
こんなやりとりは日常のことなのだろう。そんな威嚇もどこ吹く風と、盗賊はまたも暢気に返事を返す。
「そりゃ、そんだけ密着してりゃ、暑いに決まってんだろ! この糞暑い中でどんだけ盛ってんだお前ら。馬鹿な
のか? 本ッ当の馬鹿なのか!?」
「暑い時は、もっと汗かいて……えっと、なんだっけ。とにかく、たっぷりと汗かいて、うんと暑くなったら、後で涼
しくなるって魔術師が言ってたよ?」
「はぁ? あの野郎、適当な与太吹かしやがって。寝言は寝てから言えってんだ。テメェらも真に受けてんじゃね
えよ。その頭ん中にはオークの糞でも詰まってんのか? それとも暑さで中身まで溶けちまったか。大体、こっ
ちが寝てると思って、隣のベッドで朝からずっと、何時間ヤリっ放しなんだ。おめェら、なにか? 今日中に餓鬼
を一ダースもこさえねえと、お袋が死ぬ呪いにでもかかってんのか? ったく。昨日今日憶えたての小娘じゃあ
るまいし、こんな真っ昼間から汗だくで腰振る以外にやることねえのかよ」
「まあまあ。それは、戦士が昨日の晩に飲み過ぎて、宿酔いで起きなかったからだろ。それで、僕が待ち合わせ
の酒場から戻ってきて解毒の呪文をかけたら、今度は『この暑さだと町はずれに行くまでに鎧が焼けて死んじま
う』とか言い出すんだから」
一息に捲し立てたものの、弱いところを僧侶に突かれ、自分なりに引け目を感じていた戦士は口ごもる。
「……仕方ねえだろ。お前らも、あの糞っ垂れな太陽が照りつける通りをプレートメイル着て歩いて見やがれ。迷
宮で死人臭え魔物共に遭う前に、街ん中で程良くレアに焼けた死体が一つ出来上がっちまわぁ」
「だから、日が昇りきる前に迷宮に行く予定だったんじゃないか。なのに戦士が起きないから」
「チッ……。そりゃそうだけどよ」
「迷宮の中って結構涼しいよね。そりゃ、階によってはちょっとジメっとしてるし、そもそも快適な空間とは言い難
い。……というか言っちゃいけないんだろうけど、少なくとも鎧を着て戦っても、こんな汗をかかないぐらいに涼し
いのは確かだよね」
「あーーー、わかったよ! 全部、あたしが悪いんだ。今日、迷宮に行かなかったのも、この糞っ垂れな暑さも、
お前が幼女みてえな体のホビットにしか欲情しない変態なのも、全部あたしのせいだ!」
「僕だってそんな理不尽なことを言うつもりはないさ。それに、最後のは間違ってるよ。僕はホビットにしか欲情し
ないわけじゃない。惚れた彼女がたまたまホビットだっただけのことさ」
「うるせえよ。どっちにしろ、テメェが起伏の無いぺったんこでしかイケねえってのは違いねえだろうが」
「それも違うね。なぜなら、僕は今、汗にまみれてあられもない姿のきみに欲情してる」
「ホントだよ。だって、おっきくなってるし」
僧侶の言うとおり、下着だけを身に着けて眠っていた戦士は、汗に濡れて裸同然の格好になっていた。その身
を隠すのは、襟元の大きく空いた袖無しの肌着と薄い下穿きだけ。鍛えられ引き締まった腹周りはぎりぎりまで
露出し、汗で張り付いた下着は、その立派な胸と形のいい腰のラインを隠す役目を全く果たしてはいない。
「よしやがれ、胸くそ悪ぃ。そんな粗チンでイケるかよ。テメェには盗賊の成長不全な割れ目がお似合いだ」
「ひっどいなあ。あたしはもう立派に成人した大人だよっ」
「そうだよ。彼女のここはただの穴じゃない。凄く具合のいい歴とした生殖器だ」
苛々と足を小刻みに揺すっていた戦士だったが、容貌に反して下品な僧侶の発言に毒気を抜かれたように、呆
けた表情を浮かべてため息を吐く。
「はぁ。話にならねえ。もう好きにしな」
二人になにを言っても無駄だと悟った彼女は、近くの台に置いてあった水差しに口を付けて一気に呷る。しかし、
その中には酷く温い水がわずかに残っていただけ。中途半端な水分が、より一層、喉の渇きを意識させる。
「糞ッ。……水が切れた。おい、そっちの水差しを寄こしな」
「んーー? ごめーん。これは空っぽ。もう一つは……ああ、まだ少し残ってる」
「あー。……いや、いい。そいつはテメェのために置いときな。しゃあねえ。水浴びがてら、井戸まで行くか」
戦士はベッドから下りると、二人の視線も気にせずに思い切りよく下着を脱ぎ捨てる。濡れて重くなった生地が
ベチャリと音を立てて床に落ちた。彼女は手拭いで手早く体を拭うと、乾いた布を胸と腰に巻き付けて、水牛の皮
で作られたサンダルを履き、長い赤毛を手早く纏める。
「へぇ……。その格好だと、なんだか踊り子さんみたいだ」
「うん。色っぽいなぁ。それが濡れて透けるとさぞかし艶めかしいだろうね。浮いた乳首に、透けて見える陰毛。
是非、濡れたまんまで部屋に戻ってきて欲しいもんだね」
確かに、こんな布地ぐらいは水を浴びるとすぐに透けてしまうだろう。だが、都市部はともかく農村などでは、ご
く自然に男女一緒に水浴びをする習慣も残っている。辺鄙な土地の出身者も数多く、そもそも、探索の最中には、
慎みなどかなぐり捨てざるを得ないことも間々ある冒険者達の中では、一般と比べて、肌を見せることに抵抗を
感じない者の割合は多い。
「あぁん? よせや、気色悪い。ヘイ、与太はいいから、空の方の水差しをこっちに寄こしやがれ」
そう言いながら、戦士は床に落とした自分の下着と他二人の服を拾い上げて、手近にあった網籠に放り込む。
「どうせ井戸まで行くんだ。あたしのと一緒にお前らの服もついでに洗ってくる。あと、あたしは戻ったら部屋を移
るからな。水浴びで汗を流した後に、こんな濡れたベッドで眠りたくねえ」
「えー。戦士も一緒に汗かこうよ」
「願い下げだ。お前らも程々で切り上げて、乾いたベッドのある部屋に移れよ」
戦士は脇に衣類の入った籠を抱え、着替えのチュニックを肩に掛ける。そして、二つの水差しを指に引っかける
と、開けっ放しだった部屋の扉を足で閉めて出ていった。
「なんだかんだ言ってても、彼女、優しいよね」
「うん。だから私は戦士が大好きなのさっ。あーあ、一緒に汗かいてけばいいのに」
そう言いながら、右の手を股間に這わした盗賊は、まだ繋がったままの部分から、汗とも体液ともつかない液
体をすくい取り、その小さな唇に濡れた指をくわえた。
「んわっ。すっごく、しょっぱい……それに、ちょっと酸っぱい」
「そりゃそうだよ。これだけ汗かいてるんだから塩っ辛いさ」
「そっか」
「そうだよ」
「ところでさ」
「ん」
「腰、止まってるよ。動いてよ」
「暑いからやだよ。上に乗ってるのはきみなんだし、きみが動いてよ」
「動くともっと暑いからやだ。ねーえー」
「なら、話をしてる間に僕のも少し縮こまっちゃったし、いつものあれやってよ。あれならそんなに動かなくてもいい
だろ?」
「じゃあ、ちゃんとおっきくできたら僧侶が動いてよ」
僧侶が盗賊の体を軽く持ち上げると、彼のモノが抜けてしまった秘裂から、様々な体液の入り交じった汁がど
ろりと流れ出した。盗賊は固い巻き毛の生えた足裏で、硬さを失った肉棒をギュッと挟み込むと、足を交互に上
下させ始める。体液を吸った二つのブラシが、小刻みに律動して、僧侶の一物を磨くように扱き上げる。すると、
それは魔法のように彼の肉体と精神に作用し、朝からもう何度も精を放ったはずの男の象徴は、たちまちにして
元気を取り戻した。彼は復活した自身の先端を盗賊の割れ目にあてがうと、持ち上げた彼女の体をゆっくりと降
ろして、肉茎を再びその膣内へと埋め込んだ。
「やっぱり、盗賊のこれは凄く効くなあ」
「じゃあ、約束通りいっぱい動いてね」
「やだよ、だって暑いじゃん」
「えーっ。さっき約束したのに。動けよーこのー」
そう言いながらも、二人はどちらからともなく、腰を動かし始め、汗をかく作業を再開する。盗賊は小さな尻を男
の腰に打ち付け、僧侶は軽い彼女の体を両手で支えて、娘の膣内のより深くまで自分の肉杭を食い込ませる。
ホビットの浅く狭い割れ目は男のモノの全てを呑み込み切れてはいないが、彼女は入りきらずに余った根元に片
手を添えて、自身の腰の動きに合わせて扱き上げることで、肉棒に満遍なく刺激を与え続ける。
「暑っ、暑いよぉ。でも、でも気持ちいいぃ」
「盗賊の中、凄く熱いよ。もう、出すよ」
「うん。もっと……もっとぐっちょぐちょで、もっとぬっるぬるにして」
男が射精した後も、しばらくそのまま交わり続けた二人だったが、途中で体の向きを変えて、座ったまま抱き合
う体勢をとる。お互いの体に腕を回し、汗で滑る肌を擦り合わせて上下に体を揺する。どこにまだそれほどの水分
が残っているのか、二人の肌からは滝のように汗が噴き出し、僧侶の腹にしがみついた盗賊は、肌に流れる汗
をその小さな舌で舐め続けている。彼女の頭を抱えて腰を突き上げる僧侶は、視界を埋める金の巻き毛に顔を埋
め、彼女の匂いを胸一杯に吸い込みながら、最奥に密着させた鈴口をこつこつと細やかに突き上げる。そのたび
に狭い膣から押し出された精液が溢れ、汗や体液と混ざって溶けていく。
「あ。あひっ、あん! あ、あっ、あっ、ひぃっ!」
「はーーっ。はっ、ーーっふ」
室内は、二人の荒い息づかいと、結合部が立てる卑猥な水音に満たされ、むせるように濃密な性の匂いが立ち
こめている。自分が意識をしっかり保っていれば危険は無いと踏んでいた僧侶だったが、盗賊の狭い膣道に精を
放つたび、その理性は着実に削られていく。体内から失われゆく水分。暑さに朦朧とし始めた頭は、粘着質で単
調な水音に浸食され、二人は声も無く、ただ行為に没頭する。
微かに残った理性が頭の中で危険を告げている。息が苦しい。体が熱い。だが、そんなものはこの快楽に比べ
ればどうでもいいこと。すでに頭は空っぽで、より強い快感を得るために情動と経験だけが体の動きを制御する。
二人の汗は混ざり合って流れ、互いの体の境界も曖昧で、身も心も一つに溶け合ったような錯覚に二人の動き
はより一層、激しさを増す。
「ふー。ふーっふーフゥァっ。〜〜〜っ!」
「は〜〜〜っ。ーーーんぅっ」
「んぎっ! ーーぃ〜〜ふっ! いーーッ。ヒィーッ、ぃーーーーッ! ィーーーーーーー!!」
時折聞こえていた可愛らしい喘ぎはとっくに消え失せ、断続的な絶頂を迎える娘の口からは、再び空気の漏れ
るような音が聞こえてくる。男はほとんど声もなく、いつ何回射精したかも知れぬまま、ただ腰を振り続けて、縦
横に彼女の膣壁をこね回し、そしてまた射精する。
息が吸えない。暑さを感じない。歪んだ視界の片隅で色鮮やかな光の玉が明滅する。脳裏をとりとめのない言
葉がよぎる――アイルランドよ永遠なれ! ベルを鳴らせ、本を読め、キャンドルを照らせ! チームワーク、チー
ムワーク、チームワーク!――。
白。光。
* * *
「うわっ!? この部屋、外より熱いじゃねえか。しかも汗と精液が混ざり合った酷え臭いがしやがる。しっかし、た
くよぉ。みんな考えることは一緒だな。あいつら、こぞって中庭の周りに集まりやがって。井戸を使うのにどれだ
け待たせんだよ。……あー、そうだ。魔術師の奴、見つけたぜ。あいつ、中庭の回廊の石床に死体みたいに張
り付いてやがった」
陽も少し陰り始めた午後遅くになって、戦士が部屋に戻ってきた。すでに乾いた洗濯物の入った網籠を抱え、
なみなみと水を注いだ水差しを二つ手に持ったまま、器用に扉を開ける。水差しを台の上に置き、網籠を床に下
ろすと、そのまま床に座り込んで、籠から取り出した衣類を畳み始めた。
「で、服が乾くのを待つ間に、飯を食いがてら問いつめてみたらよ、なんだ、単純な話じゃねえか。たっぷりと水
飲んでから汗をかいたら、また水飲んで塩でも舐めて、熱めの風呂に浸かってから水を浴びれば、いい暑気払
いになるってな。なんで、お前ら、汗かくとこまでしかおぼえてねえんだよ」
手元に目をやって洗濯物を畳みつつ、心なしか少し上機嫌な戦士は問わず語りに話しを続ける。
「で、その通りにやってみたわけよ。飯食ってから一発ヤって――お、そうそう知ってたか? あいつ生意気に、
なかなか凄えもん持ってんだぜ。って、あー、それから公衆浴場で風呂入ってよ。また水浴びて。そしたら、こ
れがなかなか効果あるじゃねえか。まあ結局、宿に戻ってくるだけで、また汗かいちまったけどな」
てきぱきと洗濯物を畳み終えると、戦士はそこで初めてベッドの方に目を向ける。
「おい、お前らも、ようやくやり飽きたんなら、水浴びぐらいしてこいよ。外も少しは涼しくなってきたし、さっぱりす
るぜ。まあ、こんな部屋の中にいちゃ、すぐにまた汗まみれだ。まだ、あいつみたいに石の床で転がってた方
がよっぽど快適……って、ヘイ! 人の話、聞いてるか?」
しかし、二人は彼女の声に答えることもなく、抱き合ったままの姿勢でベッドに折り重なっている。――よくよく
見れば、彼らはもう、全く汗をかいておらず、どころか寝息の一つも立てていない。床から立ち上がった戦士は、
彼らの顔を覗き込んで、盛大にため息を吐く。
…………ああ。こいつら、やっぱ阿呆だ。どうしようもない阿呆共だ。僧侶の奴は、まともじゃないにしろ、頭だ
けは悪くないと思ってたが、下半身の世話が全然なっちゃいねえ。まったく、勘弁してくれ。多少は涼しくなって
きたとはいえ、なにが楽しくて、一人半を背中に担いでカントくんだりまで行かなきゃならねえんだ。
こいつらは頭の中が溶けるまでヤリまくって、気持ちよく逝っちまったんだろうがな。あたしの気分はどうしてく
れる。理不尽だ。なあ……誰が悪い? そりゃ、こいつらが悪い。それは当然として、飲み過ぎて宿酔いになっ
た、昨日のあたしが悪いのか?
いや、それなら、こいつらに余計なことを吹き込んだ魔術師の野郎が悪い。このチビっ子は、成人してても、中
身は見た目まんまの餓鬼なんだ。でも、こいつはこれでいい。このままが可愛いから、これでいいんだ。だから、
あの魔術師。あいつが悪い。カントから戻ったら、たっぷりとツケを払わせてやる。
理不尽? そんなの知ったことか。朝までしっぽりと決め込んで、あたしが満足するまで、あのデカいちんぽを
扱きヌいてやる。明日の探索も知ったこっちゃねえ。世の中楽しんだモンの勝ちだ。あんにゃろう、血が出るまで
搾ってやるから、覚悟して待ってやがれ。
そんな物騒なことを考えながらも、彼女の動きは細やかで如才無い。様々な汁にまみれた二人の体を丁寧に
拭き、しっかりと布でくるんで肩に担ぎ上げる。蘇生後に必要になる二人の着替えも忘れない。
そうして部屋を後にした赤毛の女戦士は、この上なく凶悪な――だが、どこか愉しげな――笑みをその面相に
浮かべて、カントへの道を歩いて行くのだった。
〜 涼 もとい 了 〜