「ポイント E6 N1 Level4」
僕の術式を見守っていた一座から失意の溜息が漏れた。
「ファック」
「天に召されろ」
なんて下品な連中だ。僕の労に報いるどころかこの仕打ち。この馬鹿どもには
マナーもなにもあったもんじゃない。第一こんな目に合わされたのも、この高慢
プリーストと能無しシーフのせいだと言うのに。僕より一つ年下のビショップだけ
が労わるような目を僕に向けてきた。
「気にしないでください、メイジさんのせいじゃないんですから」
彼女はこのむさ苦しくて汁臭いパーティにおける唯一の癒しだ。ローブの上か
らでも分かる甘美で官能的な曲線はまさに格好のオカズ……いや、年の割りに
発育の良いところを想像させ、僕の目の前を歩くときも、ミトラにたくし込んだ明
るい栗色の髪からふわりとした芳香が漂い、今にもアレをこすり付けたく……い
や、僕の心をくすぐってくれる。彼女は昨今には珍しく物腰も柔らかく言葉遣いも
丁寧で、こんなどうしようもない屑ども相手でも優しく接している。しかも美人だ。
こんな天然記念物みたいな娘が訓練場のエロ教官どもの厳重な検閲をくぐりぬ
け、いかがわしい連中の毒牙をかわし、酒場で(彼女自身は知らずに)行われた
超高倍率の抽選により我が男臭いパーティに加入できたことはまさしく奇跡と
言っていいだろう。いや、これというのも、当たりくじ引いた僕の日ごろの行いの
賜物とも言うべきか。神様、あんた最高です。
それにしても、世間を知らない純粋な彼女にこんな汚らわしい言葉を聞かせる
わけには行かない。僕は二人に
「落ち着けカスども」
と釘を刺した。彼女の保護者として当然の義務だ。
「よし現状を確認してみよう」
暫定リーダー(仮)であるファイターが号令を掛けた。
「我々は今日初めてここ地下四階に降り立った」
「左様」
「我々は入念に準備を重ねた。六十匹以上のマーフィーたちの尊い犠牲を払
い、薬も揃えた」
「然り」
リーダーの言葉にサムライが一々相槌を入れる。いい奴なんだが、こいつの
言葉を聞いていると、時々無性に肥溜めのまん前に立たせてケツを蹴っ飛ばし
てやりたくなる。
「激闘の末、見事閣下のトレーニングセンターの配属員に打ち勝った」
「で、この能無しの屑が宝箱をしくじった」
プリーストの言葉にシーフがいきり立った。
「お前のCALFOのせいだろ」
「私はちゃんと、これは爆弾ではないといった」
「お前毒針っていっただろ! テレポーターだって言ってりゃ俺はしくじらなかっ
た! てめえのこと棚に上げてこのケツの穴野郎!」
「チェストの開錠ぐらいしか役に立たん癖に。どうせ前日マスターベーションしす
ぎて寝不足だったんだろう?」
「うるせえインポ野郎」
なんという汚い言葉のやり取り。こいつらは生まれがアレなので無理もない
が、なぜこんな酷いパーティに高潔な精神を持つ僕が在籍しなければならない
のだろうか。『落ち着け屑ども、ケツの穴かっぽじって耳栓代わりに詰めてろよ』
と僕が苦言を呈する前にリーダーが間に入った。
「言い争っている場合じゃない、今大事なのはここをいかにして脱出するかだ」
愚問だ。やはりこのリーダーはどうしようもない愚物だ。僕たちは既に、この扉
の回廊を二週している。僕は口を開いた。
「MALORの冠持ってる奴いるかい?」
一同首を横に振る。
「LOKTOFEIT憶えてる?」
「いいや」
プリーストは答えた。
「ならロバートを訴えるしかないぞ」
僕の意見に皆が下を向いた。
そう、僕たちはこの回廊に閉じ込められていた。出口は入念に探したが見当た
らない。完全に手詰まりだ。MALORを使える冒険者か誰かが、運良くここに飛び
込んでこない限りは。
寄ると触ると言い争いになり、責任の擦り付け合いがはじまり、そうこうしてい
る間に閉じ込められてから約二十時間が経過した。皆の疲労と苛立ちもピーク
に達している。ビショップの彼女も憔悴しきっている様子で壁に背をあずけて足
を崩し、何処を見るともなく自分の膝の辺りを見つめている。端正な顔立ちに軽
く前髪がかかり、ローブの隙間からわずかに生足が見える。見ているだけで舐
めまわしたくな……いや、可哀想になる。僕自身不安になってきた。僕たちがこ
こでヒューマンの形をしたジャーキーになる前に誰か来てくれるのだろうか。
と、うつむいていたシーフがやにわに立ち上がり、いきなりベルトを外してズボ
ンを膝下まで下ろした。唖然とする周囲を他所に、シーフは高らかに言い放っ
た。
「みんな聞いてくれ。黙っていたが実は俺、カトリックなんだ」
わかったからその汚くて惨めなものをしまってくれ。勃起してはいるが、短小包
茎左曲がりと世の悲劇をかき集めたような代物じゃないか。こんな僕のより酷い
ブツは初めて見……いや、とにかくその小汚いのはしまえ。ビショップの彼女な
ぞ耳まで赤くして手で顔を隠しているじゃないか。個人的には彼女のこの表情は
実においしい……いや見るに耐えない。しかし、ネジの飛びかけたシーフは、よ
りによって彼女の目の前で演説を始めた。
「し、シーフ……さん……あの……ズ、ズボンを履い……て下さ、ひいっ」
「ああ、俺がポコチンが勃起しているのはだな、誤解はしないでくれよ、これは完
全に健康的で健全な男の反応であり個人の意思ではどうしようもない生理的現
象なんだ。そう、健康な反応、ね。あんたは全然知らないだろうけど、男はなぁ、
こいつを定期的におマンコの中にぶち込まないと気が狂っちまうんだよ。他の連
中なら、こうやってマスを掻いて落ち着くこともできる」
さらに一歩、シーフは惨めなブツをしごきながら彼女に歩み寄る。すっかり怯え
てしまった彼女はこれ以上退がれないほど壁に背を押し付け震えている。シー
フの目は肌蹴たローブの狭間、あの不可侵の領域を注視していた。
「だが」
声のトーンを一つ上げてシーフはさらに詰め寄った。
「カトリックはそうは行かない! 神の教えで、楽しみのためだけにそこいらじゅう
に精子を撒き散らすことを禁止されている! つまりカトリックの男は、女のワレ
メ、膣、おマンコ、ヴァギナ、子宮の入り口でしか、射精することができないんだ
よ! 正直に言おう、あんたとセックスがしたい!」
言いやがったぞこの野郎。彼女の目の前で「お汁」といいやがった。ついでにと
んでもない事までさらりと吐きやがった。てかお前絶対カトリックじゃないだろ?
むしろオナニーに関してはThe Grand Masterbation Adventurerの称号を頂ける
ほどの腕前だろう?
馬鹿なことを考えている間に状況がより切迫してきた。まだ正常な理性を保て
ているメンバーたちの間で素早い合図がいきわたり、奴に一気に飛び掛った。
瞬く間に奴は取り押さえられた。
「正気になれこの大馬鹿者、自分が何やってるのかわかってるのか!」
「俺は正気だ!」
奴はプリーストの言葉に下半身丸出しのまま反論した。
「俺は故郷も安全な生活も捨ててここに来た、冒険をするためにな! だがいく
ら俺でも、捨てられねぇものはあるんだよ! 俺は、神に従いたい! いますぐ
このやわらかいピチピチのおマンコに射精したい!」
奴の言葉に、僕の心の中で何か動くものがあった。だがこんな状況で言っても
所詮は変質者の戯言だ。ところが一緒に奴を取り押さえていたプリーストは違っ
たようだ。まるで神の啓示を聞いたような顔でシーフから手を離し、僕たちから
一歩下がった。
「そうか、お前がそんなに言うのならば私はもう止めはしない」
厳格な顔のまま、プリーストはベルトに指を掛け厳かに続けた。
「だがその前に一つだけいいたいことがある。私はカトリックだ」
そしてそのままするりとベルトを外し己を解き放った。ああ、こいつはもう駄目
だ。
「実を申すと拙者もローマン・カトリックでござる」
こんな時にのってくんな。てか、てめぇブディストだろ? 僕は最後の希望を託
して、リーダーの顔を仰ぎ見た。こんなときでも、彼なら冷静でいられるだろう。な
んだかんだいっても、やはり頼りになる男だ。
しかし僕の視線の先にいたのは、ズボンを脱ぎ捨て、何かを宣言しようとして
いる筋骨隆々とした男だった。
ダメだ、もうお終いだ。追い詰められた彼女はとうとう泣き出してしまった。
「メイジさん……た、たすけてください、おねがいです、たすけてえ……」
せめて僕だけでも、彼女のために正気を保たなければならない。彼女にとって
頼れるのは僕だけなのだ。そうそうところで言い忘れていたことがあったけど、
実は僕もカトリック(ry
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