「ねえ、お姉ちゃん、今日が何の日か知ってる?」
「あんた一年間に五回も誕生日があんの?」
「ちがうわよ。今夜はビッグなイベントがまってるのよ」
「へー、じゃ明日になったら教えてね」
「えぇー…ちょっとは食いついてよ」
「やだ。どおせまたろくな事じゃないんだろ」
「…(ぐす)…おねえちゃあん…」
「わあかったよ! 聞きゃいいんだろ、聞きゃ」
「ありがとう、だからお姉ちゃんだーいすき!
 実はね、私お姉ちゃんのために一週間も前から用意してたの」
「あはははーあそー。そりゃーたのしみだなー」
「じゃーん、なんとね、今日はSETU-BUNの日なのよ!」
「…セツブン?」
「そう! 東の国に古来より伝わる伝承のお祭りなの!」
「なんかもう嫌な予感しか……って、え? だれこの人たち?
 なんか下半身露出した変なのが部屋にはい…」
「東の国ではね、この日に“エホウマキ”を食べるの。そうすると、
 シーフでもニンジャみたいなスーパーパワーが手に入るのよ!」
「え、いや、ていうか、だれこの人たち」
「いやー、一週間前にこの人に捕まっちゃいまして」
「か、隠れMなロリっ娘がいると聞いたんで…つい…」
「なっ…ちょ、えええ?!」
「捕まえてくるの大変だったのよ、エホウマキ」
「嘘つけこんバカエルフ! あんたの資料絶対間違ってるだろ!」
「ちゃんとホークウインドの自叙伝で調べたんだから間違いないわ。
 それによると太さは口に咥えられるくらい、黒い外皮に包まれて
 中は白いツブツブがいっぱいつまってて、かたい筋があるんだって」
「ぜんぜん黒くないだろ! それになんで二本もあるんだよ!」
「お姉ちゃんにいっぱいパワーをつけてもらいたくて…」
「いらないから! そもそもなんで二本ともエルフなんだよ!」
「一週間っスよ?! 狭い密室に閉じ込められて一週間も自主規制だったんスよ!」
「隠れMなロリと(ry」



≪翌年≫

「うわ〜ん……ちゃいあ〜……」
「あれ、どしたの?」
「ひっく、あんね、ばかくのいちがね、ひっく、とっちぇもいたいいたいしてくるの…」

 * ガタン! ドタッ! *

「ちゃ、ちゃいあ、どした、だいじょぶ?」
「……だいじょぶ、だいじょぶだよ……まさか、あんのバカ……」
「あ、お姉ちゃん、この辺でバカノーム見なかった?」
「きちゃああっ!」
「ちょっと、あんた、ここに座りなさい! なにしてんのよ!」
「なにって、今日はSETU-BUNでしょ? だから」
「ばっ、このバカエルフ! ケダモノ! あ、あんた、この子になにやらせて…」
「勘違いしないでよお姉ちゃん。今日は“マメマキ”してたのよ」
「このばっ……はあ? マメマキ?」
「そうよ。こうやって、水分をとばしたビーンズを『オニワソトー』って言いながら
 悪霊に向かってぶつけるの。そーれ、オニワソトー!」
「いちゃいいちゃい! やめちぇええ!」
「…………あー、それかしてくれる?」
「あら、お姉ちゃんもやりたいの?」

「オニワソトー!!」
「きゃっ、ちょ、ちょっとお姉ちゃん! 私じゃなくて、悪霊に…
 い、いたっ、痛い痛い、お、お姉ちゃん、やめ、いたあい! や、やめてえぇ!」



≪翌々年≫

「そろそろ時間ね。それじゃ、私は姉さんと組合の集会に行ってくるわ」
「シャイア、くれぐれもお姉ちゃんのこと頼みます」
「最善は尽くすよ」
「留守番よろしくね。ちゃんとフローを守るのよ。後は任せたわよ」
「まかされた! がんばる!」

 * バタン *

「で、あんたが定例集会に参加するなんてどういう風の吹きまわし?」
「だって、今日の集会の号令かけたの、私だもん。
 ――あっ、お姉ちゃんどこいくの?」
「…どうせまたろくな事考えてないだろ!」
「そんなことないわ。国家元首も、東の国の文化を広めることに大賛成なのよ」
「またそっち系かよ…」
「そう、なんと言っても、今日は季節の節目のSETU-BUNなんだか…
 ――ちょっと、お姉ちゃん帰っちゃダメじゃない」
「もう飽きたっての! 毎年そう言ってバカなことばっかり…」
「今年は今までのとは違うのよ。シャイアさん、びっくりしないでね。
 資料を詳しく調べてわかったんだけれど、二年前のSETU-BUNで
 私は重大な間違いをおかしていたのよ」
「だろ?! やっと目が覚めたのかあ。
 大体、あんなふざけた伝統行事があってたまるかってんだ――」
「実はね、SETU-BUNのエホウマキは…歳の数だけ食べなきゃいけなかったのよ」

「…………はあ?!」

「ごめんなさい、お姉ちゃん。笑ってちょうだい。
 ニンジャともあろう者が、今までこんな恥ずかしい誤解をしていたなんて。
 でも、今日という日は汚名を漱がせてもらうわ。この日のために、
 一ヶ月もまえから入念に準備をしてきたんだから」
「ええっと…ま、まさか…今日の集会って…」
「心配しないで、食べる側の参加者は私たちだけじゃないわよ。
 ただの一個人の呼びかけで、こんなに大規模な集会になるなんて、
 この街もまだ捨てたものじゃないと思わない?」
「ふ、ふざけるなあっ! あ、や、やめ……こらあっ! はなせえええっ! バカエルフ!」