「クィジナート機構による未体験の振動! 本物では味わえないびんびんペニスのバイペニス二本差し、
 これこそ東方の神秘、ザトーイチ・棒ですよ? 女王印のお墨付き、恥ずかしながら私も愛用!
 これを買わなきゃ嘘ですよ、皆さんってば!」

こう売り込んだのは、かの高名な女族王の側近であったから、冒険者たちも、半信半疑ではあったものの
……いや、むしろ殆ど全く信じてはいなかったのだが……まあ、その、少しばかり、ある種の期待をして
しまっていて、つまり最終的には、人数分のソレを買い込んでしまったわけだった。
後衛の魔力を操る娘たちは、その棒の利用方法に気付いていたので、それをすぐに道具袋に仕舞い込んでいた。
それ以来は、取り出すときと言えば、夜長に渡る休憩ほどのもので、文字通りそれは、事ある毎に彼女たちの
頬を赤らしめる、秘蔵の相棒となったのである。

だがIQ値が7しかないような、筋肉馬鹿の男どもは違う。彼らは本当にそれが、伝説の武器であるかもしれぬと
愚にもつかぬ事を考え、各々右手に握りしめ、迷宮の魔物どもを相手取り、思う様その威力を試したのである。
然るにそれは、見事サイレンやミノ・デーモンどもを打倒した。だが勿論のこと、そのザトーイチ・棒(ぶき?)が
威力を発揮したのではなく、彼らの隆々たる筋骨そのものが鈍器となって、敵の肉体を粉砕したのである。彼らの
握りしめた棒は、確かに、一般の男器と比してはおそろしく硬い逸脱した傑物ではあったが、むしろ武器としては、
ぐにゃぐにゃ撓う鞭のようなもので、あまりに短く、とても使い物になる代物ではなかった。だが彼らは、そのような
事に頓着しなかった。あれらの強敵を、この張形でうち倒したという事実の一点を以て、クワリ・クボナから譲り受
けた伝説の棒が秘めているらしい霊力を、本気で信じたのである。娘たちのほうも、男どもに本当の用途を知られ
てはと、いまさらながら恥じらって、殊に真実を指摘する事は無かった。

……つまり、彼らは。冥界の川を渡り、死者の宮殿に到ってなお、ぶるぶる震えるペニスの模型を、その手に携え
ていた。災いの王は彼らの存在を察知するや否や、珍棒族とも言うべき蛮勇どもの、余りの有様にげっそりと表情
を変えて、ジェシカを隠し(生命の危険と言うより、彼女の貞操の為である)、自身もやる気を全く喪失し、棺桶に入っ
てふて寝してしまった。

さにあらば、色気違いの冒険者どもを迎え撃つのは、王の腹心、伝説の勇将たる四名の他にはない。王の赦しを
得たブリガード・ウォルタンの遺骨は、魔力の渦でもって肉体を再構成すると、墓所から、ずるり、と這い出した。
ただのアンデッドではない。それは長身に豊かな金髪をさらりと流した、端正な顔立ちの裸女であった。その豊かな
肉付きには、黴と死の香りに満ちた、暗い墓所の内に不釣り合いな、血色のようなものが見て取れるのである。これ
が先程まで、古の時代より安置されていた白骨死体であったなどとは、もはや誰人も信じるまい。
完全な肢体を取り戻した彼女は、生前そうしていたように深くあくびをすると、主から言い渡された使命の為に甲冑を
身に付けようと、拾い上げた。彼女と共に副葬された召し物は、遥かな年月のうちに、既に脆く散り果てて、その粉は
彼女の柔らかい肌を刺した。これでは着ることなど、出来ないではないか。
ブリガード・ウォルタンは、うむ、と言うと、素肌にそのままチェインメイルを身に付け、胸当てを纏った。割かし丈の長
い防具であるから、余計な物が周りに見える心配は無い。ただ、少しばかり、太股が大きく露出しているのが難点で
はあるが……。
彼女は確かに死者の身であったが、邪気を払う暗銀の装具に身体を包んでいた。それもその筈、ブリガード・ウォル
タンと言えば、災いの王の率いる四天王の一、かつて、メナードの神女として名を馳せた、やんごとなき聖性を備えた
女傑であるのだから。

彼女の耳に、如何にもやかましい足音が聞こえた。伝説の神女は、にやりと捕食者の笑みを浮かべる。その却って
清楚とも受け取れる、恐ろしい頬笑みを湛えて、彼女は冒険者たちの訪れを待った。
そして、その傍らには、六尺を優に超える大槍があった……。

「ぐおおおーッ! この俺のバイ・ペニスが通じぬとはァーッ!」
「バ、バカな! 遠く日の本に珍宝と呼ばれる、このザトーイチ・ボーがァァア!」
「こ、これはッ!? 俺のビンビン・ペニスがバイバイ・ペニスに転化したとでも言うのかああアアア!? ぐぎょら!」

……その結果が、御覧の有様である。
 哀れむべき愚かな冒険者たちは、見事ブリガード・ウォルタンの手によって討ち果たされた。さしもの大業物たる珍
棒も、メナードの槍とはあまりにも手合い違い、これでは戦いと言うより、一方的に料理されてしまったに等しい。
「何だったんだ、この者たちは……?」
困惑する他はなかった。彼女が過去にくぐり抜けた幾多の戦でも、このような武器を手に立ち向かってきた者は無い。
彼らがやけに自信満々であった事も、この偉大な女戦士には全く理解を越えていた。
「この武器は一体……?」
彼女はまだ生き残っている娘たちを全く無視して、その……まぁ、アレを、ひょいと拾い上げた。

成程、見れば見るほど用途が分からぬ武器である。これでは戦棍にしては柔らかすぎ、鞭にしては短すぎる。
強力な魔法がかかっている雰囲気もない。こんな武器で以て、この者たちは我が主を害そうというのであろうか?
……いや、そのような事が出来よう筈も無い。ならば、果たして?
「そこのエルフ」
「は、はいぃっ! ななな、何か御用で!?」
冒険者たちは完全に戦意を喪失していた。意気軒昂であった開戦から急転直下、彼女の振う手練の槍は余り
にも鋭く、前衛の全滅は彼女たちを絶望に誘い、さらに此の度戦闘の中断は、彼女たちの心をどっぷりと泥濘
に浸け込んでしまったのである。それは命を長らえる安楽と言うより、むしろ恐怖を育てる時間に他ならず、今
やあらゆる思考を妨げる脅えの前に、彼女たちは殆ど朦朧としていた。
そして、この尊大なる神女は、それを確りと察していた。この冒険者たちは命乞いの為に、あらゆる手段で彼女
の歓心を買おうとするだろう。それでも、この者たちが主の聖域を汚した罪が許される事など、決してあり得ないのだが。

「これは一体何なのだ? この武器を使って見せよ」
あくまで、この言葉に他意は無かった。純粋に、ブリガード・ウォルタンは武人としての好奇心から、それの真価を
見たいと願ったに過ぎないのである。
「え、ええええっ!?」
「使って見せるのだ」
「でも、だって……そんなぁ」
目の前に付き出された双頭棒は、見事なまでに天に向かってそそり立っていた。エルフの娘は一歩も動けぬまま
視線を泳がせて助けを求めるが、かつては苦楽を共にした魔術師も、盗賊も、ただ視線を避け、顔を逸らして逃げ
回るのであった。
「このブリガード・ウォルタンが命じているのだ。どうなるものか、試してみるのも良かろう?」
この圧倒的な勝利者は、魂の抜け出るほど優しい声音で促すのである。その棒の真の力で以って、この私を討ち
取ってみせよ。もし出来るものであれば、な。この通りお前に、最後の機会を与えよう……斯くのように、彼女は
エルフに伝えた心算でいた。

だが、しかし。仰せ付けられた娘の方は堪ったものではない。そもそも彼女は、前述のように男どもとは違って、
その棒を武器として認識していなかったのである。つまり彼女は、ブリガード・ウォルタンが「それ」を使用しろと言
ったのを、文字通り、「本来の使途として用いよ」と命じられたものとして受け止めたのであった。
「おお、神よ……お赦し下さい」
この哀れなエルフの娘は、さらに哀れな事に、生まれも育ちも卑しからぬ、歴とした司教であったのである。共連れ
の魔術師と盗賊は、友の深い信仰と、大きな自尊心とをよく心得ていたので、彼女がこの辱めに耐えられるものか
僅かに慮り、小さくため息を吐いた。エルフの娘がローブの隙間からそっと自らの股ぐらを指でまさぐり、その状態
を確認すると、やはり其処は恐慌と緊張の余り、完全に乾ききっている。無理に挿入すれば出血は免れまい。

だがこの無慈悲な敵対者は、容赦なく彼女にその棒を手渡すのである。司教は覚悟を決め、しばし目を伏せると、
切れ長の目をゆっくりと開いた。
心を落ちつければ、視界に入ったのは戦士たちの屍である。ふと思いついて、彼女は受け取った張型を念入りに
血漿に浸した。何よりも生き延びたいと願う彼女の意思は、ちょっとした不衛生や、死者に払う敬意よりも、膣と棒の
摩擦を軽減する事を選んだのであった。
「確と、御覧下さいましね」
彼女はローブをたくし上げると、真っ赤に染まった雁首の一端を陰門に宛てがい、いつも彼女が使用している時の、
彼女が達するときの深さまで、それを一挙に挿し入れた。

(なんだ、何をやっている!?)
目を丸くしたのは神女の方である。エルフの女司教は乾いた局部を貫く痛みに耐えかね、ぐぅと小さなうめき声を発
してしばし俯いていた。だが、先ほど彼女が命じられたのは、この棒の真価をして眼前の敵に知らしめることである。
即ち、女司教への責め苦はまだ始まったばかりに過ぎず、期待された務めを果たす必要があった。左手でローブの
裾を掴んだまま、彼女は棒を握る右手の指を伸ばし、内に秘めた振動の機構を制御するスイッチに、つ、と触れた。
「ぎ、いぎ、ぎいいいいいっ!」
あまりに敏感な触覚は運動神経を誤作動させ、彼女はびくりと膝を震わせて、尻もちをつく。痛みばかりが先行し、こ
れでは悦ぶどころではない。
「ぎい、いいいいぁぁああッッ!」
頭の中が真っ白になる。だがこの時、思考が停止しつつあったのは自慰を強制されたエルフだけではなかった。相対
する神女もまた、思いもよらぬ事態に頭がこんがらがってしまい、あろう事か、殆ど己が戦場に立っている事実すら
ぐずぐずに綻びて、ああ、何故この娘は陰部にそれを突き立ててしまったのか。武器を使って見せよと言わば、この者
は命を賭して私に向かってくる筈ではなかったか。然らば、それは、挑発ではなく、むしろ、いや何も分からない、何故
このエルフめは、このような事をしてしまうのか。

「ご、御覧下さいませぇ……あッ、ああッ、ひっ……どうぞ、どうぞっ、こころ行く迄、わたくしめを、御覧くださいませへぇッ!」
生命のために恥を捨て、もはや開き直ったエルフの声には、むしろ甘やかな吐息が混じり始めていた。その彼女の有
様を目の当たりにして、ブリガード・ウォルタンの肩はわなわなと震えていた。
「ひうっ、あッ、ああっ、見て、見てくださいませぇ、ひ。あ、あああ、わたくしを、わたくしを見てくださいませぇっ」
……今や伝説の神女は、戦力の優越を確信する歴戦の勇士などではなかった。あからさまな張形を見てもそれと認識
できぬ未熟な性、潔癖ゆえの無理解、長きにわたり純潔を極めたその脳髄は、実際のところ、陰茎の形すら心得ていな
かったのである。このとき彼女が覚えた感情、それは一種の八つ当たりめいた、怯えにも似て……詰まるところ、司教とも
あろう者が己の目の前で不健全な性を弄ぶ様への……その肩の震えは、耐え難い嫌悪によるものであった。
「こ、この痴れ者がッ!」
激昂した神女は思わず槍をひらめかせ、冒険者たちが、あっ、と声を出すよりも速く、可哀相なエルフの娘の胸を、ずぶり
と深く突き通してしまった。

玄室の石畳が彼女の血を吸い、赤く染まる。胸に開いてしまった大穴を見つめながら、彼女は仰向けに
力なく倒れ、声も無く痙攣した。股ぐらには震える棒が刺さったままであったが、彼女がその刺激に何ら
かの反応を示す事はもう決して無いだろう。
逃れ得ぬ死の確信に、魔術師の顔色は死人より白くなった。彼女の視線は落ち着きなく惑い、舌はひど
く乾いて、喉からは言い訳めいた呟きが、ぶつぶつと漏れ出ていた。だが、大槍を握る敵対者も、乱れる
呼吸を必死に整えようとしていた。

「……おや?」
どこかで声がした。
「これは驚いた。ウォルタン殿、貴女はいつの間に宗旨替えをなされたのだ?」
そう言って室の内に入ってきた者は、暗く輝く、ぶ厚い鎧を纏った騎士であった。鎧の強固な印象は見る
者に巨大な質量を思わせたが、驚いた事に彼は足音のひとつさえも立てず、大きな幅調で優雅に歩いて、
冒険者たちに背を向ける形で神女の前に立った。
だが冒険者たちは本能的に理解していた。この立ち位置は、決して、全滅寸前の自分たちを庇ってくれて
いるのではないと。むしろこれは、眼前に立ちはだかる凶大な敵のほうこそを、自分たちから庇うものなの
だと。彼らに背を向けたのは、先ほどブリガード・ウォルタンが彼らに為した戯れと同じく、万に一つでも、
出来るものであれば、背後からでも己を滅ぼして見せよという、余裕の表れに他ならない。

「暗夜卿……。」
「てっきり貴女には、戦意の無い相手への止めを打てぬものかと思っていたが。その『事後処理』を預かろ
うと、この場に参ったものの……いやはや、俘虜とした婦女を辱め、その上で殺してのけるとは。どうやら差
し出た節介であったか」

彼もまたブリガード・ウォルタンと同じく災いの王に使役される呪われた猛将の一角であり、「黒の騎士」だと
か「暗夜卿」或いは「復讐者」と呼ばれる、偉大なる武人の一人であった。そのタイタニウムを混ぜ込んだ鋼
鉄のフルプレートは只でも堅牢極まりない代物であったが、その上に魔法力によって強化され、黒檀にも似
た闇色の輝きを発している。
彼のことを、その本来の名で――ジオフリー・クレイトンと――呼べる者は、彼の主君たる災いの王を置いて
他には居ない。彼の名は対外的には完全に秘され、彼は決して兜をも取らなかった。彼の伝承に、ことごとく
狂気のイメージが付きまとうのは、その素性の不気味さと、後述する異様な戦いぶりによるのである。

「違う」
朋輩の発したからかい半分の言葉を、神女は力強く否定した。その声は、幾分か落ち着きを取り戻したようで
あった。
「違う、とは? 私とて、初めから終わり迄ずっと見ていた訳では無いのでね」
いや、見ていた、と言うのは可笑しいか、と彼は小さく独りごち、くくく、と兜の下で嗤った。
「この者は、私を愚弄したのだ。こやつらは皆、其処に転がっているバイペンニスだとか、何とか言う武器を手に、
私に挑んだにも関わらず、この娘はいざとなると、その……あの……自分の、あそこに……ま、まあ、兎も角!
戦いの最中にいきなり戯け始めて、私と戦いを侮辱したのだ」

「ほう。」
黒い騎士はエルフの死体に向き直り、生き残りの冒険者は彼の総面兜を間近に見た。それは付与された魔力
以上に、何か独特な違和感のある兜であった――有体に言えば、外を覗く穴が一つも空いていなかったので
ある。彼は思界をエルフの死体へ向けると、鼻をクンクン言わせながら顔を近付けた。
そう、彼は視力を持っていないのである。迷宮の暗闇の中であろうと頓着せぬ勇猛こそが、その暗夜卿という
名の由縁なのであった。
彼の身に付けた武具からしてが、彼の特性を物語っていた。おそらくきっと動き難かろうに、鎧は身体のあらゆ
る面を、関節さえも強硬に装甲で守っていた。そしていざ戦いともなれば、その右手に、使い手と同じ「復讐者」
の異名を持つ血濡れの魔剣を握るのである。敵からの攻撃を体に受ける事を、そもそもの前提とした武装であ
った。如何に剣術の達人と言えど、なにせ何も見えぬのであるから、相手が何処に立っているかなどは漠然と
しか分からない。故に、彼はまず敵に自分を攻撃させる事で完全な間合いに捉えるのである。

そこから復讐者と評される戦いが始まるのであった。黒の鎧に相手の刃が触れるや否や、刹那に魔剣は奔り、
剛力で真向に叩き裂くのである。盾を持たぬ左手は無数のリングと一際厚い装甲に包まれ、切断に対する備え
と為していた。彼は何時も、左手を身体の前にかざしていたが、言わばそれは空気の流れを察知し、気配を読
む触覚なのである。

この駆動音には聞き覚えがある。かつて生前、王の命を狙う下手人が隠し持っていた、カシナートの類と呼ばれ
る動刃剣が、遮った彼の鎧に牙を突き立てた時にも、確かにこのような、がらがら蛇の威嚇に似た……耳障りな
音を立てていた筈だ。ウォルタンは、それをバイペンニスと言っていた――双刃の斧か。彼は二枚の刃が螺旋を
描く様を想像したが、それなら鉈か鎌でなくては都合が悪い。どうにも斧と呼べる意匠には成りそうもないのだ。
黒の騎士は、さて、と首をひねった。

屍を検分すれば、胸元に劣らず、性器周辺の血の臭いが酷い。経血とは明らかに異なる、誤り無いまっとうな血
液の臭いである。然らばこれは自決であったか。死への恐怖に混乱したうら若きエルフの娘は、逆立ちしてもウォ
ルタンには敵わぬ事を知って、完全なる降伏の表明として、自らの秘所を回転刃でずたずたに抉ったのだ。彼は
そう合点した。先に娘があげた悲鳴が痛みによるものであった事は、経験から明らかであった。ならばウォルタン
が彼女の胸を突き刺したのも、苦痛が長く続かぬようにという配慮からの行為であったのだろう。介錯、という表現
を用いるならば、それには彼女や自分より、ずっと適任の者が居るのだが。
「……成程、慈悲殺というわけか。その様な事情であったならば、むしろ貴女らしい」
「……ふんっ」
全くの誤解であったが、神女は訂正しなかった。もし彼に視力が在ったならば、さぞかし上気した彼女の顔を見ら
れた事であろう。

「それでは、あちらで御待ちのお嬢さんには、この私が引導を渡しても構わぬかな? 折角此処まで来たというの
に、只帰りというのも詰まらぬのでね」
「卿の好きになさるが良かろう」
そう言って彼女はぷいと顔をそむけた。黒の騎士は兜の下で、幾つになっても可愛らしい事だと苦笑する。冒険者
にとっては実に不運な事であるが、敵対者に対する情けを知らぬ事でも知られた彼は、左手を前に突き出し、右手
の紅い魔剣を上段に構えて、冒険者へにじり寄った。
「生き残ったのは君一人か? 哀れなことだ。存分に私を恨むがいい。足掻いても構わぬのだぞ。ただ立っている
より、先に逝った友の冥福のため祈りでも捧げてはどうかね? 君もすぐに後を追う事になるが。逃げてみようとい
う気も無いのかね? さあ、君の死はここまで来たぞ。それでは、さようなら――。」

「待てッ!」
魔術師の娘に向かって刃が振り下ろされようとしたその時、ブリガード・ウォルタンは彼を制止した。頭をかばうよう
に屈みこんでいた人間の魔術師は、腰を抜かして膝をつき、小水を漏らした。無理もない。殺気を向ける黒の騎士
に肉迫されて、それでも心が揺るぐ事の無い者があるとすれば、それは元来の精神が既に物狂いなのである。
「如何なされた? ウォルタン殿よ」
そう、其処に居たのは魔術師ただ一人であった。盗賊が姿を消していたのである。恐らくは司教を刺したブリガード・
ウォルタンが狼狽した隙に、この玄室を逃れたのであろう。気配をひそめていれば、目の見えぬ暗夜卿に気付かれ
ずに脇を抜け、抜け出す事も、在り得ない事とは言い切れない。
「しくじった……すまぬ、暗夜卿。気付かぬうちに一人取り逃がしていたようだ」
「それはそれは……。」
騎士は彼女に背中で答えた。

「行方をくらませたあれは、王の御座所を目指すだろうか? それとも一目散に墓所から逃げだすだろうか? いず
れにせよ追わねばならぬ。一先ず、その娘は人質にしよう」
握りこぶしを胸に当て、彼女はそう言った。
「……おや、おや。」
意外であった。かのブリガード・ウォルタンともあろう者が、格下を相手どって人質を取るとはな。いよいよ本当に善悪
の志向が変化してしまったか。黒の騎士は半ば呆れたような、感心したような、人質策を取る事自体に異論は無いの
であるが、この苛烈さはどうした事かと、ともかく複雑な思いで彼女の言葉を聞いた。
ブリガード・ウォルタンの胸は憤怒に燃えていた。あの失態に付け込まれるなど、あの醜態を知る者が逃げ出すなど、
到底許せる事ではない。生かしておけぬ。いや、もはや事は私の面子だけに収まらぬのだ。主の身が危険に晒される
かも知れず、まんまと脇を抜けられた暗夜卿の名前までも傷付ける事になりかねない。そうだとも、決して私だけの名
が惜しいだとか、私怨による制裁を望んでいる訳ではないのだ。
詭弁であった。だが今は詭弁に縋るしかない。今は忘れろ、と自らに強く念じて、彼女は大槍を強く握りしめた……。

「んーん、いやー、盗賊さんについては、もう心配無いねぇ」
またも誰かが、喋りながら闇の中から現れた。話を聞かれていたらしい。暗夜卿が来た時も同様だった事を考えると、
この玄室の壁は随分薄いようである。

「ロビン」
「ウインドマーン卿」
二人は同時に彼女の名を呼んだ。
「やあ。お二人さん」
まだ幼さの残る、小さなエルフの少女であった。赤い頭巾で、金色の髪を後ろに流し、賢しそうに目を細めていた。人
の齢にすれば十三、四と言ったところか。何処にでもありそうな、特に何の事も無い弓を背負っている。
「今さっきダイクタの兄さんが、ケヒャケヒャ笑いながらそこを走って行ったよ。誰かさんを、二本の刀で串刺しにしてね」
仲間の凶報に、小さく縮こまっていた魔術師の背がびくりと震えた。
「突き刺したままの恰好で、そのまま持ち上げてたのは流石だけど、なんだかネコみたいで可笑しいよね。わざわざ王
さまに獲物を見せに行くってのは、さ」
この娘はのんびりとあどけない顔をして、そんな凄まじい事を言うのである。左様、彼女もまた王の腹心、特別な二つ
名などは持たず、その存在を察している者から、ただ「あの射手」とだけ呼ばれる秘蔵の存在であった。つまるところ
彼女の役割は暗殺である。戦場には一切姿を見せず、彼女が通った後には、矢羽根の生えた死体だけが転がってい
るのだ。目撃者の残らぬ活躍には、渾名の付けられる余地は無い。
本来は――そして実情も――影に生きる者である筈の彼女に、王が公式の爵位を与えていたという事実は、その圧倒
的に抜きん出た才覚、隠然たる武功の証明に他ならない。さっぱり戦の気配も無い場所で、誰人の手も与らぬ射殺体が
一夜に何十と現れるというのでは、誰が隠そうにも、その絶技の実在は、とうてい隠し果せるものではないのだ。

勿論のこと、彼女も骨から甦ったばかりの死者である。だがその簡素な布服は、長き年月にも痛んだ様子はなかった。
それはブリガード・ウォルタンが身に着けていた獣皮や、一般のエルフが好む植物由来の服とは違い、鉱繊維を編み合
わせた強靭な防護服なのである。
ブリガード・ウォルタンは、それを見て「いいなあ……」と声を漏らした。腿の見えてしまうこの丈では、足元を通る風が気
持ち悪くてかなわない。

「ダイクタも……なんだ、それでは既に全員起きているのか」
暗夜卿は深くため息をついた。

「しかし、これでは我らが顔を合わせる甲斐が無いではないか。いやはや、今時の冒険者どもの、なんと弱く、情けない
事よ。他愛なくて話にならんな。そう思わぬか、ウォルタン殿も」
「全くその通り」
内心では、彼らの一挙手一投足にヒヤヒヤしていたのだが。まあ、相手を弱く感じたというのは、嘘ではない。
「……だったら、丁度良い暇潰しがあるじゃない。折角だからそこの娘で遊ばないかなぁ?」
エルフの少女は凄まじく酷な事をのたまった。あまりに臆病で、あまりに不幸な魔術師は、頭を抱えてぶるぶると震えて
いる。ロビン・ウインドマーンはその有様を見て、鼻歌まじりに舌舐めずりをした。

「ウォルタン殿の前だぞ。あまり羽目を外すな」
「いーいじゃないの? ブリちゃんにも見てて貰ぃやさ。神女さんだって言ったって、今はもう僧籍でも無いん
だからね。ボクや黒兄さん(こう書いて、えぼにぃさん、と読む)と同じ、死に損ない、はっきり言っちゃあ化物
なんだから」

ブリガード・ウォルタンは彼女の言葉に、ふん、と鼻息を返して苦い顔をした。しかしそんな事には頓着せず、
少女は魔術師にどたどたと近付く。
すると少女のつま先に何かが当たった。かすれた音を立てて、それは石畳を転がった。
「これは……?」

ああ、それは。
「カシナートの剣だな」
黒の騎士は答えた。
「バイペンニスと聞いたが? まあ武器には違いはあるまいが」
ブリガード・ウォルタンは言い放った。
「……えっ?」
魔術師の娘は奇妙な顔をした。
「……ああー、成程ね。はいはい、よく分かりました。それじゃあ今日はこれも使ってね、楽しく遊びましょうっと」
三人の顔を見比べて、少女はうんうんと頷いた。
「それでは、尋問を始めるー、なんてね」
「お、お手柔らかに、お願いします」
少女の外見に気が緩んだのか、魔術師は幾分か落ち着いていた。恥ずかしげに顔を伏せるぐらいであれば、
なぜ相手の表情を読み、これからの事に備えようとしないのであろうか。ロビン・ウインドマーンは腹の中で彼
女の挙動をそう評価して、まるで、動けない冒険者を見つけたトール・トロールのような、どす黒い笑みを浮か
べていた。

「第一の質問、あなたのお名前は何ですか?」
「カレンです。カレン・フェロー、と申します」
「そうですか。では執行人……ほらほら、黒兄さん!」
「……やはり私か」
少女はいきなり魔術師を床に押さえつけると、圧し掛かったまま、動いちゃダメだよ、絞めちゃうからね、と耳元
で囁いた。
「え?」
彼女の胸の上に尻を乗せる形で座り込み、喉笛を両手で掌握すると、そのまま彼女の右腕に自分の細い足を
絡ませて、彼女の手首を踵で押さえ付ける。
「ボクの足を斬らないでよ?」
「指だな?」
「良くわかってるじゃん。黒兄さんは流石だよね」
「……なっ」
魔術師の娘は目を見開き、声を限りに叫ぶ。
「何か私がしましたか!? 私はカレン・フェロー、嘘ではありません! どうして、どうして!? どうしてこんな!」
その言葉に対して、このロビン・ウインドマーンという、優しげな顔立ちをした小柄な娘は……ひどく無慈悲に、
「何言ってるの?」と答えた。
少女は、カレンちゃんは偉いね。逃げようとしないもんね、と言って、彼女の首に食い込んでいる指に、軽く力を
込める。大丈夫だよ、多分死なないから――。慰めの声なのであろうか。じわりと体中の毛穴から水分が抜け
出ていく。

「何せ、目が視えぬものでね。手元が狂うかもしれんが……。」
騎士が剣を振り上げた。
「ひいぃぃいいぃぃ!」
身体が強張る。動けない。これ程の絶望の中で、人間は動けるものではない。よしんば彼女が抵抗を試みたとし
ても、少女の体は関節に絡み付き、逃れられぬよう極まっているのだ。
「ボクは黒兄さんの腕前を信じてるよ」
そう言って天使のように微笑み、でも万に一つ失敗したら、ブリちゃんが治してね? と続けた。暗夜卿もまた、彼
女の滅裂した言い草に、くくく、と嗤った。

ぎんっ、と、硬いものが床を叩く音がひとつ。
ロビン・ウインドマーンは彼女の上から離れて、そのぐったりと脱力している上体を、ぐいと引き起こした。
「痛い?」
彼女の右手首を掴み、顔の前まで引き上げて、当人に見せつける。手首から先は半分になって、一本の指も残っ
ていなかった。
「大丈夫って言ったでしょ、黒兄さんはスゴく上手いんだから」
「ダイクタには及ばんがね」
「……あ。」
涙が流れる。確かに痛みはほとんど無かった。ただ、すっからかんの傷口が酷く寂しかった。彼女の崩れかけた精
神に従って、血管までがすっかり萎縮してしまったのか、それとも貪欲な紅の魔剣が傷口の血を吸い尽くしたのか、
そこには骨と肉の綺麗な断面が晒されているのである。彼女には、それはまるで自分の手とは思えなかった。
「あああ。あああああああ……」
長い悲鳴は、いつしか嗚咽となっていた。
「痛いの?」
「えっ、えぐっ、いっ、ひいえっ! いいえっ!」
「……悲しいの?」
「ん、んぐっ、えぐっ、ひぐっ、えぅ」
ああ、カレンちゃんは我慢してるんだ。偉いね、可愛いね、と言って、少女は魔術師を優しく抱き締めた。それは本当
にただの抱擁で、少しでも抵抗する意思があれば、いくらでも彼女は少女を跳ね退けられた事であるだろう。
少女はゆっくりと抱擁を解くと、にっこりと笑って、魔術師にこう告げた。

「はい、それでは第二の質問でぇす。あなたはどうして、ここに来たのですか? こんな誰からも忘れられたような、
黴臭い墓穴なんかに? 何かあっても、誰も助けに来やしないのに?」
項垂れたまま、魔術師は力なく答える。
「……無理です。もう、もう……こんな……もう、許してください」
「ダメだよ」
「でも、でも、それって……また……」
「だって、今のカレンちゃんって、たまらないもの。最高に可愛いんだもの。撫でてあげたい。おー、よしよし、可愛いねぇ。
キスしていい?」
少女は魔術師の頭を撫で回すと、傷口をしゃぶり始める。
「い、痛ッ!」
その小さな口いっぱいに頬張ると、唇でしごき上げ、舌を這わせる。肉が盛り上がりつつある熱い傷の粘り、さらさらとし
た皮膚、少女は半ば恍惚としてそれを求めた。
「い゛、ん、んーーッ!」
「痛いの? ごめんね」
ちゅくりっ、ちゅっ、ちゅばっ、じゅるっ、ちゅ。
「だから、答えてね? 答えなきゃ、また黒兄さんに手伝って貰うよ」
「……。」
魔術師は答えなかった。
「カレンちゃん?」
「……。」
ロビンは彼女の顔を手で覆い、息のある事を確認し、目蓋を強引に指で開いて、瞳を覗き込み、彼女に意識がある事を
確認した。どうやら心が閉じかかっているらしい。
「……あーあー。つまんないねぇ」
騎士と神女の方を振り返り、少女は、やれやれ、と手をひらひらさせる。
「卿がやりすぎなのだ。幾ら遊び好きでも、程々のところで弁えねばな」
そう言って、黒の騎士は取り合わなかった。
「黒兄さんはキビシイなぁー」
神女はと言えば、この拷問劇が始まった時からすっかり目を背けていた。
「しょうがないねェ、カレンちゃんは。こんなに早くギブアップだなんて。それじゃ、さっきの質問はもういいよ」
魔術師は目を開くと、彼女の方へ、ちらと視線を動かした。
「次の質問。」
両手を開いて魔術師の頭をがしりと掴む。強弓を玩具のように扱う腕力でぎりぎりと締め付けると、魔術師の顔は苦痛に
歪んだ。ロビン・ウインドマーンはこう続ける。

「仲間たちの事を本当はどう思っていましたか? これまでの人生で魔術師として一番苦労したことは何ですか? 寝付
きは良い方ですか? 美味しいものは先に食べますか? 友達は多いですか? 友達が五人も死んじゃったらしいけど、
今どんな気分ですか?  ボクたちの王さまの事は知っていますか? 王さまはカレンちゃんを赦すと思いますか? カレ
ンちゃんは体の、どの部分から先に失って、いつまで生きていたいですか? カレンちゃんはいつまで生きられますか? 
例えば足が一本無くなったり、あそこから内臓を引き摺り出しても大丈夫でしょうか? そんな身体にされちゃっても、もし
ボクが放してあげたら、お家に帰ろうとするのでしょうか? 試してみても良いですね?」
「ロビン」
制止したのはブリガード・ウォルタンである。
「やめろ。悪趣味が過ぎるぞ」
「ブリちゃん……。」
ロビン・ウインドマーンは、ブリガード・ウォルタンの事を……彼女にとっては非常に珍しい事だが、対等の存在として、まる
で姉か娘のように……割と好意を感じていたので、魔術師の頭骨に軋みを加えていた手を、すっと離した。しかし、この尋
問を止められた事が魔術師にとって幸運であったとは言い難い。神女は彼女の助命を提案した訳ではなく……単に、彼女
からしてみれば、嬲り殺しではなく、一思いにやってしまえと言われたに過ぎないのだから。
「じゃあ、最後の質問だけさせてね?」
「……。」
ブリガード・ウォルタンは答えずに、少女の目をじっと見ていた。エルフの少女はそれを黙認の意と捉え、これは何ですか?
と、震える魔術師の目の前に、あの、怪しげな棒を突き付けた。

「ボクたちに教えてくれないかなー? 黒兄さんとブリちゃんで、意見が分かれちゃってるんだよね。バイペンニ
ス? カシナート? そんなんじゃあないよね、これは」
そう言って棒を振り、ぺちぺち、と魔術師の頬を叩く。
「ちゃんと答えてくれれば、もう痛い事はしないよ? 安心してね?」
信じられなかった。どうしても視線を合わせられない。魔術師は少女から目を逸らそうとその棒を凝視した。紛う
方なく、それは嘗て彼らがクワリ・クボナより購った、六束十二本の肉質樹脂からなる歓喜の戦棍、ただし前列
の者が持っていた事から察すれば、恐らく本来の用途で用いられた事は一度も無いであろう……逸物であった。

「……ざ……棒、です」
「はい?」
「座頭市棒、です」
「なんだって?」
少女は苛立たしげに左手を一杯に開いて、魔術師の顔をぐいと掴んだ。
「う、嘘じゃありませんッ!!」
そう叫んで、わあああああ、とわめく。これは先程の理不尽を思い出して、暴嵐の再来を怯える者の反応に相違
ない。成程、と少女は直ぐに納得して、その手をひょいと離した。解放された魔術師はしっちゃかめっちゃかに脅
えて、乱れた服をなぜか正し、ぜいぜいと息を整えてから、ようやくほんの少し落ち着いたような素振りが、在り
や、無しや、そうして、やっとの事で続きを補足した。

「……アマズールの女王の側近、クワリ・クボナ殿から、私たちに譲り受けた物なのです。ザトーイチ・ボーという
のは、その時に聞いた名で……或いはバイペニス……つまり、二本の、おちんちん。その様にも、あの方は言っ
ていました」
「へぇー。えぐい形だもんねぇ。すっごいよ。なんだかスイッチ押すと震えるし」
「何だと?」
――つまり、その棒というのは。
「さあさぁカレンちゃん。黒兄さんはもうちょっと分からないみたいだよ? もっと分かり易く、スパッと言っちゃってよ」
「張形……です」
「なんて事だ……。」
羞恥のためか、恐怖のためか、彼女は全く顔を上げようとしなかった。このとき暗夜卿が総面の下で作った表情
は、まさしく絶妙のだらしない呆け顔で、すっかり口を開けたまま、彼はひどく脱力してしまった。
「良くできました。うーん、確かに張形ですねぇ、これは」
満足げに少女は笑うと、魔術師の頭を棒で撫でつけた。当の彼女の方は、自分の頭に当たっている物が何である
か気付いていないようであった。

「張形?」
残念な事に、生まれ出てより、死んで後、さらに此の度甦ってなお、性に関してまっさらであったブリガード・ウォル
タンには、その言葉が何を指しているのか、とても分からなかった。
「ほらカレンちゃん。ブリちゃんに教えてあげて?」
「はい。おちんちんの……男性器に似せた模型であり、女性器や肛門の周囲に宛がう、或いは挿入する事で快感
を得る道具です。……これは一つに、二本の棒が備わっているので、前後で同時に味わう事が可能です。スイッチ
については……内部機構が多方向に回転し、外面部に振動を加える事で、さらにその効果を増す訳です。決して
武器ではありません」
羞恥を何処かに放り投げたカレン・フェロー――学究のカレン――の舌は、その名に相応しく、回り過ぎる程に回っ
て、それに関する過不足無い情報を皆に教えた。しかし、そのあからさまな言葉は、純然たる未通女であるブリガ
ード・ウォルタンにとっては……。

「はぁ!? はああ!?」
神女はきつく眉をひそめて、とてつもなく大きな声を出した。
「冗談だろう! ロビン、お前の趣味のわるい悪戯のせいで、見ろ! その娘を壊してしまったのだぞ! お前のせ
いで、こんな、有り得ない妄言、阿呆じみた滅茶苦茶を言う様になってしまったではないか! いいか、お前はもう
二度と捕虜を尋問するな! 王もきっとそう仰るはずだ!」
「いやー誤解だよ、ブリちゃ……。」
「黙れ! 戯け者がッ!」
「むうー、この頑固者めー……。」
黒の騎士に救援を求めようと視線を動かすと、丁度彼はそれを拾い上げて、その触り心地を検分していた所であっ
た。そして彼は、ロビン・ウインドマーンの願い通り、こう言った。
「ウォルタン殿。確かにこれは張形だ。つまり、このお嬢さんが言った通りの用途で使うもので、所謂、性具の類に
他ならぬ」
「バカな! 暗夜卿、あなたまで私を陥れようと言うのか!」
ぐるぐると何度も振り返り、神女は手を振りまわして見栄を切る。
「この者たちの屍はどうだ! どこを見ようとも、その棒の他に武器など帯びておらん! これが武器で無ければ一
体何だと!? 私はブリガード・ウォルタンだぞ、どんな愚かな冒険者でも、武器も持たずにこの私に挑むものか!」
「ブリちゃん綺麗だから、そのえぐーいザトーイチ・ボーで、手っ取り早く犯しちゃおうとしたんじゃないのー?」
「ななな、な、ななな! なな!?」
あまりの事に、彼女の抗議は言葉にならなかった。
「む、隙ありぃッ!」
少女は手に持ったソレを、ぷにょ、と神女の内股に押しつけた。彼女がスカートを巻いていない分、柔らかい脂肪に包
まれた敏感な太腿まで、棒は容易く辿り着いた。
「あっ」
間髪いれず振動を加える。
「んにゃあっ!」
「……ね? 気持ちい?」
そう訊いて、ロビンは腿に付けていたそれを少し離した。
「お、お前っ、いきなりそんな……にゃにゃにゃっ!」
「気持ちいーでしょ?」
「い、いや、やっぱり、武器だったようだな。は、は、はひゃっ! や、やめろ! ストップ! ひざが! あっ、あっ、駄目、
やめっ、ひざが、あっ、からだ、が、支えられないっ」
「ブリちゃんってば……すっごい感じやすいんだね」
心底驚いたという風に、少女は目を丸くした。
「……武器だ……だって、こんな……動けない……どう考えても、武器だ……。」
神女はと言えば、すっかり膝が砕けてしまって、どうにも立ち上がれずに、玄室の冷たい床に、ぺたん、と尻を付けて座
り込んでしまっていた。

「強情だねぇ、ブリちゃんは」
身体のほうは正直だけど――。少女はからからと笑う。
「カレンちゃーん」
「はい!?」
ひょいとソレを投げ渡す。立派なそれは相応の重量を持ち、右手の無い魔術師は、危なく落としそうになった。取り落と
さぬよう両手で上品に捧げ持つと、ロビン・ウインドマーンは顔の前に迫って、彼女の眼を覗き込んだ。
「使って見せたげて。ブリちゃんってば、武器だ武器だって頑固なんだもん」
魔術師の顔から、見る間に血の気がひいていく。
「……嫌!」
「え?」
「イヤです! だって、だって! だって!」
真っ青になって震えながら、魔術師は指の無い右手で口元を押さえ、左手で神女を指さした。この二人の間に何かあっ
た事は明白であった。

「ブリちゃん、何かやったの?」
「ああ……。」
いい加減に膝の調子も元に戻ってきた。何時も以上に落ち着き払って、潔癖な神女はそれに答えた。
「仲間の一人にその棒を手渡して、それから殺した」
「あらら。ひっどいねえ。どの子?」
「そこのエルフだ」
「エルフかー。いけないなぁ、ブリちゃんは悪い子だよ。エルフは大事にしなきゃ」
ね? と少女は首をかしげて目を細め、彼女へ上目遣いに微笑みかけ、口元を歪めて可愛子ぶるのである。――なんだ、
この! ――くそ! ――卑怯者め! その笑みはあまりにも愛らしく、感情どころか、脈打つ心臓ごとを抉り取るような、
殆ど恐ろしいまでの魅力があった。彼女と少女はもちろん同性ではあるが、ブリガード・ウォルタンは無性に彼女を、愛玩
する為に、その胸にかき抱きたいという衝動に駆られて……正直言って、指先が少女の感触を求めて戦慄いていたのだ
が……すんでの所で、なんとか思い留まった。――そうそうお前の思い通りになるものか!
「で、名前は?」
「私が知るわけ無いだろう」
と、突っぱねた。棒を押しつけられた折の快感といい、少女からもたらされる興奮や喜びが、言いようも無く気に食わなかっ
た。意思に依らなければロビン・ウインドマーンに抵抗できない自分自身の心さえもが如何にも気に障り、彼女は苦虫を噛
んだような顔をした。
「これだもん。ブリちゃんは酷いよねぇ。もっと可愛がってあげないと」
幸い、その内心に気付かれる事は無かったようである。
「別に私は、殺したくてやったんじゃない」
「良い子ぶっちゃって。殺される方からしたら同じだよ」
心細げな魔術師の頭に手を軽く乗せると、もう一方の手で件の棒をひょいと取り上げた。あれっ、と言って魔術師は反射的
に棒に縋ろうとしたが、少女は彼女の頭を軽く押さえ、立ち上がらせなかった。
「自分じゃ出来ないんだったら、手伝ってあげるね?」
がらがら蛇の呻り声が、少女の手で鎌首をもたげた――。

「脱いで」
「おいおい……。」
少女はブリガード・ウォルタンの言葉を無視し、もう一度同じ事を言う。
「服を脱ぎなさい」
魔術師に命令に逆らえる筈も無かった。魔術師はローブの帯を解こうとしたが、彼女には利き手の指が無い。どうにか脱
がなければと身をよじっていると、エルフの少女は彼女の後ろに回り、自分の懐に棒をしまって、座り込んだ彼女に身体を
密着させ、冷たい両手で首筋に触れ、背のくぼみを通り、腰の結び目に手を這わせて、ゆっくりとそれをほどいた。病人を
着替えさせる時のように、両手を上げさせて、引き抜くように、ゆったりとしたローブを脱がせた。
小ぶりの乳房が露わになる。下半身には垢抜けない長い布を縦横雁字に巻きつけているだけの、簡素な下着を身に着け
ていた。先に漏らした尿によって、その布はひどく濡れていた。
「下着は自分で外せるかな?」
「……はい。」
不潔な布に傷口が触れぬよう気を付けながら、座ったまま器用に下帯をほぐし、魔術師は一糸纏わぬ姿となった。年端も
行かぬ娘の言いなりに、三名の目の前で裸になる事に、流石に羞恥を覚えたのか、右手で胸を、左手で股を、それぞれ隠
している。少女は正面に回って彼女の腕を掴むと強引に左右に開いた。
「綺麗だね。かわいいよ」
見れば陰毛も薄く、華奢な撫で肩の、全体的に小作りな印象の裸体であった。

ロビン・ウインドマーンは魔術師の鼻をつまむと、ゆっくりと自分の方に引き寄せ、手を離して抱きしめると、ぎゅうと唇に口付
けをした。唇の間で啄ばむようにこじ開け、口の中に舌を押し入れる。目を合わせたまま、彼女は魔術師の歯列の並びを味
わい、歯肉を探り、二人の舌は粘液を分泌し合い、絡み合って、舌面のざらざらと小さな蕾の擦れ合う感触、互いの唾は甘
く、官能は立ち上がり、魔術師は思わず目を瞑った。少女の吐き出す呼気の味が美味であると、彼女は感じ、息も切れ切れ
に求め、少女の口唇に吸い付いた。少女から流し込まれる唾液を渇望し、舌と舌は決して互いの道を譲らず、まぐわう蛞蝓
の様な原初的な交接を繰り返し、殆ど魔術師は涙目ながらに、少女の抱擁に応え、腕を絡み付かせた。手先の痛みなど、
最早何処かに消えていた。
抱き締められる強さに籠絡の成功を感じ取り、自らも悦びの波に晒されながらも、ロビン・ウインドマーンは余裕の笑みを浮
かべた。もし此の相手が、かの親愛なるブリガード・ウォルタンであったなら、それはさぞかし極上の愉楽であったろうにと思
いながら、魔術師の背に、白磁のような指を這わせる。脇腹をかすめ、乳房を避けて胸元を通り、一方の手は首筋へ、もう一
方は、床の上のまるい尻肉へと伸びた。
少女が愛撫を加えると、魔術師の身体は快感のあまり固く突っ張り、閉じられていた足は、切なそうに開いて、圧し掛かって
いたロビン・ウインドマーンにぐるりと巻き付いた。たしなめるように、少女は腿に向かって軽く、ぺちり、と平手を打つ。無作法
を恥じるように拘束が緩み、少女は魔術師の上から解放されたが、抱き合ったその姿勢のまま、二人は共に横たわった。脱
がせたローブを拡げ、床の上に敷いて、少女は膝をついて上体を起こし、横たわって沙汰を待つ魔術師へ、交差するように
覆いかぶさると、まるで琴を扱うように腿にやわやわと触れて、彼女の充血した乳首へ口を付けた。赤子のように吸い付き、隆
起したそれを舌で転がす。娘の口から喘ぎが漏れる……魔術師はたまらなくなって、少女の頭を両手で撫でた。少女は乳房
から顔を離して、彼女に、にっこりと笑いかけた。
愛撫を繰り返す指先は肌を巡って、次第に中央を目指し、股関節に沿って這った。抵抗も思い到らぬ内に、魔術師の性器に
素早く手を添え、小j歩あ粘膜の湿りを確認すると、件の棒を取り出して横たわる彼女のとば口に添え、こすり付けた。
「ひっ……。」
「ほらほら、しっかり……ね」
愛撫の手を止めず、首筋に息を吐きかける。休みない悦びに、淫液は股を垂れる程に分泌されていた。少女は器用に張形の
全面に粘液をまぶしつける。
「……入れるよ?」
「……は、い……お願い、します」
その言葉を受け、少女は剛直を押し当てた。但し、陰裂にではなく、これまで全く手も触れられていなかった、肛門に……。
「え、ええっ!? 後ろ!?」
「大丈夫でしょ? カレンちゃんは研究熱心なんだし」
返事を待たず挿入する。ぬめる雁首が無理矢理に筋の輪を通り、内壁を擦り上げる……臓物の内側は何か所も捻じれてい
たが、それに突っかえないよう、少女は上手に手首ひねり、滞り無く突き刺していく。作り物の肉棒は、内臓の捻じれに沿って、
奥底にまでぴったり嵌まった。

「あくっ……ううっ、うあっ!」
「ほら、痛くない痛くない。簡単に入ったよぉ」
挿入の成功はひとえに彼女の技巧によるものであったが、尻に突き入れられた魔術師は顔を赤らめて恥じた。彼女は決して
白状してはいなかったが、もはや肛門での使用の経験を看破されたも同然だった。
「そんなっ……! お尻ぃっ……お尻にっ、なんてぇっ!」
涙が出る。痛みではなく羞恥の故に。――この恐ろしいエルフに、自分が今から何をされてしまうのか、その事が恐怖である
以上に、身も心も、ぐずぐずに蕩けてしまいそうな期待を覚えずに居られなかった。魔術師は少女に気付かれぬよう、慎みな
くも、僅かに身じろぎして、奥を圧す張形の感触を味わっていたのである。引き抜かれる際の擦り切れるほどの刺激を想像し
ては、それだけで、殆ど達してしまいそうになるのであった。突き入れた棒を動かして欲しい。穴の内側を上手にかき回して、
この練達したエルフ娘に悦ばせて欲しいと、淫猥な欲望がさもしくも吹き出でて、魔術師の裸身を覆い尽くし、彼女を桜色に染
め上げていた。
「お尻は嫌い? じゃあ、前にも入れてあげるね?」
「あ――。」
とうとう性器にも、慣れ親しんだ感触が、肉を割って入りこんだ。少し違和感があるようだったが、それの何処がおかしいのか
など、快感に浮付いた彼女には今さら分かる筈も無い。
「あはぁああっ。あはっ、あははァっ!」
気持ちいい――。もう駄目――。尻には棒が深く突き刺さったまま、陰門では、浅い所を執拗に責めたてられる。そして目の前
には、ロビン・ウインドマーンの、恐ろしくも愛らしいその顔、もはや後先無く、少女の唇を貪らずにいられなかった。どうあって
もこの少女に、全身くまなく気持ち良くして貰いたかった。余裕の微笑みで己に唾を飲ませる彼女に、この様への許容と、慈悲
深い寛容を見てしまうのである。神女に敗れなければこれ程の愉しみを得る事は無かったと思えば、事もあろうに、仲間たちを
失った事が、むしろ喜ばしくすら感じるのであった。――ああ、悪い私だ。悪い女だ、なんて気持ちいい。ああ、もう、いっそ私も
死んでしまえばいい。この恐ろしいエルフ娘に、気持ちよくされて、揉みくちゃにされて、最後にはきっと……殺されてしまえ!
「あっ、あああっ」
そうだ。いっそ、言ってしまおう。
「ロ、ビン、さん……あああっ、もっと、気持ち良く、して、くださいぃっ」
「いやらしい子だね。」
性器を責める棒を握ったまま、少女は中指の先で陰唇の粘液をぬぐい取った。粘性を増したそれは白く濁り、垂れずに指先に
積もる。
「二本も咥え込んで、こんな、ぐちゃぐちゃにしちゃって……。」
「はッ、ひっ、はいいっ、すごいですッ、こんなの、こんなの……あ、あはは、あははぁあっ!」
裸身の魔術師は、死んだ蛙のように両足を開いた姿勢で……しかしむしろ躍動的に腰をくねらせた。股ぐらを貫く棒の動きに合
わせて、貪欲に左右に振り、上下の相対速度を高め、強い摩擦を得る。

「スイッチ入れるよ」
少女は返事を待たずに、その機構を起動した。魔術師の体を貫いている杭が、はね回ろうと無遠慮に、穴の形にぴったりと嵌ま
ったまま振動する。消化器の奥からの振動が、体内を潜って子宮を打ちつける。
「……ひっ、ひぃぃぃい! うああはああぁぁッ! こ……ん、なッ、こんな深い所でぇっ……!」
(気持ちいい……けど、何で? 前が……。)
止め処の無い快楽を流しこまれながら、魔術師は違和感を覚えた。直腸を満たした棒は微震して存在を主張したが、前門のそ
れは、扱う少女の柔らかな手首によって、複雑な動きを形作ってこそいたものの、かのクワリ・クボナ曰くのクィジナート機構、こ
の一柄二頭の珍宝は、その特性を半身にしか表わしていなかった。
「ま、えがっ、震えていないっ……どうして……っへ?」
「刺激が足りないかな?」
魔術師は首を振って否定する。足りない筈も無かった。性器に入り込んだそれが粘膜を擦り上げる快感の、絶妙さと言えば、
それは尻奥の熱さにも勝るとも劣らず、あろう事か内部で複雑に折れ曲がって、彼女の官能を責め立てているのだ。
「ふふっ。実はねぇ、前に入ってるのは、張形じゃあないの。さっき切り取ったカレンちゃんの手だったんだよ。あはは、気付かな
かった? 普段は、手ではオナニーしてなかったの?」
「あっは、ははひっ、そんな、そんなの、気付く、ワケっ、あっ、あああっ」
「アハハハ! だよね! こんなに気持ちよくなっちゃってたら、気付けないよね! 心配しなくていいよ、張形なんかより、ずっと
気持ちよくさせてあげるから!」
「あっはははぁっ! 自分の手がッ、手ぇすごいっ! すごい勢いでこすってるぅっ! 有難うございますっ、こんなに良くしていた
だいて、こっ、こ、こんなにっ、あ、ああはっ! あはははっ! ひっ! あひっ!」
涎を垂れ流し、がくがくと震える。脳に溢れる快楽によって、ぐにゃりと乱れてしまった視線を定め直す気も無かった。ただ粘膜と
子宮からもたらされる、電流のような感覚をたぐり寄せたかった。そして、既にそれは彼女の手に、絶頂にまで続く長い尻尾を掴
ませていたのである。今更それを逃す訳にはいかなかった。
蒼ざめた指先を縦横に駆使していた少女も、彼女の有様に気付いた。その目はあらぬ方向を見て、半端に開いた口からは、笛
のような音が漏れ出ていた。

「もしかして、いきそうなの?」
「そう、そうっ、そうですゥっ! あ、あ、あとちょっとだからっ、もう少しぃっ、押して下さいッ! いけそうなんですっ、い、いかせて
くださいッ!」
「素直でかわいいねぇ、カレンちゃんは。いかせてあげるから……ボクの物になるって、言ってみて?」
少女は己の体重を魔術師の胸に預けると耳元で囁いた。悪魔の囁きであると、喘ぐ魔術師は頭のどこかで思ったが、もはや彼
女には、そのような事を考えている余裕は無かった。いや、むしろ。こんな可愛い悪魔にならば、もう何をされても良いのではない
か? 現に、この少女のお陰で、如何に己は悦ばされ、息も絶え絶えになって快楽を貪り、狂おしい気持ちで居る事であるのか――
この快楽以上の喜びも苦しみも、永遠に感じる事など無いのではないか? 然らば、正にこの瞬間に、己の意識は死んだも同然
である。もう体など要らない。命さえ必要ない。今まさに浸っているこの悦びの迫真こそが、己の最大の存在意義であり、最後の
関心事であるのだから。
「あなたの物になりますッ! どうぞ、私をっ、使い倒してっ、あなたの所有物になりますからっ、なんでもしますっ、痛いのも我慢
しますッ、ですから、ですから、どうか、いかせてくださいいぃっ!」
外聞も、尊厳も無かった。全てのものを放棄してでも、今の快楽に浸っていたかった。
「よく出来ました。良い子だね」
ひときわ高速に手を動かす。円運動の捻じりが膣壁を掘り進み、また直ぐに戻って、。膣壁は連続して収縮し、肉塊をしゃぶり上
げる。それは本能よりもなお原始的な肉体の反応、精液を吸い出そうとするうねりであった。もし膣内に収まっている物が本物の
ペニスであったならば、それはたまらずこの瞬間に射精した事だろう。魔術師の、幼形の面影を残す肉体は十二分に雌らしく膣壁
を動かして、さらなる悦びを深みに求め、少女は彼女の全てを読み取って、期待を越える快楽を容赦なく返した。
「――ん、うはぁッ、うあああああああ! ひいいいいいいッ! うわああああああっ!」
叫び声をあげて、魔術師の体が、伸びきって突っ張る。がくがくと、全身の筋肉が強張り、尻からは棒が殆ど押し出されそうになっ
て、少女は危うくそれを押し止めた。
「はぁ、は、ひ。はひ……。あひ……。」
「……お疲れ様。よっぽど良かったみたいだね」
「はい。……って、ロビンさんッ! いやッ、そんなっ、は、はあああぁぁっ!」
彼女が絶頂を迎えても、ロビン・ウインドマーンは挿抜の手を休めなかった。突破した快感に、休みを欲する魔術師の体を、少女
は強引に激励し続ける。新たな波は絶頂に重ね合わせられ、脳の耐えられない悦びの量、朦朧となって言葉となる。
「有難うございますっ、有難うございますうっ、あっ、あッ、あ、この、ためにっ、指を、切り落としてっ、下さったの、ですねっ! こん
な、気持ちいい、ほじくり易い、自分のっ、指なのにぃっ、誰かのオチンチンみだいな……みたいなァあッ! こんなッ、気持ちいい、
ああ、あはは、有難うございますぅっッ! わたし、幸せぇっ、幸せですっ!」
誤解どころの騒ぎではない。魔術師の理性は丸きり快楽に呑みこまれて、目茶苦茶を口走った。世辞でもなく、まして嘘でもなく、
本心からの悦びに納得は形を成し、肉塊は子宮を突き上げて、子宮から喉を突き上げて、身投げのような出鱈目を叫ばせるのだ
った。
その反面、ロビン・ウインドマーンは急激に冷静になった。この娘の体を使って、張形の悦びを表現するという目標は、既に達成し
ていた。ならばこれ以上の行為を続ける意味は無いのではないか。
「――ごめん、そろそろ手がつかれちゃった。後は一人でやってね。また今度、ご褒美をあげるからね……。」
なおも愉しもうとする魔術師に向かって、そう言い放つと、少女は魔術師の手を彼女の陰部に導き、余韻も残さずひょいと立ちあが
った。魔術師は飼い主に冷たくあしらわれた犬のような顔をしたが、すぐに左手で、かつての右手を掴むと、言われた通りに自らを
慰め始めた。

「はーい。一丁上がりぃー、っと」
二人の方を振り返ると、エルフの少女は一仕事終えた顔で笑いかけ、手に付いた淫液を服で拭うと、つるりと自分の顔を撫でた。
落ち着いた風を装ってこそいたが……責めていた彼女もまた、肌から蒸気が上がりそうなほど興奮していたのである。視線の先
の神女を見る瞳に欲情の光をたぎらせて、彼女を、この魔術師と同じ目に合わせたいと、同じほど乱れさせ……彼女達の主は
勿論、かの災いの王であるが……自分の所有物として屈服させたいと、そのように願った。



*とりあえず ここまで*