時は真夜中。いつも通りのスイートルームのベッドの上。隣で眠る侍にぴったりと寄り添う女忍者は火照る体を持て余して悶々として
いた。重量感のある胸をこれでもかと押しつけ、長くスラリとした脚を彼の腰に絡めてみるが、男は微動だにせずにすやすやと眠って
いる。耳に息を吹きかけたり舌でぺろぺろと舐め回してみても、耳がべとべとになっただけで、男はなんの反応も示さない。
業を煮やして侍の股間に手を伸ばそうとした女忍者だが、昨晩はそれを試みて簀巻きにされた上に麻痺させられ、朝まで放置された
ことを思い出す。がらくたになったマニフォの護符や戒めの指輪はまた買い足されているようだ。それは床に無造作に置かれた袋に
入っているはずなのだが、勝手に触ると怒られる理由がまた増えるだけだと思い直す。
代わりに自分の荷物の口紐を解いて中身の整理などしてみるが、そんなことをしてもその身に灯った火が収まることはもちろん無かっ
た。今日に限ってこれ見よがしに前合わせのローブを身に纏って眠る男が恨めしい。それで、仕方無く女忍者は侍を揺り起こす。
「りーだぁ……。リィーダァーーってば」
完全に寝入っていたはずの侍は、彼女の呼びかけを聞くと嘘のように目を覚ました。修業時代には露営をすることも多かったからか、
起きるべき場の雰囲気だけはきっちりと察知しているようだ。
「どうした?」
「寂しい」
「ん。お休み」
「寝るなぁ! こんな美人が裸で寂しがっているのだぞ。手を出さないのは士道不覚悟ではないか?」
「んー。じゃ、抱いて寝てやるから。ほら、特別に頭も撫でてやる」
「えへへ……。お休み…………じゃないッ!! それでも男か! こ、この……巨根!!」
危うく寝かしつけられそうになった彼女だが、抱きしめる腕を振り払って小声で男を罵ろうとした……らしい。多分。
「街中であんなことをするお前が悪い。それにお預けしてからまだ三日しか経ってないんだぜ」

三日前のことである。女忍者は侍に薬を盛って縛り上げ、街の路地裏で無理矢理に淫猥な行為に及んだ。その後、当然の様に彼から
こっぴどく叱られたのだが、彼女にとってはそれすらも楽しみ――のはずだった。しかし、なぜだかその後の半日分の記憶が彼女の頭
から抜け落ちてしまっている。ただはっきりと憶えていたのは "罰として十日間は一切の性行為を拒否する" と告げられたことだけ。
「でも、でも、自分で慰めるのも認めないとか酷すぎるではないか」
「ん? 別に自分でするのは禁止してないぞ。ただするたびに罰の期間が延びるだけのことだ」
「うう。人が浮気をしないと思って。私が街で声をかければ十人や二十人の男はすぐに引っかかるのだからな」
「なら、そうしてみろよ?」
「むぅ……。やだ。しない」
「じゃあ女同士ってのはどうだ?」
「それは……耐えきれなくなったらする。でも、やっぱり女の子相手とリーダーとではまた違うのだ」
「そうか。じゃ、お休み」
「うーー。ならば……せめて話ぐらいは聞いてくれないか? 少しでも気を散らせばそのうち眠くなるかも知れない」
「ん。まあ、それぐらいならいいだろ」

侍は身を起こしてベッドの背もたれに上半身を預ける。女忍者は男の肩に頭を乗せてぴったりと寄り添い掛布をかぶると話を始めた。
「えっと。迷宮にレベル6ニンジャというのがいるだろう?」
「ああ、あの首切りの出来ない忍者の格好した戦士のことか。逆にハタモトの中身が実はハイニンジャって話もあったな」
「うむ。侍のくせに首を飛ばす技を会得しているし、迷宮には他にも色々とレベルやなにや詐称してそうな輩が多いから。まあ、今は
話を戻そうではないか。似非忍者だとか散々に言われる彼らなのだが、実はあれはあれで立派な忍びなのだ。それに、そもそも彼ら
では無く彼女らなのだがな」
「あれって女だったのか? また匂いで性別判定したのかよ」
「いや。しばらく前だが、丸裸に剥いて、直接話を聞いてみた」
「ってお前、あいつらが出てくるのは五階より下の階層だろ。時々一人で迷宮に潜ってると思えば、そんなところに行ってんのかよ」
「まあ他にも色々と行っているが。しかし、全裸で迷宮を一人闊歩するというのも、慣れてしまえばなかなか気持ちの良いものだな」
「せめて闇に溶け込める色の服を着ろ。中層の魔物相手でも不意打ち喰らって麻痺や石化でもしたら終わりだぞ」
「ふふ、心配してくれるのだな。でも忍者が一人で迷宮で鍛錬するというのは、エル'ケブレスの梯子山でも行われていた伝統的なものな
のだぞ。それに、迷宮を歩くときは気配を出来るだけ殺して、少しでも危険のありそうな魔物がいた時はちゃんと忍んで遭遇を避けて
いる。東方の地の格言にある石橋を叩いて割るというやつだな。でも、上層のオークやコボルドには時々わざと裸を晒して、物陰に隠
れてハァハァする彼らの反応を楽しんだりもしているのだが。まあ、のこのこと出てきたりしたら燃やすのだけれど」
「見せつけてんじゃねえかよ! 石橋は叩き割ってねえできちんと渡りやがれ!!」
「ふふん。私の裸は自分以外に見せたくないということだな? リーダーもなかなか可愛いことを言う」
「……話を戻すぞ。で、レベル6ニンジャがどうした」
「いやん、リーダーったら。自分は私の裸どころか身体の中まで見てるの――ひひゃいっ! ひ、ひはをひっははあいえ!!」
「話を続ける気がないなら、この無用な舌は引っこ抜いても構わないな?」
侍は女忍者の口の中に指を突っ込み、彼女の舌を親指と人差し指で摘んでぐいっと引っ張り出した。もっとも、唾液で濡れた舌は簡単
にその指から外れてしまう。

「ううっ……痛嬉しい。でも、舌を抜かれたら舐めたり絡めたりできないではないか。どうせ引っ張るならこの胸の先っちょで疼いている
――ひゃっ! ごめんなさい……話を戻せばいいのだろうっ」
「わかってくれて嬉しいよ」
「むう。で、だな。レベル6ニンジャというのは、敵の懐に潜入して任務の仕掛けや暗殺をするのが役割で、くノ一というのは元来そう
いう術を会得した者やその術自体を指すのだとか。隠密として旅芸人に扮して各地を巡って情報を収集したり、時には貴族の屋敷や
商会に数年かけて入り込み、その体と性技を駆使して相手を籠絡することもあるそうだ。戦闘に特化した技術のみが伝わった、クラス
としての忍者とは、そもそもの成り立ちが違うのだな」
「へえ。まあ、それも迷宮に召喚されてしまえば戦闘に出ざるを得ないってわけか」
「首は飛ばせずとも戦闘力が無いわけではないからな。でも時には、伝来の術で冒険者をたらし込んで、あちら側に引き込むことなん
かもしているみたいだ。今では女の忍者自体をくの一と呼んだりするのだが、元々はそういうものらしい」
「そうなのか。で、それはそれで興味深い話だが、まだ話は終わりじゃないんだろ?」
「ふふん。察しがいいな。私は彼女達と楽しんで……もとい、凌ぎを削りあった末に、その術技を体得することに成功したのだ」
「そんなに簡単に体得できるものなのかよ。伝来の術って設定はどうなったんだ」
「ああ、本当は幼い頃から身体に毒を蓄積し、あそこで男のそれを腐れ落ちさせたり、問答無用で食い千切ったりと、女の部分を暗殺
に使う方法が色々とあるようなのだが、私が会得したのは直接的な肉体の使い方だけだからな。まあそれとて、これまでのエロ経験の
下地があってこそだ」
「ふーん。まあ正直、裏でなんだか怪しげな関係を色々持ってそうだとは思ってたけど。お前、最近は俺や師匠が仕込んだ以上の反応
をするようになってきたし。最近は以前とはその、なんだ、あそこの具合が少し変わってきたよな」

そう言った侍の顔を女忍者はまじまじと見つめた。視線を受けた男が見返すと、彼女の顔にはなんとも複雑な表情が浮かんでいる。
「え? 具合が変わったと言うのは、どういう意味なのだ!? 私のここはリーダーの刀をぴったりと納める鞘だと自負していたのだが、
なにかしっくりこない部分が出てきたのだろうか。どこだ。どこがいけない!?」
「なに動揺してんだよ。まあ、なんだ……前よりもっと良くなったってことだよ。しかし、心配するだけの理由があるってのか?」
「あ。ふふ、ふふふ。今、もしかして妬いたのか? なに、リーダーこそ心配はいらない。私がこれまで経験した男はあなただけだ」
「妬いてねえよ。大体、なんだよその微妙に含みのある言い方は」
「ふふーん。いいのだ。さあ、では私が体得した性の術技をこれから心ゆくまで楽しんでもらおうではないか!」
「だが断る」
「ぐぅ。なし崩しに犯ってしまおうと思ったのだが、案外手強いな。まあ実際のところ、これまで得た知識や経験と重なる技巧が多い
から、それほどに目新しいものがあったわけではないのだが。……なあ、リーダー。せめて、胸だけでも触ってはくれないだろうか。
すっごく恥ずかしいのだが、なんなら裏技を使っておっぱいが出るようにもしてあげる。正直、そういうのは好きだろう?」
女忍者は自分の乳房を鷲掴みにしてぎゅっと寄せて揉みしだく。それはもう非常に淫靡で蠱惑的な光景だった。彼女の胸が大好物だと
自認する侍にとってはなおさらのことである。
「なんだよ裏技って。そういや、前に一度母乳が吹き出たことがあったよな…………いや、いやいや。駄目だ」
「この手も駄目か。まあいい。今晩はなんだかスッキリとしたから眠るとしようか。ほら抱きしめて頭を撫でてくれるのだろう?」
「まったく、勝手な奴だな」
「キスぐらいはしてもいい?」
「軽くならいいが、舌は入れるなよ。この間みたいにまた発情されたら困るからな」

口づけを交わした女忍者の唇はしっとりと濡れていた。とりあえずは満足した様子の裸の女忍者を抱きしめて侍は眠りにつこうと試みる。
しかし、先程までの話の内容とその体に伝わる彼女の柔らかい感触とで、彼の股間のそれには血液が集中しており、自分で決めた罰に
少し後悔をおぼえた侍であった。
「……」
「……リーダー。硬いものが私のお腹をつんつんしてくすぐったいのだが」
「悪い」
「私に禁じてるからと言って、リーダーは自分でしてもいいのだぞ? それどころか、他の女の子で発散しても私としては全然構わな
いのだからな。あのエルフの女侍さんなんかどうだ? ぶっちゃけて聞くが、私がこの街に来る前に彼女とは関係があったのだろ?」
「……匂いでわかったか? まあ今更知られて困ることでもないんだけどな」
「ああ、気にはしない。でも今は私が一番なのだろう? その前提があれば私にとっては問題無いのだ」
「まったく。ほんとにお前の気持ちは重いのか軽いのか」
「あ、でも。どんな行為に及んだか後で詳しく聞かせてもらうから。いや、それも面倒だ。私が見ている前でしてもらった方が手っ取り
早いな。ああ、自分の男が他の女の子としてるのを、見ることしか出来ずに縛られて身悶えする私。狂おしいほどに求めながらも放置
され、股間からははしたなく涎を垂れ流している。ああっ……いい! これはいいぞ!! よし、今から彼女に夜這いをかけようではない
か。ああんっ、もう想像しただけでイッてしまいそうだ!」
「聞いてるこっちはどんどん冷静になっていくわ! いいからおとなしく寝ろ。あまり度が過ぎるとまた "お仕置き" するからな」

* さわってしまった *

侍の腕を振り解いてベッドから飛びださんばかりだった女忍者の動きが固まった。表情の無くなった顔には脂汗がじっとりと滲み出て、
動悸も速くなっている様子だ。
「オ……シオキ? ……お仕置き。……なんだ!? 凄く甘美な響きなのに、本能がそれに拒絶反応を起こしている。お仕置きされたい
……でも、ああっ駄目だ。なんか怖い。怖いのだリーダー。わ、私はどうしてしまったのだろう?」
「ああ、ちょっと記憶の触れちゃいけないとこに触って恐慌状態になっただけだ。司教が鑑定でミスったようなもんだな。おい、大きく
息を吸え。って、それ違う……まあいいか」
「ひっひっふー。ひっひっふー。ううっ、司教というのはこんな目に遭うのを耐えながらも鑑定してるのか」
「少しは落ち着いたか? ほら、ぎゅっとしてやるからもう安心して寝ろ」
改めて侍はまだ小刻みに震える女忍者の頭をその胸に優しく抱きしめる。
「う、うん。……ああ、リーダーの匂いは落ち着くな。あ、そうだ。あと七日我慢したら、さっきしたみたいに舌を摘んだままで、色々な
ところを弄ってもらおうかな。あの変態的な感じからはなにか新たな道が開けそうだ」
「なにを求道者的に変態行為を模索してんだよ。でもな、それは師匠達がすでに通った道だぞ」
「な、なんと! さすが母上達だ。私如きではまだまだ及ばないな。……で、誰が誰の舌を摘んだのだ?」
「下らないこと考えてないでもういい加減に寝ろ。あと何回寝る寝ないを繰り返すつもりだよ」
「そうだな……全大陸四人ぐらいの読者もそろそろ飽きる頃だ。まだエロい場面があるのではと期待させても仕方ない。では、その件
については、また今度詳しく聞かせ……て……」
彼女は男の匂いに今度こそ安心したのか、一瞬の後にはもうすーすーと寝息を立てて眠ってしまっている。意識しているのかしていな
いのか、女の唇が男の乳首を口に含んで吸っているのだが、その刺激から意識をなんとか遮断すると、侍もようやく微睡み始めた。
(とりあえず八時間も掛けた "お仕置き" の効果はあったみたいだな。しかし、くの一の性技か……。やっぱり中がもの凄い蠢き方し
たりするのか? こいつ今まででも十分にやばいんだけどなぁ。ふあぁ……。ま、なんにせよ、あそこを腐れ落とされたりしないなら、
別に構わない……か――)
男は急に強くなってきた眠気に身と心を委ね、その思考は深い眠りの中へと落ちていった。

侍が寝入ってから少し後、その隣でゆらりと起き上がる影が一つ。言わずと知れた女忍者である。上体を起こした彼女は自分の口の中
に指を差し入れると、舌先を強く掴んで力を入れてぐっと引っ張った。
ちゅぽんっという音と共にその舌が引っこ抜かれた――かのように見えた。が、女の指に摘まれているのは、舌の上に被せられていた
本物の舌に質感を似せて巧妙に作られた人工の皮膜である。
(ふう。ようやく薬が効いたようだな。なまじ勘がいい相手だけに石橋を叩いて渡らねば薬も盛れない。あまり道具に頼るのも芸が無い
が、この際は仕方ないだろう。しかし、彼女達から貰ったこの忍具はなかなか良くできた物だな。でも、舌を摘まれた時はばれたかと思っ
て気が気ではなかったぞ。リーダーにもそのうち感づかれるだろうし、この手はもうあまり使えないかな)
その偽物の舌は力を加えることで先端から睡眠薬を噴霧する事が出来る忍具だった。中に仕込まれている睡眠薬は、即効性の強力な
薬液で、本来は口や股間の粘膜から口移しで直接吸収させるものである。だが、効くまでの時間こそ掛かるが、塗布することで皮膚から
吸収させることも一応は可能だ。着用者自身は薬の効果を受けないよう、使用時には予め中和剤を飲んでおく必要がある。

女は自分の荷物から取り出した小瓶にその忍具を入れ、それを再び自分の荷物の中にしまい込んだ。そして、男のローブの前をはだ
けてその引き締まった身体に手を這わす。彼女は手始めに男と唇を重ねてじっくりとその口腔内を味わい尽くし、そしてそのまま首から
鎖骨、胸、腹へと舌先をつつーっと這わせていく。
だが、そこで女の動きが止まった。異変に気付いた彼女は男の下穿きを勢いよくずり下ろし――小さな悲鳴を上げる。
「いやぁっ! こ、これはどうしたというのだ!? さっきまであんなに逞しかったのに、これでは全然駄目ではないか!」
侍の股間はマダルトでも直撃したかのように見る影もなく縮こまってしまっていた。女忍者は口と手、胸や股間で擦り上げて刺激を与え
るが、持ち主の意識とは関係なく大きくなるはずのそれは、まったくなんの反応も示してくれない。
彼女は知る由も無かったのだが、忍具に仕込まれた睡眠薬にはもう一つの作用がある。それは、薬が効いている間は男のそれは全く
の不能、役立たずになってしまうという非勃起薬としての作用だった。元々は薬液の副作用なのだが、くの一たちが実際にことを致さず
に対象を暗殺、あるいは情報を得るためにもあって損の無い効能だったため、その副作用はそのまま残されたようだ。

女忍者は当初以上に悶々とした身体を持て余したまま、朝まで必死に侍の股間を鼓舞し続けた。が、結局は疲れ果てて彼の股間に顔を
埋めたまま眠ってしまい、薬の効果が切れて目を覚ました男に前以上にこっぴどく叱られた。その後数日は迷宮での戦闘時以外では口
もきいてもらえない有様で、罰としての禁欲期間は二十日間にまで延長されたそうだ――というお話である。


〜 了 〜