巫の専用装備の札は、不死・霊・悪魔系の敵に対して三倍打の威力を持ちますが、
他の種類の敵にはダメージも特殊効果も全く与えられない特化型の装備です。
ヒトエの札は錬金術により、戦士・魔術師・僧侶・盗賊への二倍打と睡眠の効果が付与されています。


「私はヒトエ。音楽と踊りを愛するさすらいのロマニーに憧れてます。
 今はちゃんと学んで立派な遊楽者になろうと、王都にある訓練所への旅の空です。
 この間まで冒険者の人達と一緒だったけど、色々あって恥ずかしいので一人旅に戻りました。
 旅の途中で手に入れたイノセントマントのおかげで、露出の多い衣装も恥ずかしくありません」

彼女は王都へ向かう旅の途中に差し掛かった森で狼の大群に囲まれていた。
眠りの竪琴を演奏して近くに寄る狼を眠らせ、今はなんとか凌いではいるものの、
動物相手では拳以外に直接的な攻撃手段を持たない彼女は、絶体絶命の窮地にあった。

「うう。この子達にはお札も効かないし、実家から薙刀を持って来るんだった。
 せめてモップでもどこかに落ちてればなんとかなるのにな」

狼たちはさらにその数を増し、次第に包囲を縮めてくる。
その内の数頭が牙を剥き、彼女は徒手空拳で戦う覚悟を決めた。


その時だった。突如太鼓の音が鳴り響き、大地が揺れて出来た地割れに狼たちが飲み込まれていく。

「これは、地割れ太鼓の魔法の効果!?」
「大丈夫ぅー、ヒトエちゃん。もう、探したんだから」
太鼓を手に現れたのは巫の正装、千早紅桜を纏った燃えるような赤毛の巫だった。
もう一度太鼓の音が響くと、更なる地割れが口を開き、生き残った狼たちは逃げ出していった。

「カンナ姉様。な、なんで巫女頭の姉様がここに。もしかして私を連れ戻しに来たとか?」
「あら、違うわよ。手紙だけ残して旅立っちゃうから心配して後を追ってきたの」
ヒトエは姉と呼んではいるが、カンナは実際には彼女の母の姉の娘。要するに従兄弟である。
ヒトエが余所の神社に修行に出るまで、彼女たちは実の姉妹のように育てられていた。

「私も叔母様も、あなたが真剣に考えて選んだ道なら応援するわ。だからまたいつでも帰ってらっしゃいね」
「うう、姉様。ありがとう。私、立派な遊楽者になるからね」

ヒトエがそう言って涙ぐんだ時、一陣の風がヒトエの身に纏うマントの裾を巻き上げた。
マントの中は両乳首と秘所など体の各所に退魔札を貼り付けただけの、全裸に近い格好である。
前回の話での霊の大群との遭遇後、一人旅だといざという時に装備を変える間が無いかもと思い、
マントが手に入ったこともあって、恥ずかしながらもこの格好で旅を続けてきたヒトエであった。

「あらあら、ヒトエちゃん?そのとんでもない格好はどうしたのかしら」
突然熱気が巻き起こり、カンナの赤い髪が揺らめく。なんだか周囲の気温も数度上がったような気さえする。
彼女はつかつかとヒトエに近づき、その右胸の札を摘んでビッと剥がすと、陥没気味の突起がぴょこんと飛び出た。
「ひゃん!?ね、姉様、笑顔が凄く怖いです。やっぱり私を里に連れて帰るつもりなんですね!」
ヒトエは後ずさってカンナと距離をとり、マントを脱ぎ捨てると七枚目の札を貼り付けて飛び出た右胸の先端を隠した。

(カンナ姉様の札には首切りの効果があるけど、千早紅桜はすぐには脱げないから、今はお札使えないよね)
「姉様ごめん!まだ帰るわけにはいかないの。当たっても眠るだけだから。行って退魔札!」
そう言うと、ヒトエの周囲に展開した七枚の札が、カンナを目掛けて一斉に殺到する。
赤毛の巫は抜きはなった舞刀をまさに舞うような動きで振るい、その内の三枚を瞬く間にからめ取る。
しかし、残る四枚が前後左右からカンナに迫り、ヒトエはなんとか事なきを得た、と安堵する。

そう思ったのもつかの間、カンナの懐や裾から五枚の清札が飛び出し、四枚の札を相殺する。
そして残った一枚は、ヒトエの首筋目掛けて一直線に飛び、その首に触れそうな距離で静止した。

「ひっ!」
首が跳んだと思ったヒトエは脱ぎ捨てたマントの上に尻餅をつき、退魔札は地面に落ちた。
自分の清札を服の中に戻し、刀を鞘に収めた赤毛の巫がすたすたと近づいてくる。

「ね、姉様。なんでその格好でお札が使えるの?」
「あらあら。あなたはもうサマーだというのに、なにを修業先で教わってきたの?
 札ばかり装備して、さっきみたいに札の効かない相手に囲まれた時にどうするの。
 古式で八枚まで札を身につけられるからといって、装備全部を札にする必要はないの」
「え?」
「それから、なんて所に札を貼っているの。別に裸じゃなくても札は装備できるのよ。
 服の袂に忍ばすなり、服の上から貼り付けるなりすればいいんだから」
「ええっ!?だって、修業先じゃあみんな全裸に札の装備が普通だったよ?」
「あの神社は特別というか、異常なの。どうりであなたが除霊に行った先からのお礼の手紙が多いわけね。
 最後に、いつまで丸裸で尻餅ついてるつもりなの?慎み深く隠すべきところが丸見えよ」
「!……いやあぁぁぁっ!!」



その後、彼女はとりあえず実家に戻り、巫としての正しい心構えを学び直すことになった。
それから、再び遊楽者を目指すのか、ベリーの衣装を着たセクシー巫として名を馳せるのか。
はたまた、裸に札をマントで隠した露出巫に目覚めたのかは、これをお読みの方の心のままに。