遊楽者は呪文と同じ効力の楽器を演奏でき、タロットを引いて色々なランダム効果を引き起こせます。
いわゆるロマ、昔はジプシーと呼ばれた人々のような旅する移動生活者です。



「私はヒトエ。音楽と踊りを愛するさすらいのロマニーに憧れてます。
 最近まで田舎で家業に就いてたんですけど、色々あって嫌気がさしてやめちゃいました。
 今はちゃんと学んで立派な遊楽者になろうと、王都にある訓練所への旅の空です。
 まだタロットは上手く扱えないけれど、楽器の演奏にはちょっと自信ありです。
 ちょっと恥ずかしいけど、まずは形からとベリーの衣装も手に入れちゃいました。

彼女は王都へ向かう旅の途中で駆け出しの冒険者の一団と意気投合し、道中を共にすることにした。
そうして差し掛かった古戦場でのこと。彼女たちは亡霊の大群に囲まれ、絶体絶命の窮地にあった。
対霊のスペシャリストである僧侶が不意打ちで麻痺させられ、打つ手はもう残り少ない。

「くそっ!武器さえ通用すりゃ俺だって」
「なあ、遊楽者の嬢ちゃん。あんた聖なる笛は持ってないのか?」
「ごめんなさい。私、眠りの竪琴だけしか」
「数が多すぎる。俺の魔法ももう限界だ」
「イロイさえ麻痺してなけりゃなんとかなるものを」

霊たちはさらにその数を増し、次第に包囲を縮めてくる。
その内の数体が魔法の詠唱を始め、みながもう駄目かと思った。


その時だった。突如パーティーの周囲を強固な結界が包み、魔法はそれを放った霊達に跳ね返っていく。

「これは、巫の持つという対魔法結界?」
「ああ、もう仕方ないか。これが嫌で実家を飛び出して遊楽者になろうと思ったのに。
 みんなは私が守るから、お願いだからちょっとだけ目を瞑ってて。どうかお願い!」


そう言いだしたのはヒトエだった。もうどうにでもなれと冒険者達は言われるがまま目を瞑る。
すると彼女は着ていたベリーの衣装や履いていたサンダルを脱ぎ捨て、一糸纏わぬ全裸になった。
華奢な上半身に対してボリュームのある下半身。肉付きのよいややむっちりとした太腿。
下腹を覆うやや濃いめの金色の繁みが、その秘所を包み隠している。

近づいてきた霊を素手で殴り飛ばすと、一瞬霊達が怯んだ隙にポーチから掌大の紙の短冊を取り出す。
呪文の書かれたその紙−退魔札−を、まずは隠すように両胸の先の陥没気味の先端と秘所に張り付ける。
そして額・両足に張り付け、残った二枚は両手に持って、八枚のお札をその身に装備した。

「逝っけえー!」
彼女のかけ声と共に八枚のお札がその身体から射出され、霊達の群にむけて殺到する。
札は縦横無尽に跳び回り、それに触れた霊は為す術もなくかき消すように消滅していった。
ほんの十数秒のうちに、霊達の大半が消滅し、残った霊も逃げるようにその姿を消していく。
役目を終えた札は再び彼女の元へと舞い戻り、その身を覆うように体の各所に収まった。

「す、凄え。色んな意味ですっげえ!」
最初に声を上げたのは、緊張に耐えきれずに薄目を開けていた狩人だった。
その声で目を開けた仲間達は、あっけに取られたように裸に札という斬新な格好のヒトエを眺めていた。

「きゃー!目は閉じててって言ったじゃないですか!」
ヒトエが叫ぶと札は再び宙を舞い、今度は冒険者達に対して襲いかかった。
紙なので当たってもさして痛くはないものの、錬金術によって込められた力により、
札に触れた冒険者達はまとめて眠りについた。

「くすん。だから巫なんて嫌なのよ。だから家業は継がずに気楽な遊楽者になりたかったのに」
巫は守りの僧侶に対する攻めの神職。霊体に対して絶対の攻撃力を持ち、
対魔法結界を駆使し、神に奉納する神楽のために楽器の演奏にも習熟している。
そしてその道を極めたサマーと呼ばれる者達は、その身全てに退魔の札を装備する古式により、
霊体を徹底的に殲滅することを可能とするのである−−全裸だけど−−