* ドグシャアァ! *

フラックという個の保存と、長期休養中の彼の代役となるフラックスーツ運用を目的として魔物有志により設立されたフラック財団。
執務室の片隅にわき出たGを彼女は無造作に蹴り飛ばし、石壁に叩き付けられたそれは腹を見せてヒクヒクと痙攣していた。
「あー、もう。またこいつらなの?一匹見たら百匹いると思えとはよく言ったものね。まったく鬱陶しいものだこと」

* * *

時は夜更け前。迷宮の入り口は閉ざされ、居残っていたパーティーも、各々転移の魔法で迷宮を後にした頃である。彼は迷宮第一層に
ある住処と定めた玄室で惰眠を貪っていたところを、叩き起こされた。
「……君か……あと気分」
「気分で寝てんじゃないわよ。なに?まだ夜中にもなってないじゃない。夜行性の魔物がこんな時間から寝てると駄目になるわよ」
「いやいや。僕は君達と違って日中は冒険者を教育してるんだぜ。それに迷宮の中で夜行性だのなんだの意味はないさ……。あー……
って、君はなにをしてるんだい?この迷宮のそれも第一層なんかに顔を出してちゃいけない身分だろう」
「冒険者だか探索者だかなんてとっくに街に帰ってるわよ。それに、もし見られてもこの部屋ごと吹き飛ばしちゃえば問題ないわ」
「おいおい。そんな理由でこのささやかな僕の城をキリングフィールドにしないでくれよ……で、なんなんだい?」
「ちょっとね。センターに湧いた害虫を駆除して欲しいのよ」
「ああ、もうそんな季節だったね。また結界が少し綻びているのかな?でもそんなのは君の部下にやらせるか、もしくは君自身でやり
ゃあいいだろ。しっかし、そんなことのためにわざわざ君がここまで出向いて来たとは驚きだね」
「勿論、部下達にもやらせてるけど、その結界の修復もあって忙しいのよ。それに私はあいつらを見るのも嫌なの。いつの間にかそこ
にいるし、なんか固そうで無駄にしぶとくて、生意気に羽なんか生やしてこっちに飛んで来たらと思うと、もう最悪」
「そいつはご愁傷様。じゃ、お休み」
「……あらそう。でもね、お願いしてるわけじゃないの、強制。まあ、受付の娘達は貸してあげるから、お願いね。えいっ」
「っ、ちょっ。うわあっ!もげる。もげるって!」
股間の一物を捻り上げられ、それを手綱代わりに連行されるマーフィーズゴーストだった。

* * *

剣戟の音や爆発音が飛びかう中、召喚を終えたばかりのマーフィー先生は、床に描かれた召喚魔法陣を前に一息着いていた。魔法陣の
中には青白く光る死霊、アンホーリィテラーが三体控えている。
「じゃあ君達、あとはよろしく頼むよ。ああ、分かってるとは思うけど絶対に一人でGを相手にしちゃいけないよ。召喚で底上げして
るとは言え、君達はその特性を生かして三人で連携してこそ、あれに対抗できるんだからね」
「マーフィー先生は心配性ですね。私達だってもう、あれを前にキャーキャー可愛く逃げ回っていた、か弱い乙女ではありませんよ」
「あ、そ。じゃ、あとはよろしくね」
「って先生どこに行かれるんですか?私達に任せて自分だけ逃げようだなんて思っていませんよね?」
「僕ぁ眠いんだよ。だから部屋に戻って一眠りするよ」
「まったくもう、この死せるがらくたは……。明日の休みは三人一緒ですから、その時にたっぷりとお返ししてもらいますからね」

* * *

「また、いましたよ。もう大分数も減ったと思うのですが」
「そうですね、もう少し頑張りましょう。では、テラーさん。あいつの正面の影に潜んで、逃げ道を塞いでください。アンさんは闇に
同化して、いつでも動けるように待機。私が後ろに回り込んで、テラーさんの方へ追い込みますから、タイミングを見てアンさんから
いってください」
「わかりましたっ。ではみなさんお気をつけて」

すでに数匹のGを見事な連携で退治していたアンホーリィテラー達は、通路に潜んでいたそれを見つけると、簡単に打ち合わせを済ま
せ、行動を開始する。背後から忍び寄るホーリィの気配に気付いたものか、逆方向へと移動するそれの行く手をテラーが塞ぎ、一瞬動
きを止めた隙に影から染み出すように現れたアンが襲いかかる。それに合わせて残る二体も一斉に飛びかかった。

* ズッギュウウゥゥゥン *

巨大な蒼い体躯を持つ悪魔グレーターデーモンに取り憑いた三体は、被召還時にのみ与えられる三レベル相当のエナジードレインで、
悪魔の精力を吸い取りにかかる。先手を取ったアンは、その暗い影の中にがっぽりと口を開いた膣口で悪魔の巨大なそれを咥えこむ。
人成らざる死霊の、実体無き身体だからこそできる行為である。正面のテラーは、アンの身体には収まりきらないそれの根元を両腕で
抱え込み、おもむろにかぶりついたかと思えば、その口から直接精力を吸い出しにかかる。
そして、背後のホーリィは自らの秘所に添えた手を小刻みに動かしたかと思うと、見る間に肥大化した男のそれがその股間に固くそそ
り立つ。彼女はそれを、厚い外皮と岩のような筋肉に覆われた悪魔の、そこだけは柔らかい尻穴へとえぐり込むように突き立てた。

攻防と呼ぶにはあまりに一方的な二ターンの蹂躙の後。精気を吸い尽くされた悪魔はその存在力を失い、自らの次元へと逃げ帰ること
も出来ずに消滅した。
「さ、二人とも。次に行くわよ。ついてらっしゃい」
「あー。ホーリィさん、またスイッチ入っちゃいましたねぇ。なんかもうつやつやしてますよっ」
「はい。もうすっかり仕上がっちゃってますね。これは明日はマーフィー先生が昇天するのを見送ることになるかも知れません」


星の運行によりフラックセンターの結界が一時的に弱まる季節。その結界の綻びから、召喚されてもいないグレーターデーモンが、次
元を越えて転がり込んでくることがある。そのたびごとに繰り返される騒動から、センター詰めの魔物達はそれを「Gの季節」と呼ん
でいる、という話である。



〜 了 〜