酒場で一人酒を飲む私に犬が声をかけてきた。
「お嬢さん、隣いいですか」
 ギロリと一睨み。私は自分で言うのも何だが、それなりに美人の方だ。
 だからか酒場で一人で居れば落とせると勘違いしたバカがくる。
 美女の集まったパーティに居るというのも要因だろうか。
「座りますね」
「空いてるとは言って無いんだけど」
 私の発言になど構う事も無く隣に座る犬。ラウ…なんとかって種族だったかな。
 ニコニコと笑みを浮かべた犬は私など気にせずに酒を頼み始めた。
「まぁ、お気に為さらずに。ホビットさん」
「席なら空いてるんだから他に行ってよ」
 犬はチラリと私に視線を送ってきた。何とも気にくわない犬だ。
 屈強な体と腰に差した長剣。前衛職のようだ。
 対する私は盗賊。ホビットらしい職選びだと言われる。
「いやぁ、実は罰ゲームなんですよ」
「はぁ?」
 聞けば早飲みで負けて私の所属するパーティの誰かを口説いてこいと言われたらしい。
「それで私を口説く理由は?」
 この犬は口説くつもりがあるのか無いのか、ただ淡々と酒を飲み続けている。
 こいつ属性は善かな、とか思っていると犬が理由を喋り出す。
「貴女なら怪我しない程度に引っ張叩いてくれそうですから」
「何それ」
「誰を口説いても断られるなら、酒の肴になりやすい人を選んだだけですよ」
 確かに、うちの侍や君主は口説いた瞬間ぶっ飛ばしそうだ。司教は論外。私に来るのも分かる。
 しかし、断られるの前提で来るのか。私も普通の恋愛をしてみたいのだけど、普通の男は寄り付けないのかな。
「というわけで一思いに引っ張叩いて下さい」
「そうね」
 私は振りかぶった手を犬の頬に当てた。
「あれ」
「…つまんない…」
 触れた所で手を止めた。
 今日は鬱憤を晴らしに来たのにこんな事をしていたらもっと鬱憤が溜まるじゃないか。
「あんた、付き合いなさいよ!」
「おや?」
 私の行動に当惑し、目を点にする彼を無視して店主を呼びつけた。彼の杯が空になっているのを見て、店主に私と彼の分を注文する。
 運ばれて来たのはキツイ酒だ。普段なら飲む事も無いのだが今日は無性に飲みたかった。
「あのー、これは」
「私に話しかけた罰よ! 私の愚痴に付き合いなさいよ!」
 あぁ、酔ってるな私。そう思いながらも自制心の無くなった頭は、犬の頭を引き寄せるように腕を回す。
 軽く鼻をつく不快ではない程度の獣じみた匂い。
 室内で動物を飼った時に染み付く匂いに近い。
「んぐんぐんぐっ。もういっひゃい持ってきなしゃーい!」
 呂律の回らない口で次の酒を頼み、来るまで目を閉じた。



 目を開くと私は見知らぬシーツにくるまれていた。
「うぐぅ……頭痛い」
「飲めもしないのに飲むからですよ」
 声のする方向に視線をやるとソファで毛布だけかけた犬がいた。
 あぁ、確か彼は今まで飲んでいた相手のはずだ。
 曖昧な記憶と苛む頭痛の中で今の状況を確認する。
「ここどこ」
「酔いつぶれた女性をそのままにも出来ず、宿に部屋を取りました。安心して下さい。酔った相手に手を出す趣味はありませんので」
 犬は紳士を装い、私に水と薬を渡す。
「バカにしてるの?」
「いいえ。吐かれた後始末が大変だっただけですよ」
 吐いた記憶は無い。
 不満に思いながらモソモソと這うようにシーツから出た。急に外気に晒された私は冷えた体を暖めるように自分の体を抱き締める。
「って…きゃぁぁぁあ!」
 慌ててしゃがんだ。一糸纏わぬ……とまでは行かないがパンツしか履いて無かったのだ。
「吐いた後始末が大変でした」
「なっ、あんた私に何したのよ」
 犬はこちらを見ようともせずに答える。目を閉じて昔を懐かしむように話す姿は……なんかムカつく。
「汚れた服を脱がし洗濯へ、私も汚れたので着替えて湯浴みして。あとは夜も遅いので仮眠をしていただけですよ」
 淡々と敬語で話すその姿にムカついた私は思わず犬の頭を掴み顔を向けさせる。
「あんたレディに何てことするのよ! それに話すときはこっちくらい見なさいよ!」
「……では隠して頂けますか?」
 彼の視線が私の顔では無く少し下に向かう。その視線の先には小さな膨らみがあった。ホビットの宿命、ボンキュボンには絶対にならない体。まぁ、そんなナイスバディのホビットは怖いとも思うけど。
「隠す?」
 彼は何を言っているのだろうか。
 あぁ酒がまだ頭に残っていて上手く頭が回らない。
「ひゃぁぁぁあああ!」
 気づいた。
 私は何を裸で言ってるんだ。こちらを見ろと言われて彼が困るのも頷ける。これじゃ誘ってるみたいじゃないか。
 彼は私の体を隠すようにタオルをかけてくれる。どこまでも紳士然とした態度だ。こいつが善だからか?
「その、早く服を着て貰えませんか」
「何よ! 裸にしたのはあんたでしょうが!」
 叫べば何とかなる訳でもないのだが、叫ばずにはいられない。
 まさか酔いつぶれるとは思わなかったし、誰かに迷惑をかける程飲むつもりも無かった。
 たまたま相手が居たから甘えてしまったのかもしれない。変な事を言って無ければいいのだけど。
「はぁ、まぁそうですが」
「……あと私が昨日何か言ったとしても忘れて」
 彼は悲しそうな顔をした。あぁやっぱり何かトンでも発言をしたに違いない。
 恋人募集中とでも叫んだだろうか。それともエッチしたいとか?
 それは無いか。
「忍者になりたい、というのもですか?」

 私は中途半端にスペルを覚えている。それは前職の魔法使いだった時の名残だ。全て覚えた訳でもないのに盗賊へと鞍替えした。
 魔法使いで魔法を打ち放つ……何となくその姿に惹かれてなってはみたがピンと来なかった。その時だ、忍者に出会った。素手で手刀で敵を撃つその姿に心を奪われた。
 だが、私は忍者には転職出来なかった。中立の私にはどう逆立ちしても忍者になる事は出来ない。
 だからせめて罠の解錠だけでも、と盗賊に。そんな気持ちで盗賊になったのだ。
「なんで、あんたが、それを、知ってるのよ」
 二日酔いと秘密を知られた衝撃で途切れ途切れになりながら言葉を紡ぐ。
 少し困惑した彼は私の頭を撫でながら優しく教えてくれる。
「覚えて無いんですね。昨日お酒に飲まれながら色々教えてくれたんですよ?」
 あぁ、昨日の私を引っ張叩きたい。
「忘れなさいよ」
「難しい……です」
 あぁムカつく犬だ。コイツは私を笑い者にする気に違いない。あのパーティのホビットは忍者になりたがりで、すぐ酔いつぶれて……魅力は無いわ、裸を隠そうともしないわ。
「どうせ、あんたも!」
「はい?」
「私を、笑い者に、馬鹿にしたいんでしょ!」
 溢れだした激情は止まる事も無く、全てを出しきろうと吠えるように彼にぶつかって行く。
 彼は困惑しながらも私が全て出しきるまで見つめ続けてくれる。
「中途半端なスペル持ちだし、忍者になれなくて盗賊なんてしてるし、彼氏も出来ないし、魅力もないし、ちんちくりんだし……私、なんて」
 そこから先は言葉になんてならない。涙を流しながら惨めな自分を呪うような嗚咽が出た。
 毛むくじゃらな手が私の頭をあやすように撫でてくる。
「魅力たっぷりじゃないですか?」
「嘘っ、つくな。魅力が無いから、彼氏もいないのよ。こんな、ちんちくりんに、彼氏なんて」
 それに、彼は目の前に裸の私がいるのに手出しどころか、嫌そうな目付きで私を見ている。
 魅力の無い、ホビットの子供みたいな体に、犬ですら嫌がっているのだ。
「分かりました」
「何が分かったってのよ」
 キッと睨み付けると私の体が空中にフワリと浮いた。いや彼が私の体を持ち上げたのだ。
 動揺する私を他所に彼はベッドへと私を寝かせる。
「えっ、ちょっとあんた、何をっ」
「魅力があるって、しっかりと教えてあげますよ」
 彼は私の唯一の砦だったタオルを剥ぎ取り、自分の着ていたバスローブごと床へと投げ捨てる。よく鍛えられた戦士の身体、身体には犬のように体毛が生えていた。
 視線は彼の身体を確認するように上から下へと下りていく。そして、一点で止まってしまった。
 私の拳二つか三つ分にまで伸びた、硬くて太くて雄々しい赤黒い器官。
「もう我慢出来ない……」
「ちょ、んっ。何するの」
 彼の手が小ぶりな私の胸を撫で付ける。ひんやりした肉球が、刺激を受け膨らみ始めた乳首に触れる。
 獣欲では無い、優しいけど切羽詰まった欲求に彩られた目は私を真っ直ぐに捉えていた。
「んあっ、やめなさ」
「抵抗したらダメですよ」
 ペロリ。
 ざらざらした獣の舌が私の胸を撫でる。
 堪らず声をあげるが彼は止める処か、更に舌を絡めて絞るように舐め始めた。
「ひぁっ、あっ、ふぁ」
 漏れる声は快楽に悶え、抵抗しようと振るう腕は力なく彼の背に回される。
「んっ。そこはっ、いひゃぁ」
 彼の指が触れたのはぐちゃぐちゃに濡れた蜜口だった。
 侵入を拒むべき門は開き、彼の指を難なく受け入れる。
「んぅぅっ、あっ、ふぁあっ」
 首筋にかかる荒い息。
 視界にはびくびくと動く巨大な逸物。
 蕩けきった頭は我慢が出来なかった。
「ねぇ、きて?」
 彼が生唾を飲み込む。
 そして猛々しい牡が濡れた蜜口を割り入ってきた。
「あふっあ、んぁぁぁぁぁ」
「ぐるる……」
 ギチギチと音が鳴りそうなくらいに長大な物が私の中を貫く。
 なんとか奥まで受け入れたと思うと、蜜口近くまで引き抜かれまた最奥に突き刺さる。
 その度に長いため息に似た喘ぎ声をあげてしまった。
「あっ、はぁっ、あぁぁぁ、んっ、あぁぁぁ」
「ぐるる、ぐるる……」
 私に覆い被さりながら喉を鳴らす彼は動きを速めていく。突かれる度に喘ぐ声は大きくなり、彼の身体を抱きしめる力を強くする。
「あっ、やっ、いく。いっちゃうの、やぁっあっ」
 私の声が聞こえたのか、限界だったのか、彼の動きは急に荒々しくなり、最奥を抉るように突き入れてきた。
 突き入れられた瞬間、私は絶頂へと達した。
「ぐるるっ、うっはぅ」
「やっんぁぁぁぁぁ」
 怒張した逸物から白濁液が流れ私の中を犯していく。
 私達はしばらくそのまま抱き合った。
「中、出していいなんて言ってないんだけど」
「ごめんなさい。魅力的過ぎて、つい」
 彼は本当に申し訳なさそうに項垂れる。その姿が可愛らしくて、ついつい頭を撫でてあげた。
 すると嬉しそうに目を細め手を私の手に重ねる。
「付き合って下さい」
「ばかぁ、順番が逆だろ」
 怒っているけど、その口調はどうしても強く出来ない。彼と付き合うつもりになったからだろうか?
 ふと、この段階になって知らなくてはならない事を知らない事に気づいた。
「そうだ、あんた名前は?」
「ゾゥフですよ、プリムラさん」
 プリムラは私の名前である。
 って名乗った覚えは無いのにどうして知っているのだろうか。
「昨日、酒場で名乗ったのに忘れちゃったんですね」
「うっさい! って、ひぁっ、あっこら、何動いってぇん」
 刺さったままの彼の逸物が、なんかまた大きくなった。
 しかも動いてるし。
「チェックアウトまで時間がありますし、ね?」
「ねじゃなっ、んぁっ、こらっ。そんなっ激しっ」
 もしかして、私はトンでもない男と付き合ったのかもしれない。

Fin.