女忍者は最下層の起点となる第一エリアの廊下を、宿を飛び出したままの一糸纏わぬ素っ裸で行きつ戻りつしていた。
そして鋼繊の如く引き締まったその忍びの身体とは対照的に、魔術師だった頃の肉体の名残を未だ残す豊かな双丘が、
なにかしらの効果音でも付けたくなるように躍動し、歩みを一歩進めるたびにそれはもう揺れに揺れて揺れて揺れている。
実のところは彼女自身にとっても全裸というのはさすがに恥ずかしいのだが、そこはまあ迷宮の下層階のこと。
他のパーティーと出会うこともそうあるものではなく、開き直って我が家だとでも思ってしまえばさして気にならなくなった。
そして、自分以外に誰もいない空間では、なんとなく人は独り言を呟くことも多くなるものである。
「ポイゾンジャイアントの出現域は確かこの階だけだったか。だが……今朝のジャイアント達はなぜ九階にいたのだろう?
まあ、浅学非才な私が知らないだけで、いつの間にかあちらにまで活動範囲を広げただけなのかも知れないが。
しかし、最下層となると一人で探索するのはさすがに無謀だろうな……」
彼女はポイゾンジャイアントを捜して今より一つ上層の第九階層を散々彷徨ったあげく、自らの単純な勘違いに気づいてこの階へと下りてきたのだった。
最下層ともなると生息するモンスターの危険度は加速度的に跳ね上がる。マスタークラスの忍者とはいえ、まだその強さは人の域を出ない。
前職で魔術師呪文をも極めてはいるのだが、武器も防具も身に着けぬまま単独で猛進するほど自らを過信してはいなかった。
「んーむ。やはりここは街に帰ろうか。先輩……いや、リーダーも心配しているかも知れないことだしな」
そう言葉にすることでわずかな未練を断ち切り、街への転移魔法陣のある方向へ彼女が踵を返そうとしたときだった。
* おおっと *
「あひゅぅんっ!」
背後から突然その尻に触れられ、彼女は悲鳴を上げて固まった。しかし戦闘機械とさえ言われる忍者の身体は即座に反応し
自分になんの気配も悟らせずに背後を取り、あまつさえその尻を撫でた相手へと、振り返りざまの手刀を見舞った。
だがしかし。確かに首を刎ね飛ばしたと思った手刀は空を切り、その軌道の数ミリ先にいたのは派手な色合いの服を着たアンデッドだった。
「うわあっ!待った待った。僕なんか殺ってもたかだか4450点にしかならないって!
ほら、見たこと無いかな!?初級冒険者の友であり指南役、みんなのマーフィー先生、マーフィーズゴーストだよ」
「私はこの街に来た時には既にマスタークラスの魔術師だった。だからお前みたいな破廉恥なアンデッドのことなんか知らない!
いや、仮にお前が私の生き別れの兄だったとしても、一回触るにつき500GPを払わない限りは許しなどしない!」
「ちょっ、ちょっと待ってくれって。そんなに足を振り上げたら!それならなんとか払えるから!ほら……足りた!はいちょうど500GP」
「うむ確かにちょうどだ。でも一日に一回限定だからな。もしまた触りたければ明日来てくれ」
「本当に許してくれるんだ……。しかし500GPって傷薬でも買うのかい?」
「いや、苦痛の巻物だ。それはともかく、マーフィー先生がなんの用なのだ?友好的に接するというのならこちらは立ち去っても構わないぞ?」
そう聞くと、マーフィー先生は女忍者の肢体を鑑定するように視線を這わし、なにかを見透かした風な雰囲気で口を開いた。
「へえ。見逃してくれるってことは、きみは悪の属性じゃあないのかい?善ってこともなさそうだから、アイテム転職組の中立なのかな?
それなら、正式に忍者の訓練は積んでないとしても、重心の動かし方や足の運びから察するにマスターレベル相応ってとこだよね」
「ほう……凄いものだな。ほぼ性格に言い当てているぞ。マーフィー先生というのは確かLV10ぐらいの魔物だったと記憶しているが、
魔物も見た目やレベルで判断してはいけないものだな。それともマーフィー先生を装って感心させて私を惑わす悪魔の類か?」
「いやいや。僕は見たまんまのしがないマーフィーズゴーストさ。で、最初の質問に答えると、そう、僕は頼みがあってお嬢ちゃんに声をかけたのさ。
いや、性格には尻を撫でたかな。まあそれはさておき、ものは相談なんだがお嬢ちゃん。一つ仕事を引き受ける気はないかい?」
「仕事?んー。これから街に帰ろうと思っていたところなのだが。とりあえず魔法陣のところまで歩きながらでよければ、その間に話を聞こう」
マーフィー先生はそれにうなずき、魔法陣のある方角に向き直った彼女の少し後ろについて歩き始めた。改めて後ろから観察あるいは鑑賞してみれば
無駄な肉の無いウエストは綺麗にくびれ、尻は丸みをおびながらもその肉は高く引き上げられており、腰のあたりにはえくぼのような窪みがうかがえる。
肩胛骨は長めの黒髪に隠れてはいるが、あの乳房を持ち上げていることから想像すると、それはさぞかし芸術的なラインを描いていることだろう。
「しかしなぜ私なのだ?もし成仏させて欲しいのなら、私が首を撥ねてあげても構わないが、そういう話なら僧侶にディスペルでもしてもらえば……」
「いや。君を忍者、それも中立の忍者だと見込んで頼んでいるんだ。本当は他の娘に頼んでた仕事なんだけど、彼女は本業の迷宮探索中にしくじって
カント寺院に運び込まれたらしくってね。急遽代役が必要になったからどうしたもんかと思っていたとこで君を見つけたわけだ。もちろん報酬はきちんと払うよ」
「昨日というと……ああ、あのパーティーの。しかし、それはどういう仕事なのだ?報酬はともかくまず内容を聞かなければ返答はできないぞ?」
「もっともだね。まあ守秘義務ってやつがあるからここでは詳しいことは話せないけど、大雑把に言えばその身体を使って冒険者の相手をする仕事。かな」
「身体を使ってというと、やっぱりああいう仕事なのか?この格好でいうのもなんだが、いまは私には決めた人がいるから仕事でそういうのはちょっといただけない。
しかしマーフィー先生がそれ程に困っているというのなら、彼さえ許せば六人までなら相手にできると思う」
「うーん。相手にするとしたら六人ってのはありえるけど、ああいう仕事というのかどういう仕事という話はやっぱり場所を変えないとできないね。
ただ、万一なにかあっても回復や蘇生をして心身共に健康に帰ってもらうことは保証するよ。あと、報酬の件だけど。なにぶん急な依頼ではあるし、
そうだねえ……お嬢ちゃんは忍者だから、シュリケン二枚あたりでどうかな?」
といったところで二人はこの階層の入り口脇に設置された魔法陣のところへたどり着いた。
「シュリケン?それはあのシュリケンなのか?シュリケソやツュリケンではなくシュリケンなのだな?」
「そんな剣の名前がバだったりパだったりするような真似はしないさ。ちゃんと不確定名は武器。ちゃんとしたしゅりけんで手裏剣だよ。
ああ、最近では不確定名は星形のものともいうようだね。まあレアではあるけど値段は安いから、もっと売値の高い破邪の指輪なんかでもいいよ?」
「んん…………このタイミングだと物欲に駆られたように思われてしまいそうだが、詳しい話を聞いてからでも断れるのならついていこう」
「本当かい。そりゃあ助かるよ。もちろん話を聞いた後で断られてもそれは仕方ない。ただ、さっきも言ったとおり守秘義務ってやつがある内容なんで、
口外すると命に関わるペナルティーがついちゃうよ?口の重さに自信がないなら、依頼の記憶を消してから帰ってもらってもいいんだけどね」
「いや、大丈夫だ。受けるにしろ断るにしろ、聞いた話はロストするまで他言せずに持っていく覚悟だ。で、話はどこで聞けばいいのだ?」
「じゃあとりあえずは一階にある僕の寝床へ戻ろうか。僕の部屋に隠し部屋へと通じる仕掛けがあるのさ。ああ、心配はしなくていいよ。
僕はこれでも紳士だから妙なことはしないさ。そもそも、もし僕がお嬢ちゃんに妙なことをするつもりでも、色んなところを撥ね飛ばされて終わりだしね」
マーフィー先生はそんな軽口を叩きつつおもむろに自分の髪の毛を捲り、その下から転移の兜を取り出すとアイテムの効果を発動した。
そして彼らは最下層から姿を消した。
(もう今日のワードナの営業時間も終わった頃か。しかし、まだ戻って来ないってことは本当に最下層に下りてくたばっちまったんじゃないだろうな。
少なくとも十階の玄室に突っ込む前には戻ってくると踏んでたんだけど、さすがに遅すぎる。あいつは言動はあんなでもあれでいて常識はわきまえてるし、
頭が冷えれば素っ裸で街中を普通にうろついたりはしない……はずだから、まず部屋に戻ってくるはずなんだけどなあ……はずだよな?)
女が窓を突き破り飛び出して行ってから数刻後、破れた窓もそのままに男は寝床に仰向けに転がって物思いに耽っていた。
ふと気付けば傾いてきた陽が部屋に差し込み、スイートルームの白いシーツを紅く染め始めていた。
「あー。行くしかないか。最悪でも死体だけ回収すればなんとかなる。しかし、今日はあいつらは酒か女でもう使い物にならないだろうなあ。
二人ともくたばっちまうとなんだけど、アレを持ってくから万一の時はついでに回収しに来てくれるだろ。でも伝言だけは残しとかないといけないよな」
男はいつものローブ−女が街に来てからの標準装備−を身に纏って宿を出た。壊れた窓の修理依頼と代金の支払いも忘れない。そしてその足でボルタックに向かった。
「やあ旦那。預けてた装備は無事に残ってるかい?まさか売り飛ばしたりしてないだろうな」
「なんだ、ようやく前衛に復帰する気になったか?しかしこのボルタック商店の信用も落ちたもんだな。こちらもきっちりと預かり料を受け取ってるんだ。
もし相手が城に盗みに入れる連中だったとしても、ここの貸し倉庫から預かり品を持ち出すようなことはさせないさ。特にお前さんの荷物はあれだしな」
「まあ信用してるから高い金を払ってるんだ。あと、そのうち前衛には復帰するつもりだけど、当分はまだ後衛のままさ。じゃあ、試着室を借してもらうぞ」
「ああ、好きに使ってくれ。……ところで、やっぱりその装備を売るつもりはないか?」
迷宮に入った男はマロールの呪文で入り口から下に八、北に二、東に八の地点へ正確に転移し、そのまま最下層へのシュートへと身を投じる。
玄室ではもしグレーターデーモンとでも遭遇すればハマンやマハマンを使うことも辞さない考えだったが、運にも恵まれたのか難敵には遭遇せず、
大半の敵は戦闘開始直後のティルトウェイトで殲滅することが出来た。運悪く生き残った敵もマダルトや近接攻撃により追い打ちをかけて一掃する。
そしてワードナと闘うつもりの無い者にとってはこの階層の終着点に当たる第六エリアへと、ほぼ無傷で辿り着いたのだった。
(よし。いざというときのマロールとマハマンはまだ残ってる。第五エリアまでは戦闘の痕跡は残ってたが、あれは単独での戦闘って感じじゃなかったな。
もしかしてあいつ、本当に裸忍者に目覚めて街を走り回ってるんじゃねえだろうな……ん?いや待てよ。今朝ジャイアント共と遭遇したのは第九階層だったっけ。
なんであんなところに奴らがいたのかは知らないけど、あいつ勘違いして上の階層をうろついてるんじゃないだろうな?)
その時、男は通路の先から女の気を感じた。かすかではあるが慣れ親しんだこの気は間違えようがない。少なくとも死体として連れて帰ることは避けられそうだ。
男は思わず安堵のため息をつき、次の玄室へと心なしか足を速めた。しかし短時間での連戦とその勝利による疲れと緩みもあったのだろうか、
扉を開けた時の自分の心に、熟練の域に達した冒険者としては迂闊ともいえる、油断と焦りがあったことを彼は身を以て思い知る。
扉を開けた瞬間に玄室は視界が真っ白になる程の冷気の渦に巻き込まれた。その威力はマダルトの比ではなく、近年開発されたその上位呪文ラダルトに匹敵する激しさだった。
しかし普通の魔術師なら即時に絶命するであろうその冷気に男は耐えきった。だが、まだ白く曇る玄室の中、男の耳に聞こえたのはこの場では最悪に類する音であった。
シャィン!シャン!シャンシャン シャンシャンシャン
錫杖が立てる金属音が響き、ようやく視界が回復した男の目に映ったのは緑の道化服に身を包み、醜悪な老人の面を被った小男。
「このタイミングでフラックかよ!しかも先制でブレスなんて、僧侶も君主もいないってのにこいつはまずいにも程があるぞ!!」
すでにフラックは大きく息を吸い込んで次のブレスを吐く体制に移っていた。この状況では特効薬を浴びたところで不利になるばかりである。
とにかく相手より早く少しでも多くの体力を削る、しかも自分の残りの体力を考えると極力一撃で仕留めるのが男が生き残る方法であった。
彼は腰に帯びた魔術師には重すぎるであろうその「ぶき」の柄に手を掛け、意識をその一点に集中した。
一瞬の後、男が鞘から刀を抜き払うと鍔鳴りが起こり、収束された気は細い線となりフラックを両断する……はずだった。
が、刀を抜く瞬間に感じた気が彼の集中を一瞬乱し、剣筋の狂った一閃はフラックの肩を裂くに留まり、玄室には再び冷気のブレスが充満した。
肩に傷を負ったフラックは足音も無く男に歩み寄り、顔も動かせず仰向けに倒れたままの彼にも相手が見える距離まで近づいてきた。
自分に止めを刺す相手の顔をよく見てやろうと、彼がフラックの老人の仮面に目をやると、その醜悪な笑顔の方も彼の顔へと視線を向けていた。
(……掠めただけでも案外体力は削れたみたいだな。出来ればこのまま放っといてくれれば、回復の指輪の効果でなんとか持ち直すんだけど……。
やっぱりそう上手くはいかないみたいだな。あーそういえばさっきの気。あいつももしかしてこの部屋で倒れてたりすんの……)
「かなあぁぁっっっってオイ!?」
その時だった。フラックは男の足下にかがみ込んだかと思うと、彼が鎧の上から着込んでいたローブの裾をはだけ、そのズボンを下着もろとも
ずりおろした。そして数秒の静寂の後、鎧の下を探って特効薬を取り出すとそれを口に含み、冷気で血色を失い縮こまった一物を握ると
あろうことか人の数倍はあるその長い舌を使って絡め取り、仮面の下の口へとくわえ込んだ。
「ちょっと待てぇえぇぇぇっ!!」
叫びと共に、あまりの状況に処理が追いつかなくなった男の脳は一時的に機能を停止し、彼は昏倒した。
……どれほど時間がたったのだろうか、気を取り戻した男の目には更に予想外の光景が映っていた。
フラックは男の腰の上に馬乗りになり、激しく尻を弾ませ腰をくねらせている。だが、男の一物が感じるその感触は紛れもなく女性の秘唇のそれだった。
「……フラックってのは女だったのか」
そう呟いた時に再び男とフラックの視線がぶつかった。と思った瞬間フラックの錫杖が頭を直撃し、男はまた昏倒した。
時間は少しさかのぼり、マーフィーズゴーストが転移の兜の魔力を発動した直後のこと。
「はっはー、到着到着っと。さ、この右の扉が我が城、マーフィーズルームさ。ま、遠慮せずに入んなよ」
最下層から転移した女忍者とマーフィー先生が実体化したのは迷宮初層。西側に三つの扉が並ぶ六ブロックの広さの部屋だった。
マーフィー先生は自ら扉を開けてさっさとその中へ入っていき。女もそれに続いて部屋に入る。
「ふむ。案外と片づいているのだな。アンデッドの居室というからどんなものかと思ったが。それで、仕事の内容というのは?」
「まあそう焦るもんじゃないさ。ちょっと準備するから待ってなよ。ああ、いまはお茶も出せないけど、それはまあ後でね」
そう言いつつマーフィー先生は部屋の南の壁に向かって奇妙なポーズをとる。それはもう見ていると奇妙な冒険に出たくなるぐらいに奇妙なポーズだった。
マーフィー先生はそのまま姿勢を変えて幾つかのポージングを決めると、それに応じてゴゴゴやドドドと地鳴りのような音が響き、やがてその音も鳴りやんだ。
「さ、準備完了っと。隣の部屋に行こっか」
「隣の部屋というと……確か前に地図で見た限りでは、部屋の外にまた出てしまうだけの意味のないテレポーターだったと記憶しているが」
「へえ、なかなか詳しいね。しかしそのテレポーターにもちゃんと意味があるのさ。そのための僕の華麗なポージングだよ」
そして二人はマーフィー先生の居室から出て、すぐ隣に並んだ部屋に入る。そして転移した先は壁や天井が魔法光で輝く全く別の小部屋だった。
そこにはレイバーロードのものによく似た甲冑、だが金色に輝くそれとは対照的な暗く青醒めた鎧を身に纏った剣士が二人、扉を挟む形で立っていた。
「やあ、ダークロード君たち、今日もお役目ご苦労さん。彼女は今回の仕事の代役を頼もうと思ってるお嬢ちゃん。じゃあ通らせてもらうよ」
「ダークロード君って……この迷宮では見たことがないけど、確かそれはかなり高レベルの魔物のはずでは無かったか?なんでそれがここに」
「ああ、心配しなくてもいいよ。彼らはあくまで警備だから。それにこの迷宮っていうけど、いまいるところがさっきまでの迷宮とは限らないよ。
しかし、他言すると命に関わるペナルティがある秘密のお仕事ってのは実感してくれたかな?まあ、僕はこういうの仰々しくて好きじゃないんだけどね」
その後もいくつかの通路と部屋を抜け、他とは違う造りの扉を抜けた先は九ブロックの広さの床に絨毯が敷き詰められた大きな部屋だった。
部屋の壁にはまだいくつかの扉が並び、奥のテーブルでは見たことのあるものやら無いものやら数体の魔物がくつろいでいた。
入ってきた扉の脇にある木製のカウンターの向こうには、青白く輝く全裸の女の影が三体並んで座っている。
「よお、アンちゃんにホーリィちゃん。それからテラーちゃん。三人とも今日も相変わらずいいおっぱいしてるね。で、こっちの娘が……」
「警備から連絡はきています。では勝手に仕事内容の説明でもなんでも始めて下さい」
「んん?……ホーリィちゃん?どうしたんだい。いつもはもっと折り目正しくむしろ嫌みなぐらいに丁寧に挨拶してくれるじゃないか」
「はあ……普通に仕事の話を進めようとするなんて、マーフィーさんは随分と真面目なアンデッドになってしまいましたね。いつもなら言葉で誉めるだけではなく
三人まとめてここやあそこや散々に揉みしだいてから本題に入るはずなのに。あなたなんて腐りきってただのスケルトンになってしまえばいいんです」
「おいおい。初めてここにきた娘の前でなんてこと言うんだい。後でいつもより念入りにちゅっちゅらびゅらびゅしてあげるから、ここはお仕事しようよ」
「あれ?まだ説明を始めてないのですか?とんだ給料泥棒ですね。それからこのソフトはオートセーブなんでやったことの取り返しはつきませんよ」
「……リセットボタンを押すタイミングを間違ったかな……。いや、だからちゃんと後で××を××して××に××したあと…………」
しばらくの後、ようやく機嫌を直したのか、テーブルの一つに紅茶が用意され、受付三体のうちの一体が資料を整えて仕事内容の説明を始めた。
「あの……テラーちゃん?僕の分の紅茶がないんだけど」
「は?……まず説明の前に念を押しておきますね。えっと、この仕事には守秘義務があります。ここで聞いた内容を他言した場合はあなた自身だけでなく、
それを知った者も含めてペナルティーを受けてもらいますよ。具体的には私どもの財団が総力を上げて、対象がロストするまで昼夜分かたず徹底的に攻撃しますのでご了承下さい」
「(うわあテラーさんは確かにいいおっぱいしてるなあ。大きさも形も負けているとは思わないけど、人のを揉むのは全く別の快感だし。ああ、私も触ってみたいものだ)
あっ?ああ。うむ。承知した。しかしそれほどの仕事だというのなら、それがこの卑小な私などに本当に務まるのだろうか?」
「いや、内容は実際それほどのもんじゃないんだけどね。あえてもの凄く格好つけて言うのなら、夢を守る仕事ってことになっちゃうからさ。
まあ、まずは現物を見てもらった方が話は早いよね。じゃ、アンちゃんよろしく頼むよ」
マーフィー先生がそう言うと、すぐ近くの扉が横にずれて開き、その奥にある透明なケースの中でライトアップされたそれが姿を現した。
人体を模した人形に着せられたその衣装は、口が耳まで裂けた老人の顔の仮面と、緑色の道化師の服一式。脇には金属の錫杖が立てかけられている。
「えっと……あれはフラック…の衣装?」
「そうです。でもあれはただの衣装ではありません。オリジナルのフラックの細胞から作り上げ、それを着た者に本物と同等の能力を付与するというミラクルフラックスーツMFSです。
ただし常識を逸脱したフラックの機動性を発揮してもらうため、着用者が人族の場合は最低でもマスターレベル超の忍者の肉体を必要とするのです。
もしお引き受け下さるのなら、あなたには今日迷宮が締まる夜の初めごろまで、迷宮最下層の第六エリアに詰めていただくことになりますね」
「今回みたいな急な欠員の時にはハイマスターに中の人をやってもらったりもするんだけれど、彼もなかなか忙しい身でね。それに長期できちんと契約してる忍者ならともかく、
臨時の仕事で悪の属性の忍者に頼むのも、あのスーツの性能と価値を考えるとこれがまた難しい。なんせマスターレベルを遙かに超えて限界突破しちゃった忍者の手にでも渡ったら、
オリジナルを越えたスーパーフラックが誕生してこの世界のパワーバランスさえ変えかねない代物だし。だからお嬢ちゃんと最下層で出会えたのはまさに渡りに船ってやつだったのさ。
今回の条件に対し、これ以上無いぐらいに能力も性格も合致したお嬢ちゃんに会えたのは、ほんと僕の日頃の行いのおかげだよね」
「それで中立の私にというわけか。しかしそもそもなぜフラックの代役をする必要があるのだ?この迷宮にはちゃんとフラックがいるのではないか?」
「それなんだよ。お嬢ちゃんはワードナが倒されたって話は当然知ってるよね?で、その冒険者達は同じ日にフラックも倒しちゃってたんだよ。で、フラックはその時に
本体をも消滅させられかねないダメージを負わされたのがトラウマになっちゃったらしくて、百五十年ほど休暇を取らせることになったのさ」
「……なんと下らない理由だ。よりにもよって休暇とは……。では、他の土地からフラックを連れてくればいいのではないか?」
「それは私から説明しましょう。フラックというのはそもそも種族ではなく個体名なのです。ですから現在は厳密にはどこの迷宮にもフラックは存在していません。
出自はわかりませんが、彼は唯一無二の存在。そしてあんななりのイカれた小男ですがその強さと希少性から冒険者からもモンスターからも非常に人気の高い売れっ子妖魔なのです。
それでフラック不在の間もMFSによって世のフラカマニアの夢を守ろうと不死族や獣人族、果ては悪魔族なども含めた様々な魔物のお偉い方々が出資して、このフラック財団が創設されたのです。
MFSを着たエージェントは要請に従い各地の迷宮へ転送されます。ですがそこはオンリーワンの伝説の妖魔。あっちの迷宮とこっちの迷宮に同時に存在したりすると夢もなにもあったものではありません
そのためこのセンターで厳重に時間と場所の調整を行い、一括してフラックの出動管理をしているわけです」
「そこのところは僕が考えたのさ。なかなか夢のある話だろ。もっとも、本当はどこかの大陸で大人気の黒いねずみ獣人のイメージ戦略で考えられたって方法を真似しただけなんだけど」
マーフィー先生はなぜだか得意げにそう語った。
「うむ。わかった。そういうことなら、不詳この私が今日のフラックを務めさせていただこう」
「はい!それは大変にありがたいです。それと、このMFSではオリジナル並の体力を再現する意味も含めまして、鎮痛効果が備わっていますが、その機能が効力をあらわすまでの間、
着用者の受けた痛みを一時的に快感に変換することで、腕を切り落とされようと痛みに気を失うことなく活動をすることが可能です。しかしあまりに損害が著しく、あなたが重傷を負う、
あるいは死亡してしまった場合には、当財団が出来る限りの治療と蘇生を行います。それでも力及ばずロストする可能性はありますが、結構でしょうか?
「心得ている。それにフラックの身体能力を実体験出来るなんて、そんな貴重な機会をみすみす逃せるものではない。報酬も魅力的だしな」
「あー。その件ですが、マーフィー先生は一つ勘違いされていますねえ。お約束のしゅりけんだと装備出来るのが悪の属性だけですので、あなたには無用のものになってしまいますよ。
ですから、GB製KOD印のザ・シュリケン!をご用意させていただきます。名前はちょっとあれですが、これなら性能は変わらず中立のあなたにも装備出来るのでこちらの方がよろしいかと」
「ありゃ、僕も脳が腐ってきたのかな。最近は物忘れが激しいや。で、それでいいかなお嬢ちゃん?」
「ああ、しゅりけんは私には装備できないのか。まだ忍者歴が浅いので知らないことばかりだな。それならそちらにしてもらえるとありがたい。こまやかな心遣い痛み入る」
「では正式に契約を行いましょう。こちらにしっかりと目を通した後で、サインと血判をお願いします。えっと、まずですね。冒険者達を必ずしも全滅させる必要は無く……」
そうして女忍者はフラック代理として迷宮の最下層に戻ってきた。いかにフリーサイズのMFSとはいえ、着用者次第で身長や体型に違いは出てしまうのだが、そこはそれ。
アンとホーリィとテラー曰く「そこはフラックですから」の一言でみんな納得するそうだ。ぶかぶかに見えたMFSは着用するとシュッと音をたてて彼女の身体にフィットし、
錫杖と仮面の使い方も出動時間までにマーフィー先生を使ってしっかりと頭と身体にたたき込んだ。さすがにフラックの身体能力はすさまじく、壁も天井も思うがまま縦横無尽であった。
「……暇……だなあ。しかし最大六人とはパーティーの構成人数のことか。妙な期待……いや心配をしてしまったではないか」
迷宮の外では既に日も暮れて、彼女の勤務時間も残すところ二刻あまり。これまでやってきた冒険者は彼女も一応は顔見知りの善のパーティーただ一組。
この階層で友好的な魔物は存在しないことになっているため、雑談しに来ていたマーフィー先生を後続にして闘ったが、僧侶が倒れたところで彼らはマロールで撤収していった。
補充の比較的容易な魔物との戦闘は認められているので、この機会にとグレーターデーモンの一団相手に勝負を挑んでみたり、途中で差し入れに来てくれたホーリィちゃんに頼み込んで
ぴちゃぴちゃくちゅくちゅといやらしく楽しんだりもしてみたが、基本的に第六エリアの玄室と通路以外には移動できないため、さすがにこの仕事にも飽きてきた女忍者である。
どうせならと経験値でも稼ごうと思ったが、息絶え絶えのホーリィちゃんが言うには今後の魔物達の安全を鑑み、MFSは脳と身体への戦闘経験の蓄積を妨げる仕様になっているとのことだった。
そうして、暇を持て余した女忍者がマーフィー先生から特別に一部だけ教わった奇妙なポーズを極めるのに没頭し、その五段階目まで修得した時だった。
かすかだが、第六エリアの通路から金属鎧を身に纏った者の足音が聞こえた。彼女は音を聞くことだけに集中し、訪問者が単独であることを確信する。
(相手は一人……もしかしてリーダーが心配して様子を見に来たのかな?いや、でも彼は無謀な捜索に出るよりは、確実を期して明日になってから
仲間と一緒にやってくるはずだ。その判断力と決断力を買われて中立の魔術師の身で悪のパーティーのリーダーを任されているのだろうし。
それになにより彼は鎧を装備することはできないのだしな。ということは、相手は一人でこの階層の第六エリアまで辿り着くほどの経験と戦闘能力の持ち主ということか。)
この際、時間的にもこれが最後の戦闘だろうし全力で闘わせてもらおう!、もし相手が戦闘不能になっても帰りに拾ってマロールで戻り、カント寺院に預ければいい。
こちらがやられたなら、フラック財団とやらの蘇生に望みを託そうではないか)
どうせやるなら徹底的にということで、女は入り口から離れて相手の近接攻撃が届かないような地点まで下がり、そこの天井に陣取ってブレスを吐くために
大きく息を吸い込んだ。仮面の口が広がり冷気の渦がその裂け目の端々から漏れ出す。そして扉を開けた乱入者の姿を視認すると同時に先制のブレスを放った。
*
立て続けに二度の冷気の嵐を食らった相手は石の床にあおむけに倒れている。しかし幸いなことにまだ息はあるようだった。二度目のブレスを吐く直前に相手の放った
気の刃が予想外の距離を奔って自分に向かって来た時、女は一瞬死を覚悟した。あれが噂に聞く侍の居合いというものなのだろう。結果的に肩を裂かれただけで済んだが、
生身では動くのも辛いはずの痛みは、逆に鋭敏な快楽となって女の身体の芯に刺激を与えていた。MFSの鎮痛効果が効力を発揮するにつれ、火照った身体も熱を冷まし、
女は相手の顔を確認するために倒れた侍の側へと近づいていった。その間にも万一の反撃に備え相手の身体の動きと装備を確認する。目を奪われそうな怪しい細身の刀に、
美しい氷の鎖帷子。手に回復の指輪を嵌めているのを見て、これなら自力で回復も可能かと少しほっとする。
「これほどのレベルの侍となると数は限られてくるがどの人だろう?あのパーティーの女リーダーなんかだったりしたら……ひぁんっ。さすがに正気を保つのが難しいかも」
女は瀕死で倒れた相手を前に不埒な妄想をしつつもその侍の顔を覗き込んだ。そして当然のように固まる。
(……えっと。リーダーに似てるけど、彼は魔術師でこの人は刀を振るってたし、もしかして双子の兄さんとかいたりするのかな?……あ、それならそのうち三人で……
ああ、そうだ、こういう時はあそこを見てみるのが間違いないな。うむ。私ならそれですぐにわかるはずだ)
笑った仮面とは対照的にその下の顔は不自然に無表情。女は侍のベルトを解き、ズボンと共に下帯をずりおろした。なんだかどこか遠くで叫び声が聞こえた気がするが幻聴だろう。
……男のそれはブレスと氷の鎖帷子の相乗効果によるものか、極度の冷気を浴びて青白く縮こまっており、普段の大きさは見るべくもないが、その形を彼女が見間違うはずは無かった。
(やはりリーダーか!?えっ?えっ?えーっとえーっと。いや、狼狽えている場合ではない。しっかりしろ私!いま私がしなければならないのはこの一物を救うことだ!!)
彼女は男の鎧の隙間からその鎧下に手を突っ込み、彼が万一のためいつも忍ばせている特効薬を引っ張り出す。瓶の口を指先で断ち切り、もどかし気に中身を仮面の下の口へ含む。
そしてフラックの長い舌を器用に使い、薬液をこぼさないように彼のものを絡め取って、自らの口の中へと導いた。今度は間近で叫び声が聞こえたがそんなものに構っている暇は無い。
氷のように冷え切ったものに口中の薬液を舌でたっぷりとすり込み、血の通わない粘膜の表裏に満遍なく舌を這わせる。そのうちに薬液の効果か行為の成果か、口中の肉塊には
少しずつ血が通い始め、わずかばかりに熱を取り戻し始めた。
「ぷはぁっ。効果はあるみたいだけど、これぐらいではまだまだ埒が開かないな。このスーツだと胸は使えないし、ここはやっぱり私のナカで直接温めねばなるまい」
女は改めて長い舌を螺旋状に絡ませ口淫を続けながら、説明された手順を思い出しつつ空いた両手で自らの股間をまさぐり始めた。脱いで持ち去られることを防ぐため、
管理室の認証無しにスーツを脱ぐことはできないのだが、着用時の排泄のことを考えて股間の部分だけは一定の手順で露出できるようになっている。
程なく自らの秘部をさらけ出した女はそこに瓶に残った特効薬を流し込み、まだ大きさはとても十分とはいえない男のそれに女唇をあてがうと、一気に腰を打ち下ろした。
いつもの淫猥極まりなく愉悦に満ちた交わりとは違い、とにかく肉の接触する面積を大きくするため強烈に孔内を喰い締め、腰を激しく振ってその内壁を蠢かして刺激を与える。
圧迫と摩擦により血が巡り、男のそれは徐々にその大きさを取り戻しつつ、女の奥へ奥へと突き上がってくる。それが彼女の最奥に突き当たった。と、その時だった。
男は回復の指輪と粘膜から直接吸収した特効薬の効果により意識を取り戻し、女は仮面に開いた暗い穴だけの眼窩からそれを認めた。
(正体がばれたら二人とも終わりだ!彼なら身体の感触で私だとわかってしまうかも知れない!!)
瞬時にそう思った女は反射的に錫杖を振り上げ男の側頭部を容赦なく強打した。それと同時に男のものは最大限に膨張し、女の一番深い部分に白濁液を注ぎ込んだ。
「はあ……。これだけ充血して滾っているのならもう大丈夫だろう。しかし、それはともかく私は満足できていないぞ。……んー。いまならこっちの穴で受け入れても
大丈夫かな?痛みが快感に変換されるのなら、この機会にこちらも克服してみようか……。昔、彼に求められた時は痛くてとてもじゃないけどありえないと思ったものなあ。
そうだ、あの嫌な思い出を克服するにはいまこの状況は最適ではないか!よし、やるぞ。私は犯ってやるぞ!!」
なんにだろうか高らかにそう宣言すると、女は腰の角度を上げ尻肉を両手で目一杯広げた。そしてまだそそり立つ男の切っ先を狭門に這わし、重力に任せて根本までくわえ込む。
言葉にならないほどの快感が脊髄を這い登った。逆にいえば、痛みに強い忍者でさえ生身の状態であれば悶絶するほどの苦痛だということでもあるのだが。
しかしスーツを纏ったいまの彼女には痛みも快感も同等に快楽となって伝わってくる。欲求を満たすため彼女はそのまま行為へと没入していくのであった。
その光景を監視用の水晶球で眺める四体の魔物達。
「んー。彼女楽しんでるねえ。僕も少しはあやかりたいもんだけど、なかなかああまではできないなあ」
「でも、あれは絶対わかってやってますよね。そもそも肉体の一部が損傷しようとマディ一発で全快ですし、特効薬を彼の全身に振りかけてもいいのですから」
「まあ、いいんじゃないの。でも、錫杖で殴ったのはいただけないなあ。下手すりゃ毒か麻痺か石化。あるいは状態異常のオンパレードだよ」
「あ、また意識を取り戻しましたね。……また殴りましたか。これで四回目でしたっけ。しかし彼は少し早漏気味じゃありませんか?」
「いやいや。フラックの膣圧で絞められてるんだ。ちょん切れないだけでもなかなか凄いとおもうよ。今回も杖の効果は受けなかったみたいだし」
「マーフィーさん。そろそろいい時間になってますよ。もう撤収指令を出してもいいんじゃないでしょうか?」
「おや、もうそんな時間か。ああ、前の玄室詰めの連中が戻ってきたね。って、あのお嬢ちゃん、レイバーロードを一睨みで追い返しちゃったよ。
でもさすがにそろそろ終わりかな……ああ、ちゃんと彼のものを綺麗にして下もきちんと穿かせてるね。で、宝箱に一時避難完了っと。
じゃあアンちゃん彼女に連絡してこっちに転移する準備お願いね。彼女もまたあそこに戻って彼を回収して帰らないといけないだろうしさ」
*
「申し訳ない!」
部屋に戻ってくるなりフラックの格好をした女忍者は開口一番そう言った。
「ん?なんのことだい」
「いや、私は勤めの最中に個人の都合で情欲に耽り、フラックを演じ切ることを忘れて醜態を晒してしまい、あまつさえそれを魔物達にも目撃されてしまったのだ」
「なんだ、そんなことかい。それだったら問題ないよ。正体はばれちゃいないんだろ?」
「問題ない……のか?私はてっきり報酬ももらえないどころか、ペナルティーさえ覚悟して戻ってきたのだが」
「だって、きみがなっていたのは誰あろうフラックなんだぜ?フラックが男だろうと女だろうと、どんな奇行に及ぼうとそりゃフラックだから仕方ないよ。
むしろなにを考えているのか理解できない変なやつってことで、その評判を不動のものにするだけだよ」
「あ、忍者さん。スーツの封印解除終わりました。もういつでも脱いでいいですよ」
「あっ?ああ、ありがとうアンちゃん。そうなのか、それなら私も安心して役目を終えることができる……では」
「あ、スーツを脱ぐのはちょっと待った方がいいと思うよ……って遅かったみたいだね」
女が仮面を外してスーツを脱ぐと、それは元の少し大きめの道化服に戻って床に落ちた。しかしその瞬間女の尻穴にこれまで体験したことのないレベルの痛みが走り、
悲鳴を上げることさえ出来ずに彼女は床を転げ回った。
「あーあ。だから言ったのに。あれだけハッスルしちゃったんだから、脱ぐ前にマディをかけとかないとそうなるのはわかるだろうに。テラーちゃんすぐにハイプリくんを
呼んできてよ。まったくアンちゃんもわかってて解除したんじゃないの?」
「……ごめんなさいです。あと、ハッスルはさすがにないです」
「まったく。本気で死ぬかと思った。いや、むしろ殺してくれと願っていた気さえする。これではマゾのマスタークラスへの道はまだまだ遠いな」
「なにを目指してるんだいきみは。いや、しかしまあ今日は助かったよ。できればまたお願いしたいところだね」
「んー。今すぐに返答はできかねるが、こちらこそいい経験をさせてもらったことを感謝する。フラックの身体能力を体験するのは非常に魅力的なものだが
いずれは私自身の力であの能力を越えてみせるつもりだ」
「はっはー。まったく男前だなぁきみは。うん。それでいいよ。気が向いたら僕の部屋を訪ねてくれ。それから、くどいようだけど念を押しとくと、
絶対にこことフラックのことは口外しちゃいけないよ。でないと悲しいことになるからね」
「ああ、承知している。じゃあ私はそろそろお暇するが、どこから帰ればいいのだろうか?」
「それなら転移の魔法陣で迷宮内の好きなところに送ってあげますよ。えっと最下層の第六エリアでいいんですよね」
「ああ、リーダーを連れて帰らなければならないし、そうしてもらえるならありがたい。それから、ホーリィちゃん。もしまた来ることがあったら四人で楽しもうね」
「はい!……あ、忍者さん報酬を受け取るのを忘れてますよ。いま取ってきますのでちょっと待ってください」
「寂しいねえ。僕は交ぜてもらえないのか。ああ、それから、報酬のザ・シュリケン!ならもう僕が渡してあるよ」
「え?」
「お嬢ちゃん。その左手に持ってるものはなんなんだい」
「!」
「えっ!?……いつの間に私の手にこんなものが?」
「さあてね?じゃっ僕はちょっとお偉いさんに呼ばれてるからこれで失礼するよ」
「?……ああ、ありがとう。じゃあテラーちゃん、送ってもらえるかな」
*
「で、どうかしら。彼女が秘密を口外することはなさそうなの?」
「ああ、そりゃ大丈夫でしょ。僕が請け合うよ。もしなにかあったら、その時は僕自身が行ってもいいしね」
「ふーん。それは随分と気に入ったものね」
「そういうわけでもないさ。ただ彼女達を人間ってのも見てるとなかなか面白いしね。まあ、僕も生きてた時は人間だったんだけど」
「じゃ、この話はこれでおしまい。今夜は受付の三人をちゃんと可愛がってあげなさいよ?」
*
「ん?ここはどこだよ……って暗っ!……なんで俺は宝箱の中で寝てるんだ?確かあいつを探しに来てフラックに襲われて……」
バタン
「おーい、リーダー!」
「あ?ああ、お前こんなとこまで、っていったいお前はどこを彷徨ってたんだよ!」
「うん。ポイゾンジャイアントを捜して、いままで上の階にいたのだが、よくよく考えたら奴らがいるのはこの階だったと思って」
「……やっぱりか。まあいいさっさと帰るぞ。ドレインでも喰らったのかどうも身体が怠くてしょうがないんだ」
「ああ、ではマロールは私が唱えよう。……ところでリーダー。その刀と鎧はどういうことなのかな?」
「……ばれちまったな。いや、お前から冒険者をやりたいって聞いた時に、魔術師はもういらない。必要なのは忍者だって言ったら、中立のお前は忍者になれないし
諦めるかと少しだけ期待したんだよ。お前になにかあったら俺が師匠に搾られるからな。それなのにお前は力のコインなんて大量に持ってやがったから、
まったく。俺もコインで転職したんだが、ここいらじゃ手に入らないからわざわざボルタックに頼んで手に入れてもらったってのによ」
「それぐらいで私が諦めると少しでも思われていたとは、リーダーはまだまだ私の事がわかっていないようだな。で、力のコインなら母上……いや、
師匠からの餞別の金貨の中に一杯混ざってたんだ。では、一旦街に戻ろうか。話は宿のベッドの上できちんと聞かせてもらおう」
「勘弁してくれ。だから俺はいま身体が怠いんだって。……ほれ、ちょっと湿ってるが、とりあえず俺のローブを羽織っとけ。戻るのはそれからだ」
「んーむ。仕方ない。きょうはおとなしく言うことを聞いてあげよう。その代わりに今夜は胸をしっかり揉んで欲しいな。どうもそこが物足りないのだ。それから、絶対に優しくして痛くしないのなら後ろの穴でも…………」
「(あれだけやっておいてまだする気か……)」
「ん。どうしたのだ?修行中のころに私の尻を狙っておいて、いまさら興味がないとは言わせないぞ。では我らの愛の巣へ戻ろうではないか!」
「あれ?お前その手に持ってるのはしゅりけんじゃないのか?それも二枚もあるじゃないか。引きの悪いお前がよくそんなもの見つけたな。
ああ、でもお前は中立だから、宝の持ち腐れか。それはそれでおまえらしいな」
「ふっふーん。聞いて驚け。これはしゅりけんではなくザ・シュリケン!だ。これは中立の私でも使える凄いぶきなのだ!」
「ああ!?それこそどこで手に入れたんだよ。あれは確かリルガミンあたりでも一部でしか手に入らないって話だぞ」
「ふっ。いい女には秘密が付き物だということを知らないのか?それを聞こうだなんて野暮なことは言わないだろう?では、帰るぞ」
「マロール」
* いしのなかにいる *(さすがに嘘)
了