「やっぱり他の連中みたいに武器とか鎧とか必要なのかしら」
「それを言ったら俺達の個性ってもんが台無しになるだろ」
「それはそうなんだけど、この有様だとやっぱり考えちゃうわよ」

自らの肉体とそこに宿る力を頼みとし、身に纏うは申し訳程度の腰布1枚のみ。
彼らは敵を屠るに剣や斧を必要とせず、身を守るに兜も鎧も必要とはしなかった。
そんな軟弱なものなど我らには無用……と思っていたことは驕りだったのだろうか。

冒険者も滅多に訪れることのない、迷宮の隅に位置するとある玄室の中。
逃げ込んだその部屋で一組の男女は拾った命のありがたみを実感していた。

「それにしても、みんなの死体を回収することも出来なかったわね」
「まあ、こんな稼業だ。あいつらも迷宮の塵になる覚悟はしているさ」
「でも彼……イアンは私をかばって散ったのよ」
「あいつはお前に惚れてたからな。むしろ本望だっただろうよ」
「嘘っ!?それなら生きてるうちに一回ぐらいさせてあげればよかったかな」

つい先刻、玄室で遭遇した敵の呪文でパーティーは壊滅し、逃げ延びたのは二人だけ。
そのわりには些か軽い会話ではあったが、迷宮での命の軽さよりはましだろう。

「あー。私……もう里に帰ろうかな。やっぱり迷宮での生活は私には向いてないかも」
「まあそれもありかもな。結婚でもして平和に暮らすのもいいだろ」
「んん?なによそれ。遠回しにプロポーズでもしてるのかしら?イアンが化けてでるわよ」
「いやいや。自意識が過ぎるぞ。ただ一般的な意見を言ってみただけだ」
「なんだ違うの?つまらない男ね。実はちょっと期待してたのに童貞はこれだから」
「……」
「なんだったら一度試してみる?ただし責任はきっちり取ってもらうけど」

そう言われて男は今更ながらに女の身体の美しさに気づいたのだった。

男を誘うようにぐんと張り出した豊潤な乳房。
女らしさを十分に残しながらも適度に締まったウエスト。
なだらかな丸みをおびた下腹部。
肉付きがよく、それでいながらすらりと伸びた腰から脚へのライン。

これまで当然とさえ感じていた腰布一枚というこの姿のなんと扇情的なことか。
同族としてはやや色素が薄すぎると思っていた肌もつややかで綺麗に見える。

「なによ。突然黙り込んで。やっぱり童貞にはそんな覚悟はできないかしら?
「……覚悟があるっていったらどうなるんだ」
「本当にそんなものがあなたにあるの?なんだったら私はここでだって構わな……!!」

女を抱きすくめた男は自らの口で女の口を塞ぎ、無造作に片手で腰布を破り捨てた。
そしてごちそうにむしゃぶりつくように女の胸に……。



バタン



突然、玄室の扉が開かれ、冒険者の一団がなだれ込んできた。
会話に気を取られて足音が近づいて来るのに二人とも気づきもしなかった。

「!?」
「んゃっ!!」
「…………」
「…………」

そのままの姿勢で小声で相談する男と女。
「(どうする!?ど、どうする?)」
「(とりあえず友好的な雰囲気で挨拶してみようよ)」
「(ん。じゃあ)や、やあ。俺達にあんたらと敵対するつもりはない」
「っていうかできればそのドアを閉めて立ち去って欲しいとこなんだけど」

それに答えるように冒険者達のリーダーと思しきローブの男が口を開いた。


「マカニト」

二人は塵となり、悪のパーティーは二体分の経験値82640を手に入れて玄室を立ち去った。
そして同時に、ポイゾンジャイアントの濡れ場を目撃するという貴重な経験も手に入れた。



「ふふふ。いいものを見たものだ」

街を歩くのはなんとも微妙な雰囲気を醸し出すローブの魔術師と、対照的にステップを踏むように歩く半裸の忍者だった。
彼らのパーティーは早々に今日の迷宮探索を打ち切り、今ごろ仲間達は記憶を上書きしようと酒に溺れていることだろう。

「なにがいいものだよ。お前が討ち洩らしたポイゾンジャ イアン トの生き残りを狩りたいって言ったばっかりに、
体力も魔力もほとんど万全で街に帰って来ることになっちまったじゃねえか」
「いや、あれはいいものだったぞ。あんな逸物がもし私の奥まで入ってきたらと思うと……」
「あんなものを受け入れられる人間がいるか!!そんな女がいたらそいつは既に人間やめちまってるよ!
それともお前の器にはいつもの俺のものじゃ物足りないってんなら、はっきりそう言ってくれ!」
「そんなことはないぞ。リーダーの一物もなかなかに立派なものだ。それはあまねく街の全てに対してこの私が保証する」
「……恥ずかし気もなく高らかに宣言すんな。それにその格好はどうにかならないのか?」

女が身につけているのは、シンプルながらも所々にレースをあしらった上質な生地で出来ており
貴族が身につけるような上品なものではあったが、世間一般には下着と呼ばれているものだった。

「その格好呼ばわりは心外だな。いかに忍者に成り立ての私とは言え、胸と腰を隠しても戦闘に影響はないぐらいは知っているぞ。
まあリーダーがどうしても私に衆人環視の元で全裸になれというのなら、私も脱ぐことにやぶさかではない」
「逆だ。服を着ろと言っている。大体お前はまだ鎧を付けずに迷宮を歩けるレベルでもないだろう」
「それはそうなのだが。そもそも忍者に転職したこと自体がリーダーのせいではないか。魔術の同門の先輩を慕って街へとやって来てみれば、
パーティーに魔術師は二人もいらない。必要なのはサキュバスに腹上死させられた忍者のかわりだと言ったのはあなただろう。
せめてマスターレベルのまま忍者になろうと、力のコインを二十七個も使ってしまったではないか」
「……お前に宝箱を開けさせるのが不安になってきたよ。で、話を真面目に聞く気も服を着る気もないことはわかった」
「話は真面目に聞いているぞ。しかしせっかく忍者になって引き締まったこの身体を、なぜ衆目に晒さずにいられようか」

そんな他愛もない毒にも薬にも会話をしているうちに、二人は冒険者の宿の入り口へと辿り着いていた。



まだ、日の差し込む午後の一時。長期逗留しているスイートルームのベッドの上、ふんわりとした肌触りの毛布の下。
片手はその手に収まり切らぬ胸を包み、もう一方の手は脂肪はほとんど付いていないのに絶妙に柔らかい下腹部に添え、
男は女を後ろからその腕にくるみ込む形で微睡んでいた。
目を覚ましたのだろうか、寝返りを打ちこちらに向き直った女を改めて抱きすくめようとした時、
唐突に思い出したものか女は感じていた違和感のようなものを、男に対し寝物語に男に語りだした。

「そう言えばリーダー。今日迷宮で見たポイゾンジャイアントの事なんだが……」
「なんだよ。せっかく記憶の隅に封印出来そうなとこだったのに。またあれを入れてみたいとか言い出すのか?」
「いや。それはそれで話したいことはあるのだが、いまはそのことではない」
「いつにしても話題にしたくない内容だが……。じゃあなんだってんだ?」
「うむ。私はこの街に来てまだ日が浅いのでよくわからないのだが、ここの迷宮では巨人の女はよく見かけるものなのか?
あの巨人のつがいに遭遇した時にリーダーは躊躇無くマカニトを唱えたけど、私には一見あれがポイゾンジャイアントだとはわからなかった。
肌はやや白っぽく髪も長かったので、最初はフロストジャイアントの女だったのかとも思ったのだが、どうもそれとも違う感じがするのだ」
「ん。毒に限らず、霜や炎の巨人の女も自分たちの国や集落から出るってことは滅多にないらしいぜ。
俺が奴らを見てこいつがそうだと思ったのは、師匠が昔ポイゾンジャイアントの女について話してくれたからなんだ」

「師匠が言うには、霜や炎の巨人は身体の大きさこそ違えど、人間とそうかわらない暮らしをしているらしい。しかし毒の巨人だけは根本的に違うんだとさ」
「と言うと?」
「奴らは生まれた時には一人の例外なく女なんだと。それも成長するにつれ、透けるような金髪とサキュバスも自分の身体を恥じて隠れちまうような
男好きする身体をした信じられないような美女に育つらしい。信じられるか?あのハゲで毒々しい紫な奴らの女だぜ?」
「そうなのか。しかし女しか生まれないわりには、迷宮で遭うのは男ばかりだし、なによりそれでは種が保てないだろう」
「そこだよ。ポイゾンジャイアントは名前の通りに、その息から肉や体液に至るまで毒が含まれているのは知ってるな?
しかしだ、奴らの女にはその毒ってやつが全くないらしい。それが、男の毒が凝縮された精液をその身に受け入れることにより、
徐々に身体に毒を蓄積し、それによって身体が変質していくそうだ」
「なるほど、それで毒の巨人として生まれ変わるのか。しかしそれだけでは女で生まれてくる理由の説明にならないぞ?」
「まあ、最後まで聞いてみろよ。その変質でまず起こるのが、股間に小さなアレが生えてくるってことらしい」

それを聞いた女は一瞬固まった後で、男の身体に向けた視線を徐々に下へと移動していき、おもむろにそれを握った。

「アレというと、これのことか?」
「そう、それだ。もっとも最初は生殖能力はないって話だけどな。そして更に毒をその身体に帯びるにつれ、アレは徐々に巨大に凶悪に成長していき、
それにつれ肌も次第に紫に変色し始め、ついにはその肉体全てが毒を宿し、美しい金髪は全て抜け落ち、その身体も筋骨隆々な男のそれになってしまうんだと」

「そうか……生えるのか、生えてくるのか」
ぶつぶつとつぶやきながら、女はおとこのソレを無意識に握りしめる。

「ん……。なんせあの軽い師匠の話だから話半分のまたその半分で聞いてたんだが、今日、迷宮で奴らを見た時にこれは真実だったんだなと思ったよ。
そりゃあ、俺も一瞬思考が止まっちまったけどな。まさかあれがあんなになっちまうなんて、生物界の損失にも程があるだろ」

聞いているのか聞いていないのか、女は更に強く男のそれを握りしめる。
「生えるのか……。あんなのが、私にも」
「おい。もげたらどうすんだよ。ポイゾンジャイアントと逆に俺が女になっちまうだろ。大体、私にもって、お前はなに言ってんだ?」
「適量をしっかり調べて、上手く調整すれば……この身体であれも生やせる……かな?」


ガシャン


「ちょっと迷宮で巨人を狩ってくる!!」
女は行為の後の一糸纏わぬ姿のまま、三階の窓を突き破り街中へと飛び出していった。

「今朝はせめて下着だけでも付けててくれるだけ良かったんだろうな。
しかし、戻ってきたらその下着を買い換える羽目にならなきゃいいんだが」