その事象は不可抗力であった。その場にいた誰もが一切悪気ももたずに(事の発端はそうではない
のだが)どうしようもない運命の力で起こるべくして起こったのだ。最初から部屋にいた二人も、一切
そのつもりはまったくなく、今しがた部屋に入ってきた小人――ノックもなしに部屋に飛び込んできた
元気のいい乱入者――を呆然と立ち尽くすような目にあわせる気などこの二人にはなかったのだ。
これから、この部屋で行われたことにも、画策して起こったことではなく、すべて事故だったのだ。

―――後からいくら俺がそう主張したところで、いったい誰が信じてくれるだろうか?

 *  *  *

「これいい!これ買う!」
バスケットに詰まったお菓子の詰め合わせを見つめる小さな女の子が私の前で舌足らずな声をあげ
また。女の子はバスケットを手に、少しはなれたところで仲よさそうにお話をしている顔のそっくりな
二人のエルフのもとに、小走りに駆けていきました。よく人種の特徴を述べるために使われる『Human
基準』という物差しで彼女を計れば、やっと四歳に手が届くといったところでしょうか。
でも彼女――モルグさんはこう見えてわたしよりも年上の熟練の冒険者なんです。
飛び跳ねながらお菓子を買ってくれと二人にねだる姿は全くそうには見えないでしょうけれども・・・
「ムー!もうすぐご飯でしょ、こんなの買っちゃダメよ」
おそらくリーダーのほうでしょうか。片方のエルフが厳しい声でモルグさんをたしなめました。
「モルグ、とってもおなか空いてる。だから平気」
「これは土産用の品だよ、自分で食べるためのものじゃない」
どうやらわたしの予想が当たったようです。
叱りつけていたエルフの横で、腕を組んでいたもう一人のエルフが口をだしました。
この口調は“ロード”のフローレンスさんでしょう。リーダーの実の妹さんで、リーダーと同じく見事な銀
髪を持ち、お姉さんと同じようにドワーフのわたしにさえ解るほどの造形の優れたエルフの女性です。
「んと、じゃあ、これ、シャイアへのおみやげ、だからいい!」
「モルグ、あのな」
「フロー、黙る。モルグのほうが生まれたの先。指図よくない」
「じゃあ、ムーより早く生まれた私の指図は聞けないのかしら」
「う・・・・」
最近ようやく慣れましたが、この気の抜けたやりとりが、このパーティでの日常風景です。これでもこ
の人たちはリルガミン屈指の冒険者なんですよ。それも高レベルのパーティにはとてもめずらしい善
の戒律をもつという人たちの。眼光の鋭いエルフのフローレンスさんは別として、顔はそっくりなので
すがいつも優しくて(モルグさんから言わせればいつも怒っていて)、森に住んでいるエルフと見紛う
ばかりの淑やかな物腰のリーダーや、幼いホビットか人間族の子どもかと間違えられそうなノームの
モルグさんを見ていると、とても屈強な冒険者だなんて信じられないだろうと思います。
わたしも信じられませんでした。この目でその強さを見るまでは。
数分間に及ぶお菓子の必要性とその害に関する大論争の結果、無事勝者となったモルグさんが
嬉々としてカウンターへお菓子を持っていきました。後ろでは論争に負けたリーダーが母親のように
腰に手を当て、短い断続的な舌打ちをしながら首を振っています。そのすぐ横で、フローレンスさん
が、滅多に見せないような笑顔でリーダーに話しかけています。普段とは逆の表情を浮かべるお二
人を見ていると、やっぱり姉妹なんだなあと思わされます。実際、お二人とも顔はそっくりで、生まれ
年を聞くまではずっと双子だとばかり思っていました。探索の時とは違い、町娘のようなお揃いの服
を着て、そろいの銀髪をひっつめにして帽子を被っているせいで、正面から見れば姉妹の区別が全く
つきません。神も、これほどの素晴らしい名品を一度に二つも作り出すことは出来なかったのでしょ
う。どうやら神は、一度に不完全な秀品を二つ造るよりも、比類のしようもない極上の名品を数年違い
でゆっくりお造りになる事をお選びになられたようです。

「フラウド、なに見てる?」
気がつけば足元から小さな子どもが、先程勝ち取ったばかりの戦利品の包みを開け、
私の顔を見あげていました。
「あの・・・モルグさん・・・それ、お土産じゃないんですか?」
「きにするな!」
わたしの制止もむなしく、モルグさんは取り出した焼き菓子にさっそくかぶりつきました。
「食べかけをお土産にしちゃだめですよ・・・」
「ん、ほまはいこと、ふぃにする、よふない。んぐ。それより何みてた?」
「ええ、フローレンスさんとリーダーを見ていたんです。
 お二人とも本当によく似ていらっしゃるなあって」
「にへる?」
青い目のノームは新しいお菓子を口にくわえたまま首を傾けてわたしと同じ方向を見ました。
「うそ、よくない、フラウド。二人、全然にてない」
モルグさんは手を腰に当て、大真面目な顔で抗議の眼差しを向けてきました。
「え、ええ?だってあんなにソックリじゃ…」
「フラウド、“司教”なのに、目、悪い」
気にしていることを言われてしまいました。スペルの習得はまだ「アタリ」らしいのですが、わたしは
未だに鑑定が大の苦手なんです。わたしが困った顔をしているのをみてモルグさんも困った顔になり
ました。
「フラウド、落ちこむ、よくない。モルグ、見わけかたおしえる。
 やさしい顔しているの、フロー。ヴァンパイア・ロードみたいなこわいの、リーダー」
「ぎゃ、逆じゃないんですか・・・?」
「む?これじゃだめ?むぅ、んと、んと。あっ、わかった、におい!」
モルグさんはノームのわりに低すぎる鼻を小さくならしました。
「におい!二人、ぜんぜんちがう。フロー、森のにおいがする。リーダーは、」
モルグさんはここで一度、言葉を切り腕をくんで考え込んでしまいました。
「タァ・ニィトゥ・ラ」
小さな口からポロリと言葉が零れました。モルグさんは直ぐにハッとして、わたしにこう言いました。
「いまの、きかなかったこと、して、リーダーに言わない。おねがい」
眉根を上げて不安そうに言うモルグさんに、わたしは決して言わないと返事をしました。きっとノーム
独特の言語なのでしょう。ノーム族は非常に変わり者で、五種族中もっともリルガミンで少ない種族
です。彼らはどういうわけか公用語を余り好まず、長年リルガミンに住んでいるのにもかかわらず公用
語が苦手な人が多いのです。モルグさんはそんなノームの中でも際立って語彙が少ない人です。私
の言葉にほっとしたモルグさんは再び『ぴったりの言葉』を考える作業に没頭しはじめました。
「う〜、うぅ――うん!わかった!リーダーのにおい、ちょうどいい言葉、リーダー街のにおい!」

「誰がなんですって?」
「はぅ」
いつの間にか、リーダーがモルグさんの直ぐ後ろで仁王立ちをしていました。
「あの、フローレンスさんとリーダーがそっくりだとわたしが言ったので、
 その、見分け方を教わっていたんです」
「ふうん。で、ムー、私がどう見えるって言ったの?
 ワータイガー?それともマイルフィックかしら?」
「リーダー、そんなに可愛くない……ごめん、ごめんなさい!」
「え、えっとそうじゃなくて、匂いが違うってモルグさんが。
 フローレンスさんは森の匂いで、リーダーが街の匂いだって…」
リーダーの脇にがっちり抱えられたモルグさんが、小さい首を窄めました。
「へぇ、そんなこと言ったんだ、モルグちゃん」
リーダーは脇に抱えたモルグさんを母親が子どもを抱くように片腕に抱き向かい合わせになりました。
「いい鼻してるじゃない、ぺったんこの鼻のくせに」
そう言って、モルグさんの鼻をつつき、柔らかい金髪を優しく撫でて地面に下ろしました。
しばらく惚けていたモルグさんは、見る見る薔薇色の頬になり、元気にぴょんぴょん飛び跳ねました。
「そろそろ時間ね。皆でさきに酒場へ行ってちょうだいな。お客さんとシャイア姉さんを
 迎えに行って来るから。さあ、ムー、シャイア姉さんに渡すお土産をちょうだい」
小さいノームは差し出された腕から慌てて逃げ、わたしの後ろに隠れました。
「モルグ、代わりにいくー!リーダー、みんなといっしょに酒場で待つ!」
「いいのかしら、途中で怖い人に遭っても知らないわよ?」
「これある、だいじょぶ!」
そういってモルグさんは白いフードを目深に下げました。
フードを被り、お土産を渡そうとしないモルグさんに、リーダーは苦笑いをして言いました。
「“あいつ”に遭ったらどうするの?そんな布は“あいつ”には通用しないわよ」
飛び跳ねていたノームの動きが止まりました。フードからわずかに見える頬が青く染まり、
白い布と肌との境目が小さく震えました。
「“あいつ”言ってた、モルグいらない。もう、モルグのこと忘れてる」
頭巾の下の顔は見えませんでしたが、いつもとは全く違った滑舌の良い冷たい声でした。
「あの時の“あいつ”の目を覚えてる?今だって、あなたのことを探しているのよ」
「モルグ、強くなった。“あいつ”にあっても平気。モルグ、返り討ちにする」
リーダーは首を振って、身振りだけで行ってもよいと伝えました。すぐにまた元気のよい声が聞こえて
きました。ついさっきまで震えていたのが嘘のように元気よく小さな白頭巾が、お菓子のバスケットさ
げ、店の中からメインストリートへと飛び出して行きました。リーダーは小さくなっていくその後姿を、
心配そうに見つめていました。わたしは二人の話していたこと、“あいつ”、“探している”の意味が知
りたかったのですが、リーダーの様子から、その話はとても聞けそうにありませんでした。フローレン
スさんにこっそりと尋ねてみても、全く知らないという返事しか返ってきませんでした。
「すまない、私がリルガミンに来る前の話なんだ。何度聞いても姉ですら私に話してくれないんだよ」
フローレンスさんは肩をすくめます。
「魔導師のアミュレットを百個貢いだところで、あの三人から昔話を聞くことは無理だろう。
 指で迷宮の壁に穴を開けるよりも難しいことさ」

 *  *  *

事は突然起こった。訳あって、椅子に腰掛け股間からホビットを生やしたまま戸口に背を向けて通算
で五回戦目(よく覚えていない。何しろ薬で完全にぶっ飛んでいたからな。そうでなければ、こんな驚
異的な数字にも不測の事態にもならなかった。ああ!まったくもってこいつは事故だ!)を行っていた
ときに、急に入り口の戸が開いた。自分の迂闊さを呪った。ついでにシャイア(俺の股間から生えて
いるホビット女だ。こいつは、俺よりもぶっとんでいた。何せ効果が薄まったと見るや俺がチビチビと
追加を口に流し込んでいたからな)にも怒りを覚えた。本当にうっかりとしかいいようがなかった。『な
んで鍵を掛けなかった』のかってな。俺たちは完全に薬でぶっとんだ人間としては正常な(素面なら間
違いなく異常といえる)行動をとった。全裸で喘ぎ声をあげて繋がったまま椅子を横にして侵入者に振
り向いたんだ。背後に立っていた侵入者の小人の反応は素面の人間としてはまったく正常だった。白
いフードをずりあげ、リボンで巻き毛を束ねた小さな顔が、青い目をいっぱいに開いて硬直していた。
菓子の入ったバスケットを落とした小人は、しばらくノームの言葉でつぶやいていた。俺がわかる範囲
で訳せば『なんで?どうして?なにがあったの?』といったところだ。こんな状況にもかかわらず、ホ
ビットの膣は俺をきゅうきゅうと締めつけ、しまいに俺は一声高く鳴いて射精してしまった。すでに前の
試合まででぐちゃぐちゃになっていた競技場の入り口から、締め出された観客あぶれだした。股間の
ホビットは前に回した俺の腕にしがみつき、俺から一滴残らず搾り取ろうと小刻みに体を震わせてい
た。ノームの言葉をつぶやきながら首を振り、目の前のホビットのぶっ飛んだ顔と狂態を観察していた
小人はやっと驚き以外の感情を顕した。激しい怒りの形相。小人の顔だちも相まって、その姿は幼い
子どもが癇癪を起こしたときの怒り方とよく似ていた。が、子どもとは決定的に違っているものがあっ
た。子どもはこんなに愛らしくは怒れない。年端も行かない子どもの癇癪は時として非常に加虐性をそ
そられるほどの腹の立つものだ。里で村の悪ガキどもと格闘していた俺からすれば、この娘の怒り方
は異常だ。本気で怒ったガキの面は醜悪だ。この娘のように可愛い憤怒の形相など本物の子どもに
は決してできない。

ふと、俺は靄が掛かった頭で、この小人がやはりどこかで見たことがある顔だと思い始めていた。悠
長なことを考えている局面ではなかったのだが、薬でぶっ飛んだ頭はその異常行動をやってのけた。
俺の頭に納められている顧客リストが目にも留まらぬ速さでパラパラとめくられる。
『―――マーガレット、メアリー、マーシャル……ミック、マイケル、メンフィス……』
顧客リストに、この小人、『モルグ』という名前の客はいない。名前を変えたのか?
俺は再び脳内の顧客リストに目を通す。今度は名前だけではなく、
外面の特徴をまとめたポートレートも丹念に眺めた。

脳内の図書館で迷子になる俺を他所に、小人が人形のような口を開き
この場ではじめての公用語を喋った。
「く・・・すり、お薬、つかった?おまえ、シャイアにお薬つかった?!」
薬の靄がかかっていた頭に水がぶっ掛けられたような気がした。危うくシャイアの中に小便を漏らすと
ころだった。慌ててシャイアから俺を引き抜こうとしたが、腕にしがみついたシャイアは頑として股間の
腰掛からどこうとしない。俺はぶっ飛びながらも、久方ぶりに“まとも”な意識を取り戻した。ああ、ク
ソ、この小人はこの狂態が薬によるものだとわかったらしい。貞淑な種族であるノームの癖に、このチ
ビはそっちの知識が豊富なようだ。畜生!このままじゃあ、俺が薬を使ったことがばれた挙句、このホ
ビットに手を出そうとするために非常手段に出たという濡れ衣を着せられちまう。
「おまえ、あの人と違う。やっぱりおまえも、“あいつ”と同じ!」
憤怒の形相のノームが、腰に提げていた凶悪な鈍器を握り締めた。
チビが言っている言葉の意味はわからないが、とにかくこのチビが俺を
打ち殺したがっていることは良くわかった。俺も素面ならば、今の俺をぶち殺したい。
クソ、クソ!自業自得だ!こんなところでR.I.Pカウントを増やす羽目になるとは思いもしなかった!
パニックを起こしかけていた俺に向かいメイスを手にもった小人が振りかぶった。
俺は覚悟を決めて、瞼を閉じ、メイスが派手な音を立て俺の頭蓋骨を粉砕する光景を想像した。

目を閉じて数十秒が経過した。まだ俺は生きている。

何かが床に倒れる音とうめき声とがあがった。恐る恐る、俺は目を見開いた。
俺の股間にいたはずのシャイアが、ノームを赤い絨毯の上に押さえつけて羽交い絞めにしている光景
が目に入った。呪文を唱えようとしたノームの口を、シャイアは口で塞いだ。床には媚薬入りの茶が
入っていた空っぽのカップが転がっていた。仲間の突然の奇襲に、ノームは驚愕し、自分よりも大きな
仲間の体(とはいっても、シャイアも小人だったのだが)を跳ね除けようと必死にもがいた。シャイアは
ノーム族にしては低すぎるチビの鼻を摘み、口内の媚薬を一気に相手の口に送り込んだ。チビが薬
を吐き出す前に、小さな腹を三度殴り、口に流し込んだ薬のほとんどを飲み込ませた。シャイアは、涙
を流し嗚咽するノームの前髪をぐいとつかみ、薬の逆流を防ぐために上を向かせた。小人の髪を束ね
ていたリボンがほどけた。金色の巻き毛がはらりとこぼれ、涙にぬれた頬に張り付いた。

記憶の貯蔵庫の管理人がベルを鳴らした。そうだ、この小人は確かにみたことがある。
あの時も『モルグ』という名前だった。あいつは――キースはこの小人をそう呼んでいた。
俺は脳内の顧客リストを投げ捨て記憶の管理人が差し出した禁書棚の書物を受け取った。

『該当者、1件』

頭に響き渡る声反応して、脳内の蔵書が一気に書き換えられた。変態タマネギ野郎のキースの犠牲
者リストにある“使用済みの中での美人(顔かたちがまだまともな)ランキング”が更新された。それま
で首位を保っていた『ホビット族のリンダ』に変わり、このノームの娘の名前が書き加えられた。
信じられないことだ。あの変態サディストのキースが五体満足の玩具を手放すなどという事は考えら
れない。それもこんなに綺麗なままでなどとは。後ろからシャイアに抱えられているノームが叫び声を
あげた。

『神よ私をお救いください!』

リルガミンに来たばかりの人間ですらわかる最も有名なノーム言語の台詞。
娘の姿が、俺の記憶にしまわれたキースに抱えられていた玩具と重なった。
やはりこのノームはあのときの娘だ。

 *  *  *

当時、俺はようやく鑑定士として名前も知られ徐々に固定客も増え、ちょっとした小金も持てるように
なっていた。そこで、商売をより円滑に行うために(また俺自身の心身の健康のために)、俺は簡易
寝台からエコノミールームへの引越しを計画した。一月分前払いという条件で宿屋の親父の了承を
得、俺は早速かび臭い相部屋の簡易寝台から一等上等な、エコノミーの個室へと引越しを済ませ
た。あの時は最高の気分だったぜ。冒険者を廃業してから、本当に久しぶりにツラを表に上げて歩け
る身分――もちろん錯覚だったが――になったんだからな。この街に来た当初の俺なら、貧相な部屋
だと思ったろう。機能性のみを追及した味も飾り気のないテーブル、簡易寝台をほんの少し改良した
だけの硬いベッド、部屋の作りもすべてが機能的で、味も素っ気もなかったが、俺の目には何もかもが
素晴らしく映った。簡易寝台の相部屋から高度を僅かに上げただけの大して代わり映えしない窓の風景
ですら別世界に見えた。その最高の一日が、僅か四時間で最悪の一日になるとは、当時の俺はかけ
らほども思っちゃいなかった。
荷解きも終わり一息ついた所で、ノックの音が響いた。引っ越しして初めての客だ。いつもより少しば
かりはしゃいだ気持ちで、記念すべきお客第一号を迎え入れるべく俺は戸口へと向かった。扉の向こ
うに居たのは、ブロンドの髪を後ろに撫で付けた尖り耳野郎、腐れエルフのキースだった。客向けの
表情を解き、悪態とともに出迎えてやろうと口を開いた俺より先に、にやけた尖り耳が嫌味なくらい柔
らかい声で話しかけてきた。
「お久しぶりですね『鑑定士』さん、御尽力賜りたくまかり出ました」
俺は咄嗟に舌先まで出かかった悪態を飲み込んだ。こいつが俺にこんな口調で話しかけてくるときは
決まっている。視線を下に落とすと、俺の目から隠れるようにしてキースの長衣の裾をつかんでいる小
さな手が見えた。即座に身内用から商売用の顔へ切り替え、紋切り型の口上を述べながらドアボーイ
のように扉を開き尖り耳を部屋へ引き入れた。俺の頭上をクローブ油臭いブロンドが通過するのを見
計らって、最敬礼の体勢のまま野郎の連れを観察した。標準的なホビットよりも小さく、身の丈に合わ
ない僧衣の裾が地面を引きずっている。柔らかそうな長い金髪の巻き毛を垂らし、前髪をビロードの赤
いヘッドバンドで纏め、額をだした、“幼女”といっても差し支えないくらいの娘だ。

“――『Human基準』でいったら三、四歳というところかな、クソッタレ!!――”

もちろん、本物の子どもじゃない。子どもにしては表情が凛々しすぎる。この娘が幼く見えるのは小人
族だからだ。緊張のためか、ほのかに頬を朱色に染めた小人は、笑えば天使と見紛うような小さな
赤い唇を真一文字に結んで、悲痛な面持ちのまま野郎の手に引かれている。俺の視線に気がつい
たのか、尖り耳がスカシた面のまま小人を紹介した。

「ああ、こちらは初めてでしたね、二週間前に入った新人ですよ。
 さ、モルグ、こちらの鑑定士さんにご挨拶して」
言いながら、野郎は握り締めた小さな手を撫で回した。
「はじめまして」
モルグと呼ばれた人形のような娘が用意していた挨拶の文句を口にした。
舌足らずな発音のせいで『あじめまちて』という風にしか聞こえない。
野郎は娘を見る父親のようにその様子を見て満足そうに頷き、巻き毛を撫でた。
「酒場にいたところを保護しました。あと一歩遅ければ卑猥な輩の毒牙に
 かけられていたことでしょう。間に合ってよかった」
“間に合ってよかった”か。
この腐れ生牡蠣野郎お得意の最悪のジョークだな!手遅れの間違いだろ!
野郎、また新しく仕入れてきやがったな。最近新品へ切り替える周期が早くなっている。しかも、取り
替えるごとに拾ってくる娘の顔つきがどんどん幼くなっていきやがる。タマネギ野郎は俺を空気のごと
く無視し、片手で楽々小人を持ち上げ頬擦りをしやがった。小人娘といちゃつくクソ野郎を俺は笑顔で
睨み付けた。どうやらこの新しい玩具は、ここ最近のうちでもひどくお気に入りらしい。野郎の今の状
態は『とてもごきげん』といったところだ。ところが、成すがままに頬擦りをされていた娘が急に野郎の
面を手で押しのけ、潤んだ瞳をこちらに向けてきた。

妙だ、今まで野郎が持ち込んできた玩具は既に野郎によってたっぷりと調教がほどこされ、刃向かう
気力も残らないほど痛めつけられた従順な娘ばかりだった。二週間も前に仕入れたのなら未調教とい
うことはまずない。信じられないことにあの癇癪もちのキースが拒絶の態度を示した小人に、怒るそぶ
りも見せずに恍惚とした笑みを浮かべた。
「珍しいでしょう?リルガミン広しと言えど、これ程稀有な『ノーム』はそういませんよ」
なるほど、滑舌が悪いと思ったらどうりで。この野郎、とんでもなくレアな品物を入手してきやがった。
地霊の化身と言われるノームは、“醜鬼”という異名の通り大方の種族には余り心地よい印象を与え
ない面構えが多い。標準的なのノームのご面相といったら、癇癪を起こしたクソガキの顔のど真ん中
に羊の膀胱みたいなでかい鼻をぶら下げ、顔の形が変わるまで横っ面をぶん殴り続けたような面だ。
リルガミンで最も数の少ない人種であり、その一生のほとんどを自分の生まれた穴倉で過ごす究極
の引きこもりだ。種族ぐるみで敬謙、堅物、その上非常に保守的で積極的に他種族、ことに人間族
とは一切関わろうとはせず、やつらの種族での共通の神を崇拝し仲間内だけにしか通じない独特な
言語を使う。おかげで、俺がこのリルガミンにきてから今まで俺がまともに会話できたノームは数える
ほどしかいない。エルフも排他的な連中だが、ノームの人間嫌いに比べればまだ可愛いもんだ。それ
だけに、ドワーフ以上にやつらの美的感覚は人間とかけ離れている。他種族受けする顔の持ち主は、
ノームの間では獣同然と罵られ、全く相手にされない(無論好みには多少の個人差はある。元仲間
の変人ノームなんかいい例だ)。この娘も、そのせいで同郷のノームからも誘いを断られ、一人ぼっち
で酒場に居たのだろう。ノームならばホビットより持ちが良いのも頷ける。生来の忍耐強さと狂信的な
までの信仰心で滅多なことでは心が折れない。ノームは苦痛に対して、その痛みの根源を絶つことよ
りも耐え忍ぶことを美徳としている奇妙な種族だ。元仲間の変人いわく、痛みに負けることはノームに
とって恥であり、快楽に屈することはそれ以上の精神的苦痛になるそうだ(言ってる本人が自他共に
認める捻た快楽主義者だから信憑性に欠けるがな)。生涯の住居から出たての純粋なノームについ
て言えばその性質は確かに本当のことなのだろう。この娘の様子を見れば、あの変人の言葉も十分
証明できる。この娘は明らかに故郷の穴倉から、たったいま出てきたばかりの身内の顔しか知らない
ような田舎者だ。
娘を片腕に抱き、にやけたロバのような面のまま、キースは俺にアイテムの詰まった大袋を差し出し
た。ムカつきを押さえアイテムを受け取った時に、見慣れた野郎の生っちろい手に変化があったことに
気がついた。野郎の手の甲にはマーク、魔力の焼印があった。魔導師ならば、たしかに左の手の甲
にマークがある。だが野郎が差し出したのは“DEXTRA HAND(右側の手)”だ。こちらに焼印があるの
は“僧侶”のスペルユーザーのみ。しかも、“聖職者の証”のほかに手の端に複雑な割符の文様が見
えた。おそらく左の手にもこの割符の片割れが焼きこまれているはずだ。この文様を持つことが出来
る職業はたった一つしかない。そのとき俺は初めて、野郎の腰に提げていたものが、スタッフではなく
メイスの柄であることに気がついた。今頃気がついたのかという顔で野郎が俺に説明を始めた。

「少し前に、『司教』に転職いたしましてね。ですがまだまだ未熟
 な腕ですので、当分はあなたのお世話になるかと」
当分?当分だと?ふざけるな!このスパゲッティ野郎が!!てめぇでやれ!!野郎の腕に刻まれた
シンボルが示す習得呪術階位は第五階位、俺よりも軽く十はレベルが上のはずだ。煮えたぎった油
を頭からかぶったように湯気をたて俺はキースを睨みつけた。が、裾からはみ出た奴の腕をよく観察し
て、すこし考えを変えた。魔力のシンボルの横にみみず腫れが出来ている。鎖が食い込んだような痕
だ。心の中でそっとほく笑んだ。腕が未熟っていうのは事実のようだ。鎖帷子でしくじりやがったな、こ
の白ウンコ野郎。呪傷は回復呪文を使ったとしても、けっこうな時間、痕が体に残る。どう“触った”の
か知らないが、こいつは後一ヶ月は消えないな。ざまぁみろ。

野郎が突然表情を変えた。短い間だったが、キースは生死を共にした仲間だ。むかつくことに野郎と
は声を使わずに会話のできる中だ。スペルユーザーは声が武器だ。戦闘においてスペル以外の言
葉を発するなど、戦士にとって剣をかなぐり捨てるに等しい。だから、俺たちスペルユーザーは言葉を
使わずに会話をする。身振り、手振りのあらゆるジェスチャーだけでなく、眼の動き、表情、呼吸さえ
も全てが言葉になる。尖り耳の眼はこういっていた。

“ほぉう、何か言いたげだなS.O.B殿、新しい部屋で『初糞』を垂れてみたいのか?”

根性は腐っているが、こいつは魔導師をマスターまで極めた男だ。その上ひどい癇癪持ちで気難し
い。こいつのご機嫌を損ねれば黒こげだ。運がよけりゃ、こいつの愛用スタッフを避けずに顔で受け
取る程度で済む。もっとも今はスタッフではなく少しばかり危険な鈍器へと変わったが。
笑顔こそ欠かないが、凍りついた表情で俺は言葉を搾った。
クズに相応しい卑屈さで、思わず蹴飛ばしたくなるほど情けなく。
「まことにありがとうございます。すぐ、とりかからせて頂きます」
依頼品をテーブルに置き、ベッドに腰掛ける野郎と娘に背を向けて、俺は鑑定を始めようとした。
「どうかこちらを向いて鑑定していただけませんか」
俺は後ろを振り向いた。
「あなたを疑うわけではありませんが、不正を防止するために
 手元をこちらに見せていただきたいのです」
生白い顔のブロンドのエルフが白い歯を見せて笑顔を作った。
口調は丁寧だが人を見下した笑いだった。
「かしこまりました。できる限りお静かにお待ち下さいますようお願いいたします。」
俺は立ち上がりテーブルの反対側へと席を移動した。このときの俺はクリーピングクラッドを一気飲み
したような顔をしていただろう。こいつが仲間だったのは昔の話だ。その時でさえ、こいつからまともな
人間としての扱いは滅多に受けたことがなかった。キースは俺の従順な態度にほくそ笑みをもらし、
人形のような娘を手元に引き寄せ膝に座らせた。

 *  *  *


靄の中ではあったが俺の頭は完全に覚醒していた。間違いなく、この娘はあのときのノームだ。
Human受けする(奴らの仲間内では“醜い”)面のGnome女が数多く見受けられる、歓楽街からの夜
明けの行進風景ですら、これほどの珍品は決してお目にかかれない。まず、人違いであるはずがな
い。それでも、腑に落ちないことがいくつもある。あの変態カス野郎がどうしてこの娘を手放したの
か?何か気に入らないことがあったのか?いや、気に入らない筈は無い。あの野郎のあの時の娘の
扱いは前代未聞だった。本当にお気に入りだったのだ。
あの時のタマネギ野郎がやったように、シャイアは人形遊びをするようにノームを後ろ抱きに膝の上に
乗せ、手足をばたつかせるノームの口元を押さえて耳に何事か囁いていた。ノームの薔薇色に高揚し
た頬が色を失っていく。チビの抵抗はより激しくなり、シャイアの手から逃れようと勢いよく顔を左右に
振った。

「……―――ウーク、ミームザンメ、フェイーシーン」
シャイアの腕を振りほどいたノームが何かの呪文を詠唱した。途端に、蒸留酒をがぶ飲みし続けた酒
屋の悪ガキのような表情だったシャイアが、礼拝に行った直後の悪ガキの面になった。後になってわ
かったことだが、この時のシャイアが見せた正気は、お説教を垂れられた悪ガキが一瞬だけいい子に
なるのと同様、“ほんの少し”だけだったらしい。呪文が効いたと確信したノームは、腹を押さえつけて
いた腕も振りほどき、シャイアの顔へと向き直って心配そうに尋ねた。
「シャイ…ア、だいじょぶ?LATUMOFIS、唱えた。もう…安心、なにあった?」

ハハハッ!こりゃあの糞禿げチビ親父に苦情を言ってやらにゃぁな。どうやらこのノームのオツムを溶
かすには希釈した状態のカップ一杯の媚薬じゃ足りなかったらしいぜ。ノームは五種族のなかでエルフ
に次いで二番目に薬物に抵抗がある。種族的な潜在能力以上に非常に我慢強いせいで最も試薬に向い
ている種族だ。ブリーブにキスされたような面で呆然としていたシャイアが、はっとしたような面になり、
目の前にあるちっこい体を抱き上げた。
これはあれだな。このままカントに直行コースってやつかな!ははっ!!
覚悟を決めた俺は椅子の上で、グレーターデーモンを秒殺できるパーティを迎え入れた魔導師よろしく
悟りの境地でその光景を眺めていた。悪あがきはしない。断じて腰が抜けたわけじゃないぜ。
ほら、この通り笑いだって沸いてくる。オゥケイ、畜生、ああ糞が!

人形を抱く子どものようにノームを抱えたままのシャイアが俺の目の前に立った。恥も外聞もかなぐり
捨てて本音を話せば身長4フィートに満たないこの真っ裸の小人に心底怯えきっていた。シャイアの腕
がすばやく伸びた。俺はチビりそうなくらい縮み上がった。腕は俺の横をかすめ、テーブルの上におい
てあったポットをつかんだ。あっけにとられた俺はまじまじとシャイアの顔をみた。シャイアの茶色の瞳
には未だに薬の靄がかかっている。あの禿げチビが言っていたことは本当だった。
一回や二回のLATUMOFISじゃ、薬を抜くのは無理ってのは事実らしい。
シャイアは引っつかんだポットを口飲みして、今しがた解毒された分の媚薬を補充した。靄がかかった
ホビットの目をみたノームは唖然として腕の中からシャイアを見つめた。
「うそ……LATUMOFIS、効かない…?そん」
言い終わらないうちに、シャイアはノームを膝に乗せて座り込んだ。チビの顔を上に向かせ、ちっこい
鼻を摘んでポットの口を咥えさせると、ポットを傾けて薬入りの冷めたぬるい湯を流し込んだ。逆流した
湯が小さな口からはみ出し俺の膝に跳ね返った。一度口からポットを外してノームに呼吸をさせ、また
小さな口にポットを突っ込み、再び流し込んだ。

……飲ませすぎだ。このちっぽけなノームの胃には、いま媚薬入りの茶以外の食物は限りなくゼロに
等しいと言っていいだろう。ポットの口内陵辱が終わった頃には、チビの顔が涙と鼻や口からむせ返った
薬とでクリーピングコインのブレスを一面に浴びたようにどろどろになっていた。荒い呼吸を整えたチビ
は再びLATUMOFISの詠唱を始めようとしたが、呪文を唱えられないようシャイアがチビの口に指を
突っ込み、舌を直接押さえつけた。激しく暴れるノームの青い瞳には俺やシャイアと同じように、靄が
かかり始めていた。今このチビは体内に入った薬がもたらす快楽と戦っている。シャイアが最初に口に
した薬の量は希釈した状態で非常に微量だったのだが、このチビが飲んだ量はその何十倍もの量だ。
耐え忍ぶことが得意な種族とはいえ、あの量の効力に抗うのは難しいだろう。数分もしないうちにチビが
暴れ疲れてシャイアの腕の中でぐったりとなった。シャイアは、チビに指を突っ込んだまま人形を着替え
させるようにチビの衣服を剥ぎ取り始めた。その様子を確認した俺の脳みそは股間に血液を充填する
信号を送り始めた。

いやまて落ち着け俺。何を考えているんだ。
股間にホビットを生やしただけじゃ飽き足らずこんどは股間にノームを生やす気なのか?
いくらこいつがノームとはいえ、見た目はどうみても子どもだ。流石に無理がある。
現状俺の体をつかさどっている股間の脳みそは、オツムの見解を真っ向からあざ笑い否定した。
『何を言ってやがるこの畜生野郎が。いまの俺に無理なことなど何もない』
勘弁してくれ。子どものような面をした娘は本当に駄目なんだ。まだシャイアはツラほど幼くなかった
し、少なくとも、このチビよりは色気はあった。それでさえ限界を超えていたのにさらにこんな小さな子
どもにまで手を出したら正気に返ったときに自害しかねない。そうでなくても、正気に返ったシャイアに
殺されかねないのに……
何とかして正気を保たなくてはならない。
ここで薬に負けたら、俺は、過去の俺に面目が立たなくなっちまう。

 *  *  *

取引目的の“指輪”や『支えの盾(シールド+2)』と見て取れる品々が袋から出てきた時点で、このク
ソッタレエルフが長居するつもりだろうということがわかった。冗談じゃない。いつもより全然軽い“あ
やし方”だったがいつもの娘たちの反応よりも、この子どものようなノームの反応は敏感だった。力
に訴えられずに屈しなければならないか細い悲鳴のほうが、普段野郎が連れてくる頭の半分がやら
れてしまった娘たちが発する嬌声よりも遥かに俺の精神を揺すぶった。なるべく鑑定に集中し、キース
と娘を頭の外へと追い出すよう心がけていたのだが、娘の悲鳴がすすり泣きに変わり、そのすすり泣
きがねっとりとした野郎の囁き声に変わった頃に限界を迎えた。俺は顔を上げベッドの方を見た。腰掛
けたキースの長衣の合わせ目に亜麻色の巻き毛が埋まっていた。野郎は小さな頭を手で押さえ、髪
を指先で撫でながら何事かつぶやいている。

「ラッツィはお元気ですか?」
俺は奴との取り決めを破ってお楽しみ中に声を掛けた。ラッツィとはこの娘の前に野郎が連れてきた
ホビットのことだ。キースは新しい玩具の前で昔の玩具のことを口にだすと決まって癇癪を起こした。
奴の怒りを買う危険性はうんざりするほど理解させられていたが、今はとにかく、キースの注意をこち
らに引き付け、虫に集られた様なむず痒い野郎の囁き声と娘のすすり泣きを止めさせたかった。
ところが、キースは俺の意に反して明るい声で答えを返してきた。
「ええ、元気ですよ。おかげさまで。今は部屋でお休み中です」
俺はキースの答えに耳を疑った。奴は俺の言葉に対し怒るどころか嬉しそうなそぶりを見せた。それ
以上に、俺は奴の答えそのものに驚かされた。キースは一度に抱える玩具は一個までと決めてい
る。新旧の玩具が入れ替わるときには、新しい玩具の目の前で古い玩具を廃棄するというイベントが
行われる。このイベントの効果は抜群だ。大抵の娘はそれで野郎に従順になる。キースの機嫌を常に
伺い、心移りしやすい野郎の気を必死に引きとめようと努力する。新しい娘が手に入って、俺にお披
露目されるころには古いほうはとっくに廃棄し、堀に放り込んでいるか、良くて路地裏に転がされてい
るかのどちらかのはずだ。俺の頭の中の問いに、キースは言葉ではなく行動で答えを示した。
ラッツィの名前を出したとたん、キースの股の間に顔をうずめていた娘の肩がぴくりと動いた。
キースは股間に屈みこみ、娘にノームの言葉で話しかけた。言葉を浴びせかけられる度に娘の背中
が震えた。聞くまいとしていたが、一度注意を向けてしまったキースの声を無視するのは至難の業
だった。奴の使うノームの言葉は教科書通りの的確な発音で、文法は非常に簡潔明快でわかり易
く、俺の頭は奴の言葉を勝手に翻訳していった。

『この男もラッツィのことを知っている。この男はラッツィのことが心配らしい』
『この人間に、いまラッツィがどうなったか教えてやろうか?』
キースの股間に顔を埋めているノームの首が左右に振られた。

『ラッツィが歩けなくなったのは誰のせいだ?ラッツィの歯を僕にへし折られたのは誰だ?』
『みんなお前のせいだ。お前が悪いんだ。お前がラッツィをあんな姿にさせたんだ』
『お前は何をすべきかわかるだろう?』

小刻みに震えていた娘の頭を野郎は一層強く手前に引いた。子どものように甲高い小さな涙声が漏
れ響いた。俺は全力で二人を無視した。なんのことはない。いつもの野郎の道楽だ。なんだってんだ。
ただ単に、この子どものようなノームにイラマチオをしているだけじゃないか。このノームだって本物の
子どもじゃない。なあに、いつもの見慣れた光景だ。そうだろう?ああそうさ。

畜生、チクショウ、くそったれめ!!!

 *  *  *

(?RING) ボルタックに売り飛ばすのが目的のクソ指輪だ。
(?STAFF) 先端が鈍器になっているスタッフ。気をつけろ。機嫌を損ねると手に吸い付いたまま離れなくなる。
(?HELM) 売値の最も高い兜だ。くそったれ!手間の掛かるものばかりもちこみやがって!
(?STAFF) 畜生、やたらと呪われた商品ばかり……おや? この杖は……
鑑定も終盤に差し掛かった頃、とある杖が鑑定品の中に含まれていることに気がついた。
俺はこっそりとキースの様子を伺った。野郎は人形のような娘を膝の上に乗せて、だぶ付いたローブ
の合わせ目をはだけさせ、露になった扁平な胸を撫で、時折ナメクジのような舌で舐め回し囁き続け
ている。キースは娘に夢中でこちらに気がついていない。

この時の俺は、今でも信じられないくらいに大胆な行動に出た。
後にも先にも、あのタマネギ野郎に楯突いたのはあの一回きりだ。

俺は手袋をはめ、呪われたアイテムを片手に持ち、反対の手で鑑定を終えた“杖”を振り上げた。野
郎の虫が歩き回るような声がぴたりとおさまった。『沈黙の杖』が効果をあらわしたようだ。もしも、俺
がこそっとでも声に出してMONTINOを唱えていれば、呪文に関してのスペシャリストであるキースが
詠唱の最初の子音を耳にした瞬間に俺を火達磨にしただろう。だが、さしものキースもアイテムによ
る無詠唱での呪文には流石に気がつかなかったようだ。奴が異変に気づき顔を上げたところに、俺
は奴の顔面目掛けて『死の指輪』を押し付けた。文字通り、野郎は“声にならない悲鳴”をあげた。野
郎の鼻っ面のど真ん中に指輪は吸い付き、火脹れのように周りの肉が腫れ上がった。そのまま野郎
の顎目掛けて、渾身の一撃を食らわせた。(引きこもりだった俺にしちゃ中々の一撃だったと思うぜ)
もんどりうってベッドから転げ落ちる前のキースの膝から、人形みたいなノームをひったくった。思った
よりも軽くて驚きだったな。まるで本物の人形のようだった。呆けているノームをすぐに床に下ろし、
ベッドの下に転がったキースが起き上がる前に、俺はもう一発、奴の後頭部に一撃をお見舞いした。
『フッ』という激しい息を吐き出すとともに野郎はそのままうつ伏せにぶっ倒れた。
奴が気絶したと思った俺はノームのほうに向き直った。ノームはサイズの合わないローブの合わせ
目をはだけさせ、涙で頬を濡らしたまま、まだ呆然としていた。右手の手の甲に“聖職者の証”をもつ
娘の腕には傷の治りかけた薄い肉色の線が何本もあり、ローブの隙間から見えた扁平な胸には、や
はり治りかけだったが右肩から左の腋の下まで大きな傷が走っていた。だれがこの娘の治療をした
のかはすぐにわかる。この傷の塞ぎ方はジッドの手によるものだ。あと一週間もすれば傷は目立たな
くなる。どうやら、このノームは本当にキースのお気に入りらしい。
「逃げろ」
俺の言葉に娘はやっと反応を示した。
「なにやってんだ早く逃げろ!」
ノームは首をかしげたまま不安そうに俺の顔を見つめているだけだった。
(ひょっとしたら、この娘は公用語がわからないんじゃないか?)
俺は下手糞な発音のノームの言葉を使った。
『にげろ!』
ようやく意味を理解したらしく、娘は驚いた顔で流暢なノームの言葉で俺に何か話しかけてきた。
俺は首を振ってこう言った。
『おれ、ノームのことば、あまりしゃべれない。おまえのいうこと、わからない。にげろ!』
娘は俺の言葉に頷き、拙い公用語を喋り始めた。
「もるぐ、にげられない」
滑舌の悪い娘の発音では「いじぇられらい」に聞こえた。
「もるぐ、にげちゃだめ。もるぐ、にげる、らっつぃ、ご主人様に、ころされる」
舌足らずな発音の中で唯一“ご主人様”という単語だけが流暢に出てきた。
きっとこの二週間のうちで最も喋らされた単語なのだろう。
「ならそのホビットと一緒に逃げればいいだろう!」
俺の言葉にノームは悲しそうに首を振った。意味が解らないのか、
それはできないという拒絶の意味なのか判別がつかない。
『へやに、あんないしろ。おれも、てつだう。ラッツィといっしょに、にげろ!』
再びノームの言葉で話しかけた。青ざめていたノームの顔に赤みが差した。

頬を緩めかけた娘の顔が直後に引きつった。娘はノームの言葉で何事かを叫んだ。ランプの光でオ
レンジ色に照らされていた室内が一瞬で真っ赤になった。そこから暗転するまでの僅かな間、俺の
目には赤いエコノミーの部屋を背景にメイス振り上げたキースの姿が映っていた。娘の悲鳴の中で、
俺の意識は途絶えた。

 *  *  *

あの日以降、キースの訪問は途絶えた。ノームの娘がどうなったか、詳しい顛末は俺は知らない。
俺はあの時のあの思い出に錠を掛け、記憶から追い出すことに決めた。結局、この娘はあの時逃げら
れなかったのだろう。数年の月日が経ったというのに、この娘はあの時よりもさらに幼く見えた。顔か
たちも、体つきもあの頃とたいして変わっていないが、娘の仕草の一つ一つが、あの時以上に子ど
もっぽいのだ。何より、娘の口から飛び出すノームの言語が、当時の語彙より明らかに少ない。公用
語よりは幾分かマシだが、母語を忘れかけている標準的なリルガミン在住のノームのなかでも際立っ
て酷い語彙力だ。娘の口からでてくる言語はノームの言語が苦手な俺にでもすらすらと訳せるほどの
拙い言葉。あの時の見た目とは裏腹な知性の片鱗をうかがわせる複雑な言い回しはもう聞こえてこ
ない。長期間キースの調教を受けさせられた証拠だ。かつての娘はただ見た目だけが子どものような
娘だった。今俺の目の前にいるのは子どものような娘ではなく、子どもそのものだ。それも、子どもに
対して嫌悪の対象となる因子をキースの基準でことごとく排除した不気味な生き物だ。キースの人形
になるためにこの娘は知性と、僅かに垣間見せた地霊の高貴さを、すべてドアの上の釘のように叩
き潰されたようだ。

「後生だから」
靄がかった脳みそを奮い立たせて俺は必死に呻いた。
「もう、やめにしないか?」
膝の上にノームを抱えていたシャイアが、俺を指差し、何事か囁いた。ああ、薬のくそったれめ!
まったくなんでこんなことになっちまったんだ!この二人にはもう俺の言葉は聞こえていない!
脳みその声に反して既に俺の下半身の槍は新たな敵に対して臨戦態勢をとっていた。
子ども嫌いな連中でも、その娘を可愛らしいと言わない人間はいないだろう。三歳未満の幼子特有の
愛らしさがその娘にはあった。青い瞳に湛えられているのはHumanとは違う光だったが、それが余計
に神秘的な美しさをかもしだしていた。
『こいつは一人前の小人だ。軽いオツムの本体さんよ、こいつは人間じゃない』
その通り、こいつは人間の子どもじゃない。醜鬼(ノーム)の基準で際立った“醜さ”を誇るノームの娘
だ。もっと、ぴったりの言葉を当てはめてやれば、こいつは人形だ。魅力的でないはずがない。なにせ
こいつは、最悪の変態野郎の玩具だったんだ。それも、気難しくて飽きっぽく、癇癪持ちの醜悪なガキ
のようなあのキースが最後までぶっ壊さなかった――おそらく唯一の――玩具なんだ。
おっと、何を考えんだ俺は!!クソふざけんなよペニスのカサブタ野郎!!この娘に手を出したら、
俺は本当にあの腐れ野郎と同格になっちまうだろう!この娘は、人間の目からみれば三、四歳だ!
どう年増にみても発育の悪い五歳が上限だ!Human基準で言えば十歳前後のシャイアでさえこの娘
と比べれば凛々しく見えるぜ!
薬ですっかりオツムを溶かされたシャイアは、まともに呪文を唱えることができないほど呂律が回らな
くなったチビの口から指を引き抜き、唾液でぬれた指で産毛すらろくに生えていない割れ目を割り開い
た。小さな口から引きつった短い悲鳴が漏れた。シャイアはチビを激しく攻め立てながら、戦うのをや
め大人しく薬に屈するよう言い聞かせている。このホビットは溶けた頭でこの薬の効用をすっかり理解
していたようだ。なんであんなにシャイアに媚薬を飲ませちまったんだ俺のバカヤロウが!シャイアの
膝の上にいる娘は、言葉を浴びせられるたびに首を振り耳を塞ぎ、呂律の回らないノームの言語で祈
りの文句をつぶやきながら、薬で増幅されたシャイアの愛撫と言葉の攻めとに必死に耐えている。見
ていられない光景だ。それなのに目が二人から離れられない。むき出しになったつるつるの割れ目を
的確な動きでのたうつ盗賊の指に攻め立てられ、徐々に力を失っていく祈りの文句に反比例して割れ
目から湧き出る奔流は勢いを増していく。

『ほらよ!これでちょっとは、このチビに“突っ込みやすく”なったろう?』
“ふざけやがってこのクソペニスが!”
『“薬のせい”さ!強がりなさんな、ホビット女で小人の味はわかったろう?』
“黙りやがれ腐ったナメクジやろう!”
『きっとこのガキは良く締まるぜ!』
“ふざけやがって!ふざけやがって!お前はカスだ!”
『それはお前もだ』

理性とペニスの論争は相変わらず続いていたが、下半身が優勢であるという事実は否めない。
このチビを俺の股間から生やすのも時間の問題だ。

小さな口から出てくる祈りの文句は、しだいに意味のないものとなり、最後にはキースと一緒に暮らし
た――おそらく――何年かの間、最も多く交わしたであろう公用語へと変わっていった。
“身に覚えのある症状だな”
最初に意味のある懐かしい語、つぎに意味のない言葉、その後は自分の“職業”の専門用語ときた
もんだ。ハハハ!!案外このチビとは気が合いそうだぜ!!
『おっと、俺を安くみるなよ、S.O.Bの本体殿!このチビにゃ“半分”も“合えば”十分だぜ!』
“だまりやがれ、この洟垂れペニスめ!!”
笑えないことに、――薬のせいでかなりふやけてはいたが――娘の口から発せられた公用語は非常
に流暢だった。舌を丸め込みながら子音を二つ以上くっつけて発音する単語がほとんどを占める――
まさにキチガイ言語だ!――母語をもつノームの一族としちゃあ、完璧な発音だ。おそらく、いやちが
うな、きっと、絶対に、この娘はいま自分がしゃべっている言葉の意味を半分も理解してはいないだろ
う。それこそ、『こう言えばこうなる』という経験則に基づく、あいまいな知識しか持ち合わせていない。
この娘にとっちゃあその方が幸せだ。もしこの娘が、いま自分の喋っている言葉の本当の意味がわ
かったとしたら、自分で自分の舌を噛み切るにちがいない。あの時の娘がこの娘と同一人物ならば
きっとそうする。キースとの共同生活の“前戯”までを語り終え、いよいよという段になって、娘の言葉
が“意味”のある片言の公用語へと変わった。この娘の目には俺の姿が“ご主人様”に見えているらし
い。

「いや、いやらぁ、イタイイタイはいや、あちゅいのはいや、
 おくしゅいはいや……いやだ、ご主人様ぁ……」
「痛く、ないよ。この人は優しいよ。すごく、気持ちいいから」
「やだ、いやらよぉ、なんで……なんれ……ちゃイアぁ」
「モルグ、先に生まれた人の言うことは聞かなきゃ駄目だよ」
シャイアは金色の前髪をつかんで顔を上げさせ、小さな青い目に
俺の肉槍が嫌でも大写しになるほどの距離まで近づけさせる。
「おっぱいもこんなに感じちゃて、ほら、ここもいっぱい濡らしちゃって。
 こんなにおちんちん欲しがってる」
「ちが…う、むーぐ、ほちくない、そんなの」
「うそつき」
シャイアはすすり泣き濡れそぼったノームの娘を俺の膝にあずけてきた。
分身の先端にやわらかい娘の頬があたった。
「うわぁ…」
小さい鼻が膨らんだ。ノームの敏感な嗅覚がオスの匂いをとらえた。
「モルグ、おちんちんだよ。モルグがいま一番欲しがっている」
先端を頬に擦り付けたままノームが小さく左右に首を振った。それが最後の抵抗だった。
小さな体からあふれた粘液が俺の膝を濡らした。
「おちんちん」
頬を火照らせた娘が顔を上げた。俺の膝に跨ったノームは微かに開いた青い目で俺の股間を見つめ
た。娘の手が肉槍の先端にふれる。両方の手を使ってやっと周囲をつかめるほどの小さな手で
俺の突端を握り締め、舌を出して、砂糖細工をしゃぶる子どものように舐めまわしはじめた。
「ば、ばか、やめろ!」
慌てて、娘の顔を両手で押さえて俺の股間から引き離した。
俺は真正面から娘の顔を見据えた。諭す言葉を俺が吐く前に、娘は俺ににっこりと笑いかけた。
ここで俺は初めて人間の子どもらしくない娘の体の一部を見ることができた。娘の小さな唇の隙間か
ら白い牙が見えた。その口に相応しいほどの小さな、頼りないものであったが、確かにそれは牙だっ
た。この娘が、多少ノーム語を覚えたホビットや、人間の子どもではなく、地霊の一族である唯一と
言っていい証拠だ。キースが、この牙をそのままにしたのは非常に奇妙だったが、その疑問には一瞬
で答えが出た。同時に、この娘は決してキースに捨てられたのではないと確信した。こんなちっぽけ
な牙程度は野郎にとってこれっぽっちもバッドステータスにはならなかったんだ。これも信じられないこ
とだが、何らかの方法で、この娘は奴の“玩具箱”から逃げたんだ。娘の笑顔はどんな言葉よりもその
ことを雄弁に物語っていた。

その顔は物心つく前の子どもにしかできない純真な天使のような笑顔だった。
首を微かに傾けて巻き毛を揺らし、薔薇色の頬にえくぼをつくり、長い睫の下で薄く開けられた青い
瞳で屈託なく俺――娘の目には“ご主人様”に映っているだろう――に笑いかけていた。
娘はそのまま、顔を押さえつけている俺の手に小さな手を重ねた。娘の右手に焼きこまれた“聖職者
の印”が見えた。俺の手を小さな手で押さえつけ、穢れを知らない笑みを浮かべたまま娘は俺の股
間に屈みこんだ。男根に暖かい息がかかった。
「やめろ、やめろよ!おい!」
そのまま、娘は小さな口をめいっぱいに開き俺の一物を飲み込んだ。やわらかい舌先、ぬらりとした
口腔の上部、さらに奥の粘膜まで、娘の喉の感触を俺は最も敏感な感覚器で感じ取った。小さな
ノームの口内には俺の一物は大きすぎた。にもかかわらず、俺の先端はどんどん娘の口に吸い込ま
れていく。娘は膝立ちになり、角度を変えて俺の一物を飲み込んでいく。硬い弁が亀頭にあたった。
娘の喉の近くにある血管の流れさえ感じられた。本来受け入れるべきではない器官にねじ込むという
感覚が俺の欲情を奮い立たせ、その反面異常な背徳感と自己嫌悪の念に苛まれ、俺の頭は完全に
分裂した。とうとう、俺はすっかり娘の喉に収まってしまった。小さな体から汗が噴きだした。生理的作
用を意志の力で抑え付け喉を圧迫する異物を歯を立てずに飲み込むのは至難の業だったはずだ。
ところがこの子どものような娘はその荒行をやってのけた。苦しいはずなのに、そんな様子をおくび
にも出さずに、器用に頭を前後させはじめた。
「うっ、や…め、やめて…くれ!」
言葉で反論するのが精一杯だった。膣とはまた違った喉の奥が与える新たな快感は、俺の神経を痺
れさせた。喉の奥にまで突きこまれている体勢にもかかわらず、小さな頭を激しく前後させたまま腹
の力で激しく吸引する。靄のかかった頭に、このチビがまだ“娘”だった時代の光景が浮かんだ。

酒場で悪魔にとっつかまり、奴の“玩具箱”で生まれて初めて見たこともないようなものを握らされ、
狼狽する娘の顔。奴が、前玩具のラッツィを、娘の目の前で潰そうとする場面。田舎から出てきたば
かりのノームが、奴に取りすがる姿。

(『もしも、歯の先でも引っ掛けてみろ』)
キースが咽び泣く娘にしこむ図が見える。
(『こいつの歯を一本づつ圧し折ってやる』)

一分ともたなかった。その一分間、“キース式咽頭フェラチオ”に対して行った俺の抵抗は、頬に宛
がった手に力を篭めないというささやかなものだった。もしも手に力が入っていたら、薬で歯止めの利
かなくなった(Gnomeにとっては規格外の)Humanの一物が、滅茶苦茶に暴れまわりこの小さな喉を
裂き、声を潰してしまったかもしれない。喉の中で俺の血管が膨らんだ。それを敏感に感じ取った小さ
な頭はいままでにないほど深く一物を銜え込んだ。口からはみ出た舌先が男根の付け根に触れ、ま
るで『はやくちょうだい』とでも言わんばかりに根元をくすぐった。身を震わせて、俺は胃の中に直接射
精するようにノームの喉にぶちまけた。くぽっ、という音とともに小さな口から唾液があぶれた。どくどく
と残滓を撒き散らしている俺の先端が喉を通り抜けるのを感じた。娘は恍惚とした表情を浮かべた
まま、名残惜しそうに裏筋に舌を滑らせ、俺を口内から解放した。これも慣らされているからだろう、
ノームは、むせることもなく、心地よさそうに口内の余韻に浸っていた。「こぽぽ」という音と共に小
さな口から白い糸が垂れ下がった。糸は、膝を閉じたままぺったりと尻餅をついて俺の上に座る小さ
な足の根元にまで伸び、溜め池を作った。ノームは、その溜め池に小さな手を突っ込み、撹拌しはじ
めた。

「ふぁ……あぁっ、あっ、あぅう」
くちゅ、くちゅ、ぐちょ、ぐちゃ、という淫らな音を立てて手で溜め池を掘削し、狭間のプールで唾液で薄
まった精液のクリームを泡立てている。微かに体重を移動させた拍子に俺の右足に小さな指先が触
れた。“聖職者の証”を白い蜜で汚しながら自慰行為を続ける子どもを、俺は興奮し、嫌悪し、しかし
視線を逸らすこともできずに呆然と見つめていた。膝の上で人形が跳ね上がった。体を震わせなが
ら、俺の腹に顔をこすりつけた人形の足の付け根から、愛液が一度に噴出した。
肩を震わせた矮躯が俺の体にしがみつき目に涙をためて俺の顔を見つめた。
「ご、しゅじんさま……おきに、めしませんでした…か?」
絶え絶えで、呂律も回らなかったが、片言の言葉ではない。
これまで何十回も何百回もそれ以上に、言わされた台詞だろう。

ノームは膝の上で向きを変え、俺に背を向けた。膝立ちの姿勢のまま、自慰でほぐされた筋目にい
つの間にか硬さを取り戻していた俺の一物を宛がわせた。ぴっとりと湿った感触が、俺の先端にまと
わりペニスが狂喜の声をあげる。肩越しに振り返った小さな口から、再び片言でない言葉が流れた。
「こんろは、ここに、ご主人様の、いっぱい、いっぱい…そそいれ…くだっ」
もはや理性はペニスとの戦いに疲れ果て、限界を迎えていた。やはり何度も言わされたのであろうお
決まりの口上が終わらないうちに、下半身に支配されていた手が一物に腰掛けるようにしていたノー
ムの肩に置かれ、そのまま、矮躯を下に押し込めようとした。案の定、狭い入り口に引っかかり、一度
は正気を取り戻した。
「うぁ…ご、ご主人様、そんなに、いひなり、だめ」
小さく悲鳴を上げたノームが、この期に及んで俺の腕にしがみつき腰を浮かせようとしやがった。
その行動が、一度理性がコントロールを取り戻した手を再び股間の支配下へと引き戻した。
足を蛙のように開かせ、肉付きの悪い太ももをつかみ一気に引きおろした。甲高い絶叫がロイヤル
スイートに響き渡った。
きつい、なんてもんじゃない。シャイアのときとは違いこのノームの胎内は見た目通りに小さく狭い。
薬でボケた俺の脳みそと股間は普段なら痛みすら感じるようなきつ過ぎる締め付けを快感と受け取
り、体を戦慄かせて悲鳴をあげる小人を貫き通した。半分も入りきらないうちに終点へとたどり着いた
が、さらに矮躯を押さえつけ肉棒を押し込んだ。ぎちぎちに締めつけながらも愛液を溢れさせるノーム
の腰をつかみ揺すぶった。かすかに動かすのもままならなかったが、膣は徐々にほぐれ、きついなが
らも大きく往復運動をできるようになる頃には、悲鳴が、辛うじてだが意味のある言葉へと変わって
いった。

「あっ、あっ、ご主人様ぁ、あちゅい、あちゅいよう、あっああ」
俺の脚にしがみつく小さな手を振り解き、その軽い体を激しく上下させる。
背後から矮躯の前面に手を回して扁平な胸を撫でさすった。
「うわぁあ…へん、ごしゅじんさま、ぃぐぅっ、へんらよぉ、いちゅもより
 あちゅいの、に、かちゃくて、おっひいのに、」
股間で振り回されている子どもが喘ぎ声の切れ間に叫んだ。
「くぅぁ……きもちいぃ…ぁうぅ、ああぅ、あっ、ぅう、へんらよぅ……ごしゅじんさ、あっああぅ」
体を震わせ、悶えながら快楽に耐える姿に俺は加虐性を刺激された。
すべてが納まりきらないという欲求不満も相まって、俺は盲めっぽうに小柄な体を振り回し、突き回し
た。後ろに引き倒し、一突きしたときに、膝の上の体がびくりと跳ね上がった。
「ひぁっ、だめ、ごしゅじんさま、しょこ、だめ……」
駄目といわれてやめられるほど、俺のペニスは素直でも利口でもない。
引き倒した体勢のまま、俺は何度も反応のあった箇所を突いて突き倒した。
「や、め、あっ、ああっ、へん、なる、ごしゅじんさま、や、め、て!
 そん、あっ、きもひ、よく…ちない、で、いたくしちぇ!!」
舌を噛みそうなほどに振り回されている子どもが冗談としかとれないような台詞を吐いた。
ふざけてる!だが、他種族に犯されるノームの女としちゃぁ確かにまともな台詞なんだろうな!
クソッタレ、このノームっていう人種は矛盾だらけだ!こいつに至っては、オツムも体も、言葉も仕草
も、種族も顔もすべてが矛盾だらけだ!

矛盾にまみれた制止の言葉を無視して繰り返し繰り返し、俺は弱点と思しきところを攻め続けた。
加虐性欲は満たされるどころか、拒否の言葉に余計に掻き立てられた。幾度となく繰り返された上
下運動の末、拒否の声は次第にか細くなり、やがて頭を溶かされきったノームの喘ぎ声だけが響き
渡るようになった。俺は椅子から立ち上がり、より激しく小さな体の奥に己を叩き込んだ。
不意に、おさまりきらなかった部分に暖かいものが這うような感覚が伝わった。気がつけばシャイア
が、俺の根元を握り締め、裏に舌を這わせつつ上下運動にあわせて激しく一物をしごきあげている。
まったく生意気な小人どもだ、クソ!ああそうさ。こいつらは子どもじゃない。小人だ。子どもならこん
な反応はしない。かすれ始めたノームの喘ぎ声を聞きながら、俺は必死に自分に言い聞かせた。
ああ畜生!何でこんなことになっちまったんだ!いっそのこと、薬で完全にぶっ飛んじまったほうが気
が楽かもしれない。薬に身を委ねるために、俺は股間に生やしているノームをより一層激しく揺すぶっ
た。ちっぽけなノームの強力な締め付けに、俺の一物も限界を迎えた。狭い胎内に可能な限り己を収
めさせ、ひときわ硬い内壁の突起に先端をぐりぐりと押し付けた。
「あっああぅ…はぁ、うぁ…み、みーむ…ありふ……ぬーんい」
ぐったりとしたノームの口から囁きが漏れた。
遠くから何かの羽音のようなものが聞こえる気がする。
脳の一部から声が上がった。“これは呪文ではないのだろうか?”
『知ったことか、まずはこのチンケなガキの中にぶちまけてから考えても遅くはないぜ!』
頭の声にペニスが叫んだ。そうだな。それからでも遅くはない。
羽音のようなものが大きくなった気がする。
俺は構わず、蛙のように開かれた娘の足をより引き寄せ、押さえつけた。
「ふおーざんめ……あっ、あっ、ああっ、ひあっ、あちゅい、くる、あちゅいのが」
胎内で脈動した一物から、一気に己が解き放たれた。
「ああっ、あああぁ、あちゅい、いっぱい、あっいああっ!」
ペニスを軸にして空中で小さな体が仰け反った。
結合部から納まりきらなかった白濁色の粘液が漏れだした。残滓が叩き込まれるたびにノームはびく
びくを体を仰け反らせ、射精も終わったことには、チビは精根尽き果て、腰に回された俺の腕に寄りか
かるようにして伸びていた。がっくりとうな垂れたチビが、顔を赤くし腕の中で振り向いた。
「う、うぅ…ご、めんなしゃい…ごしゅじんさま……むーぐ、また…しちゃった…」
チビの言葉で太股に広がる温かみのあるむず痒さに気がついた。
視線を下げると、ノームの股間から溢れた愛液以外の水が、ペニスを伝って俺の脚を濡らしていた。
“……飲ませすぎなんだよバカヤロウ”
俺の股間の根元では、チビを失禁させる原因をつくった張本人が
溢れ出た俺の体液とノームの体液の混合物を音を立てて舐めとっている。 

突然、巨大な羽虫が地面を転げまわるようなけたたましい音が耳に届いた。
俺は心臓を鷲掴みにされたようにすくみ上がり急いで音のする方向へ目線を走らせた。
赤い絨毯の上を何かがのた打ち回っているのが見える。
握りの部分に突起のある『魔法仕掛け』のブレード。高速回転する凶悪な
ギザギザの刃が絨毯の短い毛足を削り、やがて止まった。

こいつは……


『カシナートだな』

脳みその鑑定用領域から答えがでた。
ああそうだ、カシナートだ。名前だけなら脳筋ファイターでもすぐにわかる。


……おいまてよ、カシナートだって? カシナートだと?!


肋骨の内側が全部心臓になったような激しい鼓動で周囲の音がすべてかき消された。
ぎょっとして顔を上げた俺の目に、硬直した美術品のような顔が飛び込んできた。





ハハハッ!!なんてこった、この現場を一番見られたくない人物とご対面なんてな!
本来であれば、俺は彼女と――まてよ……?
まさかなぁ、そんな、いやあれ、なんだ、ここにあるのがカシナートってことは
こりゃひょっとすると――
脳みそを真っ白にして目を回している俺の耳に舌足らずな声が聞こえてきた。


「もりのにおい」