「フムン、治癒魔術の極意でござるか」

 城塞都市の冒険者こと探索者には変人が多い、と市民は噂する。命を種銭にして賭事をしているようなモノだから
精神が繊細だとやっていけないだろうと言う常識論から、ふらふら冒険や探索をして素直に定住が出来ないのは特殊な
性癖をきっと持っているからだと言う蔑視論まで数多く存在する。探索者の中でも、人当たりの良い常識人は何かと
市民に頼りにされたり街角の噂で好意的に話されたりする。とは言え……この男に関してだけは毀誉褒貶の落差が激しい。
 
 「は、はい……」

 探索者仲間に「熟練のプリーストスペルマスター? 絶好のイイ人がいるから!」と紹介されたエルフ族の悪の女司教
アティルデは、眼の遣り場に困っていた。非情に鍛えられ上げただろう、細い鋼線の束を選り集め、絞り上げたような
見事な付き方をした、凹凸の彫りの深い筋肉。香油を塗りこんであるのか、その肌は光沢を放っている。脱毛処理も
完璧だ。話している間にも、妙な所作・動作をキめて、筋肉を無駄に見せびらかそうとしているのがやけに気に障る。

 「うーむ、拙者、司教から転職して長いでござるからなぁ……。同行する条件で、教授を引き受けるが良いか? 」

 下帯、エッチュウフンドシとか言う東方の下着の前垂れには『仁忍』と筆で大書してあるのが見えた。この男が身に
付けているのは覆面とその下帯のみ。その下帯も「男根が無くなると泣く女子がいると言われて仕方なく着けた」と言う。
 過去は覆面のみでこの男が迷宮を闊歩していたのだと聞くと、正直アティルデはその光景を想像してげんなりしてしまう。
が、やりたいことをやるのが悪の戒律の者の信条なのだから、文句を付ける心算ならば、相応の大きな覚悟が必要になる。

 「ど、同行……! 」
 「どのみち拙者の仲間の女子達を満ぞ……いや、説得した後は探索行は休みと為る。その合間を縫う。如何? 」
 「そう言うことでしたら、私に異存はありません」
 「決! では今日夕刻、ギルがメッシュタバーンにて待つ! セイヤセイヤァ! 」

 ケツ! と叫んで尻を向けて駆け出す男の尻肉は無駄無く、無駄に引き締まっていた。おおう、と老若男女の溜息を
漏らす声が聞こえる。律儀に手を振って挨拶する男に、道行く市民たちは歓声を送ったり、罵声を飛ばしたりと忙しい。
どうやら彼は、自慢の肉体を披露するのが至上の喜びらしいとアティルデがようやく理解したのは、街角に取り残されて
から数呼吸の時が過ぎた後だった。

 「何されるんだろう……私」

 ――我に祝福(カルキ)あれ。アティルデは自分を抱き締め、身震いを一つすると、冒険者の宿へと足早に歩き出した。



 「おお、ドゥマス! 捜しましたよ! 」
 「……ひとちがいでござる。拙者はマスゥド、ただのニンジャでござる」

 ぽつん、と全裸に近い男が一人、酒場の卓に座る光景は異様だった。余人が近寄り難い雰囲気を醸し出すそこは、彼の
パーティの指定席でもあった。が、今は誰も居ない。その鍛え上げられた肉体の力を以って、仲間5人の女を快楽漬けの
失神に追い込んだ結果である。その卓に臆面も無く近づき、対面に座ってのける優男がいた。笑顔も爽やか、挙措は優雅。
そして真摯で眉目麗しい容貌。その風体は僧侶。酒場と言うこの場が彼専用の布教場となりかねない、善の戒律の司祭の
ルキフェだった。

 「ドゥマス、僕と君との仲じゃないですか、それとも、同門同窓の誼(よしみ)を忘れましたか? 」
 「ひーとーちーがーいーでーごーざーるー」
 「……わかりました。では仕切り直して、と……。おお【マスゥド】、捜しましたよ」
 「おお、ルキフェどのではないか、珍しい。何ぞ悪の戒律であるニンジャの拙者に用でもあるでござるか? 」

 善と悪の戒律に分かれたとしても、友誼は成立する。ただ、その信条に於いて譲れないモノがあるから、おおっぴらに
【上】では組めないだけだ。マスゥド、いやドゥマスも元は、ルキフェと同じ寺院出身で、善の優秀な司祭だったのだ。
博覧強記の優秀な人材で、数百年に一人の逸材と言われた程の素質を持っていた同門の僧侶、ドゥマス。ルキフェが彼を
頼り城塞都市に到着した時は、司教に転職し、メイジスペルまでをもマスターし、近衛兵も夢では無い術者となっていた。
しかし、彼は善の戒律ならびに司教と言う身分とを惜しげもなく捨て、悪の戒律のニンジャとなる道を撰んだのだ。

 「女性の体に、僧侶が溺れることは背徳でしょうか?」
 「……いまなんと言ったでござるか、ルキフェどの?」
 「言葉通りに解釈してください。初めて知った女体に溺れてしまいました。……探索に出ない日は一日中使って……」
 『もう声を出すなルキフェ、読唇術を遣う。……相手の事も考えろ。闇討ちされかねんのだぞ? 貴様の人気は高い』

 マスゥドは覆面の口元を解き、露出させた。対面のルキフェにも勝るとも劣らぬ端正な口元と薄い唇が、給仕の若い女の
眼を剥かせ、興味を惹く。裸なんぞで引いていては、酒場の給仕どころか城塞都市では生活が出来ない。人間が集う場所は
他にも気にするべき矛盾と混沌が織り成す創造物に満ちている。だが、この容貌を何故隠すかは興味を惹かれるらしい。

 『一生自慰もせず童貞を守ると豪語していた金剛石並みの堅物と謳われた貴様を蕩(とろ)かしたとは、どんな淫魔よ』
 『茶化さないんですか? 三擦り半も耐えられんコカトリス並みの早漏め、等の君からの揶揄を覚悟していましたのに』
 『悔悛の告白を聞かねばならん司祭が世間知らずでどうする、と言った俺と議論を闘わせた貴様がなぁ……相手は…』

 酒場に入ってくる者を、マスゥドは観察した。ギルガメッシュタバーンは、冒険者・探索者の『河岸』として有名で、
一般客の割合が少ない。今までのルキフェの仲間は全て女性だったが、手を出す、出した素振りは認められなかった。
 言わば『ルキフェ様親衛隊』のノリで、互いに牽制しあって微妙なバランスを維持していた。時折、男性が加入する
こともあったが、大概、ルキフェのパーティは5人で編成していた。リーダーのルキフェの希望が前衛に出ることなので、
後衛職や前衛職の善や中立の戒律の素人が、修練を積むのに持って来いのパーティなのだ。……引っ切り無しに来る客の
中で、躊躇いも無く真直ぐこちらに来る、眉目秀麗な東方人の女サムライを確認した後にマスゥドは口を開く。



 『アレか……貴様、どうやってアレをモノにした? 抵抗は激しかったろうに? 』
 『アレ、とは? 』
 『気配が解らんか。いや、いい。振り向け。……善い女だ。こりゃ滅多に闇討ちも出来んだろうな。……隙が無い』

 振り向け、と言われたルキフェは、振り向いた瞬間に女サムライの、噛み付くような濃厚な接吻に迎えられた。周囲から
息を呑む女声が多数上がるが、接吻しながら睥睨して、黙らせていく用心深さにマスゥドは感嘆する。女性の身ながらも
常在戦場の教えを守る、善い【サムライ】の教育を受けたに違いない。優男で堅物のルキフェがどうやってモノにしたのか
俄然、興味が湧いてくる。
 
 「私を夜通し喘がせた挙句、黙って宿に置いて行くとはちと酷いではないか、ルキフェぇ……と、知り合いか? 」
 「いやいや、公衆の面前で裸身は止せと初対面の拙者に説教を垂れているところでござるよ、ルキフェどのは」
 
 わざと拗ねた顔をして甘えて見せてから、アヤメはルキフェの対面に初めて眼を向けたフリをして見せた。【氣】を
読める程のサムライなら、相手が生物ならば正体や技量をある程度は推し量れる。飽くまでルキフェの男の面目を立てる
ために聞いて見せたのだろう。帯剣の刃がいつでも鞘走れるように、鞘の鯉口が左手親指で静かに広げられているのが
マスゥドには解る。……ルキフェに危害を加える男色家とでも看做されたならば、即座に躊躇無く刃傷沙汰に及ぶだろう。

 「置いて来たのは謝罪しますよ、アヤメ。こちらはマスゥド、悪の戒律ですが、なかなかの好人物なんですよ」
 「……悪、か。私は同席しない方が良さそうだな。私はアヤメ。最近この都市に流れて来た、東方人の善のサムライだ」
 「マスゥドでござる。裸体は我が趣味にして我が求道の姿、他人の斟酌注釈忠告委細無用にてござる。しからば御免」
 「マスゥド……ドゥマス! まだ僕の話は終わっていませんよ! 」
 「拙者、これ以上恋路の妨げをして、馬に蹴られて、さらに刃に斬られて死にたくないでござるよ、仁忍!」

 椅子から立ち上がり、眼の醒めるような見事なニンジャならではの前方回転跳躍を見せ、マスゥドはその場を離れた。
着地地点には、待ち合わせしていたエルフ族の悪の司教、アティルデが目をまん丸に見開いて――実は充分に着地地点と
舞台効果の演出をマスゥドは狙っていたのだが――立っていた。その距離はドゥマスの座っていた卓から、約15歩。
並外れた筋力・平衡感覚と、舞台にそれ相応の天井の高さが無いと出来ない芸当だった。

 「な、な……」
 「感心感心。拙者、正確な時刻を指定しなかったと言うに、夕刻と看做される段階で来るとは、流石は女司教でござる」
 「あ……!」
 「見たところ、高価な装備を身に纏って居られる様子。これはちと拙(まず)い。拙者の仲間に預かってもらわねばな」

 腕組みして笑って見せる、露出していたままの意外に端正で整ったマスゥドの口元に、アティルデはただ見惚れていた。



 迷宮に潜り、地下に入るとマスゥドはすぐに呪文を紡いだ。転移を終えると、アティルデは見慣れぬ風景と空気に脅え、
辺りを見渡している。その様子をニンマリと覆面の奥で笑いながら、マスゥドはひとしきり状況を親切に説明して見せた。

 「ここは迷宮の最下層、地下10階の入口にござる。実は拙者、マロールが使えるのでござるよ〜〜仁忍!」
 「ど、どうしてそれを隠してこんな……」
 「馬鹿に見える裸忍者なんかに、と? 肉体こそ我が誇りでござるからなぁ? さぁて、最下層に、行くでござるぅ〜〜」
 「キャアアアアアアア、いやああああああああっ! 」

 脅えるアティルデの、革鎧から出た鎧下の後ろ襟を引っ掴むと、マスゥドはシュートを使い有無を言わさず滑り降りた。

 「到着ぅ〜〜〜〜っ! 最下層は今のパーティは到達したことが無いので久し振りでござるが……相変わらずでござる」
 「うううううう……」
 「さて、治癒魔術はどのレベルまで使えるでござるか、アティルデどの? 」
 「一通り全て使えます。ですが、司祭のときのように巧く使えないのです……」

 それを聞いて、マスゥドは覆面に包まれた顎に手を当て、考え込む姿勢をわざとらしく作って見せた。大方、転職後の
能力の低下を知らないで転職し、違和感を覚えているのだろうとマスゥドは解釈していた。初対面から市民と見紛うばかりの
手弱女(たおやめ)然とした様子だったので、素人とばかり思っていたが、元マスターレベルとなると【話は別だ】。

                          したい放題の、無茶が出来る。

 「―――それは、アティルデどのに、必死さが足りぬからでござるよ―――」
 「な、何を……や、い……いや……こないで……! 」

 身に纏う、とぼけた雰囲気から豹変したマスゥドの様子に遅れて気付いたアティルデだったが、数瞬の遅れと、肉体的な
各種の能力の劣化は致命的な弱点となった。距離を取ろうと足を撓(たわ)め、駆け出そうとしたときに両肩をガッシリと
掴まれ、有無を言わさず捕らえられた。両腕を手首でひとまとめにマスゥドの大きな右手に握られ無残にも吊り下げられ、
幾度もの戦闘で鍛え上げられたマスゥドの左腕で、軽々とアティルデは鎧下(衣服)や下着ごと革鎧を引き剥がされた。
人間族の女の平均並みの大きさに実った双乳が、ぷるんと露出する。エルフにしては大きい、とマスゥドは覆面の下で哂う。

 「ひ、ひどいっ……こんなのっ……」
 「鍛えたニンジャの拙者の腕に掛かればこのとおり。防具など無きに等しいでござる。それ、下の方も――」
 「下、下は嫌です! あああ……見ないで、見ないでェっ……! 」

 革鎧の胸甲を衣服ごと放り捨ててから、マスゥドが口笛を吹きつつ残された下半身の防具に挑もうとすると、アティルデは
突然、火の付いた油紙のごとく激しく体をのたうたせたり、足をバタつかせたりして抵抗を始めた。しかし必死のそれも……

                            無駄な努力と、終わった。 



 「ほほう……かわらけ。無毛でござるか……。遥か東方の地では、怪我無くて良かったね、と珍重される……。フム……」
 「見られ……たっ……! 二十過ぎにもなって……こんなのなんて……きっと……ううっ……いっそ……殺してッ……! 」

 マスゥドの見たところ、アティルデは【姐御】的な雰囲気が漂っていたし、容貌もやや怜悧だった。歳相応の色気もある。
言わば自他共に認める【大人の女】のその部分が童女然、としているのは当人にとってはかなりの深刻な問題だったのだろう。
ここまで消え入らんばかりに恥じ入るとなると、俄然、一人の健康で紳士な男として、聞いて見たくもなることが一つある。  

 「――おぬし――処女でござるな? 」
 「!!」
 「やはり。司祭になったのもそれが原因でござるか。司祭や司教になれば、男を近づけずに済むし、性にも疎くて済むと」
 「それが――それが何だって言うのよッ!! それの何がいけないって言うのよ、この変態裸ニン……ジャ……」
 
 口を極めて罵ろうとしたアティルデの目前で、マスゥドが覆面を取り去った。壁面に刻まれた、発光する文字の明かりに
照らされたその容貌は、ルキフェに勝るとも劣らぬほどの理知的な硬さを持った容貌だった。知性と理性の輝きが宿る眼光と、
整った鼻梁。何故それを今まで隠していたのかと、いや、隠す必要など全く無いだろう、隠していることがむしろ罪だろうと
これを見た者は皆が皆、きっと言うに違いない――とアティルデは瞠目した。目を丸くしているアティルデに、マスゥドは
爽やかに笑って見せる。姐御と慕われたアティルデがこれまでの人生で見たことも無い、男臭く、そして男らしい笑みだった。

 「拙者――俺の恥ずかしいところも見せるので、これで許してくれないか? この素の姿は、あまり見せたくないんでね」

 コクコク、と素早く頬を染め頷くアティルデの様子に満足すると、またマスゥドは微笑んで見せた。今度は下帯、エッチュウ
フンドシと呼ばれるそれを寛(くつろ)げ緩(ゆる)ませると、アナコンダを思わせる、天を衝く逞しい男根を露出させた。
優男に逞しい肉体、長大で巨大な男根、そして幻想的な光源が互いの裸体を彩って行く様は、アティルデの司祭・司教として
鍛え上げた理性を徐々に熔かして行った。現実から非現実の夢想郷へと紛れ込んだように、アティルデの貌が蕩けてゆく。

 「覆面のまま無理矢理に穴と言う穴を犯し尽くして、泣き叫ばせながら必死で治癒魔術を唱えさせるのが当初の方針だった」

 アティルデは己が肉体的な特徴とカドルト神の導きと貞操観念の高さに心の底から感謝した。このマスゥドの素顔を見ずに
犯されて子壷や尻穴、口に子種を注がれたら、きっと自分は必死になってラツモフィスで子種汁こと精液の排除、マディ等で
乙女の徴(しるし)の再生や肛門の裂傷の快復をするに違いなかった。が、今は違う。むしろこの男の精を受け、孕むことを
切望していた。現に、はしたなく濡れているのが解る。こうして吊り下げられている無残な姿でも、まったく恐怖心を感じない。
むしろ崇高な何かの儀式の生贄に、自分が撰ばれたような、妙に誇らしげな優越感しか涌いてこなかった。

 「が――気が変わった。まずは貴女の薔薇を奪わせて貰い、それから俺の会得した、治癒魔術の極意を教えて進ぜよう」
 「はい……。おねがい……します……」

 消え入りそうな、楚々とした風情の震える声で同意するアティルデを、彼女が率いるパーティの仲間がもし見ていたならば…
『姐さんネコ被り過ぎですぜ』やら『こりゃ一体、どこの借りてきた小娘ですか姐さん』やら散々に茶化されるに違いない、と
アティルデは噴き出しそうになる。だが、そんなことはどうでも良い。だってこんなに――格好良い男がここに、いるから。

 「ひゃ……あんっ! そこはっ……! 」
 「不浄の女陰。しかし……この香りにこの味……正に極上……! 」
 「はぅあ、あ、あひっ、そんな、噛まない……れぇぇ! ああああぁ、飛ぶの! 飛ぶ、飛ぶぅ、とんじゃうぅっ! 」  

 ずずい、とさらにアティルデは上方へと吊り上げられ、無毛の女陰を舌で舐(ねぶ)られてしまう。そそり立った小指の先大の
発達した包皮の剥けた陰核から、小水腔、陰唇、全てを男のなすがままに溢れ出る恥蜜とともに味われ、しゃぶり尽くされてしまう。
アティルデはマスゥドの舌がもたらす快楽の、歓喜のあまりに自由になる脚で、マスゥドの首を力の限りに抱き、押し付け果てた。
鍛えに鍛えたニンジャ、マスゥドの肉体は、小揺るぎもせずにアティルデの痴態に依る、脚締めの締め付けを受け止めた。



 輝く文字の明滅する光に照らされながら、二人はまだ、生まれたままの姿になって、時間も目的をも忘れ、絡み続けていた。

 「んんんんんんんんんっ……はぁんっ! うぅンっ……」
 「どうだ? この『止まり木』の感触は? フフフ、無理に喋らなくても良い。……腰が止まらぬ貴女の痴態で解るというもの」
 「らめぇ……まら、まらぁ、またろぶぅ、ろぶのぉ! 」 

 アティルデは両手をひとまとめにして吊り下げられたままだが、今度は高さが違う。マスゥドの男根にちょうど、跨って腰掛けて
いるような体勢になっている。しかし、まだ処女は奪われていない。男根の玉冠部と茎の段差の落差や、節くれ立った血管の凹凸で
女陰を擦られ、微に至り細に亘り、責め続けられていた。アティルデの怜悧な容貌は蕩(とろ)け切るのを通り越して、白目を剥く
寸前で舌をだらりと垂れ下げさせるほどの、彼女への人間性の冒涜とも云える白痴的なものに為っていた。マスゥドはさらに男根での
刺激だけで無く、舌と左手を総動員させてアティルデの脇や双乳、脇腹などに同時に刺激を欠かさず送り続けるのだから、無理も無い。

 「ほしい……ほしいよぉ……ろおにかしれ……まら……まら……あううううううううんっ! 」
 「本当に敏感な身体を持つ。これで自慰すらしたことが無いとは。始めてから快楽の極みを迎えたのがもう51回目だぞ? 」
 「おねあい……ひまふぅっ……! もお……もお……らめ……いれれ……いれれふらさいぃぃぃ! 」

 滂沱の涙と、透明な鼻水と、粘性の高い涎を垂れ流した一種壮絶な表情でもなお、アティルデはその美しさを損なわなかった。
快感のあまりに無我夢中で啼き喚き、喘ぎ叫び散らしても、気高さや可憐さを損なわない女性はマスゥドにとっては稀有だった。
このところ覆面を取らずに突っ込む【手抜き】することばかりが癖になっていたのもあるが、このアティルデの反応は新鮮だった。
処女だというのに、はしたなくも自ら求める背徳さを感じているのが、アティルデと互いに触れ合っている、性器を通じて解る。
見ると、閉じていた未発達の陰唇が、何かを求めるようにその姿を綻ばせ、華を披いて見せているのがマスゥドにはくっきり見えた。
 これ以上快楽責めを長引かせると、アティルデの理性を完全に破壊する危険性が増すが、興奮で止められなかったのもある。



 「忘れるな。貴女が、求めたのだ。では、行くぞ」
 「ひて、ひてぇ、ちんほぉ、もおちんほひれれよぉ! ちんほぉ! 」

 東方で男根のことを世にも珍しい宝、珍宝と云うのだよ、と攻めの最中にマスゥドはアティルデに責めの際、睦言として囁くと、
語感が面白くて気に入ったのか「ちんぽ」と短縮形で呼んでいた。こう言えば恥ずかしく無いだろう、と自信ありげに言い切った
アティルデにその時に噴き出したが、まさかその「ちんぽ」を今連呼するとは思わなかった。余りの淫らさにマスゥドが思わず
身悶えすると、その刺激でまたアティルデが羽化登仙の境地へスッ飛んでしまい、また目覚めると腰を蠢動させて、また飛んで
みせる。アティルデはついに恥ずべき懇願をたった今、口にした。マスゥドはアティルデの頬の涙と鼻水を涎を左手で綺麗に拭く。

                天国に行き続けるアティルデの地獄の責苦が、ようやく終わるのだ。

 「ああああ、あいる、はいってく、は、いったぁっ! 」

 失神すら許されないのは、マスゥドが密かに治癒魔術を使って覚醒させているからだとアティルデは気付いているが、もうそんな
どうでも良かった。アティルデがどんなに自分からマスゥドの珍宝を女陰に迎え入れようとしても、身をかわしたりずらしたりして
阻止してしまうのだ。やっと、やっと入ったのだ。堅くて熱くて太いものが、恥蜜を垂れ流すだけだった己の腔をミチミチと埋めて
いくのがわかるのが、嬉しい。痛みなど一瞬だった。来たのは目くるめく充実とさらなる深い快感。奥を叩く堅く熱い何かだった。

 「――――――っ! 」
 「……まさか……な。俺のモノを全部容れられる女がこの世にいるとは思わなかったっ! ……これぞ存外の悦びよ! 」

 アティルデの胎内の緩急自在の自然な締め付けに、マスゥドはその求道者めいた端正な顔を緩ませながら、嬌声を漏らしてしまう。
そして、耐えに耐えた反動か、マスゥドは大量の子種汁をアティルデの胎内に奔流の如く吐き出した。2回、3回、4回、と身体の
最奥を叩き続ける精液噴射の衝撃がもたらすあまりの快感に脳が耐え切れなかったのか、また白目を剥き、鼻血混じりの鼻水を垂らし、
舌を噛み切り涎と血を吐き散らし―――!

                                 アティルデは、死んだ。



 アティルデが眩い光を感じ目覚めたとき、最初に目にしたのは覆面をした、裸体寸前の格好をした男だった。次に感じたのは、爽快な
健康的な肉体。痛みも何も無い。快癒・マディを掛けられた気分に似ている。最高レベルの蘇生術、カドルトで復活したのだ、と気付く。
あたりは魔法で壁に書かれた文字の光源が陰影を躍らせる不思議な空間。地下10階のままだ。自分の状態を確認すると……精液の痕跡
すらない。『異物』として処理されたのだ。覆面の男に向かい、拗ねて口を尖らせ、裸の胸板を軽くぶつ。

 「……ばか」
 「……正直、すまんかったでござる。ちとやりすぎたでござる」
 「あんなに良かったのに、全っ部、台無しだなんて……残念なの! もう一回やり直し! ……も・ち・ろ・ん、覆面をとって、ね?」
 「ゆ、ゆるしてくれるでござるか! 委細承知、合点承知の介三郎(スケサブロウ)でござる! ――参ったねどうも」

 てっきり悪口を言われるかと思って身構えていたマスゥドは、拍子抜けしたと同時に悦びを隠せなかった。何せ、始めてまともに女に
「ハメられる」のだ。己を埋没させられる喜びは何物にも換え難い喜びだ。それも、カドルトを使ったのでまた処女を散らせると来ては
弾む気持ちを隠せない。こんどこそ慎重にやるぞと意気込むマスゥドは、両腕を黙って上に伸ばしたアティルデの両手首をひとまとめに
して掴み上げる。そして今度はやや手加減して――

               天にも昇らんとするあまりに煉獄の中を覗く快楽責めが、また繰り返された。

 「ころしてぇ、私を、アティルデをぉ、ちんぽで、ちんぽで衝き殺してェっ! 」
 「おいおい、ホントに、冗談、抜きで、一度、【死んで】、いるのだ、ぞ、貴女は! 」
 「いいの! いいの! こんな、こんなの知らない、知らなかったの! こんなにちんぽがいいなんてぇっ! 」
 
 立ったままのマスゥドの首を抱き、長い脚でしがみ付き、蝉のように止まりながらアティルデは腰を蠢かせていた。マスゥドは動かない。
アティルデの中の蠢動を楽しんでいるのだ。抜き差しなどしなくても、子壷の締め付けだけでも快楽が得られてしまう。これで動いては、
精が漏れてしまう。アティルデの立場上、性交するのはこれきりになるかも知れない相手だった。――少しでも長く楽しみたかったのだ。
……どうせ最後なら。マスゥドの悪戯心がふつふつと頭を擡(もた)げてくる。がっちりとアティルデの腰を押さえつけると、その場で
なんと、回転を始めた。遠い昔、寺院での体力練成での円盤投げ競技を思い出しながら、マスゥドはアティルデを貫いたまま、回る。

 「そらそらそらそらぁ! 回る回る回る回るぞぉ! 」
「ひやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ! 」
 
 遠心力でアティルデの首に組んだ腕が外れても、構わずマスゥドは激しく回り続けた。常人を遥かに凌駕した、前衛の探索者の筋力。
その中でも鍛え抜かれた精鋭のニンジャの筋力だ。後衛職のエルフ族の若い女性の体重など造作も無い。せめて、こうなれば他の男など
考えも出来ないくらいの性交での容赦無い快楽を与えてやりたかった。――己だけの鞘にしたかった女に最高の快楽を! 腿を軽く叩き、
アティルデの組ませた脚を外させると、なんとそのまま一回転させて後背位で貫く格好にしてしまう。勿論――回転したままで。

 「いひ、いいいいいいいいいいいいよおおおおおおおおおおおおおおおおっ! 」
 「ほぉらいいだろう、イケ、イってしまえよ! アティルデ! 」
 「跳ぶ、跳ぶの、跳んじゃうの、アティルデ、とんじゃうのぉ! 」
 「飛べよ、アティルデぇっ! 」
 「あはぁああああああああああああああああああああん! 」

 感極まったドゥマスの快楽の証の子種汁の奔流と、アティルデの絶妙な媚肉の締め付けを感じながら――二人は、城塞都市へ帰還した。

                            裸のままで。



 「ときにルキフェ、ロクトフェイトとはどんな原理なのだ? プリーストスペルなのに転移とはちと不思議なのだ」
 「房事の後なのに、色気の無い会話ですね。ですが、貴女らしいですよ、アヤメ――実はですね」

 アヤメにまた宿に連れ帰されたルキフェは、アヤメをこれでもかと散々啼かせたあと、心地良い疲労とともにスイートルームの寝台に
寝転がっていた。スペルの習得や戦闘技術の習得にも熱心なアヤメに、つい可愛さを覚えてしまうのもある。聞いてきたアヤメの姿は
もちろん、全裸だった。ルキフェの右胸に「の」の字を書き、頬を舐め男根を扱(しご)きながら聞いてこられれば、男と生まれたからには
これに応えずにはいられない。

 「ラツモフィス、は解りますね? 毒素や異物を体内から排除する効果がある4レベルのスペルです。それの発展・応用ですよ」
 「いじわる。もっと解り易く頼めない――! こら……尻穴に指は反則だろう」
 「いや、ですか? 嫌ならやめますがね」
 「いじわるっ」

 頬を染めて乳首を甘噛みしてくるアヤメに、ルキフェは目を細めて黒髪を撫でる。抵抗しないと言う事は、続けて欲しいと言う事だ。

 「では、続けますよ。異物でないものは、排除されない。これは意識の問題なのです。大きな愛で、仲間を己と同一と思い……」
 「ハウゥ……」
 「そしてその場自体を大きな人体と看做し、同時に、同一視した己と仲間を異物と看做す。そして……」
 「ラツモフィス! 」

 そう言ったアヤメがルキフェの腕を取り、自らの尻穴に入ったルキフェの指を抜く。その指をぺロぺロ舐めて清め、艶やかに微笑む。
その口に【よくできました、ご褒美です】とばかりにルキフェは躊躇わず舌を入れ、接吻する。多分ここにルキフェの崇拝者がいたら、
冒涜だと喚き散らしてその場でアヤメを必ず殺すと宣言するだろう。長い長い接吻が終わると、ルキフェはニッコリ微笑んだ。

 「緊急時に、そんな複雑な認識が交錯するロクトフェイトの呪文効果が完成出来れば、一人前の治癒魔術の遣い手なんですよ」
 「転移(マロール)、とは、大元の、概念が、違う、か……! あんっ、また、来てくれるぅ……。アヤメ、嬉しいっ」

 反動をつけてアヤメはルキフェを引き起こし、自分が下になる。組み敷いた形になったルキフェは男根でアヤメをまた、激しく衝いた。