魔術師ワードナが作り出した迷宮。
そして狂王トレボーが提示した一獲千金と名誉の報酬に目が眩んだ幾多の冒険者がそこで死の恐怖を味わい、そして消えていく。
そんな明らかに危険で物騒な場所の地下一階の階段近く、今は人影が一つだけぽつんと立っている。
やがて人影がランプに明かりを点すと、その姿が照らされた。
それなりの身長にしっかりとした体型から人間族と判断でき、そして、顔付きから女性とも分かる。
美しい曲線を描く顔の輪郭に、貴族的な鼻の形と凛々しい瞳の目はエルフ族を連想させるが、まだまだ幼さが残る感じだ。
その顔を囲む前髪はちょうど中央で分けられ、背中まで伸ばされた黒い髪が帯状に光を反射していた。
彼女の周りには、誰も居ない。
今、この薄暗い通路には自分一人しか居ない。
それでいいのだ。
魔物がうろつく迷宮を一人で闊歩するなど無謀なのかも知れない。
しかし――一人でなければ、力を試す意味が無い。
別に、自分が善の戒律の戦士であって、酒場に同じ戒律や中立の冒険者が居なかったから、という訳では無い。
自分は、自分の力を試しにここに来たのだから。
彼女は、一般的に冒険者が身につけているであろう武器や防具を一切持ち合わせていなかった。
一応、一通りの装備を揃えることが出来る金はあった。
しかし素手で切り抜ける自身はあったし、重い余計な鎧を着るよりは、ただ最低限の衣服を着ただけの機動性を重視した恰好が一番だと判断したのだ。
流石にまだ忍者、と呼ばれる存在とまではいかないが、これで十分だと思った。
準備は整った。
今居るのは真上に階段に繋がる梯子があり、二つの方向に道が伸びる、つまり角のようになっている場所だった。
階段からここに進入した際、入口は南を向き、北に真っ直ぐ繋がっていたので、そのまま方角が間違っていなければ、今から自分は東に向かうことになる。
酒場で聞いた情報の通り、手始めに東の玄室に居るモンスターで体を慣らすのだ。
実戦は訓練所のそれとは全く異なるのだから。
歩を進め、すぐにそのドアを見つける。
それから一息ついた後、慎重にドアを押した。
開いた。
そのまま、空間に入った。
――そして犬頭人身の魔物――コボルドが四匹、視界に入り込んだ。
しかも、まだこちらには気付いていないようで、背中を向けている。
――いける。
床にランプを置きながら、自分が笑みを浮かべているのが分かった。
まずは一番手前のコボルドに飛び掛かり、心臓にあたるであろう位置の背中に蹴りを入れる。
更に着地し、間髪入れずに握り締めた拳で喉元を激しく突いた。
渾身の一撃を受けたコボルドは、昏倒した後に泡を吹き、そのまま動かなくなった。
唐突に起きたその様子を見て一匹が慌てて玄室から逃げ出したようだ。
後の二匹は、弾かれたように剣を持ってこちらに向かって来た。
一匹が振り下ろした剣は寸前でかわした。
直後にもう一匹が蹴り出すように足の爪で引っ掻いてきて、左腕に二つの赤い筋が走り血が流れ出したがまだそんなに深くはない。大丈夫。
再び、こちらから動き、喉を激しく突こうとした。
しかし正面から入った為か、今度ばかりは盾で防がれてしまった。
拳に痺れが走るのと、焦りを感じる間もなく、がん、と後ろから盾か何かで頭を強烈に殴り付けられた。
意識が一瞬飛び、そのまま床に倒れた。
剣と盾を捨てたコボルドの一匹が両手でこちらの肩の辺りを思いっきり床に押した。
それで、俯せに取り押さえられて身動きがすっかりとれなくなってしまった。
焦りや恐怖を感じる以前に、殴られた頭は何も感じる余裕が無いほどまだ幾分麻痺していたが、考えた。
腕の傷や、鼻の中で血が流れ出ているのは分かっていた。
もはや十分に動ける状態ではない。
――殺される。確実に。
一応、今更後悔はしていたが、しかし、それよりも自分を嘲笑うと言った思考がずっと勝っていた。
諦めは付く。
自分は、所詮身の程を考えることが出来なかった冒険者のなり損ないだと。
がう、がうとコボルド同士が、話すように吠えた。
このままコボルド達が、自分の喉に剣を突き立てて、そして自分の肉を喰らうだろう。
そのシーンを想像して――覚悟した。
しかし、次に目の前で広がった光景は全くそれとは異なるものだった。
唐突にもう一匹のコボルドが、自らのベルトのバックルを外し、衣服となっていた布を脱ぎ始めたのだ。
すぐに布はぱさりと落ちた。
そして、見えた。
――股間の、徐々に面積を広げつつあるものが。
「……!」
そこでようやく気付いた。
このコボルド達は、自分を犯そうとしている!
眼前のコボルドが、毛に被われ筋肉が発達した脚を折ってしゃがみ込むと、こちらの髪を掴んで頭を持ち上げて自らの股間のそれを突き出した。
こぶが所々に付いた、太い肉棒の先端は既に濡れたように何かを帯びていて、そして全体が脈打っている。
それを見て、頭が麻痺して何も感じていなかった自分の心理に別種の恐怖が襲い掛かってきた。
「やめっ……」
やめて、と叫ぼうとしたが、コボルドの指が唇に侵入してきて中断させられた。
はっはっ、と息遣いしながらコボルドは膝をついて、唇に入れた片手でこちらの口を無理矢理こじ開いて、そこに一物をねじ込んだ。
むせ返るような雄と獣の臭いが口内から鼻を刺激して、吐き気を催した。
顔を歪めてその肉棒を噛み千切ろうともしたが、しかし、これまた殴られた頭がやられたのか顎に力が入らない。
続けてコボルドはそれを引き抜いて、また押し込んだ。
舌や歯に雁首やこぶが擦れ合う度に、ごり、ごりとその音が頭中を反響した。
嫌がるこちらに視線を向けている犬を思わせる顔が、ニヤリと笑った気がした。
犬の顔が、だ。
ひたすらその行為が繰り返される中、背中ではコボルド特有の太い尻尾がうごめいている。
それを見て、更にぞわっと悪寒が体中を走った。
その内に、尻の上辺りの僅かな箇所に服越しに重い圧力が掛かってきた。
自分を押さえ付けているコボルドの陰茎まで高ぶってきたのだ。
我慢し切れなくなったのか、後ろのコボルドが鼻を鳴らして人差し指の鉤爪を服の背中に引っ掛けて一気に下まで引き裂いた。
もう一度叫ぼうとしたが、未だに口への陵辱も続けられており、言葉にならない嗚咽しか出ない。
そのままぼろきれになった服が剥ぎ取られると下穿きも切り裂かれて、形のいい柔らかな尻が完全にあらわになった。
なんとか視線を後ろに向けると、こちらに馬乗りになっているコボルドがベルトのバックルを外そうとはせず腰に下がった布を直接めくり、曝されたもう一匹のそれにも負けない大きさの陽根をその尻と尻の間の茂みに押し付けているのが見えた。
恥ずかしいとかこちらがそう思う間もなく何度も何度もまさぐるように肉棒をあてがって、そして遂にぐちゅりと秘所に割って入った。
思わず「ひっ」とうめき声を上げた瞬間、喉に侵入していたコボルドの先走りの液が気道に入って咳き込んだ。
それが気に入らなかったのか、手前のコボルドはふん、と息を漏らし頭を固定しようと両手で髪を掴んで膝で顎の上の側頭部を挟める。
だらだらと零れた粘り気のある犬の涎が髪に降り懸かって、それが床に沈んでいくのが見えた時に、先程までコボルドが足を密着させていた地面の部分が力を入れていたのか足の爪で削られていたのが視界に入った。
一方、陰裂に肉棒を押し込んだ筈のコボルドは膜の抵抗にあっていた。
怪訝な表情をして何度か出したり入れ直した後に、コボルドはものを挿入したまま膝でこちらの腰を挟むと、膜に構わず深く突き進んだ。
ぶちっと膜が無理矢理破られると抑え切れない程の鋭い痛みがこちらのその部分を襲いかかった。
顔を歪ませて、残った力を使って身体をよじらせて必死に抵抗しようとしたが、しかし、身体が動かなかった。
もはや様々な衝撃と恐怖で腕や足など身体中の筋肉がほとんど衰弱して萎えてしまっていたのだ。
それでも、膣だけは未だ過敏に感覚を澄ませて、そして自分の思考回路が拒絶しようにも今まさに醜悪なその肉棒を受け入れようとしている。
相手の苦痛などいざ知らず、そのまま、コボルドは乱暴な注挿を始めた。
未経験だった少女の膣壁が抉られ、失われたばかりの純潔の証の跡からの出血と滲み出した愛液が混ざり合って、桃色の泡が膣口と男根の隙間から吹き出てくる。
のしかかるようにコボルドが全身を着けさせてきたので、こちらの背中がごわごわとした毛皮の腹でこすりつけられてうずくような痛痒い感覚を伴った。
そうしてコボルドの肉棒が出入りしている内に次第に刺すような痛みも引いて、膣が意思とは無関係に肉棒を締め始めた。
膣道に対する肉棒の硬度が増し、圧力も強くなっていく。
ぐちゅ、ぐちゅと淫らな水音が大きくなって来た頃にコボルドは自らの両腕を、年齢の割には大きい胸の下に潜らせてぎゅっと引き寄せ、動きを加速させた。
もう一度、身体を反らして抵抗しようとしたが、それで収縮した膣が猛った男根を絞って、コボルドをますます刺激させただけだった。
コボルドがこちらの頬におぞましい吐息を吐きながら続ける手荒な愛撫は全身を圧迫し、やがて意識を弛緩させていく。
瞬間、口の中で暴れていたもう一匹のコボルドの肉棒が硬直したかと思うとびくんと跳ねて生暖かいものが吐き出され、数秒もしない内にに苦みのある塩味が広がった。
ねっとりとした精液が舌の下側や歯茎の外側の奥にまで行き渡って不快な感覚を醸し出す。
口内からあぶれた汚濁が苦痛に歪んだ口の端から溢れ出し、しかしそれでも口に自身を咥えさせているコボルドは、満足せずにまだ石のように硬い肉茎をまた差し込み始め――
女陰を犯していたコボルドが興奮して、いきなりこちらの首を口で捉らえて力いっぱい噛み付いてきた。
激痛と共に程なく首筋から血が噴水みたいにほとばしる。
目の前のコボルドの足元やふともも、股間が真っ赤に染まり、痛みの反射で膣がコボルドのペニスをぎゅっと締め付け、びくびくと痙攣しだした。
コボルドが血に濡れた舌を出しながらその動きに合わせるように尻尾と腰を大きく振り、こちらの身体をぎゅっと強く抱きしめた途端、絶頂を迎えた肉棒から急激に大量の子種が注ぎ込まれた。
結合部から、ごぼごぼと白濁した液体が漏れだし、陰毛を伝って床に滴った。
悲鳴すら上げられない。
もう、何も見えない。
熱が打ち込まれた腹部に反して、体中が首から温もりが抜け出すように冷たくなっていく。
あっけなかった。
自分の愚かさと共に、コボルドに対する怒りと言うよりは、これから一人で死んでしまうのだと言う偽らざる真実が悲しかった。
ここで死んだら、他の誰かが助けに来てくれるだろうか?
誰かが自分を寺院に連れ込んで生き返らせてくれるのだろうか?
誰か――
そこで彼女の思考は終焉を迎えた。
コボルド達が新しい快楽を求めて再び腰を振り始める中、そのまま、彼女は死んだ。
後に、いつまで経っても迷宮から帰ってこなかった彼女の墓が立てられた。
他にも数々の墓石が並ぶ墓場の中、彼女の墓は、比較的それが密集しているところに設置された。
そして、その墓石の本来名前が刻まれるべき部分には、僅か一つのある文字しか刻まれていなかった。
それから数日、たまたまそこに入った他の冒険者の一団が、ボロボロになった彼女の遺体を見つけた。
喉はぐちゃぐちゃに千切られたように、切断面は爆ぜ割れた果実のようになっていて、瞳は見開かれて、それでも表情は茫然としたものだったらしい。
そして、乾ききった精液や周囲に飛び散った血の臭いが混じって、凄まじい臭気を放っていたという。
それから一団は血で残された足跡から、少女がオークかコボルドに強姦された挙句に殺されたのだと判断したが、それ以上追求しようとはしなかった。
一団の僧侶から「ひどい」と言った声も上がったが、しかし「いつものことだ、行こう」とリーダー格の君主が先導し、遺体を回収しないまますぐにその部屋から離れてしまった。
こうして、彼女は消された。
その後も遺体は無視し続けられやがて消失したことも、彼女が自分の冒険者登録が既に何者かに抹消させられている事実も、彼女自身が気付くことはもはや永遠に、無くなった。