「あれ?また髪切ったの?」
集合場所である酒場の中央にあるテーブルですでにほろ酔いの恋人を見かけて、彼はビールを注文しながら席についた。
集まるように言われた時間まではまだ半刻ほどある。
「うん、また切った。どぉお似合うぅふぅ?」
んふー、と酒臭い吐息をはきながら彼女は答えた。いささか声が大きく、客が増える時間帯でありながらはっきりと聞こえた。
「うん、似合ってる。」
「そぉ?ありがと。」
彼女は先日まで長かった、今は短めに揃えられている髪をかきあげながら笑った。

彼女にはムークの血がわずかに混じっている。その証拠である朱く、艶やかな髪とくりくりした目に彼は惚れた。
「あ、でも安心してねー?下の毛はちゃんと残してるから。」
「ボフォッ!ゲッ、ングッ。ちょ、まっ!」
んふふ、と笑いながら彼女は自身の下腹部をなでた。祖先からゆずり受けた目がいたずらっぽく笑っている。
「今日街を歩いてたらさぁ?なんだかじょりじょりしちゃって歩きにくかったの。ねぇ、剃って?オ・ネ・ガ・イ。」
体をすり寄せながら彼女は手を彼の手に重ね、自身の下腹部をなでさせた。布越しに、ショリショリと柔らかい感触をおぼえる。
「ちょっと!その、ま、周り!人!」
「いいじゃない。周りに聞かれても減るハナシじゃないでしょう?」
俺の羞恥心とかが減る、と答えようと彼が口を開いたとき、隣のテーブルから声をかけられた。

「なぁ、あんたたちも剃毛派か?」

見るからに忍者だった。全裸、いや、褌一枚の男が二人にシャツとショートパンツの女性が一人。全員酔っている。
「嬢ちゃん、いや兄ちゃんでもいい、コイツに言ってやってくれ。毛は剃り落としたほうが早いって。」
褌の片割れが、女性を指しながら言った。
「いいや、薬で脱毛したほうがいい。年一回使えばいいんだ。こっちのほうが楽できれいだろ?見てみ?」
もう一人の褌がちらちらと陰部周辺を見せながら反論する。肝心の女性は他人のふりを決め込んでいた。
「いや、あの、派閥とかそんな。」
彼がしどろもどろになっているところに、何を嗅ぎつけたのか、娼婦がゆったりと近づいてきた。
「なぁにボウヤ?特殊なプレイは追加金とるわよ?」
その色香に反応してか、あちこちのテーブルから声が挙がる。
「追加金とられるンなら俺ぁ縄がいいナ。縄。」
「えぇー、ここは順当に青カンでしょう?」
「チャイルドプレイどう?」
「ふっ、不潔ですッ!交接とはお互いの愛情がッ!」
皆が皆酔っており、さらに騒ぎは広がるようだった。
「もう出よう。ほら、立って。」
危険を察知した彼はあわてて彼女を立たせようとしたが、
「ダーメー。今日の集合場所はここなのー。」
そう言って彼女は彼の膝の上に腰をおろした。首に両手を回してしなだれかかる。
嬉しそうにふふふと笑いながら、短くなった髪をさらさらとゆらした。
彼は動くのを諦め、彼女の髪をなでつつビールを飲んだ。


五分後、*バカップル反対*の名目のもとにパーティーメンバーに縛られた彼は、衆人環視の中初"剃られ"プレイを経験する。