≪これまでのあらすじ(6話冒頭部分)≫

パーティを組まない自由時間を、熟練した探索者ならば有効に使う術を心得ている。そして――
 
 「恵まれない子供達のために、貴方からの少しの優しさを、お願いします!」

 城塞都市の歓楽街の前で、喜捨を募る声が響く。声に含まれる純粋な善意が、邪な心を抱いて
集(つど)う者達に罪悪感を抱かせ、目を逸らしながらもつい喜捨に応じてしまう。使用用途は
貧民街に群れ成す子供達の集団のためなのだと声の持主は言い、その後に溢れんばかりの感謝と、
微笑みを向けられる。貧民街の子供達の集団が窃盗や強盗を主な生業としているのを知らないのか、
と意地の悪い者に言われても、満ち足りていないからだ、とめげずに彼女は喜捨を勧めるのだ。
そんな彼女に、ついに一件の娼館からゴロツキ染みた人相の悪い「若い衆」が声を掛ける。

 「ん〜と、お嬢ちゃん? ここでそんな事されると、ウチは商売上がったりなんだよねぇ?」
 「商売って、貴方のお店ではどのような品物を商(あきな)っているんですか? 」
 「どんな事って言われても…まぁナンだ…そのぉ…品物っちゃあ品物なんだがな……」

 肩の辺りで切り揃えられた直毛質の金髪、ピンと立った長い耳先に、くりくりっ、とよく動く、
芽吹いたばかりの若芽を思わせる緑色をした済んだ大きな目が男の姿を写していた。「若い衆」から
見れば「磨かなくても光る玉」なエルフ女の逸材だ。ただ、外見的に少しばかり幼く見えるのが難点だ。
どう見ても「色気」よりも「可愛さ」が勝っている。体型的には同年代のエルフ女性の平均よりも
「胸がやや不良」。彼女の善意に満ち溢れた笑顔の前に、男は自分が急に疚しく、そして醜い存在に
思えてくるのを体感していた。

 「とにかく、だ。他所(よそ)へ行ってくれないか? ここだと悪い奴らに捕まって……」
 「どきなよ兄さん、後は俺らの仕事だ。『任せて』貰おうかね?」
 「? この方達はお知り合い、ですか? 」
 「ああそうさ。貧民街の餓鬼への寄付の話なら俺達がゆっくり聞いてやるよ。ゆっくり、な? 」

 折り悪く、歓楽街の様子を見回る『盗賊 互助組合(ギルド)』の地回りに見咎められてしまった。
「若い衆」は見回りが来る前に、出来ればこのエルフの少女に一刻も早く立ち去って貰いたかったのだ。
彼等の詰所に連れ帰られれば、輪姦どころでは済まない事は、『店』の女達から嫌と言うほど愚痴られた。
 その後に、容赦無く叩き売られた女は星の数より多いらしい。こんな純粋な善意に満ち満ちた、
可愛いエルフの少女が儚くそして手荒く汚されるのは酷いことだが、もうここは諦めるしかない。
逆らえば娼館が左前にされる。

 「ありがとうございます! じゃあ、また来ますねお兄さん! わたし、ディルマです! 」
 「あ、ああ…。元気でな、ディルマちゃん……」

 盗賊互助組合の男達にガッチリと囲まれながら、爽やかに手を振ってくるエルフの少女のディルマに、
今度ここに来るときは森の妖精を思わせる、清純さと瑞々しさを失った淫売の顔をして来るに違いない、と
「若い衆」は溜息とともに力なく手を振り返しながら見送った。



  
 「で、寄付の話なんですけれど……」
 「あ〜〜〜〜〜〜〜ん? なんだってぇお嬢ちゃん? 」
 「とぼけないでください! 子供達の寄付のお話を聞く、と言うからわたし、ついてきたんですっ」

 盗賊互助組合(ギルド)に連れ込まれ、暗く狭い地下室に閉じ込められたエルフの少女は脅える様子も無い。
それどころか嫌らしげにニヤニヤ笑う、人間族の男達に喰って掛かっていた。その時、ピン、と少女の耳先が
立ち、ピクピクッと動く。……幽かな子供の呻き声を聞きつけたのだ。しかしそれは、苦痛によるものではない。
悩ましげで、むしろ……!

 「あなたたち……まさか」
 「そうよぉ、そのまさかさ。貧民街の親無しの餓鬼の使い道なんざ、変態相手の道具がお似合いってなぁ! 」
 「そぉんな見ず知らずの餓鬼の心配より、自分の心配をしたほうがいいぜぇ? おじょうちゃぁぁん? 」

 ディルマの目が暗い部屋に馴れてくる。この部屋に置かれているものが、一度カント寺院内で姉のルミアンに
少しだけ見せて貰った「特別異端審問室」に設置してある『拷問具』と同じものがあることに気付いてしまう。
X字に組まれた板に打ちつけられた鎖付きの手枷・足枷。三角柱に四本の足が付いた『木馬』。無理矢理口を開け、
水を飲ませるために固定する金属環付きの口枷。そして極めつけは……禍禍しい形をした、木製の棒状のものだ。
 その形は、過去にディルマが、リーダーのジョウが馬小屋の裏で水浴びをしていた時に偶然に、断りもなく侵入
してしまい、目撃したモノよりやや小さいが、そっくりだ。何かで磨かれたように艶々と、妖しいぬめりすら見せ
誇らしげにランプの光を反射している。……『張形』。確かモジモジと頬を赤らめたルミアンがそう、言っていた。

 「さぁてと、いい声で啼いてくれよぉ? お・じょ・う・ちゃん? 」
 「……お断りします。あなたたちなんか……泣いたってもう、許してあげないんだから…………ト」
 「はぁん? 何言ってんだカッ! 」

 俯いたディルマの首を無理矢理起こそうとした盗賊の顔が、突然不可視の拳に強打されたように奇妙に歪んだ。
僧侶系スペル最強の攻撃力を誇る7レベル魔法、『マリクト』が部屋の全体に発動された最初の証だった。
 
 「ぐげごがぁはうあだけがあじゃヴぁつさやけぁあぎゃぱしださだぁ! 」
 「だしださだしぢづすだうくあぢおだだづっぅぅあぁぅさしあぢぁすさしぃ! 」
 「ビだぞしアッダダシオあさだおあぴっぽっさだだいしぢいいいしっさぃ! 」
 「イェエさウぁさえぱだおかがっやだいじゅあんだんふぁすいぬへあおぅ! 」

 部屋にいた4人の盗賊が、見えざる拳の乱撃により奇妙な舞踏を始める。腹を殴られたが如く海老のように
体を曲げたかと思えば、次の瞬間には石畳の床にに叩きつけられる。唇を引き結び、眦を決した怒りの形相をした
ディルマは、スペルの効果が切れるまでじっと俯いたまま動かなかった。……4種4様の断末魔の叫びの中から、
子供の上げる呻き声の正確な位置を、エルフ族の持つ『聴力』で判別するために集中していたのだ。……呻きと
言うには、その子供の声は艶やかに過ぎた。甘く、切な過ぎ、未だ男を識らないディルマの胎すら疼かせずには
いられない、快楽に満ちた『喘ぎ声』だった。
 
 「まだ子供なのに……! 本当に、なんて酷いことをする人たちなの! ……許さないんだからぁ! 」 
 
 やがて血反吐を吐き、肉塊と成り果てた4人の盗賊の死骸の中から鍵束を拾い上げ、ディルマは地下室の探索を
開始することにした。……あの子を早く助け出さなければ。この時のディルマは確かにそう、思っていた。



 
 「こ、こんなことって…」

 地下室の探索を続け、漸く求めるものを見つけ出したディルマは、自分の目に映る眼前の光景に
すっかり心奪われていた。年端も行かない人間族の女児の女陰に、これまた人間族の大人の男根が
下からズップリと嵌められているのだ。しかも女児の陰裂からは透明な秘蜜が滴り落ち、さらには
女児は己から腰を振って甘い喘ぎ声と高らかな善がり声を上げ続けている。女児は拘束も為されて
いなければ、薬物・呪術を使われた形跡も無い。……強烈な快楽の虜と成り果てているのだ。

 『あッ、アッアッアッアッ…あうんっ! きもちいい、きもちいいよぉぉぉぉぉ! 』
 『すっかりコイツの味を覚えやがって、悪い娘(こ)ちゃんだなぁ? 』
 『らめぇいやぁぬいちゃやぁらぁっ! もっろしらいの、あめあめしらいのぉっ! 』

 覗き窓から盗み見る、今だ乙女の司祭であるディルマには、完全に理解の外にある行為だった。
しかし、理解は出来なくとも、本能は違う。知らず知らずのうちに、そそり立った自分の陰核に
衣服越しに左手を擦り付けてしまう。ディルマは下唇を噛み、声を殺し、中の様子を伺い続けた。
――今、乱入してしまえば、女児が人質にされる。責めている男の隙を見て突入するのだ!――
と、ディルマは無理矢理に己を納得させて、ただ、息を荒くしながら見入っていた。

 『きついきつい締め付けだぁ……。子供のおまんまんは食い締めがたまんねぇ。おらぁ! 』
 『ひぁん! ………ぁ! 』

 さらに深く、男根が女児の陰唇に割り入り、あっけなく飲み込まれた。ディルマは息を呑んだ。
痛くないのか、気絶したのか、女児がふと心配に為った時、女児はさらに腰を落とし、そのまま
擦り付けるように腰を回転させて、深い快楽に陶酔した長い呻き声を漏らしていた。

 『さいっちょおんおんしてるの、さいっちょおうおんおんしれるのぉ〜〜〜〜〜』
 『おお、奥までコンコンしてますよぉ? いけないコト覚えた娘をお仕置きしてますよぉ? 』
 『もっろもっろおひおひして、もっろもっろ、はめはめしへぇぇ〜〜〜〜〜! 』

 ディルマからは女児や男の表情は見えない。しかし、互いの性器結合部が、女児がまったく
『嫌な事をされていない』コトを如実に訴えていた。ディルマの両脚に力が入らなくなり、そのまま
太腿を開いた形でペタン、と座り込んでしまう。……胸の動悸が中々治まらない。呼吸が千々に乱れ、
頬の火照りも熱く感じる。そして何よりも……濡れた自分の女陰を、今すぐにこねくりまわしたい。
何のことはない。見事にディルマは眼前の拷問まがいの性交に魅せられ、中(あ)てられたのだ。

 だから――背後の気配になど、全く気がつくはずも無かった。肩をポンポン、と優しく叩かれるまで。

 「おひさしぶり、ディルマちゃん」
 「あひゃぁ! 」
 「しっ、大きな声出さない。ここ、盗賊互助組合(ギルド)の秘密の地下調教場なんだからさ」
 「マッケイ……さん? 」

 ホビット族男性の、少年のような純心な瞳が、振り向いたディルマの欲情に蕩(とろ)け切った姿を
ディルマ自身にこれでもか、見せ付けていた。森の妖精エルフどころかこれでは夜の淫魔ニンフだ、
とディルマは自己嫌悪に陥り掛けるが、パーティーから抜け、故郷に帰ったはずのマッケイが何故
ここにいるのか、と辛うじて残っていた理性が働き、徐々にディルマの怪訝な表情を創っていく。

 「ああ、たまたま用事があって顔を出したら、何か下で凄い物音がして、一番の下っ端だった
  僕が見て来いって脅されてさ。そしたら4人ばかり、マリクトで血達磨になってるだろう? 」

 そう言ったマッケイは、やれやれ、と短剣を持ったまま両手を開き、まいったねどうも、と頭を
左右に振って、『困ったな』と言う仕草をしてみせる。パーティーでは一番の若手のディルマに、
最初に子供扱いされて怒るでもなく、そのままで黙ってディルマのされるがまま、なすがままに
していたホビット族のマッケイは、見兼ねた『灰燼姫』こと姉のシミアに拳で軽く打たれるまで
悪乗りしていたのを、ディルマは懐かしく思い出す。……実は別れて1週間も経過してはいない。
だが、本当に……ディルマは心の底から安心した。だから、思わず抱きついてしまった。

 「マッケイくんっ……! ……ありがとう……」
 「僕、これでもジョウやシミアより歳を喰ってるんだよ? ディルマちゃん?」

 宝箱の罠を外した、とシミアに報告したときに、ディルマに『いいこいいこ』と頭を撫でられた。
迷宮でLv8シーフに囲まれたとき、貴重な6レベルスペル『快癒:マディ』のある攻撃魔法の
『空刃:ロルト』を惜しみなく使われ、助けて貰った。ホビット族を全く見たことが無い環境で
育ったのか、ほとんど無警戒で子供扱いするこの娘に、マッケイは不思議と反発を覚えず、むしろ
己の人生の中で全く存在しなかった、女性の庇護者――姉か母親のような――親しみを抱いていた。
しかし、この一件で完全に互いに理解した。……子供なのは彼女、ディルマのほうだったのだ、と。

 「さ、こうしちゃいられない。他の誰かに見つかったら、ディルマちゃんも『ああ』されるよ」
 「マッケイく……さん」
 「マッケイくんでいいよ。急ごう、出入口はひとつじゃないんだ。しっかり僕についてきて」

 涙ぐむディルマを立たせ、辺りに素早く目を配り気配を探るその姿は、熟練者の盗賊の実力を
垣間見せた。でも、頼もしく見えても、罠外すの下手なんだよね、とディルマは溢れる涙を拭き
ながらこちらを見遣るマッケイに頷いて見せた。……ディルマは幸いにも、気付かなかった。
マッケイの目が、全く感情すら窺(うかが)わせない――人外の化生の――ものとなっている事に。
 マッケイは今まで大切に守ってきた、ディルマの前での『仮の道化の自分』を捨てる気でいた。
本当に大切な笑顔を守るためには、自己や他人の幻想など完全に捨てても惜しくは無いと信じて。

 マッケイの貌は、怜悧な刃の如く、表情から感情を排除していた。自らを『首領』と呼ぶ部下すら
斬らねばならぬのだから。忍者マッケイ。マヌケな盗賊ではなく、真実の手練の暗殺者として、
今回の己に課した任務だけは失敗するわけにはいかなかった。

 ――失敗は、一度だけでいい。もっとも、『灰燼姫と他一名の侍』は喜ぶべき失敗だったが――

マッケイはふと優しい微笑みを浮かべ、すぐに唇を禍禍しく歪ませた。こんな心の動きすら邪魔だった。