「あん……あ……あ……ジル、ジル」

エルフらしい、小ぶりで形の良い胸のふくらみを撫ぜると、
それだけでアリーはかわいらしい声をあげる。
ゆっくりと、形を崩さないように優しく揉んであげると、小さなピンク色の突起はみるみる硬くなっていった。
「アリー。とてもかわいいよ」
僕はかすれた声でアリーの耳元に囁く。
白い、絹のような手触りの肌。手折れそうなくらい華奢な手足。
そして、光沢を放ちながらさらさらと流れる長い髪。
自分にはない、本当に女の子らしいアリーの全てがたまらなくいとおしかった。

「んっ!」
そっと息を吹きかけると、先の尖ったエルフの耳がひくりと震える。
敏感な耳たぶを舌の先でつつきながら、僕は右手をそっとアリーの胸から離した。
心配になるくらい細いくびれのラインをなぞり、柔らかい猫の毛のような小さな茂みを抜けると、
僕の右手はアリーの女の子にたどり着く。指先にぴとりと吸い付くような感触。
アリーはもうすっかり潤っていた。
「や……だ、恥ずかしいよ」
僕は横抱きにしたアリーにぴったりと身体をつけて、アリーのそこにゆっくりと指を沈める。
小さく震えるアリーを身体全体で感じながら、壊れ物を扱うように指の腹でやさしく膣内の壁をこすった。
指と指の間にとめどなく溢れた蜜が絡まる。アリーは時折切なそうに喘ぎを漏らした。

たっぷりと時間をかけてこね回す。だんだんと充血してきたアリーの中が、
僕の指をきゅうきゅうと締め付けるのがわかった。
僕の肩にしがみついたアリーの手に力がこもる。
それは登りつめようとするアリーのサインだった。僕は指をアリーのお腹の側にある急所に伸ばす。
「ん、……ん、んっ」
アリーの内股に力がこもった。
アリーは顔を真っ赤にさせ、小動物のように縮こまって、必死で声を押し殺す。
僕はその小さな波が引くまで待って、指をまだ余韻の残るそこから引き抜いた。
指と一緒にとろりとした恥ずかしい液体がこぼれる。
アリーは焦点の定まらない瞳で、ぼうっと僕の顔を見上げた。
「ジ……ル……お願い、もう、きて」
僕はアリーを安心させるように微笑むと、荒い吐息の漏れるその唇に優しくキスをした。

* * *

「ジル……とっても、素敵だった……」
何度も絶頂に導かれ、くたくたになったアリーは、僕の胸元に顔をうずめるとくぐもった声でそう言った。
僕はその仕草がたまらなく愛しくて、その黄金色の髪を撫でようと手を持ち上げた。

そのときである。
ぞくり。言い知れない悪寒が僕の背筋に走った。

白目のない、動物的な、感情を読めない瞳。

唐突に脳裏に浮かんだそのイメージに、僕の手が途中で止まる。
見られている。なんの根拠もないのに、直感的にそんな感じがした。
しかもあの瞳。なんてことだ。よりにもよってこんな時に、『ヤツ』の目を思い出してしまうなんて。
情事の後の心地よい気だるさが台無しになっていく。最悪の気分だった。

「どうしたの?」
気がつけば、アリーが気遣わしげに僕の顔をのぞきこんでいた。
「な……んでもない」
僕はアリーの頭に手を乗せると、ゆるく懐に抱きしめる。
そして、自分の妄想を振り払おうとかぶりをふった。
「ただ……『ヤツ』にのぞかれているような気がしたんだ」


* * *

僕らは地下の探索に行き詰っていた。
敵は強く、罠は凶悪で、こちらの成長は思うにまかせない。
もう一階深く潜るためには、何か決定的な戦力の強化が必要だった。

キサナは「六人目の仲間が必要だ」と言って毎日のように酒場通いを続けていた。
その間、僕や他の面子は特にすることもなく、
宿屋に引きこもって手持ち無沙汰の時間を無為に過ごしていたのだ。
無為に、とは言っても、僕とアリーにとっては久しぶりに二人でゆっくりできる時間ができたわけで、
そうなればすることは一つしかない。爛れているなあ、と思いつつも、毎晩心置きなく愛し合っていた。

その日も前の晩に頑張りすぎたせいで、僕はすっかり寝坊してしまっていた。
きれい好きのアリーは宿の亭主に用意してもらった湯桶で朝から体を清めていたけど、
僕はそんな気にもなれず、何か口に入れようと、疲れの残る体を引きずって階下の食堂に降りていったのだ。

太陽は既に高く、さりとて昼食にはまだ早く、宿の食堂は閑散としていた。
まばらに散る泊り客たちの中に二人の仲間の姿を見つけると、僕は彼女たちのテーブルに向かい、
空いた席にどかりと腰を下ろした。

「おはよ」
かすれた声で朝の挨拶をすると、ザジがにやにやと下品な笑いかけてきた。
「へっへっへ、お客さん。昨晩はお楽しみでしたね?」
つぶらな瞳をくりくりとさせながら、下ネタ好きのホビットは中年の親父のような話をふる。
「……っていうか、『昨晩も』だよね。まったく、お盛んなことで。
 あーあ、パーティー内に恋人がいるやつはいいよなー」
「ちょ、ちょっと!大声でそんな話、やめてってば」
ザジのあけすけな物言いに僕は気恥ずかしくなり、誰か聞いていないかと慌てて周囲を見回した。

でもこれは失敗だった。こっちが反応を返すとこのホビットは余計調子に乗るのだ。
「顔真っ赤にしちゃって、かわいいなあ。ねえ、たまにはお姉さんのことも相手してよ」
可憐な顔にいやらしい笑いを浮かべてしなだれかかってくるザジは、どう見ても年下に見える。
ただそれは彼女がホビットだからで、本人が言うとおりれっきとした年上のお姉さんである。
ザジに限らず、このパーティーの仲間はアリー以外みんな僕より年上だ。
そして、まだ駆け出しの僕やアリーよりも高い実力を備えている。
ザジだってこんなだけど腕利きのバードなのだ。……こんなだけど。
「ぼ、僕は恋人以外とそんなことしないよっ!」
ザジらしい悪ふざけなのはわかっているけど、それでもつい真面目に答えてしまった。

その反応に気を良くしたザジが更に僕をからかおうと口を開きかけたところで、助け舟が入った。
「アリエルはまだ寝てるのか?」
低めのトーンでそう問いかけてきたのはヌビアだった。
起き抜けのだらしなさで椅子にもたれている僕と違って、
ヌビアはすらりと背筋を伸ばして座っており、隙がない。
もちろんヌビアはそもそも寝坊なんかしてないわけだけど、彼女だったら寝起きだってこんな感じだろう。
バルキリーのヌビアは宿屋の中でも愛用の槍を手放さない。もちろん、穂先に布は巻いてある。
用心というのもあるが、常に戦場を忘れないという心構えの問題なんだそうである。
「あ、もう起きてるよ。すぐ降りてくると思う」
「そうか」
そう言ってヌビアは薄暗い階段の方に視線を向けた。
瞳の中の虹彩が開き、頭の上にのった耳がぴょこんとはねる。ヌビアはフェルパーだった。
「いつ地下に潜るかわからん。……まあ、疲れが残らんように、ほどほどにな」
「う……」
視線をあちらに向けたまま、ヌビアはさらりと釘を刺す。
助け舟をくれたはずの当人にとどめをさされて僕は言葉に詰まってしまった。
しゅんとする僕の様子を見て、ザジが脇から「ひっひっひ」と、親父臭い笑い声を上げる。
「む、来たな」
ヌビアが呟く。
僕はこの状況の救い主を求めて、階段の方に目をやった。
しっかりと身だしなみを整えたエルフの少女が、こざっぱりとした表情で降りてくるのが見える。
「あ、おーい、アリー! こっちこっち!」
照れ隠しというわけではないが、僕は大きく手を振ってアリーを呼んだ。


* * *

僕とアリーは手早く朝食を済ませる。
ザジやヌビアも、他愛のない話をしながらそれに付き合ってくれた。
そうしている内に時間は昼食時を迎え、食堂は僕らと同じ冒険者らしい客で混み合いはじめる。

そこに、キサナが現れた。

「あら、みんなそろっているようね」
彫刻のように整った顔立ちから、凛とした声が響く。
キサナは僕らと違って地下に潜る時と同じ装いで、重厚な金属鎧に身を包んでいた。
鈍く輝く板金には紋章が彫りこまれており、
彼女が高貴な職業――ロード――であることをはっきりと示している。
鎧の着用を阻害しないように、きれいな黒髪は短く切られ、鎧で体のラインがわからないこともあいまって、
まるでどこかの貴公子のように見える美丈夫ぶりだったけど、れっきとした女であり、
僕らのパーティーのリーダーである。

その容姿は人目をひきつけずにはおれない華やかさがあり、
現に他の客の視線は彼女に注がれているのがわかったけれど、
僕の目はむしろキサナの後ろに立つ人物に釘付けになっていた。

いや、それを「人物」と表現してよいものかどうか。
一言で言えば、巨大な、本当に巨大な白い毛のかたまり。
魔物のようなそれが、魔術師っぽいローブに身を包んでいるのがなんだか冗談のようだった。
純白の体毛の毛足は長く、もしそれが掌に乗るようなサイズだったらかわいげに見えたかもしれない。
しかし、なにしろ大きい。キサナと並ぶとそれがよくわかる。
長身のロードから見ても見上げるようだったろう。
縦に大きいだけではなく、幅も相当なものだ。
特に無理やり帯で締めた腹部のたるみはひどいもので、身じろぎのたびに脂肪の塊が上下に揺れる。
巨漢、そして肥満。これは、かわいいなんてものではない。ただ、おそろしい。威圧感がある。
なのに、毛むくじゃらのせいで、男なのか女なのか、若いのか老いているのか、
そんなことすらわからない不気味さ。

そして、目。
完全に体毛に覆われた身体の中で、それだけが外気にさらされている。
白目のない、動物的な、感情を読めない瞳。
そのくせ、こちらのことだけはしっかり観察しているように思わせる薄気味悪い瞳だった。

僕はこれまでムークという種族と接する機会はなかった。
でも、自分では、異種族に対して偏見のないほうだと思っていたので、
機会さえあればきっと上手く付き合えると思っていた。
ホビットのザジやフェルパーのヌビアは良い仲間だし、エルフのアリーのことは愛している。
だけど、それは彼女たちが僕やキサナのような人間と、
それほど変わらない容姿を持っているからだったのかもしれない。
今はっきりわかった。僕は、こいつらだけは、無理だ。
たとえ偏見と言われようと、こんなわけのわからない奴らと心を通わせるなんて、とても不可能だ。

「紹介するわね。彼はムック。サイオニックよ」
キサナは毛むくじゃらの背中に親しげに手を回す。
といっても、身長差があるから、必然的に化け物の腰のあたりに手をそえることになる。
その仕草に、僕はなんだかぞっとした。
人に人を紹介するときのごく自然な動き。何もおかしいわけではない。なのに、ぞっとした。
そして、キサナは更に驚くべきことを口にした。

「……そして、私たちの六人目の仲間よ」

* * *


「『ヤツ』って、ムックのこと?」
アリーが訝しげに聞き返してきた。
「……ああ、そうだよ。ムック。ムークのサイオニックでムック。まったく、ふざけた名前だ」
僕は思わず、苛立たしげに、吐き捨てるようにそう答える。
「……仲間のことをそんなふうに言うのは、よくないよ」
「僕はあいつが仲間だなんて認めない」
控えめに諌めるアリーの口調に、なんだか腹が立って、僕はかたくなな拒絶を口にした。
「でも、もう、キサナが決めたことなんだよ?」
アリーは聞き分けのない子供に言い聞かせるように言った。

そう、そうなのだ。それもなんだか気に入らない。
僕はキサナのことを信頼してるし、尊敬もしている。
リーダーである彼女が決めたことなら、基本的には従うつもりでいる。
でも、今回のやり方は、なんだか彼女らしくない。
キサナは重要なことを決めるときは、必ず仲間全員の意見を聞く。
自分の中で熟慮を重ねて、最善の選択肢を選び抜いた上でも、
聡明な彼女は決して仲間の意見をないがしろにはしない。
なのに、今回は、六人目の仲間というこの上なく重要なことなのに、
まるで既に決まったことであるかのように、
「新しい仲間よ」と紹介して、それで終わりだった。
キサナが新しい仲間を探しているのはもちろん知っていた。
ただ、候補を選んだ上で僕たちの意見も聞いてから決めるだろうと、当然のようにそう思っていたのだ。
だから、正直驚いた。違和感を感じた。きっとみんな内心ではそうだったはずだ。
だけどあのときのキサナの様子は、にこやかだけど有無を言わせないものがあった。
言葉の端に、態度に、「これは規定事項で変更の余地はない」という意思をにじませていた。
そのことについて、僕はなんだか裏切られたような気持ちを味わってもいたのだ。

でも、それだけではない。
子供じみた反発心だけで、「勝手に決められたから従わない」と決め込んでいるわけではない。
「あいつは、なんだか気味が悪い」
僕の口から正直な感想が漏れる。
アリーはとても性格の良い子だから、こんな陰口みたいな話には同意してはくれないだろうけど、
それでも「まあ、見た感じはちょっと怖いけど……」くらいの言葉が返ってくると思っていた。

ところが、アリーは、本当に、なんでそんなことを言うのかわからない、とでもいうような、
心底不思議そうな表情で言った。
「そうかな?」
予想外の反応に、僕は少しだけ驚く。
「だ、だって、そうだろ?でかいし、太いし、何考えてるかわからないし
 ……アリーはあいつが仲間だなんて嫌じゃないのか?」
「ううん。きっと、キサナなりの考えがあっての人選だと思うし」
「だってあいつ、オス……男、だよ? アリー、新しい仲間は女の子がいいって言ってたじゃないか」
意外そうに問う僕に、アリーは笑って答えた。
「ムックは、男とか女とか、そういう感じじゃないじゃない。もふもふしてて……
 失礼かもしれないけど、マスコットみたい。おっきくて、かわいいよ」
「か……かわいい?」
僕は絶句せざるをえなかった。
アリーらしい、女の子らしい考え方だというべきなのだろうか? よくわからない。

「僕には、そう思えない。不気味だよ。さっきのぞかれている気配がして、あいつのことを思い出したんだ。
 ……あいつと同じ宿に泊まってると思うと、ぞっとするよ」
「同じ宿って……ムックは馬小屋じゃない。ここからは大分離れてるよ?」
アリーはそう言って、また笑った。
そう、あいつは馬小屋に泊まっている。金がないわけでもないのに、なぜか。
それもなんだか気持ちが悪い。いったい、何を考えているんだろうか。
とはいえ、それを口にしても、どうやらアリーの賛同は得られそうにない。
僕はあの不快な生き物の話を打ち切るために、捨て台詞のように口にした。
「とにかく、まだどんなヤツかわからないのは確かだろ? アリーも気を許しちゃだめだ」

* * *


馬小屋は不潔だ。
冒険者たちの汗が染み付いた藁。暗闇に充満するすえた臭い。
この宿でもっとも安い寝床――大部屋に詰め込まれた窮屈な簡易寝台と比べても、寝心地は格段に悪い。
だがそれも無理はない。ここは、宿の亭主がほんの好意で提供している無料のねぐらなのだから。

その異臭の漂う闇の中で、巨大な何かがもそりと動いた。
うずたかく詰まれた藁の中に身を半分埋めながら、
それでもこんもりとした山が突き出るほどの巨大な何かだ。
瞳を閉じて瞑想かなにかにふけっていたムックが覚醒したのである。
もし魔術の心得のあるものが、先程までの彼の様子を観察していたなら、
それが「ウィザード・アイ」の術中に特有の自失状態であったことに気づいたろう。
それは意識を飛ばして周囲の様子を探る魔法、
ありていに言えば、壁の向こうをのぞき見るための魔法である。
街中で使って良い魔法ではない。
ましてや、ここは宿屋だ。どんなに鈍感な人間でも、その不埒な用法には察しがつく。
ムックの周囲に人影がなく、術の使用がばれなかったのは幸いだったろう。
もっとも、仮に誰かに見つかっていたとしても、彼を宿の亭主に突き出すような真似はするまい。
何を見ても見なかったことに、何を聞いても聞かなかったことに。
それが馬小屋で雑魚寝する冒険者たちの間での暗黙のルールだった。

――フーッ、フーッ
毛むくじゃらの顔の口に当たる部分。二股に分かれた毛の束が口ひげを思わせるそこから、呼気が漏れた。
獣地味た荒い呼吸。どうやら、この毛むくじゃらの生き物はひどく興奮しているようだった。

ムックは昂ぶっていた。
先程まで「ウィザード・アイ」で窃視していた光景――恋人同士の睦み合う様に、
性的な興奮をおぼえてしまっていたのである。
昂ぶったものは、鎮めなければならない。
もっとも、ムックは既に鎮めるための「道具」、昂ぶった肉欲のぶつけ先を用意してあった。
仰向けだった彼は、脂肪の詰まった腹の毛皮を波打たせるようにして、のそりと顔を起こす。
そして自分の股間に顔を埋める人物をみやった。

本来の用途が畜舎であるこの場所に、肥えた毛の固まりであるムックほど似つかわしい者はいないとすると、
彼の股間に奉仕する人物は、逆に最も場違いな人物といえた。
不潔で卑しい馬小屋で見るにはあまりに高貴な面立ち。
身に纏った男物の寝衣は、無骨ながら上質な仕立てのもので、すらりとした長身の彼女には良く似合う。
そんな典雅な貴公子然とした人物が、ひざまずき、短い黒髪を振り乱して、ムックの陰茎に舌を這わせていた。
巨体に相応の巨根の、先端から根元、そして陰嚢にいたるまでを、舌を伸ばして懸命に奉仕する。
極太のそれに窒息しそうになりながらも、薄い唇を大きく開き、涎を垂らして咥えこむ。
だらしなく雌の臭いを撒き散らし、普段の凛とした中性的な雰囲気はかけらもうかがえなかった。



キサナにはわけがわからなかった。
新しい仲間を求めて酒場に行ったものの、
眼鏡に適う者が見つからなかったため、早々に引き上げるところだった。
実力者が見つからなかったわけではない。それなりに熟練していると思しき冒険者はちらほらいた。
その中には、ひときわ巨漢のムークのサイオニックの姿もあった。
だが、声はかけなかった。仲間のエルフの少女が、「新しい仲間は女の子がいい」といっていたからだ。
女冒険者の数は少ないというのに、無茶を言う。
そう考えて苦笑いを浮かべながら立ち去ろうとしたときである。
ムークに声をかけられた。
不思議だった。
キサナは結局誰にも声をかけていなかったから、彼女が仲間を探しているなどとはわからなかったはずである。
誰かとの待ち合わせかもしれない。酒を飲みにきただけかもしれない。
なのに、そのムークははっきりと、自分を仲間にしろ、と、そう言ったのだ。

キサナは断った。だが、ムークは執拗だった。
背を向ける彼女に追いすがり、その肩に馴れ馴れしく手をかけてきた。
無礼をとがめようと振り向いたところで、ムークは何事かを呟いた。もごもごと、呪文のような何かを。
瞬間、キサナには、目の前のムークがひどく親しみのある人物に思えてきたのだ。
熟練したサイオニックによる「チャーム」は目覚しい効果を上げる。
しかし、ほかならぬ術中にあるキサナには、それが魔法の効果であると認識することはできなかった。
深い知性をたたえた瞳は好ましく、見上げるような巨体は頼もしい。
六人目の仲間として、この上ない適格者であるように思えた。
そして言われるがままに、仲間たちに紹介してしまったのである。

自分の部屋に引き上げてからも、キサナは何事かムックに話しておかねばならぬことがある気がしていた。
そこで馬小屋の彼を訪ねたのだが、着いてみたら特に話すことはなかったことに気づく。
キサナは当惑したが、ムックが彼女の来訪を当たり前のように受け入れたのでなんだか安心してしまった。
話すこともなく、無言でムックと向き合う。
ムックは時折、あの呪いのような言葉をもごもごと、何度も何度も呟いた。
何度も何度も。そのうち、彼女は馬小屋でこうしてムックと向き合うことに、なんの不自然も感じなくなった。
何度も何度も。頭に靄がかかり、考えがまとまらなくなる。ただ、目の前のムークへの好意だけが深まっていった。
何度も何度も。やがて彼女は、彼の巨根に奉仕するのが、恋人として当然の義務だと思うようになった。

ちゅぽん。
一通りの奉仕を終えたところで、キサナは巨根から口を離した。
涎と何かの体液の混合物が、陰茎の先端から糸を引き、だらりとキサナの口元に垂れ下がる。
口腔内の温度で温められたそれから、むわっと湯気のようなものが立ち上る。
臭いが鼻をつくが、なぜか不快ではない。
キサナは、心を弄られた者に特有の陶酔したような表情で、ムックを見上げた。
既に術から醒めていたムックが、無言でキサナを凝視していた。
暗闇に光る、大きな二つの黒目。それが今、肉欲の昂ぶりにぎらついていた。

「あ……ご、しゅじん、さ、ま」
キサナの口から、まったく自然にその言葉が漏れた。
口に出してみれば、やはりなるほどと思う。この毛むくじゃらの獣は、確かに彼女の主であるはずだった。
「ご主人様」
もう一度呟く。
ロードたる彼女が口にするには決して軽い言葉ではないはずだが、キサナにはそれがひどく当然のことに思えた。
なぜなら、彼女はこのムックの肉奴隷に相違なかったからである。

ムックは毛むくじゃらの指先で、「上に乗れ」と指示を出す。
キサナはそれにまったく従順に従う。
長時間ひざまずいていた姿勢から、立ち上がる、そこでようやく、自分の股間がどろどろになっていることに気づいた。
奉仕している間は夢中であったが、ひどく興奮してしまったらしい。
内股の寝衣が蜜を吸い、ぺったりと張り付いているのが不快だった。
脱いでしまえばいい。
そう言われた気がして、キサナは不快な布を取り去る。
馬小屋の暗がりの中で、女ロードの下半身がさらけ出された。
すらりとした股下の長い脚。前衛職だけあって肉付きは良い。
健康的な筋肉と女らしいやわらかさが絶妙の配分で備わっていた。

彼女は一礼すると、仰向けに転がったムックの腰に跨る。
そして、毛と脂肪のかたまりの中に沈みこむように、ゆっくりと腰を下ろした。
屹立する巨根に手をそえ、自分の中へ誘導する。
「くっ、」
キサナの動きが止まった。
巨大な杭は、濡れて開ききったキサナの入り口にその先端をめりこませていた。
だが、入らない。十分に潤っているのに、入らない。
ムックのそれは太過ぎた。年の割りに男を知らないキサナには、荷が勝ちすぎる代物だったのだ。
キサナは当惑して主を見る。
しかし、ムックは無言のまま、ただ二つの黒目でじっとキサナを見ていた。
心なし、苛立っているようにも見受けられる。
キサナは決意した。果断な戦士である彼女は、一度決めてしまえば躊躇はしない。
深く呼吸を吐き、内股に力がこもらぬようにする。
覚悟をするのに腹に力を入れないのは難しい。だがキサナは強靭な精神力でそれをやってのけた。

ためらいを押し殺し、一気に腰を落とす。
「……あっ、あ、あ、あ、っ!!」
ずぶりと音を立てて巨根を飲み込む。身体の奥に杭が打ち込まれたようで重苦しい衝撃が走った。
だが、それ以上に強烈な快感が頭を突き抜ける。
長時間主の物をしゃぶり続けたことですっかり蕩けきったいた自分の膣内が、
今度は勝手にきゅうきゅうと異物を締め付け始める。
どっと汗が噴出し、腰ががくがくと震えた。
心の底からの服従を捧げた、愛しい主のものを迎え入れたという悦びがキサナの意識を焼き尽くす。
操られた心は、身体の感覚をも従わせようとして強烈な快感を錯覚させた。
キサナは挿入のその瞬間に、生まれて始めての絶頂を味わい、そして腰を抜かしてしまった。

貫かれたまま身を快感に震わせ、声にならない喘ぎに唇をふるわせるキサナを、ムックは無感動に見つめていた。
やがてその反応に飽きると、いつまでも動き出さないキサナに業を煮やし、思い切り腰を突き上げる。
「うあああっ、あっ、んあっ、あっ」
快楽の波が引かぬ内に中を掻き回され、キサナはあられもない絶叫をほとばしらせる。
――ふほっ
それを見て、ムックの口から喜悦が漏れた。
まるで玩具の仕掛けに気を良くした子供のように、面白がって何度も何度も突き上げる。
腰に力が入らないキサナは、その衝撃を殺すころもできず、
ムックの動きのままにその身体の上で弄ばれるしかなかった。
キサナの絶叫にすすり泣きのようなものが混じっても、ムックは容赦をしなかった。
ただ自分の肉欲を満たすために、がむしゃらに腰を突く。
崩れ落ちることも意識を失うことも許されず、キサナは繰り返し、力づくで高みに引き上げられた。
明け方近く、ムックの昂ぶりが収まるまで、キサナの絶頂の叫びがいくたびも馬小屋に響き渡った。

(つづく)