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Q:迷宮探索者募集が何故絶えないのか。

A:迷宮を必要とするものが絶えないから。
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 城塞都市の一番の問題は拡張が簡単にできないことだ。
 産業が発達し、商業が励行され、人口にあわせて農業が大規模化されるとどうしても手狭になる。
 こうなるとなかなかに対応が難しい。
 家の建て増しは基本的に水平ではなく垂直方向に行われていくため、いつしか積層都市となった都市も存在する。
 開明的な都市国家では城塞の一片を開放し、都市周辺区に新市街を形作っていくこともある。
 
「と、いうわけで迷宮内にいつしか出会いを求めた男女のための区画ができたわけだ。
 連絡は探索者への依頼用の掲示板や専用の水晶球で行って、折り合いがつけば中でしっぽりやる寸法だ」
 ランプと蝋燭の明かりのしたで組紐で出来たパズルに挑戦している男が、傍らの寝台に寝そべる女へと囁いた。
 男の指は器用に動き、解錠を拒む組紐を巧みに解いていく。
 その指の動きをとろんとした目で見つめながら、高山に棲息する特殊な山羊の毛がつまった敷布団の上で女が重ねて問うた。
「都市が手狭になったのは分かります。ですが、何故わざわざ危険な迷宮の中で出会おうとするのですか」
「手っ取り早く稼ぎたい。だが街には縄張りがあるし、元締めに売り上げを上納しなけりゃならない。派手に稼げば娼館からも敵視される。
 街の外で商売すると余所の危険な相手が混じるかも知れない。となれば迷宮はそれなりに条件がいいんだろう。
 前に冒険者の宿屋で派手に売春をやっていたやつは、善と悪の戒律争いに巻き込まれて始末されたしな」
「街中もあまり平和とは言えませんね。店の中で相手するのが一番安全なのですね」
「まあな。店なら後ろ盾がある。個人営業で頑張るやつは迷宮内の昇降機からの直通場所に部屋を用意しておくそうだ」
 組紐を解き終えて、男は寝台へと腰をかける。やや堅めの寝具が沈み込み、男の体で出来たくぼみに吸い込まれたとでも言うかのように自然に女が身を寄せてきた。
「ねえ、あなた。少し気になったことがあるのですけれど」
 女は男の背中に頬をよせながら、その白い腕を男の腰へと絡ませる。片方は太ももを、もう片方の腕は胸のあたりをなで始めた。
「ん? シニストラリ、何か気になったことでもあるような話か? 店の売り上げにはさほど影響はないと思うが」
「いいえ。売り上げなんかどうでもいいことです。私が気になるのは、ずいぶんとその出会い系にお詳しい理由ですわ」
「――ッ! ……いや、その、なんだ。メイキュウノコトニハ キヲクバルノガ ショウバイダカラネ」
「…………」
 女は何も言わず、無言で男の服に手をかけると、一気に引きちぎった。
 怒れるサッキュバスの腕力の前に、単衣から肌着までが真っ二つにちぎれて服からぼろ布となる。
「怒ってますか、シニストラリさん」
「ふふふ。いいえ、怒ってなどいませんわ。ようやく部屋にきてくれたんですもの。ああ、そういえば大切なことを言い忘れてましたわ。
 私いじめられるのが大好きですけれど、MはSを知っていればこそなのですって。あら、そんなに逃げようとしなくても大丈夫です。
 だって私のSはサービスのSですもの。ふふふ。たっぷりいじめてさしあげますわ。責めすぎたらごめんなさい。
 あとでたっぷり入れ替わっていじめてくださいましね」