地下四階の警報機を作動させたところ、ワードナが配置した守衛達がどこからともなく集まってきた。
 尼僧と忍者が二人ずつだ。他に敵影はない。いずれもワードナ如きに魂を売った賎しい冒険者達だ。
初めてこの階層に足を踏み入れる者には脅威となるだろうが、所詮は才能と勇気の欠如した未熟者の集団だ。
熟達の果てを見据える我らにとっては一般大衆と変わらない。
「なるべく生け捕りにしろ。生き返らせる手間が省ける」
 私が部下二人にそう指示したのとほぼ同時に、敵集団が武器を収め、構えを解いた。
「友好的」と称する連中だろうか。しかし、我々はそのような日和見主義を受け容れはしない。
〈トレボー親衛隊〉は和睦などしない。蹂躙し、略奪し、破壊するのみだ。
 一応、その意図するところを質問してみる。
「何のつもりだ」
「こ、降伏します!」
 忍者の一人が答えた。声が高く、澄んでいる。くの一である可能性が高い。
「おい、こいつ女だぜ」
 我が〈愛すべき部下〉の一人である戦士はその声を聞いた途端、
ドワーフを思わせる強い髭に覆われた顔に下卑た笑みを浮かべ、勝手に宣言した。
「いいぜ、降伏を認めてやる! だから、さっさと脱ぎな」
「分隊長は私だ。勝手なことをするな」
「左様。お主の出る幕ではない」
 私と侍が睨みつけても戦士は堪えた様子を見せなかった。へらへらとした笑みを浮かべている。
「こりゃまた失礼しやした、騎士様にお武家様。
でもよ、隊長さんよ、あんただってどっちみちこうするつもりだったろ?」
「否定はしない。だが忘れるな。私が分隊長だ」
「へへ、次から気をつけまさあ」
 全く恐縮した風もなくしゃあしゃあと抜かした戦士は、〈捕虜〉達に向かって声を張り上げた。
「おいこら、何をぼさっとしてやがる! さっさと脱がねえか!」
 この北方の蛮人は、断じて戦士ではない。戦士の技術を身に着けただけの、ただのごろつきだ。
知性もなければ信仰心もなく、礼儀も知らず、容姿も醜悪で、
強健な肉体以外に取柄が一切存在しないと来ては、人間として落第と言わざるを得ない。
 怒鳴りつけられた〈捕虜〉達は身を竦ませたが、
気の短い戦士が〈真っ二つの剣〉を振り上げて見せると、悲鳴を上げて服を脱ぎ始めた。
彼女らは覚悟を決めたのだ。
 最初の内、戦士はにやにやと笑いながら好色な視線を向けていたが、
しばらくすると不機嫌そうな表情を浮かべた。
「野郎が混ざってるじゃねえか」
 残念なことに、忍者の片方は男だった。
 忍者は青年と少年の間くらいの年頃のエルフだ。顔は少女のように整っており、
白い肌は光り輝くように艶やかで、最低限度の筋肉と脂肪を纏った、
華奢だが無駄のない身体つきをしている。エルフらしく体毛は薄く、
恐怖のあまり哀れなほどに縮こまってしまった陰部に僅かな茂みが認められるだけで、
あとは産毛すらも見当たらない。
 男色家なら――取り分け稚児趣味の持ち主ならば――涎を垂らして見入るに違いない肉体だ。
実際、「衆道は武士の嗜み」と公言して憚らない侍などは、舐め回すような
粘着質の視線を忍者に向けている。気色の悪い東洋の猿が考えることは理解しがたい。
 侍と視線がぶつかった。寡黙な侍のぎらついた目が、
「あの忍者を貰ってもよいだろうか」と私に問いかけてきた。
 私が首を横に振るとあからさまな落胆の表情を浮かべたが、戦士とは違い、
序列というものをよく弁えている侍は敢えて楯突こうとはしなかった。
「糞が! 野郎に用はねえ!」
 戦士が忌々しそうに喚き、〈真っ二つの剣〉の分厚い刃を振り下ろした。
 肉が潰れ、骨が砕ける汚らしい音が響き、やや遅れて重く柔らかい物体が床を叩く音が聞こえた。
 〈捕虜〉達が耳障りな金切り声を上げた。モンティノをかける衝動に駆られたが、我慢する。
耳障りな喚き声が聞こえないのはよいが、それ以外の声まで聞こえなくなってしまうのは困る。
 侍の未練がましい視線の先には、床にへばりつき、赤く塗装している血みどろの肉塊がある。
かつてエルフの忍者であったものだ。粗暴な戦士は、我ら〈トレボー親衛隊〉の
三つの掟の一つである〈役立たずに生きる資格なし〉を忠実に守ったのだ。
「お前達、喧しいぞ。これ以上騒ぐようであれば、口が利けぬようにしなければならないが……」
 私が腰に佩いた〈カシナート〉の柄に手をかけた途端、
まるでマニフォかモンティノの呪縛を受けたかの如く、〈捕虜〉達が静かになった。
「ではお前達。そこに並べ。横にだ。縦にではないぞ」
 私が穏やかな調子で命じると、〈捕虜〉達はすぐさま従った。鶴の一声とはまさにこのことだ。
 しかし、所詮は下賎な者達だ。尼僧二人は私の命令をきちんと理解できなかったらしい。
 尼僧二人は、堕落した身でありながらも羞恥心を残しているらしく――それならば
生きていること自体を恥じてもよさそうなものだが――手で股間と胸を隠し、腿を閉じ合わせているのだ。
 私の命令を完璧に遂行したのはくの一だけだった。
こちらは肌を露出することに慣れているのか、堂々と裸体を晒している。
その眼差しからは強い覚悟すら感じられる。力を抜いた手を引き締まった腿の辺りに垂らし、
腿をその間が見えるように開いている。喩えるならば熟達の娼婦のような、
「見られる」ということを熟知した女の振る舞いだ。
「隠すな」
 心持ち強い口調で尼僧二人に命じたところ、今度はすんなりと指示に従ってくれた。
 横一列に並んで身体を晒す〈捕虜〉達は、それぞれがそれなりの美女だった。
 最も美しいのは、その色香で以て敵を惑わすという任務の性質もあってか、
やはりくの一だ。豊満ではないが均整の取れた身体つきをしており、全身がよく引き締まっている。
 だが、尼僧二人も負けてはいない。くの一には劣るが、どちらも娼館の二級娼婦程度の
美貌と肉体を持ち合わせている。
 片方は十歳代半ば程度の小柄な少女だ。訓練所を出た直後に道を踏み外したのかもしれない。
寒村の農民のように貧相な身体つきをしているが、年齢特有の瑞々しく艶やかな肌が美しい。
 もう片方は三十路に迫ろうかという成熟した女だ。迷宮内での生活が長いのか、
肌や髪が大分傷んでいるし、年齢による肉体各所の衰えも見受けられるが、
肥満と豊満の境界線上にあるような肉付きの良い身体をしている。
 年少の尼僧は目に涙を浮かべて拳を震わせ、年長の尼僧は唇を噛んで肩を震わせている。
「へへへ、隊長さんよ、あんた、どいつにするんだい?」
 並んだ女達を前にして涎を垂らさんばかりの戦士が私に獣じみた笑みを向けた。
先ほどの注意がまだ効いているのか、取り敢えずは序列を尊重しようというのだろう。
「私は……」
 私が視線を向けると、〈捕虜〉三人の内、くの一が堂々と私を見返し、尼僧二人が
怯えたようにさっと目を逸らした。
「私は彼女にする」
 私は年少の尼僧を選んだ。本当はもう少し下の年代が良いのだが、
迷宮でそこまでを望むのは贅沢以外の何物でもない。
「こちらにおいで。大丈夫だ。大人しくしていれば優しくしてやる」
 〈銀の小手〉を外してから少女を抱き寄せた。少女は抗わなかった。
掌で背中や腹を撫で回す。やはり未成熟な少女の肌は良い。すべすべしていて、
それでいてもっちりと掌に吸い付いてくる。
「よし、じゃあ俺はこのくの一を貰うぜ!」
 戦士が上機嫌にくの一の尻を撫でた。この男は女好きだが、
普通の女ではひ弱過ぎて満足できないらしく、前衛職の女が好みなのだそうだ。
そして、その中でも取り分けくの一が好きであり、
本人曰く、「くの一は良く締まるし、タフだし、オマケに上手い」とのことだ。
 私は〈カシナート〉を抜き放ち、戦士に告げた。
「そのくの一は駄目だ」
「何だって?」
 戦士が私の剣に胡乱な目を向けた。
 私は気にせずに一閃した。
 次の瞬間、自慢の刃は狙い過たず、くの一の首を通り抜けた。
頭部が血の尾を引いて宙を舞い、床に転がった。自分が斬殺されたことに
気づいた風もない表情が間抜けだった。一瞬遅れて胴体も床にくずおれた。
 尼僧二人の金切り声と、戦士の怒号が室内の空気を震わせた。
 年少の尼僧は恐怖が限界を超えたのか泣きじゃくり始め、年長の尼僧は顔面蒼白となって震え出した。
 これ幸いとばかりに侍が年長の尼僧を抱き寄せるのが見えたが、悠長に観察している暇はなかった。
少女をなだめなければならないし、野蛮人を上手くあしらわねばならない。
「おいっ! 何で殺しやがった!」
 戦士は片手に下げていた〈真っ二つの剣〉を振り上げ、今にも襲い掛かってきそうだった。
 少女を宥めながら、私は怒号を受け流した。
「〈忍者はどのような状態であっても危険〉と言うだろう。未熟者でも忍者は忍者だ。
生かしておくとろくなことにならない。
土台、ワードナの忍はいくらでも替えが利く捨て駒に過ぎず、当人達もそれを自覚している。
だから何をしでかすかわからん。お前だけが危険なのではないのだ。
交わっている最中に自爆でもされたなら、我らも被害を受ける」
「だからってよ、俺の取り分だぞ!」
「死体にも穴はある。まだ温かいぞ」
 私は冗談のつもりで言ったのだが、戦士はそう受け取らなかったようだ。
怒りの形相が一転して好色なものへと変じた。戦士は笑いながら私の肩を叩いた。
「いやあ、言われてみりゃあ、そうだ。あれだってまだ使える。
実を言うとな、一回やってみたかったんだよ、屍姦って奴」
 所詮は蛮人に過ぎない。どこまでも野蛮で変態的だ。
「そうか。ならば何の問題もない。
そら、お前の取り分はそこに寝転んでお前を待っているぞ」
「おうよ。楽しんでくらあ」
 戦士は楽しげに鎧と装束を脱ぎ捨て、くの一の首無し死体に覆い被さった。
 それとほぼ時を同じくして、別の方向から、女の喘ぎ声と荒い息遣い、
肉同士がぶつかり合う音、蜂蜜が収められた壺を乱暴に掻き混ぜるような音が聞こえてきた。
 視線を転じれば、そちらでは壁に手を突いて尻を突き出している尼僧がおり、
尼僧が突き出した豊満な尻を鷲掴みにして腰を叩きつけている侍がいた。
 手の早い男だ。どうせろくな愛撫もせず、唾で適当に湿らせて突き入れたのだろう。
いつものことだ。そうして強引に押し入った後は、「気分を出せ」と命じて快楽を
感じている演技をさせ、後は愛撫を加えることも体位を変更することもせず、ひたすらに腰を叩き続けるのだ。
この男は豊満な尻に男根を呑み込ませ、腰を埋めることにしか興味がない。
 私も負けていられない。神々しい〈君主の聖衣〉を脱ぎ、〈転移の兜〉を外し、
〈カシナート〉をすぐさま手に取れる場所に置き、少女の髪を撫でた。
「さあ、私達も楽しもう」
 我武者羅に女体を組み敷くだけの戦士や尻にしか興味のない侍とは違い、
私は単調な責めを好まない。奉仕の類は当然させるし、体位も頻繁に変え、
場合によっては私が下にもなる。無論、私だけが快楽を覚える独り善がりな交わりは面白くないから、
相手方の女も快楽を感じるよう、様々な技巧を凝らす。
 胡坐を掻き、膝の上に尼僧を座らせ、抱き締めながら言い聞かせた。
「大丈夫だ。大人しく言うことを聞いていれば乱暴なことはしない」
 しかし、乱暴はしないと言っているというのに、年少の尼僧の目には怯えの色が宿っており、
その身体は強張っている。まずは気持ちを落ち着かせてやらねばならない。
怯えた女と快楽を分かち合うことはできない。
 尼僧に接吻した。最初は恋人同士が戯れているかのようにして色の薄い唇を啄ばみ、
尼僧の身体の強張りが解れていくにつれ、口付けを深いものとしていった。
半開きになった唇に舌先を潜り込ませると、恐る恐るといった風に舌が押し当てられた。
若年とは言え、流石は淫祠邪教の徒と言うべきか、ある程度の心得はあるらしい。
 私はその舌を絡め取り、唾液を啜り、その一方で背中に回した腕を動かし、
瑞々しい肌の感触を楽しんだ。
 良い流れだ。この少女は身も心も蕩けつつある。
 そう思ったのも矢先の出来事だった。次の段階に進むべく私が口を離そうとしたその時、またも邪魔が入った。
「ぐあぁぁっ! チ、チンポがぁっ!
痛ぇぇっ! 痛ぇよぉぉぉぉっ! 糞、糞がぁぁ!」
 戦士が聞き苦しい喚き声を上げて暴れ出し、あろうことか、
巨大な〈真っ二つの剣〉を振るって、くの一の屍を破壊し始めたのだ。
 恐怖で身を硬くする尼僧を抱き締めてやりながら、私はその蛮行の意図を問い質した。
「一体どうしたというのだ」
「こ、こ、この糞アマ、マンコの中に毒塗ってやがった! お、俺のチンポが、ああああっ! く、腐り始めてやがる!」
「忍者はどのような状態であっても警戒すべきだと言っただろう。聞いていなかったのか?」
 聞いてはいたが理解できなかったのだろう。
この蛮人の知性は軽蔑を通り越して憐憫の情を催させるほどに乏しい。
「それにお前は、なぜ噛み付かれただけで毒に犯されるのか、不思議に思ったことがないのか?」
 答えを聞くまでもなくわかる。
 疑問を感じたことなどないのだろう。この蛮人は考えること自体をしないのだ。
噛み付かれて毒に犯された時、この野蛮な戦士は憤り、苦痛に呻くだけで、
なぜ噛み付かれただけで毒に犯されるのか、その毒は一体どこから来たのか、
といったようなことには全く考えを向けず、従って、忍者の体液に毒物が含まれている、
という結論に辿り着くこともできない。
「し、し、知ってやがったなあ! こうなるって、知ってたんだろ、てめえええ!」
「お前が自信満々に振る舞っているから、お前も当然対抗策を講じているものとばかり思っていた」
「畜生、ど畜生があ! ああああ! 頼む、マディっ! マディかけてくれ!
チンポが腐って取れちまう! 助けてくれえええええ!」
 戦士は喚きながら汚らしいものを突きつけてきた。巨躯に相応しい巨根だが、今は全く哀れな姿を晒している。
皮膚から少しずつ毒素が浸透したのだろう、全体が紫色に変色しており、
場所によっては表皮が炎症を起こし、膿が滲んでいる。
 しかしながら、見た目ほど症状は酷くない。
「ラツモフィスとディアルマで充分だ」
「な、何でもいいから、早くしてくれよ!」
 汚いものに触れるのは不快極まるが、同じパーティの一員である以上、見捨てるわけにもいかない。
炎症を起こしていない部分に指先で触れ、ラツモフィスとディアルマを詠唱してやった。
 症状は見立て通り軽いものだったため、二度目のディアルマは必要なかった。
 消毒を兼ねて自分の手にラツモフィスを唱えていると、戦士が図々しい要求を突きつけてきた。
「へへ、なあ、隊長さんよ。あんた、不良品だってわかってるのに止めなかったよな」
 すっかり治った気になっており、調子に乗っているのだ。
「それがどうした」
「だから、さ。ちょっとくらい誠意を示してくれてもいいんじゃねえかい」
「何が言いたい」
「相乗りさせてくれや。俺の取り分、なくなっちまったからよ」
 論外な要求だ。この男を混ぜたら、私が楽しむ前に女が壊れてしまう。
「断る」
「何だって? おいおい、そりゃないぜ、隊長さん」
「わかった。単独行動を許可する。自分で捕まえて来い」
 馬鹿は早めに遠ざけておくに限る。同じ部屋にいると遅かれ早かれ迷惑が降りかかることになる。
「へ? は、ははは! 何だよ、話がわかるじゃねえか! おい、言っとくが、分け前はやらねえぞ」
「構わん。私はこの女だけで事足りる」
 身を硬くして震える尼僧の背中を撫でながら応じた。
「行くのならば早く行け。私の邪魔をするな」
「冷てえ奴だ! じゃあ俺は女剣士でも捕まえて勝手にやらせて貰うとするわ!」
 女剣士は地下三、四階を徘徊する守衛だ。あまり上等な部類ではない、有り体に言えば下等な存在だ。
集団で襲い掛かってきたとしても、この蛮人ならば容易く蹴散らし、目当ての女を手に入れることだろう。
「絶対分けてやらねえからな!」
 手早く武装した戦士は、捨て台詞を残して小部屋から出て行った。
 荒々しく扉が閉ざされるのを見届けた後、私は改めて腕の中の年少の尼僧に視線を下ろした。
尼僧は恐怖に青ざめており、これまでの蕩けた表情などはどこかへ消え失せてしまっていた。
かつてくの一や忍者であった肉塊に視線を向けては慌てて目を逸らす、ということを繰り返している。
 また一からやり直さなければならないのかと思うと全く嫌になる。
 侍のことを羨まずにいられない。侍と年長の尼僧の方はと言えば、
一連の騒ぎもどこ吹く風といった感じで、何とも気持ち良さそうに身体を繋げている。
 先ほどまではいかにも演技しているといった趣だった尼僧の喘ぎ声が、
今では心底からのものへと変貌しており、両者の結合部の真下の床には、
滴り落ちる愛液によって水溜りが出来ている。「肉は心に従属する」とは東洋の精神論らしいが、
侍は「快楽を得ている演技をさせることでいつの間にか肉体にそうと思い込ませてしまう」
という形でその崇高なる理論を穢しているのだ。
「心配はいらない。私はあのような野蛮人ではない。ただお互いに気持ち良くなりたいだけなのだ」
 髪を撫でながら努めて優しい口調で告げ、返事を待たずに再び接吻した。
息継ぎを何度も繰り返しながら、互いの口元が唾液でべとべとになるまで舌を舐め合った。
 そろそろ良かろうと思って口を離すと、案の定、尼僧の表情は蕩けきり、瞳は熱く潤んでいた。
「接吻はもう良かろう」
 私は尼僧の後頭部を押さえ、股間へと誘導した。
 すっかり戦闘態勢を整えた男根を眼前に突きつけてやったところ、
尼僧は私の要求を理解したようだ。這い蹲りながら、小さな唇で亀頭を啄ばんだ。
 尼僧の口技は巧みだった。
常日頃から邪教徒の間で執り行われる淫蕩な儀式に参加する内に身に着いたと思しき技を、
私の機嫌を取って生き残るため、必死に振るっているのだ。
 これでは未成熟な少女である意味がない。
未成熟な身体からは稚拙な技が繰り出されるべきであり、稚拙な技こそが逆説的な快楽をもたらすのだ。
これならば、多少器量において劣ろうとも、純真無垢である、寒村の少女の方が良い。
寝台に引きずり込んで、手取り足取り一から仕込んでやる快感は、この世の何物よりも素晴らしい。
 しかしながら、死に物狂いの責めだ。性的快感が生じないわけがない。
 焦らすように舌先を這わせたかと思えば、いきなり喉まで男根を受け入れる。
 下品な音を立ててしゃぶりながらも、唇でしっかりと扱き、小さな舌で撫で回す。
 男根を口で激しく責め立てる一方、手の方も休むことなく動き回り、
腿の敏感な部分を撫で回し、焦らすような力加減で玉袋を揉む。
 一つの刺激に慣れる前に新たな刺激をもたらすことで常に新鮮な快楽を与えてくる、
技巧の凝らされた淫蕩な責めは、着実に私を絶頂へと追いやろうとしていた。
 そして、男根、玉袋が共に唾液の膜に覆われ、床にそれらが滴り落ちるほどになった頃、遂にその時が訪れた。
「出すぞ。口でしっかり受け止めろ」
 腰を突き出したくなる衝動を抑え、亀頭だけを口に含ませた状態で、私は精を放った。
温かい口の中で亀頭が膨れ上がり、脈動するたびに粘っこい白濁液が噴き出した。
 粘液が口内を汚すたび、尼僧の身体に微かな震えが走る。しかし、嫌がっているのではないだろう。
興奮を表すように頬は上気しており、雁首を扱く唇や亀頭を這い回る舌先、
玉袋を撫でる滑らかな掌、男根をさする小さな手は、より多くの精を吐き出させ、
より多くの快楽を与えようとするかのように技巧的で情熱的だ。嫌悪の入り込む余地はない。
 口の中が一杯になったのか、尼僧が喉を鳴らして飲み下そうとした。
 それはそれで乙な情景ではあるが、私には私の予定があるので制止した。
「まだ飲み込むな。口の中に溜めていろ」
 私は少女が口の中に青臭い汚液を溜め込んでいる様子を眺めるのが好きなのだ。
男女の交わりなどろくに知らず、雄蕊と雌蕊の知識で満足しているような少女が、
人間の雄蕊を頬張り、人間の花粉を口に溜め、吐き気を堪えて味わう姿には、
熟練の踊り子の淫靡な舞踏などが児戯とすら思えるほどの卑猥さが秘められている。
 やがて射精が停まったが、すぐに尼僧の口を解放してやるつもりはない。
「中に残った分もきちんと吸い出しなさい」
 返事は行動で示された。小さな舌先に先端部が抉じ開けられたかと思うと、
唇が窄められ、赤子が母の乳首を吸う時のそれにも似た動きで、激しく貪られた。
 最初の内、私は声を堪えていられた。
 だが、唇がきつく窄められ、その圧力によって亀頭が口の中から押し出された時、
遂に私は仰け反り、快楽の呻きを漏らしてしまった。
「まだ飲むな。そのまま顔を上げろ」
 顔を上げた尼僧の顔は何とも淫らなものだった。
瞳は潤み、頬は上気し、口の端からは、微かに白いものが零れ出している。
「口を開けろ」
 尼僧が口をあけると、そこには期待通りの光景があった。黄色がかった濃厚な白濁液が、
さながら獲物を襲うバブリースライムの如く口の中に纏わりついている。
舌も、歯も、歯茎も、頬肉も、およそありとあらゆる所が白く染まっており、
舌の裏などは白濁の水溜りと化している。
「よく味わって飲み下せ……美味そうに」
 尼僧は口を閉ざすと、ワインのテイスティングをするように舌の上で白濁液を転がし始めた。
恍惚とした様子で目を細め、時には口を開けて下品ながらも扇情的な粘ついた音を響かせている。
少しずつ嚥下しているようで、しばらくすると音は聞こえなくなった。
 尼僧が色の薄い唇をゆっくりと開き、中を見せつけてきた。
 薄桃色だけが見えた。一滴残らず飲み干したのだ。
 私は堪らなくなった。
「なかなかわかっている。どれ……そちらの具合を確かめてみるか」
 陰部に手を伸ばす。
 尼僧が拒絶するように身を捩るが、嬌声混じりのそれが心底からの抵抗であるはずもない。
逃げるように身を捩りつつも、その実、巧妙に股間を私の手に擦り付けてきた。
 指先に熱く濡れたものが触れた。指先を挟み込む裂け目を拡げてやると、温めた蜂蜜のような
液体がどろどろと零れ出してきた。奉仕することで自身も快楽を得ていたのだ。
淫らな奉仕をしている事実がそうさせたのか、命の危険を目前とした生物特有の本能が
そうさせたのかはわからない。或いはその相乗効果によるものかもしれない。
 とにかく、尼僧の肉体は激しい発情状態にある。
「これならばもう充分だな」
 私は仰向けに横たわり、尼僧に手招きした。
「私が馬になってやる。上手く乗りこなしてみろ」
 何も知らない子供には荷が勝ち過ぎる体位だが、この若い淫婦には、
それこそ何百何千と繰り返してきた手馴れた行為だろう。
 私の腰を跨いだ尼僧は、股間に手を添え、蜂蜜のような粘液を滴らせる陰部を開いた。
 肌色の中に走った一本筋の内側からは桃色が覗いており、無垢な少女のそれを思わせる。
 しかし、裂け目の上端辺りが、その印象を見事なまでに粉砕してしまっている。
そこにあるのは、包皮に守られた愛らしい小豆などではない。大豆ほどもある肉腫めいた塊だ。
指で擦られ過ぎたか、男に吸われ過ぎたか、その陰核は中年娼婦のそれのように肥大していた。
 顔を見れば、そこには色欲に火照った雌の表情が浮かんでいた。
 私が頷くと尼僧も頷き返した。尼僧は男根に手を添えて固定すると、
ゆっくりと、まるで見せつけるように腰を下ろしてきた。
 亀頭が無毛の裂け目に食い込んだ。収縮する入口の感覚が心地良い。性器同士の接吻というのも乙なものだ。
 だが、そこから先へはなかなか進まなかった。そのまま腰を落とせばよいものを、
まるで焦らすようにそこで停まったのだ。
腰を捻って桃色の裂け目に先端を擦りつけるばかりで、一向に中に迎え入れる気配を見せない。
 私の我慢が限界を迎える寸前になって、尼僧はようやく腰を落とし始めた。
 何本、何十本もの男根を受け容れ、純潔も貞操も失ってしまったのであろう尼僧だが、
内側の窮屈さまでは失っていなかった。複雑精緻な凹凸の集合が、私を包み込み、
押し出そうとするかのように締めつけると同時に、奥へ奥へと誘うかのように蠢動している。
 半ばまで飲み込んだところで腰が停まった。
 不審に思って尼僧の顔を見上げると目が合った。
 尼僧は小悪魔めいた挑発的な微笑を浮かべた。
 腰が辿ってきた道を戻り始めた。名残惜しそうに吸い付いてくる肉の穴から、
男根が少しずつ抜け始めた。
 完全に抜け切る寸前、辛うじて雁首から先だけを銜え込んでいるというところで、
上昇する動きが停まった。
 再び腰が下がってきた。男を迎え入れる歓喜に震える肉穴が咀嚼するように脈動し、
男根を扱き立て、呑み込んでいく。
 やがて腰が停まった。今度は先ほどよりも深い部分まで私を受け容れている。
つまりこの尼僧は、何度も往復し、少しずつ私を受け容れるつもりなのだろう。
どこの誰に仕込まれたかはわからないが、仕込んだ誰かは良い趣味の持ち主だ。
 その挑発的で甘美な上下運動の終幕は、尼僧の股間が私の股間と接吻するという形でで訪れた。
 根元まで呑み込んだのだ。この小さな身体に、大人の男根を呑み込むだけの空間が、
よくも存在したものだ。驚きを禁じ得ない。
「よくも散々に焦らしてくれたものだ」
 私は片手で尼僧の尻を掴み、もう片方の手で結合部に触れた。そこは熱く蕩けていた。
「だが」
 裂け目の上端辺りを親指の腹で押さえ、そこにあるグロテスクな豆を一撫でした。
 股間から温かい粘液を染み出させながら、尼僧の身体が小さく震えた。
「焦らすほどに余裕があるようにも見えないな」
 強弱緩急をつけて擦り上げてやった。
 意味を成さない、悲鳴にも似た嬌声を上げて、尼僧が仰け反った。肉壺が締まり、
脈打ち、断末魔の痙攣のような動きを示した。
 更にしつこく摩擦と圧力を加え続けたところ、
焼印を押される奴隷のように激しく身を捩り、咽び泣くような声を上げた。
 面白いので続けていると、遂に行き着くところまで行き着いてしまったようだ。
モリトを喰らったかのように一瞬硬直し、肉壺を激しく収縮させながら痙攣したかと思うと、
尼僧がぐったりと私の胸の上に倒れ込んできた。半開きの口からは涎を垂らし、
見開いた目の焦点は合っておらず、肉穴はすっかり緩んで私に纏わりついている。
顔には恍惚とした表情が浮かんでいる。
 触れ合わさった胸を通じて尼僧が震えるのが伝わってきた直後、
下腹部に、温かい何かが流れていくような感覚が生じた。
 何かと思って視線を向けてみたところ、湯気の立つ液体が見えた。
 黄色い液体だった。少し遅れて独特の臭いが鼻に飛び込んできた。
 間違いない。尼僧は失禁しているのだ。凄まじい快楽で全身が弛緩し、
そのせいで尿意を堪えることができなかったのだ。
 交わりの結果としてのこの放尿は女を犯した男にとっての勲章であり、
滴り落ちる小便は祝福の聖水である。私は誇らしい気持ちになった。
 だが、満足には到らない。私はまだ精を吐き出していない。
 一旦、尼僧との繋がりを解き、ぐったりとしたままの身体を俯せに転がした。
 強引に開脚させる。薄桃色に上気した尻から、その谷間、ほんのりと色づいた肛門、
種々の体液で汚れた会陰、微かに開いて愛液を垂れ流す桃色の裂け目までが露わになった。
 覆い被さり、裂け目に男根を押し当てる。尼僧が軽く身を捩るが、尻たぶを掴んで拡げ、
一息に腰を突き込んだ。
 既に充分に解れたそこは、何の抵抗もなく私を呑み込んだ。
 何の抵抗もなかったのだ。締めつけることも押し出すこともなく、
更には絡みついてくることもなく、ただ粘液に塗れた肉が触れてくるだけだった。
 快楽のあまり弛緩しきったそこは何の快楽ももたらしてはくれなかった。
まるで屍を抱いているかのようだった。
 何百回腰を振ったところで、これでは絶頂を迎えることなどできまい。
 この昂りをどこに吐き出せばよいのか。このやり場のない滾りを一体どこにぶつければよいのか。
 嘆息しながら何気なく結合部を見下ろしたその時、まだ使っていない穴があることに気づいた。
裂け目の上でひくついている愛らしい肛門は、まだ手付かずのままなのだ。
 裂け目から男根を引き抜いて身体を離し、改めて尻を見下ろした。
窄まりの中央が微かに開いている。ここも緩んでいるのだ。
これならばさしたる準備もせずに愛でることができるだろう。
 試しに人差し指を差し込んでみる。微かに締めつけてきたが、特に問題なく根元まで
差し込むことができた。
 中で指を曲げ伸ばししてみたが、尼僧は無反応だった。苦痛は感じていないようだ。
 指の本数を増やしていく。違和感に気づいたのか尻を振り出した。
 指が三本ほど入るようになった。そろそろよいだろう。
私は愛液と先走りでどろどろになった男根を小さな肛門に宛がった。
 自分が何をされているのか確かめようとしたのだろう、尼僧が肩越しにこちらを見た。
 尼僧が目を見開き、驚いたような表情を浮かべた。何事か言おうとした。
 私は尼僧が言葉を発するよりも先に行動を開始した。腰を突き出すと、意外に強い抵抗があった。
 微かに潜り込んだ先端は、しかしそれ以上先に進めなかった。排出するための穴は、
侵入者を頑なに拒んだ。どうやらこちらはあまり開発されていないらしい。嬉しい誤算だ。
 更に押し込もうとすると、尼僧の身体が震えた。空ろだった瞳には光が戻り、
弛緩していた全身は緊張し、腹の底から絞り出したような低い唸り声を漏らしている。
 尻をくねらせ、背筋を反り返らせるのに構わず、私は腰を沈めていった。
 掠れた悲鳴を上げ、尼僧が這いずって逃げようとした。
 私は覆い被さり、羽交い絞めにするようにして抱きついた。
 逃げようともがく少女を押さえ込んで犯す。これ以上に興奮をもたらす行為はなく、
これ以上に興奮をもたらす体位はない。
 尼僧は男根から逃れようとしているが、土台、私の力に敵うはずもない。その前進は完全に止まっている。
 耳元に顔を寄せ、試しに訊いてみた。
「ここは経験が浅いのか」
「は、初めてです……」
 肩越しに振り返った尼僧は、消え入りそうな声で答え、涙の滲んだ目で私を見つめてきた。
それは「どうかこれ以上は許して欲しい」という無言の哀願だった。
 その目を真っ向から見据えて私が覚えた感情は、憐憫でも罪悪感でもない。
 純然たる性的興奮だ。男根が膨れ上がっていくのがわかる。
尼僧が微かな悲鳴を上げるが、それすらも昂りへと転化されていく。
 少女というものはこうでなくてはならないのだ。組み敷かれながら未知の行為に怯え、
慄き、最後の抵抗を示さなくてはならない。そうでなければ少女を犯す意味がない。
 既に汚れたものを更に汚したところで何の快感にもならない。綺麗なものを汚すから心地良いのだ。
 私は尼僧の身体をしっかりと捕まえた上で、ゆっくりと囁いた。
「そうか。では、しっかりと力を抜いていろ。でなければ苦しいだけだ」
 尼僧の顔が恐怖に引き攣った。涙を零し、何度も何度も、慈悲を求めるように首を振った。
「ゆっくりと息を吐き出せ」
 私は腰を進めた。男根が窮屈な肉の環を押し拡げ、少しずつ潜り込んでいく。
 それにつれて、尼僧の反応が激しくなっていった。身を捩り、脚をばたつかせ、
肩を震わせて啜り泣いている。
 だが、それも長続きはしなかった。半ばまで押し込んでやると、もうすっかり諦めたのか、
或いは力尽きたのか、尼僧はぐったりと身体を床に寝かせ、全身から力を抜いた。
 私はその機を逃さなかった。力が緩んだ瞬間、一息に根元までを押し込んだのだ。
 尼僧が震え、声にならない声を上げて仰け反るが、私は躊躇うことなく抽送を始めた。
 腰を引くと、緊張状態にあった尼僧の身体から力が抜けた。
魂を引き抜かれてでもいるかのように身震いし、深い吐息を漏らしている。
 腰を進めると、脱力状態にあった尼僧の身体に力が籠もった。
歯を食い縛り、息を止めて男根の進入を受け容れている。
 腰を引くと、男根にへばりついた肛門が一緒に引きずり出されてくる。
 腰を進めると、引きずり出された肛門が押し込まれていく。
 腰を引くと、きつく締め上げてくる肉の環が根元から先端付近までを扱き上げる。
 腰を進めると、きつく締め上げてくる肉の環が先端付近から根元までを扱き上げる。
 速度を上げると身体に力が入り、声が大きくなる。
 速度を緩めると身体から力が抜け、安らいだような吐息が漏れる。
 私は尼僧の小さな穴に溺れた。尼僧が上げる悲鳴とも嬌声とも取れる声を聴きながら、
執拗に腹の中を貫き、掻き混ぜ続けた。
 する内、突然、尼僧が一際大きな声を上げて背筋を反らした。
 これまでにない強烈な締めつけが私を襲った。
 心地良い声と心地良い体温によって高められていた私は、心地良い締めつけによって止めを刺された。
 遂に二度目の絶頂が私の元を訪れたのだ。
 尼僧の小柄な身体をきつく抱き締め、腰をしっかりと押し付け、男根を根元まで捻じ込み、
ありったけの精をその腹の中に注ぎ込んだ。
 尼僧は身体を震わせ、掠れた声を上げていたが、やがて糸の切れた人形のように床に突っ伏した。
 私はその上に覆い被さり、余韻を楽しんだ。纏わりつく熱い肉が心地良い。
 だが、しばらくすると、男根が萎み始めた。続けて二度も射精したのだから、
当然と言えば当然だ。これが無垢な少女であればまだまだ三回、四回と続けられるのだが、
娼婦とさしたる差のないこの少女が相手では駄目だ。興味を失った相手と三度、四度と
交わることができるほどの若さは、残念ながら既に私からは失われている。
 身体を離して男根を抜こうとしたがその必要はなかった。括約筋の圧力に負けた男根が、
中に吐き出した白濁液、押し込んでしまった空気などと共に、下劣な音を立てて押し出されてきた。
「もうお前の役目は済んだ」
 脱ぎ捨てられた法衣で簡単に男根と下腹部を拭いながら言うと、尼僧が安堵の表情を浮かべた。
 それには構わず、私は侍に声をかけた。
「そろそろ出発するぞ。手早く済ませろ」
 年長の尼僧の尻を抱えた侍は、未だに腰を振り続けていた。
 侍は一時も休まずに責め抜いたのだろう。年長の尼僧は息も絶え絶えといった様子であり、
度重なる激突によってか、大きな尻は赤く腫れ上がっている。
 侍は私に頷くと、腰の動きを更に速めた。尼僧が泣き喚くような嬌声を上げた。
 侍の方はもう放っておいても構わないだろう。戦士とは違い、この東洋人は序列に対して忠実だ。
適当なところで精を吐き出し、我らの三つの掟の一つに則った処理を終えるはずだ。
 侍に指示を出した以上、私も私の仕事をしなければならない。
 衣装と武具を身に着け、出発するための支度を整えた私は、まだ横たわっている尼僧に近寄った。
「お前の役目は終わった」
 私はゆっくりと〈カシナート〉を抜き放った。
 鈍く輝く刃を目にした尼僧は、最初、「何が起こっているかわからない」
とでも言いたげな、呆けた表情を浮かべていた。
 しかし、私が剣を振り上げると、流石に理解せずにはいられなかったようだ。
絶望と恐怖に顔を歪め、見苦しく泣き喚いた。
「〈後顧の憂いを残すべからず〉。それが我らの掟だ」
 私は尼僧の細首目掛け、自慢の〈カシナート〉を振り下ろした。
 首と胴が泣き別れとなり、一瞬遅れて鮮血が床に広がった。
 悲鳴は上がらなかった。