「兄弟ぇ、合言葉ぁを言ってくんなぁ」
 扉の奥から知性の欠片もない間延びした声が響く。
 覆面にクロークを纏った黒尽くめの人物は短く呟いた。
「スケルトンクルー」
「あたりだぁ」
 ――ガチャリ
 錠が外される金属音の後、重い扉がゆっくりと引かれた。
「はいんなぁ」
 黒い影は室内に足を踏み入れる。

 外とはうって変わった、ムッとするような熱気。
 部屋の中には、焦げ付く鯨油の匂い、煙草の煙、そして不潔な男たちの体臭が充満していた。
 テーブルの上には金貨が山を作り、トランプとジョッキが散乱する。
 そして、それらを取り巻くようにして腰掛ける無法者たちは、
 皆一様に泥酔し、潮焼けした声で下品な冗談を交わし合っていた。

 男たちの視線が、初顔の闖入者へと集まる。
 覆面の人物は油を塗りこめた厚手のクロークを脱いだ。
 瞬間、それまでの喧騒が止み、室内は水を打ったように静まり返る。

 ……覆面の人物は女だった。
 クロークの下には、袖なしの、丈の短い着物を身につけるのみ。
 長身だが、薄手の黒布ごしに、メリハリのある女の体つきがはっきりと見て取れる。
 衣の前の合わせが形作るX字からは、サラシを巻きつけた胸元が無造作にのぞく。
 きつく巻いた麻布で押し付けられながらも、たわわな双丘ははっきりとその存在を主張していた。
 裾は太腿の付け根で終わり、そこからすらりとした両脚が伸びる。
 脛に包帯を巻きサンダルを履くだけで、肉付きの良い、日に焼けた生足を惜しげもなく晒していた。
 他方で、袖から伸びる肩と腕には鍛えられたしなやかな筋肉が隆々と浮かび上がり、
 なるほどこの無法者の巣窟に単身乗り込んでくるだけの実力と自信はあると伺えた。

 女は周囲の反応にいささかも動じず、ゆっくりと辺りを睥睨する。
 その前に巨大な人影が立ち塞がった。

「おいらぁマティー船長だぁ……ちっと待ったぁ、うすのろぉ!!
 新入りはぁ、『勝負』に勝たねぇ限りぃ、仲間に入れねぇんだぁ!
 勝負の方法はぁ二つだぁ。お馴染みの戦いかぁ、もうちっと文化的な奴、
 そうよ、飲み比べ!
 戦うかぁ、それとも飲み比べかぁ?」

 こちらもほぼ半裸といっていいような恰好で凶悪な筋肉を誇示する大男が、
 いささか知恵の足りなそうな言葉遣いで問いかける。

 女はしばらく沈黙した。
(……この男たちからは『宝の在り処』を聞き出さなければならない。
 拳で捻じ伏せる自信はあるが、戦闘以外の道があるなら、まずそれを試みるべきであろう)
 彼女はモンク――厳格に己を律することで、極限まで心身を鍛えぬく修行僧であった。
 神秘的な荒行によって培われるモンクの肉体はまさしく凶器そのもの。
 だからこそ、好んで拳を振るい人を傷つけるような真似は、厳に戒められる。
 非攻の教えの説くところによれば、避けられる争いは極力避けねばならぬのである。

「わかった。飲み比べの勝負を受けよう」

 そう言って黒い覆面を取り去る。
 鋭く切れ上がった目、碧の瞳、整った褐色の面立ち。
 そして短く切られた黒髪がこぼれ、尖った耳が露になった。

 男たちが一斉に息を飲む。
 女はエルフ、しかも極上の美女であった。



 ――ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ

 何杯目かのジョッキを空けた時点で、女モンクは強烈な眩暈を覚えた。
 彼女は酒を嗜まぬ。しかし、修行で培ったスタミナで大の男にも飲み負けない自信があった。
 にもかかわらず、早くも足下は覚束ず、腕にも力が入らない。
 (……薬?)
 瞬間、意識が遠のき、床に崩れ落ちた。
 横倒れになると、折り曲がった膝がだらしなく開き、無様な恰好をさらす。
 足を閉じようにも意に反してがくがくと震えるばかり。
 めくれ上がった裾から、肉の張り詰めた健康的な太腿の、かなりきわどい部分までのぞく。
 男たちの好色な視線が、一瞬、太股の奥の布きれ――褌の白をとらえた。
 女は酒樽に身をもたせかけ腕力で上体を引き起こし、朦朧とする意識を叱咤しながら呻く。
「き……きたない、ぞ」

 女を見下ろしながら、マティー船長は下卑た笑いを浮かべる。
「へぇっへぇっへ、負けはぁ、負けだぁ。
 負けたほうはぁ、何をされても、文句はぁ、いえねぇ!」
 そして、巨体を倒し女モンクに圧し掛かった。
 着衣の合わせをぐいと押し開き、
 女のふくらみを隠す清潔な白布を力ずくで引き摺り下ろす。
 日に焼けぬ生白い乳房があらわになった。
「ぐっ」
 女は身を捩り逃れようとするが、力が入らない。たわわな胸だけが挑発的に揺れた。
 マティー船長はその震える胸を両手で掴み乱暴に揉みしだく。
 苦悶の表情を浮かべる女モンクの首筋を、ヤニ臭い舌が舐め上げた。
「離せっ! ……く……や、やめろお」
 唾液まみれにされた首を懸命に振りながら、抵抗を続ける女。
 だがこれほどの体格差があって組み伏せられてしまっては、
 たとえ素面だったとしても抜け出すことはできなかっただろう。

 船長は痕がつくほど強く乳房を握り、その張りのある揉み心地を存分に堪能すると、
 褌一枚によって守られる女モンクの秘所へと手を伸ばした。
「なんだぁ? なかなか濡れねぇなぁ」
 不満そうに独りごつと、周りを取り巻く手下どもに命令する。
「おいっ! アレぇ、もってこいやぁ!!」
 目をぎらつかせて見守っていた海賊たちの一人が、
 その言葉に慌てて動き、小さな布袋を船長に渡す。
「な、にを……?」
「えっへっへ、コイツはぁ、あれだ。『びやく』ってぇ奴よ!
 コイツをちょいと塗りこんでやりゃあ、えっへっへ、男を咥えたくてたまんなくなるってぇ、
 クィークェグの野郎が言ってたのよ。どんな女もイチコロだってなぁ!」
 そして袋から一掴みもの粉末を取り出し、女の褌を横にずらすと、
 外気にさらされた控え目な淫裂に目一杯振りかけた。

 実はその粉末はただの『痒みの粉』である。
 文字通り、即効で皮膚に痒みを走らせるだけの代物に過ぎない。
 マティー船長は愚かにもクィークェグに騙されたのであった。

 しかし、ただでさえ朴訥で人を疑えぬ女モンクは、しかも酒で意識を朦朧とさせていた。
 粉が秘所に振り掛けられ、チリチリと痛痒い感覚が走り出すと、
 媚薬が早くも効果をあらわしたものと信じ込み、顔からは一気に血の気が引いた。
(か……かゆい! 媚薬が……効いている!?)
 意識をすればするほど、股間の疼きが強まる。
 刺激物を洗い流そうと、膣が大量の愛液を分泌し始めると、
 もはや自分が媚薬の虜になったことを疑わなかった。
 力の抜け切った太腿が切なげに擦り合わされる。
 耐え難いほどの痒みに襲われた陰部は、おびただしい量の蜜を吐き出した。
 割れ目の中に仕舞い込まれていた小ぶりの陰唇がぱっくりと開き、ひくひくと蠢く。
 女は、自分が無意識の内に両手で股間を押さえていることに気付き、愕然とした。

『男を咥えたくてたまんなくなる』

(馬鹿な……くっ、だが……あそこが、切なくて……おかしくなりそうだ……)
 股間にかざした両手が震える。その指先が、偶然、敏感な肉の芽に触れた。
「あっ!」
 電撃のような快感が身体の芯を突き抜ける。
 体中の筋肉が収縮し背筋が反るのを止められない。
 なんという快楽。
 その瞬間、今、自分が下衆どもの好色な目にさらされているという事実すら忘れる。
 何も考えられず、再び、今度は確信犯的に、勃起した陰核に指先が伸ばされた。

「おっとぉ、それまでだぁ」
 声と共に大きな掌が女の両手首をがしりと掴む。
 そのまま力ずくで引き上げられ、仰向けのままバンザイの恰好になる。
「あっ、あっ、あっ」
 女モンクは目を見開いて間抜けな声をあげた。
 今まさに触れられる、というところで手を拘束されてしまったのだ。
 期待に固く勃起していた陰核から狂おしいほどの飢餓感がこみ上げてくる。
(あと少しだったのに!)
 高まりきった思いを裏切られ、行き場を無くした興奮にあられもなく腰をふるわせた。

「えっへっへ、こんだけ男がいるのによぅ、なにも、自分でするこたぁねぇ。
 ほれぇ、『チンポが欲しい』って言ってみなぁ。相手してやっからよぉ」
 下品な声に、意識が引き戻される。
 快楽に沈みかけていた思考が、周囲の認識と自我を取り戻す。
 マティー船長の潰れたヒキガエルのような面構えが目に飛び込んできた。
 船長はにやにやと笑いを浮かべている。
 女モンクは、腹の底から込み上げてくる怒りを感じた。
 吊り目がちの瞳をいっそう尖らせて、あらん限りの憤怒をこめて船長を睨みつける。
「ふ、ざ、けるなっ」
 だが船長はその言葉にますます愉快気な表情を浮かべる。
 両脇に控えた手下に女モンクの腕の押さえを任せると、
 自分は女の両膝の裏に手を潜り込ませ、そのままぐいと持ち上げる。
「何をするっ!!」
 船長の剛腕はやすやすと女モンクの腰を浮かせてしまう。
 頭と肩、そして首の付け根のみが床に接する、後転の途中のような不安定な姿勢。
 船長は膝の裏を床に向けてぐいと押し付ける。
 女モンクのすらりと引き締まった両脚は、開かれたまま自身の頭の先へと伸ばされた。
 その足首を別の手下たちが掴み押さえると、まるで宙に浮かせた股間のみを突き出すような、
 なんとも屈辱的な姿勢ができあがった。

 女はあまりの羞恥と屈辱に血を上らせ、思考が停止してしまう。
 裾は完全にめくれ、今や股間部分に纏うのは細く捻って締められた褌のみ。
 それすらも先ほど横にずらされていたせいで、
 ぱっくりと開いた肉びらが鯨油の明かりに煌々と照らし出されてしまう。
 日に焼けた太腿から、本来の色白さを残す股間周りまでのグラデーションがはっきり晒された。

 再び罵声を浴びせかけた女モンクの顔が驚愕に固まる。
 マティー船長が再びあの粉を手にするのが見えたからだ。
「……!! や、やめろおっ!」
 船長は武骨な指をそえ、愛液まみれの陰唇ごと膣口をぐいと押し開く。
 そして奥の襞まで露になったひくつく膣穴に、さらさらと粉末をこぼし始めた。
「あ……あああ……あああ」
 女は、あの恐るべき魔法の粉が体内に飲み込まれていく様を呆然と見守る。
 すると、突然、膣がびくん、びくん、と痙攣を始めた。
 指を差し入れても届かなそうな奥深くに、ちりちりとしたこそばゆい感触が広がる。
 もとより内奥の鈍感な感覚器では、「かゆみ」というほど明確なものは感じ取れない。
 ただ、何かを欲するような、曖昧で、それだけに強烈な感覚が体内を荒れ狂う。
 どう対処していいかわからない欲求が女モンクを襲った。
 手首と足首を押さえつけられ、のたうつことすらままならない。
 せめてと自由な腰と肩とを捩じらせると、驚くほど卑猥な動きになった。
 モンクになってから流したことのなかった涙が溢れ出す。
 女モンクは、喉を震わせ獣のように吠えた。

 そこに船長の見下しきった声が降ってくる。
「言ってみなぉ」
「ほ……ほしいっ! お願いだっ! は、はやくっ! ……おかしくなるっ!」
「何を欲しいのかぁ、わかんねぇなぁ?」
 もはや反抗する気力も、それどころか自分を顧みる余裕すらなかった。
「チ、チンポが欲しいっ! チンポが欲しいっ! 早く……い、いれてくれえっ!!」
 ――ずぶりっ
 船長の極太の杭が間髪入れずに打ち込まれた。
「あ、あ、あ、あ、」
 体躯に相応の、子供の腕ほどはあろうかという巨根が、
 垂直方向にがつん、がつんと打ち下ろされる。
 エルフ特有の窮屈な膣は、マティー船長の剛直に襞ごとこそげ取られそうになる。
 それは通常であればただの激痛であっただろう。
 だが、痒みに痺れていた膣内は、その痛みすら刺すような快感に置き換える。
 そして、その感覚は、自らが媚薬に囚われていると信じる女モンクにとって、
 まさに待ち望んでいたものに感じられた。

「あああああっ、うああああっ、うおああああっ」
 女モンクは随喜の涙を流して野獣のような嬌声をあげ続ける。
「えっへっへ、いいぃ、しまりだぁ」
 全身をくまなく鍛え抜いたモンクの、強靭な括約筋が船長を締め上げる。
 求め続けていた快楽を与えてくれる剛直を逃すまいと、
 引き抜く動きの度に異常な収縮を繰り返した。
 こなれきった膣奥は蜜を吐き出し続け、
 送り込まれてくる男根を、みっしりとした襞できゅうきゅうと圧迫する。
 その動きの一つ一つが、船長を悦ばせると同時に、
 女モンク自身にも激烈な快感として跳ね返ってくる。



 もはや女モンクは快楽の虜だった。
 酒の酩酊のせいではない。媚薬と信じた「痒みの粉」の効果だけでもない。
 たくましい剛直で己を容赦なく蹂躙される激しさに、
 女モンク自身がどうしようもなく陶酔しきっていた。
 苛酷な修行を耐え抜いた不屈の精神も、快楽の前にはなす術を持たなかったのである。
「ふっ、ふっ、ふっ、……そろそろ終わりだぁ」
「ひいい、いい、いくっ、いくっ、んひいいいっ」
 船長の言葉に応えたわけでもなかろうが、
 子宮を突き下ろし続ける強烈な責めによがり狂っていた女モンクは、
 奇しくも同時にこれまでで最高の絶頂を極めようとしていた。
 びくんっ。
 女モンクの腹の最奥に埋没した巨根が、荒々しく一撥ねした。
「あ、あ、あ、ああああっ、んあああああっ、んはああああっ!!」
 ――どくっ、どくっ、どくっ、どくっ
 一際甲高い絶叫をほとばしらせた女モンクの中で、
 肉棒が脈打ち、濃厚な精液を吐き出した。

「……あ……ああ……あ……」
 女モンクは呆けた表情で、唇の端から白く泡立つ唾液をしたたらせた。
 船長の肉棒が残留した精液を絞り出すたびに、
 内臓を揺さぶるその感覚に腰を引きつらせる。
 割れて引き締まった腹筋は、ぴくぴくと痙攣していた。

 船長が巨根を引き抜く。同時に、四肢を拘束していた手下どもの手が離された。
 女モンクの見事な身体が、力なくどさりと崩れ落ちる。
(……きもち、よかった……)
 不潔な大男に犯され、貫かれ、蹂躙されたというのに、
 一度真っ白になった意識は、ただただ心地よい快楽の余韻を響かせていた。
(……これで、終わったな……)
 泥沼の快楽地獄から開放された安堵が女モンクの内に広がる。

 船長が言った。
「よし、おめぇらぁも、やっていいぞぉ」
(……え?)
 その言葉の意味を一瞬理解できず、
 女モンクは視線を左右に動かして辺りを伺った。
 船長の手下の海賊たちが女モンクを取り囲んでいた。
 みな、先ほどの陵辱劇を見せ付けられて痛いほど男根を屹立させている。
 男たちが一歩踏み出した。
 獲物を取り囲む狼の輪が一回り縮まる。
「……ひっ!」
 女モンクは喉の奥で声にならない悲鳴を上げた。

 * * *

 それから何時間が経過しただろう。
 部屋の扉が開き、数人の男たちが、中から意識を失った女モンクを引き摺り運び出す。
 そして、城の地下の埃っぽい床にごろりと転がすと、
 また部屋の中へと戻っていった。
 扉が閉まり、錠が下ろされるがちゃり、という金属音が響く。
 うつ伏せの女モンクは丸裸で、体中にべとつく、黄色味がかった白濁液を滴らせていた。
 その脇にはクロークと、着物と、
 これまた精液塗れで不潔な繊維の塊と成り果てたサラシ、褌が積まれていた。



「スケルトンクルー」
「はいんなぁ」
 もはや定番のやりとりが繰り返される。
 扉が開き、黒覆面に黒のクロークを纏った女モンクが入ってきた。
 部屋にたむろう海賊たちは女モンクににやにやとした下品な笑いを向ける。

 女は当たり前のように覆面を取り、クロークをその場に脱ぎ捨てた。
 たくましく焼けた四肢、生白い豊かな胸、割れた腹、そして黒い繁み。
 ……クロークの下は、褌すら着けない丸裸であった。
 女モンクは鳶色の乳首を尖らせ、身体を小刻みに震わせながら、
 はあっ、と熱い吐息を漏らす。
 整った顔立ちは興奮の余り紅潮し、切れ上がった瞳は期待に潤んでいた。

 女の前にマティー船長が立ち塞がった。
 そして今日もまた同じ問いかけをする。
「戦うかぁ、それとも飲み比べかぁ?」
 ――ごくり、
 女の細い喉が鳴った。
 露出した陰部がじゅんと潤う。
 零れ落ちた一雫の愛液が、褐色の内腿を伝い、ぬらぬらと輝く跡を残した。
 女モンクは、今日もまた同じ答えを口にする。
「……飲み比べの勝負を受けよう」

(END)