「DIOS」
ルサリルの口から真言が紡がれると、俺の脇腹にかざされた掌からじわりと暖かな光が溢れる。
出血が止まり、土気色の肌に生気が戻る。もう、痛みはほとんどなかった。

「まだ必要かしら?」
慌てて首を振る。
おそるおそる手をそえると、脇腹の裂傷は跡形もなく消え去っていた。
初めて体験する奇跡の御業に俺は驚嘆の声を上げる。
美しい女エルフの僧侶はそれに柔和な微笑を浮かべて応えた。

「治療は済んだかい?」
頭上から若い女のハスキーな声が降ってきた。
振り返ると、鎖帷子の裾とグリーブの間に扇情的に露出された褐色の太ももが目に飛び込む。
俺は慌てて顔を上げた。
そこにいたのはこのパーティーのリーダー格である長身の女戦士だった。
男のように短い赤毛をかきあげながら、吊り目がちの瞳で俺を覗き込んでいる。

「オーク相手に深手を追うなんてまだまだ未熟だねえ」
女戦士――ラグナは呆れたようにそう言い放った。
俺は「面目ない」「すまない」というようなことをもごもごと口にしながら起き上がる。
自分を遥かに凌ぐ実力を備えたラグナにそう言われては謝るしかないだろう。

「……でも、ま、新入りにしちゃ上出来だったよ」
ラグナは俺の背中をぽん、と叩きながら、にやりと笑って言った。
そして、キャンプ・サークルの中でめいめい休息を取っていた仲間たちを見渡して声を張り上げる。

「さ、みんな、今日はこれで切り上げるよ!ギルガメッシュで新人の初陣祝いといこうじゃないか!」



「大丈夫かしら?」
「……この時間ならヤツはまだ潜ってるよ」
そんな会話を交わすルサリルとラグナの後に続いて、町外れを城へと歩く。
ふと、二人の歩みが止まった。
初探索を終えた脱力感にいささかぼうっとしていた俺は思わずつんのめりそうになる。

「あいつら!」
ラグナは険しい目つきで町外れの一角、訓練場のあたりを凝視していた。
その視線の先を追うと、ガラの悪い五人組の探索者が一人の少女を取り囲んでいた。
少女は質素な木綿の服に身を包んでおり、丸腰だった。
探索者しか立ち入らぬこの一角で武装をしていないことから、登録したての新参者と知れる。
一見してよからぬ想像をかきたてられる状況だった。
しかし、少女は特に抵抗している様子もなく、単に仲間に誘っているようにも見える。

「すまない、ちょっと待っていてくれ」
そう言うとラグナはその一団へと駆け出していった。
俺が訝しげな顔を見せていると、ルサリルが振り返って小声で呟いた。

「あの連中は『追い剥ぎ』よ」
いつも優しげな僧侶にしては珍しくその声音には憎悪めいたものがこもっていた。

「仲間に誘うふりをして、物陰で身包みを剥ぐの。新参者が、右も左も分からないのを利用してね。
 自分よりほんの少し経験が浅く、力を持たない人間を食い物にする、ゴミみたいな奴らよ」
俺は顔をしかめる。
トレボーの城塞都市は無法の町とは聞いていたが、その実態をまざまざと見せつけられたわけだ。
俺は偶然前衛に欠員が生じたラグナたちに声をかけられ、深い考えもなく承諾した。
だが、それはまったく幸運なことだったのだ。一歩間違えば、俺もあの少女のようにカモにされていたかもしれない。
「探索者の間では力量の差がすべてなの。弱いものはより強いものに逆らえない。
 ……ここはそういう街なの。あなたも気をつけてね」

見ればラグナが腰の獲物に手をかけて男たちに凄みを利かせているところだった。
ゴロツキどもは及び腰で卑屈な笑みを浮かべ、弁解している風に見える。

「あの子は大丈夫よ」
ルサリルがにこりと笑って言った。

「私たちは地下三層まで到達したパーティーなの。ラグナなら『追い剥ぎ』風情に遅れはとらないわ。
 あの少女が男たちを恐れているように、あの男たちもラグナを恐れている。……自分より強いから」
だが続く言葉にその笑みは沈鬱なものへと変わった。

「ということは、向こうが私たちより強かったらこうはいかないっていうこと。
 ……もし、街で『>』のマークを見つけたら、いい?けっして逆らっては駄目よ」



「おい、ラグナ」
ギルガメッシュの酒場の木戸を潜った時である。
広い店内の奥のほうから、野太い、粗野な声が響いた。
その瞬間、俺の前に立って空席を物色していたラグナの身体が、ほとんど反射的に強張った。

「ラグナ」
もう一度、今度はいささか苛立ちの混じったがなり声が響く。
ラグナはゆっくりと、その声の主に向き直った。

「……やあ、スウェンの旦那じゃないか」
答えるラグナのどこか諦めきったような表情に、俺はただならぬものを感じた。
ラグナが向き直ったその方向に目をやり、「スウェンの旦那」とやらが何者かを確認する。

そこにいたのは、大股開きで酒場の椅子にふんぞり返る、醜い肥満体の中年ドワーフだった。
脂ぎった黒髪がぴたりと頭部に張り付き、潰れた猪のような顔が不敵な笑いに歪む。
髭にはエールの泡や不潔な食いカスがこびりついており、見るからに下品な印象を受ける。

だが何よりも目に付いたのは、ジョッキを握った腕の異様な盛り上がりだ。
ドワーフは往々にして厳つい筋肉の持ち主であるものだが、そのドワーフの上腕は常軌を逸した太さであった。
まるでそこだけトロールのものを移植したのではないかというくらいに、短躯と不釣合いである。
してみると、脂肪で張り裂けそうになっている腹や太股も、見た目に反してその大半は筋肉なのであろう。
この筋肉をもってすればジャイアントの輪切りも容易かろう。そう想像してぞっとする。
つまり、このドワーフはかなり鍛え抜かれた、手練れの戦士なのだ。

「ずいぶん、久しぶりじゃねえか。ラグナよ」
「……ここのところ余り酒場に顔を出さなかったからね」
「ハッ」
ドワーフはラグナの答えに声を荒げる。

「俺のいる時の酒場に顔を出さなかったの間違いじゃねえのか?ええ?」
「……偶然だよ……」
まるで因縁をつけるかのようなドワーフの物言いに対するラグナの答えは、俺には驚愕すべきものだった。
言葉は少なかったがそこにはある種の卑屈さと諦念の響きが込められていたからだ。
強く、陽気で、常に歯に衣着せない物言いをする。
まだ浅い付き合いながら、俺の知る限りのラグナにはおよそ似つかわしくない台詞だった。

「……まあ、いい。ちょっとこっちへ来い。いつものヤツを頼むぜ」
「……ああ」
ラグナは振り返ってルサリルと視線を交わす。
心配そうな表情を浮かべたルサリルが頷いた。
ラグナは重い足取りでドワーフの下へと向かう。
ルサリルは俺の腕を引いて、「行きましょう」と言った。
それは小さな声だったが、有無を言わせない響きがあった。

「おいっ、そこの」
ルサリルに従って酒場を後にしようとしたところ、再びドワーフの野太い声が上がる。
振り向けば、ラグナの肩越しに明らかに俺を見つめていた。

「ラグナの新しい仲間か。……ちょうどいい。てめえもこっちへ来い」
「なっ!じょ、冗談だろ?やめてくれよ!」
「早くしねえかっ」
怯えと怒りを滲ませて狼狽するラグナを他所に、ドワーフは怒鳴り声を上げる。
俺はとっさにどうしてよいかわからず、背後のルサリルを見た。
ルサリルの表情は凍り付いていた。
俺は瞬時に理解する。ラグナもルサリルも俺がドワーフの言葉に従うことを望んではいない。
しかし、同時に、両人ともこのドワーフには逆らえないのだ。俺より力を持ったこの二人が。

俺は退路を立たれた獲物のように、覚束ないままドワーフに近づく。
ドワーフはその従順な様子を満足した風に眺めていた。
近くに寄ったことで、俺の目にいっそうはっきりとドワーフの醜悪な様相が飛び込んでくる。
ふと、ドワーフの右上腕に意匠化された「>」の刺青が彫られていることに気付いた。

『この街ではトレボーの近衛兵には逆らえないの』

脳裏にルサリルの影を湛えた言葉が再生される。

「よし、やれ」
ドワーフは椅子の背もたれに身体を預けると、股間をラグナの方に突き出す。
俺はどうしようもなく嫌な予感を持ちながら、その行動の意図を測りかねていた。

「……スウェンのだんな、あたしは」
「俺がいつお前に口答えを許したよ」
ラグナの抗議をドワーフが一言のもとに切り捨てる。
少しでも気に入らないと大声を上げ、暴力的な威圧で人を従わせようとする。
こんな知性の欠片もないような連中が、ワードナを倒した近衛兵なのか?

だが俺の疑問を他所にラグナはその場に跪いた。
俺を未熟だと言って笑ったラグナ、並み居るオークを一刀の下に切り捨てていったラグナ。
目の前の、支配された女と、俺の中のイメージが結びつかない。
酒場の不衛生な床に膝を付いたラグナが、一瞬俺に目をやった。
それは何かを訴えかけるようであったが、俺にはどうしていいかわからなかった。
ラグナは辛そうに目を伏せる。

 シュルッ

ラグナの褐色の指先がドワーフの腰帯に伸ばされ、その結び目を解いた。
ドワーフが大儀そうに腰を上げると、その太い腰周りに手を差し伸べ、木綿のズボンをゆっくりと下ろす。
ひどく手慣れた動きだった。

そしてドワーフの一物が露になる。
俺は思わず目を逸らした。
だが、一瞬網膜に映り込んだそれの像をどうしても振り払うことができない。
それは持ち主に相応しく、実に不潔で醜悪な代物だった。
長さは並みの人間の男のそれと同じくらいだろう。
だが太かった。太さだけなら子供の腕ほどあろうか。

「咥えろ」
無情な宣告が響く。
ラグナはグロテスクなドワーフの一物に向けて、ゆっくりと顔を近づけてゆく。
その表情には生理的な嫌悪感がありありと浮かんでいた。
だが今にも嘔吐しそうな表情と裏腹に、ラグナの口は大きく開き、震える舌先が伸ばされ、醜いそれを口内に迎える。

ゆっくりとラグナの顔が上下し始めた。
短足のドワーフに奉仕するためには、ラグナは床に膝を付いた上で大きく上半身を傾けなければならない。
左手を陰茎に沿え、空いた右手は傾けた身体を支えるように床に付く。
それはまるで四つん這いになったように見える。
ラグナの横顔が羞恥と屈辱に歪んだ。

「目を逸らすんじゃねえっ」
思わず顔を俯けた俺にドワーフの罵声が飛んだ。
かと思うと、襟首にそのトロルのような腕が伸び、信じ難い怪力で俺を地面に引き摺り下ろした。
俺はなす術もなく中腰の体勢をとらされる。
眼下の、余りに生々しい距離にラグナの顔がある。

 じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ

既にラグナは反抗することを諦めていた。
たとえ内心で怒り狂っていたとしても、身体はドワーフに命ぜられるままに、淫猥な音を立てて奉仕を続ける。

 ちゅううう

ラグナの唇が陰茎を吸い上げる。
根元から先端へと、徐々に咥える部分がせり上がる。
それにつれてラグナの頬が思い切りすぼめられ、吸引するような音が上がる。
唇の辿ったあとが、ラグナの唾液でぬらぬらと照り輝く。

 じゅぽっ

そして唇がカリの部分まで移動すると、今度は勢いよく、根元まで咥え込む。
その際には、極太の陰茎と目いっぱい広げられた唇の間で、行き場を失くした唾液が、驚くほど卑猥な音を鳴らした。

 ちゅううう、じゅぽっ、ちゅううう、じゅぽっ

その一連の行為がリズミカルに繰り返される。
ラグナは、一瞬でもこの苦役を終わらせるため、感情を殺して淡々と、最も効率的なやり方を取っているに過ぎないだろう。
だがその口運びは余りにも巧みで、ラグナがこのグロテスクな陰茎を知り尽くしているという事実を、容赦なく俺に叩きつける。
そこにいたのは勇猛な女戦士などではなく、惨めな淫売だった。
二人のやりとりから察してこれが初めてではないのはわかっていたが、一体、あの武骨な女戦士がこんな技巧を身に着けるに至るまで、何回、いや、何十回の口淫奉仕が繰り返されたのだろう?

だがその巧みな奉仕を受けても、ドワーフはつまらなそうに女戦士を見下ろすだけだった。
むしろ機械的なその動きに苛立ちを募らせているように見える。

ふと、襟首の拘束が緩んだ。
ドワーフがその手を放したのだ。
そして両掌でもって口淫するラグナの頭部をがっしりと掴む。

「もういい。ちっ、下手糞め」
「んんう、う、う」
口内を埋め尽くすような極太の一物を咥え込んでいるため、頭部を万力のように締め上げられてもラグナは呻き声を上げることすらままならない。

ドワーフはラグナの燃えるような赤毛を掴んだまま、椅子から立ち上がる。
そして、まるで物を扱うような乱暴さでラグナの頭を前後に動かし始めた。

「んぐ、んぐ、……ぐっ、うぐっ」
ドワーフの腰が荒々しく女戦士の咽頭に打ち付けられる。
自らの意思では導けないような奥深くまで極太の陰茎を打ち込まれ、ラグナの顔が苦悶に歪む。
涙目を見開き、えづくように喉を鳴らす。
反射的にドワーフの太足に伸ばされた手で、なんとかこの暴挙を押し留めようともがく。

「ぐおっ、うっ、ぐっ」
だがドワーフは意に介さず、むしろその抵抗を楽しむようにラグナの咽喉を蹂躙する。
腰を引き、打ち付ける、腰を引き、打ち付ける。
情け容赦のないその動きに、しかし頭部を怪力で固定されたラグナは、弱弱しい呻きを上げることしか出来ない。

「へっ、へっ、へっ、……ふううう、そろそろだな」
「ぐうっ」
一際深く、まるでラグナの喉を突き破ろうとするかのように一物が挿入される。

 どぷっ、どぷっ

すると、ドワーフの腰がびくっ、びくっと2、3回小刻みに痙攣した。

「んんんんっ、んんんっ、んんんん」
ラグナはこれまでにない抵抗を示す。手をばたつかせ、もがき、見開いた瞳の瞳孔が収縮する。

 こぽっ

喉奥に大量に放たれた精液が、ラグナの気管を行き場もなく駆け巡る。
ラグナが一度大きくえづくと、逆流した精液がその鼻腔から噴出した。
「……げぇぇぇ、うっぷ、おえっ、おええええっ」
満足したドワーフの陰茎が引き抜かれると、ラグナはたまらず精液を吐き出した。
白濁した液と、逆流した胃液とが混ざり合った半透明の吐しゃ物が、ラグナの唇から垂れ下がる。
ようやく落ち着いて顔を挙げた時には、その美しく凛々しく女豹のような顔立ちは涙と鼻水にまみれていた。

その打ちひしがれた表情に、呆然としていた俺の心に鋭い痛みが走る。
同時に、どうやら責め苦が終わったらしいとの安堵から周りを注意する余裕が生まれた。
まるで突然湧き上がったかのように、耳に酒場の喧騒が飛び込んできた。
そして俺はこの場が公衆の面前であることを思い出す。

狼狽して周囲を見渡す。
まず目に入ったのは、酒場の入り口で顔を俯けているルサリルや他の仲間たちだ。
そこから視線を左右に動かすと、店内にたむろう客たちの表情が視界に入ってくる。
顔を背け、あるいは強いて背を向けてラグナを見ないようにしているのは少数だ。
それと同じくらい、あからさまな好奇と好色を湛えた視線を送ってくる客たちがいる。
しかし圧倒的に多数なのは、まったくの無関心、まるで今の陵辱劇がなかったかのように、
酒盃を呷り、同席者と談笑する探索者たちであった。
騒ぎの主を一瞥して、ドワーフの腕の『>』が目にとまれば、もう何も説明はいらない。
彼らにとってこれは日常の光景なのだ。



俺はたまらずラグナに駆け寄ろうとする。
しかしそれすらも野太い声の無情な宣告によって中断された。

「よし。脱げ」
ラグナはよろよろと立ち上がり、胴鎧を絞める革のベルトに手をかける。
床を睨みつける視線には怒りが込められていたが、顔色は蒼白だった。
引き結んだ口が屈辱に震えていたが、手の動きは止めなかった。

「馬鹿野郎!」

 バシンッ

そこに再びドワーフの怒声が、今度は強かな平手打ちとともに飛ぶ。

「鎧を脱ぐまで俺を待たせるつもりかっ!下だけでいいんだよっ。とっととケツを出せ!」
強烈な一撃に吹き飛んだラグナだが、転げ当たった酒樽を支えにして無言で起き上がる。
腫れた頬を押さえもせずに、革の腰ベルトを解く。
そして押さえのなくなった鎖帷子の裾から、腰の脇に両手を差し込んだ。
差し込まれた手が、下履きを引き下げながら抜かれる。
女の秘所を保護するその小さな布が、膝上のグリーブの端まで引き摺り下ろされた。

ラグナはドワーフの前に立つ。
そして、背を向けると、その手が再び鎖帷子の裾にかかる。

 ぎりり

ラグナの歯がきつく噛み締められた。
手が、裾を鎧下ごと引き上げる。
ラグナの臀部が露になった。
女らしい二つのふくらみは、十分なボリュームを持ちながら少しも型崩れせず、重力に逆らって盛り上がっている。
そこからすらりと引き締まった大腿部が伸びる。
しなやかで褐色に輝くそれは、女であり同時に戦士である者にしか持ち得ないものだ。

女戦士は膝立ちになり、静かに上半身を前傾させる。
それは、背後に控えるスウェンにとっては尻を突き出すように見えたことだろう。
ドワーフは好色な笑みを浮かべながら、武骨な指先を無造作にラグナの股間に這わせる。

「ちっ、相変わらず濡れが悪いぜ……マ×コを濡らしといた方が楽に済むってのによ」

 ぺっ

ドワーフは自らの右手に唾を吐きかけ、両手を擦り合わせそれを手早く指先まで伸ばす。
そしてその手をおもむろにラグナの張りのある尻肉の隙間に捻じ込んだ。

「どうせ濡れねえならこっちのが楽しめるからな」
サディスティックな笑いとともにラグナの不浄の穴をまさぐる。

「くっ」
ラグナは苦悶と屈辱に一瞬息を漏らすが、スウェンの執拗な指の動きにもかかわらず無表情を貫く。
だが悲しいかな。ラグナの身体は、これから起こる苦痛を半減させ、快楽さえ得る対処法を教え込まれていた。

「へっへっへっ随分すぐにほぐれたじゃねえか。てめえはケツの方が好きみてえだな?」
大声で侮辱の言葉を口にする。だが、それは全くの事実無根というわけでもなかった。
高く掲げられたラグナの尻の合間は、はっきりと周囲に晒されている。
そして、普段はすぼめられているはずのそこは、ドワーフの武骨な指技によってすっかりほぐされていた。
入り口はだらしなく開け放たれ、ぬめる内側の粘膜さえのぞく。
ぽっかりと空いたその穴の外周は、小さく収縮し、蠕動してさえいた。

ドワーフの両手が張り詰めた尻肉をぐにゃりと鷲掴みにする。
そして、先ほどの奉仕以来勃起し続けている剛直を、そのほぐされた穴にあてがった。

 めりめりめり

「痛っっ!」
普段生傷の耐えない戦士であっても、耐えられない類の痛みはある。
本来なら外気に触れることすらない敏感な粘膜である。
そこにふしくれだった極太の剛直を捻じ込まれ、ラグナは苦痛に呻いた。

「おいおい、いくらチ×ポ好きだからってそんなに絞めたら裂けちまうぜ?」
だがラグナには愚弄の言葉に歯噛みする余裕すらない。

「くっ、かっ、はっ」
ドワーフの剛直が挿入を深める。
引き裂かれるような入り口の痛みに、内臓をかき回される鈍痛が加わった。
あまりの激痛に息が出来ず、ラグナの口が無意味に開閉を繰り返す。
ドワーフはそんな事情には構わず、自分のペースで腰を振り出した。
ばちん、ばちんという打ち付ける音と、ドワーフの荒い鼻息、そして消え入るようなラグナの呻きだけが響く。

「ふっ、くっ、はっ、……んふっ、くっ、んんふっ」
痛みに脂汗を流しながらも、ラグナの呼気に別の何かが混ざり始める。
俺は一瞬その表情が歪み、女の顔を浮かべたのを見逃さなかった。

「へっ、表情だけ取り繕っても先刻お見通しだぜ。てめえのケツ穴が喜んできゅうきゅう締め付けてきやがる」
俺は愕然として勝ち誇ったドワーフの声を聞いた。
ラグナは決して淫らな声を上げはしない。
だが、その苦悶の表情が時折艶を帯びる様は、苦痛だけでなく快楽をも耐えていることを物語っていた。

「だがまるっきり声を上げねえのは面白くねえな。……おい、ラグナ」
スウェンはラグナの耳元へ顔を近づけて囁く。

「ケツ穴チ×ポキモチイイって言え」
「っ、な、に……をっ」
ドワーフは右手を伸ばしラグナの振り乱された短髪を掴み、乱暴に引っ張った。
「何度も言わせんな。ケツ穴チ×ポキモチイイだっ!さあっ、言えっ」
ラグナの見開いた目に、一瞬殺意がよぎる。

「け」
屈辱を押し殺すようにして唇が動く。

「つ、あ、な、……×ぽっ、きも、ちいっ」
喘ぎ、搾り出すようにして淫語が紡がれる。

「もっとだ!」

 ぱああんっ

ドワーフの平手がラグナの尻を強烈に打ち据えた。

「ひいいいいっ、ぐっ、けつあ、な、ち×ぽ、きもちいっ、けつあなち×ぽきもちいいっ」
ラグナはまるで呪文のように無感動に口に出すことで最後の抵抗を試みた。
しかし、むしろ意に反して口にすることが明らかなほど、その光景は淫らさを増す。
加えて、もはやドワーフを迎えいれるために開ききったアヌスが伝える快感が、
その言葉の端々に隠しようもない艶を帯びさせていた。

「んんっ、ふうっ、けつあな、ん、はんっ、きもちいいっ」
「がははははは」
その様子はスウェンを堪らなく駆り立てた。
興奮に目をぎらつかせ、涎を撒き散らしながら、よりいっそうの苦悶を引き出そうとばかりに乱暴に腰を打ち込む。

「かっ、はっ、ひぐっ、やっ、ああああっ、ああああああぁつ」
その身を貫くような勢いにもはや快美とも疼痛ともつかなくなったないまぜの衝撃がラグナを襲う。
中空に視線をさまよわせながら、喉は悲鳴をほとばしらせた。

 どぴゅっ

もはや気を失って操り人形のようにがくがくと身体を撥ねさせるラグナの中で、
十分に堪能しきった剛直が精液を吐き散らした。

ドワーフはしばらく余韻に浸り、あらぬ方に視線をさ迷わせていたが、
大きく溜息を吐くと、まるで打ち捨てるようにラグナから剛直を抜き出した。
重い音をたてて、ラグナは糸が切れたように床に崩れ落ちる。
スウェンは、もはやラグナのほうを一瞥すらせずに、
「続きはまた今度だ」と言い捨てるとくるりと背を向けて去って行った。

俺は慌ててラグナに駆け寄る。
ラグナは顔を地面に、剥き出しの腰を若干突き上げた状態で、うつ伏せに意識を失っていた。
俺は抱え起こし、浅い呼吸を確かめると、まず捲り上げられた裾を下ろす。
そして脱力したラグナに肩を貸して立ち上がる。

「……い、やな……とこを、みられちまった……な」

肩の上で呟く声を聞いて、俺は思わずラグナの顔を覗き込んだ。
だが、その一言きりで意識が沈んでしまったようで、ラグナは目を閉じ、力なく頭を垂れた。
俺は無言でラグナを背負い、仲間たちと宿に向かった。