<ダバルプスの迷宮>など、大嫌いじゃ。
昔は、儂のような非力な小人でも棲みやすい迷宮じゃったが、冒険者がうろつくようになっては物騒この上ない。
しかも、この迷宮の悪いところは、かの<魔道王>のそれのようなエレベーターがないことだった。
おかげで、冒険者たちは、すべての階層をすっとばすこともなく、歩いて下を目指す。
それは、つまり、最下層・地下六階の魔神や大悪魔どもを蹴散らす最強の冒険者たちが、
儂が棲家にしておる地下二階をうろつくこともある、ということじゃ!
今日の稼ぎ──洞窟に生える茸と苔の採取を終えた儂は、ねぐらに戻ろうとしてそいつらと出くわした。
普段は近寄りもしない、荒くれ戦士たちの拠点になっているその玄室が、
今日はあまりにも静かじゃったので、儂はついつい近道をしようとしてしまったのじゃ。
そして、連中に見つかった。
「あら──ディンク」
玄室の中で佇む影は、三つ。
装備から見て、君主が二人と、侍が一人か。
儂は、金玉がきゅっと縮こまるのを感じた。
この迷宮は、棲みつく怪物も強力だが、集う冒険者も強力だ。
特に、<魔道王>の迷宮からやってきた連中は、桁がふたつみっつ違う。
どうやら、こいつらは、その厄介な連中のようじゃった。
だが、まだ、儂は幸運じゃ。
「これはこれは、冒険者さま、儂は、貴方さまがたと戦うつもりなど毛頭ございません」
震えながら、頭を下げる。
君主が二名、と言うことは、こいつらは<善>の戒律を持つパーティということだ。
ならば、友好的な態度を取れば、危害を加えることはない。
若い連中は知らずにつっかかり、命を落とすが、
百戦錬磨で逃げ回って生き残った儂は、そんなことまで知っておる。
じゃから、儂は、丁重に挨拶をして、冒険者たちがその場を立ち去るのを待った。
だが──連中は、大股でこちらに近寄ってきた。
血が香る笑顔を浮かべながら。
「おい、こいつ、今、なんて言った?」
君主の一人が乱暴な口調で尋ねた。
「私たちと戦うつもりはない、そうですよ」
もう一人の君主が穏やかな口調で答える。
「じゃ、このおじいちゃん、<友好的>なの?!」
侍が若々しい、というより幼い舌足らずな口調で叫んだ。
三人とも──女だ。
しかも、若くて、美しくて、――恐ろしいまでに腕が立つ。
それだけは、魔法の力で輝くばかりの装備を見ただけで分かった。
侍娘の下げた独特の曲刀は魔刀<村正>だ。身にまとうのは<コッズ・アーマー>。
君主の一人の持つ大剣は、聖剣<ハースニール>。<君主の鎧>を身に付け、<コッズ・ヘルム>を被っている。
もう一人君主の一人が下げている剣は<カシナートの剣>だが、このそれを抜くことはないだろう。
その手に付けた籠手は最凶の魔道器<コッズ・ガントレット>。さらに<コッズ・シールド>も持っている。
こいつらは──。
冒険者の中でも最強の、<ダイヤモンドの騎士>の装備を持つパーティだ。
迷宮をこそこそと彷徨い、蓄えてきた知識が、儂の顔を蒼白にさせた。
目の前の戦士たちは、アークデーモン様さえも一撃で斬り殺すバケモノどもじゃった。
それが、血に狂った微笑を浮かべて近寄ってくる。
そして、儂は見た。
なぜ、荒くれどもの拠点になっていたこの玄室が静かだったのかを。
玄室のあちこちに散らばっているのは、――戦士や盗賊たちの死骸。
「あはは、散々探して、やっと見つけたよ、<友好的>なモンスター! それもヒューマノイド系!」
侍娘が明るく笑う。
「まったくだ。数百人殺しまくっても出てこなかったときは、どうしようかと思った」
乱暴な言葉遣いの女君主が吐き捨てる。
「まあ、まあ。こうして見つかったのです。いいじゃないですか」
丁寧な言葉遣いの女君主がたしなめ、――三人は儂を取り囲んだ。
その時、儂は思い出した。
<悪>の戒律を志すようになった<善>のパーティは、その証しを<悪>の戒律神に示すため、
<友好的>な敵を虐殺するということを。
「……あわ、わあ……」
腰が抜けたように座り込んだ儂を、三人の女冒険者たちが取り囲む。
舌なめずりせんばかりに。
「ん、これ邪魔だね」
侍娘が<村正>を鞘走らせる。
儂の目にそれが見えるはずもなく、真っ二つにされた。
……儂の服が。
「……なっ……」
絶句する儂に、侍娘が歓声を上げた。
「わあ、おじいちゃん、けっこう立派なもの持ってるね!」
「そうか? 縮こまってるぜ、こいつのちんちん……」
「縮こまってこれくらいなら、大したものですわ、これなら楽しめそうですね」
女冒険者たちの視線が儂の裸にされた股間に据えられているのを知って儂は狼狽した。
「――いやあ、最近は世知辛くてさあ。
<友好的>なモンスターってあんまりいないんだよね。
おじいちゃんに会えて良かったよ!」
儂の唇を割り、自分の舌と唾液を流し込みながら侍娘が明るく笑った。
「ふ、ふん、勃起したら、ま、まあまあ立派じゃないか、じいさんの癖に。
だが、匂いがひどいぞ、下賤の輩め」
儂の男根に舌を這わせながら、女君主が文句を言う。
「まあまあ、貴女はそういうおち×ちんのほうが大好きなのでしょう?
私が、こういう殿方のお尻が大好きなくらいに……?」
そう言いながら儂の肛門に濡れた舌を差し入れてきたのは、もう一人の女君主だ。
「な、なんじゃ、お前ら、何をするんじゃ……!」
儂は混乱しながら叫んだ。
「え? ……性欲処理だけど?」
侍娘が笑った。
「男の冒険者さんたちは、<友好>的なウィッチやプリーテスから春とかを買えるけど、
ボクらみたいな女パーティは、そういう相手が居ないからねえ」
「うむ。どいつもこいつも、目を血走らせて襲ってきやがる」
股間に顔をうずめていた女君主が同意し、また熱心なフェラチオに専念しはじめた。
「ほんと。戦闘で倒してしまえば犯し放題、とでも思っているのでしょうか。
戦いになってしまったら、私たち、殺すまでやらなければならないのですが」
儂の背後で巨大な乳房を背中に押し当てながら細い指先で肛門の奥を弄う女君主が、嘲りの笑いを浮かべた。
「ほんっと、バッカだよねえ! おじいちゃんみたいに<友好的>に接してくれたら、
こういう風にボクらとやり放題なのにねっ!」
侍娘の笑い声を、儂は最後まで聞いていなかった。
「うおおっ、も、もうっ!」
「あらあら、もういかれますの? ――この娘の顔に、たっぷり出してくださいな。
ほら、<コッズ・ガントレット>のお手々で、しごいてさしあげますわ、お爺様」
背後の女君主が前に手を回し、男根を愛撫する。
「うおおっ!」
勢い良く飛び出た精液は、白い紐のように空中で踊る。
何十年ぶりかの射精は、まるで儂のものではないようじゃった。
「ああっ!」
精液は、乱暴な言葉遣いのほうの女君主の顔にかかり、その美貌を汚した。
「わあ、すっごい量。それに精子もとっても濃いね! おじいちゃん、元気、元気!
次は、ボクのまんこに、ちんちんと精子ちょうだいね!」
袴を脱ぎながら侍娘が舌なめずりする。
「ま、待て、最初は、俺、だ……」
顔を犯された女君主が荒い息をつきながら抗議する。
「キミは今一回してもらったじゃん!」
「た、たわけ、こんなのを一回に数えるでない」
「あらあら、最初におちんちんをしゃぶらさせてあげたのに、まだ文句あるのですか?」
「そ、それはっ……」
わいわいと騒ぐ美貌の女冒険者どもを前に、儂は、虚脱感と恐怖におののいた。
こいつらは、性欲処理のために、自分たちにはるかに弱い儂に優しく接しておる。
じゃが、儂は、今、したたかに精を放ってしまい、体力も尽きた。
男として役立たずになったモンスター相手に、こやつらは慈悲を持つだろうか。
「あれ、おじいちゃん、どこに行くの?」
尻餅をついた姿勢でそろそろと場を離れようとした儂を、女侍が見咎める。
「ひょっとして、おじいちゃん、もう、お疲れ?」
図星を刺されて儂は真っ青になった。
「なんだ。そういうのは、はやく言え。おい──」
<ハースニール>の女君主が言うと、<コッズ・ガントレット>の女君主が歩み寄ってきた。
手にした<コッズ・シールド>に口付けして儂の上にかがみこむ。
儂の顎に手をかけて上を向かせる。
「ほら、お爺様、お口を開けて」
抗う術も持たずに従う儂の口の中に、女君主が垂らしたのは銀色に輝く唾。
「美味しいわよ、飲んで──」
女君主の高貴な唾液が喉を通った瞬間、――儂は、跳ね上がるように立ち上がった。
男根までもが。
「うふふ、この聖盾はディアルマの魔力が無限にこめられています。
体力の上限を考えれば、お爺様にとってはマディに匹敵いたしますわね」
「ほら、おじいちゃん、また勃起してきたよ! 今度はボクのまんこに射精しようね!」
「た、たわけ、次は俺の中だ! なあ、そうだろう、じいさん……?」
「あらあら、わたくしのここもとても具合よろしいですわよ?」
女冒険者たちは、下半身を覆う防具と服を脱ぎ捨て、女性器をむき出しにして儂を取り囲んだ。
全員が、自分を真っ先に選ぶ、と信じて疑わぬ自信に溢れた微笑を浮かべながら。
そして、儂は、戦闘よりも恐ろしい<友好的>地獄というものを知ったのじゃ……。
fin