「ステラぁ。あんた、早いとこ“アレ”をなんとかしないと、絶対、本当、真剣、ヤバイよぉ」
上品な薄紫色で統一された調度品がふんだんに配置されているスイートの豪華なベッドの上で
漆黒のビスチェとお揃いのスキャンティーだけのくつろいだ姿で日課の、指先の丁重なお手入れ
を実行しつつ、元・魔法使いの盗賊・リィン姐さんは、たった今、風呂から上がってきた妹分の
司教へ大真面目な顔で、そう告げた。
「……ふに?」
もっとも、呼びかけられた方は軽い湯中り状態らしく、素肌にバスタオル一枚羽織っただけで
ぽやんとした顔のまま、よろめきながらのろのろカウチへ歩み寄り、そのままくたりと横になり
はふはふと忙しない呼吸を繰り返すだけ。
「まぁ〜た、必要以上に擦り過ぎ&浸かり過ぎちまったのかい、あんたは。
こーら、ステラっ。髪の毛濡れたままで寝ちまうと又、風邪引くよっ!!!
……あーぁ、しかし、困ったもんだねぇ……」
一刻ほど前の夕食時、パーティリーダーの君主・マレニ殿が、元気の無い少女を慰めるつもり
だったのか、そっと押し付けてきた喉越しが良い果実酒の強いアルコールの力もしっかり働いて
ぶつぶつと続く小さな低い独り言を子守唄代わりに、少女はもう深い眠りに落ちてしまっていた。
今日も、何時もの様にB5FとB6Fの階段を何度も昇り降りして『コッズ・ガントレット』を
十対以上叩き壊し、ハイプリーストとオークロードの軍団&その他のモンスターを何十体も殲滅した
『“ニルダの杖”なんか全然、イラネ。ソレよりも、総てのアイテムを使用・鑑賞・保存・予備用に
それぞれ四つ以上、完璧に揃えれ』なんて普通にウザイ事を、パトロンから命じられてるパーティは
目ぼしい呪文が粗方尽きたのと、鑑定済みの上質アイテムで持ち物欄が完全に埋まってしまったのを
潮時に、約一名を除いて全員(ほぼ)無傷で、帰還出来た。
……そう、最後に“アレ”と出くわさなかったら……。
パーティ全体でアイテム欄の空きは後一つだけ、な状態で出現した宝箱の罠は、リィン姐さんの
癇に激しくさわるタイプだったらしく、自分でじっくり調べただけでは飽き足らず、態々マレニ殿と
ステラ両人に『カルフォ』を唱えさせた結果『テレポーター』として、慎重に解除する事となった。
しかし、リィン姐さんと体の位置を入れ替える時、後退った少女の足がもつれて、体が勝手に傾ぎ
支えを求めた指先が、壁面の模様を軽く掠めてしまった。
「ステラっ、駄目っ!!!」
するりと影が寄り添うよりも滑らかに誰かが、彼女の体をしっかり抱きとめたのだけれども
(ぱちんっ!!!)と何処かで、『モリト』のような光と音と感覚が勝手に弾け飛ぶのとほぼ同時に
シークレットドアの奥から大量の『ファズボール』が、フルメンバーでもふもふと崩れ落ちながら
一斉にわらわら押し寄せて、瞬く間に辺り一面をみっちり覆いつくしてしまった。
しかも、うぞうぞ蠢きながら、鼻や耳の穴、口内、首筋、袖口、服の裾などの、ありとあらゆる
僅かな隙間から、少女の体を食い尽くすような勢いで攻め寄せて来て……。
「……いっ、い、い、いっっっ、いーーーっやぁぁぁん!!!」(くにゃり)
人並み以上に、くすぐったがりやなのに静電気体質な司教は、ほわほわふわふわな毛玉たちに
体全体を激しく愛撫(?)されながら、一人で勝手に往っちゃっただけでなく、愛液以外のモノで
下着をぐっしょり濡らしてしまった……。