目が覚める。
薄暗い天井でさえも、まばゆく感じる。
長い間眠っていたような気がする。
油断をした。
迷宮の底で、私はパーティーの裏切りにあった。
いかにすべての呪文を覚え、マスターレベルをはるかに超越した女忍者であっても、
同等の力を持つ5人の攻撃を食らえば、無事でいられるはずはない。
かろうじて逃げ出した先に大悪魔どもがいたのなら、なおさらだ。
(ここは、……カント寺院か)
どこかのお人よしが、死体を持ち込んでくれたのかもしれない。
固い石台の上の身体は裸のようだった。
身に付けていた装備が剥ぎ取られて、彼らの酒手になっていたとしても恨むまい。
わが技は、生身に宿るもの。
すべての装備を失っても、その戦闘力はいささかも落ちることはない。
だが、稀少な魔法の品を手に入れたとき、それを身に付けることを選んだ私は、
ヤキがまわっていたようだった。
だから、あんな連中に裏をかかれたのだ。
昔の――マスターレベルにあがったばかりの私だったならば、
決してあんな失態をさらすことはなかったろうに。
まあ、いい。
修行のし直しだ。
だが、その前に――やることがある。
復讐。
裏切り者どもを、皆殺しだ。
久しく忘れていた冷酷で残虐な血が、身体中にたぎってくる。
私は身を起こそうとして、……私の股間で必死に腰を振っている少年を見つけた。
「……えっ! あっ……! も、もう、意識、も、戻っちゃったんですかっ!?」
下半身だけ裸になって私の上に重なっていた少年は、慌てふためいた。
「……で、お前が私を復活させたわけだな? カント寺院に料金を払って」
薄暗い<復活室>の中で、私は、私を蘇らせた少年を見下ろした。
「はい……」
目の周りに黒あざを作り、頬は倍に膨れ上がった少年が答えた。下半身裸で、正座しながら。
ボコボコにはしたが、殺しはしなかったのは、状況を確認したかったのと、
あとは、一応この少年が金主になって私を復活させてくれたからだ。
たとえ、その目的が「復活の術が利くまでの間、死姦状態で性交したかったから」だとしても。
よく見れば、上着は、見習い僧侶のそれだった。
世も末だ。
「……で、お前はここに安置されている私の死体を見て欲情し、復活させたわけだ」
「……えっと……はい。……だって、まっぱだかの女の人は、貴女だけで、
こないだ、ここを見学したとき、その……貴女のあそこが…ちらって見えてて、すごく興奮して……」
人を一人復活させるくらいの金があれば、娼婦を何百回でも買えるだろうに、
この少年は金の使い方というものを知らないらしい。
私を蘇らせた代金も、自分で稼いだものではなく、裕福な実家からの小遣いだろう。
なまじっか真面目な貴族の坊ちゃんほど、性欲が絡んだときにとっぴなことをやらかす。
まあ、そのおかげで私は死体置き場から脱出できたわけだ。
「ふん。……で、聞きたいことがある」
「な、なんですか」
「<白の龍槍>という名のパーティは、今どうしている?」
「えっと、<地獄巡りの3パーティ>のひとつの方たち、ですよね?
リーダーが、<パラディン>コーウェル様の……」
「あの卑怯者のどこが<パラディン>だっ! ……って、<地獄巡り>?」
「ええ、毎回迷宮の最下層どころか、その下の地獄にまで行って戦い続けているらしいです。
悪魔の君主たちを倒せるようになるのも、時間の問題だって……」
「……」
私は唇をかんだ。
死体になっている間に、随分と連中は強くなったらしい。
不意討ちや闇討ちをするにしても、復讐のためには、まず仲間が必要だ。
……仲間……。
私は、がたがたと震えている見習い僧を見て、にやりと笑った
* * * * *
「ふええええー。も、もう帰りましょうよぉぉ!」
「うるさい、あと30匹フェニックスを狩るまで帰らないぞ!」
びいびいと泣く少年を小突く。
魔法の泉の効果と、私が屠る高レベルモンスターとの戦闘で、
もうかなりの実力を蓄えたはずなのに、臆病者なのは相変わらずだ。
娼婦を買う勇気がなくて、女の死体を買おう、と考えるような少年は。
しかし、こいつの持っている金は、私の迷宮復帰に色々と役立ったし、
こいつ自身も、今では最高位の呪文を唱えられる高レベル司教だ。
私の、唯一のパーティ仲間。
たった二人での冒険は、死の狂気と隣り合わせの賭けだが、得るものも桁外れだ。
そして、私はその賭けに勝ちつつある。
少し、優しくしてやるか。
ふん、と鼻を鳴らしてから、私は、石床に座り込んでダダをこねる少年の前に立った。
忍者の最高の戦闘装束――全裸で。
少年は、自分の目の高さにある女の性器に目が釘付けになった。
「おい、地下9階に行く前に、あれ、してもいいぞ?」
「え……、ほ、本当?」
「ああ。だが、座り込んでたら、あれは出来ないなあ?」
「た、立ちます、立ちます!」
「……いい子だ」
いそいそと立ち上がった少年のズボンを手早く下ろす。
入れる前に、口でしてやったのは、まあ、サービスだ。
後ろを向いて、壁に手を当てる。
爪先立ちになって、自分よりずっと若い未熟な少年の男根を受け入れる。
女忍者の、伸縮自在の膣の味に、私の相棒は、すぐに少女のような悲鳴を上げて達した。
「さあ、行くぞ……」
「ううー、でも、やっぱり怖いですよぅ……」
「……しようがない奴だ。フェニックス30匹狩って帰ったら、宿で<死姦ごっこ>させてやる」
「ほ、ほっ、ほんとっ!? お、お、おま×こ弄ったり、舐めたりしても怒らない!?」
「ああ、お前の好きなようにしてもいいぞ。私は一切抵抗しない。……いつものように、な」
にやりと笑ってウインクすると、相棒はやっと決心がついたようだった。
たった二人で迷宮の深層にもぐり、たった二人で最強パーティに喧嘩を売る。
狂っていなくてはできない芸当だ。
だが、私は復讐に狂っていたし、相棒は、私の女体に狂っている。
……私たちは、意外にいいコンビなのだろう。
<白の龍槍>が全滅する日は近いように思えた。
fin