「いいぞ〜、ねえちゃん! 隠すな隠すなぁ!」

 街中に主に男の声の歓声が上がる。ワードナの迷宮が町外れに出来てから、新しい城塞都市名物が生まれた。
その名は…『緊急脱出パーティ観賞』である。僧侶魔法6レベルに存在する【ロクトフェイト】。唱えた者も含めて
パーティの全員を城塞都市まで強制送還する魔法である。戦闘中だろうがキャンプを営んでいようが時を選ばず
唱えられれば効果は発揮される優れものだ。しかし魔法には副次効果があり、パーティのほとんど全ての装備、
所持金、所持品等が失われてしまう。それゆえ冒険者と言う職業に就く者としては『禁忌中の禁忌』たる禁呪では
あったが…

 「…見ないで、見ないでぇ! いやぁぁぁぁぁぁ! 」
 「糞、見るな、見るなぁっ! この下衆どもめぇ…」
 「気を確かに持ちましょう。むしろ開き直って、ご自慢のその身体を一歩進んで見せてやればよろしいかと」
 「もうお嫁に行けなぃよぉ…」
 「どうです? シミ一つありませんから! こうなったらヤケですっ! 」
 「もうどうにでもなれってんだ! 畜生! 見た奴100GP、寄越せ! オラァ! 」

 命あってのモノダネ、と言う言葉がある。女ばかりのパーティは、死体を弄くられる事や、傷つけられる事に嫌悪感を
抱く傾向が強い。したがって、ロクトフェイトの使用を選択肢に入れる事をためらわない。女だてらに冒険者稼業を営む
者に格言が一つある。【ロクトフェイトのその後を耐えられれば、あとは怖いものなど無くなる】、と。街の住人が冒険者に
服を与える事は『暗黙の了解』で禁止されている。冒険者の宿まで歩く行程を街の住人はこう呼ぶ。

    聖者の行進、と。

 「モーリス(暗闇)つかってください! 早く、早くぅ! 」
 「街中で使ったら追放か強制労働なの。…我慢しなさい」
 「ふぇぇぇぇん…」
 「顔を隠すか体を隠すか迷う所ではあるな…」
 「胸を張って歩いてやるっ! どうだこの! 」
 「テメエ、さわんじゃねぇ! 顔覚えたぞコラァ! 」

 街の住人が人垣を作る中、今日もロクトフェイトの【被害】にあった女冒険者が裸で歩く。ある種の見られる快感を自覚してしまい、
一部歓楽街のダンサーに転職するものや、露出の快感に目覚めるものが出るのも、この呪文、【ロクトフェイト】の罪の部分だろう。

    …受難多き女冒険者に祝福(カルキ)あれ。