「やああああっっ!!」
振りかぶった大鎌が勢いをつけてブロブに斬りかかった。
巨大な刃はブロブの繊維を容易く切り裂き、断面から毒々しい色の体液が吹き上がる。
大鎌は瞬時に切って返すと再びブロブに襲いかかった。
一閃走った後、切り離された断片が地に散らばり夥しい体液がその上にぶちまけられる。
全身を刻まれ体液を失った怪物は弱々しい動きを繰り返してまもなく、その生命を閉ざした。
「チョロいもんね」
大鎌の露を払い、肩に担ぎ直した少女が余裕の笑みを浮かべる。
「それの使い勝手はどうよ?」
「前の槍よりいい感じよ。やはり大枚叩いて作っただけはあるわ」
「ホント、払うようにバッサバッサ、だもんね」
「なあ、俺の両手斧と交換しない?」
「アンタ装備できないでしょうが!」
「そうだったアハハ」
一戦終えて談笑に興じる学徒の一隊。彼らは新しく入手した武器の性能を試していたのだ。
その武器、大鎌を振るっていたのは隊の神女である人間の少女リーズだった。
「ねえ、もう一戦してもいい?この子の力もう少し試してみたいんだけど…」
「この子って……そんなに気に入ったの…?」
「ふふふ、いいでしょ?」
「しょうがないなぁ、あと一回だよ」
「ところでさ、それなんて名前にしたの?」
「ないしょ」
新しい武器の威力にご機嫌のリーズとその様子にヤレヤレといったメンバーは
やがてその場を後にした。

しかし彼らは気づいてなかった。いや、新しい力に浮かれて忘れていたのかもしれない。
屠った相手がブロブだということを、そしてそれがいまわの際に放ったものを。

「ん?……」
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
臀部に妙な感触を感じたものの、仲間に心配をかけまいと問題ないように振る舞うリーズ。
一瞬感じたその違和感はただちに消えた。やはり気のせいなのだろう。
リーズは自分にそう言い聞かせると気分を奮い立たせるように歩を早めた。
駆け足に彼女のスカートがなびく。誰の視線も届かないその内側、ブロブから放たれた
ばかりのファズボールが菌糸を這わせ、その機会が来るのをひたすら待っていたのだった。



 あれからリーズは戦闘を数回も行い、おかげでロードから帰ってきた頃には
一行はヘトヘトになっていた。
「ああ〜疲れたぁ〜」
「お前が言うな!」
「やはり両手持ちは体力使うねえ〜」
「…だからもう帰ろうって言ったのに……」
「リーダー、もうちょっとしっかりしてくんない?」
「いや、僕も言ったんだけどね、」
「でも押し切られたじゃん」
「惚れた弱みってヤツ?あんた尻に敷かれるタイプだね」
「ていうかいい人どまり。何と思われてないのは間違いないよ」
「かっ関係ないだろ!何でそんな話になるんだよ!」
リーダーの君主が皆にいじられる中、いつの間にかリーズの姿はそこから消えていた。

「ふぅ〜〜」
 持っていた装備を放り出すと、着替えもそこそこにベッドに倒れ込む。
着ている装備は見かけは式部京の制服そのものだが、転生強化によって鎧並みの性能を持っていた。
他の学徒隊の錬金術師が実験に作った物を頂いたのだ。
正直汗やらロードの埃やら倒した敵の返り血やらでうっとうしいのだが、今は疲労が勝っている。
(起きたらシャワー浴びよ……)
心の中でそうつぶやくと泥のような眠りに落ちていった。

ズルゥ……

彼女が寝息を立ててまもなく、スカートの布地にへばりついていた菌糸が活動を始めた。
ブロブの種子たるファズボールの行動原理はただ一つ、苗床の確保にある。
ゆえにロード内の生命体に群がり、死体を求め、それらを糧としてブロブへと成長を遂げる。
そしていま、このファズボールの前には苗床に相応しい存在が横たわっていた。
植物には彼女のキャラクターや容貌やスタイルなど何の意味も無い。
丸い種子から伸びた菌糸が嗅ぎ当てたのは着床に好条件な苗床の場所。
目標を定めた種子はその場所へ向かってたどたどしく、しかし確かな歩みを踏み出した。


 それはピンポン玉より若干小さい、繊毛に覆われた球体だった。
本来ならより完成された形で外界に放たれるのだが、それを宿していた
ブロブが刈られた為に未熟な状態での旅立ちを余儀なくされたのだ。
朽ち果てたブロブから抜け出したそれは菌糸を宙に伸ばし、大気中から必要な情報を探ると
ただちに目標に向かって移動を開始した。
地面に落ちると本体の繊毛を波打つように動かし、あたかも這い回るように
リーズのすぐそばまで接近すると本体から伸びた触手───菌糸で地面を叩き、彼女に飛びつく。
だが、その進路は突然布一枚の隔たりによって遮られてしまった。

「ん?……」
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」

リーズがそれに注意を向けなかったのは幸運だった。いや、むしろ目標にその場で
たどり着かなかった事こそというべきか。
もし、この時点で直接彼女に接触していたら間違いなく存在を気づかれ、
親ブロブの後を追っていたことだろう。
薄い隔たりの向こうに目標の存在を感じるものの、飛びついた場所が絶えず動き回るおかげで
移動もままならず、菌糸を布地にしがみつかせ、状況が収まるのをそれはひたすら待ち続けた。
スカートにへばりついて幾時が経ったころ、それにようやく機会が巡ってきた。
目標であるリーズが自室のベッドに倒れ込み、そのまま眠りについたのだ。
目標の沈黙を確認したそれ───ファズボールはスカートから離れ、ベッドの上に音も無く降りると
菌糸を伸ばして空気中の情報を探り、向かうべき場所を定める。
そこの奥は温かく適度な湿気を帯び、本体を埋めるには絶好の箇所だった。
邪魔にならないよう菌糸を縮めると、ファズボールはベッドの上を目的地目掛けて駆けだした。

ベッドに仰向けの状態で四肢を投げ出し眠りこけるリーズの太ももの間でカサカサ動き回る
綿の塊のような球体。その目指す先は、戦闘用のアンダーに守られた秘苑だった。

 動き回っていた本体がアンダーに覆われた秘所に当たって止まった。
肉付きのよい盛り上がりに密着した布地の向こうには、堅く閉ざされたスリットと
他人の侵入を未だ受け入れていない秘孔が熱く息づいている。
ファズボールは複数の菌糸を伸ばすとアンダーの布地に触手の先端を引っ掛け、
自身の本体を引き上げていった。

ズリ……ズリ……

蟻の戸渡りから這い上がったファズボールは横に進路をとり、太ももの付け根と
秘苑の境にあるアンダーの端に向かう。
触手は滞りなく進むと、その内の一本の先端がアンダーの端にかかった。
その一本が布地に先端を固定させると、それを足がかりに他の触手がアンダーの内側に次々と潜り込む。
潜り込んだ触手の先はアンダーの中で布地に沿うように広がり、先端を次々とロックしていく。
そして全ての触手がアンダーの中で固定されると、ファズボールは本体を秘苑に密着した
アンダーの間に一気に引きずり込んだ。
その時だった。

「ン…! ぅん……んん…っっ」

眠っていたリーズが身じろぎを起こした。
秘苑とアンダーの間に突如入り込んだ違和感に身体が反応を示したのだ。しかしファズボールの行動は素早かった。
アンダーの下に入ったファズボールはただちに秘裂に向かって移動すると、触手を
裂け目の中に差し込み先端を会陰の内側に突き刺した。
「ウウッッ?!クゥッッ……ゥゥッ…!! ン…ンンッッ…ンン……ンゥゥ…ぅ…ぅぅん………」
 リーズの全身が一瞬ビクッと跳ね、四肢をつんのめらせる。
が、その反応を示した後、彼女が目覚めることはなかった。
いくつもの触手が秘裂に入り込み、先端を次々と会陰の中に突き立てていく。
ファズボールの触手である菌糸の先端、そこには麻痺毒を含んだ刺胞が備わっていた。
その量はあまりにも僅かだが侵入の為に感覚を麻痺させ、神経を弛緩させるには十分だった。
会陰、はては中の小陰唇にまで打ち込まれた毒は次第に効果を現し、それは秘苑全体に及んでいく。
やがて秘裂に入り込んだ触手達は刺胞を突き立てるのを止めると、会陰を左右に押し開げた。

ヌパァ……!

アンダーの中で花開く処女の秘苑。
魔叢の種子はその中心へ己を誘うと、ヒクつく秘孔の中へズブズブと入り込み、無垢の肉洞を
蹂躙しながらその奥を目指していった。