この冷たい石畳の床は、今までに一体、いくつの骸をその胸に抱いたのだろう?
素足で踏みしめる薄汚れた石畳から伝わってくる冷たさが、私にそんな思いを抱かせた。
“狂王の試練場”と呼ばれるこの迷宮の床は、数多の死を受け止め、今日も静かに佇む。

夥しい数の冒険者が迷宮の闇に挑み、墓標すらも残せず、魔物の餌食となり、消えていった。
それ以上の数の魔物が、冒険者たちに屠られ、生まれ出でた迷宮の闇へと葬られていった。

迷宮はなぜか、母親の胎内を思い出させる。
恐れるべき暗闇は、時に奇妙な安らぎを与えてくれる。
平穏に暮らす人々が一生をかけても得られぬほどの、富と栄光。
しかし、それを手にすることが出来るのは、ほんの一握りにすぎない。
皆、それを知りながら、うたかたの夢を見て、迷宮に挑む。
そして迷宮という名の揺りかごに抱かれ、眠りにつく。
覚めることのない、永い、永い眠りに。


目の前にはオークが二体。瞳を欲望にぎらつかせて、立っていた。
粗末な毛皮を纏っただけの豚面の魔物は、迷宮でも最下級の部類に入る。
全ての装備も衣服を脱ぎ捨て、身一つになった私であっても、素手で倒せるだろう。
クラスはニンジャではなくロードだが、オーク如きならば数十は物の数ではない。
私の背後で床に転がる君主の聖衣やカシナートの剣を身に着け、フル装備となれば
地下10階を一人で歩き、グレーターデーモンに囲まれても涼しい顔で切り抜ける自信がある。

毛皮の上からでもはっきりと分かるほど、股間を膨らませたオーク。
その視線の注がれる自らの裸身に、そっと視線を下ろし、眺める。
豊かに張り出した胸、くびれた腰。引き締まりながらも脂の乗った臀部。
少し自慢の、すらりと長い足。顔も、そう見目は悪くないだろう。
襟足で切り揃えた黒髪のせいか、やや中性的な雰囲気をしてはいる。
けれど、こうして何もかもを脱ぎ去ってしまえば、自身の性を実感できた。
雄を誘い狂わせ、その様に静かに高ぶってゆく、浅ましい、淫らな女の性を。


ギルガメシュの酒場で羨望の眼差しを浴びる、高レベルの冒険者。
富と栄光を欲しいままに出来る実力を秘めた私は、他の冒険者から見れば
望むものすべてを手に入れることの出来る人間に見えるだろう。


私はオークの前に跪き、異臭のする毛皮の上からそっと、その強張りを撫でる。
たちまち快楽の呻きを上げるオークに愛しさを覚え、女陰に蜜が溢れた。
毛皮の中に手を差し入れ、指先に触れる肉茎を外に出す。それは太く醜かった。
人間の性器をグロテスクにデフォルメしたかのような肉茎は、すでに先走りの液を滴らせている。
ためらいなく、口に含んだ。鼻腔をさす刺激臭。吐き気すら催す獣臭が肺を満たす。
私は首を振り、舌を絡め、オークの肉茎に欲情し、愛液で床を濡らしながら、奉仕を開始した。
もう一匹のオークが待ちきれずに突き出してくる肉茎を掴み、扱き、同じように奉仕をした。


なんと皮肉なことだろう。一匹の牝と化し、オークの性奴隷を自らを貶めながら思う。
私以外の誰もが望んだ富と栄光。それを手に入れるたび、私の心には虚ろが広がっていった。
幾人もの冒険者がそれを望み、掴もうとして掴めず、半ばで迷宮の床に倒れていった。
その掴もうとしたものを手にすることのできる私は、迷宮の床を欲望の雫で穢していく。
口にすることも憚られるような、おぞましい行為の末に流れる欲望の雫が、眠る者たちの上に降り積もる。


オークたちが腰を震わせ、粘ついた黄色い精液を射精する。私は恍惚とした表情で、その射精を受け止めた。
びちゃびちゃと顔に、先端を尖らせた裸の胸に、濡れた女陰に精液が飛び散り、汚してゆく。
すえた臭いの精液を浴びた瞬間、私もまた絶頂に達し、愛液を大量にしぶかせていた。
牡と牝の臭いが、狭い空間を満たした。オークたちの鼻が性臭に反応して蠢き、萎えかけた肉茎が勃つ。
一匹のオークが私を床に押し倒し、醜く愛しい肉茎を女陰へと挿入し、腰を振り始める。
残された一体は私の口へ肉茎を押しつけ、低く唸る。しゃぶれ、というのだろう。
貫かれ、嬌声を漏らしながら、私はオークの指示に従い、その肉茎を口に含み、しゃぶっていく。


私は富や栄光を求めてなどいなかった。それらは私の心を満たしてなどくれなかった。
それらを手にするたび、誰もが私の傍から離れていった。誰もが私を英雄視した。
違うのだ。私はそんなものを求めてなどいなかった。その先を求めていた。
富と栄光を手に入れ、失うことを望んでいたのだ。決定的な破滅と、徹底的な蹂躙。
尊厳のない陵辱と、その果てにある目を覆わんばかりの背徳と快楽を求めていたのだ。


オークが両足の間で快楽に啼いている。私の女陰はオークの太く醜い肉茎を締めつけ、咥え込んでいく。
唇の中にねじ込まれた精臭のする肉茎の幹を唇で扱き、舌で鈴口を抉り、カリをなぞっていく。
貪欲なオークの性欲を満たしながら、私はそれ以上に貪欲に彼らを求め、貪り、自身を満たしていった。
彼らは何度も私に放ち、私の顔も、女陰も彼らの精液で汚されていった。精液が迸るごとに、私は達した。
豊かな胸で肉茎を扱かされ、脇も、菊座も、何もかもが辱められ、欲望のはけ口にされていった。


誰もこんなことを、私にしてはくれない。誰もが私を恐れ、羨むから。
私を純粋に一匹の牝として扱い、ただ欲望を満たす穴として犯してなどくれない。
虚ろが満たされていく。幾度となく意識を白く霞ませながら、強く感じた。
虚ろが満たされていく。望むものを手に入れた私の心は、とても、とても軽やかだった。

迷宮はなぜか、母親の胎内を思い出させる。
恐れるべき暗闇は、時に奇妙な安らぎを与えてくれる。
素肌に触れる冷たい石畳の床に、私は確かな安らぎを覚えた。
オークに抱かれながら、私はこの迷宮に抱かれているのだ。
絶え間ない快楽に晒され、その肢体を白く精液の色で染め上げながら
私もまた、この床に抱かれた者たちと同じように眠りにつく。
終わることのない、永い、永い眠りに。
覚めることのない、永い、永い眠りに。