まず、浮遊感があった。
痛みは全くと言っても良いほど感じられぬ。
ただ浮遊感と、全身を温く包み込むような気怠さのみがあった。
これが死というものか。霞掛かったように呆けた頭にそのような事を思い浮かべる。
潤む視界を明滅する柔らかな燐光が支配している。
眩しい。決して強い光ではないが、まるで直に陽の日をを見つめている様にも思えた。
光を避け、心地よい微睡みの内に沈もうと再び目を閉ざそうとした時、何かが私に触れた。
ただ触れた、と言うだけではない。
痛みでもなければ熱や冷たさとも違う、得体の知れぬ何かが、確かに私の触覚を通して伝わってきたのだ。
それは私の耳に触れ、首筋を伝い、腕を舐める様に伝わってくる。
痛痒にも似た刺激の継続で、覚醒は促される。
意識を向ければ光の正体とは何のことはない、胎動属性の余剰魔力が、光として漏れだしているのだ。
つまり、ここはロードの中だ。
光の色から判別すれば属性は雷であり、あの戦闘からそれほどの時間は経っていないと言うことになる。
これも探索者としての癖なのか、私は無意識のうちに己の状態を探っていた。
敵の手斧に殴られた腹を気づかってみても、特に外傷はないようだ。
胃を持ち上げられる様な不快感はあるが、この程度ならば気にする必要はない。
全身の傷も癒えているようだが、恐らく私が落ち込んだ――今、こうして漂っている水域が、癒やしの魔力を持ったそれなのだろう。
果たして古の天人達が何を目的として各ロードにこんな貯水槽を用意したのかは解らぬが、そのお陰で私は一命を取り留めた、と言うことになる。
諦めたのも莫迦らしく思えてきたが、それでも、胸の中にある奇妙な喪失感は否定できぬ。
意識が妙にさえてきたからだろうか。再び、例の奇怪な刺激が襲う。
嫌悪感を覚えた私は、半ば反射的に身をよじり、それを振り払おうとしたが、全くと言ってもいいほど四肢に力が入らぬ。
急激な負傷の回復は、一時的にとは言え著しく体力を奪うという。
例えば蘇生魔法などが良い例だが、どうやら私もそんな状態にあるらしい。
それは背中側をひと通り嘗め回したあと、爪先を超え、探るようにじわじわと脛を這い、私の身体へと昇ってくる。
腿を抜け、股間へと差し掛かった時、刺激はひとつの形となる。
適度なぬめりと微弱な蠢動でもって全身の力を奪うそれは、ある種の心地よさを持っていた。
それがなぜ、局部まで来て自覚したか判らぬほど若くは無いつもりだが、
ひとまずはその正体を見極めるべく、辛うじて顔を起こした。
場違いにもほどが有るが、思わず苦笑がもれる。
破れた軍服から覗く部位にやはり傷跡は見えぬが、まるで人種か妖精属の様に禿げあがった素肌が有った。
なんたる事だ。三色の飾り毛は幼い頃からの自慢であったと言うのに、こうも無残に焼かれてしまっては残ったものも剃り落とさねばなるまい。
などと、余計なことを考えている場合ではなかった。
不意に、例のものがその動きを増した。
合わせて私を襲う愉悦も強くなり、思わずのけぞりそうになるのだが、堪えて正体を見極める。
私の下着の内で、何かが激しく蠢いていた。
黄色い半透明のものがはみ出ているのが見えた。先ほどの戦いのスライムだろうか。
軍服の留め金が溶け残っていたため、腰の辺りで足止めされていたようだ。
そこを突破せんと試みているようで、安物の下着を醜くうねだたせている。
それまでは陰唇を覆うのみだったスライムは、その刺激ではしたなくも綻んでしまった秘裂へ流れ込んでくる。