自慰による刹那的な快感が醒めると、残るのは空虚さだけだった。
陰茎と手を濡れた布で拭いながら、深い溜息をつく。
迷宮に潜り、女の子達と遊び、アイテムを持ち帰る仲間達に比べて僕はどうだ。
迷宮にも潜らず。女の子とも遊ばず。仲間が持ち帰ってくるアイテムを鑑定し、
たまに欲求を解消するために自慰をするだけの毎日だ。
呪文など一度も唱えたことがないし、十六歳にもなって女の子とは手を繋いだこともない。
そのくせ、アイテムだけはもう何百回と鑑定したし、呪いも何十回と引き当てた。
本当に虚しい毎日だった。
僕はリルガミンに何をしにきたのだろう。そして僕はリルガミンで何をするのだろう。
呪文研究者になるでもなく、冒険者になるでもなく、ただ銀行兼鑑定屋をしているだけ。
僕がこの街にいることは、僕の人生において一体何の意味があるのだろう。
いい加減に嫌になってきた。このまま、仲間の金を持ち逃げして逃げてしまおうか。
そんなことを考えてしまうくらいに、射精後の倦怠感というのは深刻だ。
自慰をするたびに憂鬱になるのも、きっとストレスが溜まっているせいに違いない。
よし決めた。今日はストレスを解消しに行こう。仲間も十万Gくらいなら使ってもいいと言っていた。
そうだ、娼館に行こう。そこで女の人の身体を知るのだ。自慰をして惨めな気分になるのは、
きっと女の人を知らない自分が嫌になるからに違いないのだ。だから、まずはそれを解消しよう。
金ならある。僕は相場というものを知らないが、十万もあれば充分なはずだ。
僕は早速宿を飛び出し、娼館に向かった。よくは知らないが、きっと歓楽街の方にあるのだろう。

           *           *           *

ここか。十分ほど歩いて、僕はそれらしき建物を見つけた。
看板には全身に蜂蜜を塗った裸の女の人の絵が描かれていて、その絵の下には
「貴男と甘い一時を過ごしたい」という一文があった。
見ているだけで顔が赤くなり、鼓動が激しくなり、意味もなく恥ずかしくなってくる。
こうしてこの看板を見ているだけでも何かいけないことをしているようで緊張するし、
誰かに今の僕の姿を見られていそうで物凄く怖い。
しかし、ここで勇気を出して一歩を踏み出さないと、僕はいつまでも惨めな自分でいることになる。
僕は悩んだ。悩み抜いた。建物の前から逃げることも進むこともできず、僕は悩み続けた。
「ありゃ?こんな所で何してんのさ?」
「うわひゃっ!」
いきなり後ろから肩を叩かれて、驚きのあまり口から心臓が飛び出てしまうかと思った。
そして肩を叩いてきた相手を確認して、驚きのあまり心臓が停まってしまうかと思った。
「え、えっ、えぇっ!?な、な、何って……そ、その……」
「……あっ、そうか。はーん、やっぱりあんたも男だったんだねえ」
そこにいたのは僕の仲間の一人であり、この間瀕死の重傷を負って戻ってきて以来、
ロイヤルスイートで療養中のはずの侍さんだった。
彼女はいつもの戦装束ではなく、ユカタというヒノモトのガウンを一枚羽織って腰に刀を差しているだけだった。
その状態で腕を立派な胸の前で組んでニヤニヤと笑うものだから、
大きく開いた胸元が余計に強調されてしまって物凄く目のやり場に困る。
背の高い侍さんの胸は僕の顔と同じ高さにあるので、余計に困る。
僕は反射的に俯いてしまった。
「えっと……その………」
「何照れてんのさ。いいじゃないの、女抱くのは男の甲斐性さね」
侍さんはそうやって笑っているが、僕はもう今すぐテレポーターで壁に飛び込みたい気分だった。
娼館の前で逡巡しているところを人に見られただけでも恥ずかしいのに、
その見つかってしまった相手が同じパーティの仲間となれば、いっそ殺してくれと言いたくなる屈辱だ。
「んー、確かあんた、童貞だったね。うん、筆下ろし頑張りなよ」
そして、童貞を捨てにきたという目的を、よりにもよって女の人に見抜かれたというのは
目の前がダークゾーンに変わってしまうほどの衝撃だった。
「ちょ、ちょいとお待ちよ!何で泣くのさ!?あたし、何かまずいこと言ったかい!?」
急に顔を覗き込んできた侍さんに慌てた調子で言われて、僕は自分が泣いていることに気づいた。
「だ、だって……だって……」
恥ずかしさと情けなさのあまり泣いてしまったとは、恥ずかしい上に情けなさ過ぎて言えない。
それ以前に、嗚咽しているせいで上手く言葉が出せなかった。
「あー、もう、泣くのはおよしよ……ほら」
「うわっぷっ」
侍さんが困った様子でそう言った瞬間、僕は何か強い力に引き寄せられて、何だか温かくて柔らかくて
肌触りがいいものに顔を埋めさせられていた。柔らかいそれは僕の顔の形に合わせて変形し、
肌触りがいいそれは僕の顔にぴっちりと張りついてくる。堪らず窒息してしまい、僕は空気を求めてもがいた。
しかし、僕の背中を押さえつける力は全く緩まず、揺らがなかった。
「うーっ、むーっ!」
「よしよし、泣かない泣かない……あ、息ができないかい?許しとくれ」
侍さんのすまなそうな声と共に背中を押さえつける力が消えたと確認するが早いか、
僕は温かくて柔らかいものから顔を引き離して美味しい空気を貪った。
そうして人心地がついたところで視線を正面に戻して、僕は僕を窒息死寸前にまで追い込んだ物体の正体を知った。
「すまないねえ、どうにも力を加減するってのが苦手でさ」
正面にあったのは、全然反省した様子もなく笑う侍さんの肌蹴た胸元だった。
僕はあの深い谷間に顔を埋めていたのだ。それも、服越しにではなくそのまま直にだ。
「あ……え、その……」
しかも、僕の背中にはまだ侍さんの力強い腕が回されたままだった。
「こら、暴れるんじゃないよ」
慌てて振り解こうとしたら、逆に押さえ込まれてしまった。逃げられない。
自分が先ほどまで女の人の胸元に顔を埋めていたことと、現在進行形で女の人に
抱きしめられていることに顔が本当に燃えているのではないかとすら思えるほどに熱かった。
「んー……」
侍さんは困ったように頬を掻いているが、本当に困っているのは僕の方だと言いたい。
「すまないね、邪魔しちまって……」
もうそんなことはどうでもいいからさっさと腕を離してどこかに行って欲しかった。
というようなことを言いたいのだが、女の人と話すのはやはり気後れするので、
どうにも口を開く決心が固まらなかった。
そういうわけで僕が黙ったままで、口を開くことができないままでいたら、
それをどう誤解したのか侍さんの表情が真剣に考え込むようなものへと変わった。
「うーん……怒ってるのかい?」
「そ、そんな……そんなことは……」
「埋め合わせするから、許しとくれよ。ちょいと待っとくれ」
慌てて首を振ったが、どうも誤魔化しと受け取られてしまったらしく、侍さんは考え続けている。
そしてしばらく考えた後、侍さんはにかっと笑って驚くべき「埋め合わせ」を提案してきた。
「……あ、そうだ。お詫びと言っちゃ何なんだけどさ、あたしがあんたの筆下ろししてやろうか?」
「えっ……」
炎は赤よりも白の方が温度が高いというが、実際、僕の顔と頭は赤く焼けるのを通り越して
真っ白に灼熱してしまった。ほとんど恐慌状態で、まるで未鑑定の品に触ってしまった時のような気分だった。
「だから、あたしがあんたの童貞貰ってやろうかって言ってるのさ」
「え、や、その……」
「そこらの商売女なんかで童貞捨てるのはよくないよ。あんた、気が弱いからきっと馬鹿にされちまうよ。
 それに危険さね。変な病気を貰っちまうかもしれないよ。その点あたしなら、
 絶対に仲間を馬鹿にしたりしないし、まあ……処女じゃないけど、
 身持ちは固い方だから変な病気なんて持ってないから大丈夫さね」
「あ、そ、その……えと……ああ……」
「女に恥をかかせるもんじゃないよ」
あまりにも刺激が強すぎる内容に、僕はもう本当に何も言えなかった。
意味のある言葉が言えるような冷静さと理性は、もう残っていなかった。
だからそれから後、僕が何をどう答えたのかは全くわからない。
「じゃ、そういうことだから、本当にあたしでいいんなら夜に部屋においで。
もちろん身体はちゃんと綺麗にしておくんだよ。それは男の義務だからね」
我に返った頃には、そう言って去っていく侍さんの後姿があった。

           *           *           *

僕は今、侍さんが泊まっているロイヤルスイートの扉を叩こうとしているところだ。
結局、あの後僕は娼館には行かず、侍さんに童貞を捧げることにした。
ただ、すんなりと決められたわけではない。宿に戻ってからも散々悩んだし、
一時は、折角言ってくれた侍さんに恥をかかせることになってしまって申し訳ないが断ろうとも考えた。
だがそれでも自分を変える機会だからと必死に考え、何より侍さんの好意を無にしたくないと思い、
僕はこうしてこの部屋の前に立つに至った。

「あ、あの……僕ですけど……」
胸が痛くなるくらいの動悸を堪えてノックをすると、僕の緊張が馬鹿馬鹿しくなるくらいに
快活な、緊張感の欠片もない声が扉越しに返ってきた。
「あー、開いてるから入っといで。鍵は閉めとくんだよ」
「し、失礼します……」
女の人の部屋に入るのは初めてだからとても緊張する。
なるべく音を立てないように扉を開けて静かに入り、そっと扉を閉め、しっかりと鍵をかける。
それから侍さんの姿を探して、僕は絶句した。
「なっ、あっ……」
「あー、ごめんねぇ。丁度風呂上りでねぇ」
タオルで濡れた髪を吹いている侍さんは、何と全裸だったのだ。
慌てて下を向いたが、遅かった。全て、目にしっかりと焼きついてしまっていた。
風呂上りらしく火照った身体からはまだ仄かに湯気が立っていた。
何よりもまず目を惹きつけられたのが重力に逆らって突き出した立派な胸だった。
頭を拭くために両腕を上げているせいで突き出されている胸は、腕の動きに合わせてゆったりと重そうに揺れていた。
「あ、何そっぽ向いてんのさ。あたしには魅力がないって言いたいのかい?」
「あっ、その、あの……」
頭を拭き終えたらしい侍さんは、タオルを投げ捨てると唇を尖らせながら近寄ってきた。
「そ、そんなんじゃなくて……その……」
「だったら、あたしの身体をじっくり見て、感想の一つも言ってみなよ」
「え……」
「ほら、じっくり見な!」
「は、はい!」
歴戦の侍の声で一喝されて、僕は顔どころか頭が茹蛸のようになるのを自覚しながら
恐る恐る顔を上げ、両手を腰に当てて胸を張る侍さんを見た。
「う、うわぁ……」
そこにあったのは、見るだけで眩暈がするくらいに綺麗な、まるで芸術品のような身体だった。
全体的に逞しいが決して女の人の柔らかさを失ってはおらず、むしろ引き締まった印象を与える肢体。
綺麗な肌と、むしろそれこそが魅力を増加させているようにも思える古傷の数々。
小さな西瓜くらいの大きさがあるのに、重力に逆らって突き出した豊かな胸。
引き締まった太腿の間に薄すぎず濃すぎずの範囲で萌え繁る柔らかそうな叢。
僕は股間が痛いくらいに疼くのを自覚しながら見入った。
「……どうだい?」
どれくらいの時間が過ぎただろうか、瞬きするのも忘れてぼうっと見入っていたら、
痺れを切らしたような侍さんの声が聞こえた。
「あ、そ、その……き、綺麗……です、と、とっても……」
何の芸もなくありきたりな、たったこれだけの言葉を言うのにも、物凄く努力が必要だった。
言い終える前は心臓の音が物凄くうるさかったし、言い終えてからは何か失敗しなかったかと
不安で不安で、背中を嫌な汗が流れ落ちていくのがわかった。
「……そうかい。こんな傷だらけでも、どれだけ強くなっても結局女は女さね。
 男にそうやって褒められると、それだけで有頂天になっちまうんだから」
恐る恐る窺った侍さんの顔には、嬉しそうな微笑が浮かんでいた。よかった。失敗はしなかったらしい。

「じゃ、始めようかね。さっさと脱ぎな」
「えっ……」
先ほどの安心感は一気に吹き飛んだ。そうだ、まだ終わりではないのだ。そもそも、まだ何も始まっていないのだ。
「脱ぎなよ。それとも、服着たまま女抱くつもりかい?」
「あ、は、はい……」
頷きはしたものの、やはり躊躇いは消えない。
考えてみれば、誰かに、それも女の人の前で裸になるなどというのは今までに経験がないことだった。
何かおかしな所はないか。貧弱な身体だと笑われないか。不安で一杯だった。
「……しょうがないね、あたしは後ろ向いてるから、済んだら声かけな」
数十秒ほど何もできずにおろおろしていたら、侍さんは苦笑を浮かべて背を向けてくれた。
「は、はい……」
ここまでして貰って、後には退けない。僕は深呼吸して心を落ち着かせ、ゆっくりと法衣を脱ぎ去った。
パンツを脱ぐのは少しばかり勇気が必要だったが、侍さんも全裸を堂々と晒しているのだから、
ここでごねるのは失礼に当たると自分を説得し、法衣の数倍くらいの時間をかけて脱ぎ捨てた。
「あ、あの……済みました……」
すっかりいきり立ってしまった陰茎を両手で隠しながら、小声で侍さんを呼ぶ。
「ん、そうかい。じゃあおいで」
軽くこちらを向いて頷いた侍さんはベッドの上で仰向けになり、僕を手招きした。
軽く脚を開くようにして寝転がっているので、大事な所がほとんど丸見えだった。
僕には少し刺激が強すぎる光景だった。
「は、はい。失礼します……」
なるべく股間の方を見ないようにしてベッドに近づいて、そこで僕は立ち止まった。
これからどうすればいいのかわからない。官能小説くらいしか情報源がない僕にはわからない。
ああいう小説だとこういう時は女の人に愛撫を加えながら覆い被さるような感じだったが、
そんなことは僕にはできない。恥ずかしいというのもあるし、馴れ馴れしすぎると嫌がられたり、
僕が下手なせいで不快な思いをさせてしまったりするのではないかと怖いのだ。
「……何やってんだい?」
「え、その……どうすればいいか……わからなくて……」
じろりと睨まれて、僕はどもりつつ答えた。やはり失敗してしまったと心が沈む。心なしか、陰茎にも元気がなくなってきた。
「やれやれ……じゃ、まずはあたしの脚の間に割り込むようにして乗っかってきな」
取り返しのつかない失敗をしたような気分のまま俯いていたら、普段よりも柔らかくて優しげな声をかけられた。
「……はい」
鼓動が速まっていくのを感じながらベッドに上がり、僕のためにか先ほどよりも大きく開かれた脚の間に膝を突いた。
風呂上りだからか身体はとても温かく、触っていないのに熱を感じた。風呂上りだからか身体からはとてもいい匂いがした。
もうそれだけで刺激が強すぎて失神しそうなのを堪えて、そのまま侍さんの表情を窺いながらゆっくりと覆い被さろうとした。
が、僕だと身長が足りず、言われた通りにやろうとすると、顔が胸の前までしか届かない。
「……しょうがないね。それじゃ、あたしの腹を跨ぐようにしてみな」
「えっと、はい、こ、こうですか……?」
「ん、そうそう。飲み込みが早いね」
言われた通りにできたかと不安に思って訊いてみると、侍さんは母性的な笑みを浮かべて頷いた。
「それで、さ……」
かと思うと、一転、どことなく不安そうな顔になって、躊躇いがちに侍さんは言った。
「キス、してくれるかい?……あ、嫌ならいいんだけどさ……」
僕は不思議とそんな侍さんを可愛いと思った。
「え、えっと、あの、嫌なんてことないです……」
「そうかい、嬉しいねえ。それじゃあ、頼むよ」
僕の答えに嬉しそうに目を細めると、侍さんは目を瞑って軽く唇を突き出してきた。
「じゃ、じゃあ、失礼、します……」
目を瞑った侍さんの顔の両脇に手をついて、少しずつ少しずつ顔を近づけていく。
目を閉じたままキスができるほどの経験はない、というよりもキス自体が初めてはなので、
僕は侍さんの顔と桜色の唇が徐々に近づいてくるのを見ることになった。
顔が近づくにつれて身体も近づき、それは必然的に侍さんの大きな胸と僕の胸が触れ合うことを意味する。
ツンと尖った桜色の乳首が僕の胸板に触れた時には電気が走ったような感覚に襲われたし、
そのまま僕の身体がゆっくりと弾力に満ちた胸を押し潰していくような状態になった時には胸の辺りが物凄く熱かった。
ただ、侍さんの胸には弾力と大きさがありすぎて僕の体重では潰れず、息がかかるくらいの距離にまで顔を近づけるには
その深い谷間に身を割り込ませるようにしなければならなかった。
大きくて弾力があって、しかし柔らかい胸に身体を挟まれる感覚に、僕はもうそれだけで駄目になってしまいそうだった。
「……まだかい?焦らさないでおくれよ」
「い、いきますよ……ん」
催促されて我に返り、僕は意を決して目の前にある唇に触れた。柔らかくて弾力のある感触が伝わってきた。
微かに薫ってくるのは何だかよくわからないがいい香りだった。きっと配慮してくれていたのだろう。
何の配慮もせずにただ身体を洗って歯を磨いただけの自分が恥ずかしくなってくる。
「ん……む……」
しばらくは侍さんの反応を見るため、小鳥が啄ばむようなキスを続けていたが、やがて少しだけ
唇を開いたような動きが伝わってきたので、官能小説で読んだ通りに舌先を割り込ませてみた。
恐る恐る、もし嫌がられるようなことがあっても誤魔化せる程度にだったが、唇の合わせ目を舌先で舐めてみる。
「むっ、んぅっ……」
嫌がられている様子はない、と思って安心した瞬間、何だかぬるぬるしたものが口の中に侵入してきた。
驚いて噛んでしまいそうになったが、顎に力が入る前にそれが侍さんの舌だと気づいて自制することができた。
「あぅっ……むぅ……ん…」
侍さんの舌は初めは優しく僕の舌を撫で回していたが、
次第に動きを激しくし始め、遂には僕の口内を縦横無尽に暴れ回るようになった。
歯列は奥歯までを舐め上げられ、舌はほとんどしゃぶられているような状態で、
僕から始めたキスのはずだったのに、いつの間にか完全に翻弄されてしまっている。
ふと気がつけば、唾液を啜られ、後頭部と背中を撫で回され、豊満な胸を押し付けられ、
肉感的な太腿で挟み込まれていた。
段々と意識が朦朧としていくが、その感覚は全く不快なものではなかった。
「……ぷはぁっ!」
しばらくの間、この貪られるような僕のファーストキスは続いたが、唐突に侍さんの唇が離れていった。
すっかりこの心地いいキスの虜になっていた僕は、唾液の架け橋を啜るようにして唇を追いかけたが、
侍さんの大きくて逞しいのに女性的な柔らかさを持った手に押し留められてしまった。
「あ……」
「こらこら、そんな顔するんじゃないよ」
残念に思う気持ちが顔に出てしまったらしく、僕の顔を見た侍さんは苦笑を浮かべる。
また失敗してしまったと、先ほどまでの高揚感が消えていくのがわかった。
「……本番はこれからさね。もっと気持ちよくなろうじゃないのさ」
「わっ……」
そしてそのまま笑みを悪戯っぽいものに変えると、侍さんは項垂れる僕の頬にキスをしてくれた。