『酒場で一緒にパーティ組めないけど迷宮内では組める善と悪は、どっちかがツンデレ』 説より


「──善の君主様は、あいかわらず装備が重そうだな」
暗がりから声がかかったので、階段を降りきったところで僕は足を止めた。
たしかにザリガニのように重装備に身を包んだ体をぐるりとまわして、声がした薄暗がりを睨む。
「お、大きなお世話だよ!」
「しかも、いっしょに戦ってくれる前衛もいなければ、宝箱を開けてもらえる盗賊もいない。たいした人望だ」
「わ、悪かったね!」
暗闇から聞こえる女の人の指摘に、僕はちょっと泣きそうになった。
「くくく。私がまた、一緒にパーティを組んでやろうか?」
闇から一歩近づいてきたのは、──全裸の女忍者さん。
「ぜ、善と悪とはパーティ組めないよっ!」
「それは酒場での話。迷宮内でなら別だ。
 何しろ、薄暗がりの中なら、たとえ君主がくの一を抱いても何も問題がないからな」
──先日の初体験の事を思い出して、僕は真っ赤になった。
女忍者さんが今もちらちら見せているおっぱいとかあそことかを思い出して、鼻血が出そうになる。
「あ、あああ、あれは──」
「くくく」
女忍者さんは、とても邪悪で意地悪な笑いを浮かべた。
「──くそっ、なんだって、あなたは僕につきまとうのさっ!」
その余裕たっぷりな美貌に、僕は思わず悪態をついた。
「……べ、別に理由は、ない」
心なしか、女忍者さんはひるんだ様子だった。
「わ、私は忍者で、盗賊の代わりにもなるし、装備が重いお前と違って荷物持ちもできるし、もちろん一緒に戦いもできる」
「それ、あなたにメリットがないじゃないか」
「べ、別に貴様が一人じゃ心配だからとか、ほっとけないとか、そういうことではないぞっ!」
この議論になると、女忍者さんはどうも論理的ではない。
ひとしきり議論したけど、どうにも話はまとまらなかった。
そのうち、女忍者さんの大きなおっぱいとか、引き締まった腰とか、豊かに翳っている茂みとかに
目が釘付けになって、僕は黙ってしまった。
──神よ、こんな穢れた心の僕を許してください。

「……わかったよ。いっしょに行こう……」
消え入りそうな声で言うと、女忍者さんは、ふんっと、すごく冷たく鼻を鳴らして僕の隣に来た。
「ま、感謝しろ。──私とパーティーを組みたがる男は掃いて捨てるほどいるのだからな」
「……だから、なんで僕と……」
「だ、だから意味は、ない!」
あー、いつもと同じパターンだ。
このままだと、やっぱり今日もエレベーターの中あたりで……その……しちゃうのかな、僕たち……。