誰かが階段を下りる音が聞こえた。
反射的に身体が暗がりに転がり込んで隠身を始め、五感の全てが勝手に音の方向へと集中を始める。
もういい加減に慣れたが、短刀の力で転職した時には随分と戸惑ったもんだ、この忍者の習性って奴には。
人数は一人。大した自信家だ。この迷宮に一人で挑むとは、そんな馬鹿が俺以外にいるとはね。
身のこなしからして多分前衛職だろう。マスターってほどじゃないがそれに近いくらいには鍛えられている。
五感が分析した情報が勝手に脳内で整理されていく。
周囲を警戒するようにして、そいつは静かに始まりの回廊に降り立った。
不器用な戦士系にしては足音を消すのが上手い。駆け出しの盗賊くらいには忍び足ができるだろう。
じっと目を凝らして、迷宮の暗闇の中のそいつの姿を見る。
まず目に入るのは長い銀髪。チンピラの別名である冒険者には不似合いな綺麗な髪だった。
続いて、騎士道物語の姫君もかくやというほどの気品に満ちた美貌。二十前ってところか。
線の細さや尖った耳からして、こいつはエルフだろう。
最後に、華奢な長身をゆったりと覆う神々しい衣。こいつは驚いた。
正真正銘の君主の聖衣だ。ってことはこいつ、君主か。
俺の推測を証明するかのように、腰には長大な剣が佩かれていた。こいつは凄い。エクスカリバーだ。
実力の方はまだまだ発展途上だが、装備だけは最高級だ。こいつはカモかもしれないな。
しかも、実力を除く立ち居振る舞いから装備品までがこれ以上ないほど君主っぽい。
こいつは生まれつきの君主かもしれない。どこかのエルフの国の王族か何かだろうか。
緊張の表情を浮かべるエルフは周囲を警戒するように視線を配りながら、
そんなことを考えている俺が潜む暗がりへとゆっくりと向かってくる。
俺はいつでも跳びかかって首をへし折れるように体勢を整えつつ、エルフに声をかけた。
「よう、兄ちゃん」
「誰だ!?」
暗がりで隠身していた俺には全く気づいていなかったらしく、そいつは腰の剣を引き抜き、俺に向かって構えてきた。
なかなか様になっているし、そこそこの実力はあるようだが、俺からすれば隙だらけだ。
一瞥しただけでクリティカルを決めるための攻撃の軌跡が目に浮かんでくる。その気になればいつでも殺せるということだ。
「ただの怪しい忍者さ。安心しろ。戦う気なら声なんざかけずに跳びかかってるよ」
害意がないことを示すため、手を頭の後ろで組んだままゆっくりと回廊の中央へと歩み出る。
エルフは最初、警戒するようにエクスカリバーの切先を向けてきたが、殺気の有無くらいはわかるらしい。
鞘に納めるような愚行は流石にしなかったが、切先をひとまずは床に向け、替わって切れ長の双眸を向けてきた。
「貴公は何者か?」
声は少し高めだが、エルフなんてのはみんな甲高い声をしているからこれが普通なんだろう。
「俺かい?残念だが、名乗れる名前がねえ。名無しとでも呼んでくれ。知り合いはみんなそう呼ぶ」
「名無し、だと?私を愚弄しているのか?」
エルフの視線が鋭くなった。まあ、わからんこともない。俺も相手がそんなことを抜かしたら殴っている。
「いいや。俺はな、名前を消されちまったんだ。昔々の話だが、凶王の城に盗みに入ってな」
凶王はこの間くたばった狂王トレボーに匹敵するほどの暴君だ。同じ時代を生きていたら絶対に衝突して、
トレボー戦役が子供の花火大会に思えるほどの大破壊をもたらしたことだろう。
「凶王だと?」
疑わしげな表情を浮かべながら、エルフは俺の話を聞いている。
「ああ。あいつの宝物庫に忍び込んでな、ちっとばかし宝をちょろまかそうとしたんだ。
 まあ、逃げようとしたところで近衛兵どもに捕まっちまったんだがな」
あの時の屈辱、恐怖は今でも忘れない。いや、忘れられない。今でもたまに夢に見る。
「凶王の前に引っ立てられてな、盗みに入った理由を訊かれたんだ」
「それで貴公は何と答えたのだ?」
エルフは酔っ払いの法螺話を聞くような態度だったが、俺は別に気にしない。心が広いからな。
「凶王から宝を奪ったっていう名誉が欲しかった。歴史に名を残したかった。そう答えた。
 そうしたら凶王の野郎、「ならば残す名すらなく果てるがよい」とか抜かしやがってよ、
 お抱えの魔術師に命じて俺の名前を魔法で世界から消しちまいやがった」
「ふん、まるで伝説の名もなき大盗賊のような話だな」
興醒めしたような光が、エルフの銀色の瞳に浮かぶ。
「俺がその大盗賊だ。つっても、番兵ぶち殺して逃げるために盗賊の短刀使ったから、
今じゃただのやたらと強い忍者だがな」
「馬鹿を言うものだ。百年も過去の英雄と今、迷宮の暗がりに潜む忍者が同一人物とはな」
エルフは嘲りの笑みを浮かべた。なまじ顔が綺麗なだけに、無性にむかつく。
「お前こそ馬鹿を言うもんだ。エルフのくせに、若返りの泉ってもんを知らんのか?」
「知ってはいる。だが、見た事はない」
「ここの最下層にある。俺はそれを浴びた帰りだ」
俺は十年に一度くらいの周期でここに来て、歳が三十くらいに戻るまで泉で水浴びする。
三十前じゃ舐められるし、四十以上じゃ運動神経が微妙に鈍るし見栄えも悪い。三十くらいが丁度いい。
「おっと、質問される前に答えるが、街に戻らずにこんな所に隠れてたのは、単に上から誰か降りてくる音を
 聞いて警戒したからだ。生粋の忍者じゃないからよく知らんが、忍者ってのは臆病なくらいに慎重らしい。
ま、臆病な盗賊だった俺にはお似合いかもしれんわな」
「なるほど。ではさらばだ」
最後のはちょっとした冗句のつもりだったんだが、この澄ました顔のエルフには通じなかったらしい。
騎士がするような動作で一礼し、俺の脇を通り過ぎようとする。まさか本当にこの先に一人で進む気か?
「おいおいちょっと待てって」
「……何だ?」
周りを警戒しながら蛞蝓みたいにトロトロ進む肩を掴んで引き止めると、苛立たしげな視線を向けてきた。
「お前、この先に一人で進む気か?」
「そうだがどうした?」
「やめとけ、お前じゃ絶対に死ぬ。盗賊やオークどもに嬲り殺しに遭うのがオチだ。
 あいつらは金目の物に目がない上に、男だろうが女だろうが綺麗なら構わないっつー変態揃いだからな。
 その両方を満たすお前さんが一人歩きなんざ、華奢な処女が裸のまま宝石抱えて裏通り歩くようなもんだぜ」
俺の言葉に馬鹿にされたとでも思ったのか、エルフの視線に剣呑な光が宿る。
その目は、「それ以上愚弄するならば斬る」と雄弁に語っていた。
マスタークラスなんぞとうの昔に突破した俺に、マスターにもなっていない君主が勝てるわけがないのが、
こいつにはわからないんだろうか。こっちは親切で言ってやっているのに、何て馬鹿だ。
俺の中で何かが切れそうになったが辛うじて押さえたが、代わりに今度は悪戯心が疼き出した。
「じゃあ試してみようぜ」
「何?」
訝しむエルフを無視し、俺が昔から大得意にしている「疲労困憊した盗賊」の声色を使って叫んだ。
「お、おい、頑張れ!もうすぐ、もうすぐだぞ、もうすぐ街に着く……それまで、頑張るんだ、みんな……!」
俺の声が回廊の暗黒に響き渡る。
「な、何をしている!?」
「まあ見てな。何が起きるのか、な」
俺は込み上げてくる笑いを堪えながら、暗がりに身を隠した。
「何だというのだ……?」
目の前で隠れたというのにもう俺の姿を見失ったらしいエルフが、戸惑ったように周囲を見回している。
無駄無駄。そんなんじゃ俺の姿は捉えられない。俺を見つけたければ、盗賊か忍者でも連れて来い。
「だいたい、このような浅い階層を根城にする下賎な盗人や薄汚い獣人など物の数ではないというのに……」
ぶつぶつ言いながらしばらくきょろきょろしているエルフだった。俺を見つけられないのは当然だが、
あいつらの気配に気づかないのは酷すぎる。
実力を隠した猛者かとも思ったが、本当に駄目駄目君だ。これは本当に引き止めて正解だった。
「うぁっ……!」
暗がりから短刀が突き出されて初めて、エルフはそいつらの接近に気づいたらしい。
顔に向かって突き出された錆びだらけの短刀を慌ててかわすが、完全にはかわせず頬を浅く切られる。
「く…っ……!」
よろけながらもトロトロと剣を構えようとして、手が上手く動かないらしく取り落とした。
見れば手も膝も震えている。おまけにもともと白い顔が更に青白くなっている。
これは刃に塗られていた毒にやられたな。麻痺と毒を同時に受けてやがる。
高みの見物と洒落込んでいたら、エルフはゆっくりと回廊の冷たい床に倒れ込んだ。
「おい兄弟、折角の別嬪……しかもエルフだぜ、こいつ。それなのに顔に傷つけてどうすんだよ」
「おー、悪い悪い。でもまあ、ちょっとした掠り傷だから構わんだろ」
「くっちゃべってねえでさっさと身包み引っぺがすぞ」
「おうよ、こいつぁいい装備だ。これでしばらく遊んで暮らせるぜ」
「じゃあよ、身包み剥いでから犯そうや」
下卑た笑い声を上げて出てきたのは、薄汚い服を着て薄汚い革鎧を着て錆びた短刀を
構えた全体的に汚くて臭い髭面の男達。人数は五人だった。俺が感じ取った気配と同数だから、これで全部だ。
「さてさて、こいつ男かな、女かな」
「どっちでも突っ込む穴さえありゃそれでよかんべ」
「違いねえや」
麻痺しつつある身体を必死に捩って足掻くエルフを囲んで、盗賊達が大笑いしている。
盗賊の一人がエルフの胸倉を掴んで身体を引き起こし、舌打ちした。
「何だぁ、こいつ男だぜ。見な、君主の聖衣なんざ着てやがる。絶対男だ、こいつ」
「まあまあいいじゃねえか。ボルタックに持ってきゃ、いい金になる。その金で女買えばいい」
「そうそう。それによ、こいつなかなか綺麗な顔してるぜ。我慢して使ってやろうじゃねえか」
「じゃあ、俺はおしゃぶりして貰うからよ、ケツはお前らで楽しめや」
がちゃがちゃとベルトを外す音を立てながら、盗賊の一人がエルフに近寄る。
「…………!!」
盗賊達が何をしようとしているのかにようやく気づいたらしく、エルフ特有の切れ長の目に
恐怖と嫌悪の光が浮かんだ。よく見れば、もう涙目になっている。その表情すらも盗賊達にとっては
快感なんだろう。どいつもこいつもズボンの上からわかるほど膨らませてやがる。
それに気づいたらしく、エルフの目に宿る嫌悪の色が深まっていく。同時に、涙の量も増えていく。
もうすぐ零れそうだ。苦しげな顔に涙を浮かべるその顔はどこか官能的で、その気がない俺でも
ぞくりときちまうような色気を振り撒いている。ええい、俺はどうしちまったんだ!
「へっへ。たっぷりご馳走してやるからなぁ」
ズボンを下ろし終えた盗賊が、普段自分のを見慣れている俺が見ても吐き気がするほど醜いのを出して、
欲情ですっかり勃ち上がったそれを、嫌悪と恐怖に震えるエルフの鼻先に突きつけて下卑た笑いを浮かべる。
あいつが引っ張り出した瞬間、いきなり空気が濁った気がする。
かなり臭い。臭すぎる。こいつらは絶対何ヶ月も風呂に入っていない。
この間拾った手裏剣を賭けてもいい。どうせ俺には使えないしな。
それにしても、忍者の嗅覚が特別優れていることを差し引いてもここまで臭いが届くというのは、正直有り得ないと思う。
鼻先に突きつけられているエルフは、きっと物凄い地獄を味わっているんだろうな。嫌悪と恐怖に加えて、
吐き気を堪えるような表情も浮かべている。それでも視線を逸らさずに相手を睨んでいるのは大したもんだが、
いざ口に押し込まれたら、ありゃ絶対に吐くな。
そろそろ潮時だな。俺もこの臭いには耐えられないこともないが耐えたくないし、
エルフも自分の実力というものがわかっただろう。
俺は音もなく暗がりを移動して背後から一人ずつ首をへし折っていき、死体を静かに床に倒していった。

「よお。地獄に行ったらちゃんと風呂入れよ」
「へ……?」
肩を叩くと、遂に観念して目を瞑ったエルフの顎を掴んで強引に開かせ、
一気に喉の奥まで押し込もうとしていた男が間の抜けた声を上げる。
「じゃあな」
俺は軽い別れの挨拶と共に盗賊の首を捻り折った。鈍い音と共に臭い身体から力が抜けていく。
「おい若造。大丈夫か?」
盗賊に支えられて上体を起こしていたため、支えがなくなって倒れそうになるエルフの背中に腕を回し、
今度は俺が支えてやる。
エルフは最初、呆然としていたが、すぐに状況を理解した様子で、何かを訴えかけるように俺を見てきた。
「あー、わかってるわかってる。毒と麻痺で動けないんだろ?特効薬使ってやるからちょっと待ってろ」
毒消しだの何だのは持っていないから、勿体無いが特効薬を使うとしよう。
特効薬しか入れていない道具袋に手を突っ込み、適当に一瓶取り出した。
まず蜂蜜くらいに粘り気のある薬液を指先で掬い取り、頬の切り傷に塗り込む。瞬く間に傷が塞がった。
ただしこれで全て終わったと思ってはいけない。毒の類は傷に薬を塗るだけでは消えない。
口から身体の中に入れる必要があるのだ。そうしないと、なぜだか毒は消えない。
「お前も嫌だろうが、俺だって嫌なんだ。お互いに割り切って我慢しようや」
「?」
目だけで疑問を投げかけてくるエルフに構わず、ヌメヌメした薬液を口に含む。物凄く苦いが我慢だ。
「………?………!」
エルフはしばらく何かを考えていたが、俺が薬液を口に含んだまま顔を近づけると目だけで驚愕を示した。
少しずつ近づいていくと、エルフの目には再び涙が浮かび始めた。
麻痺や石化など、とにかく動けない相手に薬を飲ませる時は男女問わず口移しにするというのは
冒険者の常識といってもいい行為だ。何しろ命がかかっている。
むさいおっさんは嫌とか若い娘がいいとかは言っていられない。
それなのに、こいつは何でか知らないが嫌がっている。どこまでも箱入り息子らしいな。
俺は構わずエルフの薄い唇を割って指を差し込んで舌の位置を直し、それから唇を合わせて舌を入れ、
粘性の高い薬液を口内に流し込んでいった。一気に流し込むと窒息の危険があるので、少しずつ
ゆっくりと流し込み、嚥下するのを確認してからまた流し込む。
「ん……」
全部飲ませ終えたので口を離すと、俺の唇とエルフの唇との間に粘っこい液体の架け橋ができた。
正直、相手が男だとわかっていてもここまで綺麗だとどうにも変な気分になってしまう。
黙っていれば美女で通用する顔で、唇の端から唾液交じりの薬液が垂らしていたり、嫌そうな涙目を
していたりという姿を見せられると、その気がない俺でも色っぽさを感じてしまう。
このまま裸に剥いてケツに突っ込むのもいいかもしれないとか、ちらりと考えてしまった自分が物凄く嫌だ。
俺よ、しっかりしろ!お前は根っからの女好きで男にはぴくりとも反応しない人間だろうが!
「おお、おま、お前は、な、何ということを……!」
「あん?」
新しい世界に目覚めそうな自分を叱咤していたら、いきなり胸倉を掴まれた。
俺よりも頭一個分低いエルフは、涙目で俺を睨んでいる。顔を赤くするほど怒るとは随分な反応だ。
「麻痺ったら口移し。これは常識だろうが。こっちは助けてやっただけじゃなくて貴重な特効薬まで使ってやったんだぜ、
 あのまま見捨てるって手もあったんだから、まず礼くらいは言うべきじゃねえか?」
「う……そ、それはそうだが……しかし……」
頭では納得しているが、感情では納得できていない。そういう顔だった。こいつ、ここまで噛み付いてくるとは、
もしかして男とキスした嫌な思い出でもあるのか?そういや綺麗な顔してるからな。だとしたら多少は悪いことをしてしまったかもしれない。
「ま、お前くらいの美形なら女くらいすぐに捕まるさ。そいつとキスして口直しでもしろや」
昔オカマを掘られたことがあったのだとしても、まあ俺にはこれくらいしか言う言葉が見つからない。
「そういう問題では……いや、もうよい。助けて貰ったことは事実だ。礼を言う」
まだ何か言いたそうな様子だったが飲み込み、不承不承といった感じでエルフが一礼する。
「おう、まあ薬代請求したりしないから安心しろや」
俺は鷹揚に頷いてやった。だいたい、よく考えてみれば特効薬くらい惜しくも何ともないのだ。

「でよ、お前さ、これでもまだ一人でうろつこうとか思ってる?」
「………………」
エルフは痛い所を突かれたような顔をして俯いた。図星だったらしい。
「やめとけ。今のでもわかっただろ。
 あの盗賊ども、雑魚に見えるが実はマスターの戦士よりも短刀捌きが上手い。
 この迷宮じゃ、一階をうろつくのだってマスターの何倍も強いメンバーで固めなきゃ無理だぜ。
 最下層まで行くなんつったらマスターの五倍はないと絶対無理だな。これ、フルメンバーでの話だぜ、言っとくが。
 一人旅なんてったらマスターの十倍二十倍は強くないとまず無理だな。盗賊にカモられるかモンスターに食われるかだ」
俺の言葉にエルフは俯いたまま答えない。肩が震えているのは涙を堪えてでもいるんだろう。
何だか気まずい雰囲気になってきた。このまま置いていけば万事解決なんだろうが、それをやると今度こそ
盗賊やオークどもにレイプされるかバブリースライム辺りに溶かされるかしそうなので、流石にできない。
空気を変えるため、話題を変えてみた。
「それにしても、何でまたこんなヤバイ迷宮に来たんだ?鍛錬か何かなら街の近くにいい場所があるだろうによ」
「何だと!?」
俺の言葉に弾かれたように顔を上げたエルフは、今まで以上に凄まじい驚愕と怒りの表情を浮かべていた。
「私は確かに、この迷宮が鍛錬の場だと聞いたぞ!」
「俺に言われても困るぜおい。にしても一体どこの誰がそんな与太を?ここはこの辺りでも最悪に近い迷宮だぜ?」
「……酒場でノームの侍に聞いた」
「ああ、あいつか……あいつは自分より顔がいい男が大嫌いでな。美形にゃいつもそうやって嫌がらせをするんだ」
「………私は騙されたということか?」
怒りに震えながら、エルフは確認するように問いかけてくる。
俺は頷いた。
「くっ、何たる不覚っ……!」
エルフは拳をわなわなと震わせながら、そこにあのノーム野郎がいるかのように壁を睨みつけた。
銀の双眸には大粒の涙が浮かんでおり、いかにも打ちひしがれたという感じだ。見ていて気の毒になってきた。
「おい。お前さ、ここには鍛錬に来たのか?」
「……そうだが何だ?」
これ以上ないほど不機嫌だという顔で俺を見てくる。俺を睨んでも仕方がないだろうに。
「だったらよ、俺がお前を鍛えてやるよ。何、達人の戦いってのは後ろで見てるだけでも肥やしになるもんだ。
 俺にくっついて最下層まで行けば、マスターの壁なんざ軽く飛び越えられるぜ?」
「……なぜだ?なぜそこまでしてくれるのだ?」
親切で言ってやったのに疑念に満ちた眼差しを向けられた。かなりむかつくな。
「理由ってほどのもんじゃないんだが、まあ、ヒノモトじゃ袖擦り合うも多少の縁って言うらしいしな、
一旦助けた以上は最後まで付き合ってやろうかと思っただけだ」
「しかしだな…………」
エルフはまだ迷っているようだった。忍者が信じられないのもわからないではないが、疑われれば腹が立つ。
決めた。次に言って断られたらこいつは見捨てよう。
「報酬は、あー、あれだ。帰ってから俺の気が済むまで酒を奢ってくれりゃいい」
「本当にそれだけでよいのか?」
驚いたように問い返してくるエルフに、俺はにやりと笑って頷いてみせた。
「では頼もう」
エルフは出会ってから初めて表情を緩め、笑顔らしきものを見せた。
意外に可愛いとか思ってしまった俺はかなりの欲求不満だ。女買おう。


           *           *           *


最下層への道中はまあ、そこそこの危険はあったが結果的には何事もなく通過できた。
うっかりグレーターデーモンに囲まれて連続マダルトを喰らい、エルフが死に掛けたこと。
油断していてザ・ハイマスター率いる忍軍に首を掻き切られそうになったこと。
フラックにやられかけたエルフを庇ったおかげで猛毒に犯されたこと。
まあ、やばかったのはこれくらいのことだけだ。一人歩きをしている時と、そう変わらない。
いろいろとあったが、俺達はこうして最下層の「泉の部屋」と書かれた玄室の扉の前に立つことができた。
万事これでよし、だ。
俺はここまでついて来たということへの賞賛の意味も込めて、後ろからおっかなびっくりついてきているエルフに笑いかけた。
「おい、着いたぜ。ここが最下層の一番奥で、例の若返りの泉があるとこだ」
「あ、ああ」
俺から視線を逸らして、蚊の鳴くような声でエルフが答える。
こいつはどうもさっきから様子がおかしい。
いつの間にかちらちらと俺の方を見るようになったかと思えば、こうやって話しかけたり、視線を向けたりすると、
その途端に俺から目を逸らしやがる。
一体全体、こいつはどうしたんだろうか。
とそこまで考えて、俺はこいつの変化の理由に思い至った。
こいつはきっと心細いのだ。俺にしてみれば笑い事の危険でも、こいつにとっては深刻な危険だ。
俺が死ねばこいつも死ぬし、俺がへまをしてもこいつは死ぬ。こいつは俺に生殺与奪の権を握られている。
自然と不安になって俺の顔色を窺うようになるのも無理はないし、目が合って気まずさのあまり目を逸らすにも無理はない。
何だかんだでここまで一緒に来たわけで、俺としては仲間意識も生まれてくる。
緊張されるのも嫌だから、少しリラックスさせてやるか。あと、ついでに驚かせてやろう。
「この奥にはお誂え向きに地上への転移地帯がある。折角だし、一風呂浴びてこうや」
「ふ、風呂?」
案の定、エルフは驚いたような顔で俺を見ている。案外、上手くいったので、結構嬉しい。
「おう。この中にはありとあらゆる泉があるんだがよ、なぜかどれも温泉なんだよな。
 いや、まあ、冷たい泉もあることにはあるから、そっちがいいならそっちに入りゃいいんだがよ。
 あ、モンスターなら心配すんなよ。ここはモンスターが入ってこられないように結界が張ってあるから」
取り敢えず、いつもの俺のコースとしては若返りの冷泉に浸かって身体を冷やしてから、
熱い回復の温泉に肩まで浸かり、それから鍛錬がてら地上まで歩いて帰って酒飲んで寝るというのがある。
流石にこのひ弱なエルフには地上まで歩いて帰るのは無理だろうから、せめて温泉くらいは楽しませてやろうという俺の心遣いだ。
「い、いや、しかし風呂というのは……お前と入るのか?」
それなのに、エルフはどうも乗り気ではないようだ。折角、俺が穴場の温泉まで連れてきてやったってのに。
「そんな恥ずかしがるなよ。男同士だろ。あ、それともあれか。息子が小さくて恥ずかしいってか?
 気にするなって。俺のグレートソードと比べりゃ、誰だってショートソードだからよ」
「だが……」
「いーからいーから」
ぶつぶつと渋るエルフを引っ張り、俺は泉の玄室の扉を蹴り開けた。いつもと同じ、適度に温められた空気が肌を撫でる。
「どうよ、ちょっとしたもんだろ」
この部屋は普通の玄室の五倍くらいの広さで、あちこちに湯気を立ち上らせる泉がある。
それぞれの泉の傍には効能を記した立て札までありやがるのは、この迷宮を作ったウッド何とかと何とかバーグとか
いう二人組の魔術師の遊び心かもしれない。
「あ、ああ……そうだな」
どうもさっきから気が乗らない素振りを見せるが、どうしたというんだろうか。
「おーい。早く来いって」
俺は「回復のための健康温泉」という立て札がある無色透明の温泉に駆け寄り、エルフの逡巡を訝りながら奴を手招きした。
来ない。
いい加減に苛立ち、よく酔っ払いがやるような感じで「俺と風呂に入れねえってのか!」とか喚き散らしそうになったが、
はたとあることに気づいて思い留まる。そういえばこのエルフ、男に何かトラウマがあるらしい。無理に誘うのも気の毒か。
「じゃあ俺は一人で入ってるから、お前も入りたくなったら入れ。で、嫌ならそこにある転移地帯使って帰れ。
 入るんなら服は何でか知らんが都合よく置いてある箱の中に入れとけ。帰るんなら、出た先で俺のこと待ってろ」
入口の辺りで困ったような顔で立ち往生しているエルフに助け舟を出してやりつつ忍者装束を脱ぎ捨て、俺は熱い風呂に飛び込んだ。

身体も洗わずに入るのや飛び込みはマナー違反?そんなこと知るか。迷宮にマナーもモナーもない。
迷宮の泉は魔法の力で清められているから中で小便してもすぐ綺麗になるし、飛び込んで迷惑がかかる相手もいない。
ここの温泉に限ってはタブーがタブーでなくなるのだ。
「ふぁぁ、極楽ってのはこれを言うのかねぇ」
身体に力が湧いてくる何とも言えない快感に、俺は陽だまりで寝転ぶ猫のような至福の表情を浮かべているかもしれない。
そのくらいにこの温泉は気持ちよかった。エルフの奴も入ればいいのに、全く惜しいことをするものだ。
「ん?」
そう思っていたら、エルフの奴が近寄ってくる気配がした。
このまま通り過ぎるのか、それとも温泉に入るのか。俺としてはできれば後者であって欲しいが、別に前者でも構わない。
奴の具足が立てる金属質な足音が俺の背後で停まった。
しばらくの静寂。迷っているようだった。
金具を外す音がした。鎧や小手を外しているんだろう。
再びの静寂。残りの鎧下を脱ぐかどうか躊躇っているらしい。
衣擦れの音がした。遂に決心したようだ。
三度目の沈黙。最後の一歩が踏み出せないのか。あと一歩でトラウマ克服だぞ、頑張れ。
心の中で適当な応援をしていると、まるで騎士叙勲を受ける騎士見習いのように緊張した感じの声が聞こえた。
「……し、失礼する」
「おう」
入る前に挨拶とは随分と律儀な奴だと思いつつ、視線を僅かに動かす。

視界の端にすらりと長い脚が湯の中に入っていく光景が映った。
それにしてもいい脚だ。本当に、男にしておくのが惜しいくらいだ。
ムダ毛一本、傷一筋ない肌理細やかな白磁の肌。細く華奢だが、全体の形を崩さない範囲でバランスよくついた筋肉。
続いて目に入るのがやはり肌理細やかな白磁の太腿で、その次は人に見せられないようなお粗末な粗チンだろう。
それをネタにからかってやろうと思って視線を動かし、その先にあるものを見た瞬間、俺は何十年かぶりに心底から驚愕した。
「お、おま、お前……」
言いたいことはわかっているのに、それが上手く口から出てこない。舌がもつれて言葉にならない。
「あ、ああ……そうだ。騙していてすまなかった」
エルフが何か言っているが、よく理解できない。
俺の視線の先にあったのは、生えているのかどうかよくわからないほど薄く、羽毛のように柔らかそうな毛と、
絶対に未使用だと断言できる、ぴっちりと閉じた綺麗な割れ目だった。
更に上へと視線をやると、贅肉が欠片も見当たらないくせに柔らかそうな腹、エルフらしく大きさは控えめだが形は極上の乳と続く。
やばい。ここ何週間か女に触っていないせいか、見ただけで欲情してきた。俺の息子が疼くような痛みと共に自己主張を始める。
視線の移動を続けていくと、恥ずかしそうに目を伏せたエルフの整った顔が目に入り、見下ろす視線と見上げる視線がかち合った。
「お前……女、だったのか」
そうだとわかれば、俺がこいつから感じた妙な色気や、特効薬を飲ませた時の反応も理解できる。
そうかそうか。そうだったのか。俺、ホモじゃなかったんだな。よかったよかった。
「……そうだ。わけあってあのような格好をしていたが……私は歴とした女だ」
覚悟を決めたように語ったエルフは、俺と違って行儀のいいことに静かに湯の中へと腰を下ろし、隣に並んだ。
おい、ちょっと待て。そんなに寄ってくるな。耐え切れなくなって襲っちまうかもしれないだろうが。
今すぐ押し倒したくなる意識を必死で逸らすため、何とか会話を続けることにした。
「だ、だがよ、女の匂いなんてしなかったぜ?」
自慢じゃないが、俺の鼻は特別製だ。毒の臭いから女の香りまで、ほとんど何でも嗅ぎ分ける。
「体臭を消す特殊な香水を使った」
「何でまた?女の一人旅の用心か?」
「……それもあるが、女の体臭に惹かれて寄ってくる怪物もいると聞いて、その対策にな」
その話は聞いたことがある。何でも、一部の蟲や植物、それからオークだとかそんな感じの連中は、産卵するため、
もしくは純粋に生殖するために哺乳類のメスのフェロモンだかに惹かれて集まってくるらしい。
「しかし、見事に騙されちまったな。まあ、あんな格好されてちゃ仕方ないがよ」
俺は笑った。俺が一目でこいつが男だと誤解したのは、匂いでも態度でもなく、純粋に職業だった。
「今時、女の君主なんていないぜ。随分前に、君主は男限定、女の場合はバルキリーって決まったからな。
 それなのに何で君主なんかやってるんだ?そんなに君主の聖衣が着たかったのか?」
確かに君主専用の装備品は魅力的だが、性別の規定を撥ね退けてまでなるほどの価値はない。
「私は……先祖から君主という職業を継承したのだ。だから、私は生まれながらの君主なのだ」
俗に言う転生とかいう奴か。話には聞いたことがあるが、実際にそれをやったという奴は初めて見る。
「……ってことはお前、どっかの王族か?」
「な、なぜわかった?」
俺の問いにエルフは酷く驚いたような表情を浮かべている。こいつ天然か?
「子孫に魂が受け継がれるほどの君主って言ったら、余程の大物だろ。だから王族かと思ったんだ」
「……私は北方の王国の第三王女のサーリスだ」
なるほど継承争いを防ぐために、修行の旅の名目で追放でもされたのか。
「そりゃまた豪勢な話だな。王女様なんて初めて見る」
言いつつ、ついついサーリスの身体を舐るように眺めてしまった。見れば見るほど綺麗な身体をしてやがる。
北国のエルフというだけあって、火照って朱が差した肌は他のエルフよりも白さが勝っているような気がする。
ああ、やばいやばい。息子がはちきれそうだ。このままじゃこいつを犯しちまう。
そうだ。この世間知らずのお姫様にそれとなく状況のやばさを教えて、自発的に距離を取るように仕向けよう。
俺は敢えて無遠慮な視線を向けつつ、茶化すような口調で言った。
「……ってか、よ。そんな王女様がいきずりの男と風呂入っていいのかよ」
「……あまり、見るな。恥ずかしい……」
しかしサーリスは恥ずかしそうに頬を染めながら胸と股間を手で隠しただけで、俺から離れようとはしない。
何かがおかしいぞ。これはもしかして俺に惚れたとかそういうオチ、つまり襲ってもOKということなのか?
だがそれでもいきなり押し倒すようなことができるはずもない。
そんなことをして、もしこいつがムードを重視する女なら、たとえOKモードだったとしても一発で嫌われる。
もしそこまでの好意を持っていなかったとしたら絶対に嫌われる。
もしかしたら俺に好意を向けてくれているかもしれない美人に嫌われるのは嫌だから、
ここは確認のためにもう一歩踏み込んだ警告をしてみよう。
「いや、だからな、俺も男だし……わかるだろ?」
流石に「あんまり近づくと犯しちまうかもよ?」とは言えない。それじゃただの脅迫だ。
「……私も……子供ではない。女が、男に肌を見せるということの、意味は……知っている」
サーリスは頬を染め、消え入りそうな声で答えるとすすっと寄ってきて俺にくっつき、肩に頭を預けてきた。
「う……」
しばらく縁のなかった若い女の感触と体温に、俺と俺の息子はバーサークしそうになった。あ、もう限界。
「わっ……!」
気がつくとサーリスの華奢な身体に腕を回し、抱き寄せていた。上がった驚きの声を意識の隅で聞きながら、
吸い付くような肌の肌理と青い果実みたいな硬さのある胸の感触を楽しむ。
「ん、……ぁ、ま、待て!こ、ここでは嫌だ!」
桜色の乳首を味わおうと顔を近づけたら、胸の前でクロスされた華奢な腕に邪魔された。
回避が遅れて鼻先をぶつけてしまう。衝撃でバーサークが解けた。
相変わらず欲情していて正直、ここでお預けはきついものがあるが、それでも話だけは聞いてやることにした。
「な、何でだよ?」
「……このような所では、嫌だ。恥ずかしいし……
 それに、は、初めては、その、あ、愛する男とベッドの上で……済ませる、ものだと、教えられた」
両手を胸の前で組みながら潤んだ目で見上げられた。駄目だ犯罪的に可愛すぎる。
堪らなくなり、俺は華奢なサーリスの身体を抱え上げて転移地帯に走った。
「わ、わかった!じゃあさっさとベッド行こうベッド!」
「えっ、あっ、お、おい、待てっ、服を、服を着てから……!」
「裸で歩いたって平気だ!気にするな、忍者には素っ裸で戦う流派もある!」
「い、嫌だ!私は栄光ある君主だ!それにお前以外に見られるのは嫌だ!」
ほとんど涙目で可愛いことを叫ぶサーリス。ここまで言われて無碍にはできない。
一旦サーリスを解放し、二人で服を身につけてから改めて転移地帯に走った。
二人で走るよりも俺がサーリスを抱えて走った方が倍近く速いので、お姫様抱っこでの全力ダッシュだ。



全力で宿に突撃してロイヤルスイートの鍵を受け取り、サーリスをベッドの上に下ろし、
いざ突入となった瞬間、ある疑問が脳裡をよぎり、サーリスの服に手をかけたまま固まる。
「……ところでよ、何で俺のこと好きになったんだ?恩返しのつもりとか言ったら張り倒すぞ」
これでも恩を売って女をベッドに引っ張り込むほど腐っちゃいない。
切れ長の双眸で俺を見上げ、柔らかな表情を浮かべるサーリスは、はっきりと言った。
「お前は、私を助けてくれた」
「……恩返しか。やっぱ帰ってくれ」
一気に心が冷めた。俺はサーリスから手を離し、部屋の扉を指し示した。
女に餓えちゃいるが、腐った手を使ってまで抱きたくはない。それくらいなら、娼婦でも買った方がマシだ。
「ま、待て!最後まで聞け!」
サーリスは離れようとする俺の手を掴み、泣きそうな顔で訴えかけてきた。
流石に泣きつかれて無視もできず、俺は続けるように促した。
「悪魔どもに囲まれた時……お前も酷い凍傷を負っているのに、マディを使えない私を先に回復させてくれた」
それは単純にお前の方が体力がないからだ。俺が優しいからじゃない。
「忍者どもに襲われた時……お前は私を庇って首を落とされそうになった」
俺なら避けられると思ったからそうしたんだ。戦術的判断だ。
「フラックに襲われた時……お前は私の代わりに殴られて、毒を受けた」
お前だと絶対に死ぬと思ったから、まだ助かる確率の高い俺が受けたんだ。合理的思考って奴だ。
「わかっている。お前が純粋に冒険者としての合理主義で行動したということは……」
全てに否定の言葉を吐こうとしたら、機先を制されてしまった。何も言えず、俺は続きを待った。
「だが、それでも……それでも私はお前の中に優しさを見た。お前は私の怪我を癒す時、
 本当に私のことを心配してくれていた。嫌な顔一つせず私の手当てをしてくれた。
 庇ってくれた時も、私が謝ったら、気にするな、仲間だろうが、と笑ってくれた。
 ただ行きがかり上、同道することになっただけの相手に対してそこまでしてくれるお前の優しさに、
 そしてその優しさを十二分に発揮できるお前の強さに……私が知る誰よりも強くありながらその強さに
 飲み込まれることなく善なる心を保っていられる、お前の心の強さに私は惹かれたのだ」
違う。俺はただその場その場で対応を変える、日和見主義に過ぎない。
お前が知らないだけで、地獄の悪魔にも軽蔑されるような悪行も重ねている。
そんなことを思っている俺に対してサーリスは寂しそうに笑い、懇願するように言った。
「だから……だから、帰れなどと言わないでくれ。私をお前のものにしてくれ……私はお前と添い遂げたい」
完璧に撃墜された。
もうあまりにも可愛すぎて、こいつの魅力に抗えない。俺のものだろうが俺の女房だろうが、何にでもしてやる。
俺は装束を手早く脱ぎ捨てながら、不安そうに俺のことを見上げるサーリスに笑いかけた。
「じゃあ貰うわ。お前もさっさと脱げよ」
「あ、ああ!わかった。感謝する」
サーリスは心の底から嬉しそうな表情を浮かべた。おいおい、感謝するのはこっちだってのに。
「その……少し背を向けていてくれると助かる」
あとは褌だけ、という状態になった俺に、サーリスが恥ずかしそうな顔を向けてきた。
まあ、処女だし仕方がないな。

「……もういいぞ。き、来てくれ」
緊張を孕んだお許しの言葉に、俺は欲望をぎらつかせながら振り返った。
はちきれそうなくらいに硬く膨らんだ息子からは我慢汁が溢れ出している。今すぐにでもぶち込みたいところだ。
「……やっぱエルフってのは綺麗なもんだな」
そんな俺の邪悪な欲望は、恥ずかしげに胸と股間を隠して仰向けになったサーリスの艶姿を見て霧散した。
「そ、そういうことを真顔で言うな……恥ずかしいだろう」
照れたように頬を染めるサーリスを見て抱く思いはただ一つ。愛しさだった。今日会ったばかりの女に
こんな思いを抱くなんてのは我ながらお笑いだと思うが、それでも俺がこいつに愛しさを感じているのは事実だった。
「これからもっと恥ずかしいことするんだぜ?」
「む……だから、そういうことを言うなと……」
恥ずかしがる様子を楽しみながらゆっくりと覆い被さり、温かく滑らかな肌を全身で感じる。
背中に華奢な腕が回されてくる。逃がすまいと言わんばかりに力が込められているのを感じ、また笑う。
「まあまあ、いいから目ぇ瞑れよ」
舐め上げるようにして頬にキスを繰り返しつつ、目を瞑らせる。じっと見つめ合ったままのキスも嫌いじゃないが、
やっぱり目を瞑っている女の顔を眺める方が何倍もいい。
「わかった……」
サーリスは俺の意図を察し、目を閉じて俺に向かって僅かに顔を寄せてきた。
俺は薄い唇を啄ばむように二度、三度と軽いキスをし、安心させてから舌先でサーリスの唇を割り開いた。
「んぅ……!」
サーリスは驚いて一瞬だけ目を見開いて俺の舌を閉め出そうとしてきたが、すぐに落ち着きを取り戻して目を閉じ、
全てを委ねるように力を抜いて唇を開いた。可愛い反応に気を良くしつつ、無防備な口内を堪能させて貰った。
綺麗に並んだ歯列と歯茎を舐め上げ、怯えたように縮こまる舌を絡め取り、湧いてくる甘い唾液を啜り上げた。
しばらく口の中で舌を暴れさせていると、次第にサーリスも反撃してくるようになってきた。
俺の舌の動きに合わせて舌を動かし、俺の舌を甘噛みし、しまいには俺の口に舌を送り込んでくるようになった。
処女のくせに随分と積極的な奴だとは思うが、そういうところも意外と魅力的ではある。
「はぁ……はぁ……」
夢中でお互いの口を貪り合い、十分近く経過してからようやく口を離す頃には、お互い息が荒くなっていた。
特効薬の時と同じように唾液の架け橋ができるが、その官能はあの時とは雲泥の差がある。
もちろん、今の方が息子に訴えかけてくるものは強い。
荒い息を吐き、目を潤ませたサーリスの無意識の誘惑に耐え切れず、俺は火照った肌に顔を擦り付け、
首筋、肩、腋、胸、腹といった具合に全身を執拗に舐め回していく。
俺の唇と舌が触れるたびに身体をひくつかせて嬌声を上げるサーリスだったが、腋を舐めた時だけは反応が違った。
喘ぎ声を上げながらも猛烈に恥ずかしがり、俺のことを必死で押しのけようとしてきた。やっぱり腋は恥ずかしいか。
処女にそこまでやったことを内心で反省しつつ、他の部分で埋め合わせようと必死で攻め立てていく。
丹念に舐め回してわかったのだが、サーリスは乳首と臍が弱いらしい。
ぴんと張り詰めた桜色の乳首を口に含んだ瞬間、サーリスは一際高い嬌声を上げ、
モリトを喰らって感電した時のように海老反った。臍に舌先を入れてみた時も同様だった。
どうやらサーリスの上半身では、乳首と臍が性感帯らしい。丹念にそこだけを責めてやると、
咽び泣くような声を上げてびくびくと震え続け、俺の唾で胸と腹がぐしょ濡れになる頃にはすっかり脱力しきっていた。
やばい、やりすぎたかもしれない。
「あっ、はぁ……ん……はぁ……はぁ……」
「おい、大丈夫か?」
荒い息を吐いてぐったりしているサーリスに、このまま続けてもいいかを尋ねる。
女によっては一回イったらもう満足で、それ以上やると興醒めするような奴もいる。確認するに越したことはない。
「だい、じょうぶぅ……もっと……つづけて、くれぇ……」
サーリスはとろんとした目で俺を見つめ、全てを受け容れる慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「ん、わかった」
足首を掴んで大開脚させる。抵抗するように力が込められるのを太腿を舐めてねっとりと宥め、
何もかもが丸見えになるまでに開脚させた。
すっかり充血した割れ目は、女の匂いを凝縮して液状化したような蜜液で洪水状態だった。
「あっ……は、恥ずかしいな、この、姿勢はぁ……」
全てを俺に見られたサーリスは恥ずかしそうに身体を捩り、両手で顔を覆う。
脚を閉じようとしないのを了承と受け取って、俺はお預けを解かれた犬のように猛然と股間に顔を突っ込んだ。
サーリスの悲鳴のような喘ぎ声に興奮しつつ、湧き出てくる芳醇な液体を啜り上げ、処女膜に配慮して舌先を
僅かに差し込んで舐め回し、俺の息子のように自己主張を始めている小さなクリトリスを指先で優しく撫でる。
俺が盗賊として、そして忍者として培った指先技の成果か、それともサーリスが感じやすいのか、舐めても舐めても
愛液は尽きるどころかますます大量に湧き出て、遂にはシーツに大きな染みを作り始めた。
そろそろいいだろう。
さっきから痛いくらいに自己主張している息子を握り、先端を未使用の穴に押し当てて狙いを定めた。
「じゃ、いよいよ開通式と行くぜ」
「ん……し、しかし、大きいものだな、その、男の、性器というのは……お前のは、特別なのか……?あの盗賊よりも……」
押し当てられた俺の息子を見て、サーリスの顔に微妙な怯えと不安が走った。
覆い被さる俺を見つめて不安そうにしている。
その表情を見て、俺はこいつのことを男だと勘違いしていたとはいえ、薄汚い盗賊をけしかけた罪の深さを思い知った。
速攻で謝ろうとしたが、サーリスの方が先に言葉を続けた。
「……後で、舐めてやっても……よいぞ?よくはわからぬが、女と同じく男も……性器を舐められると心地よいのだろう?」
「い、いいのか、おい!?」
夢のような提案に、しかし俺の声は無様に裏返った。どうもこのお姫様は普通とずれていやがる。
「い、愛しい男の身体だ。何故にか嫌悪することがあろう?」
世間知らずのお姫様は木漏れ日のような笑みを浮かべている。
「じゃ、じゃあ、後で頼むな」
「うむ、いろいろと教えてくれ……しかし、このようなものが、入るのか……?裂けたりしないのか……?」
笑ったかと思えばまた不安げな顔になる。見ていて面白いし、何と言っても可愛い。
「大丈夫だ。始めは痛いだろうがよ、すぐによくなる。だから、最初は我慢してくれよ?」
「……わかった。お前に任せる」
覚悟を決めたように目を瞑ったサーリスは、俺の背中に腕を回して抱きついてきた。
「じゃあ行くぞ」
安心させるためにしっかりと抱き締め返してやりつつ、俺はゆっくりとサーリスの股間に腰を沈めていった。
熱く濡れた肉に先端が包まれ、痛いくらいの締め付けに襲われたと思った瞬間には何かを引き裂くような手応えを感じた。
処女膜を破ったのだ。この俺が、サーリスの処女膜をぶち抜いたんだ。
涙を流し、歯を食い縛り、俺の背中に爪を立てて痛みに耐えるサーリスが、堪らなく愛しく感じられた。
抱き締める手に力を込めて愛情を示してやりながら、ゆっくりと奥へ奥へと進んでいく。
正直に言って、かなりやばい。何週間も女に触っていなかったという事実を差し引いても、こいつの中は気持ちよすぎる。
気を抜くと三擦り半どころか半擦りで出しちまいそうだ。処女相手にそれは避けたい。
俺は腹とケツに力を込めて、必死に出すのを堪えた。ゆっくりと進みながら堪えた。
一番奥まで入る頃になると快楽もピークを過ぎ、適度に気持ちがいいというくらいになっていた。
このくらいなら、余程のことをしない限りは暴発はしないだろう。
「サーリス、まだ痛いか?」
身体を撫で回し、キスを繰り返しながら訊く。
「む……そうだな……まだ少し、痛む……が、お前が中にいると思うと、身体が、熱くなってくる……」
まだかなり痛むんだろうに、サーリスは微笑みさえ浮かべて俺にキスを返してくる。
余程のことがあった。心と息子の両方が打ち抜かれた。ますます息子の奴がいきり立ちやがる。
「あぅっ……中で、大きく……脈、打っている…………?」
「し、仕方ねえだろ、よ、よすぎるんだよ!悪い、まだ入れただけなのに出ちまいそうだ……!」
俺は恥も外聞もなく泣きそうな声で答えた。気持ちいいのが辛いなんて経験は初めてだ。
「ん……そうか、私の、身体は……よいか。うむ、わかった……少し、待っていてくれ……」
抱き締める手に力を込めながらの俺に女だけが浮かべられる笑みを浮かべて答えて、
サーリスは俺との結合部分に華奢な手を添え、さするようにしながら呪文を唱え始めた。
それは僧侶系第六レベルのマディを覚えるまでの繋ぎにすぎない第五レベルのディアルマだった。
暖かい光が掌と下腹の間で発生し、少しずつサーリスの顔から苦痛の色が消えていく。
代わって生まれたのが紛れもない快楽と、その快楽に戸惑いながらも悦ぶ女の顔だった。
「……いいぞ。ん……好きなように楽しんでくれ……」
全てを委ねるように手足を俺に絡めてしがみついてきたこいつは、処女のくせに物分りがよすぎる。
「わ、わかった、じゃ、痛かったら我慢せずにちゃんと言えよ。いいな、絶対に我慢するなよ!」
念押ししてから、俺はゆっくりと腰を動かし始めた。
蜂蜜の入った壷を棒で掻き混ぜるような音と共に、苦痛では有り得ない甘い声が響き始める。
ただ前に突いて後ろに引くだけでなく、動きに緩急をつけたり、左右に傾けてみたり、
ぐりぐりと押し付け、掻き混ぜたり、腰の動きと連動させて乳首を吸ってやったりといろいろな動きを試すたびに、
サーリスは満足げな微笑を浮かべて嬌声を上げ、俺の動きに合わせて身体を動かしてくる。
俺達の相性は完璧だった。多少の性格の不一致くらいは軽く吹き飛ばせるくらいに、身体の相性は最高だった。
さっきから限界限界と言い続けてきた俺だったが、遂に本当の限界が来た。
サーリスの反応に気をよくして少し激しく突き込んでいたら、唐突にそれは来た。
数週間ぶりに味わった女の味は、俺を普段よりも早漏にしていた。華奢なサーリスを抱き潰さない範囲での全力で
抱き締め、最奥に届けとばかりに腰を押し付けて、俺は溜まりに溜まった精を放った。
童貞でもあるまいに目の前が真っ白になるほどの快感を味わいながら、俺は処女の無垢な胎内に濃密な精を放った。
最初の一滴を吐き出した瞬間にこれまで以上に高らかな嬌声を上げ、全てを搾り取られそうなほど
強烈な締め付けをしてくるサーリスのイキ顔を眺めながら、俺は随分と永遠とも思えるほど長い間、精を吐き出し続けた。



「……ふぅ、とても、よかったぞ」
流石に身体から力が抜けて突っ伏す俺の下で、満足げな吐息を吐き出すサーリス。
僅かに頬を染めながらも、木漏れ日のような笑みを浮かべて俺にキスしてくる。
「俺も……凄くよかった……」
「ふふふ……それに、まだまだ元気だな……」
まだサーリスの中で硬さを保っている息子を予告なしに締め上げられて、思わず声が出てしまった。
「んぉっ!?」
サーリスはほんの少し前まで処女だったくせに年増女みたいに艶然とした笑みを浮かべて俺の顔を見つつ、
緩急をつけて息子を締め付けてくる。出したばかりで敏感になっているせいで、背筋にぞくりとくるほどの
快感が腰から駆け上ってきた。こいつ、俺の弱点をもう覚えやがったのか。
「まだまだ、できるだろう?」
俺の腰に脚を絡めたサーリスは、上気した頬に嬉しそうな笑みを浮かべて身を擦り寄らせてきた。
ここまで求められて逃げたら男がすたるし、何より俺の息子はやる気満々の臨戦態勢。
「いいぜ、失神するまで可愛がってやるよ」
俺は宣言通りにしてやるため、忍者として鍛え抜いた筋力を総動員してサーリスを激しく突いた。


           *           *           *


あれから俺達は激しく抱き合い続けた。
俺を誘惑しにサッキュバスが、サーリスを誘惑しにインキュバスがきたとしたら、
赤面し、そのまま誘惑するのを諦めて帰っちまうだろうというくらいに情熱的にお互いの身体を貪り合った。
サーリスが俺の上で引き締まった尻を振りたくったかと思えば俺が激しく突き上げ、
膝の上に座らせて奥の奥までを貫き通し、そのまま抱え上げて更に激しく中を捏ね繰り回し、
ほとんど意識が朦朧としてきてベッドに突っ伏すサーリスの尻を抱えて激しく腰を打ちつけ、
俺達は獣のように激しく、貪欲に交わった。
「うっ、そ、そこ、そこ……そうそう、うぐっ、甘噛みは高等技術だ、お前にゃ早い……」
今は何発何十発と吐き出して力を失った息子を、サーリスが言葉通りにしゃぶってくれているところだ。
精液と愛液に塗れ、萎えてもまだ結構な大きさがある俺のを頬張って愛撫してくれているサーリスの姿は、
俺でも感動するくらいに感動的な光景だ。
決して綺麗ではないし美味くもない息子を頬張っているサーリスだったが、その表情に苦痛や嫌悪は一切ない。
俺の身体を愛撫しているという事実を心の底から喜んでいるような、優しさと愛に満ちた満足げな顔だった。
「んっ……気持ちよかった、ようだな……」
すっかり元気になった息子を舌先で舐めたり唇で啄ばんだりしながら、期待するような目で俺を見上げてくる。
「おう……じゃ、続きするか?」
「うむ。よろしく頼む……ところで、後ろから突いてきた時、指を、その、私の肛門に差し込んできたが……」
嬉しそうに俺にしがみつきながら、どこか恥ずかしそうに胸板に顔を埋めて訊いてくる。
「こ、肛門も、性戯に使うのか……?」
ちらりと覗くサーリスの顔に浮かんでいたのは、恥ずかしいが興味津々、といった表情だ。
「ああ、そうだぜ。やってみるか?」
俺は痛々しくないアブノーマルなプレイなら大好きだから、今すぐにでもこいつの尻をほぐしてやりたいくらいだった。
「いや、今日はやめておこう……今日は、疲れて動けなくなるまで、私の性器に精を注いでくれ」
抱きついて体重をかけて俺を押し倒し、サーリスは笑う。
こいつは聞いていて赤面物のことを事も無げに言ってくるが、天然なのか確信犯なのか悩む。
「それで明日は……一日中、私の肛門を弄ってくれ……もちろん、疲れたら舐めて元気にしてやるぞ」
微笑んで俺の上に跨り、手馴れた手つきで中に息子を導いていくサーリスを見て、俺はある言葉を思い出した。
曰く、「エルフというものは、独身者は聖職者、既婚者は色情狂である」
相手がいないエルフは修道僧のような生き方をしているが、一旦相手を見つけるとそれが反転するという意味だ。
「よし、た〜っぷり可愛がってやるから覚悟しろよ」
だが、既にサーリスに参りきっている俺には好都合なだけだった。幾らでも身体を貪り合えるのだから。