<地下11階 第三の質問>
「わあ、大きな沼!」
藪の中の小道を降りていった先に広がる水地に、少女は目を丸くした。
確かに、少年も見たことがないくらいに広い。
水がもう少し澄んでいたら、湖と言われても頷いてしまうかもしれなかった。
「何かいるかな?」
ワードナは淵を覗き込んだ。子供の好奇心は生き物に向けられる。
水底にゆらめく沈水植物の中に動く影を見つけ、少年は目を輝かせた。
「何? 何かいるの?」
「魚かなあ、ナマズだったらいいなあ」
この間釣り上げた沼魚をフライにしたときの美味しさを思い出し、少年は呟いた。
「釣るの?」
少女はこわごわと水面を見る。
魚は──さばいて料理するのなら得意だ。ナマズ料理だって自信がある。
しかし、少女が圧倒的な自信を持っているのは、魚籠に入った食材に対してであって、
こんな水の中を泳ぎ回る元気な生物に対してではない。
「うーん、エサはあるかな?」
少年はきょろきょろと辺りを見回した。
ほどなく沼に注ぎ込む溝を見つけたワードナは、大きなザリガニを捕らえることに成功した。
「大きなはさみ……」
少女は後ずさりした。
食用のエビならば、たとえ1フィートもあるものだって恐くも何ともない。たとえ生きていても。
しかし、食べられない生物──ザリガニは毒ではないが水っぽくて泥臭い──は女の子の領分ではない。
「それ、どうするの?」
少年の手の中で、ロブスターの半分もないが倍も攻撃的な赤いはさみが振り上げられ、少女はもう一歩後退した。
「うーん。こいつの尻尾をちょんぎって、腹の肉をエサにするんだ。ナマズの大好物」
少女は卒倒しかけた。
昨日の晩、全く同じ工程を経て手長エビの下ごしらえをしたことはついぞ思い出さない。
「いや、怖い。やめようよ」
泣き出しそうな声の少女に、ワードナはびっくりした。
「う、うん、わかったよ」
少女の反応に、ワードナは頷いて同意する以外に方法はなかった。
「えーっと……」
なんとなく、自分が失点を重ねたような気がして、少年は再度まわりを見渡した。
ちょうどそのとき、足元をのそりと横切ろうとした生き物をすばやく捕らえる。
こいつは今まで見たこともないくらいの大物だ。
きっと少女も目を丸くするに違いない。
少年は意気揚々とそいつを持ち上げた。
「──ほら、ヒキガエル!」
たしかに少女は目を丸くした。泣き声交じりの悲鳴を上げる直前まで。
「……いやぁっ! ぬるぬる、いやぁっ!!」
叫ぶなり、逃げ出した少女を呆然と見送ったワードナ少年は、
「……ぬるぬる、嫌いなんだ……」
とつぶやいたが、少女を追ってあわてて駆け出した。
あんまり慌てたので、少年はヒキガエルを持ったままで。
──ゲコ。
罪のない生き物は少年の手の中で迷惑そうに一声鳴いたが、意外とおとなしく連れ去られた。
少女はどっちに逃げたのか──ワードナはきょろきょろとあたりを見渡した。
デートの相手は、かなりの健脚だった。逃げ足は、もっと速い。
……デート!
(そうだ、今日はただの遊びじゃなくて、デートだったんだ)
少年は臍をかんだ。
逢引なるものがどんな手順を踏むものなのか、よくはわからないが、
つまりそれは、ザリガニやヒキガエルよりも、もっといいものを見たり聞いたりするように思えた。
そんなものが、どこにあるのか?
少年は、少女を追うことと、少女が喜びそうなものを見つけることの両方を考えなければならなかったが、
どちらを優先するかは悩まなかった。
少女を探しながら、「何か素敵なもの」も探せばよい。
──楽観は、わんぱく少年の特権だ。
そして幸運の女神は、そういう小さな蛮勇を愛でることがけっこう多い。
ほどなくワードナは、少女の足跡と、「何か素敵なもの」の両方を見つけた。
木の根や蔦が生い茂り、ちょうどトンネルの入り口のようになっている場所の前に落ちていた一輪の花は、
少女が髪に刺していたものの一本に間違いなかったし、
そこからちょっと行ったところからちらりと見えた「あれ」は、少女も十分気に入るものにちがいなかった。
少年は、後者の方に先に近づきたい欲望を抑え、大人の腕の太さの木の根が複雑に絡み合う空間を覗き込んだ。
「おーい!」
森の中に少年の声が木霊する。思ったよりも木の根の迷宮は深いようだ。
向こうで確かに音がする。
怒った少女はどんどん奥に行ってしまったようだった。
少年は四つん這いになって追いかけようとした。
──ゲコ。
手の中のヒキガエルが、お役御免を主張した。
少年は少し考え──結局、持っていた袋に包んだヒキガエルを懐に入れた。
少女に嫌がらせをする気は毛頭なかったが、なんとなく、その選択が必要に思えたからだ。
虜囚の身分から解放されなかった哀れな生き物は、しかし、それほど暴れることなく粗末な麻袋に詰め込まれた。
木の根と蔓の迷宮は、下にふかふかの枯葉が敷き詰められていたので、少女でも楽に進むことができた。
よくわからないが、ここを進めば、「あれ」を見られる特等席に行けるように思えた。
本当は、少年と二人で眺めることができたら、ずっと良かったのだけれども。
わんぱくな男の子は、デートの何たるかもわかっていない。
でもその男の子といっしょにいない、というのは、なんてつまらないんだろう。
木の根を潜り抜ける時も離さないでいる籐のバスケットを見て、少女はため息をついた。
──たぶん、一人で見ても、つまらないだろう。
──一人でお弁当を食べたら、もっとつまらないだろう。
──少年は追いかけてきてくれるだろうか。
色々と考え始めた少女の進行速度がのろのろしたものになった。
曲がりくねった通路の中で、ひときわ太い木の根の下を潜り抜けようとした少女が凍りついたのは、次の瞬間だった。
ワードナは、軽快な動きで木の根の通路を進んでいた。
こういうものは、男の子の得意分野だ。
分厚い枯葉のところどころに何か──ちょっと不器用で、おそらくは可愛らしい動きをする生物が通った跡がある。
少女をどうやって謝ろうか、それは難題だ。
そもそも、何が問題だったのかが今一わからない。
考え事に耽りながら、ひょいと木の根の下を潜り抜けた少年の目の前が、突然真っ暗になった。
「むぐう──?」
岩か木にぶつかったのかと思ったが、それはもっと柔らかいものだった。
──布に包まれた、暖かい何か。少年が触れたことのない感触。
思いがけない経験に、たっぷり二秒硬直した少年は、ゆっくりと後ろに下がって正体不明のものを見極めようとした。
1フィート下がる。──紺色の、何か。
2フィート下がる。──下のほうに靴の裏が二つ付いている。
3フィート下がる。──四つん這いでこちらに突き出されている、修道女見習いの服にくるまれた、少女のお尻。
ワードナは鼻血を噴き出した。
少年がぶつかった少女のお尻は、まだ硬い幼さを残していたが、
未来にたっぷりと実るはずのものの一部が宿り始めていたので、鼻血の原因は、ぶつかった衝撃ではない。
「──ご、ごご、ごめん!」
這いつくばった体勢からもう一歩分後ろに下がろうとして、ごつん、と後頭部を木の根にぶつける。
少女が振り向いた。──蒼白な顔は、引きつっている。
「──?」
小さな唇がぱくぱくと何事かを訴えようとしているが、声にならない。
少年は慌てて這い寄った。
木の根の下の通路はそこだけ幅が狭く、しかも曲がりばなだったので、
二人が並ぶことはできなかったが、隙間からのぞく光景で状況はわかった。
少女の目の前、石の上に、巨大なムカデが鎮座している。
1フィートもある黒い毒虫は、少女はおろか、少年にとっても強敵だった。
手など噛まれたら、腫れ上がるくらいでは済むまい。
木漏れ日で温まった石の上が良いのか、大ムカデはそこから動こうとはしなかったが、
時々頭を持ち上げて空気の動きを探っている。
無数の赤い足がうごめく様を間近に見れば、少女が凍りついたわけもわかる。
下手な刺激を与えれば、怒った毒虫は容赦なく飛び掛ってくるだろうし、
少女がそれを避けることに期待するのは、絶望的だ。
「ゆっくりと、下がれる?」
少女はふるふると首を振った。四肢は、恐怖で固まりきっている。
パニックを起こさないでいるだけでも、えらいと思わなければなるまい。
退却が無理そうなことはわかったが、追い払うにしろ、逃げるにしろ、少年が前にでなければどうにもならない。
なにか棒のようなものがあれば──いや、この狭い隙間越しでは難しい。
使える空間は、木の根越しの半フィートもない隙間や、両手足を付いている少女の下。
少女の、意外なボリュームがあるお尻が少年を邪魔する。
少年はこちらも四つん這いのまま、はたと考え込んだ。
しかし、多くの物語がそうであるように、苦境の姫君を救わんとする勇者には、役に立つ仲間がいるものだ。
──少年の懐の麻袋からのそりと這い出たヒキガエルは、そのまま悠々と少女の横の隙間を通り抜け、
接近に触覚を震わせて威嚇するムカデを長い舌を伸ばして捕らえ、あっさりと飲み込んでしまった。
「……」
「……」
「──ゲコ」
ヒキガエル自身の体長より長いくらいの蟲は、美味ではないが量的には結構な獲物ではあった。
少年の懐に押し込められ、望まない旅に付き合わされた報酬としては、まずまずと言える。
ヒキガエルは、自分を振り回してくれた暴君と、その仕える女王をゼラチン質の目玉でじろりと睨むと
これ以上何かをさせられる前に、藪の中にのそのそと消えていった。
あっけない幕切れに、少女と少年は顔を見合わせた。
「あの、その、──ごめん」
何に対しての謝罪かは、ちょっと言えなかった。
鼻先に、少女の感触が残っている。──少年の身体にはない不思議な柔らかさ。
「──あ、ありがとう」
助けてもらった少女のお礼の対象は、はっきりしている。
しかし、少年の言葉に匹敵するほどにぎこちないのは、お尻への衝突を今更ながら思い起こしたからだ。
自分の真後ろ──お尻の後ろに少年がいることに、少女は真っ赤になる。
少女の羞恥を森の空気が伝え、少年もすぐに真っ赤になった。
風邪、熱病、リンゴ病──古来、ほっぺたが赤くなる病気は、すべて伝染病と決まっている。
「……ヒ、ヒキガエルも、役に立ったね」
「……そ、そうね、カエルさんもいいひとなのね」
縦列のまま、おたがいあらぬ方角に視線を向けながら、とりとめのない会話が続いたが
事態は一向にすすまない。──当たり前だ。
「……ええと、その──進む? 引き返す?」
少年は意を決して、状況打破に動いてみた。
「……も、もうちょっと行けば、「あれ」が近くで見られるところに出ると思うの」
少女はもじもじしながら答えた。
「あ、君も「あれ」を見たの?」
「うん、森の向こうに、ちらっと。──とても綺麗」
「僕もちらっと見た。逃げていないといいなあ」
「き、きっと、二人で行けば見られるような気がする……」
少年がちょっと息を呑む気配が伝わってきた。
「──いっしょに、行く? ここ、通り抜けて」
「うん!」
仲直りは成立した。次のデートスポットの選択も。
しかしながら、少女はもう一度赤面しなければならなかった。
木の根の迷宮は、そこからはずっと幅が狭く、少年が前に出るわけに行かなかった。
ワードナ少年は、少女のお尻のすぐ後ろを付いていく形になる。
「あ、ああ、あんまり、前、見ないでね」
無茶な要求をしかし、ワードナはできるだけ守った。
おかげで少年は、十数回ほど木に頭をぶつけるはめになった。
「──わあ、綺麗……!」
ワードナがこぶを抑えながら木の根の迷宮を抜けると、そこに二人が期待した光景があった。
沼の向こう側で、ちらりとだけ見えた、<あれ>。
沼の端、杭のように一本だけ立っている枯れ木の上に止まる、美しい鳥。
「逃げないで居てくれたんだ」
気付かれぬように、葦の間に腹ばいになってそっとのぞきながら、少年は呟いた。
「待っていてくれたのよ」
少女がうっとりと答える。
焔のように紅い羽根は、はっとするほど鮮やかなだけでなく、優美さも限界まで詰め込んだ色合いだった。
沼の、深い水に、それは完璧に映えていた。
「──きっと、どちらかが一人だけで来たら、あの鳥は逃げちゃっていたと思うわ。
二人で来たから、仲直りして来たから、ずっとあの木の上で待っていてくれたの」
「うん、そうだね」
少女の想像は、あるいは都合のいい解釈だったかもしれないが、二人にとってそれは何よりも正しい真実だった。
なぜなら、鳥は、二人がたっぷりと見入るだけの時間、そこに留まった後、
両の翼を広げて、二人の上を通るようにして、飛び立ったから。
思わず立ち上がってその姿を追ったワードナたちを、鳥はちらりと見ていったように思えた。
「綺麗だったなあ……」
たぶん、忘れまいと思ってもいつか忘れてしまう、子供の頃の美しい思い出。
でも、いつか必ず思い出す記憶。
少年と少女は、その時、この日のデートのことも思い出すに違いない。
「──ああ、うん。……思い出したさね」
幼い恋人たちが去った後、向こう側の藪の中から美しい影が、頭をぽりぽりとかきながら現れた。
頬がわずかに染まっているのは、照れているらしい。
先ほどまで鳥がとまっていた木に手をかける。それは沼から簡単に引き抜かれ、持ち主の手の中で<魔女の杖>に戻った。
「あの子は、ヒキガエルが大嫌いだった。一番嫌いな敵への、ののしり文句に使うくらいに──。
処女だから仕方ないと思っていたけど、魔女としては致命的な弱点だったわね。
そして、<私>のほうは──今じゃ、ヒキガエルは大のお気に入り。
そうか、<分岐点>というのは、こんなところに転がっているものだったんだね……」
どの時空にも存在する魔女は、感慨深げに呟いた。
愛する者とその思い出がある<自分>と、愛する者をついに得られなかった<自分の分身>に想いを馳せた美女は、
足元にのそのそと這いよってきた両生類に気がついて、にっこり笑いかけた。
杖の先で優しくひと撫でする。
──ゲコ。
ヒキガエルはひと鳴きして、沼に飛び込んだ。
──最強の大魔道士の妻は、意外に慈悲深く、義理堅い女だ。
この小さな生き物のこれからの生涯は、ムカデより上等な餌に満ち溢れたものになりそうだった。
唇に微笑を残したままの美女は、上空を飛ぶ紅い鳥──先ほど<自分>と夫がうっとりと眺めた鳥に目を向けた。
「──あんたも、ご苦労さん。おかげで<私>は、いい思い出を作れたよ」
その言葉を受けた鳥は、空中でひと羽ばたきすると、その姿は不滅の焔に包まれた。
一箇所に我慢強く留まり、役目を待つのは、不死鳥──フェニックスにはうってつけの仕事だった。
光と炎を散らしながら去っていく下僕を見送り、しわがれ声の美女は振り返った。
「さて、私も行くかね。──この階層は、<私>が二人居れば十分。宿六のことは、まかせるよ。
私は、そうさね。──<私>よりも私が相性よさそうな相手の説得に行くとするか──」
首に巻いたスカーフを意味ありげに撫で付けた美女は、転移の呪文を唱え始めた。
「むう──」
悪の大魔道士は、機嫌が悪かった。
「どういたしまして?」
斜め後ろを付いてくる魔女が心配げに見つめてくる。
その位置が、曲者だ。
魔女は、歩くときは、ワードナの斜め後ろにぴったりと寄り添う。
夫と同等、横に並ぶのは、魔女の結婚哲学──「妻は夫を立てるもの」に著しく反する。
さりとて、三歩下がって夫の影を踏まず──では完全に夫の視界の外になってしまうのでつまらない。
必然、魔女の定位置はそこになる。
ワードナが横目を使えば、その美しい姿が目に入るぎりぎりの位置。
そっけない素振りを見せながら、先ほどから悪の大魔術師は、ちらちらと
妻の美貌や、法衣の下で大胆に揺れる胸元などを思い切り視姦していた。
魔女のほうも心得たもので、澄ました顔で時々、思いっきり胸をゆすって見せたりする。
──しかし、それでは見ることができないものがある。
目下、ワードナの関心はそれに集中していた。
「待て」
ついに、ワードナは通路の途中で立ち止まった。
「──?」
声を掛けるや、悪の大魔道士は魔女の後ろにまわりこんだ。
飛びかかるようにして妻に抱きつく。
「え?」
その瞬間、魔女は反射的に夫のほうを向いたので、ワードナのもくろみは見事に外れた。
「──まあ」
「……むう」
魔女は正面から抱きついてきた夫に、頬を染めたが、
妻に後ろから抱きつくつもりだった悪の大魔道士は、渋い顔になった。
だが、これはこれで、悪くはない。
ワードナは抱きついた腕を下の方に降ろした。
「きゃっ!」
魔女は小さな悲鳴を上げた。
彼女の夫は、彼女にきつい抱擁を与えながら、彼女の豊かな肉を思いっきり鷲づかみにしていた。
──ワードナが先ほどから気になって仕方なかった物。すなわち、魔女の臀。
後ろから眺め、抱きつくつもりだったが、正面からこうして触れるのもなかなか乙なものだ。
「……ひあっ」
老魔術師の筋張った指が、柔らかさと張りが同居する肉の塊に食い入り、存分にこねくりまわし、揉みしだく。
法衣の布地越しからでもわかる豊満な感触に、<魔道王>は夢中になった。
指がうごめくたび、魔女は声を上げたが、もちろん逃げる素振りは見せなかった。
かわりに、夫の背に腕をまわして、さらに身体を密着させる。
臀に劣らず豊かな胸乳をワードナの胸板に摺り寄せる。
「……」
悪の大魔道士は、妻の臀を責め立てる手を止めた。
魔女が、視線を降ろした。その唇に、いたずらっぽい微笑が浮かぶ。
「──まあ、お元気ですこと」
臀と乳の感触に、ワードナの男根は俄然張り切りはじめていた。
ローブ越しにもわかる硬いこわばりが自分の下腹に押し付けられていることに、魔女の美貌がほころぶ。
ワードナは咳払いをして、そっぽを向いた。
「後ろから……なさいますか?」
先ほどから夫が狙っている獲物がわかった魔女は、それを捧げることにやぶさかでなかった。
「む」
そっぽをむいたたまま、一インチの百分の一ほど頷いた夫に再度微笑みかけ、魔女は抱擁を解いて後ろを向いた。
下着を膝まで下ろし、法衣の裾をたくし上げる。
手は、壁についた。
「おお──」
突き出された白い肉塊に、悪の大魔道士は感嘆の声を上げた。
悪の大魔道士は不思議な感触に包まれていた。
背後から魔女の大きな臀を抱え込んだワードナは、男根をその谷間にこすりつけていた。
白い双丘の合間にできた溝は、おあつらえむきの深さと密着感で<魔道王>を挟んでいた。
「むむ──」
「ああ……。い、いかがでございますか。──こういうのも、なかなか、よろしゅうございましょう?」
「な、何をいうか、良いのは、貴様も同じだろうて」
男根の裏側全体を絶妙な柔らかさの肉塊になぶられ、ワードナはうめき声を必死で堪えた。
魔女のほうは、あえぎ声を抑えない。
「え、ええ。もちろん、ですわ、わが殿……。わが殿が、私のお尻を──きゃっ」
魔女の夫は尻肉を強く掴んで引き寄せた。強く男根を押し付ける。
女の身体の他にどこにもない肉の張りと硬さを感じながら、ワードナはあっけなく放っていた。
「ああ……」
魔女は熱い吐息をついてのけぞった。
臀に、生暖かい粘液がかけられる感触。魔女の背筋を、凄まじい快感が駆け上がる。
ワードナは手を伸ばして、自分の精液を魔女の臀の上で伸ばした。
ロミルワの下で、男の欲望の証は、女の白い肌を汚し、ぎらぎらと粘つく光を反射した。
「はぁふ──」
力が抜けたように魔女が壁にもたれかかる。下半身は小刻みに震えている。
「むむ、──達したか」
予想以上の反応に、ワードナは驚きの声を上げた。
「……は…い…。最…高です。──ぬるぬる、大好き……」
魔女は蕩けきった声で呟いた。
その艶っぽさに、ワードナの男根は放ったばかりというのにたちまち硬度を取り戻した。
「ふん、そうか。貴様、こういうのが弱点か──いいことを知ったぞ」
妻の思わぬ痴態に、このところ押されっぱなしの夫はにやりとした。
精液を指で掬い取り、谷間の中心にすぼまる孔に擦り付ける
「そ、そこは──」
「今更恥ずかしがることもあるまい」
獰猛な笑いを浮かべた夫の指の強引さに、魔女は腰砕けになった。
「ぬるぬるが好き、といったな、では次は、貴様のはらわたの中をそうしてやる」
いきり立った剛直を魔女の肛門にあてがった悪の大魔道士は、わななきながらそれを待ち受ける女の内部に押し入った。
──通路の空気は、嬌声と、粘液質な音と、淫靡な匂いで濃密になった。
かなり長い間を置いて、息も絶え絶えな男の呼吸音にまじって<質問>に答える声がした。
──我は利他的なる穴、強欲なる孔を示すものなり。
──我は最も熟れた肉塊にして人の体の要なり。我とは何?
「──尻(Hip)」
新たな通路が現れた。