<あるエルフ姉妹の冒険 外伝V〜盗賊の秘宝〜>

「みてみて!このグラタン、ホウレン草のペーストをまぜてつくったの!
 しかも容器にファイアーソードの欠片を使ってあって、いつもぐつぐつ、冷めないの!
 名付けて『キャリアーグラタン』よ!ほらほら食べて食べて!」
「キャ、キャリアー…もぐもぐ」
シグルーンが目を覚ますと、妹のエミールと友人のプリンがいつものやり取りをしていた。
少年と少女が食卓を囲むさまは傍目にはままごとのようだが、
テーブルの上に並んだ食事は本物。一流のレストラン顔負けの料理がずらりと並んでいる。
シグルーンの腹が、ぐう、と音を立てた。

サッキュバスの一件から、プリンはロイヤルスイートで一緒に暮らしていた。
簡易寝台に戻るときになってエミールが泣き出したためなのだが、
今、簡易寝台が指定席だった新米戦士を苦しめているのは
迷宮の強敵やロイヤルスイートの家賃よりも、エミールの世話焼きのようだ。

「…エミール、あんた料理は上手いんだから、
 そのネーミングだけはなんとかしなさいよ。
 それと、プリン君の世話をやきすぎないの。」
テーブルの上の料理を素手でパクパクつまみながら、シグルーンは2人の会話に割り込む。
とりあえず、食事中に『ブロッブ』や『キャリアー』などの名前を聞かせるのはあまりよろしくない。
ついでに、妹に振り回されっぱなしの新米戦士に助け舟を出しておく。

「なによなによ、おねえちゃんのために作ったわけじゃないんだから!
 文句があるなら勝手に食べないでよね。これだからおねえちゃんはモテないのよ!」

(――小さいアンタを育てるのに必死で、恋愛どころじゃなかったわよ。)
言いかけた言葉を飲み込む。母が死んでからエミールを養うのは大変だったが、
何よりも大切な妹を育てるため、自ら望んでやったことだ。
それを愛する妹に聞かせるわけにはいかない。

(それにしても、言われてみれば冒険者としても研究者としても名高い地位、
 加えてこの美貌だというのに、真剣に言い寄ってくる男は…)
――数日前に妙な恋文を貰ったような。
シグルーンは無言でテーブルを離れると、ガタガタと小物入れを引っ掻き回し――あった。
少し気取った笑顔で、エミールの元へ歩み寄る。安っぽい封筒を握り締めて。

「この前『また』こんな手紙もらっちゃってさぁ…自慢することじゃないから黙っていたんだけどぉ」
冒険者になってから貰ったのはこの1通だけだが、とりあえず誇張しておく。
――さあ、歯噛みしてくやしがりなさい。

「これラブレターじゃない!おねえちゃん、すごい!!」

次は悔しがる妹に何と言ってからかうか、と考えていたシグルーンの追撃は
妹の意外な反応によって空振りとなった。
キラキラと瞳を輝かせ、尊敬のまなざしで見つめるエミール。
「…そ、そう?それほどでもないんだけど…まぁ大人の女としてはこれくらいねぇ」
純真な妹の予想外の反応に戸惑いながら、シグルーンは余裕の表情で妹の肩をぽんぽんたたいた。
姉のイヤミに気付かず、エミールは必死にラブレターを何度も読み返している。

「ねぇねぇ、この人どうしたの?格好よかった?お付き合いしてるの!?」
先ほどの不機嫌はどこへやら、手紙を読み終えたエミールの質問が降り注ぐ。
少しだけ天狗になったシグルーンは、ニヤニヤと笑いながらありのままをさらりと答えてしまった。

「あ〜、こいつには興味なかったからさぁ、『迷宮のダークゾーンで待ち合わせ』って言って、
 そこにゾンビ召喚して置いといたのよ!
 ニオイごまかすのにお香までたいて結構手間取ったけど、さっきまですっかり忘れててさ!
 どうなったかはみてないのよね〜」

………………カラン。

室内の空気が凍りついた。
はしゃいでいたエミールの笑顔がひきつり、
プリンが手にしていたスプーンがテーブルに落ちる。
(…あれ?ここは笑うところよ?)
シグルーンが二人を見ると、エミールもプリンも困ったような顔で目をそらしてしまった。

「お、おねえちゃん…それはあんまりだよ…」
「もし気付かないで抱きついたりしたら、ショックですよ、きっと…
 ボクだったら泣いちゃうな…」

『*おおっと やぶへび*』

シグルーンがそう判断したときにはもう遅かった。
エミールとプリンの微妙な視線が、シグルーンを責めたてる。
「な、なによなによわかったわよ、ちゃっちゃとさがして謝ってくるわよ…」
テーブルの上の料理を頬張り、シグルーンは立ち上がった。



「もう、忌々しい!」
シグルーンのすらりと伸びた足が、がすっ、と音を立てて扉を蹴り開ける。
(何が悲しくて、どうでもいい男の安否を確認しに行かなくてはならないのかしら。
 ジブンだかザボンだかしらないけれど、こいつが手紙なんか出さなければ!)
手紙がなければ妹にやり込められていただろうし、そもそもたちの悪い悪戯を仕掛けなければ迷宮に来る必要もなかったのだが、
我侭でプライドの高いシグルーンの精神は、『自業自得』という結論を拒んでいた。

ふと、玄室の隅でガタガタと震える2匹の小さなコボルトに気付いて足を止める。
怒りに任せて睨みつけると、やや大きい方のコボルトが武器を構えて小さい方を守るように前に進み出た。
――恋人同士だろうか。それとも家族だろうか。
そんなことを考え、エミールを守って戦ったプリンを思い出したシグルーンは、思わず笑みをこぼした。
「家族か恋人か知らないけれど…仲良くね、お二人さん」
不思議そうに見つめる2匹を置いて、玄室を出る。
ゾンビじゃあるまいし、迷宮で一人くさっていてもしかたない。
早く用事を済ませて、宿屋へ戻ろう。

ダークゾーンには、召喚したゾンビがたむろしていた。
だれも通らなかったのか、通った冒険者もゾンビになったのか。
とりあえずゾンビを帰還させ、あたりを調べる………
だれもいないようだ。

「生きて帰ったか、それとも骨までくわれたか…」
後片付けは済んだのだからこのまま戻ってもいいが、エミールたちに男の安否を聞かれたら面倒だ。
先に酒場で探してくればよかった、と少し後悔しながら、シグルーンは転移の魔法を唱えた。



「ジブン?…ああ、そいつなら今は馬小屋に引きこもってるよ。
 少し前にうれしそうに一人で迷宮へ行ったきり帰ってこなくてな。
 運よく助け出されたんだが…それっきり酒場にも顔を出さないな。」

冒険者台帳をパラパラとめくる酒場のマスターの話を苦笑いで受け止めながら、
シグルーンはため息をついた。
どうやら、哀れな男は生きているらしい。
しかし、なにやらふさぎこんでおり、原因は十中八九召喚したゾンビだ。
(――抱きついちゃったのねぇ、きっと)

話はどんどん面倒な方向にすすんでいる。
忘れていた悪戯で迷宮にいく羽目になるし、迷宮にいけば無駄足だし、酒場にきたら今度は馬小屋だ。
とはいえ、このまま帰ったら間違いなく
『おねえちゃん、やっぱりひどい…』
だろうし、このまま放っておいて妙な噂でも立てられては困る。

シグルーンはもう一度ため息をつき、カウンターにチップを置くと、酒場を後にした。
宿屋は酒場からそう遠くはない。
あとは離れの馬小屋で、適当に行けなかった嘘の理由をでっちあげて――



「――くさっ!!」
正直な観想を思わず声に出してしまい、シグルーンはあたりを見回す……どうやら聞こえていなかったようだ。
シグルーンは小さな妹を連れて冒険者になって以来、妹には人並み以上の生活をさせるようにしてきた。
そのため新米の頃から、宿屋はエコノミールームに泊まるようにしていたのだが、
そんなシグルーンにとって、馬小屋は未知の空間だった。
馬の敷き藁を敷いて、その上に寝転んでいる戦士。
壁に背をもたれさせて、座ったまま目を閉じている侍。
ホビットの少年(青年かもしれない)にいたっては、子馬と一緒にスヤスヤ寝息をたてている。

(…風呂どころか、寝床も壁もないじゃないの…よくこんなところにいられるわね)
とりあえず誰に声をかけたものか決めかねていると、なにやら小さな声が聞こえてきた。
――見ると、小屋の隅でうずくまってぶつぶつ言っている男がいる。
壁に向かって座り込んでいるため、まだこちらに気付いていないようだ。

「ぞんびが…ぞんびがちゅーって…ちゅーって…初めてのキスだったのに…ちゅーって…ちゅーって…」

コイツがジブンだ。絶対。
シグルーンは半ばあきれつつ、表情をひきしめて『よそ行きの顔』にすると、男の肩を叩いた。
「ちょっと、いいかしら……?」
「え…わあああ!ゾンビ!ゾンビやだあああ!!」

ああ、やっぱり今日は厄日だ。話はさらに面倒な方向に進んでいる。
ため息をつきながら目頭を押さえるシグルーンと叫び続ける盗賊に
馬小屋の視線がいっせいに集まる――が、すぐに皆やれやれ、という顔をして眠りに戻っていった。
どうやらこの盗賊はいつもこの調子らしい…とはいえ、
いくら周りが無関心だからといって、このまま騒いでいられては話もできない。

「とりあえず落ち着かせて…あ、そうだ」
シグルーンが小さな声で睡眠の呪文をつぶやく。
盗賊が眠りについたのを確認すると、さらに小声で呪文を詠唱し――

(――む、盗賊の若造、今日はやけに早く落ちついたようでござるな)
壁にもたれかかっていた侍が、盗賊の方を見て目を開いた時
そこにはすでにジブンもエルフの女もいなかった。



「んあぁぅ、きもちいいぃぃっ!」
エルフの高い声が部屋に響く。
ジブンはベッドの上で、よつんばいになったシグルーンを後ろから突いていた。
一突きするたびに、張りのある尻と大きな胸がぷるんと揺れる。
飛び散る汗が、部屋を淫靡な空気で満たしていた。
揺れる胸を後ろからつかみ揉みしだくと、ジブンのペニスを包み込む肉が締め付けを強めた。

「だらしのないデカ乳ですね!もうたまんないや!」
胸を揉むたびに、掌からは柔らかい感触が、
つながった部分からはきつい締め付けがジブンを襲う。
「あああっ、ごめんね、あの日はどうしても行けなかっ…あああっ!」
許さん!というかのようにジブンがシグルーンの乳首をギリギリと強く握り、弁解は悲鳴に変わる。

ただただ男の快楽をむさぼるための突きと、女を辱めるための愛撫。
パンパンと肉と肉のぶつかり合う音が響く。
絶妙の締め付けと吸い付くような肌、そして痛みと快楽とが混じった悲鳴に刺激され、
ジブンはあっという間に絶頂を迎えた。
「でっ、でますよっ…中でだしてやるっ!」
「ちょ、ちょっとまって!そんな――」
――どびゅっ、どびゅ、びゅっ…
シグルーンが言い終わる前に、ジブンは熱い濁流をシグルーンの膣内に解き放った。

「――あっ、ああっ―ああぁ……」
シグルーンがのけぞり、暫く痙攣した後ベッドに倒れこむ。
ジブンは後ろからつながったままキスをしようと
まだ息の荒いシグルーンのあごをクイッ、とひきよせた。

ぐちゃ

伸ばした指が生暖かいものに触れる。
振り向いたのは、シグルーンではなく腐った顔
――ゾンビ!
豊満だった胸は腐り落ち、肋骨の間から白い蛆がぼろぼろとこぼれ落ちている。
つながった股間から、腐汁がびちゃり、と流れ出た。
「ひ」
ジブンが叫ぶよりも早く、ゾンビの激しいキスがジブンの喉を食い破り―――

「うわーーっ!いやだーーーーーーっ!!!」

――自らの悲鳴で夢から覚めると、見慣れた石の天井が視界に飛び込んできた。
こもった様な臭い、湿気た空気――どうやら迷宮に横たわっているらしい。
ジブンは混乱する頭をフル回転させ、必死に現状を把握しようと努めた。
(えっと、俺は宿屋に、いや、ゾンビに襲われて、あれ?シグルーンさんと…)
当然、答えは出ない。

とりあえず起き上がろうとして、ジブンは己の身体が麻痺していることに気付く。
目と口はとりあえず動くようだが、腕、足などはまったく言うことをきかない。
(お、俺ひょっとしてゾンビに襲われて、麻痺したまま夢をみてたんじゃないか…?
 どうしよう、このままじゃモンスターに殺される!)

「あら、目が覚めたみたいね…」
助けを呼ぼうと息を吸い込んだとき、足元から声が――忘れもしない、憧れていた女性の声が聞こえてきた。



「その声は…シッ、シグっ、シグるっ」
声のしたほうを見ようとするが、首が動かない。
なんとか目だけを必死に動かす――いた。
「シグルーンさん!!」
大きな胸、くびれた腰、そして女神のような微笑。
ローブを身にまとっているが、たしかにあの日夢見たシグルーンが、そこにいた。

「おはよう――動けないと思うけど、落ち着いてもらいたくて…ごめんなさいね」
シグルーンがジブンの顔の横まで歩み寄り、上から覗き込むように顔が近付き、甘い香りと吐息がジブンをくすぐる。
鼻息が荒くなるのを必死で抑えながら、自分は口を開いた。
「あ、あのっ、なんであの日…」
「ごめんなさい、町の平和のため、どうしても探索に行かなくてはならなくて…
 王宮にもかかわることだから、詳しくは言えないわ。」
ジブンの言葉をさえぎるシグルーン。
涙がこぼれそうなほど悲しげな表情で、すまなそうに自分から目をそらした。

――弄ばれたのではなかった――
ジブンの心にずっと絡んでいたものが、すうっと晴れる。
暗くジメジメした迷宮に、キラキラと光がさしてくるように感じた。
(いや、まてよ。ってことは、今日ここで、あの日するはずだったことをするのか!?)
だとしたら光どころではない。もうキューピッドが見える!
動けない体の分まで荒ぶる鼻息と、心臓の鼓動を抑えることも忘れ
ジブンはシグルーンの顔を、胸を見つめる。…残念なことに腰はよく見えない。
シグルーンはそんなジブンの股間に目を移し、くすり、と微笑んだ。

「あらあら、こっちはもう元気ねぇ…さあ、この前のお詫びもさせてほしいし
 ――仲良く、しましょうね?」

細い指が、盛り上がったジブンの股間をやさしく撫でさする。
それだけで、背筋に電撃が走ったかのような刺激、脳髄が痺れるような快楽が襲い掛かってくる。
すぐに爆発しそうになるのを必死に堪え、ジブンは手を動かしてシグルーンの胸を、尻を
――やはり手は動かない。

「あ、あの、俺ちょっと体が…」
「ああ、気にしないで。前に待たせちゃったから、今日は私にまかせて頂戴」
にっこりと微笑まれ、ジブンは言葉を失う。
憧れの女性が、自分のためにこれから色々としてくれるという。
触りたい。でも、文句を言って全てがパァになったら…

「ああ、もう俺はどうしたら……ん?」
一人で考え続けるジブンは、いつの間にか、下半身をさする手が増えていることに気付いた。

シグルーンが右手を伸ばして、ジブンの下半身を触っている。
しかしジブンは、それ以外に2本の手が腰を撫で回しているのを確かに感じていた。
麻痺しているために、目しか動かせないので姿は見えない。
だが、確かに何者か、シグルーンでもジブンでもない何者かがここにいる!

「だ、誰ですかこれ!シグルーンさん!?」
シグルーンはニコニコと笑ったままで、何も答えない。
ジブンが戸惑う間にも、何者かの手はジブンのベルトをカチャカチャと外し、下着ごとズボンを引きずり下ろす。
ぶるん、と元気よく揺れた一物が、冷たい手に掴まれた。

「うお、うおお、おおおおっ!」
下半身から力が抜け、かわりに快楽が流れ込んでくる。
シグルーンに助けを求めようと瞳を動かすと、いつの間にか彼女は少し離れたところでこっちを見ていた。
今、股間をまさぐっているのは、シグルーンではない。
やはり誰かが、異常な快楽をもたらす誰かがそこにいるのだ。

――バサッ

必死に相手を確認しようとする自分の視界を、黒い翼がかすめた。
(――人間じゃない!)
逃げようとするが、力が入らない。
恐ろしいやら情けないやら気持ちいいやらで混乱するジブンに、シグルーンが語りかける。
「大丈夫よ、そのサッキュバスは私の友達だから。いくらかのエナジードレインだけですむわ」
女体がゆっくりとのしかかってきて、視界の下からサッキュバスが姿を現す。
ジブンは初めて見る淫魔の美しさと密着する胸の感触に浸っていたが、すぐに本能が警鐘を鳴らし始めた。
「ど、ドレインされたら、俺死んじゃいます…」
レベル1ケタでドレインを何度もされたら、復活も出来なくなってしまうし、
何より、憧れの女性の目の前でサッキュバスに筆おろしをされる事だけは避けたかった。

「なぁに?あなたそんな弱いのに私に交際を申し込んだわけ?」
あきれた様子でシグルーンが歩み寄ってくる。
ジブンは情けなさを感じる余裕も無く、助かった、と一瞬安堵し……すぐにそうでないことを理解した。
シグルーンはそっと青いリボンを取り出し、ジブンの一物の根元をきつく縛ったのだ。

「ま、まさか…」
「きっと出さなきゃ大丈夫よ。それにこの子はすごく献身的だから、
 エナジーが吸えなくても、きっと尽くしてくれるわよ〜」

サッキュバスの姿が視界から消え、冷たい指と、暖かい舌による愛撫がジブンの股間を溶かし始めた。
縮み上がった玉を吸い、根元から亀頭へと舐め上げ、口腔で全てを包み込む。
「うお、おお、おおおおおおおっ」
ジブンはあっという間に頂点に達し――ようとして、射精が出来ないことに気付いた。
気持ちはいい。だが、根元をきつく縛られていて、出せない。
開放感のないまま、快楽だけがどんどん加速する。
「うひ、ひ、ひいいい―――」

視界が白く染まり、脳が焼ききれようとしたその瞬間、
ぬめる口腔から下半身が解放され、サッキュバスがジブンにのしかかってきた。
吸い付くようなキスがジブンを襲い、先ほどまで下半身を攻めていた舌が自分の舌に絡みつく。
舌から脳天へ突き抜けるような刺激の中、
ジブンは己の一物がサッキュバスに挿入されようとしていることに気付いた。
(い、いやだ!いやじゃないけど嫌だ!)

「し、シグルーンさん、お願いです、俺始めてなんです!
 サッキュバスと初体験なんて、そんなのはちょっと!」
「いいじゃないの別に。」

必死の願いをあっさりとはねつけられ、ジブンは絶望した。
初体験が、サッキュバス。好きな女性の前でサッキュバスに犯され、しかも射精は出来ないのだ。
(なんでこんな事になっちまったんだ)
あまりの情けなさに、涙がこぼれる。
ぼろぼろと涙を流すジブンを見て、サッキュバスが戸惑い始めた。
「あ、あの、この人泣いてます…」
このまま入れちゃっていいんでしょうかと言いたげに、恐る恐るシグルーンを見るサッキュバス。

ジブンが涙をこぼしながらしゃくりあげているのを見て、
ニヤニヤと見ていたシグルーンがため息をついた。
「もう、なんで泣くのよ…まあいいわ。
 面白かったし、私からごほうびをあげる……」

ジブンの足が大きく開かれ、その間にシグルーンが、ジブンの方を向いて座る。
ローブが脱ぎ捨てられ、ジブンは視界の下隅にシグルーンの顔と胸を見て、股間をぶるん、と振るわせた。

「ほーら、見える…?」
シグルーンが大きく足を開く。
――が、ジブンに見えるのはシグルーンの上半身と、ヒザのあたりだけ。
一番みたい、夢にまで見た部分が見えず、ジブンは必死に首を動かそうと喘いだ。
「ふんっ、くっ、ううっ…!!」
しかし、どんなに力を込めても身体は動かない。

「うふふ、なにそれ、おかしーっ!」
さっきまで涙を流していたジブンが
今度は真っ赤な顔をして踏ん張っているのを見て、シグルーンがケラケラと笑う。

完全にジブンをからかって遊んでいるシグルーン。
笑いのツボにでも入ったのか、目の端に涙までうかべて笑い転げている。
情けないが、シグルーンの股間を見たくてしかたない、しかし動けないジブン。
そんな二人を見ていたサッキュバスが…おずおずと動いた。

ジブンの頭を優しく撫でるとにっこりと微笑み、太股の上に頭をのせてやる。
ひざまくら。
ただそれだけの事だが、それはジブンにとって大きな一歩だった。
目の前に広がるのは、女神像のような美しい、憧れの女体。
しかしその足は大きく開かれ、その間には―――

「うお、おおおっ!」
大きく足を広げて笑い転げていたシグルーンが、ジブンの声で我に帰る。
その目に映ったのは、サッキュバスにひざまくらされて、こっちを見ているジブン。
絶対に見ることは出来ない、と緩みきっていたところに不意をつかれたシグルーンの頬が赤く染まる。
珍しく恥らうエルフが慌てて股間を隠した瞬間、盗賊の股間に奇跡が起きた。

ブチン!―――限界を越えた股間の膨張に、リボンがはじけとび―――
びゅっ、びゅるるっ、びゅるるるるっ……!

「きゃああっ!」
飛び散った精液を避け損ねて尻餅をついたシグルーンに、
今までの恨みを晴らすかのように、大量のジブンの精液がふりそそぐ。
びちゃ、びちゃっ…
髪を、顔を、乳房を、腹を、そして開いた足間を白く汚しつくし、
ジブンの一物がようやく快楽から解放された。

「ああ、幸せだ……」
天使のような微笑で、淫魔が唇を重ねてくる。
――だが、満足げにキスを受けいれていた自分の足元には、悪魔が降臨していた。

ぐにゃっ!
「うぎゃーっ!」
硬さを失った自分の一物が、シグルーンの足に押しつぶされる。
ぐりぐりと踏みつけてくる足に、たちまち股間が硬さを取り戻し、更なる痛みがジブンを襲った。
――足元に、魔王が立っている。
そんな錯覚を覚え、自分が助けを求めようとサッキュバスを見る。
しかし、頼みのサッキュバスの顔からは笑顔が消え、恐怖に硬直してしまっていた。

「思いっきり溜めさせちゃって、ごめんなさいね…
 本当にヤるわけにはいかないけれど、足で我慢してねっ!」
ごりっ――ぶびゅびゅっ
精子を作り出す器官が悲鳴を上げ、逃げ出そうとした精子たちが
痛みと快楽と共にジブンの一物から噴出する。
シグルーンは白濁をその足に浴びながら、
白目を剥いて、口の端から泡を吐きながら痙攣するジブンを見て満足げに微笑み―――

―――さらに足に力を込めた。

(ああ、死ぬ――俺は死ぬ――)
死を覚悟したジブンは、暖かいものがのしかかったのを感じて目を開いた。
視界は肌色。いつの間にか股間の圧迫感は消えている。
一瞬の混乱の後、ジブンは己の身体の上にのしかかっているのはサッキュバスであること、
そして、その淫魔が、おそらくは自分をかばっているであろう事に気付いた。

「な、なによなによ…あんたまで死にたいの!?」
サッキュバスの身体が、ビクッと震える。
動くことのできないジブンには、シグルーンの顔は見えなかったが、
頭の後ろから背中を濡らす暖かい液体を感じ、
サッキュバスが失禁するほどの恐怖を味わっていることは理解できた。

長い沈黙を破り、口を開いたのはシグルーンだった。

「…もういいわ。ホントに死なれたら、また妹になに言われるか分からないもの。
 ――帰ります。後は好きにすればいいのよ」
不機嫌そうな魔法の詠唱の後、のしかかっていたまま硬直していたサッキュバスの身体から力が抜けた。

「た、たすかったぁ…」
ジブンがつぶやく。
2人は力尽きたかの様に、しばらく迷宮に横たわっていた……。


 −−−−−−−−−−−−−−−−


ジブンは宿屋のエコノミールームで、ベッドに横たわっていた。
置き去りにされたのは迷宮の下層だったが、
サッキュバスが転移の指輪とジブンの服を持ってきたので帰ることが出来た。

「シグルーンさんを嫌いにならないであげてください…これもあの人が用意したんです。
 あの人は、自分を上手く表現できないだけなんです」

正直に言えば、シグルーンに対して抱いていた
『クールで理知的な敏腕冒険者』のイメージは砕け散っていたが、
サッキュバスが渡した品の中にあった、決して少なくない金貨と『つらぬきの短剣』は
当初シグルーンが本当に詫びるつもりであったことを示していたし、
何よりも無邪気に笑い転げる姿と開いた足の間のピンクの淫肉は、ジブンの心に焼き付いて消えなかった。

誰に助けられるわけでもなく、妹を養いながら冒険しているのであろうシグルーン。
「俺が…守れば良いのかな」

輝く短剣の刀身を見つめながら、ジブンはつぶやいた。


 −−−−−−−−−−−−−−−−


シグルーンは、一人宿屋の階段を上っていた。
探している間は、面倒なだけだった。
とりあえず迷宮に連れて行き、悪戯をしているときは、はしゃいでいた。
今は―――最低の気分だ。

部屋には妹が待っている。心配をかけるわけにはいかない。
すぐに部屋に戻り、今日は酒に溺れて眠ろう。

「ただいま」
扉を開けると、テーブルにご馳走が並んでいた。
プリン君のためとはいえ、これは少々豪勢すぎる。
(はてさて、今日は何かめでたい日だったかしら)
シグルーンは首をかしげる。――特にこれといって思い当たる事は無い。

「おかえりなさーい」
台所から、笑顔のエミールとプリンが出てきた。2人で料理を作っていたらしい。
今日はどうしたの、と聞くよりも早く、プリンが口を開いた。
「シグルーンさんにちょっと冷たすぎたかなって…エミールさんと一緒に作ってみたんです。
 今日はごめんなさい………いつもありがとう、って」
見ると、エミールは顔を赤くして微笑んでいる。

シグルーンは無言で2人に歩み寄り、右腕でエミールを、左腕でプリンを、ぎゅっ、と抱きしめた。


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数日後、迷宮。
数匹のオークと、簡素な装備のパーティが戦っている。
剣と剣がぶつかり合い、弱いながらも魔法が飛びかう中、ジブンは戦っていた。

「スズメバチのように、一撃を――急所に!」
柱の影からスッ、と流れるように飛び出し、短剣でオークの心臓を貫く。
仲間を倒されて怒り狂うオークの刃を慌てて避け、ジブンは再度闇に隠れた。
闇から襲い来る盗賊の刃に脅え、目の前の相手に集中できないオークたちはたちまち数を減らしていく。

最後に逃げ出そうとしたオークの目の前に躍り出たジブンの短剣が、寸分違わずにオークの心臓を貫く。
短剣の血のりを軽くぬぐうと、ジブンはふう、と息を吐いた。
(――俺は、いつかきっと――シグルーンさんを守れる男になる!
 まずは修行して、訓練場で忍者になるところから、俺の冒険が始まるんだ!!)

「ジブンさーん、宝箱がありました〜」
仲間の手当てを終えた僧侶の少女が呼んでいる。
仲間たちに向かって歩き出したジブン。
彼はまさに、冒険者としての道を、そして忍者への道を、一歩一歩進んでいた――。

――とりあえず、自分の性格が中立であることに気付くまで。


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 〜冒険者タイムス○月×日号〜

いつ死ぬとも分からない冒険者の間では、仲間同士での恋愛が日常茶飯事。
このコーナーでは、そんな冒険者の恋の話を紹介していく。
今回は、まだ幼さを残す僧侶の少女を紹介しよう。

人間・善・僧侶♀
…わたし、パーティの盗賊さんのことが好きなんです。
なんていうか、いつも強くなろうと一所懸命で…何かに向かってがんばっている姿が素敵なんです。
何のために強くなろうとしているのか聞いても、教えてくれないんですけど…
ええ、私、応援してます!
え?もし彼が挫折したら?
―――わたしが、なぐさめてあげます。うふふ。

命がけの冒険。過酷な状況において、確かに愛は存在し、冒険者たちを支えているといえるだろう。
私も命がけの取材の中、燃えるような恋をしてみたいものである。

 冒険者タイムス記者:アニス・エッカート