ギンの案内であっさりとたどり着いた六階。
材質がさっぱり分からない綺麗なもので作られたこの場所で
天井を見つめたまま微動だにしないチビな男エルフを発見した。
「お前、もしかしてクンナルか?」
俺がそう尋ねると顔色の悪いチビな男エルフはじろりとこちらを向いた。
「そうだけど・・・誰だい?」
「メラーニエの頼みでお前を探しに来た。
この階の入り口付近で待ってる。
行ってやれ」
男相手だと言うのに俺にしては大分優しく声をかけた。
エルフの美少女(実際は年上だが)メラーニエの頼みだからな。
だが、むかつく事にこのチビ男ときたら冷笑を浮べただけで天井に顔を向けた。
「まだそんな所にいたのか・・・
面倒くさいなあ。
こっちに来るように言ってよ。
僕はここを調べるのに忙しいんだ」
そう言ったチビ男は虚ろな目を見開いて天井を見つめている。
「お前・・・」
「ここは多分エルフの古代都市だよ。
大昔に滅びたはずの都市がなんでこんな所にあるのかわからないけどね。
ふふ、僕のことをおかしい人だと思うかい?
キミみたいな人には分からないかもしれないけど、ここは”そう”なんだ。
僕が夢見ていた・・・」
ぶつくさと呟くチビ男の言葉は更に続いている。
イーリスもギンも機械であるフリーダでさえちょっと引いているように見える。
それはこの男の言っている内容よりも、体全体から放たれる異様な雰囲気のせいだろう。
「おい、ご高説はもういい。
お前自分が正常でないのは分かってるのか?」
俺に独り言を遮られチビ男はムッとした表情で見返してきた。
「僕が正常でない、だって?
ふふ、それはそうさ。
夢の古代エルフ都市に来て正常でいられる方がどうかしてるよ。
うふふふ・・・」
気持ちの悪い笑みを浮べるとチビ男は俺達とは反対方向へ歩き出した。
「そうそう、メラーニエちゃんを不幸にしたら許さないよ。
僕の怒りの鉄槌が下るかもしれない・・・うふふ、うふふふふ・・・」
ちっ、貧弱なエルフ男がこんな事言いやがるとはな。
もう手遅れか。
気持ち悪いチビ男が去るとイーリスが不思議そうに天井を見上げた。
「ここがエルフの古代都市?
そう言われたら・・・・」
「イーリス、止めろ。
迷宮に興味を持つな」
「え!?興味を持つなって・・・」
俺達が今いるのは六階。
滅びたエルフの都市と言われている五階に良く似た場所だ。
違いが綺麗なところ。
五階を大掃除したら六階になったというような感じだ。
壁も床も変な形の柱もピカピカで何で出来てるのか見当もつかない。
普通の人間なら好奇心を駆り立てられて当然だ。
だが、その当然は迷宮では命取りになる。
「あの男のようになってもいいのか」
「あの男って・・・あの人どうしちゃったんだ?
メラーニエちゃんの仲間のはずなのに」
「迷宮で闇に堕ちるのは血に餓えた奴ばかりじゃない。
迷宮自体に心惹かれた奴も同じように堕ちるんだ。
この迷宮について色々不思議に思う事もあるだろうが俺達は深く考えるべきじゃない。
そういうのは王宮付きの騎士団に守られたお偉い研究魔導士に任せとくんだ。
迷宮に囚われたく無かったらな」
ちょっと脅かしすぎたか。
イーリスは怯えた顔つきで辺りを見渡し身体を竦めた。
「わかった・・じゃあ戻ろ―」
イーリスが言葉を言い切ってしまう前に、後方でバンという大きな音が上がった。
「騎士団・・・?」
音の正体はドゥーハン騎士団の騎士が扉を叩きつけるように開けた音らしい。
「・・・!」
扉を開けた騎士は俺達の方を見ると目を見開いて固まってしまった。
「なんだぁ?」
「くぅーん・・・」
騎士の驚いた様子に驚いたらしくギンが不安そうに身体を摺り寄せてきた。
「よしよし、いい子だ。
キスするか?ん?」
甘えてくるギンが可愛くて抱き寄せると、固まっていた騎士が駆け寄ってきた。
「あ、あんた、シランさんですよね!?
お願いします、助けてください!」
「あん?」
俺は不思議に思って騎士の方を向いた。
俺の名前を知ってるのはいい。
フリーダを連れてるだけで名前をいいながら歩いてるようなもんだしな。
だが騎士団の奴が俺に頭を下げるとはどういう事だ。
「アオイさんが・・・アオイさんが死んでしまいます!」
騎士が必死の形相でそう言った瞬間、俺はギンを抱きかかえたまま走り出していた。
扉を開けた瞬間、濃密な血の匂いが俺たちを迎え入れた。
広い通路の白いはずの床は赤に染まりその名残すら見せない。
あちらこちらに転がっている体の一部が血の新鮮さを訴えていた。
「グルルルル・・・」
漂う空気にギンが唸りフリーダが身構えた。
通路の先の方に何人か人の姿が見える。
「はぁっ・・・はぁっ・・ど、どうしたの?」
ようやく追いついてきたイーリスを確認すると俺はバイタルを唱え、再び走った。
血だまりを蹴り上げ、散らばった元人体を越え、向かってきた男達を屍に変える。
血の川の上流に駆け上った先に、アオイとマクベインは対峙していた。
「おやおや、奇遇ですねえ。
こんな所で会うなんて。
でも、今は取り込み中なんですよ、後にしてもらえませんか」
マクベインは相変わらずのしゃがれ声で丁寧に喋りかけてきた。
だが、その顔はフードに隠れ感情は読み取れない。
視線の先すら分からない。
俺が今手下を何人か殺した事に気付いてもいないかのような態度だ。
「悪いがそうもいかねえ。
俺はその女に用があるんだ」
アオイは既にボロボロの様子だったが目は怒りに燃え上がり、その身体全体から殺意を噴出している。
アオイ、そう確かにこの女はアオイだ。
くせっ毛で茶色がかった長い髪、白粉を塗ったように白い肌、美しい顔も侍スタイルの服装も変わっていない。
だが、マクベインを前にしたアオイは俺の知っていた人斬りとはまるで別人のようだった。
昔から殺意剥き出しの危険な奴だったが、名刀を思わせる静かで危ない雰囲気だった。
今のアオイはそんな生易しいもんじゃない。
殺意の炎が目に見えそうなほど恐ろしい。
誰だ、戦いに明け暮れ血を浴びつづけた人間が人狼になるとか言った馬鹿は。
こんな空気が震えるほどの殺意、人狼どころのもんじゃないぜ。
「久しぶりだな、アオイ。
相変わらずいい女だ」
明るく声をかけてみたがアオイは俺を一瞥するとまたマクベインに目を向けた。
「すまない・・・礼を言う」
無論、いい女と言った事じゃなくマクベインの手下を殺した事に対する礼だろう。
今のアオイにとってはマクベイン側とそうでない者だけしか区別がなさそうだ。
「マクベイン、覚悟しろ・・・!
今度は貴様を殺す!」
体中傷だらけ、あちらこちらから血は流れ出し、刀を握った手は疲労に震えている。
そんな状態でありながらアオイの瞳は憎しみと殺意に輝いていた。
「困ったものだ。
人違いではないのか?
私はあなたに恨まれるような覚えはないのですがね」
「ふざけるな!」
マクベインの言葉にアオイの口から咆哮が放たれた。
「貴様がスーラの村で行った虐殺を私は片時も忘れた事はない!
人を疑う事も知らぬほど善良で硬貨を見た事もないというほどに純粋な人々を皆殺しにした!
その上、貴様は抵抗も出来ない子供達を教会に閉じ込め焼き殺した!!
私はあの子達の苦しそうな顔を片時も忘れた事は無い!!」
ビリビリと殺気を放つアオイに対し、マクベインは特に動じてもいない。
不味いな。
この距離じゃアオイを回復できない。
しかし、飛び込めばマクベインは躊躇なくアオイを殺しそうだ。
「スーラの村といわれてもいつの事だか・・・
失礼、私にとって虐殺など毎日の事ですから分からないのです。
あなたは今までに食べた肉の数を覚えているのですか?」
「貴様ァッ!!」
しゃがれた声が途切れると同時にアオイの斬撃がマクベインに叩き込まれた。
「・・・!」
青い布がはらりと舞い落ち、アオイは力尽きてがっくりと膝をついた。
「困りましたね。
この服高かったんですよ。
また略奪しないといけないじゃありませんか」
確実に刀の軌道はマクベインを捕らえていたが斬れていたのは青いフードだけだった。
しかし、アオイの渾身の一振りは無意味ではなかった。
むしろマクベインの命ともいうべきものを奪っていたのだ。
「マクベイン・・・お前・・・!」
「フフ、見られちゃいましたか」
水分を失った顔は干からび、髪の毛など無く皮膚は崩れかかっている。
真っ青なローブの中にいたのは既にマクベインでは無かった。
「アンデッドだったのか・・・!」
「フフフフ、数年前にある実験に失敗しましてね。
それ以来、毎日大量の生き血を浴びなければ崩れてしまう身体になってしまったのですよ」
そう言うとマクベインは長いローブを脱ぎ捨てた。
「・・・!」
その身体は顔以上に悲惨なものだった。
左足は既に無く、右足も膝から下は存在しない。
所々欠けた骨に腐った皮が張り付いただけの身体は惨めで哀れなものだった。
「ひどいものでしょう?
しかもこの身体でさえもうすぐ動かなくなってしまうのです。
だから、私は永遠の命が欲しいのですよ。
暗黒の書にかかれている永遠の命が!
だから、こんな所で躓いていられないんですよォ!!」
「ウォンッ!!」
「きゃー!!」
突然、視界が白く染まった。
油断したつもりは無かったが、やはり油断だったかもしれない。
魔力を練ってやがったんだろう。
ノーモーションで高レベルの氷結呪文・ジャクルドを撃ってくるとは思ってなかった。
だが、幸いなのはこちらに撃ってきてくれた事だ。
アオイはもう戦力にならないと判断してくれたんだろう。
俺たちが死にさえしなければこれで命だけは助けられる。
死にさえしなければ、だが。
ラフィールで全員を回復し仲間の無事を確認する。
「ギン、フリーダ、あいつに突っ込め!
魔法を撃たせるな!」
「ウォゥッ!」
「了解」
二人を突っ込ませ、俺はイーリスに近づいた。
「イーリス、アンデッドのあいつを殴って倒せるのはお前だけだ。
サポートするから殴って来い!」
四人いて四人ともが近接戦闘タイプというバランスの悪すぎるパーティだ。
戦術もへったくれもない。
そう思っていた俺をイーリスの言葉が振り向かせた。
「シラン、私の力じゃあんなハイレベルなアンデッド倒せないよ」
「何を―」
一瞬、イーリスが弱音を吐いたと思った。
だが、イーリスの瞳は予想していたものとはまるで違う輝きを放っていた。
「シラン、私の武器になって」
「は?」
意味が分からず思わず変な声を出してしまった。
「私の不死者を倒せる力をシランに乗せる」
・・・つまり、モンクであるイーリスの対不死者力を俺に乗っけるって事か?
出来るのか、そんな事。
さすがに聞いた事ないぜ、そんなの。
だが、もし通じれば・・・
「よし、やろう。
どうすればいい?」
「しゃがんで」
言われた通りに屈むと背中にイーリスが乗っかってきた。
「私はシランを武器だと思って気を送る。
シランはただ攻撃してくれれば―」
「わかった、行くぞ!」
俺はイーリスをおんぶするとマクベインに向かって走り出した。
首に、腹に、背中に、イーリスの温もりが伝わってくる。
「ギン、フリーダ離れろ!」
マクベインに打撃を加えていた二人がマクベインから離れた。
呪文の妨害は失敗したらしい。
マクベインの周りに魔力反射呪文のリフレクトが見える。
これでもう、殴るしかなくなった。
こいつが通用しなけりゃもうどうしようもない。
「ちっ!」
マクベインの詠唱が聞こえる。
魔力を練っていたとはいえジャグルドを詠唱なしで撃った奴がきっちり詠唱してやがる。
まず間違いなくメガデスだろう。
この距離で喰らえば全員消し炭だ。
「ぜァっ!!」
アオイの潰れた咆哮と供に銀の矢と化した虎鉄がマクベインの身体をかすめた。
マクベインの顔に一瞬動揺が走った。
だが、詠唱は止まらない。
腐った枯れ木のような腕が上がる。
「メガデ―」
背中から伝わる固い空気に包まれるような感覚が体中に広がる。
振り下ろした剣の切っ先が、振り下ろされるマクベインの腕と交錯した。
「――・・・!」
呪文の最後の言葉は出る事なく、奴の腕は宙に溶けるように消滅した。
そして、同じく行き場を失った魔力も形を成す事は無かった。
「じゃあな」
マクベインは何が起きたのか理解できてもいないような表情で凍り付いていた。
イーリスの剣となった俺は、マクベインの身体を切り裂いた。
「うわァァ!ヒィィィィ・・・ァァァァ」
初めて聞いたマクベインの感情のこもった声は悲痛な叫び声だった。
塵一つこの世に残す事も出来ずにマクベインの身体は消滅した。
単純なアンデッドとは違う。
外法でああなったからには成仏も出来ず、死ぬ事も生きる事も出来ないだろう。
奴の魂は消滅という無の救済さえなく、痛みと苦しみしかない暗黒を彷徨いつづけるのだ。
奴が信じた暗黒の書が真実であれば。
「みんな、無事か?」
「ウオンッ!」
「損傷軽微です」
ギンとフリーダの無事を確認し俺は辺りを見回した。
「アオイ・・・」
アオイは身体を起こす事も出来ないまま、マクベインの消えていく様を見つめていた。
「死んだ・・・ようやく・・・あいつが・・・」
アオイの瞳は涙を流している事にも気付かず、空を見ていた。
何が見えているのか俺には知る由も無い。
俺はイーリスを背中から下ろすとアオイに近づいた。
かける言葉も無く、ただウィルを唱える。
「・・礼を言う・・・おかげであの子達に報告が出来る。
これで・・きっとあの子達も浮かばれる・・・」
アオイは俺に気がつくとそう呟いて立ち上がった。
「帰れるか?
何なら一緒に・・・」
「いや、一人で帰る。
帰りぐらいは一人で・・・」
よほど疲れているのだろう、アオイはふらふらとよろめく体を壁にもたれながら歩き出した。
「刀忘れてるぞ」
落ちていた虎鉄を拾い差し出すとアオイは受け取り、視線をくれた。
「後で宿屋に来てくれ。
今日から私はお前の物だ」
そう言い残すとアオイは身体を引き摺りながら消えていった。
「あれが人斬りアオイ・・・?
お前の物ってどういう・・・」
イーリスが戸惑った声を出し見上げていた。
「ああ、あいつは・・・まあいい。
それにしてもイーリス、でかしたな。
まさかあんな戦い方があるなんて思っても見なかった」
「ど、どうしたんだ?
シランがそんな素直に褒めるなんて・・」
イーリスははにかんで視線をそらした。
こういう所はまだ初々しい。
だけど守ってやる存在だと思っていたイーリスは、いつの間にかれっきとした仲間になっていたんだな。
「イーリス、頑張ったご褒美にキスしてやる」
「ちょっ・・やめて、そんなの褒美じゃないっ!」
嬉しくなって抱き上げたんだがイーリスはバンバンと俺を叩き抵抗してきた。
ちぇっ、まあ確かに俺の方が喜ぶんだから褒美じゃないな。
「では、あなたの剣となって戦ったわたくしめにお姫様から褒美をくれませんか?」
そう言ってイーリスの瞳を見つめると俺を殴っていた手が動きを止めた。
「・・・むぅー・・・・そんなにしたいの・・?」
「したいです」
「・・・もう、しょうがないなぁ・・・」
その小さな声を合図に桜色の唇が俺に褒美を与えてくれた。
その日の夜。
俺はアオイの待つ宿屋へと向かった。
とりあえずメラーニエも街に連れ帰った事だし
他にも色々とやるべき事はあるがまずは、というわけだ。
「入るぞ」
ノックをして扉を開ける。
「鍵ぐらいかけろよ」
ベットの上で腰掛けていたアオイにそう声をかけた。
「来たのね・・・」
既に風呂に入ったらしく迷宮で会った時のように血で汚れてはいない。
だが、こびりついている血の匂いまでは落とせない。
部屋に入った瞬間から、まるで戦場のような匂いがした。
「いいのか?本当に。
俺の物なんて言って」
「ええ、マクベインを殺す為に生きてきたんだもの。
マクベインを殺した人の役に立つのならそれでいいわ」
なんだそりゃ?
つったら怒るかもしれんが、変な話だ。
こんないい女が俺の物になるって言ってるんだからありがたい事だがどうにも嬉しくない。
「じゃあ、とりあえず脱いでもらおうか」
「わかったわ」
全くの躊躇なしにアオイは服を脱ぎ始めた。
恥じらいも照れも遠慮もない。
豪快とすらいえるほどの脱ぎっぷりだ。
「脱いだわ」
「じゃあセックスするからベットに寝てくれ」
一糸纏わぬ姿になったアオイはまた言う通りにベットに寝転がった。
違う、違うぞアオイ。
お前は重大な勘違いをしている。
「・・・どうしたの?」
「・・・いや、俺も脱ぐから待ってろ」
得意の早脱ぎで全裸になってしまうとアオイの上に覆い被さる。
豊かな乳房のぬくもりが胸に伝わってくる。
思わず勃っちまったものが女にしては逞しい太ももに当たった。
それでも、アオイは何も表情を浮べない。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・どうかした?」
アオイは美人だ。
美人だけど今のままじゃ違うんだ。
それにこのまま犯っちまってもアオイは絶対気持ちよくはならねえ。
俺はアオイの身体でオナニーする為に来たんじゃない。
俺は美しい侍の上にかぶさったまましばらくの間、頭を悩ませた。
「アオイ、俺の子供を産め」
散々悩んだ挙句、俺はこう言った。
「・・・・・・それは・・・困る」
予想通りアオイが困惑の表情を浮べた。
勘違いしているから。
「何故だ」
「わたしの子供など不幸になるに決まっている。
不幸になるとわかっているのに・・・」
「そいつは違うぜ」
アオイが怪訝な顔をして俺を見つめ返した。
「不幸なのはお前だ。
不幸なのはお前だけでお前の子供は不幸にならない。
さらに言うならお前が仇を取ろうとした村の人々も不幸じゃない。
そこを勘違いしているお前が不幸さ」
「なんだと・・!」
おお、怖え。
アオイが怒るとやっぱ迫力あるな。
「怒ってもいいが本当の事だ。
馬鹿にしたりするつもりじゃないぜ。
お前の話じゃ、お前の村の人たちは善良で純粋な人たちだったんだろ?」
アオイは俺を睨みつけてきた。
大事な思い出を話したくないのかもしれんが、アオイの為にもここで引くわけにはいかない。
俺はただじっとアオイを見つめ続けた。
次第にアオイは睨むのを止め、口を開き始めた。
「そうよ。
スーラ村の人たちはとても、純粋で・・・・みんないい人だった。
その頃の私は教会のシスターだったけれど教会に来る人達は
何も大それた事なんか考えても無い、ささやかな幸せを願う人ばかりだった。
私は今でも村の皆の顔を全員思い出せるわ。
みんな・・・とても・・・」
アオイの声が潤み、途切れた。
仇をとったという思いからか、感傷的になってるんだろう。
まさか、アオイが涙を見せるとは思っても見なかった。
「・・・そのみんなが不幸だったと思うのか?
みんな幸せだったんじゃねえのか?
お前のように今でも覚えていてくれるようなシスターがいて
村人同士で協力しあって暮らしてたなんてものすげー幸せじゃねえのか?」
「そうよ!幸せだったわ!
だけど、みんなあの男に殺された!
だから私は・・・!」
アオイの涙が勿体無いほどぼろぼろとこぼれ始めた。
仇は討ったというのにアオイの不幸は終わっていないのだ。
「だからどうした」
「どうしただと!
貴様はあの光景を見ていないからそんな事が言える!」
泣きながら怒るとは器用な奴だ。
もうちょっと生き方の方も器用になれたらよかったのにな。
「そんなの、たった一日の事じゃねえか。
そりゃ最後は惨殺されたのかもしれん。
無残に焼き殺されたのかもしれん。
だけど、人生の中のたった一日だ。
不運だったかもしれないけど不幸じゃない。
それまでの日々が幸せだったというならそれでいいだろうが!」
「たった、一日の不運・・・?」
アオイの呟いた声は少し震えていた。
「例え六歳のガキでも六年も幸せだったんだ。
たった一日不運だったぐらいでなんだ?
それまでの人生はそんな事で覆らないだろ!」
アオイは呆然としていた。
戸惑いを浮べている瞳は俺の顔を映している。
指の腹でそっとアオイのほっぺたを拭ってあげる。
「みんなの顔を思い出せるというのなら死ぬ間際以外の顔も思い出せよ。
みんなそんな不幸そうな顔してるのか?」
涙の止まった瞳が俺を、通り越した。
空を見つめ始めた瞳の先に何が映っているのか俺には分からん。
笑顔の村人が映るはずだったんだが、アオイはまた泣き出した。
参ったな。
あんまり幸せそうじゃない顔しか思い出せなかったのかもしれない。
かける言葉も尽きた俺の前でアオイはわんわんと子供のように泣きじゃくっている。
果たして俺はどうするべきなのだろうか。
正直言ってもうチンコは破裂しそうに膨らんでいる。
アオイみたいないい女と裸で触れ合っているんだ、仕方無い。
だが、さすがにこの状況で挿入するのは俺もどうかと思う。
手持ち無沙汰になった俺はアオイの緩やかに波打つ髪をそっと撫でた。
子供をあやすように優しく、泣き止むまで撫でつづけた。
泣くと人間って体温上がるんだなー、なんて考えながら。
その後もしばらく泣きつづけたアオイは俺の胸で涙を拭くとにっこりと笑ってくれた。
「さすが聖騎士ね。
シスターだった私でもあんな輝いた言葉聞いた事無かった」
「ちっ、よせよ。
今じゃ除籍されたお尋ね者だ」
「ふふ、ごめんね。
じゃあ言い直す。
さすがね、シラン。
女を慰めるのはお手の物みたい」
明るい言い方に俺はほっと安堵した。
人斬りとはまるで別人のようなアオイがそこにいた。
女らしい言葉使いに柔和な笑みを浮べた、多分、本当のアオイが。
「今からのお前はちゃんと幸せになるんだ。
本当は、この後『俺がお前に女の幸せを教えてやる』って言って襲うつもりだったんだがな。
まあ、いいさ。
そんな気も失せた」
そう言って身体を起こそうとした時、アオイの腕が俺の首に巻きついた。
「女の幸せ、教えてくれないの?」
とろけるような笑みをクスリと浮べ、アオイは俺をぐっと引き寄せた。
「い、いいのか?」
「あなたの子供を産むんでしょ?」
そう言うとアオイはもう一つの腕の手の平を俺のほっぺたに当てた。
「嬉しかった。
私、本当に嬉しかったの」
アオイの潤んだ瞳に俺の顔が映っている。
「私、皆がずっとずっと地獄の炎に焼かれ続けているような気がしていた。
仇をとるまで皆が救われないと思ってた」
アオイは言葉を区切りじっと見つめてきた。
「だけど、違うんだね。
皆を地獄に縛り付けていたのは私だったんだ。
シランの言葉で私の中のスーラ村は地獄の炎から解放された」
アオイが言葉を連ねるたびに芳しい香りが俺の鼻腔をくすぐる。
「ありがとう」
そう言ったアオイの唇が俺に押し当てられた時、我慢の限界を突破した。
例え、アオイが感謝の気持ちだけで許したのだとしても
俺はこの肉体を愛さないで帰ることは出来ない。
むちゅむちゅと唇が空気を鳴らす。
互いの唇の間に挟まった唾液が行き場を無くし顔を汚す。
アオイのキスはぎこちなく、激しかった。
差し込んだ舌は痛いほど吸われ、舐め尽くされた。
俺は顔を解放してもらうのを諦めアオイの体を撫でる事にした。
アオイの肉体はそんな大きくない。
縦にも横にもだ。
細身の身体を締まった筋肉が覆っている。
美しく素敵であるとともに今までの苦労をうかがわせる体は
アオイの一途さや純粋さをも表していて至高の芸術品のような趣きがある。
片手をアオイの頭の下へ潜らせ支えを作ると
可憐な肩から優美な鎖骨へ、そして麗しい胸のふくらみへともう片手を滑らせた。
「はぅんっ!」
とりあえず乳房を一揉みするとアオイの顎が上がった。
さらにやわやわと手の平を押し付けるとアオイの眉間に皺が走る。
腹筋なんか割れてて身体中、筋肉に覆われているのにおっぱいだけは柔らかい。
「あっ・・んはァっ・・」
胸をこねているとアオイの口から甘い吐息がこぼれてくる。
それでも腕の力はますます強くなり離してくれない。
しゃあない。
身体を弄ぶのはとりあえず一発やってアオイを落ち着かせてからだな。
「アオイ・・・」
名前を呼んで気をそらしてから手を下の方へ滑らせる。
「シラン・・・ひゃぅっ!」
手探りで下腹部から恥丘を探し出すとアオイの顎が跳ねた。
入り口を探して指を這わせるとくちゅくちゅと湿った音がする。
「もう準備出来てるみたいだな」
「ん・・」
アオイは一瞬だけ下の方を見下ろし、目を閉じると足をゆっくりと開いていった。
「じゃあ、入れるぜ」
そう言って腰を落としあてがうとアオイはぷいっとそっぽを向いてしまった。
「こっち向けよ」
「や・・・」
俺の首から離した手を広げ顔を隠そうとする。
「お前の顔、見てたいんだよ」
耳元で囁くと、アオイはようやく手を外しこちらを向いた。
しかし、その目は潤み視線の先を迷っていた。
「好きだよ、アオイ」
「あ・・・」
そろそろと中へと侵入させると、アオイの唇は震えながら少し開いた。
「ぅぅ・・・」
アオイの瞳は受け入れえている者を確認するように俺を見つめている。
「分かるか?」
媚肉をかきわけて深く埋め込んでいくとアオイはピクピクと引きつりながら小さく、頷いた。
アオイの奥まで挿入してしまうと大きな胸を鷲掴みにした。
「あんっ・・!」
下に重なっている肉体がくねり、もっともっととせがんでくる。
「へへ、お前実はエロエロだったんだな」
「はぅっ・・・ちが・・・ぅよォ!
ふぅぅっ・・・」
「違わないさ。
胸揉まれただけでこんななってるくせに何言ってるんだ?」
アオイは真っ赤になった顔を横に向けた。
だけど、口からは相変わらず声が漏れている。
腰は全く動かさず、胸を揉んだだけでアオイは身体をよじってベットの上を這っていく。
あまりに動いたせいでアオイはベットの天板にゴンと頭をぶつけた。
「やん・・もう・・やァ・・ァっ」
腰を動かし始めるとアオイの声はさらに激しくなっていく。
エッチの時はこんな可愛い性格になるのか。
こういう風に変わったりするから止められないんだよな。
「いきたそうだな。
もう、いっていいぞ」
優しく囁くとアオイはいやいやとかぶりをふった。
「わかんないっ・・わかんないよォ・・・っ・・」
ずちゃずちゃと粘液をこねる音をたてアオイの身体が動きを止める。
何かに耐えるアオイの顔を見ながら愉しんでいると俺の腰が押さえつけられた。
アオイの気持ちを代弁するように美しい脚が俺に抱き付いて来た。
「んーーーっ!」
一際大きな声を出し、アオイは俺を激しく強い力で抱きしめた。
その胎の脈動に俺は欲望を解放させられた。
「くぅ・・・・」
抱きついたまま、目から光りを失ったアオイの奥に精液を吐き出す。
それでも俺は腰を止めなかった。
射精しながら媚肉を擦り、胎の中へ撒き散らした。
アオイの膣は喜んでいるかのように締め付け、搾り取り、次をせがんだ。
「んっ・・」
半開きになった口に舌をねじこむ。
アオイが快感に動けないのをいい事に唾液を奪ってすすった。
舐め返してくるまで俺は柔らかな舌をしゃぶり
アオイが反撃に出ると腰を動かして肉壁を抉る。
まだまだ夜は終わらない。
やり疲れてぐったりと覆い被さっているアオイの髪を摘み上げる。
さらさらと波打つ髪は朝日を浴びてまるで黄金のように輝いていた。
「シラン・・・」
胸板を枕にしていたアオイが顔を上げた。
「なんだ?」
「ふふっ、なんでもない」
笑顔を見せるとアオイはまた顔を降ろした。
「・・・ねえ、死なないでね。
父無し子じゃ可哀想だもの」
どうやら、本気で俺の子供を産む気らしい。
「俺でいいんだな。
お前ぐらいにいい女なら男なんて選び放題だぜ。
・・・ま、今さら嫌とか言っても離す気ないけどよ」
そう言うとアオイは身体を擦りつけるように身体の上を這い上がり
俺の顔を両腕でがっしりと掴んできた。
顔を突きつけ鼻を合わせ、でもキスはしてくれない。
柔らかい吐息だけが俺の顔に浴びせられる。
「私の事いい女だなんて言ってくれるの、シランだけだわ。
こんな筋肉つけた可愛くない・・・血の匂いのする人殺し・・・」
自虐的な事をいいながら何故かその顔は嬉しそうに微笑んでいる。
「シラン、が、いいのよ。
お礼とかそういうのじゃなくて、ね」
最高に可愛らしい笑顔を見せアオイは軽くキスをしてくれた。
「束縛も独占もする気ないけど、子供が出来るまで一日最低一回はしてもらうわ。
それと、子供も養ってもらうからね」
本気の目だ。
絶対に逃がさないという女の目をしている。
だがまあ、こんだけの良い女なら一生養ってもいいや。
「ああ、養うさ。
世界で一番幸せな子供を産ませてやるよ」
アオイは自分のお腹に手をあてがい目を閉じた。
「ふふっ、シランの子は兄弟が多そうだ」
アオイの顔には幸せそうな笑みが浮かんでいた。
この日からこの笑顔は俺の自慢の一つになった。