<TO MAKE THE LAST BATTLE3〜地下2階・後編>

淫蕩な音が闇を充たしていく。
古代の王と王妃の交わりは、ある時は緩やかにある時は激しく、大海がうねるように続いた。
傍らの魔獣のつがいも同じように交わり続けている。
空気そのものが媚薬に変わったような香気の中、王妃がのけぞりながら嬌声を上げた。
「ああ、よい……よいぞ、ラムセス。そなたは、どうじゃ?」
「私も…です。姉上」
「そうかえ。──ならば、もっとわらわを愉しむがいい。そなたの喜びは、わらわの喜び──」
「姉上の喜びは、私の喜び」
獣の体位で交わりながら、ネフェル王妃は首を捻じ曲げ、
背後から覆いかぶさるようにして自分を貫いている夫と口付けを交わした。
スフィンクスも、同じ体位を取る。自分たちを真似るペットのしぐさに、主人夫妻が笑みを浮かべた。
「んん──。そう言えば、ラムセスや──」
「なんでしょう、姉上?」
「あの二人、勝てるかの──?」
「……さて、正直、難しいところですな」
力強く腰を動かしながら、大帝は悲観的な答えを返した。
王妃の眉が少し曇る。
偽司教と偽女盗賊として、ともに迷宮を歩いた短い時間、彼らはまちがいなく夫妻の<仲間>だった。
「──あの<バラの貴婦人>とやら、けしからん売女どもじゃが、なかなかの使い手。
あの二人の好漢があたら命を捨てるのは惜しい。──と言って、わらわたちがこれ以上手を貸すわけにも行かぬ」
「然り。人は、己のけじめは己の手で着けなければなりません」
「聞いても、せん無いことだが、そなたの見るところ、勝ち目はどれくらいじゃ?」
「さて。──戦士の勝負は、強いものが勝ちます」
生前、もっとも無慈悲な征服者と呼ばれた王は、どこまでも冷徹な戦士だった。
その秋霜のような真実の言葉に、王妃の眉はますます悲しげにひそめられた。
「──ただし、戦士の強さとは、つまるところ覚悟の重さです。
……今のあの二人ならば、私が戦っても百に一つ、いや二つくらいは取られますかな」
王は、唇の端に微笑をのせて言葉を続けた。
王妃の顔がぱっと明るくなる。
「なんじゃ、それを先に言いや! ──そなた相手に<勝ち目がある>戦士など、この世に何人おるかえ?
 あの腐れ女どもがそなたに何回挑んだとして、勝ち目は──」
「一度たりともありませんな──たとえ、砂漠の砂粒、全ての数だけ戦っても」
「それでは、勝負は見えておるではないか。──あやつらの勝ちじゃ」
ネフェル王妃は少女のようにはしゃいだ。
まっとうに生きるものが勝ち、邪まに生きるものが敗れる。
そうしたことを無邪気に喜ぶこの王妃がいなければ、ラムセス王の治世は暗黒時代になっていただろうと言われる。
魔人と呼ばれた冷酷な征服者は、ただ一人姉に対しては絶対服従であり、そしてその姉は慈悲と正義感と義侠心にあふれていた。
ラムセス王時代の古代帝国の輝かしい業績のうち、今なお語り継がれる文化とモラルは、全てネフェル王妃が作ったようなものだ。
しかし、王妃が、何かを思い出したように目を見開いた。

「しまった──」
「いかがされました?」
「たしか、<貴婦人>とやらは六人と言っておったな。──今そなたが斃したのは、三人」
「残るは三人。──二対三ではなかなか厳しいですな」
「むむ。一人分だけ、加勢に行こうぞ」
王妃的にはどうしても雷電たちを勝たせたいらしい。ラムセス王は苦笑した。
なぜ姉が、そこまで見ず知らずの冒険者風情に加担するのか、ラムセス大帝はこの場に来る前に聞いている。
単に正義感や、古い友人の敵の邪魔をする、という理由だけでは王妃の情熱は説明が付かなかったからだ。
「──女の浪漫じゃ」
問われて、ネフェル王妃は簡潔この上ない言葉で答えた。
「女の、浪漫……?」
「好きな女を救いに、男が危険を顧みずに戦いに赴く。女子の本懐、これに如くものはない。手助けもしたくなるものじゃ」
「はぁ……そ、そういうものですか」
多少辟易しながら、ラムセス王はしかし異論を唱えることはなかった。
しかし、今にも加勢に駆けつけたそうな王妃に対しては、静かにその唇をふさぐことでその動きを抑えた。
「──ご心配をなさらずに。今、三人目の戦士が到着したようです」
「三人目?」
不意にスフィンクスが立ち上がり、左右に分かれた。うなり声を上げて通路の奥を睨みつける。
「……ここ、通ってもいいですか? あっちに行かなきゃならない用があるんです」
通路の向こうから現れた少年は、魔獣の視線を受けてもいささかも動じずに問いかけた。
「よかろう」
ラムセス大帝は頷いた。
ネフェル王妃を抱きしめ、背後から貫いている淫蕩このうえない体勢だ。
だが、東西の美女代表の片割れが半裸で性交している情景に立ち会いながら、少年はそれに目を奪われることはなかった。
主人の言葉に反応して、すっと左右に分かれたスフィンクスを一瞥し、夫妻に軽く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「む。──良き覚悟じゃ。先ほどの二人に勝るとも劣らぬ」
少年が自分の美貌にまったく心動かされなかったことを、ネフェル王妃はむしろ喜んでいた。
「この先に何が──誰がいるか知っておろうな?」
「はい。──僕が一度裏切ってしまった、大事な人です」
「そうか、──再び裏切ることはあるかや?」
「いいえ、決して」
「ならば、行くがよい。三人目の戦士の座、任すに足る」
ネフェル王妃は満足げに言い、王がそれを受けて頷く。
「そなたはすでに十分な武器を持っているようだな。ならば我が与えるは、言葉一つ。
 戦士ならば、勝つために二つの物以外の全てを捨てる覚悟を持て。
 捨ててはならぬのは、誇りと守るべきもの──それ以外はいつ何時でも捨ててよいものと知れ」
「ご忠告、ありがとうございます」
アリソンは頭を下げた。

──砦の扉をくぐって消え去るその姿を見送ったラムセス王が、感嘆の呟きをもらす。
「今の世は、面白いものですな。我らの時代には一人もいなかった腐りきった騎士がいると思えば、
 あれほどの戦士たちが、同じ場所に集うこともある」
「ほほほ。惚れたかえ、ラムセスや。そなたは魔品に執着することはないが、良き戦士を集めるのに躍起になったものじゃ」
「然り。あの三人──同じ時代に生まれていれば、私の戦士に欲しかった」
「手に入れておれば、もう三十ほど国が取れたかの?
 だが、諦めよ。──あやつらが命を捧げる相手はそなたではないぞえ」
「──ですな。しかし、惜しい……」
ネフェル王妃は、手に入らぬおもちゃに未練気な弟を優しくたしなめるように口付けを与えた。
「さて、わらわたちは帰るとしようかえ? そろそろ棺の中が恋しくなったわ」
「結果をご覧にならないので?」
「──三対三になったのであろ? 後は、見ずともわかるわ。──わらわは眠くなった。ラムセスや、添い寝をくれるかの?」
「喜んで」
闇が溶け始めた。
美しい夫婦と、一対の魔獣の姿が消えていく。
ピラミッドの主が帰還した後は、僅かに淫蕩な残り香だけが残った。



「ふふ、襲撃者が、貴女たちのナイトだといいわね」
マーラ伯爵婦人がオーレリアスの背後から優しく声をかけた。
半裸の女エルフの首筋に優美な唇を当て音を立ててキスしたが、オーレリアスは快楽ではなく苦痛の表情を浮かべる。
獣の姿勢で床に這う女エルフは、背後から肛門を犯されていた。
大きめのディルドーを片手で動かしながら、伯爵婦人が優しく微笑んだ。
おもちゃを──奴隷をいたぶるときの蔑みの表情だ。
「襲撃者は、侍と戦士だそうよ。ひょっとしたら、貴女のお仲間が生き返ったのかも」
苦痛にゆがんでいたオーレリアスの表情に驚きが走る。
それが期待と喜びの表情に変わる寸前に、伯爵婦人はディルドーを強く動かして新たな苦痛を与えた。
「あら、だめよ、こんな程度で音を上げちゃ。──トレボー陛下の<サックス>はもっと大きくて硬いのよ。
 あなたは華奢だから、それを受け入れるような身体になるまで、いっぱい嬲ってあげる。
 ふふ、襲撃者が貴女の恋人だったらいいわね。こんな浅ましい姿を見させることができるもの」
慈母のような表情で女ロードはささやいた。
彼女を知る男が、みな心引かれる優しさは、女に対して向けられることはない。
否、その優しさを与えた夫や過去の情夫たちに対しても、必要ならば裏切りと死を与える──この笑顔で。
「マーラ、遊びすぎないでね。──そろそろ来るわ」
カディジャール婦人が戸口に視線を注ぎながら釘を刺した。
こちらも、女忍者をディルドーで犯しながらの言葉だが、マーラほど執拗ではない。
愉しみは襲撃者を撃退してからゆっくりと、という考えだ。
アイリアンが、強い光の溜まった瞳で睨んでくるのを涼しい顔で無視しながら、<バラの貴婦人>のリーダーは立ち上がった。
他の二人もそれに習い、剣の柄に手をかけた。

青銅の扉が、ゆっくりと押し広げられる。
侍と戦士の二人組が入ってきた。
「雷電──!」
「ジー君!!」
女忍者と女魔術師が驚きの声を上げる。
死んだと思っていた──実際一度は死んでいたが──恋人たちが、本当に来てくれた。自分たちのために。
驚愕は歓喜に代わり、それに羞恥が混じった。
<貴婦人>たちにいいようになぶられていた自分たちの姿に気がついたからだ。
「あらあ。そんなに恥ずかしがらずに、貴女のいい人に、よくお顔と身体を見せてあげたらどう?
 ──久々の再会だもの、私たちにおもちゃにされている姿でもきっと喜んでくれるんじゃないかしら?」
マーラ伯爵婦人がオーレリアスの髪をつかんでぐいと突き出す。
半裸の女エルフは羞恥と屈辱と慙愧の念でパニック状態になる。
「──彼女を放せ」
大男が、静かにことばを放つ。
侍のほうはともかく、単純な戦士は挑発に乗って突っ込んでくる、と思ったマーラ婦人は予想が外れて眉根を寄せた。
「あら、思ったよりも冷静ね」
カディジャール婦人が雷電から目を離さずに言った。
「トレボーの連れてきた魔物たち相手に戦い尽くめだったからな。
ジンスも俺も、この数日でずいぶんと場数を踏んだ。もう、そんな手には引っかからん」
「そのようね。地上に戻れば、20…いいえ25レベルにはなっているかしら。
 私たちにとっても手ごわい相手になっていたでしょうね。
 でも、残念。今のあなたたちは、その貴重な経験がまだ体に馴染んでいないわ。
 精神力はともかく、戦闘力はこの間私たちと戦ったときと同じ、マスターレベルに成り立てのひよっこさん。
 つまり、──今回も勝ち目はなし、よ」
婦人はにんまりと笑った。
彼女が言ったとおり、もし彼らが引き返し、<冒険者の宿>で休息を取りながら
その戦闘経験を自らの魂に摺込む儀式を行った後ならば、
あるいは<バラの貴婦人>をも瞠目させる達人に生まれ変わっていたかもしれない。
だが、今の二人は、レベル的には<貴婦人>にやすやすと敗れ去った状態と変わりない。
「……果たしてそうかな? 戦いは、何が起こるかわからぬもの。この数日でつくづくそれを思い知った」
雷電は、手に提げていた刀をゆっくりの鯉口をゆっくりと切った。
「その刀──村正!?」
カディジャール婦人が驚きの声を上げた。
「……なるほど、強気の理由はそれね。どこで拾ったかは知らないけど、
 そんなものを手に入れたくらいで私たちに勝てると思っているのなら、ずいぶんと舐められたものだこと──」
「この刀を手に入れたから勝てる、とは思ってはおらんさ」
「まあ、そういうことにしておいてあげましょう。そちらの戦士の剣も、業物と見たわ」
ジンスが背負った大剣の、肩口から見える柄頭と雰囲気だけで推測したカディジャール婦人は、すばやく計算した。
「……確かに一騎討ちなら、千にひとつ、いいえ、百に一つの勝ち目ができたかもしれないわね。
 戦いは、常に確実に勝つことが大事。──こちらは三人で戦わせてもらうわよ。
 私はこの侍を、マーラはあの戦士を。ワンダは、隙を見てどちらかに加勢しなさい」
三対二ならば、わずかに生まれている逆転の可能性さえもなくなる。
──だが、それは誇り高い騎士道に生きる者の言葉か。
他の二人がにやりと笑った。
美女が、その美しさを崩さずにここまで卑しく笑えるものだと知れば、悪魔とて戦慄するだろう。
「──恥を知りなさい! <バラの貴婦人>」
ミッチェルの声は、かつて彼女たちを遠い目標に仰ぎ見ていた女君主見習いの悲痛な叫びだった。
「何とでも言いなさい。……一人だけナイトが誰も来てくれないお姫様」
ワンダ公爵夫人が嘲笑した。
──これが女騎士の最高位にあると言われた人間の言葉か。
あらゆる希望を失い、今、最後に信じて心の支えとしている騎士道すらみじめに踏みにじられた少女が、
迷宮に連れ去られてからはじめて涙を流した。
ミッチェルの頬を伝う涙を見て、ワンダは笑みを濃くした。
「──待て。その子のナイトなら、ここにちゃんといる!」
入口から声が上がった。
ミッチェルが眼をいっぱいに見開き、ワンダが愕然と振り向いた。
「……もっとも僕は、まだ騎士見習いの身分だけどね。
 ワンダ叔母さん──いいや、背徳者ワンダ、貴女の相手はこの僕だ!」
戸口を潜り抜けながら、アリソンは昂然と言い放った。
傷だらけの黄金の鎧を着込んだ少年をちらりと見やって雷電がわずかに口元を緩めた。
味方が増えたことではなく、少年の示した勇気を喜ぶ先輩者の笑み。戦士は、見ず知らずの戦士に共感できる人種だ。
「これで、三対三。異存はあるまいな」
「……」
「もうひとつ、いや二つだけ言わせて貰おう。やはり、戦いは何が起こるかわからぬものだったな。それと──」
「それと──?」
「何が起こっても、この戦いは俺たちが、勝つ」
矛盾する二つの言葉は、<貴婦人>たちがとっさに言い返せないほどの重さを含んでいた。

「──そう言えば……」
棺の中で、姉が弟に問うた。
「あの侍に渡した刀、あれは──<あれ>、かえ?」
「もちろん。その名を冠した刀は幾振りか持っておりましたが、あの男にふさわしいのは、やはり<あれ>でありましょう」
「わらわも、そう思う」
「新刀よし。外道よし。されど古刀に如く物はありますまい」
「さすが、目利きじゃの」

カディジャール婦人は雷電と対峙した。
慎重に間合いを取りながら、相手を見据える美女の口元に冷たい微笑が浮かんだ。
「その刀、<村正刀>ではないようね。<裏村正>でもない」
「左様。茎(なかご)には、ただ、村正とだけ刻んである」
「ムラマサ・ブレード……。これは、また骨董品を」
婦人の微笑は嘲笑を含んでいた。
妖刀村正には、実はいくつかの種類がある。
<災厄の中心>の迷宮で強力な魔物を屠るために鍛えられた<村正刀>──ムラマサ・カタナは、
オーディンソードと同じく<必殺>の能力を持ち、巨大な悪魔すらも一撃で斬り殺すことが可能だ。
また最強最悪の妖刀と呼ばれる<裏村正>は、持ち主の生命をすすって攻撃力を増し、その力は文字通り桁外れだ。
だが──。
「初代<村正>。遠い昔の<ワードナの迷宮>ならいざしらず、今の世で通じると思っているの?」
この百年。迷宮での戦闘は大きく変わった。
新たに生まれた迷宮は強力な魔物を生み出し、それに対抗するため、魔法加工を含めた防具と体術は著しい発達を遂げた。
かつての戦いならば十分に致命傷を与えたろう攻撃が、魔物にも冒険者にも中規模のダメージしか与えられないことも多くなった。
そんな中で武器も大きな変化を遂げた。
単純な切れ味──攻撃力ではなく、<必殺>の魔力が込められた武器が重要になってきたのだ。
火竜の数倍もの体力を持つエアジャイアントやマイティオークも、<必殺>の能力を持つ剣ならば一撃で斃すことが可能だ。
オーディンソードやムラマサ・カタナはそうした意図のもとで鍛え上げられた剣である。
純銀の魔法鎧で完全武装した女ロードの領袖は、自分の体力にも自信があった。
──<必殺>の能力さえなければ、何も怖いものはない。<村正>も、この侍も。
女ロードの嘲笑に、雷電は答えなかった。
村正を抜いて青眼に構える。青眼──もっとも基本的な構えだ。
「ほほ、構えまで古臭い」
「そちらは、随分と新しい剣技らしいな」
婦人の構えたオーディンソードの切っ先は、中段とも下段ともつかぬ位置に向けられていた。
しかも、身体の中心線がずれ、バランスが捻じ曲がった姿勢だ。──雷電が見たこともない構え。
「剣技は日々進歩する。<必殺>の効果を持つ剣を持てば、重要なのは力でも速さでもない。──多段攻撃よ」
「なるほど。──しかしそれが進歩と呼べるかな?」
婦人の姿勢は、見るものが無意識に不快感を抱くものだった。
美しいものは、バランスが狂えば逆に醜く見える。
「──ほざきなさい!」
カディジャール婦人は地を蹴った。
雷電が応じる。
先に仕掛けたのは女ロードだったが、斬撃は侍のほうが速かった。
「──後の先」
剣理の基本中の基本だ。
だが、婦人は余裕を崩さなかった。
自分の体力と体術、それに鎧の防御力を考えれば、村正の連撃でさえ耐えられる。
しかし、こちらが雷電を斃すのには通常の攻撃で十分おつりが来る上に、
多段攻撃のうち一回でも<必殺>の効果が現れれば、そこで戦いは終わりだ。
──その確信にひびが入ったのは次の瞬間だった。
──どん!
みぞおちに、重い衝撃が走った。
切りかかる勢いを完全に殺され、カディジャール婦人の足が止まる。
鎧越しに衝撃が伝わる。多少内臓を痛めたが、これは計算のうちだ。
刹那の間を空けて、袈裟懸けがくる。盾で受け流し、体をかわして鎧の厚い肩で受ける。
これでダメージは最小限だ。残念ね、お侍さん。
──どん!!
一撃目と同じような衝撃。予想外だ。なぜ初撃の同様の威力がある──!?
「……がっ!?」
熱いものが口からこぼれ落ちる。血反吐だった。
「なっ──」
──どん!!! どん!!!
左右に籠手をくらって、オーディンソードを取り落としてしまう。手が、手が動かない。
「──防御が、受けが効かない!?」
そんな、私の体術は、剣技の粋を集めた最新最高の技術のはずだ。
どん!! どん!!!
両足の骨と筋肉が鎧の下で断ち切られるのを婦人は悟った。
やめてやめて──。こんな斬撃をくらい続けたら──死んでしまう!!
「昔、師に教わった。技に溺れる剣のことを、小細工と呼ぶ、と。
 両手両足が動かぬくらいで闘志を失う剣士には、ふさわしい技ではあるがな」
真の技とは、力とともに、修練によってのみ、自然に身に付くものだった。
けっして、剣の魔力に合わせて考え付くものではない。
数十年間、ひたすらに打ち込みを続けた男は、流れるような動作で青眼に構え直した。
──そんな男にこそ、この古刀はふさわしい。
単純な切れ味ならば、今なおオーディンソードやムラマサ・カタナの追従を許さぬ妖刀村正は──。
まっすぐに振り下ろした一撃は、あさましく逃げようとするカディジャール婦人を、鎧ごと真っ二つにした。

「ところで──」
優しい闇の中で、弟が姉に問うた。
「姉上が渡したあの剣は……」
「ああ、<あれ>じゃな」
「やはり──」
姉のやらかした悪戯に頭を抱えているような声に、王妃は悪びれずに強弁した。
「なんじゃ。別に盗んだわけではないぞ。
 だいたいアラビクも、マルグダも、ベイキすらおらぬリルガミンに、あんな物騒なものを置いていては危険じゃ。
 だから、わらわがしばらく預かっておこうと思っただけじゃ。
 現に役に立ったではないか。わらわのすることに間違いはない」
市営博物館から魔剣を強奪したのは王妃お気に入りのペットであったらしい。
「──まあ、その通りですな」
幼い頃から、ネフェル王妃のいたずらで被害をこうむり続けた男はため息混じりに呟いた。
もっとも姉は、その後で弟にたっぷりと埋め合わせをする女性だったから、被害を受けるのも彼の愉しみではあったが。
「わらわは、剣のことは良く知らぬのじゃが、──要するに、あの手の物は力任せに斬れればよいのであろ?
 ──ならば、あの大男にふさわしいと思ったのでな」
無邪気に笑いながら、この世でもっともシンプルでもっとも枢要な剣理を言い当てた姉に、弟は絶句した。
「……つくづく、かないませんな、姉上には」
「当たり前じゃ、女房が亭主より賢くなくて、どうするのじゃえ?」
簡単に言い切った妻が、棺の中で身を寄せてきた気配にラムセス王はにっこりと笑った。

「──その剣……!」
マーラ伯爵婦人は、ジンスが抜き放った大剣を見て眼を見開いた。
「<ハースニール>!!」
<ダイヤモンドの騎士>の装備のひとつを目の前にして、<バラの貴婦人>が戦慄する。
オーディンソードと同じ<必殺>の能力を備え、<ロルト>の魔力を無限に秘めた魔剣は警戒するに値する武器だ。
「へえ。こいつ、そんな名前なんだ」
ジンスが、初めて聞いた、と言うように復唱した。
伯爵婦人の眉が上がる。
「何かいわくがありそうな剣だけど、ま、俺にわかるのは、こいつがいい剣だってことくらいだ」
大上段に構えながら言ったジンスの言葉に、伯爵婦人はあきれた。
子供すらその伝説を知る魔剣を知らぬとは、この大男は本物の馬鹿のようだった。
(所詮は戦士──下位職に過ぎないわね)
上位職の中でも忍者に次ぐ能力を必要とするロードから見れば、ジンスのような戦士は侮蔑の対象だった。
(この男、<ハースニール>でロルトの術を使えることすら知るまい)
ならば、<必殺>の一撃だけを警戒すればいい。
この馬鹿男の剣筋など、容易に予測できる。
大上段から振り下ろす一撃──それだけだ。
そして、伯爵婦人の予測どおりにジンスの斬撃は来た。
「甘い──」
さすがにかわしきれはしない剣速だ。──マーラは盾の正面でそれを受けた。
受け止め、流し、もう片手のオーディンソードで相手の首をはねる。
これから先、数秒のイメージ、必勝パターンはすでに脳裏に描き出している。
思い通りの戦闘展開に、マーラは唇の端を吊り上げた。
ガツン。
予測の中にない物音がした。
「──え?」
伯爵婦人は自分の盾が真っ二つに切り裂かれていく様を頭上に見た。
<必殺>の効果──ではない。
魔剣の切れ味と、タイミングと、あとは単純な力が生み出す芸当だった。
「な、な……」
愕然としながら、半ば無意識に右腕を動かす。
間に合った。盾が分離仕切る前に、オーディンソードをその下の空間に滑り込ませることに成功した。
横に構えた剣で、上段からの攻撃を受ける。
まずは聖剣で受け止め、押し戻しと受け流しを行いながら、バックステップで間合いを取り直す。
──瞬時に描き直した戦闘イメージが、再度破られた。
「嘘、嘘、嘘──」
マーラは、自分のオーディンソードが小枝のようにへし折れていくのを呆然と見つめた。
聖剣を苦もなく切り裂いたハースニールにとって、頭蓋骨はもっと柔らかい斬撃対象だった。
頭頂から股間までを一気に斬り下げられて、伯爵婦人は絶命した。

「──どうやって生き返ったのか、教えてくれるかしら? 可愛いアリソン」
ワンダ公爵婦人は、にこやかに微笑みながら、かつて我が子のように可愛がった少年に問いかけた。
アリソンは答えなかったが、指輪をつけた右手を一振りした。
「指輪?──ああ、<命の指輪>か、<回復の指輪>ね。うっかりしていたわ。
あなたの実家は、リルガミン屈指の魔品蒐集家ですもの。その次期当主が自動治癒の魔品を身に付けていても不思議ではない」
ワンダは、改めてアリソンの装備に目をやった。
「わお、<ゴールドプレート+5>──私の剣の<必殺>の効果が打ち消されるわね。
 でもあなたの剣も<必殺>の魔力のない<カシナートの剣>。──さすがのご実家も魔剣はコレクション不足だったみたいね」
「──この剣に、見覚えがありませんか」
「──?」
小首をかしげた美貌に、アリソンの視線が堅く突き刺さる。
「オーディンソードの一振りくらい、宝物庫を探ればあった。だが、剣だけはこれを使うべきだと思って持ってきた」
観賞用に飾られていたにしては、使い込まれ、傷ついている剣に気付き、ワンダが、あ、と声を漏らした。
「それは……」
「ジークフリード叔父さんの愛剣だ。これで、貴女を、斬る」
「──おもしろいわ。しばらく見ないうちにずいぶんと格好良くなったわよ、アリソン。
ジークの代わりに、ほんとうに私の夫になってもらいたいくらい。ね、私の再婚相手にならない?」
「問答無用!」
嘆かわしいというも愚か、と言わんばかりにアリソンが飛び掛る。
斬り込みの意外な鋭さに、公爵婦人は眉をしかめたが、そこは実力の差でたちまち盛り返した。
つばぜり合い。至近距離でワンダはアリソンを見つめ、アリソンはワンダを睨んだ。
「うふふ、だいぶ腕力もついたようね。さすが男の子、頼もしいわ。──ね、キスしてあげましょうか?」
返答は──突き放してからの荒削りな攻撃だった。容易く受け流す。
「うん、なかなかいい一撃よ。──叔母さん、濡れてきちゃった。
あなたさえ良ければ、本当に戦いをやめてもいいわよ。あなたはもう、十分に騎士の資格があるわ。
私の夫になって、トレボー陛下の騎士におなりなさいな──」
アリソンは誘惑には乗らず、斬撃を繰り返した。
ワンダはため息をついた。
「そう、そんなにあの娘のことが気になるの。──仕方ないわね、じゃあ、お死になさい!」
本気になった<バラの貴婦人>は、たやすく未熟な少年を追い詰めた。
オーディンソードが、カシナートの剣を上から押さえ込む。
中段で絡み合った二本は、どんどんと押し切られて切っ先が床に着かんばかりに下げられた。
「ほらほら、ジークの形見の剣もこんなものね。──言っておくけど、もう降伏は許さないわよ。
 前は優柔不断で命を失ったけど、今回は正しい選択を選ばなかったのが失敗だったわね」
ワンダはこれ以上ないくらいに優しい微笑みを浮かべた。
──その瞬間、アリソンは全力をこめて握っていたカシナートの剣を手放した。
尊敬する叔父の形見の剣を。
この剣で敵をとると宣言した剣を。
からん、と音を立てて長剣が床に転がった瞬間、ワンダはアリソンの次の行動を見切っていた。
剣を投げ捨てた瞬間、腰の短剣を抜き放ち、自分に切りつけてくる。
(お馬鹿さん──そんな飾り物でどうしようと言うの?)
その短剣が特別な魔品でないことは戦闘前に見切っていた。
だから、自分の首筋に向かうその刃を、わずかに身をそらせることでかわす行動にはいささかの怯えもなかった。
──それが、正確にワンダの頚動脈を断ち切るまでは。
「──え?」
信じられないという表情で、短剣を、それを掴むアリソンの手を眺めたワンダの目が見開かれる。
「──自動回復の能力を持つのは、<命の指輪>や<回復の指輪>だけじゃない」
持ち主に、回復能力と同時に<必殺>の効果も与える魔品──<トロルの指輪>を輝かせながらアリソンは言った。
「ある人が教えてくれた。誇りと守るべきもの──それ以外はいつ何時でも捨ててよいものと知れ、と」
恨みをはらす、という思いを捨てれば、叔父の形見さえも勝利のために捨ててよいものだった。
「……やるわね。でも、その指輪が…あっても、あの状態で、よく剣を捨てる…決断を……」
致命傷から血を吹き上げながら、ワンダはアリソンを見つめた。
その美貌は、おどろくほどに穏やかだった。
逃げ回ることに疲れた罪人が、ひそかに待ち焦がれた断罪を受けるときのように。
「──次に生まれてくるときは、決断を早めにする男になれ。……そう教えてくれた女(ひと)もいた……」
アリソンは、視線をそらしながら呟いた。
自分がアリソンを殺すときに言ったことばを聞き、ワンダは蒼白な美貌に微笑を浮かべた。
かつて少年が、憧れとときめきを抱いた微笑みを。
「──そう…か。いろんなものを…汚してしまったけど、アリソンを立派な騎士にすること…は、できたみたいね。
 それだけは、あの世で…ジークに言い訳が立つわ」
ぐらりとよろめきながら、公爵婦人は微笑を笑顔に変えた。
「…叔母さん……」
「ふふ、浮気も裏切りもやるほうは、もうこりごり。やられる側のほうが、よっぽど気が楽だわ。
 やっぱり……私はこういうの、性に合ってなかったみたい。
 ──ジークに謝りに行くわ。……さよなら、ごめんね」
がっくりと倒れこむワンダの死体をアリソンは両手で抱きとめた。
<貴婦人>のなかで唯一、己の罪に苦しんでいた女は、六人の中で唯一、死に顔が穏やかで美しい女でもあった。



「雷電……」
「ジー君!!」
解放された女忍者と、女エルフは対照的で同一の反応を示した。
無言で見つめるアイリアンと、駆け寄って抱きつくオーレリアスは、誰が見ても心中に同じ思いを抱いているとわかる。
アイリアンが意を決して、雷電に近寄り、唇を重ねるまでの間に、オーレリアスは6ダースのキスをジンスに与えてはいたが。
「いろいろ、あったな。──帰ろう。リルガミンに」
ひと段落が着いた後で雷電が言うと、皆は頷いたが、オーレリアスだけは異を唱えた。
「待って。──あっちはもう少しかかるみたい……」
そっと向ける視線の向こうに、飛び入りの加勢とその恋人の修羅場を認めて、四人は思わず物陰に隠れて息を殺した。

「……」
「……」
ものすごく重苦しい沈黙に、アリソンは押しつぶされそうだった。
今まで決して友好的でなかった元婚約者との歳月とか、ワンダの誘惑に一度は乗ってしまったこととか、
助けに来るのがめちゃくちゃ遅れたこととか、色々なことが頭の中に渦巻いて、言葉が出てこない。
<バラの貴婦人>を倒した勇者は、もうアリソンの中の何処にも存在していなかった。
(こういうときは、ごめん、が良いのかな、それとも──)
あの王様と王妃様や、ワンダ叔母さんに聞いてみたいところだが、そんな助言は誰からももらえなかった。
「……」
「……」
重さをさらに増した沈黙を破ったのは、ミッチェルからだった。
「その指輪──貸して」
「え?」
「<トロルの指輪>。回復の力があるんでしょう? 私、お尻が痛いの」
ありあわせの布で覆っているが、下半身裸のミッチェルがトレボーや貴婦人たちにいたぶられていたことに思い当たり、
アリソンはうろたえた。指輪をあわてて外す。
「ああ、き、気がつかなかった。大丈夫!?」
「大丈夫じゃないから、指輪を貸してって言ってるんじゃないの!!」
「ご、ごめん──」
動転しきった少年は、先ほどまであれほど声にするのに苦労した言葉が、なんのためらいもなく言えたことに気がつかない。
少女はため息をついた。それは傷が癒され始めたためだけではなさそうだった。
「……で、あなたが私のナイトなの?」
「い、いや、そういうわけでも……」
なんであの時はあんなセリフがすっと言えたんだろう、自分でも疑問だ。
「──最低。自分の言葉に責任くらい持ちなさいよ!」
少女はそっぽを向いた。
別人のように大人びているその美貌に、自分が知っているお転婆娘のしぐさをみつけて、なぜかアリソンは心からほっとした。
「私、トレボー王の花嫁になれるところだったんだからね。その辺も責任を感じなさい」
「ああ、──な、なりたかったの?」

(馬鹿──!)
女忍者が声を上げようとして侍の手で口をふさがれた。
(ジ、ジー君より馬鹿な男の子、はじめて見た)
女エルフはふき出しそうになって、これも戦士に口をふさがれた。

「──あなたって、本当に頭悪いのね!」
そこから先、侯爵令嬢が浴びせた罵詈雑言は、アリソンはおろか、聞き耳を立てている四人にとっても聞くに堪えないものだった。
ひとしきり元婚約者を罵倒し終えた少女が、大きく肩で息をして黙り込んだ頃には、
アリソンは塩を掛けられたジャイアントスラッグのように身を縮めていた。
「ごめん」
何に対して謝っているのか、全然わからなかったが、とにかく少年は謝った。
この返事でまた同じくらい罵倒されそうな予感がしたが──。
「……いいわ。許してあげる。ずいぶん遅れたけど、あなたは来てくれたから──」
意外な返事が戻ってきた。
「……え?」
「……そうね。謝罪の証にこの指輪をもらっておくわ。それで許してあげるわよ」
「あ、ああ、うん」
ミッチェルの突然の変心に戸惑いながら、アリソンは頷いた。
少女は、そっぽを向いた。──何事かを真剣に考えているようだった。
「あ、あの──」
眉間にしわを寄せ、ただならぬ様子の少女に、少年は声を掛けようとする。

(──この阿呆!)
(──そこは黙って待っているとこだろ!)
雷電とジンスが怒鳴りつけようとして、アイリアンとオーレリアスに後ろから殴りつけられた。

ミッチェルは、長いこと考え込んでいたが、やがて決心をつけたようにため息をついた。
振り返ってアリソンを見つめる。
少年は、自分の心臓がどきんと脈打つのを感じた。
元婚約者は、今まで見た中で一番美しい女に成長していた。
「さっきの話だけど、あなた、本気で私のナイトになるつもりだったの?」
「え、ああ、──うん」
「そう。じゃ、誓いなさい。私に生涯の忠誠を捧げるって」
おおよそ傲慢極まりない女王のことばだった。たしかにミッチェルならトレボーの花嫁になれたかもしれない。
ものすごく理不尽なことだが、アリソンは頷いた。
ワンダの誘惑に乗りかけ、一度は見捨ててしまった弱みがある。
(一生、ミッチェルの騎士か)
それは奴隷みたいなものかもしれないな、と心の中で呟く。
見習いとはいえ、騎士道に背いた男にはふさわしい罪の償い方かもしれない。
「うん。僕の一生を、ミッチェルに捧げる──捧げると誓います」
「……そう。じゃ、私も誓うわ。──私の生涯をアリソンに捧げます」
「──え?」
ミッチェルはにっこりと笑った。トレボーに、いや他のどんな男にも渡したくない笑顔。
「……お尻はさんざん犯されたけど、私の処女は、まだ無事。
<バラの貴婦人>の口で犯されたけど、あなたも、まだ童貞。
お互いずいぶん傷ついたけど、純潔の誓いはこれからでも守れる──そうじゃないかしら?」
<トロルの指輪>を左手の薬指にはめていた少女は、頬を染めて元──いや今、婚約が復活したばかりの相手を見返した。
「ああ、──うん」
花嫁候補に比べて、花婿候補はどこまでも間抜けな声をあげたが、
少女が家紋入りの指輪を外して、自分の左手の薬指につけてくれるのを見て、俄然情熱を燃やした。
「み、ミッチェル!」
抱きつく婚約者にファーストキスを許した少女は、くすりと笑ってその身体を押し戻した。
「──これ以上は、まだ駄目よ、アリソン」
「うん。リルガミンに帰って、あの街を復興させて、結婚式を挙げてから──」
「それ、私がおばあさんになる前にちゃんと片付けてね」
夢見がちな少年と現実的な少女はまさにお似合いだった。
「──あ、それから、アリソン」
「何?」
「あなた、これから一生、私以外の女とは、口も聞いたら駄目よ」
「え?」
「私も、あなた以外の男とはもう一生口も聞かないわ……何か文句あるの?」
「い、いや、ない」
「そう。覚えておきなさいね。私、すごく嫉妬深いから。純潔の誓いは絶対破っては駄目よ。
 ──この先、私以外の女からちやほやされようとは夢にも思わないことね」
「……はい」
アリソンは絶望の声をあげた。
なんとなく、この先の一生が見えたように思えた。
「──がっかりすることはないわよ。あなたは私が一生ちやほやしてあげるから。それに──」
「それに?」
「私たちの娘となら、もちろん口を聞いてもいいわよ。
 私、二十人はあなたの子供を産むつもりだから、その半分、十人くらいは私以外の女と口を聞いていい計算になるわね。
 十人よりもっと多く娘がほしかったら、──頑張りなさい、私の未来の旦那様」
衝撃的で甘美な未来図を語る少女に、少年はくらくらとなった。
寄り添って頬にキスをする婚約者に、アリソンはこの先の一生は悪くないものかも知れない、と思い直すことにした。