今日はイーリスとフリーダと一緒に三階を探索中だ。
この迷宮はとにかく仕掛けが多い上に、ご丁寧に五分もすれば元に戻ってしまう。
おかげでさっぱり先に進めねえ。
三階をしばらくうろついていると長い通路の先に
なにやら揉めている様子のオークの集団が目に入った。
と、いうより大騒ぎしている声が先に耳に飛び込んできたと言った方が正解だ。
「バカバカバカバカバカほんとバカ!」
「ほんっとあんた達って底抜けのバカね!信じらんない!」
・・・・女?
緑色に鈍くテカっている豚面から女の声が聞こえてくる。
オークのメスってオスとどう違うのかわからないような奴だったと思うんだが・・・
「・・・・・・もしかして知り合いか?」
「・・・・・・多分」
なるほど、あれはヨッペンのオーク着ぐるみを着たイーリスの知り合いか。
この間、イーリスがあの着ぐるみを借りてくるとか何とか言っていたもんな。
「もう、なんで事してくれたの!
 あの指輪はすっごい大事なものだったのよ!」
「オ、オダだぢのぐろうもじらねえでいいきなもんだど!」
「あのせいじゅうっていうマモノはすげえつええんだからな!
 オダだぢせいいっぱいがんばったんだど!」
”せいじゅう”って、聖獣のことか?
「何よ!頑張ったってあの戦いかたは!」
「そうよそうよ!ことあるごとにパンツずり上げて馬鹿じゃないの!?」
「うぐぐぐ・・・あではオダだぢの戦い方だど!
 オークはみんなあれやるんだど!」
「みんなでパンツずり上げてるなんてだっさーい」
「そんなださい事みんなでやってるから指輪落とすのよ!」
「ぐぐぐ・・・もう怒ったど!こだじめてや゛る!」

ひでえ。
オークいじめが生きがいのレプラコーンでもあそこまで言わないぜ。
チンポジ気にする事をあんなふうに責められちゃ男として立場が無い。
女声のオーク二匹に他のオークたちがにじり寄る。
二匹のオークは喧嘩は得意じゃないのか、あとずさっている。
正直気が乗らないが一応中身は女みたいだし助けるとするか。
顔見てからオークに引き渡すか考えても遅くないだろうし
何よりも会話の内容が気にかかる。
「あっ!イーリス助けて!」
「リュート、エミーリア!」
女の声のオークはこっちを見ると駆け寄ってきた。
イーリスも二匹のオークに駆け寄っていく。
「敵接近、排除します」
俺も、とイーリスの後を追いかけようと歩き出した時
無機質な声がして独特の動作音を伴う突風が吹いた。
それがフリーダだと気付いた時、すでにフリーダはイーリスを追い越していた。
「「キャアアアア!!」」
「フリーダ止めろ!!敵じゃない!」
あー、こりゃやっちまったな・・・・・
フリーダの腕は完全に振り下ろされ絶叫が止まった。
鈍い炸裂音が鳴ると辺りは静寂に包まれた。
もう完全に死んだと思い、俺はカーカスの準備をしながら走り寄ったが
転がっているはずの死体はどこにも無く、フリーダの腕は床に突き刺さっているだけだった。
「リュート!?エミーリア!?」
イーリスが誰もいない空間に声をかける。
「落ち着け、無事だ、多分エスケープを使ったんだ」
イーリスはきょとんとした目で俺の方を見た。
「あ、ああ、エスケープか・・・」
まばたきを数回してイーリスは搾り出すように大きなため息を吐いた。
エスケープってのは短い距離を瞬間移動する戦闘回避用の呪文だ。
それなりの魔法使いなら危機を感じた時条件反射で唱えるようにしていると聞く。
「どうする?探すか?
 エスケープならこの階のどっかに跳んだはずだ」
傍に寄ってそう尋ねるとイーリスは少し待ってからうなずいた。
「イーリス、あの中に入ってるのはどんな奴だ?
 声だけ聞くと女みたいだったが」
「・・・言っておくがまだ子供だぞ」
質問の意図を曲解したのかイーリスの視線が険しいものになる。
やきもち焼いてるのは可愛いが俺をなんだと思ってるんだ。
「そうじゃねえよ。
 あいつらの会話に気になる事があってな。
 どんな奴らだ?」
疑わしそうな目で俺を睨んだままイーリスは黙っている。
本当に信用ないな。
俺はちょっと悲しいぞイーリス。
「・・・・エルフの双子で錬金術師・・・まだ子供だ」
「他には?いや別にあいつらが誰だっていいんだがどんな関係なんだ?
 お前やばい事に巻き込まれてねえだろうな?」
「やばい事って・・?」
イーリスはちょうど戻ってきたフリーダを一瞬だけ睨むと
またこっちに向き直った。
ま、フリーダに文句言っても無駄だしな。
「あいつら聖獣がどうとか言ってたろ?
 聖獣っていやあ法王庁お抱えの魔獣だ。
 呑気なお話じゃない事だけは確かだ」
「法王庁・・・!」
途端、イーリスの顔つきが変わった。
「その顔はどうやら法王庁がどんなもんか知ってるらしいな」
イーリスは俺を覗き込むように見て目を閉じた。
・・・突然なんだ?俺が格好良すぎて濡れてきたのか?
「っ・・・んー!?」
唇を重ねると何故かイーリスは自分から誘ってきたくせに暴れ始めた。
「なっ、何を・・!」
「何ってキスして欲しかったんだろ?」
「なっ、なんでそうなる!?
 どう考えたってそんな流れじゃなかっただろ!?ばかじゃないのか!」
イーリスは真っ赤になって怒っているが、女が目を閉じたらキスするよな普通。
なんだか理不尽な気がしてならないが唇の柔さに免じて我慢してやる。
「まったく・・・」
イーリスは口をごしごしと擦りながら小声で文句を言うと俺を睨みつけた。
「・・・・実を言うと私はササンから派遣されたんだ。
 ドゥーハン騎士団がアレイドという戦術を完成させ
 戦争の準備をしてるという噂を確めるために」
ササンってのはべノア大陸の隣にある国だな、確か。
戦争大好き法王庁の第一の標的にされている国だ。
「ふうん、なるほどな。
 だからアレイドに妙に興味を持ってたのか」
「まあね、あの子達もその関係で知り合ったんだ。
 このアレイドストーンという識別ブレスレットを作った錬金術士だからね」
イーリスはそう言いながら腕にはめられた識別ブレスレットを撫でた。

「しかし、いくら法王庁が出てきてると言っても
 今のドゥーハンに他国と戦争している余裕なんて無いと思うぜ」
「うん・・・それにあの、蠢くもの・・・・」
今だにイーリスの脳裏にはあの化け物の姿が焼き付いているらしく
{蠢くもの}と囁くように口にしるとその事を恐れるように言葉を切った。
「・・・どうやらドゥーハンに起きている事態というのはそれどころじゃないらしい。
 今はそれを見極めるつもりでいる」
神妙な顔でそう言うとイーリスはじろっと俺を睨みつけた。
「ここまで喋ったんだからシランにも協力してもらうぞ」
イーリスは俺が当然のように協力してくれると思っているらしい。
全く、甘い。
甘すぎるぜ。
「へへ、イーリスももう分かってるだろ?
 俺に頼み事する時はどこでするのか」
にやりと微笑みかけるとイーリスは頬をほんのりと桜色に染めた。
「俺に何か頼むんならベットの上で頼んでくれよ」
「・・・わかってるよ・・・。
 私は一応、法王庁がでしゃばってる事を国へ報告するから
 シランはあの子達を探すか四階への道を見つけてくれ」
「おう、夜までにはどっちか見つけてくるからベットで待ってな」
俺の視線を避けるようにイーリスはうつむいたまま懐から帰還の薬を出した。
恥ずかしがってるところがまた可愛いな、おい。
「でも、その、・・・フリーダ使うのは無しにしてくれないか?」
帰還の薬を飲む寸前、イーリスがぼそっと呟くように言った。
「おう、いいぜ。
 その代わり腰が抜けるまでやってやるからな、覚悟しとけ」
「・・・・うん」
小さくうなずくとイーリスは逃げるように帰還の薬を飲んで目の前から消えた。
うへへ、今夜どういう風に可愛がってやるか考えるだけで股間が痛むぜ。



「ひっ」
これが散々歩き回ってようやく見つけたエルフの小娘の第一声だった。
人間でいうと13・4歳ぐらい見た目で、ローブ姿のエルフの小娘。
すでにオークの着ぐるみは脱いだようだがイーリスの知り合いで間違いない。
「おい」
ガクガクと震え立っているのもやっとといった様子のエルフ娘に声をかけると
壁の中に逃げ込むように背中をおしつけている。
誤解とはいえついさっき殺されかけたんだ、びびるのも無理はない。
俺はエルフの小娘の前でしゃがみ込むと
宿の手前でぐずりだした女に言い聞かせるように優し〜く話し掛けた。
「無理な話かもしれんがそう怖がるなよ。な?
 さっきのは悪かったがお前らがあんな格好してたから間違えただけで
 フリーダも別に悪気があってやったわけじゃないんだ」
・・・効果なし、か。
つうか聞いてるのかこいつ。
いくら死にかけたからってそんなに怯える必要は無いと思うんだが。
「ねえ、誰か来たの?」
ようやく喋ったと思えば声はエルフ娘の後ろの壁から。
「ねえメラーニエってば誰か来たの?
 もしもーし!誰かいますー?」
「ああ、メラーニエちゃんじゃないのもここにいるぞ。どうした?」
エルフ娘はまだ口が開けないようなので仕方無く俺が返事をすると
壁から嬉しそうな悲鳴があがった。
「キャー、よかったあ!
 私、閉じ込められちゃったんですぅ。
 落とし穴に落ちた後メラーニエだけ通ったら扉が閉まっちゃって。
 お願い!助けてください!」
エスケープで跳んだのはいいが訳分かんない所に行ってしまってパニくったってとこか。
エスケープはとにかく早く唱えられる代わりにリープみたいに場所を特定出来ないからな。
跳んだ先が壁でめりこんで死んでしまうなんて怪談もあながち出鱈目でも無いらしいし。
双子だって聞いてたのに一人しか見当たらないからどうした事かと思ったらそういう事だったか。
ま、ここは助けとくべきだろうな。
イーリスとの約束が無くても助けたいぐらいには可愛い顔してるし。
「ああ、わかった。
 俺達が行くまで何とか無事でいろよ」
「あ、その点は大丈夫。
 閉じ込められてるから他の魔物も来れないし」
ま、そりゃそうか。
「じゃメラーニエだっけ?早速行こうか」
少し顔色の良くなってきたメラーニエに話し掛けると
返事の代わりに壁を叩く音が聞こえてきた。
「ちょっ・・・ちょっと!メラーニエ連れてく気?」
「そりゃそうだろ。
 こっちはお前らが落ちた落とし穴の位置も知らないんだ。
 案内無しで行けるわけねーだろ」
「それにこんな所にこの娘一人待たせとくわけにもいかねーだろ。
 こんぐらいの歳のエルフ女なら同じ体重の金より高く売れるんだ。
 あっという間にさらわれて売り飛ばされらぁ。
 処女のエルフの血は不老の薬になるとかいう与太話を真面目に信じてる馬鹿も少なくない。
 まあ、運が良くて冒険者に輪姦されるかコボルトに食われるかってとこだろ。
 俺と一緒に来た方がよっぽど安全だ」
言葉を連ねていく内にメラーニエの顔は青白さを増しうっすらと涙まで浮べ始めている。
ちょっと脅かしすぎたか。
「もちろん俺はそんな事しねえから大丈夫だ、安心しろ」
出来るだけにこやかに笑いかけたがメラーニエは返事もしなかった。
まあ、殺されかけた後で殺されかけた相手なんだ、仕方無いか。
「んじゃ行くか、いつまでもここでこうしててもしょうがねえ」
閉じ込められたもう片方はギャーギャーと騒いでいたが
それを華麗に聞き流すと俺はメラーニエを連れて部屋を出た。



脚を止める。
ガシャンという金属音をさせて隣でフリーダが止まる。
それと同時に小さな足音も止まる。
5メートルほど後ろで。
「おい、方向はこっちでいいのか?」
後ろを振り返ると陰気な顔をしたメラーニエがぼそぼそを口を動かした。
あそこに留まってると一時間もしないで死ぬと半ば脅して連れ出したのだが
部屋を出てからずっとこの調子だ。
警戒してるのだろうが一定距離を保ったまま近づいてこない。
「何言ってるのか聞こえん。
 もっとこっちにこい」
手招きをするとメラーニエは恐る恐るといった様子で一歩だけ近づいてきた。
「もっとだ、もっと。
 大体道案内役のお前が後ろにいてどうする」
そう言うとメラーニエは怯えた目で俺を見ながらまた一歩だけゆっくりと近づいた。
オークにあれだけ酷い事を捲くし立てていた奴と同じとは思えん。
「どうしてそんなに離れてるんだ?」
今度は返事すらない。
小娘はただこっちを窺うような顔で黙っている。
しても聞こえないのだからどっちも変わりはしないがな。
「仕方無い、フリーダ後ろに回ってあの娘の退路を塞げ。
 逃がさないようにしろ、怪我はさせるな」
「はい、マスター」
「っ!!」
フリーダの無機質な返事を聞くと
目を大きく見開いたまま固まってしまったメラーニエにゆっくりと近づいた。
小さなエルフ娘が杖を両手で握り締めて震えている姿はどこか小動物を思い出させる。
「何もとって食いやしねえから安心しろ」
こんな言葉で年頃の娘さんが安心してくれるんならこの世は天国ってもんだが
そうはいかないようでメラーニエは相変わらず怯えた目で俺を見上げている。

まあいつまでも小娘のご機嫌とってるわけにもいかねえ。
「ゃっ・・!」
ダッシュで近寄り金色の髪に覆われた細い両肩を掴むとメラーニエの動きを封じる。
捕らえられたメラーニエは小さくて妙に熱く、小刻みに震えている。
「そう怖がるなよ」
顔面蒼白で気を失いそうなメラーニエに魔力を集める。
恐怖を消す魔法・フィアケア。
効果は一瞬だが、人の心に作用するある意味じゃ最強に近い呪文だ。
「ん・・・?」
しかし、どうも様子がおかしい。
確実に呪文は効いているはずなのに
メラーニエはまだぎゅっと目を閉じてガチガチに固まっている。
・・・さては、こいつ俺に惚れたな?
俺とした事が不覚だった。
まだ言葉もほとんど交わしてないのにこうもベタ惚れされるとはさすがに思わなかった。
据え膳食わぬは女の敵という言葉もありそうな気がする事だ。
顔を赤くして目を閉じて震えながら固まってるメラーニエの唇に口を付けた。
「ッー!?」
「あたっ!」
唇が触れるや否や、俺の胸に強烈な衝撃が襲い掛かった。
「ぐおっ・・・!」
「なっ、なっ、なななんで・・・」
なんでって・・・・そりゃこっちの台詞だ。
誘っておいて杖を叩き込むなんて・・・糞っ、
完全に油断してたせいで結構効いたじゃねえか。
「なっ、何するんですかっ!」
「何って、キスだろ・・・
 そっちから誘ってきたくせにひでえな」
「わ、わたしが!?
 いつわたしがそんな・・・・」
「いつってさっき思いっきり誘ってただろ。
 こう目を閉じてさ」
「目を閉じたら誘った事になるんですか!?」
「なるだろ、普通」
メラーニエはまるで今知ったとでも言うように目をぱちくりさせている。
どんな世間知らずだよ、全く。
「・・・そう・・・なんですか?」
俺を必死で遠ざけようとしていたメラーニエの腕がふっと緩んだ。
「そうだよ、常識だぞ」
「じょ・・常識・・ですか・・・」
メラーニエは自分の非常識ぶりをようやく認識したらしくシュンとなった
「・・・・・・・」
メラーニエがじっと無言のまま見つめてくる。
「・・・・・・・」
こうして間近で見るとさすがはエルフだ。
もの凄く綺麗な顔をしている。
いや、エルフでもここまでのはそうはいねえ。
エルフだから綺麗なんじゃなくてこいつだから綺麗なのかもしれん。
「あの・・・離してください・・・」
顔形の綺麗さに見惚れていたせいでメラーニエの口が動くと
不覚にも少し驚いてしまった。
あんまり整ってるんで無意識のうちに人形みたいな造り物に思えてしまっていたようだ。
「なんで?」
「なんでって・・・その・・・」
メラーニエは顔を赤くしたままごにょごにょと口を動かしている。
「・・・・!」
こちらを窺うように上目で見上げたメラーニエと目が合った。
途端にメラーニエは目を伏せる。
しかし、すぐに目だけを上に向け俺を見てまた目を伏せる。
それを何度か繰り返しているのをじっと見ていると
ずっと突っぱねていたメラーニエの腕がふっと緩んだ。
「あの・・・お名前は・・?」
「最近はシランと呼ばれてるな」
メラーニエはパチパチと瞬きをすると目を反らさずに俺の顔を見つめはじめた。
「シランさんは・・・不思議な人ですね・・・。
 あんまり怖くない・・・」
まあフィアケア使ったからな。
永続的な効果があるわけじゃないが、さっき使ったばかりで怖がられちゃ話になんねえ。
「人が怖いのか?」
さりげなく肩に置いた手を離し腰の辺りに滑らせる。
「はい・・・怖いし恥ずかしいです・・・。
 みんなジロジロ見てくるし・・・・きゃっ!」
特に嫌がるそぶりも見せなかったのでそのままメラーニエを抱え上げた。
「へへ、そりゃ当たり前だろ。
 こんな可愛い娘が歩いてて振り返らない男なんかいないさ」
怖くないとか言ってた割に抱えられてやっぱり震えているメラーニエの
脇の下を肩に担いで右腕に腰掛けさせる。
「よし、こっちだな?」
「は、はい・・」
なんだか妙に熱いメラーニエの体温に嬉しくなりながら俺はとりあえず歩き始めた。

螺旋状になった階段を登り少し広めの部屋に出た。
「どっちだ?」
俺達が入ってきたのとは別に扉が二つある。
「た、多分、あっち?」
メラーニエがなんとも頼りない答えを出した時、その指し示した一つの扉が開いた。
「は、はやく逃げないと・・・!」
「なんでジャイアントごときに逃げる必要がある?
 すぐ済む、ちょっと待ってな。
 フリーダ、こいつを守れ」
「はい」
扉から入って来たジャイアントは俺達を見ると案の定不愉快そうな顔で向かってきた。
ジャイアントは縄張り意識が強く人間を見ると問答無用で排除しにかかってくる。
確かにあいつらはここに住んでるし俺達が侵入者なのは事実だが
黙ってやられてやる義理もない。
メラーニエを下ろすと腰に下げた大剣を抜く。
「ヴウウン゛ッ!」
ジャイアントが唸り声をあげながらでっかい剣を振りかぶる。
相変わらずアホだ。
ジャイアントは力も強いし遅い訳でもないが、自信過剰でいつも急所ががら空きだ。
だからこんな風に腹を捌いて胸を突けば簡単に終わる。
要するにアホだ。
「ぐばぁっ!」
ゲロみたいに血を吐いてジャイアントは崩れ落ちた。
「片付いたぞ、こい」
剣を収めて手招きをするとゆっくりと二人が近づき始めた。
「つ、強いんですね」
「まあな」
両手を広げて待っているとメラーニエは少し躊躇して恐る恐る俺の腕の中に入ってきた。
特に嫌がるそぶりも見せないのでさっきと同じ体勢で抱え上げる。
やっぱりまだ怖いのか俺の襟を掴む小さな手はまだ震えている。
へへ、可愛いねえこいつ。

こんな感じの戦闘を何度か繰り返しながら
メラーニエの先導でしばらく歩いていると、ある部屋にたどり着いた。
何の気なしに入ったその部屋の中は異様な光景が広がっていた。
「なんだこりゃ!?」
あまりに異常すぎる光景に奪われた目をメラーニエの息を呑む音が引き戻した。
辺りを見回し魔物の姿が無い事を確認して一歩だけ部屋に足を踏み入れる。
おそらく大きな広間だったと思うのだが瓦礫が散乱し所々から黒煙が立ち上り
まるでここでだけ戦争があったかのような状態だ。
「フリーダ、後ろにつけ。
 それと魔物じゃなくても何か不審なものを見つけたらすぐ言え」
「了解」
フリーダが俺の死角をカバーするように後ろを向くと
その陣形のままゆっくりと歩を進める。
一歩ごとにメラーニエの手にぎゅうっと力が入る。
「ここ・・・確か大きな柱がありました・・・。
 それが・・・こんな・・・・」
今この部屋には柱なんてものは影も形もない。
メラーニエが青ざめ震えているのも仕方無い。
せめて何があったのか分かれば・・・
そう思って瓦礫の山の周りをうろうろしていると、かすかなうめき声が聞こえてきた。
「・・!誰かいるのか!?
 返事をしろ!」
「た、助けて・・・」
「どこだ!?どこにいる?」
「マスター、先ほどの音声はマスターの右前方の瓦礫の下から出ていました」
「よし、フリーダ頼む」
「わかりました」
ギチョンギチョンと音を立てながらフリーダが瓦礫を撤去し始める。
不安そうな顔をするメラーニエの肩をそっと抱き寄せた。

「た、助かった・・・」
瓦礫の下からフリーダが掘り出した男はへたりこんだまま礼を言った。
ウィルをかけたというのにまるで死人のような表情だ。
「何があったんだ?」
男は怯えた表情で辺りを伺い、呼吸を整えるとゆっくりと口を開いた。
「・・・魔女だ」
「魔女!?アウローラが?」
男は頷くとぽつりぽつりと語りだした。
この部屋に何人もの冒険者がいた事。
魔女が空間から湧き出るように現れた事。
部屋がこの惨状になるのはほんの一瞬だった事。
自分が生きてるのを知ってて魔女はわざと見逃した事。
「見逃した?何か理由があるのか?」
「・・魔女はオルトルードに伝えろ、と。
 『時間を与えたつもりは無い。
  こんな下らない奴らをいつまで送るのか。
  急がないといけないわ』
 そう言ってまた溶けるように消えていった」
言い終えると男はゆっくりと立ち上がり瓦礫を睨みつけた。
「冗談じゃねえ、俺はもう御免だ!
 俺は元々市庁に勤めてる公務員なんだよ!
 ダンジョンに転勤なんて聞いた事ねえよ!」
そう吼えると男は荒げた息を整えて振り向いた。
「助けてくれてありがとう。
 マジで助かったぜ。
 見た所、あんたは相当強いみたいだが
 それでも魔女とだけは戦わない方がいい・・・。
 命の恩人へのマジ忠告だ」
男はそう言い残すと体を引き摺るようにして出て行いった。

「この部屋か?お前らの落ちた落とし穴ってのは?」
「はい・・・そのはずですけど・・・」
魔女の現れた部屋からさらに先に進んだ、この部屋がそうだったらしいのだが
どこにも落とし穴は存在しない。
「まあ、その落とし穴がパーティを分離させる為の罠なら当然だろうな。
 どっかに罠の起動スイッチがあるはずだ、そいつを探すしかない」
這いつくばってペシペシと床を叩いているメラーニエに声をかけるとすぐに立ち上がった。
しかし、すぐ下に姉だか妹だかがいると思うと諦めきれないのか
名残惜しそうな顔で床を見下ろしたまま立ちすくしている。
「・・・大丈夫だ、いくら魔女の攻撃でも下まで届いてやしない。
 今、穴が開いてないのは無事な証拠だ」
「・・・うん、ありがとう」
近寄ってきたメラーニエをすでに定位置となった場所に抱え上げる。
「ふふ、シランさんは優しいんですね」
なんだか大人びた言い方しやがって生意気な。
「どっかでスイッチいじった記憶ないか?
 あればそこがここの起動スイッチになってる可能性が高いんだが・・・」
メラーニエは首を振った。
「このスイッチも違うしなあ・・・・」
狭い部屋の壁際にこれ見よがしにあるスイッチをガチガチと動かす。
やはり部屋には何も起きない。
「やっぱり違う部屋だな。
 本当ならここにお前を残して俺達だけでスイッチ探した方が効率いいんだが・・」
「やだ・・・だめ」
怯えた表情でメラーニエはふるふると小さく首を横に振る。
「わかってるって、また魔女が現れないとも限らんし
 それでなくてもお前は狙われやすいからな、置いてきゃしねえよ」
俺の言葉にメラーニエはほっと安堵のため息を漏らす。
可愛い女の子をからかうのは楽しいね。
へへ、素直にからかわれてくれるメラーニエのおかげでちっと元気を取り戻したぜ。

再び、魔女の現れた部屋。
当然瓦礫はまだ片付いてない。
あの男の話では何人もの冒険者が死んだらしいが死臭はしない。
死体が無いからだ。
部屋を吹き飛ばす程の呪文を喰らって消し炭にされたのだろう。
「それにしても、あれはどうやったのかな?
 何を使えばこんな風に部屋を吹き飛ばせるんだろう・・・」
この光景を見て思う事は同じらしい。
「メガデスだろ、多分な。
 これほどの威力のものは俺も見た事ねえがそれしか考えられん」
というより考えたくない。
超魔力のメガデスってのも嫌だが
あるのかも知らねえメガデスより上の攻撃呪文なんて使われちゃどうしようもない。
俺だって魔女がすんなりセックスさしてくれると思うほど楽観的じゃない。
多少、力づくといった側面のあるセックスになると思うが
どうやればこの呪文をかいくぐって押し倒せるのか・・・考えると頭が痛いぜ。
「メガデス・・・・?
 ・・・そんな呪文があるのですか?」
「メガデスを知らない?仮にも魔法使いの端くれだろ?
 知らないってあるかよ」
「だって知らないんだもん・・」
メラーニエはそう言うと少し頬を膨らませて拗ねた振りをした。
メラーニエの言葉数がいきなり多くなったが
それはきっと魔女の恐怖を感じない為なんだろうと思う。
なんとなくそんな気がする。



「さ、三十八!?」
「うん・・・人間の数え方なら三十八歳って言うはず・・・」
思わず脚を止めてメラーニエの顔を見た。
細い髪もあどけない顔も小さな体も高い声だって何もかもが幼さを示している。
なのに、年上・・・さすがはエルフ・・・。
エルフってのはそういうもんだと知ってたはずだがやはり驚かずにいられない。
「年上かよ・・・」
俺はきっとよほど間抜けな顔をしていたに違いない。
呆気にとられた俺の顔を見てメラーニエはくすくすと笑った。
「そうよ、シラン。
 私の方がお姉さんなんだから」
歩きながら色々と話してるうちにすっかり打ち解けたメラーニエは
ちょっと威張ったような仕草を見せてお姉さんぶった。
「そうだったのか・・・。
 じゃあ、俺が先輩ぶって偉そうに色々教えてたのは馬鹿みたいだったんだな。
 滑稽というかなんというか・・・」
「ううん、そんなことない。
 私、ずっと森から出た事無かったし
 街に来たのも迷宮に潜ったのもついこの間が初めてだったから
 シランの言う事はすごく為になるわ」
メラーニエはなにか余裕めいたものすら窺える微笑みを浮べた。
「そうか、まあキスの仕方も知らなかったんだもんな」
「し、知らなかったわけじゃないわ。
 人間のやり方を知らなかっただけよ」
少し赤くなった顔ですましてる姿はどう見たって13・4の女の子だ。
ちょっとエルフマニアと呼ばれる変態どもの気持ちが分かった気がする。

「んで、なんで森から出てきたんだ?」
「・・・私、魔法使いになりたいの。
 それも凄い大魔法使いに」
「へー、でもなんでドゥーハンなんだ?
 普通ユグルタ魔法学院とか目指すんじゃ・・」
ん?
何かおかしくないか?
錬金術士のはずだろ?なんで今さら魔法使いになりたがるんだ?
「そうなの?そんなのがあるなんて知らなかった・・・」
んん?
たしかイーリスの話では、こいつ識別ブレスレットを作った錬金術士とか・・・。
そんな高レベルの錬金術士がユグルタを知らない?
「お姉ちゃんだか妹だかも知らなかったのか?
 魔法使いの憧れの地とか言うけどな」
「?私、姉妹とかいないんだけど・・・」
んんん?
たしか双子とか言ってたような・・・
「え、じゃあ閉じ込められてるの誰だ?
 お前のお姉ちゃんだか妹だかじゃないのか?」
「ミリイのこと?・・・親友よ。
 親友だけどミリイはピクシーだし姉妹じゃないと思うわ」
ピクシー?
・・・・・・・・ピクシー!?
「ピクシーって、あれ?・・・お前識別ブレスレット作った錬金術士じゃ・・・」
「?何のこと?」
え、あれ、もしかして・・・え、どういう事?
「イーリスの話じゃ、双子で錬金術士って・・・」
「イーリスさん?誰?」
イーリスを知らない?
つまり、これは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人違い・・・・・・・・・

セックス。
・・・セックスが遠のいていく。
俺のセックスが、出来るはずだったセックスが・・・・・・
イーリスとやるの三日ぶりだったのに、楽しみにしてたのに・・・
セックス・・・・・
「・・・・確かにオークの着ぐるみの中に入ってたかなんて訊きもしなかったよ・・・
 けど、普通、こんな所にこんな若いエルフ娘がごろごろしてると思わねーだろ・・・」

「シラン!?どうしたの!?」
ほんの少しの間俺は意識をとばしていたらしい。
気が付くとメラーニエにぶんぶんと頭を揺すられていた。
「あ、ああ、何でもない。
 ちょっとした手違いがあっただけさ・・・」
「手違い?」
「お前の事を知り合いの連れだと思ってたんだ。
 まさかエルフの娘っこがごろごろしてるとは思わなくてな」
はあ、しかしため息が出るぜ。
イーリスの奴意外に固いから理由も無しにさしてくんないだろうなあ。
「人違いだったの・・・?」
不安げな声を出すメラーニエの肩を軽く撫でる。
「いや、お前のせいじゃないし見捨てるような真似はしないさ。
 ちゃんとお前を閉じ込められた相棒の所まで連れてくよ」
だからお礼にやらせてくれ、・・・・ってこれじゃ脅迫か。
せっかく仲良くなってきたのにレイプまがいの事するのはなぁ・・・
「いいの?その人助けないで・・・」
「いいさ、今ならもう迷宮出てるか手遅れだ。
 お前だってここで置いていかれたら困るだろ」
「うん・・・ありがと」
へっ、無邪気に笑いやがって、
そんな嬉しそうにされたら裏切れねえだろ、くそ。

くーぅ。
それからしばらく歩いていると空気の動いた音が可愛く響いた。
「腹減ったか?」
「・・・うん、少し・・・」
「じゃあ、なんか食うか?」
俺もちょっと腹減ってきた所だ。
広い廊下みたいな所で見渡していると上手い具合に
のそのそ歩いてるガスドラゴンを見つけた。
「あれ食うか」
「あれって・・・ガスドラゴン!?
 食べられるの!?」
本当、こいつ世間知らずだな。
「食った事ないのか?
 ドラゴン系は大抵美味いぞ。
 ガスドラゴンは腹は毒があって食えないが腕と足は美味い。
 ちっと待ってろ」
呆気にとられた顔してるメラーニエをフリーダに預け剣を抜き
すぐに走っていってガスドラゴンの頭を背後からぶん殴る。
簡単に気絶した所をひっくり返し
腹にダガ―を突きたてるとガスドラゴンは音もなく死んだ。
ドラゴンといってもガスドラゴンは間抜けでとろい最下級のドラゴンだからな。
鱗がちょっと固いのが調理する上でのポイントだ。
こいつは自慢なんだがドラゴンを捌かせたら俺はちょっとしたもんなんだ。
「メラーニエ、クレタ使えるよな?」
名前を呼ばれ、とっとこ走ってくるとメラーニエは顔をしかめた。
「ちっとグロいがまあ我慢しろよっと・・・・よし火をつけてくれ」
切り取った臓物を放り出して、腹の中に切り落とした手足を放り込み火をつける。
ポイントは毒液の入った袋だけ捨てて、ガス袋は取っておく事だ。
(肺の横にある小さな紫色の方が毒、ガスの入ってるのはピンク色の大きい奴)
そうすると簡単に体全体に火がついて死体が焚き木代わりになるって寸法だ。
こうすりゃ手も汚れず簡単に出来るしあとは焼けるのを待つだけってわけ。
「よし、もう食えるぞ」
ほかほかと湯気をたてるドラゴンの腕を差し出すと
メラーニエは露骨に困った顔をした。
「ど、どうやって食べるの?」
「こう、脈はかるように手首を持つんだ。
 大丈夫だって、まがりなりにもドラゴンの皮だ、そんなに熱くならない。
 そんで付け根の方から皮を剥いて食うんだよ」
「も、持てないよ・・・」
むう、確かに腕だけでもメラーニエの半分ぐらいの大きさはあるからな。
やっぱ持てないか。
「ちょっと待ってろ・・・よし、来い」
仕方無いのでメラーニエを片手版お姫様抱っこして
目前まで皮まで剥いたドラゴンの腕を運ぶ。
なんか親鳥になったような気分だ。
「熱いから気をつけて食えよ」
はむっとかぶりつくとメラーニエははっふはふ言いながら口を忙しく動かしている。
親鳥の代わりやってやるからその口の中のものをついばませてくれ。
「結構美味いだろ?」
「うん、美味しい!」
うんうん、そうだろう、腕肉なんかは臭みも少なくて食べやすいしな。
それになんといっても俺が調理したんだ、不味いはずがねえ。
「そいつは良かった。
 歩きながら食えるんだし行くか。
 フリーダもう一本腕持ってきて」
「ほれ・・・・・これ、捨てていくの?」
「あとはコボルトや蟲なんかが食って綺麗にしてくれる。
 気にしないでいい」
魔物が住んでる所は大体そんな風な生態系になってるんだ。
だから日々殺し合いが起きてるにも関わらず迷宮は結構綺麗だったりする。
勿論、死体がアンデッド化して動き出す事もあるだろうがね。

「しかし、珍しいな。
 エルフってのはあんまり欲が無いっていうか
 金持ちになりたいとか有名になりたいとか言わねえもんだと思ってたが」
メラーニエを見るともぎゅもぎゅと頬を動かしながら、ちょっと待ってと目で訴えている。
「・・・・あのね、シランはヴァルハラって知ってる?
 奇跡を起こすって呪文」
「そりゃまあな、使える奴なんかほとんどいないが名前だけは有名だからな」
俺も実際見た事ないが使える奴は知っている。
そんな奇跡と言うほどの事は出来ないくせにあれが使えるだけで聖者扱いだ。
それほど”奇跡”って言葉にすがりたい奴等が多いんだろうがな。
「私それを覚えたいの。
 それでミリイをエルフにするって約束したし」
ミリイって親友のピクシーだったか?
「・・・悪いがそりゃ無理だろ。
 ヴァルハラでも種族を変える・・はんへへひはい」
・・・当たり前だがどうも食いながらだと喋りづらい。
「ふーふー・・・・うん、分かってる。
 その時はヴァルハラより凄い奇跡を起こす呪文を作るの。
 そういう約束なんだ」
なんだか相当無茶苦茶な事を言い出だしたがどうやらメラーニエは本気らしい。
「かなり無茶な話だが魔法も時々新しいの出来たりするからな。
 ヴァルハラに頼るよりはそっちのがありえるぜ」
「・・・うん!」
野望に満ちた目を輝かせるとメラーニエは思いっきり肉にかぶりついた。
ヴァルハラを越えた奇跡魔法か・・・いいなぁ
もし出来たら世界中の美女が俺に抱かれにやってくる奇跡でもかけて貰いたいぜ。

「ねえ、シランの話もしてよ」
腹が一杯になって暇になったのかメラーニエは突然下らない事を言い出した。
「俺?俺の話なんてつまんねえぞ」
「いいから、私にばっかり話させるなんてずるいよ」
どんな理屈だよそれ。
「別に話す事なんかあんま無いんだよな。
 生まれてすぐに教会に捨てられてて拾われて育てられた。
 変わってた事といったら名前が無かった事ぐらいだ。
 普通、捨てる時でも名前だけは付けるもんな。
 名前が無いと神に無事を祈る事も出来ないから。
 だが、俺には名前が無かった。
 だからシランって呼ばれてるんだ。
 親も生まれも自分の名前すら訊かれても知らんとしか言えなかったから」
「・・・ごめんなさい」
メラーニエは俺を哀れむような目で見るとそっと目を伏せた。
「何を謝ることがある?
 俺は自分の境遇を気に入ってるんだぜ。
 この話をすると、貴族の嬢ちゃんや甘っちょろい町娘なんかころっと引っかけられるしな」
・・・・・どうやらメラーニエもその甘っちょろい娘さんらしい。
冒険者なんてやってんだ、どうせメラーニエも身内はいないんだろうに優しいこった。
ちっ、なんだか調子狂うぜ。
「ん?この扉は入ったか?」
「入ってません、マスター」
なんだかしょんぼりしてるメラーニエに代わってフリーダが答える。
そうか、考えてみればこいつに道覚えさせれば迷う事も無かったんじゃないか?
盲点だった。
「じゃあ、ちょっと入ってみるか」



「落とし穴か・・・」
入ってみた部屋は小さな部屋で真中には不審な穴が開いている。
「誰か先に落ちたのか?」
メラーニエを降ろすと調べる為に床に這いつくばってみる。
「誰かが落ちたって感じじゃねえな。
 これ開いたり閉じたりする仕掛けじゃねえか?」
俺は盗賊じゃねえからそんなに詳しくないが
穴の横にぶら下がった床みたいなフタの裏側に色々と仕掛けがくっついてる。
単純な落とし穴にこんなのつけねえだろう、たぶん。
「フリーダ、下を覗くから俺の体持っててくれ」
「シラン、気をつけて・・・」
穴から首出して下を見る。
ちょっと広めの部屋には生き物の気配は無い。
「何かある?」
「んー・・・特に何も・・・あ、なんかあるな」
部屋の壁側にこれ見よがしなスイッチがある。
「これは・・・」
穴から顔を出してメラーニエを見る。
ちっ、パンツ見てやろうと思ったのに上手い事距離をとってやがる。
「どうしたの?」
「・・下の部屋に怪しいスイッチがある、降りるぞ」
「えっ、降りるって・・・」
「飛び降りるんだよ。
 ほれ、俺にしっかり掴まってろ」
戸惑うメラーニエを半ば強引に抱き上げると真正面から抱きしめる。
ああ、すり合わせたほっぺたが柔い。
小さなケツは柔らかいし、細い首筋は暖かいし、金色の髪はいい匂いがする。
「ちょっ、ちょっとシラン?」
「もっと強く俺に掴まれよ」
へへ、これぞ役得って奴だな。
ここぞとばかりにぎゅっと抱きしめると大した高さでもない穴を飛び降りた。

あー、柔い。
飛び降りた衝撃がますますメラーニエの柔さを味あわせてくれる。
「どっか痛くないか?」
「うん、へいき」
「そうか、じゃあちょっと離れてな。
 ・・・フリーダ、降りて来い」
そういうや否や、ガッションという派手な音をたててフリーダが目の前に飛び降りてくる。
やっぱメラーニエを離しててよかったぜ。
絶対こいつ俺の目の前に飛び降りてくると思ったんだ。
「スイッチってあれ?」
「ああ、それだ、動かしてみな」
メラーニエが歩いていってスイッチを動かすと
今飛び降りてきた天井の穴が鈍い音をたてて閉まっていく。
「やっぱりな、多分これ当たりだぜ」
「当たり?」
「踏んで作動するんじゃない、スイッチ式の落とし穴なんて珍しいだろ?
 こういうのは大体連動してるんだよ。
 向こうとこっち、どっちかが閉まるともう片方が開くんだ」
「じゃあ・・・」
メラーニエの顔にぱっと笑顔が咲く。
「そうだ、もう一回あの部屋に行けば助けられるって事さ」
「ほんと!?・・・ありがとう!」
へっ、まだ助かったと決まった訳でもねえのに
メラーニエの奴、涙ぐんでやがる。
「泣くのはまだ早いだろ。
 ほれ行くぞ」
「うん・・・」
メラーニエはごしごしと目をこすると、とことこと近づいてきた。
どういうつもりだ?
目の前まで来たと思うと、目をつぶったまま立ちすくしている。
これはあれか?誘ってるのか?
「・・・」
肩にそっと手を置いたがメラーニエは目を開けない。
もうこれはあれだ!誘ってるんだな!
「・・・・・・・・ん」
逸る気持ちを抑えてそっと唇をつける。
今度はさらさらの唇がしっかりと応えてくれる。
「んん・・・」
ああ、なんだか分からんが勘違いして良かった。
「んっ!」
侵入してきた舌への対処法も知らない、いたいけな唇は
ただ震えながら嬲られるのを待っている。
「んぐ・・・」
歯の一つ一つがまだ幼く、ぷりぷりとした歯茎は舐めるたびに甘さを増す。
「ぷぁ・・ぁはぁ・・・」
ちょっと長くキスしすぎたせいで、メラーニエは苦しそうに息をしている。
しかし、休ませるつもりはねえぜ。
ぷにぷにのほっぺたに吸い付いて髪を撫でまわす。
細い、そして柔い。
髪の毛まで柔らか素材。
それに金色の川から突き出たとんがり耳がまた可愛い。
「あっ・・・」
ちょっとつつくと耳をパタパタさせるのがまた可愛い。
「やっ・・だめ・・・あっ・・」
くにくにと耳の軟骨をいじると苦しげな声が出る。
もしかして耳が性感帯か?
「んっ・・・」
唇をつけて口の中を舌で攫う。
うへへへへ、唾液をよこせ唾液を。
身をよじるメラーニエの髪を掴み逃げ場を消して唾を吸う。
「んグぅ・・」
余った左手はとんがり耳の裏をくすぐりまわすと
メラーニエは身をよじりくねくねし始めた。
「はぁ・・はぁ・・・」
唇を離すとすかさず耳の先端を咥えてみる。
「ふっ・・ぅん・・・」
つるつるした舌触りの耳は口の中でピクピク動いている。
「はぅ・・・・」
また職場を失った左手を滑らせ、ケツを揉む。
「あっ、だめっ」
何が駄目なものか。
お前の尻は柔らかく俺を歓迎してるぜよ。
「だめっ・・こんなことで、ダメっ」
「マスター?」
メラーニエが一際強く叫ぶと大人しく見守っていたフリーダが音を立て始めた。
「マスター、どこ!?
 マスター!?どこですか、マスター!?」
何が起きたのか突然フリーダが半狂乱ともいえる状態でうろうろし始めた。
「な、なんだ?何が起きた?
 何かしたのか?」
「す、スルー使っちゃった・・・」
スルー・・・確か術者とそれに触れてる者を他のものから見えなくする呪文だ。
意外に高度な呪文使えるんだな、ってそれどころじゃないか。
「マスター!?マス・・・」
「ここだ。ここにいる」
うろうろしていたフリーダの腕を掴むとピタリと動きが止まる。
ったく、面倒な事しやがって、スルーなんて使えるのかよ・・・。
ん、待てよ。
スルーを使ったって事はつまり、もし誰か来た時見られたくなかったって事だろ?
と言う事は見られたくない事をされる覚悟が出来たって事だよな?
だからつまり、OKって事か!
「よし、任せろ!」
「な、なに!?どうしたの突然!?」
「フリーダ、メラーニエを抱え上げろ!」
「きゃっ!?」
フリーダに慌てふためくメラーニエの脇の下に腕を入れて後ろから抱え上げた。
ナイスだ、フリーダ、それならメラーニエは腕を使えない。
「こうしないとスルーのせいで見えなくなるだろ?」
「だからって・・・ちょっ、なにしてるの!」
足首まですっぽりと覆っているメラーニエのローブをめくり頭をつっこむ。
すかさず膝を顔に喰らったが、こんなもん痛くも痒くもない。
むしろ心地良いくらいだ。
それにローブの中のこのぬるく湿った匂いがまた格別だ。
「ちょっ・・・やめっ・・」
薄暗いローブの中、白く輝く足をライト代わりに奥地へと進むと
モコモコしてないモコモコパンツが目前に現れた。
オムツ・・?一瞬そう思ったがさすがにそれは無いか。
ただセンスが変なでかいパンツってだけだろう。
汗と埃と小便と男の夢がつまった匂いが。
出来ればずっとここで暮らしたいぐらいだがさすがにそれは無理だ。
名残惜しいが、パンツ君、きみとはここでお別れだ。
「だめぇ・・・!」
パンツに手をかけるとピシッと固まっていた脚がまたジタバタと動き始めた。
こういう軽く抵抗するのが一番燃えるんだよな。
さすがに年長者だ、生娘のくせによくわかってる。
脚のリズムに合わせてパンツを引き降ろす。
「やぁっ!だめ、見ないでおねがい!」
俺は女の頼みは大体聞く方だから見る前に
ちゃんとパンツを足首まで下げてローブから顔を出した。
「見ないでやったからもういいだろ?
 それではご対面させていただきます」
「だめぇっ!」
ローブの裾を掴むとゆっくりと引き上げる。
「そんなにジタバタすると見えちゃうぜ」
こういうとメラーニエは真っ赤になって動きを止めた。
ジタバタしなくてもどうせ見るんだけどね。
「ぅ―・・・」
メラーニエはついに抵抗の無意味さを悟ったらしい。
さあ、いよいよ拝謁の時間だ。
めくりあげられたローブがメラーニエのお腹の上で重なっていくと
遂に綺麗なたてすじが顔を出した。
なんて綺麗なマンコなんだ。
色が肌と同じ色してる。
申し訳程度に生えた恥毛まで金色に透けて美しい。
太ももの付け根の間に中指を差し入れる。
「ん・・・」
差し込んだ指はぷにぷにの肉に三方から囲まれ
熱くぬるぬるとしたものを浴びさせられる。
「ぁん・・・」
ほんのちょっとだけ指先を曲げるとメラーニエから声が出る。
ゆっくりと、傷つけないようにゆっくりと割れ目をなぞるように丁寧に掻く。
「んぅ・・」
指の腹で撫でチュプチュプと音を奏でる。
中腰になって顔を覗き込むと
そこには目を閉じて自らの奏でる淫らな音楽に聞き耳をたてるエルフがいた。
その幼い聴衆に唇を重ねるとまるで待っていたかのように柔らかく受け止めてくれた。
割れ目を掻きつづけていた指に少し力を込めほんの少しだけ侵入させる。
重ねた唇から音が漏れ細い眉が歪む。
「はぅ・・・」
くにゅっと下のくちびるの中に入ると蜜口を撫でてみる。
すでににゅるにゅるではあるが穴の小ささを考えればまだ十分とはいえない。
キスを止め完全にしゃがんでしまうとローブの中に顔を突っ込む。
「や・・」
ふとももを両手で掴み担ぎ上げるととメラーニエの腰を浮かす。
眼前に広がる美しい恥丘に顔を近づけそっと割れ目に口をつけた。
「あぅっ・・はぅん・・・」
ほのかに生臭くまろやかに酸っぱい匂いのする肉に舌を這わす。
こんだけ可愛い顔して綺麗なマンコをしてるのに
別に薔薇の香りがするわけじゃないのが不思議だ。
こっちの方が百倍いい匂いだから当然といえば当然かな。
小さい壷口を舌でつつき愛液をすする。
「はぁ・・・くふぅ・・・」
隠れているお豆さんを舌でぐりぐりと擦り上げる。
「ぁぁぁっ・・あっ・・・あっ」
ぴくぴくと痙攣する太ももを揉み陰唇に執拗にキスをして
クリをチュウチュウと吸い上げる。
「あっ!やぁぁ・・・」
体は幼くとも感覚はそう子供じゃないらしい。
性器を舐めつづけていると意外にも早く絶頂を迎えてくれた。
小ささを考えればもっともっと愛撫してあげないといけないと思うのだが
何しろ親友だというピクシーをいつまでも放っても置けない。
名残惜しいがメラーニエの体をそっと離しズボンを脱ぐ。
「いい?」
息を荒げるメラーニエのほほをそっと撫でる。
メラーニエはしばらく呆けた目で見つめ目を閉じて小さくうなずいた。
「フリーダ、離せ」
地上に降ろされふらつくメラーニエを抱きしめ顔を寄せる。
「ん・・・」
そっと唇を咥えるとローブをたくし上げ腹にまとめる。
ずり落ちないように腰骨をつかんでメラーニエを持ち上げた。
首にしがみついたメラーニエの体を調節しあてがう。
「いくよ」
メラーニエがこくんとうなずくのを見てからゆっくりと中に侵入させた。
「・・・っ!」
ほんの先端が入りかけただけでメラーニエは痛いぐらいに頬を押し付けてくる。
陰門の中心を優しくノックしてメラーニエに心の準備をさせると
一気に突き入れる。
「っ゛・・〜〜〜〜っ!」
入り込んだ先端が熱い肉にきつく締め上げられる。
それと同じくして首も力一杯抱きしめられた。
「〜〜〜〜っ」
歯を噛む音が聞こえ動きを止める。
「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
苦しそうに息を吐く音が耳を打つ。
重ねた頬に汗を塗りたくられる。
止めていた手をゆっくりと前後に動かす。
メラーニエの腰を揺すり肉壁に肉棍をこすりつける。
「あ゛っ・・・あぅぅ・・・」
メラーニエの体を揺するたびに目の前で金色の髪が踊る。
くにくにしたとんがり耳が俺の耳を擦る。
メラーニエと触れている体の全てが熱い。
まるで体温を伝染されているような感覚が身体を包む。
彼女の柔さも狭さも熱さも匂いも手触りも全てが気持ちよい。
ただ身体を揺するだけの単純作業に至福を感じる。
メラーニエの痛がりように早く終わらせるべきと思いつつも
その一方でこの時間がずっと続けばいいのにとも思う。
またきっと犯れると信じて快楽に身をゆだねた。



またまた魔女の現れた部屋。
「ついたぞ」
落とし穴が出来たはずの部屋の前でメラーニエを床に降ろす。
「うん・・・」
どうもさっきからメラーニエの元気が無い。
「大丈夫か?まだ痛い?」
気遣いのつもりで言ったのだが
何故かメラーニエは不機嫌そうな顔で俺をじろっと睨みつける。
「・・・ふんだ、シランのせいで痛いんだからね」
処女だし痛いだろうなと思って一応入り口付近だけで済ませたんだけどな。
「出来るだけ優しくしたつもりだったんだが、
 メラーニエがOKしてくれたと思うと嬉しくてな」
「ばか・・・私はキスだけのつもりだったの!もう・・・」
う、そうだったのか。
それを知っていてもやる事は変わらなかっただろうけどよ。
「でも、すげえ可愛かったぜ」
「フォローになってないよ、そんなの」
「すまん・・。またメラーニエが困った時があったら助けてやるからさ」
メラーニエはにっこりと微笑んだ。
「へぇ〜、じゃあ一生養ってくれる?」
え!?一生って・・・これは結婚しようって事か!?
「・・・ああ、いいぜ、一生養ってやるよ」
「ふーん、でも私あと千年ぐらい生きれるよ?」
そう言うとメラーニエは俺の顔を覗き見ながら答えを待っている。
「おう、いいぜ、お前の食い扶持千年分ぐらい稼いでやる」
「ありがと、でも冗談よ」
・・・結婚する覚悟まで決めさせといて・・・
「結婚は冗談でもよ、俺とパーティ組まないか?」
「ううん、やめとく」
これもあっさりと断られた。
「今のあたしじゃ足手まといになるだけだもん」
ちっ、答えに困る言葉だぜ。
一見、そんなことないと言って欲しい感じだが
女の場合、丁重な断り文句だったりするからな。
ここで深追いすれば印象が悪くなるという悪質な罠の可能性も高い。
「でも、本当にありがと。
 ミリイを助けられるのはシランのおかげよ」
そう言うとメラーニエはローブの中をまさぐり白く透き通った石を取り出した。
「これお礼として受け取って。
 スルーの魔法石。
 私スルーはもう極めちゃったし」
スルーなんて結構レアな魔法を極めてるなんて実は凄いんじゃないか?
「おう、ありがとな。
 でも、魔法使いの魔法は・・・いや、フリーダ。
 確かお前魔法で強くなるんだよな、これお前にやる。
 いいだろ?」
メラーニエに一応確めてフリーダに石を渡す。
「ふふ、じゃあそれはフリーダさんへのお礼ね。
 ・・・シランにはねぇ・・・」
ちょっと考えた後、メラーニエは何も言わず顔を上げて目を閉じた。
こ、これは・・・・
「・・・今度はキスだけよ?」
俺の考えを見透かしたようにメラーニエは一瞬だけ目をあけ微笑んだ。