<地下4階>

プールの目前まで来て、ワードナの足が止まった。
なにやら妖しげな水がたたえられた水溜りを見て、魔女がちょっと眉をひそめる。
このプールは属性を変える効果があるはずだが、魔女が気にしているのは別のことのようだ。
「あまり水が綺麗ではありませんね。でも、まあ、仕方ありません」
意を決すると女のほうが早い。魔女はたちまち法衣に手をかけ、胸元を緩ませ始めた。
「待て、何をやっている」
「え? ―プールに入るのに、裸に。幸い、周りにわが殿以外の人影はおりません」
「泳ぐわけではない、この手のプールは服を着たまま入るものじゃ!」
「そんな―。あの、水着もだめですか?」
「…当たり前だ」
―「水着」とは何のことか分からないが、とりあえず却下する。どうせろくでもない物に決まっておる。
魔女はうつむき、ぶつぶつと呪詛を唱え始めた。
もれ聞こえる声は、(すごいの買ったのに)とか(わが殿に見せたいなあ)とか、悪の大魔術師には意味がわからないことばかりだ。
おそらく、とんでもなく恐ろしい呪具の話でもしているのだろう。
そのうち(わが殿にもお揃いの着てもらえば…)とつぶやいたので、ワードナはなぜかちょっとぞっとした。
女の陰謀は、わけがわからなくても男の本能が危険を察知する。
だが幸いなことに、ひとしきりぶつぶつ言った魔女はそれを実行する前に、別のことを思いついたようだ。
「…そうだ、温泉! こんど一緒に参りましょう。
 私が昔住んでいた迷宮にとてもいいのがありましてよ。もちろん、混浴!」
「…それだ」
 魔女は温泉旅行に同意が出たと思ってうれしそうな表情になったが、ワードナはまったく別のことを考えていた。
「―昔住んでいた迷宮、と言ったな。……貴様はいったい何者なのだ?」
 ワードナは北を睨みながら言った。
 ここは地下4階。―その方角には、魔女の住処がある。

(そもそも……この女は何者なのだ?)
ワードナにとって、今やそれは、この世で最大の疑問である。
このフロアで最初に出会ったとき、それは「地下4階の魔女」であった。
忌々しい結婚の呪いで彼をからめ取った後、そいつは「お目付けをワードナにつける」と言った。
それがこの女―地下10階から彼について離れぬ「魔女」だ。
だがこの女は、お目付けどころか自身が妻であることを主張している。
そして後から気づいたが、この魔女は、かつて「災厄の中心」を操り、別宇宙を造ろうとした稀代の女魔術師「ソーン」の姿を持つ。
「―貴様は何者だ?」
考えてみれば、ワードナは今までその問いを正面切って発したことがない。
そう訊けば、魔女はあでやかに笑って「貴方の妻です」と答えるのが目に見えていることもあるが、
最大の理由は、彼自身がなんとなくその話題に触れたくなかった、という奇妙な感情による。
しかし、もはや避けては通れぬ。この女と初めて会ったはずの場所、魔女の住処に行けば何か手がかりがあるはずだ。
悪の大魔術師は決然として突進した。

「………」
「―おや、お帰り」
五分後、ワードナは口をあんぐりとあけていた。手がかりどころか、当の本人がそこにいた。
「…なんて顔をしているのさ、女房の顔を忘れたかい?」
地下4階の魔女は、ワードナの顔をしげしげと見つめた。
それから、魔女―地下10階からワードナについてきている方に視線を向けた。
「…なるほど、<私>の顔を忘れるのも無理はない、か。随分とまあ、女らしくなったものだわね、<私>よ」
ワードナは交互に二人の魔女を見比べる。顔の造形、美しさも寸分の違いもない。
ただ―声だけが違う。彼についてきた魔女は姿にふさわしい若い女の声だが、地下四階の魔女はしわがれ声だ。
「―十万年の独り身よりも、十日の結婚生活」
若い声のほうの魔女があでやかに微笑して答える。
「ちがいない。―胸と腰のあたりに脂が乗ってきたこと」
「ま、待て、貴様たちは―いったい何者なんだ?」
ワードナは思わず叫んだ。二人の魔女が振り返る。
「あなたの妻ですわ」
「あんたの女房だよ」
これも寸分のずれもない返答に、悪の大魔術師は頭を抱えた。
「…そうか、貴様ら、クローンだな」
かつてソーンという名の魔女は、結界術とともにクローン術を駆使して大迷宮に君臨したという。
魔女を倒しに来た最強の冒険者の前に立ちふさがる最強の敵は、彼らと同じ姿と力を持ったクローンであった。
しかし、そのソーンの姿を持つ魔女たちは首を振った。
「はずれ、だ。<私>は<私>だよ」
「クローンなど、所詮未熟な魔術にすぎません。昔、いい気になって使っていたことがお恥ずかしい限りですわ」
一向に埒が明かない。
ワードナは問題を糾明しようと、あごひげをかきむしりながら二人の魔女に詰め寄った。
「―まあ、立ち話もなんだ、中にお入り」
しわがれ声のほうの魔女が見事なタイミングで突進をかわし、ワードナと魔女を住処に招きいれた。
「ふふ、なつかしい空気」
地下10階からついてきた魔女が、にっこりと笑う。
たしかに、さまざまな魔法薬の素材が棚という棚を埋め尽くし、大釜の中で奇怪な液体が煮える小屋は、「古典的な魔女の住処」の具現化だ。
「……」
ワードナは何か言おうとした。だが何も言うことが出来なかった。―めまいがする。世界が急速に傾き、意識が遠のく。
たたらを踏んで踏みとどまり、ワードナは背後の魔女―地下4階のしわがれ声の方だ―をにらみつけた。
「おや、さすが。―でも、あんたと<私>はお寝むの時間だよ。―おやすみ」
住居の主は、今、背後から飛ばした呪文を再び唱えた。
いかなる手段によってか、ワードナすらも二度は抵抗できぬほどに強化されたカティノの呪文を。
悪の大魔術師とその妻は、あっと言う間に眠りについた。



……気がついたとき、ワードナはベッドの上に立っていた。
いや、立っていた、と言うと語弊がある。
この住処のどこにあったのかというような巨大な寝台の上で、大魔道士は上体を倒して腰を突き出した姿勢で立たされていた。
両手は、目いっぱいに伸ばされて、寝台の豪奢なヘッドボードへくくりつけられている。
どんな素材と結び方なのか、いくら動かしても肌に食い込むことのない薄布は、どんな力を入れてもびくともしなかった。
「おはよう。―よく眠れたかい?」
しわがれ声が妙になまめかしく耳元でささやいた。
「―貴様!」
ワードナは背中にいる地下4階の魔女を睨もうとしたがうまくいかなかった。腰から下に力が入らない。
なぜかを考え、悪の大魔術師は愕然とした。腰の上に彼を眠らせた魔女の手が置かれ、ゆっくりとさすっているのだ。
地下4階の魔女の指が這うたびに、ワードナの身体の奥底からぞくぞくするような快感が湧き上がる。
「ふふ、いい反応だよ。さすが<私>、連れ合いの身体をとてもよく管理している」
そうだ、魔女! あやつはどこだ…? たしか、わしとともに眠らされて…。
「あんたの女房なら、ほら、そこ、あんたの目の前―いや下か」
背後の魔女がワードナの足元を指差した。
「―」
魔女―地下10階から彼についてきている方―は、ベッドの上に転がされていた。
ヘッドボードに上体をもたれかけるような姿勢で、ワードナと向かい合いにされている。
夫と同じく、両手を手首のところで布に縛られ、それはやはりヘッドボードに括り付けられ持ち上げられている。
ワードナと違って、こちらはご丁寧に猿轡まで噛まされていた。不安におののく瞳が夫を見上げている。
「貴様、何を―。これは貴様…ではないのか…?」
「そうだとも、その女は<私>さ。そしてあんたはその亭主。―だからおせっかいを焼きたくなる」
地下4階の魔女はにやりと笑った。
妻と寸分変わらぬ美貌に、ワードナは身震いした。
「―どうにもこっちの<私>は奥手でねえ。あんたとの仲もなかなか進まないようだ
手をつなぐことと、キスすることくらいは覚えたようだけど、肝心なところがまるでなってないよ」
地下4階の魔女は首を振りながら、ベッドに縛られた魔女を睨んだ。
「―だから、こっちとしては、もう少し宿六との仲を進めたくて、やきもきするわけさ」
しわがれ声の魔女の手が、そろそろと下に降り彼の尻の辺りをまさぐった。ワードナはびくりと身体を震わせた。
「―ほら、ここもまだのようだよ」
背後の女の表情は見えなかったが、その美貌に果てしなく邪悪な笑みが浮かんだような気がしてワードナはうろたえた。
ベッドに縛られた魔女が、猿轡の下で何か抗議の言葉を上げた。―しかし魔法の布にさえぎられて声は聞こえない。
「ふふふ、文句がないようだから、<私>流でやらせてもらうことにするよ」
地下4階の魔女は老魔術師のローブに爪を当てた。すっと引くだけで、丈夫な布地がまっすぐに裂ける。
あっという間にワードナは、下半身をむき出しにされた。―妻の目の前で、妻の手によって。
「……さて、宿六に質問だよ。―あんたはこの女のことが好きかい?」
ワードナは激しくむせた。
「な、ななな、何を言うか、馬鹿者」
「おや、答えたくないのかい? 照れと優柔不断は男の一番の罪悪だよ」
しわがれ声の魔女は片方の眉を上げた。ワードナの背中にぴったりと密着するように後ろからのしかかる。
柔らかな感触が悪の大魔術師の背面を占領した。―特に彼の肩甲骨の辺りに、ものすごい量感の柔らかい塊が乗っかっている。
ワードナの肩に魔女の顎が乗った。耳元で甘い吐息とともにささやく。
「もう一度訊くよ、あんたは<私>のことが好きかい?」
ワードナはじたばたして背中の魔女を振り払おうとしたが、急に動きを停止した。
「暴れない、暴れない。―暴れん坊はここだけで十分だよ」
ぎゅっと掴むことでワードナの動きを封じた後、やわやわとしごくことでそれを鉄のように硬くする。
「あいかわらず立派な持ち物だね。女房としては鼻が高いよ」
地下4階の魔女はにやにやと笑いながら、いとおしげにワードナの男根を弄った。
猿轡を噛まされている魔女がワードナの真下で激しく身をよじった。
だが腕は縛り上げられ、どうやら足も固定されているらしい。
胴体と、太ももがうねるように動いただけで、何の解決にもならなかった。
無力な妻ががっくりと頭をたれる瞬間、その瞳に涙がいっぱいたまっているのが見えた。―ワードナの心臓にぐさりときた。
にわかに怒りが沸く。悪の大魔術師は決然として死と破壊の呪文を唱え始めた。
「―駄目。<私>も<私>だよ。―仲良くしておくれな」
背後の魔女がさらにワードナに覆いかぶさってきた。自由なほうの片手で夫の頭を抱き、肩越しに唇をあわせる。
ワードナは呪文の詠唱をやめた。
唇を塞がれたからではない。伝説の魔道王の実力を持ってすれば、そんな状態どころか真空の中でさえも呪文を完成できる。
だが、情熱的に唇と歯を割って入ってくる舌の動きに、ワードナは戸惑った。
身に覚えあるが微妙な違和感が交じり合う、奇妙な感覚。
何か重大なヒントが隠されている直感に、ワードナは唱えかけの呪文を放り出して分析に掛かった。
ワードナの反撃を封じた地下4階の魔女が、音を立てて唇を離した。
男根をゆっくりとしごきながら、するすると夫の背中を滑り落ちていく。

「―おおっ!?」
ワードナが我に返ったとき、背後の魔女は、老人の尻を抱きかかえていた。
「な、何を―!?」
狼狽の極みと言った風のワードナの反応に、地下4階の魔女は微笑した。
「恥ずかしがることはないだろ。―女房が亭主の尻穴を可愛がるくらい普通のことだよ」
舌なめずりをして、ひざまずく。痩せた尻を白い繊手が優しく、しかし抵抗を許さぬ力でゆっくりと左右に押し広げる。
「―や、やめ…」
うろたえる声にかまわず、魔女は皺だらけの孔に唇を寄せた。
唾液をたっぷりと塗りたくり、すぼまった孔に、柔らかな舌を滑り込ませる。夫の内部を薄桃色の蛭が探検していく。
じゅるじゅると音を立ててすすりこんだ後、口に含んで唾液まみれにした指を差し入れ、前立腺を刺激する。
その責めの繰り返しに、悪の大魔術師はがくがくと身を震わせた。
「ふふ、おいしいよ、ワードナ。―でも、ここに溜まっているのは、もっとおいしいだろうね」
顔を上げた地下4階の魔女は、ワードナの陰嚢を揉みながら艶然と笑った。
「ふふふ、もう、ぱんぱんだね」
男子の急所を柔らかく刺激しながら、地下4階の魔女は心底嬉しそうな表情をした。
「ここをこうすると、もっと良くなるよ」
言うなり、魔女はワードナの陰嚢に唇を寄せた。大きく口を開いて袋ごと頬張る。
片側ずつたっぷりとしゃぶりあげる間にも、手による男根への奉仕はやまない。ワードナはのけぞった。
ふくらはぎが吊るかと思うくらいに足に力をこめて懸命に耐える。
「ふふふ、ぴくぴくしている。―中の子種がどんどん濃くなってきているのがわかるよ。
きっと量もすごいだろうねえ。―ねえ、どこに出したい?」
不意打ちの質問に魔道王は愕然とした。
「こんなに元気な子種だ、無駄打ちしてはもったいないよ。
 ―口の中に出したいかい? あんたの女房は一滴残らず喜んで飲むだろうねえ。
 ―それともお臀かい? さっき尻穴をいじられた仇を討つのもいいねえ。
 ―やっぱり、膣の中かい? こんないい子種を子宮にぶちまけられたら、<私>は狂っちまいそうだよ。
 ……でも、今、お前さんが出したいのは、きっと違うところなんだろ?」
図星を指されてワードナは沈黙した。
魔女がにやりと笑った。
再びワードナの上体にぴったりと身を寄せ、耳元でささやく。謎めいた問いかけを。
「…見てごらん、あんたの女房、けっこう美人だろ? ―何故だか分かるかい?」
けっこうどころか、魔道王は、この女以上の美女に出会ったことがない。
だが、「何故?」と問われると…そもそも美貌に理由などあるのか?
ワードナは男根の爆発を抑えるべく、快楽にかき回される脳髄で必死に考えようとした。
背後の魔女がくつくつと笑う。
「馬鹿だね、―あんたのために決まっているだろ」
「―わしの?」
「<私>が、あんた以外の人間のために綺麗になろうとする、と思っているのかい? あきれた宿六だね」
「―馬鹿な女は、自分のために綺麗になろうとするが、もうちょっと賢い女は、好きな男のために綺麗になろうとするのさ。
 毎日のお化粧と節制、表情と仕草と言葉使いの研究、笑顔と涙。―それと何より大事な、連れ合いの反応。
 ―昔、絶対美も含めたすべてを自分ひとりの手に入れるために、新しい宇宙を創造しようとした愚かな魔女がいたけど、
 誰か一人のためだけの美しさを作ることなら、別に難しいこっちゃあない。―仲良い夫婦が大抵やっていることさね」
「…わしの…ため……」
悪の大魔術師は、愕然として眼下の妻を見た。潤んだ瞳が見返した。
地下4階の魔女がにやにやと笑いながらワードナの耳元でささやいた。
「―だから、たまには褒めておあげ。
 綺麗だね、でも、好きだ、でも、なんでもいいさ。それだけで<私>は世界の全部を手に入れたも同然―」
だが、ワードナは耳まで真っ赤になって押し黙った。
背後の魔女はため息をついた。
「―あんたの恥ずかしがりは筋金入りだね。―でも、まあ、男が自分の女を褒める方法はそれだけではないよ」
ワードナの男根をもてあそぶ魔女の手業が淫らさを増した。
悪の大魔術師は歯を食いしばって耐えようとした。
いかん、このままでは―。
「遠慮せずに、お出し。―<私>の顔にかけるのよ。そこに出したいんだろう?」
魔女は耳元でささやいた。同時に、男の肛門の奥を犯す指と男根をなぶる指に仕上げの動きをかける。
「―ううっ!」
ワードナは爆発した。これ以上ないというくらいに膨れ上がった男根から、大量の精液が噴き出す。
ゼリー状の粘液は、白い紐のように宙を舞い、魔女の美貌に降りかかった。
男根の律動にあわせて、射精は長いこと続いた。
幾筋もの白濁液が魔女の顔にべっとりとかかる。艶やかな髪までも餌食となった。
「ああ……」
魔女は身体を震わせ、小さくあえいだ。霞んだような表情が心の中をあらわしている。
―愛するものに汚され、所有印を押される悦び。
ワードナは妻の美貌を犯し続けた。魔女はその全てをすすんで受け止めた。

「ふふ、これはまた、たっぷりと出したじゃないか」
背後の魔女が、射精したばかりの男根をもてあそびながらささやいた。
「ほれ、あんなにねっとりしている。おや、頬にかかったのは流れ落ちもしないよ。髪にまでこんなにかけて……。
 ―ふふふ、女房の顔にかけるのに、そんなに興奮したのかい? 綺麗にしていた甲斐があったねえ、<私>?」
図星を指されてワードナは言葉に詰まった。
魔女の美しい顔に自分の精液をかけてみたい、という欲望は今までずっと感じていたことだ。
地下4階の魔女が、見透かしたように笑う。―優しく、あでやかに。
「それでいいのさ。言葉でも、キスでも、こういうやり方でもいい、自分のものに時々所有印をお付け。
 世界中に「これは、わしの物だ」と主張おし。―<私>は、いつでもそうされたがっているよ」
ぞくり、とワードナの背筋を蛇が這い登った。何か心地よく、重大なことが耳に入ってきた―ような気がする。
だが背後の魔女は、彼にそれをゆっくりと吟味する余裕を与えなかった。
「ほら、かけただけではまだ不十分だよ。この顔をもっと自分のものにしたければ、この精液をもっとこすりつけておやり。
 隅々まで塗りたくって、あんたの匂いが取れなくなるくらいにすり込むのさ。犬の縄張りと同じことさね―」
甘美な誘いにワードナは縛られている腕を思わず動かそうとした。もちろん動かない。地下4階の魔女が笑った。
「だめだめ、手なんか使っちゃ! ―こういうときは、もっといい道具があるじゃないか」
ワードナの腰が背後からぐいっと押される。男根が、魔女の顔にぺったりと押し付けられた。
自分の出した粘液と、魔女の柔らかな頬の感触。
「―ふふふ、精液をかけただけじゃなくて、男根でこすりつけるのかい? いやらしいねえ。
そんなことされたら<私>はあんたに全面降伏しちまうよ。当分亭主に逆らえないねえ……」
自分でやったことなのに、背後の魔女はまるでワードナに責め立てられている様に、あえぎながらささやいた。
いまやマゾの愉悦に身を任せているのは、ワードナの下の魔女だけではない。もう一人の魔女のほうも同様だった。
放ったばかりの男根が二人の魔女の痴態を前にして、よりたくましく復活する。
「ふふ、亭主がその気になったよ。―仲良く妻の役目を果たそうじゃないか」
地下4階の魔女が手を振った。縛られていた魔女の猿轡と手かせがはずれる。ワードナの手かせも。
「―わが殿」
魔女がのしかかってきた夫を抱きしめる。背後から地下4階の魔女も参加する。
一人の男と二人の美女……一組の夫婦はそのままうねるような官能の坩堝に身を投じていった。



ワードナが気がつくと、そこは闇の中に光がひとつ灯る部屋だった。
―部屋?
闇はとてつもなく広がっているようで、どこまで続いているか見等がつかない。だが魔女の住処ならばこんな部屋もあるだろう。
どのみち、部屋の「中央」、明かりがある場所以外に意味はない。
ワードナは光の下、大きな古ぼけた机の前に歩いていった。
「お目覚めかい。まだ夜中だよ。―と言っても夫婦ともども目がさえてるようだ。少しおしゃべりしようか」
テーブルの向こうの魔女が声をかけてきた。しわがれ声だ。
―地下4階の魔女。もう一人の魔女はいない。好都合だ。
「―質問がある。はぐらかさずに答えろ」
ワードナは決然として相手をにらみつけた。
「いいとも、何でも答えるべきときが来たようだね。―まあ、お座りな」
地下4階の魔女は頷いて対面の椅子をすすめた。腰掛け、改めて相手を睨みすえる。
「聞きたいことは山ほどある、という顔だね。―まずは、<私>の正体、それとあっちの<私>との関係」
しわがれ声の魔女はちょっと考えこんだ。
「まず<私>だけど―まあ、魔女としか言いようがないね。結構長く生きているけど、女に年齢は聞かないでもらいたいね。
 いろいろな名前を持っていろいろなところに住んでいたけど、今はここに落ち着いている。
 ―ちなみにあんたとが初婚だよ」
最後の一言を強調する。
「あっちの<私>については、これも<私>としか答えようがないね。
 分身と言えば分かりいいだろうけど、厳密にはちょっとちがう。
 ―それに今ではもう、あっちのほうが本体と言ってもいい」
「―それにしては、ずいぶんと違うな、あれと、貴様とは」
魔女はぱちくりとまばたきした。それからぷっと吹き出す。
「…当たり前じゃないか」
魔女が笑った意味は分からなかったが、とりあえず話を進める。これ以上はぐらかされては埒があかない。
「―では、貴様らと、あのソーンとはどういう関係なのだ?」
地下4階の魔女は悲しげに眉をひそめた。
「あの娘も<私>―と言っても、完璧な分身―あんたにずっとくっついている<私>と違って、ほんの一部分が離れた存在だったけどね。」
「……」
「愚かでかわいそうな娘だったよ。
 誰からも愛されない、何も手に入らないのを恨んで、新しい宇宙を作ってすべてを手に入れようとした。
 処女の子宮で宇宙なんか作れるわけがないのに、災厄の中心を操って無理やりやろうとしたのさ。―結局失敗したけどね」
その話は聞いている。この魔女の一部から生まれた女ならば、ゲートキーパーすら上回る魔力を持っていたことも納得がいく。
……稀代の女妖術師が処女だったとは初耳だったが。
「あの娘のまわりには、ちゃんとあの娘を愛してくれたかもしれない者がいたのに、自分からそれを遠ざけて破滅の道を歩んだ―馬鹿な娘だったよ」
魔女はため息をついた。出来の悪い妹か、娘を嘆く女のように。
「ことが終わった後、あの娘の魂は私が拾い上げた。あの娘はあらゆる点でまちがっていたけど、すごい頑張り屋でね。
誰のために見せるわけでもないのに、世界を見返そうと一生懸命綺麗になろうとしていた。
たしかにものすごい美人にはなったよ、―誰も褒めてくれる相手がいなかったけどね。
あんまり悲しいので、あの娘を再吸収したとき、<私>はあの娘の姿を取ることにしたのさ。だからあの娘も、過去の<私>」
「むう…」
ワードナはうなった。少し頭が混乱している。だが、大まかなところはわかってきた。ならば、一番肝心な質問だ。
「……それで、なぜ貴様はわしにまとわりつくのだ」
「……つれない男だね。最高の魔女が最高の魔術師に惚れちゃいけないのかい?」
魔女はため息をついた。
「魔品を集めることで、最高かどうかがわかるのか?」
ワードナは片眉を上げた。魔女の結婚条件は―ワードナは全然望んでいなかったが―118品の魔品の収集だった。
「わかるさ。―自分が何を集めたのかを知らないのかい。大魔術師よ」
地下4階の魔女はあきれたというように首を振った。
「ブラックボックス、持っているかい? ―ちょっとお貸し」
普段ならば他の誰かにこんな危険で重要なものを見せたりはしない。だが、ワードナは請われるままそれを出した。
魔女は禁断の黒箱を探っていくつかの魔品を取り出し、古樫の大机に並べた。

「ドラゴンの琥珀……別名<竜の顎の珠>」
「ジャッカルの外套……別名<火鼠の皮衣>」
「ブラッドストーン…別名<燕の子安貝>」
「クリスタルローズ…別名<蓬莱の珠の枝>、<優曇華の花>とも言うねえ」
「虚無変換機……別名<仏の御石の鉢>」

魔女の言葉に、ワードナは口をあんぐりと開けた。遠い異国で神の秘宝と呼ばれたものばかりだ。
地下四階の魔女は、五つの秘宝を眺めて首を振った。
「この一つを求めただけで、ヒノモトの皇族やら大臣やらが失脚やら破産やらで大騒ぎになったもんさ。
 それどころか、ヒノモトの帝その人でさえ最初の一つ目すら諦めた代物だよ。まさか全部集めてくる男がいるとは思わなかった」
「……プリンセス・カグヤの伝説か」
それは聞いたことがある。ヒノモト最高の美女を求めて、有力者が争う話だ。
結局、女―女神は誰のものにもならずに天に戻ってしまった。
「……いつのまにか、わしはカグヤにも求婚できるほどの魔品を集めていたと言うことか。時代が時代なら―」
伝説の中の話だが、竹から生まれた女神は地上のどんな女よりも美しかったと言う。惜しいことをしたのかもしれない。
地下4階の魔女が怪訝そうに眉をひそめた。
「だから、あんたの女房になっているじゃないか。―カグヤは、<私>がヒノモトに住んでいた頃の名前だよ」
ワードナは激しく咳き込んだ。
「あの頃<私>は結婚に憧れていてね、一個だけでも持ってくる男がいればと思っていたんだけど、誰にもできなかった。
あんまり失望したんでヒノモトからは引っ越したんだけど、待った甲斐があったねえ」
「ま、ま、待て。まさか他の魔品の中にも―」
「同じようなものが幾つかあるね。伝説の勇者も、闇を統べる魔王もみな探索に失敗したものばかり。
―でもあんたはいとも容易く集めてきた。たとえあんたにその気がなくても、昔、いろんなところで出した求婚の条件を
こうもすべてクリアされると、こちらとしては赤い糸の存在を信じざるを得なくなるさ」
魔女はうっとりとワードナを眺めた。

ワードナは頭痛を感じて頭を振った。なにかとてつもない罠にはまったように感じる。
「まあ、そういうことで、仲良くしておくれな、旦那様」
嫣然と笑った魔女に、悪の大魔術師は口をぱくぱくとした。
酸素が足りない―ラカニトだ。さらに言えば声が出ない―モンティノだ。もっと言えば体が石のようだ―石化攻撃。
「……おや、これは…?」
取り出した魔品をブラックボックスに丁寧に戻していた魔女が小さな布きれを引き出した。
―119品目の逸品、夢の中の戦利品だ。見た瞬間、魔道王の呪縛が解けた。
「な、なな、なんでもないわ、返せ!」
三重苦から脱出したワードナがすばやくひったくる。早業の短剣よりもすばやい動きに魔女が目を丸くする。
「―ま、いろいろあったようさね」
苦笑した女を睨みつけ、ワードナはブラックボックスを片付けた。少女の下着はとりあえずローブのポケットに突っ込む。
「―どうでもいいことだ。……それより最後の質問だ」
話をそらそうとして、ワードナは詰まった。
なんとなく答えが分かっている質問が一つ残っている。―するべきか、しないでおくべきか。
地下4階の魔女は微笑んでワードナを見つめるだけだ。ええい、ままよ!
「―貴様と、地下10階の玄室からついてきている貴様、どうしてこんなに違うんだ?」
「―<私>のキスと、あっちの<私>のキス、どっちが好みだい? それが答えさ」
予定通りの質問だ、という表情で魔女は答えた。
ワードナは昨晩のことを思い出した。
地下4階の魔女のキスは激しく官能的だった。その性交もワードナの全てを搾り取り、信じられない快楽を与え続ける。
―まるで地下10階の玄室で初めて魔女と交わったときのように。
対して彼にずっとついてきているほうの魔女のキスは、もっと優しく、しかし、しっかりと愛情を感じるものだった。
交わりも、最近いつもそうであるように、お互いの隅々までをひとつひとつ確かめていくような共同作業になっている。
しかし、快楽の深さは地下4階の魔女とのそれと遜色がない―どころかはっきりと上だ。何よりお互いの満足度が違う。
目の前の魔女と、いつも傍にいる魔女。
どちらが自分の好みか―。ワードナはため息をついた。もう答えは分かっていた。
「貴様、……わしの好みにあわせているな―」
魔女はぱちぱちと手を叩いた。
「大当たり。あっちの<私>は、あんたに抱かれるたび、あんたに好かれようとどんどん自分を変えている。
 ずいぶんと可愛くなったもんだろう? <私>もちょっと驚いたくらいだよ」
「ああもたやすく変わるものなのか……?」
「女は化ける生き物さ。相手のために自分を変える―王侯貴族から平民まで女なら程度の差はあれ誰でもできる魔術だよ。
 もっとも、好きな男がいる女限定の秘術だけどね」
ワードナはがっくりと肩を落とした。とてつもない重荷がのっかったような―男の責任とか、そういう類のものだ。
だが、まあ、男というものは結構こういうものに耐えられるように生まれている。だから女という化物と釣り合いが取れるのだ。
夫が落とした肩を再びそびやかす様を、地下4階の魔女は優しい目で見つめた。彼の妻と同じ瞳で。
「―そういうわけで、もう少しあんたを篭絡しておきたかったんだけど。……たまに「好きだ」くらいは言ってくれるくらいに―。
やり方がまずかったらしいね。さっき、あっちの<私>に怒られたよ。まあ、これについてはあっちの<私>まかせるさね」
地下4階の魔女はくすくすと笑った。
「―行くのかい?」
ワードナは立ち上がった。どうやって戻るかは分からなかったが、闇の中を歩いていけば目的の場所に出ることは理解していた。
「そう。―最後にすごく重要なことを教えてあげるよ」
「む?」
「あっちの<私>はあんたの理想の連れ合いになりつつあるけど、長い結婚生活さ、いろいろあると思うよ。でも、浮気はよくない。
 もしそんな気を起こしかけたら―<私>のところへおいで。<私>相手なら浮気にならないから。―可愛いお尻もたっぷり愛してあげるよ」
魔女はにやにやと笑った。意味ありげにワードナの腰の辺りを見つめる。
悪の大魔術師は、淫魔の舌に舐められたように身震いして闇の中に突進した。魔女の声が小さく聞こえたような気がした。
「じゃあ、またね。私の旦那。―いつか照れずに好きだと言っておくれな」



翌朝、夫はものすごく不機嫌だったが、魔女は果敢に抱きついておはようのキスをした。
ここで引いてしまっては、しばらくしこりが残る。夫に関するそうした感情の機微はよくわかっていた。
「む」
気まずい感じだった魔術師は、あきらかにほっとしたような表情になった。
「…行くぞ。―パイナップルは…ある」
荷物をごそごそとやり、<オックおばさんの聖なる手榴弾>を確かめて元に戻す。
これがあれば地上へ出ることが出来る。ここまでの準備は完璧だ。
夫は無言無表情で地下4階の魔女の前を通り、魔女の住処から出て行った。魔女は自分に挨拶をした。
「では、しばらくのお別れね、<私>―あら、ずいぶんと機嫌いいわね」
住処の主は、壁にもたれかかっている。うつむき加減でにやにや笑いを浮かべている。
「気分は上々さ。―さすが<私>の亭主だ、相性抜群、若返った気分だよ」
地下4階の魔女は自分の下腹にそっと手を当てた。そこには、昨晩受け入れた夫の精液がたっぷりと詰まった魔女の子宮がある。
「あら、失礼ね。―まるで私が本当は年寄りみたいな言い草じゃない」
若妻はちょっと苦笑した。それから真剣な顔になる。
「……やっぱり、追ってきてる?」
「ああ、もうこの階層までやってきている。―急いでお行き。しんがりは<私>がするよ」
「感謝するわ。ちょっと手ごわい相手ね」
「―どころか、最大のライバルだよ。意味は分かるだろ?」
二人の魔女は深刻な表情で頷きあった。ワードナがいれば、この二人が警戒する相手とは何者か、と驚愕するだろう。
「お気をつけ。<ソリトンの黒き円盤>の数だけ<私>はいるけど、亭主にとっての<私>はお前だけだよ」
「わかっているわ。……だから、なおさら負けられない戦いなの」
魔女は緊張した顔に無理やり微笑を浮かべた。外で夫が待っている。もうそろそろ出発しなくては―。
「…お待たせしました。―さあ、行きましょう!」
魔女は微笑みながら、歩き出した。
―ここから先は、修羅道か、地獄道か。<追手>はそこまで迫っている。



「……!!」
ナーニィーアは、声にならない悲鳴を上げた。
血の海をはいずって逃げようとするが、おびえきった女魔術師は簡単にそいつに捕まる。
力強い手が荒々しくローブを剥ぎ取るのを、ナーニィーアは絶望の目で見ていた。
彼女のパーティー、<ドリオンズグレイ>はたった今、こいつによって壊滅されたばかりだった。

一行は、最初それを、レイバーロードだと思っていた。
マスターレベルのロードと互角の力を持つ魔物は強敵だが、同じくマスターレベル揃いの六人にとって怖いものではない。
しかし、最初の一撃をかわされた瞬間、前衛の三人が斬り殺されるのを見て、<グレイ>の面々は過ちを悟った。
―こいつは、ダークロードだ!
蒼黒鎧の死霊騎士は、レイバーロードに外見は酷似しているが、その実力は桁違い、というより種族からして別物である。
戦士として50LV級の実力を持ち、僧侶系の最高呪文を唱え、何より麻痺や石化、ドレイン、そして即死の一撃を繰り出す。
かつて、呪われた大迷宮の最下層から行ける<地獄>でしか遭遇することがないと言われた最高位の魔物だ。
死せる戦士を束ねるアンデッドの君主がなぜこの階層に―!?
肌を恐怖であわ立たせながら、リーダーのドリオンとナーニィーアはジルワンの呪文を唱えた。
<闇の君主>は強力な魔法抵抗の力を持つが、当たればどんな強力なアンデッドも一撃で消滅させるジルワンを連続で浴びせれば
勝利の可能性はゼロではない。―そう判断しての冷静な行動だった。
事実、ナーニィーアの呪文は無効化されずにそいつにぶち当たった。悪の女魔術師は勝利の歓声を上げた。
しかし、呪文が通ったにもかかわらず、そいつは無傷だった。
もはや剣すら使わず、両腕を伸ばしてドリオンと盗賊のクイルの頭蓋骨を握りつぶした相手が、
ダークロードよりもさらに強力な存在であることを悟ったナーニィーアは、マスターレベルの誇りをかなぐり捨てて逃げ出した。
だが、容易に捕まってしまう。
「……女、か……久し…ぶり、だ…」
そいつは、しゅうしゅうという呼吸音の中で、そう言い、美しい女魔術師の顔を覗き込んだ。
ナーニィーアは、死よりも恐ろしいこれからの運命を悟って、凍りついた。

そいつは、ナーニィーアを裸にして放り投げると、自分の鎧を脱ぎ始めた。
ナーニィーアたちがダークロードと間違えた、蒼黒の鎧が剥ぎ取られる。
おぞましい屍体を想像した女魔術師の目が驚愕に見開かれた。―鎧の中から現れたのは、美しい女の裸体だった。
抜けるように白い肌、大きく、形の整った乳房、引き締まった腰と、張り詰めた臀。筋肉は女性美の妨げにならなかった。
同性のナーニィーアが嫉妬する前にうっとりとするような美しさは、兜を脱いで顔をさらすことで完璧になった。
金髪の巻き毛が驕慢そのものの美貌に華を添える。―完璧な女君主がここにいた。
仲間たちの無残な死骸に囲まれて、女魔術師は陶然と敵を見つめた。
だが、ナーニィーアは次の瞬間、悲鳴を上げた。女君主の股間のものを見て。
金髪の美女のその場所には、鍛えられた男の腕ほどもある巨大な男根が天高くそびえていた。
「どう…した。淫…売……め。我が…<サックス>に…驚いた…か」
女魔術師に嘲笑を浴びせながら、そいつは近づいた。相手を人とすら思っていない傲慢さで持ち上げ、後ろを向かせる。
鉄のように冷たく無慈悲な手の感触ではなく、何をされようとしているかを悟ってナーニィーアは恐怖の声をあげた。
ずん、と音を立ててナーニィーアに鉄の杭がつきたてられた。立ったままで犯される―しかも後ろの門を。
「―っっ!!!」
パーティー仲間の戦士グレイストーンの腕はよく見ている。オーガーを圧倒し、トロルを組み伏せるたくましい筋肉の固まり。
握り締めれば自然石さえも砕く、純粋な力の具現化―それ以上の巨きさと力をもつ物が彼女の肛門を貫いた。
激痛と屈辱と絶望に、ナーニィーアは失神しかけたが、すぐに同じものによって意識を復活させられた。
背後の女君主―と呼んでいいのだろうか?―は無言で彼女の臀を犯し続けた。粘膜が裂けて流れる血が地面まで滴り落ちる。
(だ、誰か―助けて―)ナーニィーアは狂いそうな頭で必死に救いを求めた。
…奇跡か―、彼女の瞳に、冒険者の一団が駆けつけてくるのが見えた。しかもあの装束には見覚えがある。女魔術師は喜びの声を上げた。
「彼ら」なら、この化物にも勝てるかもしれない。「生ける伝説」の仲間―最強の冒険者たち!
「―ソフトーク・オールスターズ!!」

だが、<オールスターズ>は、そいつの前でぴたりと止まった。
―彼らがそいつの前にうやうやしくひざまずいたとき、ナーニィーアは真の絶望を味わい、同時に背後から頭を潰されて絶命した。
「お召しに従い、参りました。我らが真の主、リルガミンの王よ―」
背後からナーニィーアの頭蓋骨を握りつぶした女君主は呼びかけを傲慢に無視し、息絶える女の痙攣に合わせて腰を激しく動かした。
死んだ女の肛門に大量の精汁を吐き出す。
射精しても特に愉しげな様子もなく、金髪の美女は女魔術師の屍体をゴミのように放り投げた。
「お召しかえを―。王にふさわしい装束をお持ちいたしました」
美しい尼僧・サラが、うやうやしく純銀の鎧を差し出す。篭手や兜、盾までもがそろっている。
「<ダイヤモンドの騎士>の装備でございます。―<ハースニール>だけは何者かにより持ち去られておりました。
 現在、ホークウインド卿が追っております。すぐに吉報が―」
「いらぬ。―<地獄>から持ってきたこの剣があれば十分だ。
 ホークウインドを呼びもどせ。あやつめを狩り立てるほうが先だ」
ナーニィールから精気を吸ったのであろうか、女君主の声は、いまや滑らかなものになっていた。
その美貌にふさわしい、美しく、無慈悲で、驕慢な声。かつてリルガミンの<天守閣>で響き渡っていた声。
「それと―女狩りをしろ。我が<サックス>の高ぶりがおさまらぬ」
「仰せのままに。美女のハレムを用意しましょう。―男はいかがいたしますか」
伝説によれば、復活した彼らの主人は、あの男根の下に女陰をあわせもち、生前は美少年との性交もおおいに愉しんだという。
だが、彼らの女主人は、怒りの声を上げた。
「いらぬ! あやつ―あの裏切り者、ワードナの男根を切り落とし、陰嚢を握りつぶし、
 肛門をこの<サックス>で引き裂いて貫くまで、我は男を絶っておるわ!!」
「ぎょ、御意」司教はあわてて頭を下げた。
「……ワードナ…貴様はいまどこにいる? 我を裏切りし報い、かならず受けさせるぞ……」
女君主は美貌を憎悪に染めながら宙を睨みすえた。最強の冒険者たちは畏怖と恐怖にひざまずいた。

リルガミンの君主、半陰陽の支配者、そして魔道王のかつての恋人…。
……<狂王トレボー>は、ワードナを追うべく、いまここに黄泉還った。