神殿と言う名の封印。 
かつてあれほど彼女を頌え、崇めた人間達は、 
自分達の信仰が薄くなったせいで力を喪った神を、地獄に最も近い場所にぼろ屑のように棄てた。 
自分達で作った彼女の為の神殿を壊し、 
いかなることがあっても彼女がまた自分達をかどわかさないよう、決して出られぬ魔封を施して。 
それを彼女は怨みはしない。 
力が喪われたことを嘆きはしても、その原因たる人間を憎むことなど彼女はしなかった。 
怨まないことが彼女の存在価値であり、そして、彼女が棄てられた理由だった。 
あまりに穢れ無き存在を、人は欲しない。 
信仰は己を映す鏡であり、そこに完全なるものが映ってしまっては、 
己の至らなさをまざまざと見せつけられるからだ。 
絶対的な存在を求めながら、あまりに完全な存在は忌む対象となる。 
救いがたい人の性を、彼女は憎まない。 
何故か。 
完全だからだ。 
完全故に棄てられ、完全故に怨まず。 
それが大いなるウシャビィの神、ドリームペインターと言う名を持つ彼女の神性だった。 
しかし今や彼女がいる場所は、瘴気が心を灼き、陰風が魂を冷やす地獄の直上だ。 
上層と言えども亡者が群れなして日々呪詛を叫び、生への執着を唄う声ははっきりと聞こえてくる。 
この階層を守護する人間達の中には絶えることなき怨念の波動にやられ、 
精神を病むものも少なくなかったが、彼女は汚れなかった。 
全き白の羽根は地獄の業火の煤を浴びても一片の汚れすら宿さず、 
この現世の煉獄にあって神々しい光を放っていた。 
ただし余人がその光を見ることは決して無い。 
彼女は、彼女の為に作られた墓所の中心部に、ひっそりとその身を置いていたからだ。 
誰からの干渉も無い、広大な墓所の狭い墓室の中で、永劫の刻を過ごすのだ。
その彼女の許に、やって来た者がいる。 
その眠りを、乱す者か。 
「こんな所に迷いこんでくるとは……去りなさい。今ならその無礼を許してあげましょう」 
小さな玄室にあって、彼女の声は荘厳に響き渡る。 
その響きは地上のあらゆる音を凌駕し、天上のどんな音よりも澄んでいた。 
他の神々の嫉妬を買うほどの声は、それ故に彼女の居場所を奪い、 
この、天上でも地上でも、更には地下でもない、ジグラットと言う名の牢獄に彼女を追いやったのだった。 
しかし、人影は立ち去ろうとしない。 
人間の悪人如きでは、聞いた瞬間にひれ伏し、その悪を棄てるであろう声色にも、 
その人影は下層の地獄から切り取って来たような瘴気を放ち、怯む色を見せなかった。 
無論、神であるドリームペインターにはその程度の瘴気などいかほどのものでもない。 
しかし、悪は臭い。 
この世界において厳格に定められている戒律における悪ではない。 
人が持っている、卑しい心のことだ。 
それはどれほど着飾ろうと、どれほど見た目を整えようと、身体から放たれるもので消せはしない。 
それにしても、目の前の人影の腐臭は際立っていた。 
どれほどの悪ならばこんなになるのか。 
稀代の悪。 
人の命になど銅貨ほどの価値も見出さず、金を奪うと言う理由すら無しに人を殺せる悪でなければ、 
ドリームペインターに意識させるほどの臭いを身に纏うことは出来ない。 
そう、彼女の前に立っているのは、紛れもなくワードナだった。 
悪が意識を持ち、肉を宿したような魔導師が、一体こんな所に何の用があるというのだろうか。 
ワードナはただ一人、紫檀のような色をしたローブで顔を隠し、ゆっくりとドリームペインターに近づく。 
その足取りが何を意味するのかは不分明だったが、どのような理由にせよ、 
もう人間などとは金輪際関わりたくない彼女は、力を行使して不埒な侵入者を排除しようとした。 
彼女の力を持ってすれば人間など消し炭にすることも容易いのだから、 
侵入者は大いなる慈悲に感謝すべきであった。
ところがみすぼらしいローブを着たその人間は、あろうことか腰に手を構え、剣を抜こうとしている。 
落ちぶれたとは言え、神を殺そうとするとは。 
永きにわたって地獄のそばにいたことが、知らぬうちに影響を及ぼしていたのか、 
かつてない感情を覚えた彼女は、その侵入者が絶望し、己の無知を恥じてから追い出すことにした。 
呪文の詠唱を中断し、恐らく魔導師であろう人間の出方を覗う。 
笑止なことに、その人間は勿体をつけるようにじりじりとしか剣を鞘から抜かない。 
人間の鍛えた武器などでは、彼女の持つ魔法障壁を打ち破ることなど決して出来はしないのに。 
口の端に薄ら笑いを浮かべ、 
斬りかかってきた瞬間に刀身を折ってやろうと待ち構えるドリームペインターは、 
剣の鍔の部分から光が漏れているのに気付いた。 
奇妙に心騒がせられるその光に、彼女は魅入る。 
瞳が、光に灼かれる。 
光はまばゆく、視力を奪うほどの光量を有していたが、 
彼女は瞬きもせず、輝きに魂を奪われていた。 
碧緑色の輝きそのもの。 
それは遥かな昔、自分の力を崇めた人間達によって奉納された剣。 
そして、一方的に奪い取っていった信仰の証。 
彼女にとっては何の意味も持たないその剣は、しかし確かに彼女の力の証であり、拠り所であった。 
それが今ここにあるということは、神殿が修復されたということに他ならなかった。 
誰が。 
目の前の人間に決まっている。 
彼女はその人間が悪の塊であることも忘れ、ゆっくりと跪いた。 
胸の前で両手を組み、深々と頭を垂れる。 
「おお……おお……!」 
魔導師は剣をゆっくりと掲げ、頭上にかざす。 
輝きが部屋を満たし、彼女を満たした。
歓喜がドリームペインターの裡を駆け巡る。 
この数百年、久しく感じていなかった悦び。 
光の粒子が身体のあらゆる部分から入りこみ、優しく愛撫する。 
涙と愛蜜を垂れ流しながらワードナの許へ跪いたまま近づいた彼女は、 
額づき、その汚れた靴に恭しく接吻した。 
自分は、見捨てられていなかった。 
人間などとうに見捨てていたはずの心が、むせび泣いた。 
全き神が、拝跪する。 
頭のみならず、白き羽根までも地に着けて。 
「わたくしでよろしければ……何か御為になることは出来ましょうか」 
それに対してワードナの口がわずかに動く。 
空気を震わせるのがやっとという小声も、ドリームペインターは一言一句漏らさず聞き取り、 
容易く行える彼の願いに満面の笑みを湛えた。 
「おお……そのようなことなら喜んで!」 
早くも恍惚の表情を浮かべ、地に堕ちた神はワードナに額づく。 
魂からの忠誠を誓った神は、その格好のまま微動だにしなかった。 
やがてその口から、奇妙な声が漏れ出す。 
およそこの場に相応しくない、淫猥な音色。 
良く見れば穢れ無き翼を持つ神の腰が、額づいた時よりも持ち上がっていた。 
揃えられていた足も開き、その間では手がだらしなく蠢いている。 
片方の手で秘部をくつろげ、もう片方の手で淫壷を刺激する。 
一見生えていると判らぬような薄い恥毛を蜜で浮かび上がらせ、 
桃色に煌く果肉をあさましく弄りたてていた。 
「はぁ……っん、はぁ……あぁ……」 
擦るような動きだった手が、何かを挿しこむような動きに変わっていた。 
その中央にある指は、時折短くなったように見える。 
粘り気のある液体が立てる、奇妙に欲をそそる音が玄室に響き渡った。
ただ一筋の線に過ぎなかった秘裂は、今や目も当てられないほど卑猥な穴と化し、 
その中で細い指が踊っている。 
自らの欲する動きを、敢えて焦らすように聖なる蜜を掬い、桃色に煌く肉の隅々にまで塗りたくる。 
とめどなく溢れる滴は指を伝い、手首をも濡らしていたが、彼女の動きは止まることが無かった。 
単調な前後の動きはすぐに複雑な、掻き回すような動きへと変じる。 
指を全て呑みこんでもなお奥まで刺激を求め、手首を捻り、腰をしならせて自らを恍惚へと導いた。 
原罪の穢れさえ持たぬ全き白の羽根は天高く飛ぶ鳥のように広がり、 
同じくいかなる欠点も見つからない完全な肢体はほの赤く染まっている。 
そして、羽根よりもわずかに色調の濃い金色の髪を振り乱しながら、 
ウシャビィの神は自慰を続けた。 
ただれた性欲を見せつけるように足を一杯に開き、秘部を露にして行為に没頭する。 
体内に潜り込む指は今や三本に達し、そのそれぞれが淫らに蠢いて己を慰めていた。 
「ああっ……っ、あっ、おうっ、あはぁっ」 
娼婦も顔をそむけるような喘ぎを放ち、口から涎を垂れ流し、ドリームペインターは悶える。 
しかしそれでさえも飽き足らないのか、遂にもう片方の手までもを淫楽の道具に使い始めた。 
それも、塞がってしまっている前の穴ではなく、肉付きの薄い尻肉に閉ざされた、穢れた孔を。 
「うっ……く……」 
自らの意思で行っていながら、苦しげな呻きが彼女の口を歪ませる。 
しかしそれが苦しくはあっても快楽を伴っているのは、 
既に半ばほども埋まっている指からも明らかだった。 
「あ……はぁ……」 
ゆっくりと押し出された呼気には、砂糖を溶かしたようなねっとりとした響きが混じっていた。 
弾き返される指の感触を愉しみ、再び押し入れる。 
そして繰り返される、喘ぎ。 
彼女は飽きることなく尻孔への挿入そのものを愉しんでいたが、 
その指先は少しずつではあるが、確実に埋まる量を増やしていた。
「あっ! あぁ……んっ……」 
突然、甲高い声が響く。 
下腹の中で、前後から挿入した指が触れ合うような感触を得たのだ。 
新たな快楽に気付いた彼女は、早速もう一度試す。 
「う、ふぅ……んぁっ、ぁ……ひ……ん」 
肉を掻き分け、指先同士を探り合わせる。 
訪れるたまらない快感に、すぐに彼女は夢中になった。 
体内で二本の指を触れ合わせようとする動きは、 
それだけでは物足りないのか、腰全体をも卑猥に振って悶える。 
腰が揺れるたびに白く泡立った体液が開ききった淫穴からぽたぽたと垂れ、塵一つ無い床に染みを作っていた。 
「あっ、は……う……うぁ、あ、ぉ……」 
神が、獣じみた叫びを上げる。 
処女雪の如き肌を燃やし、だらしなくめくれた唇から涎を滴らせて。 
神の象徴である翼は彼女の悶えをその一身で表し、指が快感の源を捉えると幾度もはためいた。 
翼から抜け落ちた羽根が玄室を乱舞するが、そのどれもが地に落ちる前に消えていく。 
まるで彼女が堕ちるのを食いとめようとするかのように。 
しかし、彼女は止めない。 
自らを見捨てなかったたった一人の人間に、その穢れなき魂を差し出す為に、恥ずべき行為を続ける。 
今や尻孔に埋めた指さえも、根元まで見えなくなっていた。 
更にその指を掻きまわし、腹の中心に淫悦を与える。 
膣内に沈めた指はより激しく、抉るような動きを繰り返していた。 
「あっ、かっ……お、ぅ……っ」 
ドリームペインターの全身が、痙攣を始める。 
既に小さな絶頂の波が、彼女を蝕んでいるようだった。 
尻肉が小刻みに震え、床に押しつけられた乳房もわなないていた。 
それでも彼女は止めなかった。 
ドリームペインターの名の如く、夢と現世の狭間を取り払おうと、指先を、鉤状に曲げた。 
一際多くの羽根が舞う。 
厳かな玄室に、淫らな叫びと臭いが広がっていった。
「ひ、ん……っ! あ、は……っ、ぐ……ぅ!!」 
ワードナの見ている前で慰撫を続けていたドリームペインターは、 
聴く者の魂を快楽に誘う喘ぎと共に果てた。 
その喘ぎがか細くなっていくのにつれて、玄室の中をまばゆいばかりの輝きが満たした。 
最後に残ったのは、ひとひらの羽根。 
舞い降りた羽根は、静かに堕ちた。 
ワードナの掌に。 
邪悪の魔導師の許に。
「ウシャビィの神」というのは誤訳のようなのですが、 
PC版・PSアレンジ版ともにこの表記だったのと、 
響きが気に入っているのでこのまま使いました。