<復活1>

苦痛の時は終わった
さあ、立つがいい!
貧弱な力に愕然としたか? だが案ずる必要はない。
物質界にはいまだ多くの力が満ちあふれている。
君は現世で再び時間の流れを取り戻したのだ。
なにを焦る必要があろう!
今度こそアミュレットを取り戻し、復讐を・・・?!

起き上がろうとしたワードナは、何か生暖かいものがのしかかってきていることに驚愕した。
振り払おうと寝台の上でもがく。
しかし、ワードナの上にいるものは、巧みに体重をずらして密着したままの状態を保った。
「な、なんだ、冒険者か、トレボーの亡霊か!?」
「―あら、ずいぶんとご挨拶ですこと」
復活したての脳みそが、それをうら若い女の声と認識する前に、ワードナの唇になにか柔らかいものが押し当てられた。
「むぐう!?」
口の中にすがすがしい風が吹き込まれたような瞬間、頭がしゃんとした。
「今のが、お目覚めのキス」
つややかな唇を老人の口元からいったん離し、女は微笑んだ。もう一度唇を近づける。
「そして、これが朝食代わりのキス」
今度の口付けは情熱的だった。
女の舌がワードナの唇を割り、干からびた舌をもてあそび、大量の唾液を流し込んだ。
(酒? 薬?)
女の唾液は甘く、えもいえぬ芳醇な香りを含んでいた。
女はワードナの唇を自分の唇でぴったりとふさいでいるから、老魔術師はその液体を飲み込むしか方法がなかった。
胃の府に収めた瞬間、衰えきった肉体に力がみなぎった。
「私の唾液は、猛毒にも神薬にもなりましてよ。
 今のは、マディの効果」



あでやかに微笑んだ美貌には見覚えがあった。
高レベルの尼僧といった感じの清純さのうちに、稀代の毒婦の妖艶さが見え隠れする。
「体力回復には別なものでもよろしかったのですが、
 新婚夫婦の朝といえば、まずはキスに相場が決まってますわよね」
いつのまにか、女はさりげなく胸を強調するようなポーズを取っている。
僧衣の上からでもわかる豊かなふくらみにワードナの目は釘付けになった。まちがいなく大きく、やわらかい。
身をよじるわずかな動きにも量感たっぷりにゆれる胸元に、生唾をのみこんだ。
だが、最初の口付けではっきりとした頭脳は、女のセリフからその正体を割り出すことに成功していた。
「貴様、ソーン・・・いや地下四階の魔女だな」
魔女はにっこりと微笑んだ。
「どちらも正解で、どちらもハズレですわ。
 昨日から、私はそのどちらでもない存在になりましてよ。
 ―大魔術師ワードナ様の妻、お召しに従い参上いたしました。未来永劫よろしく、わが殿」
悪の大魔術師の脳裏に、昨日の結婚式があざやかに思い出された。

悪夢だ。
すべてのアイテムを集めてしまったゆえに、ワードナは罠にはめられたのだ!
(貴様などお召ししてない)、と言いかけてワードナは力なく口を閉ざした。
手近にある魔法円を恨めしげににらむ。
召喚もしていないのに、この女は自力でわしのもとにやってきやがった。
これが結婚の魔力か。
未来永劫に逃れられない牢獄の存在を、ワードナはひしひしと感じた。